2812

うっかりヒャクメの大冒険 第十一話「帰ってきたヒャクメ!」


『これは……!』
『時空震のポイントを制御して……
 あいつだけを未来へ吹っとばす!!
 できるだけ遠く……!』

 平安時代の、夜の森の中。
 魔神アシュタロスに追いつめられた仲間を救うため、女神ヒャクメが今、逆転の奇策に出たのだった。
 
『おのれ……!
 下っぱ神族がこざかしいマネを……!!』
『奴のエネルギーが大きすぎて
 四、五百年飛ばすのがせいいっぱいか……!』

 コンピューターのキーを叩くヒャクメは、もはやアシュタロスを見ていない。時間の設定に必死になるあまり、アシュタロスの周囲を取り巻いていた時空震動がその位置を変え始めたのにも、気付いていなかった。

「時空震が……!」
「……これじゃダメだわ!」

 時空震動は、ヒャクメに向かって移動している。
 これでは、アシュタロスではなくヒャクメ自身が未来へ飛ばされてしまう。
 それを悟った仲間たちが騒ぐが、これも、ヒャクメの耳には届いていなかった。
 しかし、この時。

 ギュン!!

『これは……また新たな……!?』

 もう一つ別の時空震動が出現。
 コマとコマとがぶつかり合うようにして、ヒャクメに向かっていた時空震動を弾き飛ばす。
 そして、この新しい時空震動に乗って時間移動してきたのは……。

『到着なのねー!』
「えっ!? ……これは!!」
「……お、グッドタイミングっスね!」

 ヒャクメのナビで平安時代へ戻ってきた、美神と横島だったのである。




    第十一話 帰ってきたヒャクメ!




(違うわ……。
 『グッドタイミング』なんかじゃない!
 早い、早いすぎるのよ……!)

 周囲を見渡した美神は、時間の誤差に気付いていた。
 確かに場所は、平安時代のあの森のようだ。
 メフィストも西郷もいるし、アシュタロスもいる。ここまではよい。
 だが、そのアシュタロスは、いまだに道真に束縛されていた。しかも、もう一組の美神・横島・ヒャクメもいるのだ。
 どう見ても、これは、美神たちが時間移動の行き先として予定していたところよりも早い時点だった。計画では、美神と横島が消えた直後へ戻るはずだったのだ。

「ちょっと、ヒャクメ!
 あんた、また……
 コントロールをミスったのね!?」
『わ、わ……。
 「また」じゃないのね!
 あなたたちのヒャクメじゃないから、
 私にとっては初めての失敗なのね!』

 一緒に来たヒャクメに詰め寄り、美神は、その胸ぐらをつかむ。
 横島がなだめようとするが、

「まあまあ、美神さん。
 いいじゃないっスか、
 このほうが味方もたくさんいて……」
「いいえ、よくないわ!」

 今度は横島が怒鳴られてしまう。

(私たちは……
 私たちの『逆行』イベントが
 発生する前に来てしまった!
 ……これで勝つにせよ負けるにせよ、
 私たちが経験してきた『歴史』は
 変わることになるのよ……)

 そう、美神たち――この物語の主人公である美神たち――は、別の美神たちとの共闘なんて経験していない。
 今ここで、新たな歴史の分岐が生じてしまったのだ。

(しかも……
 ここでアシュタロスを倒せば、
 『攻撃されたのをキッカケに逆行する』
 というイベントも消滅することになるわ。
 その場合、もしも時空に連続性があるなら……。
 『逆行』した私たちは、
 消えてしまうことになるかもしれない!)

 と心配する美神だが、そこまで横島は考えていないようだ。味方が増えて勝算アップということで単純に喜んでいるのだろう。
 彼は、笑顔で、もう一組の美神と横島――ただし意識は前世の高島のもの――が騒いでいるのを眺めていた。

「ちょっと……!
 何がどうなってるの!?
 ……説明しなさいよ!」
「まあ、待て。
 少し様子をみたほうがいい」

 一方、ヒャクメは、

『と、ともかく……。
 今は、やるべきことをやるのね!』

 美神の剣幕の矛先が横島に向いている隙に、彼女の手を振りほどいていた。そして、先に平安時代に来ていたヒャクメ――アシュタロスを未来へ飛ばそうとしていたヒャクメ――のもとへと駆け寄る。

