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ベターハーフ! 九話後編





燃え盛る炎を突きぬけ、予定の地点に着地したと同時に、地を蹴って走り出す。
遠く、先に見えるのは倒れ伏した澪の姿。
動きの邪魔となるギブスが忌々しい。
いっそ体を千切り飛ばせばもっと早く走れるだろうか。
益体も無い妄想と焦燥に背中を蹴り飛ばされながら、僕はただ前へと走った。



「澪!」



駆け寄りざま、防護マスクを外し僕は叫ぶ。
周囲の植え込みは所々焼け落ち身を焦がし、辺り一面炎で赤茶ける中
大きく開けた場所に煤けた澪が倒れ伏している。
僕らを取り囲む炎の壁のせいか、息をするのも憚られるほどに熱い。
ここまで、とは。



「澪! おい、返事しろっ!!」



抱きかかえ、何度も呼びつけるが反応は無かった。
一見呼吸が止まっている様に見え、僕はすぐさま澪の左胸元に耳を当てる。



―――動いてる



心臓が飛び出そうなほどの動悸を、口に手をあて深く息を吐いて押さえ込んだ。
後でばれたらただじゃすまないが、この際そんなこと構わない。
しゃがみ込み、澪の頭を膝の上に乗せ固定する。
携帯したバックから、酸素吸入機を取り出し口に当てた。
頭を軽く傾かせ気道を大きく取った。これでいくらかは安定するはずだ。



「……無事で良かった」



本当に。
後半は呟きにもならず、僕は心で幾度も反芻する。
反芻した分だけ、澪が生きてると実感出来たから。
かすかに呼吸をする澪を見つめ、左手の違和感に気づく。



「これは……銃創か?」



深い傷ってわけじゃない。
けど他にも所々制服に擦り傷にも似た、何かに引き裂かれたような痕があった。
血がこびりつき、染み出した部分は蒸発し固化している。



「奴らがECM作動時を見逃すはずもないか」



超能力を封じた時点で『普通の人々』が攻撃を仕掛けるのは当然だ。
そのための大規模作戦なのだから。
だが澪も文化祭の件以来所持させていた携帯ECCMを作動させて応戦したのだろう。
傷を受けながらもどうにか無事、かつロストした地点から
これだけ離れたところで倒れているのはその証拠だ。



「頑張ったな。本当に、よく頑張った……」



呼吸がだいぶ落ち着いてきたのか、澪の胸がゆったり上下する。
綺麗だったツインテールの髪は制服と同じように幾分か焼けていて、銃弾のせいか裂けたような跡もある。
僕は閉じたまぶたにのぞく長い睫と澪の頭をそっと撫で、煤で真っ黒になった頬に軽く指を当てた。
暖かくて柔らかくて、かかえた体は驚くほど華奢で軽い。
お前、こんなに軽かったのか。



「――――ちくしょう!」



確かに澪は可愛くないさ。
生意気だし、胸無いし、わがままだし、暴力的だし。
振り回されてずいぶん喧嘩もしたし、生傷だって絶えなかった。
さんざん苦労させられて、気の休まるときも無かった。
だけど……澪は、女の子じゃないか。
15才にしかならない、ちっさい女の子じゃないか。
たった一人の、こんなにも脆くて崩れそうな女の子じゃないか。
なのに。
こんな、こんな。



「――――どうして! どうして! どうしてだ!」



悔しさに、歯がみする。
澪を追い立てた普通の人々に。
何のフォローも出来ず、澪を追い詰めた僕自身に。
任務に立ち会うことも出来ず、こんな目に遭わせて。
なんであの時、僕は訓練室を出て行った。
どうしてもう一度、問いかけなかった。
あのとき澪は怯えながらも言っていたじゃないか。



『違う、違うの!』と。



自分のことだけしか考えられなかった。
澪を思いやる余裕すら無かった。
誰より僕はあの視線の意味をわかっていたのに。
だからこそ裏にある、澪が抱えた想いに気づけたはずなのに。
結果は、これだ。



「早く気づきな……。
 帰ったらいくらでもポッキー食べさせてやるから」

「う、ううん……」

「澪?! おい、澪!」



頭を揺らさぬよう、何度か軽く頬を叩く。
目を覚ませ。
願いを込めてもう一度手を動かし、ゆっくりゆっくり。
けれど、安心するのは早過ぎたとすぐに思い知らされる。
澪の意識が戻ってきたかと思った瞬間、突然彼女は叫び暴れ出した。



