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ベターハーフ! 第七話







「何よ、この放送。いたずら……」

「しっ!」



澪をとっさに押さえる。
不承不承、口を尖らせた澪は僕をひと睨みしてようやく黙り込む。
いつも通りの澪の態度に苦笑いをしながらも
すぐに弛んだ頬を引き締めた。
放送を耳にして脳裏に去来するのは、何処か呑気さを帯びたクラスメイトとの会話。



『勢い余って普通の人々みたいに物騒な連中の仲間入りしたら流石に引くぞー』



「あれ見ろよ!」



窓際に居た男子生徒の叫びが、僕を過去から現在へと引き戻した。
グラウンドでは普通の人々らしき者達が、銃を構えてみんなを追い立てている。
年齢も性別も様々だったが、一様に季節外れのサングラスをかけていた。
その姿を、僕はよく見知っていた。



「く……」



先ほどまで和やかに学園祭を見物していた父兄の変わりように
後夜祭の準備や出店の片づけをしていたみんなが戸惑っているのが
ここからでも手に取るように分かる。



「何の冗談だよ、おい?」

「なんかの撮影とかじゃないの? こんなのって……」



そうであって欲しいと皆、願いを込め口々に呟くが
普通の人々が僕らの学校を襲撃したのは、紛れも無い事実だと僕には分かる。
けして悪い冗談ではないし、そうならどれほど良いだろうかと縋る思いを
普通の人々のメッセージが砕いていく。



『エスパーを嫌うものはどこにでもいる。
 我々はその代表として、断固貴様らと戦うのだ』



引き続く放送は、皆の願いを一秒ごとに打ち消していった。





−ベターハーフ!7−





エスパー排斥団体、普通の人々。
かつての僕が襲撃を受けた回数は、もはや数えるのもバカらしい。
しかしテレキネシス、テレパス、サイコメトリーという
三種の複合能力にして超度七、名実ともに最強エスパーだった僕にとっては敵ではなかった。
現れたならすぐにでも撃退できるという慢心に近い自負があったせいか、正直なところ
実際どこで何をして彼らを追い払ったという事すらあまり良く覚えていない。
ただひとつ印象的だったのは彼らが常々言うとおりに、協力者はどこにでもいるということだった。
その昔スパイは草と言ったそうだが、まさに野原に生える草のごとく普段は目立たず騒がず
彼らの協力者は、集団に溶け潜伏していた。
銀行の行員、学校の教師、会社の重役、バベルのヘリ整備士、護衛艦の乗組員、果ては僕が住むマンションの管理人。
おかしかったのは、襲撃の際には必ずなにかしら『普通』を強調するシンボルアイテムを持つポリシーを持っていた事。
いつだったか、定食屋の制服を着込んだサングラスの集団がやって来た時は、さすがに声を上げて笑った覚えがある。



「……待てよ?」



『普通の人々』は何処にでも居る。今、この瞬間も例外ではない。
昔の記憶が警戒感を呼び覚まし、とっさに辺りに視線を走らせたが
周囲にサングラスを掛けた怪しげな父兄はおらず、生徒達だけだったことに安堵し
気を取り直して、意識を外に向け広げた。
いまだ放送は鳴り響き
この教室はもちろん、学園の各所が急に騒がしさを増していた。
生徒の悲鳴か、普通の人々の雄叫びなのかは分からない。
ただ、ティーセットを囲んで文化祭を楽しんでいた僕らにとって
最悪の後夜祭が始まったであろうことは、疑いようも無かった。



『……善良な普通の人々に害をなす、バベル所属特務エスパーを捕獲する。
 繰り返すが、これはなにより諸君らの安全を保障するためのものだとご理解いただきたい』



慇懃無礼な威圧の声音。
語る人間の嫌らしさを絵に描いたような演説が、雑音混じりに止んだ。
喫茶店にいたお客や生徒もさすがに事態をはっきり把握出来たらしく、更に混乱は広がっていく。
皆、顔をつき合わせては不安を分かち合おうとするが
視線を交し合う度に、胸の内で凝る黒い予感は重なりあって反射を続け増幅していく。
床に座り込む者、右往左往して結局もとの場所に戻る者、少数のグループでかたまる者達。
とりあえず食べかけを口に含み、落ち着こうとする者。
空気は時間を追うごとに淀みを増し、ねっとりまとわりついて来て
息苦しさは一秒ごとに増し
皆、何をどうしていいのかさっぱりわからないようだった。



(……落ち着け、落ち着くんだ)



だけど僕もそれは同じで
不測の、他者によって引き起こされた深刻な事態が僕を惑わせていた。
幼い頃にあれほど安々と撃退出来た連中を、今は戸惑いながら傍観するしか無いのが悔やまれるが
超能力を失って以後の生活で培われた臨機応変さに欠けるという短所を自覚はしてもいた。
だからといって即時矯正できる筈も無く
次第に大きくなり始めた周囲の声に理性を持っていかれないよう、深呼吸し椅子に深くかけなおす。



「……あいつらなんなのよ」

「澪、あまりしゃべるな」



自分自身も落ち着かせたくて、小声で澪を窘める。
彼らの目的はひとつ、澪達の捕獲。
しかしだからといって、まさか自分達から名乗り出るわけにもいかない。
学校の皆を巻き込みたくは無い。
だが名乗り出たところで『普通の人々』が僕らを紳士的に取り扱う訳がないし
この混乱を収められるとも思えない。
目的を果した奴らが過激な手段にでも出れば、それこそ最悪の事態だ。
ナオミちゃんや犬神君、初音ちゃんも心配だが、今は自分達を守ること以外
何をすることも出来ない。
そう、何もできない―――――――



「いや、本当に何も出来ないか?
 何か出来ることは無いか? 考えろ、考えろ。考えるんだ……」



ここは身分を伏せて通っている学校だ。
同級生達をこれ以上巻き込むことなく
奴らを排除して、自分達の身の安全を確保することが出来るか?
いや、それはこの上なく困難だ。
唯一出来るのは、特務エスパーであることを明かす前提で行動すること。
そうすれば、奴らを一時的にでも排除することは可能だろう。



(……特務エスパーの身元は国家の重要機密……承知している事とはいっても、くそっ!!)



彼らがどうやって情報を手に入れたのかは分からないが
判明しているのは、特務エスパーを狙って襲撃をかけてきているという事。
なら、せめて自分達だけで『普通の人々』を引き受けることは出来ないか。
何か上手い方法は、ないか。
昔の経験が彼らの行動を推測するのに役立つだろうか。
どうだろう。
あれはあくまでも特務エスパーとしての任務中、しかも現場での事に過ぎない。



「ね、ちょっと……」

「言っただろ、しゃべらない方が……」



言いかけて、はたと良い方法を思いついた。
手をそっと澪の袖口にかけ、服越しに軽く触れる。
澪の目が険悪に釣りあがるが、何か言われるより先に
サイコメトリーで伝わるよう強く念を込めた。



『この場を切り抜ける方策を考えてる』



釣り上げた目を目を丸くする澪。
驚いた様子だったが、すぐに了解したと頷き
耳元に口を寄せた澪がささやく。
不安を隠しきれない表情が苦く映った。



「……聞きたいことがいくつかあるの。まず、普通の人々ってそんなに危険なの?」

『襲撃をかけられた事はないのか?』



澪は大きく頷く。



『そう言えば、僕が指揮官になってからそういったことは全く無かったな。
 そうか、襲撃かけられた経験が無いのか……』

「……悪かったわね」

『いや、澪を責めてるんじゃない。
 僕の時は、数回に一度くらいは何らかの邪魔が入ったものだったからね』



澪の不安は当たり前だ。
敵意を剥き出しに武器すら携えて狙ってくる集団が襲撃をかけてきて
不安にならないほうがどうかしている。
僕は襲撃をかけられる回数も多かったし
しまいには『普通の人々』が現れても余裕をもてた程だったけれど
ただあまりに情報漏えいがひどいため、幾度も警備の強化が図られて
ようやくそれが完成しつつあった頃、僕が力を失ったのは皮肉というほか無い。
だけど、その警備強化が澪への襲撃を防いでいた事実は思いがけず嬉しいものだった。



『普通の人々ってのは、エスパーに対して敵対的なノーマルのテロリスト集団。
 これは知ってるな? 奴らはエスパーを排除するためならどんな手段も厭わない』

「うん」

『構成員はお互いの顔を知らず広く社会全般に浸透し、上部組織から命令があったときのみ活動する。
 横の繋がりは全く無くて、全容はつかめない。バベルや内務省すらも対策には手を焼いているのが実情だ。
 全く、なんだってこんな時に……』



警備の隙をつける文化祭を狙っていたというのが正しいのかもしれない。
なにしろ堂々と学園内に多数を侵入させる事が出来るのは、この機会をおいてほかにはない。
だが、警備のあまりと言えばあまりのザルぶりは、疑問を通り越して不自然だ。
こんな機会であればこそ、いつにもまして警戒しているに違いないのだから
機関銃やそれに類するモノを容易に持ち込ませる事はあり得ない。
とすれば、手引きをする内通者がいたか、早い段階で警備が制圧されていたのか。
それとも他の要因があるのか。
文化祭で普段より人が多くなる学校は父兄含めれば、七百人は超えるだろうに
これほど堂々と正面きって大部隊を投入出来た根拠はどこにある。
仮に根拠の薄い情報だけで動いたとして
澪、ナオミちゃん、初音ちゃん、犬神君達にそれほどの価値があったのか?
希少な高超度エスパーだという事は確かだが、多数の父兄を人質にするこのやり方は
一般の反感を買いかねない、未だノーマルの方が圧倒的に多いのだから。
特務エスパー、普通の人々、文化祭、襲撃。
点と線をつなぐ、鍵はなんだ。