『私も手伝うわ!』
『そ、そうね……。
 二人で力を合わせれば
 ……うまくいくのね!』

 二人並んでコンピューターのキーボードを叩くヒャクメたち。
 弾き飛ばされて消えかかっていた時空震のエネルギーが、二人がポイントを制御し直したことにより、再びアシュタロスへと向かっていく。

『これで今度こそ……』
『……アシュタロスを
 未来へ送り込めるわ!』

 ヒャクメたちは成功を確信する。だが、それは甘い考えであった。


___________
___________


 こうして、ようやく美神と横島は、物語のはじまりである平安時代へと戻ったわけだが……。
 ここで物語の焦点は、いったん未来へと移る。
 もう一人の主人公、『うっかりヒャクメ』の活躍を見届けねばならないからだ……。


___________
___________


 ボッ! ゴオオォオオォオ!!

 はるか上空で核ミサイルが爆発する。
 それと前後して起こった内部からの大爆発により、アシュタロスの巨塔も、瓦礫の山と化していた。

「ヒャクメ様ーッ!」
「生きてますかあ―ッ!?」

 少し離れたところへ退避していた仲間たちが、今、塔の残骸へと駆け寄っていく。

「いくらアシュタロスでも
 これじゃひとたまりもないわね。
 ……作戦終了だわ」
「それより、ヒャクメ様は?
 まさか……アシュタロスと相打ちに!?」

 美神の発言を聞いて心配するおキヌ。彼女の不安をやわらげるために、

「似てない銅像建てないといけないっスね。
 あん人はこんなカオじゃねー……なんちて」

 横島は、ワザと茶化すような言葉を口にしていた。

「ヒャクメ様は〜〜
 私たちの心の中に〜〜
 生きてるの〜〜!」
「そう、神さまなのだから、
 私たち民衆の信仰が続くかぎり……」

 と、冥子や唐巣も続く。
 その時、

『あ〜〜
 死ぬかと思ったのね……!』
『でも生きてるのね。
 勝手に殺さないで……!』

 ボコッと瓦礫を押しのけて、二人のヒャクメが這い出してきた。
 
「ヒャクメ様……!!」
「やっぱり生きてたワケ……!」
「みんなーっ!
 こっちにいたぞー!!」
「よかった……」

 仲間が走り寄って、二人を取り囲む。
 その喜びの輪から少し離れたところでは、

「……どこかで見たような場面じゃな?」
「ヒャクメ様は・
 大変なものを・盗んでいきました。
 あれは・横島さんのセリフです」

 カオスとマリアが感想を述べている。だが、ボケーッとしているようでいて、異変に一番先に気付いたのもカオスであった。

「……ん?
 この悪寒は……!!」


___________


 ガラッ。ガシャッ……。バギャッ!!

『フ……フフ……フヒヒ……!!
 フヒ……ヒヒヒヒヒ!!
 ヒャハハハハハハーッ!!』

 その執念が天を突き破ったのだろうか。
 今、アシュタロスが廃墟の中から立ち上がる。

『終わりだ……。
 俺はもう……これで終わりだ!!
 ヒャハハハハハ……!!』

 右のツノが欠け、顔も右半分が痛々しい様子のアシュタロス。

「な……なんてしぶとい奴……!!」
「しかしありゃもうボロボロだぜ!?」
「最強の悪役も
 あーなっちゃおしまいだね!」

 どうやら内部は外見以上に崩壊しているらしい。GSたちが見守る中、アシュタロスの体に小さなヒビ割れが生じて、まず右腕が崩れ落ちた。

「でも……たとえ弱ってても
 生半可な攻撃じゃ通用しないかも……」
『いいえ、その心配はありません』
『もう体を維持するエネルギーもないのね』

 美神が身構えるが、ヒャクメ二人が制止。
 続いて、アシュタロス自身がヒャクメの言葉を肯定する。

『そのとおり……この肉体はもう不用なのだ。
 だから……捨てるまでのこと!』

 正中線に大きな亀裂が走り、左右二つにわかたれて、アシュタロスは倒れ落ちた。
 それでも、左半身が言葉を続ける。

『私には……もうひとつ分身が……。
 究極の魔体……』
「究極の……?
 どっかできいたことあるよーな……。
 あっ!!」

 最初に理解したのは美神だった。
 前世の記憶の断片には、平安時代のアジトで見かけた怪物の姿もあったからだ。

『そ……そうだ……!
 エネルギー結晶はもともと……
 あれを作動させるため……
 だが……現状でもうすでに……』

 そして、ヒャクメたちも思いあたる。

『……もともとのプラン!?』
『それって……!!』

 対決の場においてアシュタロスの心を覗いたヒャクメたちは、コスモ・プロセッサ計画について知っていた。その計画の変遷として、究極の魔体に関する知識も手に入れていたのだ。

