トントントン。
「ん……。
もうそんな時間か」
横島は、台所からの音で目を覚ました。
みそ汁の具を刻んでいるのだろう。包丁がまな板を叩く小気味よい音が聞こえてきたのだ。
『あ。
ごめんなさい。
起しちゃいました……?』
料理の手を止めて、おキヌが横島を振り返る。
台所と言っても、ガラス戸で仕切られただけのキッチンスペースだ。横島の布団からも、たいして離れていなかった。
「いや、気にしないでいいよ。
そろそろ起きる時間だから。
それより……。
いつもありがとう、おキヌちゃん」
『どういたしまして。
えへへ……』
ずっと山に籠って幽霊をしていたから、おキヌは、人から『ありがとう』と言われる機会もなかったのだ。だから、何気ない一言も嬉しく感じるのだろう。
少し照れたように笑うおキヌを見ながら、横島は、そんなことを考えていた。
『……もう少し待っててくださいね』
と言って、おキヌは朝食の準備に戻る。
台所に浮かぶ――『立つ』ではなく『浮かぶ』――彼女の後ろ姿は、まるで、夫のために頑張る新妻のようにも見えた。
(いーコだよな、おキヌちゃん。
……やさしいし、かわいいし)
こんな感じで幽霊おキヌに起こされるのが、横島の最近の日課であった。
おキヌは、『もとの時代』では美神除霊事務所に寝泊まりしていたが、『この時代』では、横島のアパートで夜を過ごすようになっていたのだ。
もちろん、結婚前の若い男女が一つ屋根の下で暮らすのは良いことではない。しかし、おキヌは幽霊である。さすがに間違いも起こらないだろうということで、美神も、この状態を認めていた。
『できました〜〜!』
横島がボーッとおキヌを眺めている間に、料理は完成。それをおキヌが四角いちゃぶ台へと運んでくる。
「いただきまーす」
美味しそうに食事する横島。見ているだけのおキヌも幸せそうだ。
(おキヌちゃんは……すごいよな。
幽霊だから自分は食べられないのに
それでも料理上手だもんな)
メシをかき込みながら、横島は、自分は果報者だと感じていた。
こうして四六時中おキヌと一緒にいると、一人になる時間が――ひとりじゃないと出来ないことをする時間が――ほとんどない。その点を少し不便に思う時もあるが、文句を言うのは贅沢であろう。
(いずれ、おキヌちゃんは……)
横島は、ふと『もとの時代』のことを思い出してしまった。
それは、おキヌが人間として蘇り、美神や横島たちの記憶をなくし、彼らの前から去ってしまった世界。そして『この時代』でも、死津喪比女を倒した後に訪れる事態なのだ。
『どうしたんですか?
……おいしくなかったですか?』
おキヌが、横島の顔を心配そうに覗き込む。彼の顔色が少し変化していたようだ。
「いや、今日もおいしいよ。
……ありがとう」
横島は、頭の中の様々な想いを振り払い、笑ってみせた。
この先に何が待っていようと、今はただ、今の幸せに浸っていよう。
そう決心したからこそ浮かぶ、本心からの笑顔。
そんな横島の表情を見て、おキヌもホッとしたらしい。
『よかった……!
私……味見できないから心配なんです。
でも、横島さんの顔を見ると安心しちゃいます!』
「……え?」
『だって、嘘がつけない人ですからね。
……横島さんって!』
ニコッと微笑むおキヌは、まるで生きているかのように、キラキラと輝いているのだった。
第五話 二人で除霊を(Partners in GS)
「またっスか……?」
「そうよ。
なにか文句ある?」
執務デスクの上に長い脚を投げ出し、美神が不機嫌そうに応じる。
今、彼女は、おキヌを連れて事務所へやってきた横島に対して、今日の仕事を命じたところだった。
「いや、いいんスけど……」
『私は嬉しいです。
今日も……いっしょーけんめー働きます!』
一歩引いたような態度をとる横島とは対照的に、おキヌは天真爛漫な笑顔を見せている。
(そうよ、それでいいのよ。
だから横島クンも……
おキヌちゃんみたいに素直に喜べばいいのに)
最近、美神は、横島とおキヌを二人だけで除霊に向かわせることが多くなっていた。
おキヌを御呂地の山から切り離してしまった以上、なるべく早く死津喪比女を倒す必要がある。その準備のために美神は駆けずり回っており、一般の除霊仕事に割く時間はなかなか作れない。だから二人を仕事に差し向けるわけであり、別に変に気を利かせているつもりはなかった。
(死津喪比女をやっつけたら……また
おキヌちゃんとはお別れなんだから)
それが分かっているだけに、美神は、少し気持ちが沈み込んでしまう。おキヌと横島の二人が、あまりにも仲良さそうだから、その気持ちは余計に強くなるのだ。
これが不機嫌オーラとして滲み出ているのであり、決して二人の仲に嫉妬しているわけではない。美神は、自分では、そう思っていた。
___________
『うふふ……』
おキヌは、横島と手をつないで、二人で並んで歩いていた。
横島の部屋や美神の事務所ではプカプカと浮いていることが多いおキヌだが、外を出歩くときは、足の先を地面につけるようにしている。
横島や美神から、そうするように言われているからだ。
彼らがおキヌを蘇らせようと手を尽くしていることは、おキヌも分かっている。『歩く』という習慣を身につけるのも、人間として復活した後のためなのだと理解していた。
(本当は……浮かんでる方がラクなんですけどね)
と思いながら、おキヌは、横島に笑顔を向ける。
横島には、突然微笑みかけられた理由など分からなかった。だが、美少女のニコニコした顔を見て悪い気がする男などいない。ただ、握っている手を妙に意識してしまうのが、ちょっとした弊害であった。
(違うんや、これは。
おキヌちゃんは……『お父さん』って言ってたもんな)
これは、あくまでも、家族同士のスキンシップなのだ。
親戚の小さい子供と手をつなぐのと同じ。
横島は自分にそう言い聞かせるのだが、おキヌは親戚でもなければ年の離れた子供でもない。幽霊ではあるが、血のつながりもない女のコであり、年も一年くらいしか違わないのだ。また、忘れるように努力はしているが、アクシデントで生チチを見てしまったこともある。
なかなかうまく割り切れない横島であった。
そんな彼の心中も知らず、おキヌは、無邪気に話しかける。
『横島さんって……すごい人ですよね』
「……え?」
『お仕事に行くと、いつも大活躍ですから!』
これまでの除霊仕事のことを言っているのだろう。
(そりゃあ……俺たち、ズルをしてるようなもんだからな)
苦笑しながら、横島も、今日までの出来事を回想し始めた……。
___________
例えば、オフィスビルの除霊仕事。
『もとの時代』では、美神を含めて三人で出向いた仕事だったが、それでもピンチに陥った。敵は凶暴な悪霊であり、まだ妙神山にも行っていない美神では、パワー負けしてしまったのだ。
しかし、『この時代』では違う。逆行前よりパワーダウンしているとはいえ、それでも美神は強い。そして、美神だけではなく、横島だって普通のGS以上の力を持っている。
だから、美神抜きでも十分だった。
『うわっ!