「ああ、ダメだダメだ」



考えれば考えるほど、まとまりそうな思考はバラバラに霧散していく。



「ね、ちょっと……」

『どうした?』

「……なにか外部に知らせる方法は無いの?」



澪のつぶやきに僕は愕然とし
とっさにポケットを探りバベル専用携帯を確かめた。
何より優先しなければならない事だったが
僕も僕で、いつかの余裕はどこへいったやら考えているようで思考停止してしまっていたらしい。
周囲を警戒しつつ確認した液晶画面は圏外と表示されていたが、緊急回線は周波数が違う。
気づかれぬようポケットに電話を戻し
手をいれたまま携帯に増設された緊急コールボタンを長押しして、特定の振動を確認した。
手順どおりにいけば、バベル本部からすぐにでも緊急部隊が派遣されるはず……だ。
この数分の遅れが致命的とならないことを祈るばかりだが
再び回転を始めた脳裏には、嫌な展開ばかり浮かんでくる。
そもそも、警備厳重なはずの学校に襲撃をしかけてきた。
つまり、現段階で警備は制圧されているか機能していない可能性が大きい。
内部に味方が残存していないとして、機密を保持しながら僕らだけで敵を引き付け、対抗する手段は今のところ無い。
改めて携帯電話に搭載された非常事態に対処出来る機能に思い至るが、それを活用するにもタイミングが難しい。



「ちょっと」



澪が肩をゆすり、僕を思考の淵から引き戻した。



『悪い。考えることが多くてね』

「……とりあえず。私達はどうするの?」

『超能力で彼らを撃退したいのは山々だけど、自分から居場所をさらすのは危険だ。
 かといって皆を置いて逃げることも出来ない。
 状況を確認後、包囲の穴を見つけて仕掛けるのが一番だと思うんだけど……』

「穴とやらを探す前に、皆がつかまっちゃうわよ」



不安は確かにあるだろうが
それ以上に高潮した頬に強い語勢は澪の怒りを表すのに十分だった。
能力の高さ故に学校に通うことも難しかった僕らにとって
一般の子供達と普通に過ごせ、エスパーの仲間たちとも平穏に暮らしていける環境は稀有だ。
それを無残に、しかも自分を理由に破壊されたのだ。
頭にこないはずもない。
しかし彼らの主張は一面の真実で
この事実が少なからぬ一般の、ノーマルの支持を集めているからこそ彼らの活動は旺盛になっている。
僕らがいかに声を上げても、どれだけ特務をこなしても防げない、埋めきれない断絶。
目の前に現れた峡谷はあまりに深くて、僕らの心根をすら引き裂いていくようだった。



「なんだよ、あれ!?」



叫んだ生徒が指し示す方向、西日が差し込み始めた校庭に
校門から大型トレーラーが唸りを上げて入り込み、横付けした。
土煙が立ち収まりもしないうちに、普通の人々がさらに校内に乗り込んできて
学校全体を押し包む。
と同時に、後部コンテナがゆっくり開いていく。



「あれは……!」

「あれがなんだかわかるの?」



昔の記憶と形は少し違っているが、見間違えようも無い。
特徴的な円錐、かつレーダーを思わせる平べたい独特の形。
全方位に張り巡らされた子機と
中心にそびえ立つより大型の『きのこ』の様な
忌々しいこの物体は良く覚えている。



『大出力の軍用ECMだ』

「軍用って……!」



言いかけ、澪は自分の口を押さえた。
目線だけこちらによこした澪に、改めて僕はうなずく。
あれが出てきたということは、全ての能力を封じられた事と同義。
学内を能力で制圧することはもちろん、テレポートで逃げ出せる可能性も無くなった。



『……未だ校内に潜む特務エスパーに告ぐ。あれが何かは良くご存知のことだろう。
 大事な学友や父兄に危害が及ぶのが嫌ならば、おとなしく出頭することだ』



再び放送が入った。
普段はせいぜいお昼時に音楽を流すくらいの、灰色の古びたスピーカーだった。
こんなにもいらいらして眺めた経験は今日の今日までついぞ無い。
奴ら、全くなんて準備の良さだろうか。



『……稼動開始……』



トレーラーから独特の低周波音が鳴り響き
音の圧力が高まっていくにつれ、中心部が強く発光していき
澪へのテレパスも届かなくなっていく。



「ああ、もう!」



腹立ち紛れに、澪は教室の壁を蹴り飛ばす。
舞ったドレスや足を戻すと同時に、メイド服の澪は僕をにらみつける。
なんとかしなさいよ、と全身で訴えていた。
が、やはりどう考えても現状では手詰まりだ。
手際よい敵の展開、分断された特務エスパー達、届いたか届かないか分からない緊急コール、機能しない警備隊。
せめても出来ることは、捕獲されるのを少しでも遅らせることくらいか。
そう思い至り、僕ははたと気づく。



「澪。リミッターを、イヤリングをはずせ」



いまさら意味ないじゃない。
どうしたのか、と澪はいぶかしげな顔をしているが、じれったく思った僕は直接耳に手を伸ばした。



「ちょっとあんた、なにを……!?」

「いいからおとなしくしてな」



手早く澪のイヤリングを外すと携帯電話と一緒にエプロンのポケットにしまいこんだ。



「どうしたってのよ」



肩を怒らせた澪が問いただしてくる。
見れば顔ばかりか耳すらも真っ赤にしているが、今は緊急時だ。
なだめる為に仔細を説明しようとした瞬間
廊下から、これまでない重い音が響く。
とうとう、『普通の人々』がこの教室までもなだれ込んできたのだ。
いったいどこから揃えたものか、全員が軽機関銃とおぼしきものを携帯し
すぐさま銃口をこちらに向けた。
どよめく生徒達を意にも介せず、部隊指揮官らしき人物が進み出て薄笑みをたたえながら告げる。



「諸君。無駄な抵抗はやめ、おとなしく我々に従ってもらおう。抵抗しても、決して良い結果を生む事はない」





☆☆☆





程なく全校の生徒父兄は体育館、および周辺に集められた。
特定の生徒を選別するために。



「中学女子生徒のエスパー。
 判別できなければ、リミッターと思しき装身具をつけていた生徒を申告してもらおう」



普通の人々が体育館の壁を背に取り囲んでいる。
僕と澪はよりそって、集団の中に紛れ座り込む。
普段ならメイド服の扮装はこれ以上なく目立つのだろうが、この状況で気にする人間はいない。



「あいつら、みんなを巻き添えにして……」

「うかつなことをするんじゃないぞ、澪」



爆発しそうな澪を宥めつつ、僕は彼らの様子を観察する事に専念していた。
人数は、装備は、配置は。浮かべている表情、一人一人の行動、漏れ聞える声。
状況が手詰まりであろうとも、先が見えなかろうとも、情報量は多いに越したことはない。
ある意味で平穏なこの時間を利用して、急速に僕の方針は固まっていった。



「我ながら、分の悪い賭けだと思うけど」

「……何か言った?」



澪は訝しげな目で僕を見つめる。
澪の瞳には、妙に落ち着いた表情を浮かべる僕が写り混んでいた。
分の悪い、では済まされないかもしれない。
十中八苦、死にも繋がりかねないほどの危うさ。
だけど、これしかないと思う。そう思える。
これから起こることへの責任が取りきれるのかどうか、分からない。
いや、取りきれるものではあるまい。
願わくば、と誰に対してか祈っている自分を省みて、さて、現実感が持てていないだけかと冷笑する。
自重しつつ、澪に返事を返そうと口を開きかけたとき、向こう側にいた普通の人々が叫んだ。



「なるほど麗しい友情だが、いつまでそれが持つかな?」



先刻から生徒達はもちろんのこと父兄達も皆、何を言うものかと押し黙っていた。
バベル肝いりの学校だと言うこともあるだろうが、ここにノーマルとエスパーの対立などありはしなかった。
彼らの言う独善的な「普通」などではない
普通の、本当に普通の、どこにでもある学園生活が存在しただけ。
遅刻ぎりぎりに校門に飛び込んで、やってきた宿題を忘れ先生に怒られて
クラスメイトと笑いあって馬鹿をして、たまには喧嘩をして、友人達と弁当を囲み、自分の好きなことに懸命に力を尽くす。
そんな平凡な学園生活。
だが今は、武器を携えたテロリストが自分達に狙いを定め、友人を売り渡す様迫っている。
一体これは、何の冗談だ?
目の前の現実を否定出来ないまでも、等しく皆、そう思っていただろう。
低くなった赤い日差しが窓から差し込んで
息苦しい体育館の中がますます浮ついた現実から遠い隔世だと感じられ始めた、そのときだった。



「なにをっ?!」



前触れも無く、一人の男子生徒が胸元をつかまれ引き上げられた。
彼らの悋気に触れたのだろうか、壁際に叩きつけられ
頬を銃のグリップで殴られ、むせび咳き込んだところで
肩口に銃口を突きつけられた。