『もはや、我が野望は……』

 完全に消滅する間際。
 まだアシュタロスは何か語っていたが、すでに誰の耳にも届いていなかった。それ以上に大きな声で、ヒャクメが叫んでいたからである。

『大変なのねーっ!!』
『早く日本に戻らないと……
 アシュタロスの分身が大暴れなのね!』


___________


『……というわけなのね』

 究極の魔体についてザッと説明するヒャクメたち。
 アシュタロスの本体が消滅したことで妨害霊波も弱まり、彼女たちの力も回復してきた。二人分の神気を合わせなくても遠視くらいは出来るようになり、既に、究極の魔体の出現地点も把握している。

『場所は……』
『東京湾南々東千百キロ、
 小笠原諸島「嫁姑島」……!』

 二人の女神の言葉を聞いて、唐巣が顔をしかめる。

「遠いな……」
「六道君のシンダラで運ぶとしても
 ……全員は無理だな」

 西条も考え込むが、その肩を美神がポンと叩いた。

「少数精鋭でいいじゃない」
「そうさ!
 わざわざ運んでもらわなくても、
 スピードとパワーを兼ね備えた
 俺たちがいるだろ……!?」

 美神に賛同する雪之丞。
 彼の表情を見て、西条にも、美神の考えが理解できた。

「……魔鈴君!」
「はい!」

 西条が呼びかけると同時に、魔鈴が箱を差し出す。中に入っている文珠は三つ。

「横島クンは……!?」
「……これだけっスね」

 美神の言葉に謙虚に応えた横島だが、それは謙遜にしか聞こえなかった。彼の手の中では、五つもの文珠が輝いていたのだ。

「全部で八個……
 ちょうどいいわね。
 それじゃ行きましょう!
 これが……ファイナル・バトルよ!!」
「おおーっ!!」

 美神の号令のもと、四体の合体戦士が、冷たい空へと飛び立つ!


___________


「あれが奴の分身!?
 ほとんど怪獣じゃねーか!!」

 全速力で飛行する戦士たちは、今、究極の魔体を目視できる位置まで到達していた。

「海を進むバケモノ……大海獣ですね」

 雪之丞の中にいるピートが、横島と同様の感想をもらす。

「まさに『決戦、大海獣』ってワケね」
「ちょうどいい!
 それなら、こっちは
 四大ヒーロー夢の競演だ。
 信じられるかこのパワー
 ……って言いたいくらいだぜ」
「それって〜〜なんのネタ〜〜?
 冥子、よくわかんない〜〜」
「エミも雪之丞も冥子も!
 バカなこと言ってないで……
 目の前の敵に集中しなさい!」

 軽口を交わし合う一同を美神がたしなめる。だが、彼女の表情には、言葉ほどの厳格さは表れていなかった。彼女自身、南極でアシュタロスと対面した時ほどの畏怖は、もはや感じていなかったのである。

『分身というより……もともと
 本体にするつもりで造ってたのね』
『でも千年前の事件をきっかけに、
 コスモ・プロセッサに乗りかえたの』
『あれが完全なら神・魔族の
 誰も対抗できない火力を持ってるはず……!』
『結晶がないから
 予備エネルギーで動いてる状態だけど……。
 それでも、最低でも二、三日くらいは動きそうね』

 合体ヒャクメが、究極の魔体を解説する。まずは脅威のメカニズムを語ってみせたが、それで終わりではなかった。

『だけど……パワーだけなのね。
 殺戮本能のみを残して、すべてを
 破壊エネルギーにしてるから……』
『はっきり言って……バカなのね!』

 断言するヒャクメ。
 実際、彼らの目の前で魔体が主砲を発射しているが、地球の丸みを計算に入れていないため、ビームは明後日の方向に進んでいた。

『しかも……
 これだけ近付けば、
 弱点も丸見えなのね!』
『主神クラスとの戦闘を想定したバリア。
 ……でも腰の後ろに穴があるわ!』
『そこから接近して
 大砲のつけ根を攻撃すれば……』
『エネルギーを通すパイプがあるから
 ……大打撃なのね!』