「はなしてー!!!」

「どうした澪?! 大丈夫だ、もう大丈夫だから!」

「やだ! やだ! やだ! もうイヤ、ヤなの!!
 いたいのもあついのもイヤ!!!
 あたしばけものじゃない、ばけものじゃないよっ……」



澪は激しく暴れ、なんとか僕の手から離れようとする。
なだめようとするも、混乱した澪はいっこうに収まらない。 



「落ち着け! もう普通の人々はいない!
 僕は助けに来た、助けに来たんだっ!
 もうお前を傷つけようとする奴はいない! いないんだ!!」



僕はそのまま、暴れ続ける澪を力ずくで押さえ――――――胸に押し付けた。
この少女の痛みが、少しでも安らぐことのできるように。 




「あ……う……」

「心配ない。心配ないんだ……」



荒い息を吐く澪を、力を込めて、でも出来る限り優しく。
胸元の心音がゆっくり届くよう、しっかり両手で包み込んだ。



「たすけて……たすけてよう……」



徐々に澪の体から力が抜け、呼吸も平静に戻っていく。
僕は抱きしめた手で、澪の頭をなでようとし
澪が、呟いた一言に動きが止まる。



「わたしたち、いいこにしてるから……」

「……わたし、たち?」



そう呟いたときにはもう澪は僕の胸で寝息のようなものを立てていた。
仕方ない。
また澪を横たえようとした時、決して灌漑されないそいつは
厚顔にも僕らの前に現れた。



「災禍の魔女《ウィッチオブカラミティ》はただいまお休み中、か。
 それにしても。今は能力《ちから》が使えないっていうのに
 よくこんな無茶をするもんだね? ザ・チャイルド」



誰……いや、この声は……



「―――お前か、兵部!」

「ご名答」



気付いて声をあげた瞬間、すぐ隣で感じる人の気配。
僅かに横を向いてみれば、あの時会った男の、卑しい笑顔があった。



「彼女のことを言ってるけどね。
 君も中々のものだよ? ザ・チャイルド。
 ほら、こんなところにも火傷がある」



言って、僕の頬を軽く撫で上げる。
傷が指に触れたせいだろう、最初の一瞬痛みが走ったがそれも直ぐ消えた。
自分でも触れてみる。
確かにさっきまで時折感じていたひりひりした火傷の痛みは完全に消えていた。



「……なんのつもりだ」

「なに、サービスさ。今は力が使えないというのにここまで来た勇気に敬意を表して。
 ああ、ついでだから彼女の火傷も癒しておいたよ。
 同族として、あんな奴らに怪我を負わされたとあっちゃあ黙っていられないからね。
 さすがに銃創までは無理だけど、傷が残らないようにはしておいた」



くすくす笑いながら僕の横をすり抜け、ふわりと前に浮かぶ。
人を小馬鹿にした表情からは、真意は伺えない。
僅かに視線を逸らし、澪を見る。
果たして傷は完全に塞がっていた。
切れたままの服の下からは、全く無事な白い肌が覗いている。
しかもどうやったのか、髪まで元通りだ。
……ECMが効きにくいことといい、この男も大概規格外らしい。



「何故、ここに来た?」



僕は再び澪を抱きかかえ、詰問する。
いや、そもそもテレポートも不可能な状況で、兵部こそどうやってここに来られたのか。



「助けに来た、と言ったら信じてもらえるかい?」

「冗談も休み休み言って欲しいね」

「ははは。嫌われたものだ」



この前と変わらない素振り。
至極落ち着いた兵部を前にして、僕は頭をフル回転させていた。
こいつの目的は。
逃げられるか?
闘うとして、その方策は。
澪は動かして大丈夫か。
そうだ、奈津子さん達に相談を――――――と思い至り、はたと気づく。
先ほどから、精神共有が切れている。



「おっと、仲間に連絡しようとしても駄目さ。僕が妨害しているからね」



くすくすと口元に手を当て笑い、底意地の悪い顔で僕を見据える。



「……く」

「まあ、せっかくこの場には僕らしかいないんだ。
 ゆっくり話をしようじゃないか」

「お前と話すことなんか無い!」

「そちらはそうでも、僕にはあるのさ。
 この前の話、考えてくれたかい?」

「……何の話だ」



口に出してすぐ、思い至る。



「パンドラになんか、お前の元になんか、行くはずがないだろう!」

「ここまでされて、まだ君はノーマルとの融和とやらを信じているのか?
 お人好しもそこまでいくとバカがつくぞ」

「どうせ今度も、お前が手引きしたんだろうに!」

「……今回、僕は何もしていない。
 前は多少ちゃちゃを入れさせてもらったけどね。
 君らに随分と嫌われてしまったようだから自重したのさ。
 信じようと信じまいと勝手だが」



僕の言葉を遮り、兵部が告げる。
たとえ、その言葉に嘘が無かったとしても、心を許せるわけなんて無い。



「知っていたのなら、なんで止めなかった」

「実感してもらいたかったのさ。
 ノーマルがどれほどエスパーを疎ましく思っているか。
 この前の事件でも、理解してもらえなかったようなのでね」



澪一人を排除するのに動員された兵力、仕掛けられた作戦の規模。
前回の失敗があったとはいえ、確かにそれらは尋常なものではなかった。



「君が望むと望むまいと、この世は大きく動いている。
 ノーマルとエスパー、2種類の生き物が共存できるほど
 この世界は広くないぞ」

「僕らは同じ人間だ」

「果たしてそうかな? ……全く、誰かさんを思い出すね」



兵部の瞳に映りこんだ僕と澪。
見据えた視線はどこか遠くを指し示し
一瞬わずかに苦々しい表情を見せたかと思えば
すぐ、おどけた普段の顔つきに戻った。



「と、眠り姫がお目覚めの様だ」

「澪?!」



深い夢から覚めるように、腕の中でゆっくりゆっくりまぶたを開いていく。



「……お菓子食べたい」



寝言のように呟いた言葉に、僕は思わず笑いかける。
心配して損したか、と。
わずかに身もだえ、取り戻した視界に入った僕に気づいたのか、澪がこちらを見て力なく言った。