「我々は、聞き分けの無い子供は嫌いでね」



−ズドン



体育館に乾いた銃声が響いた。
正面から肩を打ち抜かれ、窓ガラスが飛び散る。
泣き叫ぶ女生徒、のけぞる周囲の父兄、中には気を失うものまでいた。
撃たれた生徒は血を噴出し苦悶の叫びを上げるが
普通の人々は崩れ落ちる体をつかみ、無理やりに立たせていた。



「次はここだ」



『普通の人々』は、銃口を額に当て押し付ける。
黒々とした鉄の塊は冷徹な殺意を示していた。



「我々はエスパーのみでなく、奴らに加担する連中も同類とみなす!」



息を呑んだ皆に対して、彼らの宣言が朗々と響く。
周囲の顔色が変わるのが分かった。
おそらくは皆、この場に至っても最終的には自分には関係ないと考えていたんだろう。
狙われているのはエスパーのみ。
ここは彼らが多く居たから狙われたのであって、ノーマルには関係ない。
明確な敵対行為をすればともかく、それ無しでは何もされないだろう。
例えエスパーと友人であっても、と思ってもいたはずだ。



「今のは警告を兼ねた威嚇だと言わせていただこう。
 繰りかえすが、我々はエスパーのみでなく、エスパーに加担する人間も同様に敵であると思っている。
 従って、君達が我々の言葉に答えないと言うのならば、ソレ相応の対応をさせていただく」



昔と変わらない彼らの主張。
僕が特務エスパーとして彼らと戦った時も、同じだった。
僕のみでなく、当時僕の指揮官でもあった局長や、バベルの仲間達に対しても躊躇無く銃口を向けた。



「あいつらっ……!」



隣に座る澪が、震えていた。
それはきっと、恐怖では無いだろう。
自分達を引っ張り出すために関係の無い人間を巻き込んだことに対する、やるせなさ。
何をすることも出来ない、沈黙を続ける自分への不甲斐なさ。
そして行動を起こそうとする澪を押しとどめる、僕への不信。
けれど、もし彼女が僕と同じ気持ちを有しているのならば
混沌たる心中、最も強く渦巻く感情は周囲のテロ集団に対する怒りだろう。



「や、やめて……」

「こないでよっ!」



一発の銃弾は、みんなの心までも如実に砕いた。
『普通の人々』は、楽しげにあたりをうろつく。
気まぐれに銃口を向けて、反応をうかがっては笑う。



「次に撃ち抜かれたいのは、誰だ?」



不意に銃を向けられた女生徒が両手を挙げ、やがて震える手で誰かを指差した。
真っ青な顔には涙が浮かび、友人の女の子達も同じように泣いている。
ほかの父兄や生徒達は、エスパーを見て睨んでいるか、もしくは下を向いて無関係を決め込んでいるか。
そのどれかだった。友人を、クラスメートを、後輩を、先輩を、仲間を庇おうという空気は最早無い。
あまりにも呆気ない変わりように、諦観と苦々しさを覚えつつ
同時に、少しばかりの安堵も感じていた。



(ECMが効いていて良かったというべきか……)



この密集状態だ。
もし皆の思考が澪に伝わったとしたなら、どうなったろうか。
想像するにぞっとしないが、不幸中の幸いとでも言うべきなんだろう。
自分に向けられる悪意に慣れはしても、決して胸が痛まなくなる訳じゃない。
単に心が押しつぶされるか、麻痺しているだけに過ぎないのだから。



「さっさと立つんだ!」



堰を切ったように、次々エスパーが連行される。
その中には、ナオミちゃんや犬神君たちの姿も見えた。
超度の低い高いに関係なく学校全体でのエスパーの数はしれていたし
中学三年生に限定すれば澪やナオミちゃん、初音ちゃんらを入れても十人に満たない。



「あれは……」



群集の中に谷崎主任を確認できたが、なぜだか彼は黙したまま動かない。
連絡を取ろうにも、これだけ目があるなかでは何もできない。
彼が、僕と同じ考えならいいが。
そう思い、つと天井を見上げた。
鉄骨の梁がむき出しになった天井には、バレーボールやサッカーボールがいくつも挟まっている。
日常から切り取られてしまったここで、それだけが唯一、外とのつながりを持っていると思えた。
だが、どれだけ手を伸ばしても届かないその高さは
超能力を失ってしまった僕にはどうすることもできはしない。



「自分達を守るだけで精一杯、か……」

「当たり前でしょっ!!」



なにをしているのか。
僕をにらみつけた澪が、返事も待たず、もうたまらないとばかりに立ち上がった。



「なんだ、お前は!」



怒鳴り声が響く。
澪は真正面から受け止めて、怒鳴り返した。
声の大きさに、ツインテールが揺れている。



「わざわざそんなもん向けられなくたって、行ってやるわよ! 皆を巻き込むんじゃないっ!」

「小生意気な事を!」



澪を普通の人々が銃で殴り倒そうとして、瞬間僕はそれを受け止めた。
サングラスの向こうからの、激しい視線を感じる。
どうしたのか、と周囲の生徒達もさざめきだす。



「ったく……」



この場にとどまる事に少なからぬ成果もあった。
わずかとはいえ確実に時間を稼げた事。
彼らがどの程度の情報をつかんでいるのかをも推測する時間的余裕をもてた事。
そしてどの程度の行動に出るか、図らずも確認できた事。
僕にはもう、十分だった。
十分、だった。だけど。
『普通の人々』を問題にもしていなかった、過去の自分。
『普通の人々』を前に観察しか出来ていない、今の自分。
仕方が無いと言い切るには、悔しさが苦く、苦くにじみ出る。
酷く胸が、痛い。



「この子も確かにエスパーだ。だけど、超度の低いこの子だけでいいのか?」

「なんだと?」



理解できないと眉根を寄せる彼らに、僕は出来る限り仰々しくもったいぶって、ため息をついた。
震える声を押し込めて、自分自身を落ち着かせるために。



「……さあ、一世一代の大芝居だ」



一人ごちる。
聞きとがめたのか、いったい何だと彼らが言いかけた時。
僕は深呼吸をして一息に、全校生徒に聞こえるくらいの大声で言い放った。



「特務エスパーは僕だ!」

「……?!」

「内務省直轄超能力支援研究局、バベル所属。超度七(レベルセブン)。
 暗号名ザ・チャイルド! それが僕、皆本光一だ!!」



瞬く間にどよめきと戸惑いが広がっていく。
この場にいる全員の注目が一身に集まっているのが、肌で感じられる。



「でまかせを言うな。この学校には違いないが、特務エスパーは少女であるとの情報だ」



テロ実行部隊の一人が言う。
僕は言葉をつなげようとして、どこにいたのか、クラスメイトの佐藤と目が合った。
何を馬鹿なことを、あいつはそう言いたげだった。
だけど僕は自分の迷いと友人達の心配を断ち切った。



「三年E組。僕の鞄にバベル専用のノートPCが入っている。疑うなら、それを確かめてからでも遅くはないだろう」



指揮官は所作で支持し、一人が確認に走った。
すぐにESP錠で両手を封じられた僕は、両脇を抱えられ澪と同じに連行されていく。
振り返った澪の表情は厳しく激しく、怒りのほどが伺えたが、今はこれでいい。



「……長押し十秒、発信三回、クリア三回」



澪の耳にだけ届くように囁く。
伝えられたのは、この携帯の存在意義とも言える機能の起動方法だけ。
タイミングまでは任せるしかない。
状況がそれを許さないとはいえ、指示もろくに出せないのでは
澪に言われるまでも無く指揮官失格だ、と自嘲の念を覚えた。
だが、『普通の人々』の会話や行動から分かったことがある。
奴らは現在の特務エスパーが誰なのか、それさえ把握してはいないのだ。
よくそれで襲撃をかけたものだと思うが
つまり、あのECM車の内臓バッテリーの稼動時間内さえしのげれば僕らにもまだ勝ち目はある、ということではないのか。
そして、それを『普通の人々』も見越しているだろうということ。
だからこそ、ここまで性急に仕掛けているに違いない。
僕はその可能性に賭けた。
コールが届いている事を切に願う。

PCの確認が終わったのだろう。
報告を受けた指揮官から、僕一人に向けられた殺意が濃度を増した。
これがこの場にいる全員のために最良の方法だと、今は信じたい。





☆☆☆





この教室に連れ込まれてから、どれくらいの時間が過ぎただろうか。
見慣れた光景は、だからこその非現実感を伴っていた。
どの学校の、どの教室にでもある堅い椅子に腰掛けて
テロリストに取り囲まれ拷問を受けるだなんて
そんな未来を想定できるほど、僕の想像力にマゾっ気は無い。
問題なのは、それこそ今の僕が迎えている現実だということで。



「なかなか頑張るな。さすがは音に聞こえたザ・チャイルド」

「……ありがたくもないね」



体に走る痛みは時間感覚をすら麻痺させて、頼りは落ちていく夕日だけといった始末だ。
体がもっている事を思えば、ほんの僅かの筈だけど
もしかするとかなりの時間が経っているのかもしれない。
繰りかえし繰り返し叩きつけられる拳や膝、そして銃。
微かな抵抗も叶わない現状は、我ながらただただ情けないばかりだが
僕を拷問にかけている連中、特に目の前の男はそう思ってはくれないらしい。