 なにしろ『見る』力に優れた合体ヒャクメがいるのである。
 究極の魔体の全てが、ヒャクメには御見通しだった。

「でかしたわ、ヒャクメ!」
「さすが〜〜神さまね〜〜」
「……うっかりキャラを
 返上するくらいの活躍なワケ」

 女性陣がヒャクメを賞賛し、

「ヒャクメ様の言った場所を、
 狙いをつけて集中攻撃です!」
「いくぞ……!
 デクノボーめ!!」
「弱点さえわかれば
 バカのおまえなんか
 おしまいなんだよ!!」

 男性陣の士気が上がる。

『さあ、みんな!』
『せーのっ!!』
 
 バアッ!! ズドドドォッ!!

 ヒャクメの指示に従い、一斉に攻撃する合体戦士たち。
 そして……。

『ガ、ァアアッ!!』

 断末魔の叫び声と共に。

 ズムッ……ザザザァアッ!

 究極の魔体が爆発四散。
 暗い海に沈んでいく。
 魔神アシュタロスの最期であった。


___________


 それから数日後。

『こんなところにいたのねー!』

 事務所の屋根裏部屋に、ヒャクメ――『うっかりヒャクメ』の方――が上がってきた。
 彼女が声をかけた相手は、

「べ、別に……
 ちちくりあってたわけじゃないからな!」
「もう、横島さんったら!」

 横島とおキヌの二人である。
 彼は小さな動揺を見せており、彼女は少し赤くなっていた。それ以上追求される前に、横島が逆にヒャクメに問いかける。

「おまえこそ……
 遊んでいていいのか!?」

 アシュタロスが滅び、世界は平和になった。しかし、戦後の事務処理は残っている。今日も階下には小竜姫やワルキューレたちが集まり、美神と小会議を開いているはずだった。

『私は……言わば
 歴史に招かれたゲストなのね!
 だから会議に参加する必要もないわ』

 確かに彼女は、この時代の本来のヒャクメではない。だからレポート作成などは『しっかりヒャクメ』に押しつけ、自分は好き勝手に振る舞っているのだった。

『それに……
 遊びに来たわけじゃないのね。
 二人にメッセージを持ってきたのよ』

 と言うが、これも口実。実際には、好奇心の赴くまま、ここへ来たのである。
 小竜姫たちの会議では今頃、なぜアシュタロスがあのような戦いを引き起こしたのか、それについて考察しているはずだった。その点に関心がないわけではないが、今の『うっかりヒャクメ』にとっては、横島とおキヌの関係の方が興味深い。
 だから屋根裏部屋を選択した『うっかりヒャクメ』。このせいで彼女は、『魂の牢獄』のシステムも知らないままになってしまった。だが、これが彼女の今後の運命にどんな影響を及ぼすのか、まだ誰も知らなかった……。


___________


「……え?
 それじゃ……あのコたち、
 ここには来ないんですか?」

 ヒャクメがもたらした情報は、おキヌを少し驚かせた。
 その内容は、ルシオラ・ベスパ・パピリオの処遇である。
 三姉妹は、監視ウイルスを組み込まれたせいで、半強制的にアシュタロスに加担させられていただけなのだ。しかも、消滅の危険があったにも関わらず、事件解決にあたって大きく貢献した。すでに自滅機能も取り除かれ、もはや危険視する必要もない。
 ……それがオカルトGメンの公式見解であり、彼女たちの身柄は、保護観察処分と決まっていた。ただし、問題が起こった場合のことを考えると、とてもオカルトGメンでは面倒を見きれない。
 そこで、美神の事務所に引き取られる方向で話が進んでいたのだ。
 美神と横島ならば、もしもの場合にも対等に戦えるからである。
 残念ながらエミと冥子あるいは雪之丞とピートの合体ではパワー不足であった。また、他のコンビはすぐに合体できるとは限らないが、同じ事務所で働く美神と横島は、その点でも心配されていなかった。
 しかし、

『……やっぱり人間に任せるより、
 神魔でなんとかするべきなのね』

 人間たちの決定は、神と悪魔によって覆されてしまったようだ。
 
『パピリオは妙神山預かり。
 ベスパとルシオラは
 魔界へ行くことになるわ』

 パピリオは小竜姫の弟子になり、ベスパは魔族の軍隊に入り、ルシオラは魔族正規軍の調査官――神族でいうところのヒャクメの役職――になる。
 それが、神魔上層部の決定だった。