「……バカ眼鏡」

「ご挨拶だな、たく」



普段と変わらない減らず口に、僕は熱くなった。
戻ってきた。
ようやく、澪が戻ってきてくれた。
パワフルでかしましい、女の子が。
良かった。
本当に、良かった。
こぼれ落ちかけた涙を、すぐさま拭う。



「どうしたのよ……目になんか入った……?」

「なんでもない、なんでもないんだ……」



もし僕があと少し大人なら
もう一度澪を抱きしめていたのかもしれないけれど。
少しずつ意識を取り戻していく澪がそこにいるだけで胸がいっぱいで、ただ嬉しくて。
兵部がいることも忘れかけ、すっかり澪だけを見つめてしまっていた。



「あれ……えと私、どうしたんだっけか……」



意識の回っていない澪は、一つ一つ思い出すように、あたりに視線を巡らせる。
炎の中、僕と澪と兵部と。
熱気があたりを支配する様を幾度も確認し、そして最後にまた僕をとらえ



「なななななな、あああんた、なにしてんのよぉぉぉぉぉぉぉー!!!!!!!!」

「どげふっ?!!」



僕の腕の中にいることを理解した澪が
見事な起き上がり脳天キックをかましてくれやがり
僕は一瞬でアスファルトにめり込む。
うん、容体も全く問題なさそうなナイスキック。
僕、一応まだ怪我人なんだが。



「スケベ! 変態! ムッツリ! バカ! 眼鏡! え、えーと。とにかくこのどアホー!!」

「っぷ。くく、あはははははははははっ!!!」



響き渡る兵部の大笑いと、倒れた体に蹴りを入れられながら実感する。
あーなんか、ホントにこいつ戻ってきたなあって。
毎度毎度思うが、痛めつけられてこそのバベルの指揮官ってどうなんだろう。



「なに笑ってんのよ、ってあの時の! と。あ痛たたたた……」



笑い続ける兵部に気付き、忙しく身を翻そうとして
澪が腕をかばいしゃがみ込む。
兵部が直したとは言え、銃弾を受けた体でいきなり動くからだ。
それだけ意識の覚醒が急だったのかもしれないが。



「じっとしてろ、澪」

「大丈夫、よ」



差し出した手を、澪が弾く。
弾いてから気づいたように血の気が引き、澪の顔が蒼白になった。
覚醒と混乱の中で、ようやくこの前の事を思い出したのだろう。



「あ……えと……その……ごめん」

「いいから。すぐ終わる」



放り出したままにしてあったバックから包帯を取り出しきつく巻き付ける。
澪はじっと押し黙り、やがて弱々しく繰り返し囁いた。



「……ごめん、なさい。ごめん、ごめん、ごめん、ごめん……
 あたし、酷いことした……もう誰も来てくれないって……一人で……怖くて……う、う、う……」



フラッシュバック。
手を弾くという今の行為が、過去の感情を蘇らせ零し続ける。
雫は、それだけの後悔を押し込めていたという証。
涙を流し嗚咽する澪を、僕はただ側でじっと待った。
そんな澪を見ていて、ふと思い出す。
母親に手を弾かれ一人病室で泣いていた僕を。
決して迎えが来ることは無いと分かっていても泣きはらした僕を。
だからこそ、感じた。
きっと澪がかつての僕の分まで泣いてくれているんだ、と。
澪の涙は、親に捨てられたかつての『僕』の涙なんだと。
澪が泣きはらすごとに、僕の気持ちは少しずつ落ち着き軽くなっていき
願いにも似た気持ちを抱きながら側で黙って、澪と一緒に『泣いて』いた。





☆☆☆





澪の涙を残りの包帯で拭き取った後
お互いを支えとして僕らはゆっくり立ち上がる。
何故だか、兵部はその間、こちらに声もかけずに傍に立っているだけだった。



「なんであいつがここにいるの……?」

「ようやく寸劇は終わりかい? 
 ザ・チャイルド、災禍の魔女」



負傷した澪に、ギブスのとれない自分。
ECMは解除されたとはいえ、仲間との精神共有は遮断され
テレポートを阻む炎の壁が迫り来る。
そして目の前にはECMすら効かない高超度エスパー、兵部がいる。
状況はどう考えても――――――最悪だ。



「……人を変な名前で呼ばないで」

「その名前で呼ぶのは必然でね。
 申し訳ないがこれからもそう呼ばせてもらう」



不適に微笑む兵部を前に、僕はテレパスが通じるよう
これまでの経緯を強く頭に思い浮かべ念じる。
澪は驚いたようにこちらに目配せをし、僕も大きくうなずいた。



「それと、あたしの気持ちもコイツと同じ。
 パンドラに行くつもりなんて、ない」

「こうまでされてもまだ、バベルで無駄な時間を過ごしたいのか?」

「……無駄じゃ、ない。
 そりゃあ、武器もって押しかけてくる馬鹿なノーマルもいる。
 私に、エスパーに悪意を持つ人は、多分もっともっと。
 きっと大勢いる。だけど。だけどね……」