「その生意気な口の聞き様、変わっとらんな」

「そっちのステレオタイプなやり口も、な」



全くアナクロだな、と憎まれ口を心の中で囁く。
囁いただけでもじくじくと体が痛み、疼く胸の動悸は治まらない。
学校を襲い友人達を巻き込んだこいつらへの怒りだけは増しているが、正直へたれてきてもいる。
いや、これ以上はさすがにご勘弁願いたい、と思う。
だけど辛さが顔に出ないのか、相手が意図的に無視しているのか、拷問が終わる気配は無い。
こいつらの主張通りなら僕の命は物の数ではない。
せめて針が爪の間に差し込まれていたりしないのが救いだな、などと先ほどの衝撃でまだ半分ゆれている頭で考え、身震いした。
堪えている怒りが、染み出した血と一緒に流れ出さなければいいと切に願う。



「……つ」



鋭さを増した西日が目に突き刺さった。
日を避けて、不意に見渡した教室はオレンジ色した暖かい光に包まれていた。
級友たちのしゃべり声、廊下を行きかう物音、グラウンドからの良く通る楽しげな大声。
一切の音が消え、不思議なまでの静寂に包まれた教室の夕暮れ時は本当に綺麗だった。
だけど、取り囲んだ男達がすぐ僕を現実に引き戻す。
普段座りなれたはずの椅子がさっきからやけに硬い。
後ろに縛られた手が背もたれに当たっているからか、ひとしきりの拷問で体がこわばっているせいからだろうか。
おそらくはその両方なのだろうけれど、十分に思考する余裕を与えてくれはしない。



「昔、君が色々とやってくれていたのは良く覚えている。
 現場に出てこないと思えば、こんなところに潜伏していたとはね。驚きだよ」

「あんた、らが煩いからな」

「ふん。気丈なのは結構なことだが、力を誇示したところで尊敬してくれる君の仲間はここにはいないのだよ」

「そん……なつもりで……言ったんじゃ、ない」



さっきから呂律が回らないが、奴らは気にかけた様子も無い。
襲撃部隊の総指揮官は旧友に思いがけず再会したといった態で、語る内容はともかく、声に懐かしさすら響かせていた。
白髪交じりの髪。額には深い彫が刻まれ、落ち着いた思慮深げな顔つきを印象深くしている。
テロリストなど似合わない、いっそ大企業の部長とでも言ったほうがすっきりするだろう。
こいつがなんで『普通の人々』に参加しているのか、逆に問い正したいくらいだ。
年のころならおそらく五十は超えているだろう。
僕は全く見覚えが無かったが、何かをやった側は忘れても、やられた相手はずっと覚えているものらしい。
こういうのを、因果応報とでも言えばいいのか。
テロリスト相手に因果もなにも無いとは思うが、どうやら世の中は正義とか悪だとか
そんなものとは無関係に回っていくものらしい。



「ノーマルには手を出さないと言っておいて、すぐさま手のひらを返すお前らが嫌いなだけ、さ」

「エスパーに加担するものなど、ノーマルとは呼べんよ」



教壇から見下ろす奴の目には、薄ら寒い悪意と敵意、そして侮蔑が浮かんでいた。
ノーマルとエスパーの違いは、単純に超能力の有無。
僕や世間一般の認識はまさにこの点にある。
だけど奴らの中での認識は違う。
超能力を否定する自分達と、それ以外。
どこまでも身勝手だ。



「まあ、どういうつもりなのかは詮索しない。
 君が名乗り出たのはイレギュラーだったが、どちらにせよ、我々はあの中にいる
 もう一人の特務エスパーを処刑する。情報をすべて吐かせてからな」



一体何が面白いのか、奴は堪えきれずに笑い出した。
静まり返った教室に、誰もいない廊下に、枯れた笑い声が響く。
総司令官は、処刑という言葉が持っているイメージに酔っているのかもしれない。
人を殺すことの何がいったいそんなに楽しいのか。
ひとしきり笑い終えた後、伏せた顔をゆっくり焦らす様に引き上げ
愉悦と興奮が一体となった顔で僕を見据え、奴は問いかけた。



「さて。あまり時間も無いことだ。先を急いで申し訳ないが
 我々が欲しいのはバベル特務エスパーの名簿だ。
 その為にも、このノートPCのパスワードを教えていただこうか」

「この学園にいる全員の身の安全を保障するほうが先……がっ?!」



全てを言い終える直前、背後からしたたかに頭部を打ち付けられた。
衝撃が世界をくらませる。
錯綜した視線が再び正常に戻った頃合に、手荒に髪をつかみあげられ、自然大きく口が開く。
そこへ、もう一人が銃口を押し込んだ。



「……っ!」



差し込まれた異物を喉が吐き出そうと反射したが果たせず、僕は嗚咽を繰り返した。



「どうだ、怖いかね?」



教壇から奴が降りてきて、頬が当たるほど近くでささやいた。
抹香臭い上に息が臭い。
顔を離せ、と叫んでやりたいが銃が突っ込まれた状態ではしゃべることもろくに出来ない。



「抜いてやれ」



奴が左手で合図を送る。
涙でぼけた視界でも、それははっきりと分かった。



「血の、味がして、銃なんて旨いものでも、無いな」



バカを言って呼吸を整えようとしたとき、顎ごとつかまれ奴と相対させられた。
ぎらぎら脂ぎった細孔は、僕の嫌悪感を増幅させる。
癇に障ったのか、それとも気付のつもりか、いきなり横っ面を殴り飛ばされる。
歯と拳の間で擦り切れた口腔から、本物の血が口の中に広がっていった。



「一方的に圧倒的優位に立つものがどれほど怖いか、エスパーの君にも少しは理解できよう。
 私はエスパーが怖い。対抗する手段を持てぬノーマルに、力を振りかざしのさばるエスパーが怖い。
 ノーマルには持ちえぬ力を使って犯罪を起すエスパーが憎い!
 だから我々は武器を取る! かつて人類が火を持って自然を克服したように、我々はエスパーを克服してみせよう!」

「無差別に殺すことが、克服だって? 頭がイかれてるんじゃないのか」

「黙れっ!!」



脳みそが左右に振れる。
今度はご丁寧に二発、しかもみぞおちへのおまけ付、だ。



「人類の天敵として生まれた新種の生物、いや怪物であるエスパーを野放しにする気は我々には無い」

「……何を、勝手、な」

「勝手? 勝手だと? これはおかしい。勝手なのは、君達エスパーの方ではないのかね!!
 一体どれだけのノーマルが理不尽な犯罪の犠牲になったと!? いつまで我々は耐えればいいと?!」

「同じ人間だ、耐えるも何も」

「違うっ!! 断じて違うっ!!
 一瞬で家族を惨殺し、痕跡すら残さず消え去るなど人間には出来ない。普通の人間には、な」

「……」

「引きちぎられ、ズタぼろにばら撒かれた肉片が誰のものかもわからない。
 犯人を捕まえようにも、捕まえようが無い。
 我々人間の、ノーマルの法を適用することも、裁きを受けさせることも出来ない……凶悪犯罪だけではない。
 程度の違いこそあれ、財産を失ったもの、社会から孤立したもの、精神を病んだもの。
 泣き寝入りするしかなく、失意のどんぞこにいるノーマルがどれだけいるか、わかるか。
 自ら人間社会の枠から飛び出、害をなすエスパーどもを始末することになんの遠慮がいるというんだ」

「……ノーマルだろうとエスパーだろうと、犯罪を起した者こそが悪いんじゃないのか?
 超能力があるからだとかないからだとか、理屈にならな……がはっ?!」



無言で近づいてきた奴に、さらに一発腹にもらう。
えづく僕を気にもせず、奴は大振りな動作で教壇に数歩戻ると、ピタリ止まった。
腕を後ろに組み、大きく息を吐いた。
ゆっくりこちらに振り向き、見せ付けるように胸元から一丁の拳銃を取り出したかと思えば



−ズドン



乾いた甲高い音が響き、右肩を衝撃と熱さが貫く。
文字通り爆発した銃傷から神経がその信号を脳に送るのに数秒を要し、僕はスローモーに自分が撃たれたことを理解した。
見る間に広がる紅の染み。
あふれた血は椅子を伝って、しばらくワックスをかけてもいない艶のない木床に落ちていく。
このシャツは、もう着られないな。



「その饒舌な口を動かしているのはどこだ? この頭か!」



目の前に、額に照準を合わせた拳銃がある。
引き金を引けばここから勢い良く飛び出して、僕の頭を貫くんだろう。
なぜか恐怖や怒りは薄らいでいた。
しびれていく肩や右手とは反対に、僕の思考は明確さをひどく増し
自分自身の意識が外界に果てしなく広がっていく、そんな錯覚をすら覚えた。



「悪いが、君と議論する気は毛頭無いのでね。
 口を割らせるのが無理ならば、このPCの解析はアジトに帰ってからゆっくり行うとしよう。お別れだ、ザ・チャイルド」

「……それはどうも」



軽口をたたいたはいいが、さすがにヤバイかと苦笑いしたと同時に―――階下で爆発が起こった。
普通の人々達は虚をつかれ次々床に転倒していく。
椅子に縛りつけられた僕も、危うく椅子ごと倒れこみそうになる。



「どうした! 何事が起こったのか、すぐに報告せよ!」

「はっ!」



数名が階下の教室に向けて走りだす。
もし、僕の想像が当たっているのならば、その努力は徒労に終わるはずだ。
鈍い痛みと熱さを堪えながらも僕は笑みを浮かべてしまったのか、歩み寄った総指揮官が改めて銃を構えなおす。