「せっかく、おそうじしたのに……」

 おキヌは、屋根裏部屋を見渡す。
 ここで三姉妹が生活することを想定して、横島と二人で、色々と片づけていたのだ。本当に、隠れてイチャイチャしていたわけではないのである。

「でも……私たちと暮らすよりも、
 そのほうが三人にとっては
 幸せかもしれないですね」

 そう思って、微笑むおキヌ。
 彼女の隣では、横島がヒャクメをからかっていた。

「なあ、ヒャクメ。
 今は……デタントとか言って、
 神さまと悪魔が仲良しな時代なんだろ?
 そんじゃ……調査官も
 そんなにいらねーんじゃねーか?
 ルシオラが優秀な調査官になったら、
 うっかりだらけのヒャクメなんて、
 お払い箱に……」
『関係ないのね。
 私は私の時代に戻るから!
 ……そういうことは
 「しっかりヒャクメ」に言ってあげてね!』

 と『うっかりヒャクメ』が返した時、ちょうど『しっかりヒャクメ』が階段を上がってきた。

『みんな、外に集合なのね。
 ……さよならの時間だから!』


___________


『……断っておきますが、
 この時間移動は神魔族最上層部の
 特別許可のもと行われます!
 本当なら、これ以上の時空の混乱は
 もう絶対に避けたいんです。
 今回の事件での功績を特に認めての
 最後の時間移動ですからね!?』

 神魔の代表として宣言する小竜姫。
 その後ろに、ワルキューレ、ジークフリード、ヒャクメ――『しっかりヒャクメ』――が並んでいる。
 そして、小竜姫の話を神妙な面持ちで聞いているのは、美神美智恵とヒャクメ――『うっかりヒャクメ』――であった。
 二人は、これから過去へと帰還するのだ。二人の旅立ちを見送るため、美神・西条・横島・おキヌの四人も、ここに集まっていた。
 横島とおキヌの二人は、自然に手をつないでいる。美神はそれにチラッと目をやったが、敢えて何も言わず、表情も変えないようにしていた。

「……ご心配なく!
 過去に戻った私は、関係者との……」
『まずは私なのねー!』

 小竜姫に対して美智恵が何か言いかけたが、それを『うっかりヒャクメ』が遮ってしまう。
 彼女は、コンピューターのコードを美智恵の頭に取り付け、吸い取った時間移動能力で手際よく準備を済ませていた。

『それじゃ……私は平安時代へ戻るのね!
 大丈夫、ここでの経験を活かせば
 アシュタロスなんて、イ・チ・コ・ロ・よ!』

 魔女のように可愛らしくウインクしてみせるヒャクメ。
 だが、そんなものでは誰も誤摩化されなかった。小竜姫が、ヒャクメのカン違いをシッカリ指摘する。

『なに言ってるんですか!
 「戻る」は……
 そう意味じゃないでしょう!?
 平安時代じゃなくて、
 もともとの時代へ帰ってください!』
『え〜〜。
 小竜姫ったら、言うのが遅いのね。
 もうセットしちゃったから、
 今さら言われても……』
『ちゃんと説明したじゃないですか!
 「最後の時間移動」って……』

 小竜姫が文句を言うが、時すでに遅し。
 『うっかりヒャクメ』は、時空の彼方へ消えていった。


___________
___________


 ……そして物語は、再び平安時代へと戻る。

『えっ、これは……』
『……新たな時空震動を感知!?』

 アシュタロスを未来へ送り込もうと躍起になっていたヒャクメ二人が、その異変を感知した。

『まずいわ、いそがないと……』
『……邪魔が入るのね!』

 慌てる二人。
 それでも、必要なパラメーターをなんとか全て入力することが出来た。
 急いで、最後の決定的なキーを叩く。
 しかし、わずかに遅かった。

 ヴンッ!!