「だけど。……なんだい?」

「助けに来てくれたもの!
 ノーマルのこいつも、バベルのエスパーのみんなも!
 あたしのためにって危険を顧みないで!
 あたしとって、なによりも確かなことだもの!
 何より嬉しい事だもの!!」



信じたい。
とても切なくて懸命な想いを、澪は振り絞り、声にした。
僕はそっと、ふるえる澪の肩を抱き
手に力を込める。



「全く、知らないというのは幸せなことだな」

「……何?」

「……君たちは今、大きな岐路に立たされているというのにね。
 まあ、今は知る必要もないか。未来は『予知された時点で確定される』のだから。
 いずれ君たちもたどり着くだろう。
 ただ僕は、その流れに多少なりとも抵抗したいだけさ。
 エスパー全ての為にね」



兵部は肩をすくめ大仰に嘆く。
必然、岐路、そして予知。
兵部が告げた言葉の意味するところは、今の僕らにはまるでわからない。



「ぞっとしないな。決められた未来なんて、あってたまるものか」

「……それならどれほどいいか。
 僕がこんな苦労をすることもなくなるんだからね」

「あーもう、うるさいっ!!」 

「おおっと」



澪がたたきつけたサイコキネシスを難なく兵部は払いのける。
着弾したサイコキネシスは炎の壁を数瞬だけ揺らす。



「あなたに何がわかるのよ。
 何がわかるってのよ!
 わかってたまるかっ!!」



澪はまぶたをこすり、鼻をぐずらせ上を向いた。
やがて正面を見据えた澪の顔に、もう迷いはなかった。
周囲の熱風に引けをとらないほど、その表情は熱く輝いていた。



「上から見て偉そうな事言わないで。
 あなたに教えてもらわなくたって、あたし達はやってける。
 やってみせる」

「威勢のいいことだ。
 ついさっきまで自分の能力、そしてザ・チャイルドに恐怖していたのにかい?」

「! それは……」

「気にするなっていったろう、澪」

「でも……」



局長の言葉を思い出す。
そうさ、人一人の気持ちを思いやるのに、超能力なんかいりやしない。
必要なのは、今こそ持たなくてはいけないのは
相手を想う意志と覚悟だけ。
澪の肩に回した手により一層、力を込める。
気にするな、との気持ちを改めて伝えるために。
その時、彼女の頬が微かに赤く染められた気がしたのは
……周りの炎を照らし返していたからで、怒りのせいではないと思いたい。



「僕は、惑わされない」



気持ちを込めて、強く。
強く、強く、強く。
今この時、誰よりも強く。
この炎を振り払って
澪に確かに届くよう願いながら
僕はためらいなく、決意をもって宣言した。



「ノーマルの中に、エスパーを否定する人間もいる。
 その逆もそうだろう。
 今日みたいな事件は、起き続けるだろう。
 だけど、僕らは。
 ノーマルとエスパーの溝がどれだけ深くても。
 永遠に埋めきれないと思えても!
 かけがえのない仲間達と、ずっと努力し続ける!」



胸に渦巻く強い感情。
押さえきれない想い。
澪が感じていた恐怖と切なさ。
やりきれない悔しさも今、僕と澪がいるように。
一人なら無理でも、二人なら。
僕らは決して、一人じゃない。
もう、一人じゃない。
そう、気づけたから。



「僕らの能力を
 後に続くエスパーの為に証明し続けてみせる!
 ノーマルもエスパーも
 みんなを守って、きっと幸せにしてみせる!!」



それは遠い理想。
いつかたどり着きたいと願ってやまない、果てない路。
だけど今の僕には、はっきりわかる。
確かにわかる。
いつかたどり着くために、隣にいるこいつと一緒に。
一歩ずつ踏みしめて、歩いていかなきゃならないってことが。
一日を生きることは、一歩進むことでありたいと切に願う。



「世迷い言を言う!」



兵部の顔が険しさを増し、ゆっくり髪をかき上げ、額の傷を見せつけた。



「かつて僕も、君と同じ道を通った。
 とことんまで信じて、そして裏切られた。
 共に歩いた仲間も全て、殺された!
 だが額を貫いたこの傷のおかげで
 今のような力も持てたのは、全く皮肉でしかないがね」



兵部は、まるで自分自身を嘲るように笑っていた。



「だが、だからこそ分かる。
 人の成すことに絶対などない。
 ……そんなものがあるのならば、僕はそれを狂信するさ。
 君たちの持つ希望が、いつ絶望に変わるのか、楽しみに待つ事としよう。
 パンドラはいつでも君たちを迎え入れる。
 それと、前にも言ったが」



兵部は手をかざし、僕の髪をもかきあげ、古い傷を露出させた。
似ていると言えば、あまりにも似た傷跡が向かい合う。



「キミは一体誰が原因でそうなったんだろうね」

「あれは崩落事故だ」

「テレパスも使えた君が読めないほど突然に起きた、事故がかい?」

「……なるほど、あんたいじけてるんだ」

「聞き捨てならないね、災禍の魔女」



澪の言葉に、兵部の口調から軽さが消える。
にらみつける視線に一歩も引かず、澪が言った。



「その傷を否定なんかしない。
 あんたが信じた物がなにか知らないけど
 それを否定したりしない。
 だけど、だけどね!
 だからってこんなのが許されるわけない!
 エスパーの理想?
 なによそれ。
 あんたも、『普通の人々』も変わりゃしないわよ!!
 殺されたのかもしれないけど、あんたにだって仲間がいたんでしょ?! 
 今だっているんでしょ?
 その人達に悪いと思わないの!」