「……何を知っている?」



伝わる怒気は銃の冷たさをすら沸騰させるようで、手元はぶるぶると振るえ定まらない。
尋問が続く間もなお爆発音は続き、断続的に響く音のうち、ひとつは猛然とこちらに向かっていた。



「さあ、何も知らないし僕がやったことでもないんでね。ただ、僕の考えどおりだとすると……」

「考えどおりだとすると、なんだ!」



瞬間、差し込む西日がいや増した。
僕の鼓動と奴の息遣いすら静止する。
右人差し指が間違いなく引き金を引こうとし、それを押し込む圧力すら感じれた様に思えた、その時。



「あんたの好き勝手もここまでだってことよ!」

「なんだとっ!?」



夕日を全身に受け止めた澪が、教室に突入する。
あふれた力は陽炎のように周囲を揺らめかせて、瞬間全ての窓ガラスを爆砕した。



「よくもやってくれたわねっ、こん畜生が!!」



飛び散ったガラスは『普通の人々』をひるませ後退させる。
息の付く間もなく、さらにすぐさま何十個もの机がいっせいに舞い上がり叩きつけられた。
わずかに一人が軽機関銃を発したが、澪が形成した球形バリアに全て跳ね返される。
一歩、二歩と歩みを進める澪の形相は厳しく、そして激しく
総指揮官も倒れこみながらもあらん限りの銃弾を打ち込んだが、それは空しい抵抗に過ぎなかった。
時簡にすれば一分にも満たなかったろう。
瞬く間に全ての人間を沈黙させ、あっけない終幕を告げるように教室には埃だけが盛大に舞っていた。



「黒板消しまで突っ込ませることはないんじゃないか……はは」

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ……って、あんたどうしたのよっ!?」



澪は手をかざし、僕の戒めを解いた。
座っているのも精一杯だった僕は、力なく崩れ落ちる。



「……見た通りさ。いささか手荒くてね」

「やだ、血が止まらないじゃない……もう!」

「僕のことはいい。あっちのECMを破壊するほうが先、だ」

「それはナオミと初音が向かってるわ。いいから黙ってて!」



迷い無く僕のシャツを脱がすと、澪は自分の肌が露出することも厭わずメイド服の裾を引き裂き、応急の手当てを試みる。
右肩の前から後ろへ、そしてテーピングの要領で手際よく肩全体を固定していく。



『多量の出血があった際には、傷口に布などを強く押し当てるのよ。そう、こうやってね……』



いつだったか朧さんに受けた救急レクチャーが本当に役立つ機会が巡ってきたのは、本当なら不味い事なのだろう。
必死の形相を見せる澪を茶化す気にはなれないが、あえて僕は繰り返した。



「……今はあっちが優先だ。
 携帯に装備されたECCM(超能力対抗対抗装置)のバッテリーは10分程度しか持たないぞ!」

「あんたのが持たないでしょ! いいから今くらいあたしの言うこと聞け!!」



手際よく止血していく澪の顔は、今まで見た事が無いほど真剣で真摯なものだった。



(……こんな顔も出来るんじゃないか)



生来の顔立ちの良さからか、眉根を寄せた険しい表情すらもいっそ綺麗だとさえ感じた。
不思議な安堵を覚えた僕は、押し黙って澪の作業を見つめ続けた。
つい先ほどまで怒号が飛び交っていたのが嘘だと感じるほど、静かな空気が僕らを包んでいた。



「よし!」

「……すまない。ナオミちゃんたちはどうだ?」

「あそこ!」



グラウンド際の壁にもたれかかりながら、それを見た。
校門に鎮座する軍用ECMに向けて、包囲の突破を図るナオミちゃんと初音ちゃんがいた。
ECCM携帯を渡したのはきっと谷崎主任だろう、さすがに機転が効く。
体育館に残った主任は、どうしているだろうか。
下手な行動には出ないはずだけれど、事態を打開すべく模索しているはずだ。



「……少しきつい、か」



ECMの出力が上がっているのかどうか、原因は推測するしかないが近づけば近づくほど二人の動きが鈍くなっているようだった。
ECCMの影響範囲が限定されている為、身体を獣化させ突進する初音ちゃんの合成能力もあまりうまく活用出来てない。
加えて、普通の人々も戦力をECM防衛に集中させているらしく、陣容が厚くなってきている。
いかなナオミちゃんが操るサイコキネシスの精度が高いとはいえ、多勢に無勢ではどうしようもない状況に陥りかけていた。



「澪!」

「分かってる! 行ってくるねっ!!」



僕の言葉を待たず、澪は教室を飛び出していく。
振り返りもせず、ナオミちゃんと初音ちゃんの下に直進する。
急襲された普通の人々の陣形が崩れ、後退していく。
三人は体を寄せ合い、背中合わせに円陣を組んで進む。



「ECMを破壊さえすれば、後はなんとかなるはず……だけど」



澪が加わってから、明らかに『普通の人々』が押され始めた。
超能力を扱う技術はナオミちゃんに劣るとはいえ、澪のパワーは人一倍。
同じ超度六とは言えど、三種の複合能力を扱うポテンシャルはとても高い。
サイコキネシスに全力を投入すれば、作り出せるバリアも攻撃の圧力もいや増すだろう。



「ナオミ、そろそろラストいくわよっ!!」

「澪ちゃん、初音ちゃん、そっちよろしくね!!」

「縄張りを荒らすヤツら、許さない!!」



激しく叫び声が飛び交うグラウンドから三人の奮闘振りを示す声が届く。
いくら唸りを上げても、空しく発射音を響かせるばかりで次々破砕されていく軽機関銃。
ナオミちゃんが張った局所バリアの向こうから澪がサイコキネシスで『普通の人々』を吹き飛ばし
崩れた陣形に狼変化した初音ちゃんが突っ込みかき回す。
澪達が歩みを進めるごとに『普通の人々』は一人、また一人と倒されグラウンドの土煙に巻かれていった。



「ここが踏ん張りどころ……だな」



そうさ。
あいつが、ナオミちゃんが、初音ちゃんが、頑張ってる。
僕も頑張らなくて、どうする。
散漫になりつつある意識をかき集めるが、次々とめどない考えが浮かんでは消えていく。
あいつ、スカートの裾だいぶ切ったの分かってるのかな。
普通の人々に見られるんじゃ、気にもならないか。
体育館の皆は、無事かな。
撃たれたあの人は、僕みたいに止血をちゃんとしてるだろうか。
佐藤にどう言い訳しようかな。



「……そう時間をかけてもいられないぞ、澪」



まとまりを欠いた思考の淵から、大切なことを思い出す。
そろそろバッテリーが尽きる頃合だ。
なんとしても、その前にECMに到達して破壊しなければならない。
ここまでやった以上、澪たちが捕獲された場合に普通の人々がどう出るかは考えるまでも無い。



(みんな、無事で)



今の僕ではどうあっても澪たちに届くはずの無い想いを、強く強く込めて願った。
古ぼけた教室の時計が進むのが、遅い。
秒針の進み具合に細工でもしてあると疑いたくなるくらいに、カチコチ歯車がかみ合う音すらはっきり聞き取れる。



「……!」



ついに澪たちが進路をこじ開けた。
初音ちゃんの背に乗った澪が、一気にECMまで跳躍する。
逆光に一瞬目がくらむ。
かざした手の隙間には、澪が全力でサイコキネシスを叩き込む様が切り取られていた。
ちょうどひとつ息を吸い込む、それだけの時間。
あたりが静止して、そして、動いた。



「やった!!」



ECMが爆煙と共に飛散し、爆発音が教室にいる僕の体にもどずんと響く。
動きの止まった普通の人々を尻目に、澪たちはやったとばかりに拳を空に突き上げる。
間に合った……!
最初澪たちが行動を起してからほぼ10分、ECCMのバッテリーはもう残ってはいない。



「コールが届いてなくても、これなら」



高々と上がった狼煙と爆音は、何よりの合図だ。
一気に校内を制圧して、集められている皆にこれ以上の危害が及ぶ前に助け出す。
これからは一秒をすら争う時間の勝負、そう思った瞬間。
滞空していた澪が台座を外された様にグラウンドに落下し叩きつけられ、初音ちゃんの変化も解けた。
ナオミちゃんは力を使おうと手を振りかざすが、明らかに戸惑っていた。
虚を突いて、残存した普通の人々が再び包囲を開始する。



「一体何が……?!」



ECMはたった今破壊した。
いかな怪我をしているとはいえ、もうもうと黒煙を上げる車体を見間違うはずも無い。
澪やナオミちゃん、初音ちゃんが怪我をしているかもしれないが、健在だ。
ECMは破壊された、しかし超能力を振るう事は出来ない。
だとすれば、事実から推測できる可能性はたった一つしかない。



「……やつらはもう一台ECMを用意してるのさ。
 さすがに頭が回らなかったかい、ザ・チャイルド」

「なっ?!」



いつの間にか、僕の隣に古めかしい学生服を着込んだおかっぱの男子生徒が座り込んでいた。
血たまりを気にもせず、膝をついている。
その横には、長髪で背の高い生徒もいた。
今この時間、一般の生徒が校内を移動できるはずも無いのに、なんで。