 三たび出現した時空震動が衝突し、アシュタロスを取り巻いていた時空エネルギーが、コンピューターを制御する二人の方へ跳ね返ってきていたのだ。

『あ〜れ〜』
『さようならなのね……』

 アシュタロスではなく。
 ヒャクメ二人が、未来へ飛ばされていく。

「ちょっと、ヒャクメ!?
 何やってるのよ……」
「おいおい、またかよ……」

 美神と横島が溜め息をつく。
 そして、こうして二人のヒャクメが時の彼方に消えてしまった直後。
 新たな時空震動により運ばれてきた者が、その姿を現した。
 それは……。

『遠く離れた未来から一人。
 アシュタロス退治に使命をかけて、
 轟く叫びを耳にして、
 平安時代よ私は帰ってきた……なのね!』

 われらが主人公、『うっかりヒャクメ』だった。


___________


『あれ……?
 私……何かまずいことしたかしら?』

 独特な空気を敏感に察知し、周囲を見渡すヒャクメ。
 まず、アシュタロスがいる。まだ道真に束縛されており、その意味では、かつて彼女自身が未来へ消えた時と同じ状況だ(第一話参照)。あの時もアシュタロスにバカにされたが、今も、彼は蔑んだような視線をヒャクメに向けていた。
 一方、仲間たちの数は微妙に違う。メフィストと西郷がいるのは同様だが、なぜか、美神と横島は二人ずついるのだ。そして、彼ら六人の顔には、唖然とした表情が浮かんでいた。
 そんな中、
 
「『帰ってきた』……?
 ……ということは、
 あんた、もしかして……!?」

 一人の美神の顔色が変わった。彼女は、何かに気付いたらしい。
 その心中を覗いてみるヒャクメ。

『……えっ!?』

 彼女は悟った。
 ヒャクメが消えた後、残された美神と横島に何が起こったのか。
 そして彼らが戻ってきたことで、何が起ころうとしていたのか。
 そこに自分が来たことで、それがどうなってしまったのか。

『ああっ、もう!
 やっぱり私は……うっかりヒャクメ!?』

 さすがに責任を感じて、頭を抱え込んでしまうヒャクメ。
 そんな彼女に向かって、

『そうなのね!
 ……でも大丈夫!
 あなたがいれば……私がいるわ!』

 聞き覚えのある声が、空から降ってきた。

「鳥か……?」
「飛行機か……?」
「いや……」

 ヒャクメや人間たちばかりでなく、アシュタロスまでもが、夜空を見上げる。

『ほほう、あれは……』

 月をバックに浮かぶ、二つのシルエット。
 かげろうのように滲むこともなく、逆光ではあるが、姿形はハッキリしていた。
 それは、二つとも全く同じ姿。
 しかも、地上の一人とも同じ姿。

「えっ……!?」
「またまた……ヒャクメ!?」

 そう。
 さらに二人のヒャクメが、こちらへ向かって飛んで来るところだったのだ!



(第十二話に続く)
  
 皆様、こんにちは。
 この物語には、いったい何人のヒャクメ様が出てくるのでしょうか(笑)。文珠の数をキチンとカウントしておかないと混乱する二次創作作品は結構あるかもしれませんが、ヒャクメ様の数をキチンとカウントしておかないといけない作品は、なかなか珍しいだろうと自負しております(笑)。
 さて、美神や横島が『逆行』した時代と、ヒャクメ様が辿り着いた時代。二つの時代を並行して書いてきた物語でしたが、ようやく、二組の主人公が合流しました。
 話の焦点がアッチへ行ったりコッチへ来たり、ある意味、ややっこしかったかもしれませんが、そんな物語をここまで読んでくださった皆様に感謝しています。
 物語が一点に収束し、しかもそれが最初の『平安時代』だということで、そろそろ物語全体の落としどころも、予想がついてしまうかもしれませんが……。
 もしも感想でズバリ予想されてしまっても、今さら方針は変えられません(笑)。次話の原稿の第一稿は既に書き上がっており、最終話の第一稿も書き始めています。残り二回、よろしくお願いします。

 
 なお、一応、前話までのリンクをはっておきます;

 第一話 もうひとりのヒャクメ!
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10166

 第二話 うっかりヒャクメ襲名!
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10176

 第三話 おキヌの選択(その一)
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10182

 第四話 指揮官就任
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10190

 第五話 二人で除霊を
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10193

 第六話 うっかり王、誕生!
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10196

 第七話 おキヌの選択(その二)
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10204

 第八話 西条のプラン
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10205

 第九話 妙神山へ! 南極へ!
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10239

 第十話 けっきょく南極大決戦
 http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10244

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]