「……ふん。全く、仲間、仲間。
 バカの一つ覚えだな」



兵部は傷を確かめ、目を閉じた。
何かを思い出しているのか、愉悦とも悔恨ともつかない表情を浮かべ
やがてこちらをまっすぐに見据えた。



「ザ・チャイルド、災禍の魔女。
 君らがそこまで言うのなら、証明しろ。
 この大火災に巻き込まれている連中を、せいぜい救ってみせろ!」



兵部の姿が薄ぼやけて、赤い光と熱の中に溶けていく。
どういう能力かはわからない。
やがて虚像は無くなり広場には僕と澪だけが残され、ゆっくり顔を見合わせた。
これから遣るべき事は、たった一つ。
決意と覚悟を共有した僕らは
立ちはだかる大火災に向かい歩き始め
熱風が吹き荒れる中、澪は消え入りそうにかすかな声で呟く。



「あの、さ……助けに来てくれて、ありがとう」



そっぽを向いた澪に、こっちこそ、と念じて返す。
澪は一瞬眉根を上げて
嬉しそうでもあり、そして不機嫌そうでもある顔付きで



「声に出していいなさいよね」



そんな不満には返事をせずに
その代わり、僕は澪の右手を握る。
確かめるように強く、そして柔らかに、指を指の間に滑り込ませ絡めた。



「全く、嫌になるくらい大きな炎だな……。
 手伝ってくれるか、澪?」

「土下座して頼むなら、やったげてもいいけど?」

「……お前な」

「最終的にはやってあげるって言ってんだから、なに文句あるのよ」



軽口を叩いて、お互いに睨み合う。
そしてどちらともなく、僕達は吹き出した。



「……っぷ。あは、ははははは」

「……ふふっ。たく、何やってんだか」



二人して笑いあって
こみ上げてくる笑いと共に、僕と澪は徐々に共鳴し始める。
重ね握りあった手からあふれ出す力は、止めどなく駆けめぐって全身を満たしていく。
ぐるぐる回り加速しつづける能力を、僕らは五感と共にじっくりと解放する。
僕らの源にあったのは、笑顔。
怒りでも憤りでも、まして互いへの不信でもなく。
僕は澪の喜びを、澪は僕の嬉しさを全身で感じる。
熱い奔流は僕らの中にあって、そして辺りを大きく大きく包み込んでいく。
初めて超能力を使えたとき湧き上がった、無垢で純粋な想いにも似た歓喜が広がっていき
世界と僕らの関わり方をすら変えていく。



「行こうか、澪」

「うん」



より強くお互いの手を握りしめて、叫んだ。



「「ここにいる、みんなの為に!!」」



弾けた力は、悪辣な意志を纏った迫り来る炎の壁を薙ぎ払い、一瞬で押し倒す。
轟音と共に倒壊していくプラント群。
無数に浮かんだ破片や塵は本来ならばテレポートを阻害する要因でしかないが
その『全て』をすら感じ取り位置をつかみ取って、一気に空間をねじ曲げ、跳躍し
眼下に熱く広がるプラント群を視認したとき、僕らは歓喜とも驚愕ともつかない声を上げた。



「なんでテレポート出来るのっ?!」

「さあねっ! 
 なんか出来る気がしたんだっ!! お前もわかってたろ?!」

「そうだけど! 
 相変わらずむちゃくちゃね、この力!」

『……皆本くん、澪ちゃん?! 良かった、脱出出来たのねっ?!』

『ほたるさん!』



すぐさまダブルフェイスから連絡がつながる。
呼びかけと同時に視覚や聴覚、それぞれの思考、プラント内で起こっている大量の情報が頭に飛び込み
瞬間、プラントの現状を把握『しきった』僕らは一足飛びに、そしてすぐさま行動に出た。



「……出来るか? 澪」

「出来るか、じゃなくて。
 やるんでしょ!
 あの白髪に見せつけてやろうじゃない!!」

「そりゃそうだっ!!」



各所に取り残された人たちの居場所、プラントを包む火災の形。
流れる気流、点在するバベルと普通の人々の部隊。
用意された消火剤と消防隊。
ほたるさん達との精神共有を利用し、果てしなく広がった能力で感じ取る。



『ほたるさん、消火弾用意出来てるのよねっ!!』

『ええ!』

『じゃあ貰いますよっ!!』

『え?』



ほたるさんが言い終える前に、僕らの頭上に数百もの引き寄せた消火弾が転移し
辺りを埋め尽くす。
眼下に広がるのは悪意の炎。見たくなくとも目を反らしてはいけない現実の一部。
エスパーという存在を根こそぎ否定しようとする紅い拒絶。
けれど、そんな隔意など軽く塗り潰す蒼天を、皆と共に僕は背負う。
何度も見上げては、何度も手を伸ばし続けた空の青を。
出来る出来ないは、もう問題じゃない。一瞬で終わらせてみせる。
『体感した』火災の核ポイントに向かって、僕らは迷うことなく狙いを定め
そして即座に加速する爆弾をたたき込み、一気呵成に起動させる。