「君らは……朝に案内した」

「おっと、細かい話は後回しだ。
 なにしろ彼女らが危ないんでね。
 真木はここにいてザ・チャイルドの様子を見ておけ」

「はい、少佐」



真木と呼ばれた生徒は、手を後ろに組んで背筋を伸ばす。



「お気をつけて」

「物の数には入らないがね」



少佐と言われた生徒はそれがごく当たり前だと言う様に、宙に浮いた。
あっけに取られた僕を微笑みで見返してくる。



「……君らはエスパーなのか? ECMが効いている状況でなんで……」



彼はにこりともせず、おもむろに髪をかきあげて僕を見た。



「この傷のおかげで、僕にはECMが効きづらくてね。
 幸い、君の様に能力そのものを失いはしながったが」



額の中心を、ザラザラした波打つ肉が一文字を形作っている。
一生消えることの無い、僕から永遠に超能力を奪った事故が確かにあった事を示す傷と、あまりにも似た傷が、そこにあった。
思わず僕も、自分の傷を確かめる。



「君はそこで見ているといい」

「待て、奴らがどれだけ危険かわからないのかっ?!」



ここまで来られた程のエスパーであるならば、標的にならないはずもないだろうに。
だが僕の制止を聴きもせず、彼は躊躇無くグラウンドに降下していった。
なお引きとめようとした途端、僕を黒い物体が覆う。
もう一人の真木と呼ばれた生徒の髪が、不気味に伸びていた。



「あんな連中、兵部少佐の敵では無い。黙って見ていろ」



彼が顎で指し示した光景に、僕は絶句した。
否応なしに見せ付けられたそれは、想像をはるかに超えていた。



「……!」



パワーをふりしぼった訳でもない、バリアを叩き付けたのでもない、まして武器を使ったわけでもない。
少佐と呼ばれた彼が腕を振りかざしたと同時に、取り囲んだ普通の人々が音も無く崩れ落ちていく。
泥人形が水に溶けていくように、頼りなくひん曲がり、あらぬ方向に力なく倒れて動かない。
あっけに取られた澪たちは、突然現れた救世主にどうしていいものか分からず、ただ呆然と立ち尽くしているのみだった。



「……まさか」



あまりの事態に、僕はひとつの想像にたどり着く。
昔サイコキネシス訓練の際に、固く使用を禁じられた力の使い方があった。
強い力を使用するには危険な力の使い方も知っておかねばいけないと、局長肝いりで行われた訓練で教わった事がある。



「……血液を泡立たせた、のか」



血液を振動させ沸騰させて泡立たせるか、心臓の電流を乱すだけで人は簡単に殺せる。
至極単純で、パワーを必要ともしない。
あの時局長が見せた暗示にも似た真剣さ、決して使ってはいけないという訓示は当時の僕を震えさせた。
いくら自分が化け物扱いされようとも、周りに誰もいないと身に染みていても
この両手で簡単に人が殺せるんだと分かったとき、怖くて怖くて、ろくに寝付けなかったのをよく覚えている。



「さあな。仮にそうだとして、あんな連中に遠慮することもあるまい」

「それがどういう意味なのか、わかって言っているのか?!」

「肩を打ちぬかれてなお、お人よしなことだ。
 ノーマル如きがいくら死のうと、我々の知ったことではない」

「いくら死のうと、だなんて……!
 それじゃ、奴らのやっている事とまるで変わりがないじゃないかっ?!」

「怒るか、ふん。お前は何のために怒っている?
 友人達の為か、あのエスパー達の為か、それとも自分自身の為か?」

「なっ!」

「反撃した時点で、体育館にいる人質に危害が及ぶ危険性を考えていなかったとは言わせない。
 ノーマルを守るなどと言いつつ、お前らは結局自分達の安全を優先したんだ」



険しさを孕んだ視線が僕を突き刺し、縫い付けられた僕は微動だに出来ない。
考えていなかったわけじゃない。
思いつかなかったわけでもない。
確かに僕は、澪に携帯を渡す際その可能性には目をつぶった。
見境ないテロリストは、エスパーが反撃に出ればどうするか。
体育館に拘束された誰かに危害を加えられるかもしれないとすぐ思い至り
だけどそれ以上に僕らの行動で守りきれると、あえて見たくない事実を願うように塗りつぶした。
絵の具を何色も何色も重ねていくと黒になる。
が、黒になりきれない歪んだ灰色を、僕は確かに飲み下した。



「僕は……」



言葉を紡ぐ糸が見当たらない。
僕を拘束する黒い何かが、思考まで捉えて川べりに引き込まれる。
何も、言えない。声に出せば、どんな言葉も言い訳になるように感じられた。



「あまり苛めるなよ、真木。
 安心しな、脳みそを揺らして意識不明にしただけだ」

「申し訳ありません」



真木の拘束が解かれる。
気づけば、先ほどの彼が再び教室に舞い戻ってきていた。
今度は一人でなく、澪、ナオミちゃん、初音ちゃんの三人を連れ帰ってきた。



「皆本さん! やだ、大丈夫なんですかっ?!」

「血がたくさん出てる!!」

「……ありがとう。だけどもう、大丈夫だから」



血をこれだけ流していれば、驚きもするか。
澪が止血をしたとはいえ、完全に止まった訳でもない。
慌てる二人に事情を説明する前に改めて澪が傷口を強く抑え、これ以上の失血を防ごうとしてくれた。
傷口はまだ熱い。



「すまない」

「……いいから。ホントにあんたは、さ。
 ナオミに初音も、こいつはとりあえず大丈夫だから、安心して」



努めて笑顔を見せる澪に、力なく応える二人。
僕も同じように笑って、大丈夫だからと言い添えた。
愛想笑いが終わってしまうと、いつにも増した静寂が教室を包み込む。
先ほどまでの怒号飛び交う争乱を、澄み切った透明な静けさが鮮やかな西日と共に染めていく。



「君にはありがとう、って言えばいいのか。
 それとも、どうしてって言えばいいのかな……」



そんな言葉が精一杯で、後が続かない。
人質は拘束されたまま、普通の人々はおそらく大半が制圧されたが
ECMが健在である以上僕ら特務エスパーにとって事態が好転したとはいい難い。



「いや、礼には及ばない。
 同族どうし、君らを助けるのは当然の事さ」

「同族?」

「そう。僕らはノーマルという種族から別れた新たな血族だ。
 危機に瀕しているのを黙って見過ごすわけにもいかなくてね」

「そんな! ノーマルだとかエスパーだとか、関係ないじゃないですか?!
 皆も助けてあげてください。あなた、ECMが効かないんでしょ?!」

「そうだよっ! まだ大勢つかまってるんだよっ!」



ナオミちゃんと初音ちゃんが声を荒げる。
澪は僕の傷を抑えたまま、じっとして動かない。
なぜだろうか、僕の体は熱を帯びてきている。
傷口から広がっていく熱が、全身を巡っていく。



「君達は、何も分かってないね。
 さっき真木も言ったが、僕らはノーマルがどうなろうと関係ない」

「なんでっ!」

「よすんだ、澪」

「だって、だって……!!」

「そんなに嫌わないで欲しいね。せっかく助けてあげたのに」



三人の気持ちが、体に響く。
幸いとは言えないのだろうが、さっきから撃たれた体のだるさと反比例して意識は明瞭さを増してきている。
奮闘し、また虚脱してもいる澪達を守る術を考えるにはちょうど良かった。



「……澪達を助けてくれたことには、礼を言う。だけど、君らはなんでこんな事をした?
 ノーマルが憎いと言うなら、ノーマルとの付き合いを大事にする僕らを放っておいても良かったはずだ」



あまりに当然の疑問。
まず明らかにしておくべきは、彼らの目的。
それ如何によっては、僕らの取るべき行動も大きく変わってくる。



「……いや、助けたかったのさ。正確にはザ・チャイルドを、君らを、ノーマルの枷からね」

「枷?」

「そう。枷、さ。
 今度の事で、理解できたろう。
 自分達がいた場所がどれだけ危ういところだったのか」

「危ういだなんて……!」



僕らを見据えての重苦しい宣言に、ナオミちゃんが反論する。
しかし、兵部は更に声を重ねた。



「いや、危うい。
 今日普通の人々がこの学校に突入してきた意味が君達にわかるかい?」

「それは内と外で示し合わせて……」

「そういう意味じゃない」



僕を見る兵部の顔に、影が落ちかかる。
切れ長の瞳に高い鼻の半分は、黒い闇に包まれる。
澪たちは、僕と兵部のやり取りに聞き入っていた。



「守るものがいなくなれば、すぐさまこんな悪意にさらされる。
 ノーマルと普通に暮らせていると思っているこの環境は
 結局は武器によって守られた嘘っぱちの世界に過ぎない」



違うと言いかけて、言葉に詰まる。
僕らの行く先々に、なんで警備が必要なのか。
特務エスパーを守る、というお題目はあろう。
普通の人々のようなテロリストから守る、という必要はあろう。
だけどその事自体が、何より雄弁に現状を物語っている。
僕らが僕らである事は、容易ではない。
事実、体育館で行われた魔女狩りを髣髴とさせる
脅しに屈した告発の光景。
安全の二文字が失われれば、優しい現実は何時だってひっくり返る。



「わかるだろう、ザ・チャイルド。
 この世界は、エスパーに優しくなんかないってことさ。
 だからこそ、自分達の能力をノーマルの好きにさせちゃいけない。
 はめられた枷から、自分達を解放しなくちゃいけない。
 今の世界が僕らにとって居心地が悪いのならば
 僕らに必要な世界をこそ作り上げるべきなのさ」