「サイキック消火弾一気投下っ!!」



響き渡る轟音はこれまでの爆音とは大きく違った。
各所で炸裂する爆弾は炎の連鎖を裁ち切り、その勢いを急速に押しとどめる。
僕らは追いかけるようにプラント自体を倒壊させていき、火種を無くす。
わずか1分もないだろう。
瞬く間にプラント全体を包んでいた炎が霧散していく。



『しょ、消火……ほぼ完了?!』

『高熱量のポイントを選定して投下したようです。
 当初の作戦計画よりこんなに手際がいいなんて……!』

「次はプラントの人達の救出ね?!」

「ああ、救護所にまとめて連続転移させるぞ。
 賢木先生には普段の分もきっちり働いてもらうとしよう!」

「女の娘をはたいた分も込みでねっ!!」



余すことなく、出し惜しみすることもなく。
溢れた力は空間をすら屈折したのか虹色にも見える光彩を纏わせ、止めどなく辺りに浸透していく。
姿を消した兵部に見せつけるように、そして僕ら自身を証明するために。
間断ない救出作業は、最終的に残存した『普通の人々』を救出・拘束し終えるまで続いた。





☆☆☆





全てを終え、司令テントに帰還した澪と僕は互いに握りしめた手を離した。
あれほどみなぎっていた力は、ゆっくりとだけど確実に放散していく。
だけど、前のような驚きも寂しさも僕にはもう無かった。
残ったのは、やり遂げた充足感と心地よい手のひらの暖かさ。



「澪ちゃーん!!」

「澪ー!!」

「わ、ちょっとあんたらどうしたのよ?! やだ、そんな泣かないで」



出迎えたナオミちゃんと初音ちゃんは
澪に駆け寄り飛びつくようにぎゅうと抱きしめた。



「ひぐっ。澪ちゃん。澪ちゃん。澪ちゃん……」

「良かった、良かった、良かったよ〜」

「なによ、そんな泣かれたらこっちまで泣いちゃうじゃない……!」



澪達は、思うさま泣いていた。
泣くことで友情を確かめるように、大きな声でいつまでも抱き合っていた。
三人が無事を喜びあう様を、皆、感慨深く眺めていた。
局長、朧さん、グリシャム大佐、谷崎主任、メアリーにケン、ダブルフェイス、明君、僕。
救護所で治療にかかり切りの賢木先生は、しばらく先になるかもしれないけれど。



―――終わったんだ



「「……お疲れ様、皆本君」」

「ほたるさん、奈津子さん」



ダブルフェイスの二人か、と思った瞬間



「皆本くんんんんんん!!!!
 よくやった、私は嬉しいぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」

「のわぁ局長?! こら抱きしめんな汗臭いとゆーかひげが痛いっ!
 ああこの感覚は久しぶりだってやめれうわあほかバカか頬すりつけなんなー!!!!!!!!!!!!!!!!」



いきなり局長に思いっきりひっつかまえられる。
任務後の抱擁と頬ずりは一体何年ぶりだろうか。
出来れば二度と体験したくなかったってか、お願いできるなら朧さんの抱擁を希望したかった。
てか張り飛ばしたい投げ飛ばしたい。
超能力で思うさまこの半裸の筋肉おやぢをアスファルトにたたきつけて沈黙させてやれたなら……!



「私は私はわぁぁぁぁぁっ!!
 猛烈に感動しているぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ええいいつまでくっついてんだ離れろばかおやぢー!!!!!!!!!!!!!!!!!」



このとき繰り出したキックはまるで超度七のサイコキネシスがこもっていたようだと
間近で見ていたダブルフェイスは証言し
谷崎主任や大佐に明君も大笑いしてた。
そんなに強く蹴ったつもりはなかったんだけども
局長がはるか遠くに吹っ飛んでたしなあ。
あはは。うん、多分大丈夫だろう。



「皆本君」

「朧さん」



星になった局長を見送り
ふと肩に手を置かれたのを感じ振り向くと、笑みをたたえた朧さんがいた。
僕を見て大きくうなずき、そのまま手をとり包んだ。
自然、僕の頬は赤みを差す。



「……ザ・チャイルドの活躍。
 それがなんで今でもバベルで語りぐさになっているのか、わかった気がします」



ありがとう、と。
朧さんの言葉に、僕は心からの感謝を込めて返す。



「僕の力なんて。
 今日の成果は、みんなの。
 みんなのおかげです……こちらこそ、ありがとうございました」

「ホントに、頑張ってくれた。
 ……お疲れ様でした」

「……ったく、このムッツリすけべーは。
 なに朧さんに甘えてるのよ、あー気持ち悪い」

「澪」



僕と朧さんのやりとりを、いつも以上に冷めた目線の澪が見つめていた。
なぜかナオミちゃんや初音ちゃんまでジト目なのが不可解だが
思い切り泣いたせいで澪のまぶたは腫れてわずかに重いが
目の力はいささかも失われていなかった。



「……怪我はどうだ? 痛まないか」

「ま、ね。大丈夫よ。
 後で救護所行くわ。
 ……あんたも大丈夫なの?」

「大丈夫さ」

「そ」



ちょっとだけでも時間をおいて
わずかなりとも冷静になってしまうと
改めて言いたかった言葉も中々出てこない。
だけど、今言わなくちゃいけないことも、今しか言えないこともある。
今更かもしれないが気恥ずかしさをごまかすために頭を少し掻き、軽く咳払いをして告げた。



「そう言えば、あのときのことだけどな」

「あのときってなに」

「学園祭の時の……僕がお前のクラスの喫茶店で言いかけたろ」

「ん……ええと……?
 ああ、あのバカタレどもの放送が流れる前」



バカタレとか言ってあげるな。あ、いや、僕も昔はもっと酷いいいようだったけど。
……まあともかく。彼らが今日のように襲撃をかけるほんの少し前
僕と澪は、澪のクラスの喫茶店で席を囲んでいた。
本当ならそのときに言ってしまおうと思っていたのだけど
ナオミちゃんと初めて出会った時の顛末(パンツを見たのは僕のせいじゃないが)から
僕が澪に言わせてしまったことがある。
『あたしの事嫌いなのはもう十分わかってるわよ』と。
その時も、喫茶店の時もタイミングが合わずに言えなかったのだが
今、ようやく伝える事が出来そうだ。



「……僕は別にお前の事、嫌いじゃないぞ」

「なななななな、突然何ををいい言ってるのよあんたは?!」



僕から見れば、そう突然でもないんだが。
しどろもどろな澪に構わず、僕は続けた。



「ま、ずいぶん前の事だしな……ただ、なんで今わざわざ言ったのかっていうとだ」



胸元から、一通の手紙を取り出し澪に渡す。
バベル特務エスパー様と宛名がされたそれは封書していても
多少汗で湿気てしまっているが、まあ勘弁してもらうおう。



「お前に、これを読んで貰いたかったのさ。
 兵部が出てきたのは偶然だけど、今渡すのがいいと思ってさ」

「あによわざわざ? ……えーと、なになに」



内容はあらましを聞いていただけだが
そこに記されているのは、澪がなにより欲していたものだ。
いや、僕が、と言い換えても良いかもしれない。



「……トンネル崩壊事故で助けていただき、ありがとうございました……
 お陰様で無事、来月には子供が生まれます……って、あのときのお母さん?!」



僕と澪がチームを組んでまだ一月ほどにしかならない頃、遭遇したトンネル崩壊事故。
何十人もが閉じこめられ、その救出に駆けつけた際
妊娠している女性がおりその子供がテレポーテーターであったため
澪が脱出出来なくなったことがある。
僕の失言から始まり激情した澪は『小さな命を助けるのが特務エスパーでしょ?!』と
ミサイルを操り強引に親子を救出したのだった。
もちろん、親子共々澪自身をも危険に晒した行為を僕は決して許さなかったが
あのままいけば子供の命が失われていたのもまた確かだった。



「……意識を取り戻してから子供がエスパーだと聞き、最初は戸惑いました。
 正直なところ、私はエスパーに対して、良いイメージを持ててはいなかったからです……」



『普通の人々』の様に過激でなくとも、エスパーに偏見を持つノーマルは大勢いるし
僕を捨てた母親の様に、特別な力を持つ子供に対して忌避感を持つ親は決して少なくない。
兵部に宣言したはいいが、僕らがどれだけ力を尽くしても
応えてくれるノーマルがどれほどいるのかなんてわからない。
それは覆しようのない現実だ。
だけど。
だけども。



「あなたが命がけで私たち親子を助けてくれて……今は……思えます……」



まだどこかで見ているか、兵部。
例えそれがどれだけわずかでも、いるんだ。
いてくれるんだ。



「この子もあなたのような……エスパーになって……くれたらって……」



澪はこぼれ落ちる涙を隠そうともしない。
ナオミちゃんも初音ちゃんも同じだった。



「これからも……頑張って……ありがとう……」



僕らはたったひとりで生きられない。
目を凝らせば見えていたはずの、耳を澄ませば聞こえていたはずの思いやりに
もしかすると僕らは気付けていなかったのかもしれない。
それを社会のせいにも出来るだろうけれど
そうしてはいけない。
誰のせいでもない、自分たちのせいなのだから。
だけど、ならば。
だからこそ僕らは。
バベルの仲間達と共に、僕らを理解してくれる人たちと、どれだけ遅くとも着実に進まなくちゃ行けない。
普通の人々がエスパーを排除しようとし
パンドラがノーマルを叩こうとするのなら執るべき手段はたった一つ。



「我々は、我々の道を進めばいいのだ」

「大佐」

「……いや。そんな大仰な事ではないな」



大佐は、忍んだ笑みをこぼす。



「ザ・チャイルド、君がするべき事は単純なのだ。
 澪君を守ること。
 それが結局、君の理想を実現する一番確かな方法だろう」

「……かもしれませんね」



私がかつて、約束を守ろうとしたように。
大佐の言葉に、僕は大きくうなずく。
僕がバベルにいる意味、なすべき未来。
このときこそ、僕ははっきり理解出来たのかもしれない。