「その為にこそ、少佐は活動されている。
 我々の目的は全世界のエスパーの解放すること、その一点だ」



真木と呼ばれた青年が続け、兵部が応える。



「その為にここに来たんだ。
 君達にも、ぜひ僕らの仲間になって欲しくてね。
 今すぐにとは言わないが、いずれは
 僕らの組織、パンドラに参加してもらいたいんだ」



息を呑んだ僕らに、兵部はゆっくり手を差し出した。



「パンドラ……?!」



三人がいっせいに僕に顔を寄せる。
戸惑いと驚きが、身を硬くしていた。
僕らの戸惑いをよそに
彼は底抜けに晴れやかな笑顔を見せ手を大きく広げた。
全員を見渡し、まるで宣誓するかのようにゆっくりと告げた。



「このままノーマル達と暮らしていても、なおのこと、彼らに迷惑がかかるだけさ。
 なら、僕らと一緒に来た方が良いと思わないかい」



すぐには、否定する言葉が出てこない。
それは澪やナオミちゃん、初音ちゃんも同じだった。
自分たちの存在が、ノーマルに迷惑をかけている。
余りに辛く、苦い言葉。
しみこんでくる雨の様に、気持ちは騙しきれない。
言下に否定するには、今日起きた事はあまりに大きすぎた。



「……」



言葉を句切り、兵部は僕らの返答を待つ。
何も言えずにいる僕らを前に、苦笑いを、そして神妙な面持ちを見せた。
後ろに控えた真木は、ただ無表情に視線だけを送ってくる。



「パンドラ……
 そうだ、確かパンドラという名前だった」



その名前には、朧に覚えがあった。
少し前に、局長から渡された極秘ファイルに載っていた。
パンドラ、それはブラックファントム、アーレ・ルギアと並び、エスパーテロリスト集団で最も注意すべきと記されていた内のひとつだ。
そして確か、その首謀者の名は兵部京介と記されていた。



「君らはあの、パンドラなのか」

「……そうさ」



臆面も無く応える彼らに、僕は問いかけた。
そうせずには、いられなかった。
なぜなら。



「エスパーをかとわかし、犯罪を幇助させ
 各地域のテロリストに対しても物的・人的支援をしている、あのパンドラなのか……?!」

「やれやれ。随分と悪名がとどろいているようだね」



呆れた、と兵部は肩をすくめる。
しかし、皮肉を示す口元にたたえた微笑は報告書の記載を肯定してもいた。
真木は激しい視線を僕に送ってくるが、兵部はそれを押しとどめ、なおも言った。



「桐壺が何を言ったかは知らないが、ね。それはあくまでもノーマルの言い分さ。
 僕らはエスパーをかどわかすのではなく助け出しているのだし、ノーマル同士がバカをやりあうことになんら痛痒を感じない」



クスクスと笑いかける。
そうじゃないかい、と。
僕は応える気にもならず、ただ、兵部をにらみ付けていた。



「……ノーマル同士がバカをやる。
 つまりは、今日みたいな事件を止めるつもりはない、と言うんだな。
 たとえ、それを止める力があったとしても」

「そのとおり。傷ついたのはノーマルだけじゃない。
 むしろ偏見や差別で助長される分、エスパーの受けた被害はより深刻なのさ。何より君らが実感している事だろうに」

「それは……」

「それに、だ。
 君のその傷。超度七という最重要エスパーを失ってなお、指揮官であった桐壺がバベルに残り、局長にすらなっている。
 その意味を考えたことがあるのかい?」

「なんだと?!」

「そこにいる、澪君にしてもだ」

「……あたしの事なんてどーでもじゃない!」



話を遮った澪が、兵部を睨みつけている。
表情からは戸惑いは消え、はっきり怒りが表れていた。



「そういうわけにもいかないんだがね、災禍の魔女」

「人を変な名前で呼ばないで!」



どうした、と問いただすより先に、僕は疑問を口にした。
それは、考えるだにおぞましい可能性。



「……一つ、確かめたい事がある」

「なんだい?」

「パンドラの首謀者である君が、今日この場にいた。
 こんなテロがあった日に、だ。
 果たしてそれが偶然ですまされるのか……?
 いや、例えここにいたこと自体が偶然だったとしても
 君ほどのエスパーが『普通の人々』の存在に気付かないとは思えない」



現に、この男は何も慌てることなくいる。
まるで…そう、当初からの予定だったと言わんがばかりに。
それはつまり、疑いようのない真実を示している。



「何を言いたい、ザ・チャイルド?」

「何を、だって?!」



兵部京介の態度に我慢できず声を荒げるが、もう肩の痛みすら気にならない。



「全部分かっていたんだろう?
 今日『普通の人々』が襲撃をかけること知っていて、僕らがこうすることも予想していて!
 学校の皆が傷つけられる事を気にもしないで!
 お前はいつだって、いつだって皆を助けられたのに。
 このばかげた事件を防げたのに、全てを見通した上で、敢えてこうしたんだ!!」



いつしか僕は叫んでいて
澪は僕の傷口に重ねた手を堅くする。
ナオミちゃんも、初音ちゃんも目線を交し合う。



「なんで・・・…」



澪の頬を涙が滑り落ちていく。
濡れた睫毛が輝きをたたえて光る。



「……ふん。さすがにザ・チャイルド。王の資質を備える者だ」

「……訳の分からない事を」



嘯き悪びれる様子も無い兵部。真木は変わりの無いまま立ち尽くす。
僕の言葉を無視して、兵部は繰り返した。



「もう一度、聞こう。
 エスパーに危害を加えようとするノーマルと縁を切って
 僕らと一緒にパンドラに来る気はないかい?」



想像したくも無い。
考えたくも無い。
だけど、これは疑いない現実。
彼らが、皆に害を成そうとした、事実。



「……出来る訳ないじゃないか」

「どうあっても?」

「……そうさ。今、お前の言葉を聞いてはっきりと分かった」



傷口を押さえてくれていた澪の手に、僕の手を重ねた。
めぐっていた熱さが勢いを増し、奔流となって駆け抜ける。
動悸が増していく。
息が、苦しい。
体が跳ね上がりそうな圧力は、行き場を求めてさまよい、やがてひとつに終着していく。
うかされ沸いてくるこの『力』は―――。



「何、この力……?!」

「お前が敢えて放置したのだとしても、それでもやはりおかしいんだ。
 万全のはずの警備が機能しなかったのも、彼らが突入して以後のことも」



そうだ。
この事件には、不審な点が多すぎた。
あまりに突然でさまざま絡み合って、分からなくなっていたけれど。
その全てを結びつけそして突き崩す、ひとつの点は今間違いなく目の前に、いる。
改めて、ノーマルを否定する兵部京介の言葉を聞いた今、僕は確信していた。



「少ない情報だけを頼りに普通の人々が襲撃したんじゃない。
 見通した上で敢えて放置したんでもない。
 兵部京介。
 お前が全てを、今日起きた全て。
 僕らの仲間を危機に陥れた
 全てを―――――――謀ったんだ!」

「ははははは!」



愉悦すら感じさせるほどの笑み。
落ち着いた、理知的な目とは相反した口元のまま
兵部は立ち上がり、倒れた教卓に腰掛ける。
その目は、遠くを見ていた。
夕日のずっと先、どこかにある何かを。



「だとして、どうする?」

「……!!」



返された肯定に、五感がぐにゃりと歪み、その通りに変じた世界を得た。
教室が急速に閉じていき、周囲の色彩は反転する。
即座に齎された激変に不快感は無い。いや、むしろ――――――
次の瞬間、熱い鼓動と共に全ての感覚が解放された。

それは五感を超えた感覚。
長らく経験していなかった感覚。
そして、とてもとても懐かしい感覚。
誰かが抱いた感情を、皆が浮かべた表情を、自らを取り巻く周囲を
目ではなく、耳でもなく、ただ感覚として理解する。それすらも懐かしくあった。
僕を肯定する要素、僕を否定した能力。
否応なく社会と関わらせ、両親を遠ざけて、孤立させた現象。
自分とは一体であり、同一化した『それ』を含めての自分自身。
だがあっけなく無くした『それ』の、幻視痛に苦しめられ、惑わせられた。
そして今。無くした時以上の唐突さで『それ』は戻ってきた。
いや、本当は無くしてなど居なかったのか。真実は解らない。今は、まだ

でも、感謝しよう。
神様が居るのなら、神様とやらに。
神様が居ないのなら、この都合のいい現実に。
今、この場で、はっきりしてるのは。
この目を見開いた白髪野郎をふっ飛ばす力があるってことだ!