「へ、変なもの見せないでよね……ったく、さあ」



しゃくり上げる澪達を、朧さんやダブルフェイスがハンカチで拭ってあげていた。
照れくさそうに、でもまんざらでもなさそうに笑っていた。
周りではエスパーもノーマルも、それぞれがそれぞれの健闘を称えて喜び合っている。



「これで終わらせてはいかんのだ……
 忙しくなるな、ザ・チャイルド」

「はい!」

「「「「おおーい!」」」」

「?」



歓声が響き渡る。
司令テントからやや離れた場所で、大勢の人が手を振っていた。
救出されたプラント従業員の人のようだ。



「怪我の治療も一巡したのかな?」

「賢木先生だけじゃないからね」

「ま、あの軽い男はこういう時くらい仕事しないとねー」



ダブルフェイスはどこか愛らしくも、さばさばした調子で言った。
顔を合わせれば合コンしようって言ってばっかりだって、辟易していたものな。



「助けてくれてありがとなー! じょーちゃん達ー!!」

「お前らもしっかり怪我なおすんだぞー!」

「……あなたたちもねー!」

「皆さん、ゆっくり休んでくださーい!」

「お腹減ったー!」

「だー! お前が言ってることは全然関係ねー!!」



こちらとあちらと、お互い手を振り続けていた。
機密との兼ね合いもあるが、これからは出来るだけ感謝の声が澪達に届くようになると良い。
それをやるのも、指揮官たる僕の仕事だ。



「ありがとなっ。白のじょーちゃんー!」

「じゃあなー、水玉のねーちゃーん!」

「火傷とか早く直してねー!」

「元気でー!!」



歩いていく工場の人たちは、皆さかんに手を振り口々に礼をする。
さっきから救出した人たちに応えながらも、澪とナオミちゃんは首をひねる。



「……ところで澪ちゃん。
 白に水玉ってなにかしら? 
 あの人達なに言ってるんだろ?」

「ねえ。
 あたしは赤毛だしナオミは黒髪……
 今着てるのエンジの制服だし。んー?」

「なんだろ?」

「えっと」



ちょっとだけ間をおいて考える。
腕を組んで頬に手を当てて、二人は目配せをして、やがて何かに思い至り。




「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!!!!!!!!!!!!」」



突然顔を真っ赤にし叫び、スカートを押さえてしゃがみ込む。
あーつまりそういうことか。
そりゃあんだけ強風でスカートはいて上空飛び回れば見えるよな。
僕は一緒に飛び回ってたから気づかなかったけど。
というか精神共有してたんだから注意してあげなよダブルフェイス。
あ、奈津子さんとほたるさんがなんか腹黒い笑いしてる。
え、ちょっと待てよ。



「あわ、あわわわわわわ……」

「あーうー?! えとそのそのそのあのね?!
 ととととととと、とりあえずあんたが悪いいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」

「なぜに僕っ!?しかも君までナオミちゃん!」



サイコキネシスで盛大にアスファルトにめり込む僕。
本日2回目、てか澪と会えてからもう2回目。
谷崎主任はどーしたんだナオミちゃん。
そう思いながら横を見てみると、前触れもなくアスファルトに埋もれつつ
なおも右腕は空に掲げ、親指立ててる谷崎主任の姿が。
やっぱり指揮官ってどこまで行っても体力勝負なのか、そうなのか。
ものすごく嫌だけどなにか懐かしいな、と。
そーいやどっちが水玉なんだろうなと痛みに意識を手放しかけながら思っていた。



ちなみに後日聞いた話では。



「……皆本さんタフ」

「いやタフじゃないからね、初音ちゃん?!
 ごめんなさい皆本さん死なないでー!」

「だ、大丈夫よ!
 死んでも生きられる、って誰かが言ってたし!
 ……たぶん」



と青い顔して焦るナオミちゃんに、乾いた笑いの澪が胸を反らしていたそうである。
今度『特別製超能力養成ギブス 強靭の星』の訓練回数増やしてやる。
覚えてやがれ、白い悪魔め。




澪さんは意外に白でしたっ!!

こんにちは、普通でない人々です。
長丁場であった第九話ですが、読者様に喜んでいただけたなら、私どもはこれに勝る喜びはございません。
さて、というわけで足かけ2年。
ようやく皆本と澪の関係に一区切り付くところまでたどり着きました。
当初は月間12回1年で終わらせるとか言ってたのが嘘のようです。細かいことは気にしない気にしない。
これ以降の展開としては幕間のショートストーリーを何話か挟みつつ、十話からラストまで突っ走ることと相成ります。
ベターハーフというタイトルに込められた本当の意味が主軸となる、いわばこっからが本筋とも言える訳なのですが……たどり着くまでが長すぎて、さらにこれからも長くなりそうです。
もはや季刊となってしまっておりますが、エンディングまでは意地でもたどり着こうと覚悟を決めておりますので、どうか皆様にはゆるーくゆるーくお待ちいただけると幸いでございます。


http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9866 第一話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9899 第二話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9931 第三話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9994 第四話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10047 第五話前編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10048 第五話後編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10079 第六話前編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10080 第六話後編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10119 第七話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10243 第八話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10374 第九話前編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10375 第九話中編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10380 第九話後編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10383 ショートストーリーズ1はこちら

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