「なによ、このもの凄い力?!
 あなた、超能力を失ったんじゃなかったの?!」

「ああ、失っていたさ。間違えようもなく、ね。」



握りしめた澪の手から、戸惑いも、驚きも、興奮も、全てが伝わってくる。
経験したことのない巨大な力に意識を持って行かれまいと必死に抵抗する澪。
だがすぐに力は溶け合い共鳴し、お互いをすら浸食していく。
混じり合う力は、なおいっそう大きな力となってあふれ出る。
止めようとも思わない。
いや、止めようだなんて―――とんでもないことだと思われた。



「皆本さん、澪ちゃん……?!」

「すごい、すごい、すごい!」



僕の能力と澪の能力。
サイコキネシス、テレポート、サイコメトリーの三種複合能力。
今はただ四肢にみなぎるこの力を、燃えさかるほどの力を、学校全体、いや街全てを覆い尽くさんばかりに解放していった。



「兵部京介」

「なんだい、ザ・チャイルド」



彼が、おもちゃをもらった幼児を思わせる底抜けに晴れやかな笑顔を見せた。
庇おうと前に進み出る真木を、僕は苦もなくサイコキネシスで押さえ込む。
突き抜ける怒りは、取り戻した力をして一つのぶれもなく使わせていた。



「あんたね、あたしを振り回さないでよ!!」

「ごめん、と言うのは後回しだ、澪」

「……今はこいつの相手、か」

「そうだ。兵部京介の、パンドラの相手、さ」

「そう。そう、よね。そうだったよね」



能力で震える空気のノイズすら、感じ取れる。
感覚が、ひどく外に広がっている。
静まりかえった教室、誰もいない職員室、ざわめく体育館、普通の人々が倒れるグラウンド、裏門のECM。
僕と澪は学校の全てを感じとり、自分のものとしていた。
互いの間合いを保ったまま、兵部に言葉を投げつける。



「僕は、おまえの言葉みたいな不確かな物を信じない!」



もはや耐え切れず、既に抑えきれず、破壊欲にも似たその激情を叩き付ける先を睨み据える。
憎いのは運命、噛み潰したいのは己の弱さ、張り倒したいのは過去の自分。
怒りは円環を形作り、激怒へと変じながら更に強く。
澪は僕の怒りを読み、僕は澪の憤りを感じ、受け取った互いの思いは自らの抱く感情を更に燃え上がらせる。



「おまえ達よりも、みんなを!
 澪達を、友人を、局長を信じる!
 あのやたら濃い髭を何度もすりつけられた痛みを!
 力強く抱きしめられた時の暖かさを!
 優しく笑いかけてくれた、認めてくれた嬉しさを!
 僕はまだ覚えてる!!!」



過ごした時間は違えど、それは澪もまた同じこと。だから―――
一つになった思いを、僕達は叫びに変える。




「あたしは――」「僕は――」

「「お前を絶対許さないっ!!!」



放ったのは感情の火矢。
殴り倒したかったのは、全ての悪意。
目の前にいる、それを形取った物に向けて全力を持って叩き付けた。



「僕らの目の前から消えろ、兵部京介!!」

「……残念だ、ザ・チャイルド。災禍の魔女」



瞬間、兵部は真木と共にテレポートし倒すべき相手を見失った力は、僕らの教室を破壊し突き抜けていく。
だが僕はその力を、もう一つの目標に向けて転身させた。



「もう一台のECMを破壊するぞ、澪!」

「……了解!!」



空中を直進していた力の奔流を、思い切り直上に引き上げる。
最後の輝きを見せる夕日を背に受けて、天空から地上に、皆の怒りを代弁すべく振り下ろした。



「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」



目には見えず、されど熱い感情の塊はECMを直撃し
車体が裂ける様にして、折れ曲がり破砕する。
飛び散った破片があたりに散乱し、警護していた普通の人々が倒れ伏す。
もう一本あがった爆縁が合図となり、ナオミちゃんと初音ちゃんにも能力が戻っていった。



「あたし、体育館に向かいます!」

「わたしもっ!!」



二人は返事をするより早く、駆けだしていく。
僕らもすぐ向かうと言いかけた時、テレパスで感じた。
プールの水が、まるで意志を持ったようにうなり声を上げ、体育館に突入していく光景を。
空を踊る水流は、正確に『普通の人々』のみを巻き込んでは奪い取っていく。
その様子に、液体操作に長けたエスパーの顔が自然と思い浮かんだ。



「メアリー・フォード中尉!
 コメリカ組も救援に来てくれたのか」



各所から、一斉に完全武装した兵士が駆け込んでくる。
普通の人々にはすでにろくな戦力は残っておらず、圧倒的な素早さで制圧していく。
捕まっていた皆の驚きと歓喜の声も伝わってきた。
どうやら、ようやく全てが終わったらしい。あるいは終わろうとしている、か。
張り詰めていた緊張が切れて、頬が緩んで力ない笑みの形を作る。



「さんざん色々あったけど、終わる時って案外あっけないのね」

「……そうだな」



あれほど苦労したのが全くの夢だといわんばかりだ。
また別の意味で騒がしくなっていく校内を見て、僕らは大きく息をはきだした。



「まあでもこれで一件落着、なのかな」

「多分ね」



後はバベルや学校側が何とかしてくれるだろう。取り敢えず僕達のやることは終わり、だ。
そこまで考えた時、これまでの緊張が一気に解けたからか、体がぐらつき、床へと思わず座り込む。
と同時に感じる、腕が引っ張られる感覚。
なんだろうと思ってその先を見てみると――。



「「あ」」



そこでようやく、澪と手を繋いだままだったことに気がついた。



「っていつまで手を握ってんのよ! 離しなさいっ!」



腕ごとぶんぶん振り、離させようとする澪。それに促され僕は慌てて手を離す。
その瞬間、先程まで満ちていた感覚が、力が、急速に霧散していくのを感じた。



「―――」

「………」



思わず顔を見合わせる僕達。澪の表情からすると、きっと僕と同じような感覚を味わったんだろう。
繋いでいた手を見る。
先程の能力の発現。
あの時能力を失った直後、BABELというよりは国だけれど、総力を結集して僕の能力を戻そうと試みた。
当時唯一の超度七、しかも複合能力者のエスパーが能力を失ったのだ。
強力なエスパーの有無が国際情勢をすら左右する時代だ。
国はどれほど焦ったろうか。
あの頃は力を失ったことへのショックで、ただ従っていたけれど今考えれば当然だろうとは思う。
エスパーまで使った強力な催眠による復活の促進や恐怖・怒りといった強い感情を利用した再覚醒。
局長ですら押しとどめることが出来ずに、果ては電気ショックのような若干危険な方法を用いたにも関わらず、能力は戻りはしなかった。
けれどさっき確かに僕の能力は戻っていた。
澪一人であれだけの行使が出来るはずはないし、何より一時的ながら戻っていたあの全能感は疑いようも無い。
なら、もしかしたら――。



「…なにじっと見てるのよ。
 まさか『もっと手を繋いでいたかった〜』とか言い出すんじゃないでしょうね」

「いや、そうじゃないんだけど……」

「そうじゃないって、あんたね。
 なんかの間違いでも、こーんな可愛い娘と手をつなげたんだから、ちったぁ感謝しなさいよね」

「手をつなぎたいのか、つなぎたくないのかどっちなんだお前」

「なによ。あんたの一生でこんな機会二度とないわよ。
 その辺わかって言ってんの? どぅーゆーあんだすたん?」



人差し指を立てて、軽く僕を馬鹿にするように言ってくる澪。
そんないつもの彼女の姿に、日常を取り戻したことを実感して
堪えきれずに、僕は小さな笑い声を立てた。
いぶかしげな顔つきになった彼女に告げる。



「ああ、そうだな……お前と手をつなぐってのもいいかもな」

「んなっ………!?」



僕の軽口に、恥らいか怒りか、澪の頬が赤く染まる。
言葉に詰まった彼女の様子に、僕はさらに笑みを深くした。
今回の事件と通して、改めて考えなきゃいけないことは沢山ある。
突きつけられた問題は、どれもすぐには解決不可能。
だけど皆を助けることができた嬉しさが、この上ない充実感で僕を満たしていた。
笑い続ける僕を、澪はしょうがないわね、と見下ろし微笑んでいる。
乾ききらない血だまりに、兵部と同じように澪は膝をついた。



「……お疲れ様。ほら、立って。
 病院に行かないと、あんたそろそろやばいんじゃないの?」

「かもね。冗談じゃなしに、めまいがする」



ふらつく体をなんとかして引き上げようと努力する。
そこに無言で突き出される手。澪はそっぽを向いている。
仏頂面で伸ばされた手を、苦笑しながら掴もうとした。









その時――――ーふと視線を感じた。
何故だか周囲の全てがスローモーになり、空気が凍り付いてゆく。
僕が首を動かすのと同時に、倒れていた指揮官の腕が上がり始めていたのが分かった。
そこに握りしめられていたのは僕の肩を貫いた拳銃。
銃口が向けられているのは、僕を立たせようとしている澪の背中。



「この、化け物め!」



怨嗟の声と、発射音が教室を震えさせる。
刹那。
考えるよりも先に、体が動いた。



「危ない!!」



限界の体を無理やりに跳ね上げ、澪を抱き留めながら倒れ込む。
同時に左胸を襲う、大きく鋭い衝撃。
重いハンマーで杭を打ち込まれた感覚。
僕の意識を直接砕こうとするかのような。



「……んた、ちょ……」



閉じていく意識は、再び反転する事は無く。
抜けていく力と共に、深いよどみに引き込まれていく。
最後に何か澪が叫んだ気がしたけれど、上手くは聞き取れず。







意識を手放す直前。澪の肩越し、窓を通して見えた空は。
今まで見たどんな空よりも、ずっと、ずっと遠く見えた。





こんにちは、約4ヶ月ぶりの投稿となります。
大変お待たせしてしまって申し訳ありません(−−
お待たせした分、楽しんでいただけるといいなあと普通でない人々一同、願ってやみません(マテ
で、皆本大変な事になっているわけですが、さて次回はどうなるか。
楽しみにお待ちくださいませ。



http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9866 第一話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9899 第二話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9931 第三話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9994 第四話はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10047 第五話前編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10048 第五話後編はこちら

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http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10375 第九話中編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10380 第九話後編はこちら

http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10383 ショートストーリーズ1はこちら




※2010年7月改訂実施

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