なんですか、それは?』
「ハンズ・オブ・グローリー……。
俺のこの手が真っ赤に燃えて、
勝利を掴み始めた証さ!」
『言葉の意味はよくわかりませんが
……なんだか凄いですぅ〜〜!』
逆行前とは違って文珠は使えないのだが、それでも、栄光の手がなんとか出せる(第一話参照)ということは、香港でメドーサたちと戦った頃くらいのレベルはあるのだ。
『けけけっ……
けけけけけけけっ』
『横島さん!
出ました、悪霊さんです!』
「心配しなくていいよ、おキヌちゃん」
名もなく地位なく姿もハッキリしない悪霊など、横島の敵ではなかった。
彼は、悪霊に対してキッとした目付きを向ける。
「おまえに関してわかっているのは……
株に失敗して全財産をすって半狂乱になり、
このビルのこの部屋からとびおりて病院に収容後、
3時間12分後に死んだということのみ!」
『ひ、ひとめ見ただけで……そこまでっ!?』
「かわいそうだとは思うが
……悪さすんのもいーかげんにしろ!」
『けーっ!?
……け……け……』
悪霊は、横島が霊波刀を一振りしただけで、何も残さずに消滅してしまう。
ポーズを決めた横島の後ろでは、
『すご〜〜い!』
初めて見る彼の勇姿に感激したおキヌが、パチパチと手を叩いていた。
___________
また、女子高のワイセツ幽霊事件も、二人だけであっけなく片付けた。
「うわ〜〜っ!?
何をするんじゃーっ!」
『いいんですか、横島さん?
このひと、ここのえらい人なのでは……』
理事長から事件の話を聞いた横島は、サッサと校長の身柄を確保。スマキにして女子更衣室へと運んだのだ。
「いいんだよ、おキヌちゃん。
この校長が、事件の元凶なんだから」
のぞき、下着ドロ、痴漢行為などを繰り返す幽霊。
その核となっているのは、かつて校長が井戸に対して吐き捨てた情念である。若さ故のほとばしりが霊的な力を得て、潜在意識の怪物となったのだ。
そんな説明をしながら、横島は、校長の口をハンカチでしばる。うるさいから黙らせたいのだが、殴って気絶させるというわけにもいかないからだった。
『……あ、わかりました!』
横島の話を聞いて、納得した顔になるおキヌ。
『緑色の偉い人が神さまになるときに
捨て去った分身が大魔王になるんですよね。
……あれとおんなじですね?』
「……は?」
『てれびで勉強しました!』
「ちょっと違うけど……
ま、そんなようなもんだな」
そして、女子更衣室の前に着いたところで、
「あ、そうだ。
これを忘れたら大変だ」
横島は、一枚のおふだを校長の額に貼った。
『もとの時代』では、美神の呪文で幽霊を校長の中に戻そうとしたが、今回は美神抜きのため、同じ効能のおふだを用意しておいたのだった。霊能力者としての戦闘レベルは低くはないが、それでも横島では、美神のように言霊をうまく扱えないからだ。
「少し待っていれば、そのうちに……」
と横島がつぶやいた時。
「キャーッ!」
「チカンーッ!」
中から悲鳴が聞こえてきた。
ワイセツ幽霊が現れたのだ。
(『もとの時代』と同じだな。
場所もタイミングも……!)
ガラリと更衣室を開ける横島。
除霊仕事という名目があるため、なんの気兼ねも遠慮も必要なかった!
(おおっ!)
すでに体操服に着替え終わった少女もいる。それでも、下はブルマなので、健康的なフトモモはバッチリだ。
もちろん、着替え途中の女子高生たちもたくさんいた。
上はブラジャーで下はスカートという少女。それは、まるでストリップの途中経過だ。あるいは、上はブラだけだが下はブルマという者もいる。また、ブラジャーとパンティーのみという露出度満点の女のコも存在していた。
しかし、こうした光景を長々と堪能しているわけにはいかない。
『ちち……しり……
ふともも……!!』
この幽霊を始末することが目的なのだ。
パラダイスを一瞬にして網膜に焼き付けて、横島は、仕事に取りかかる。
「ほら!
校長も……楽しんでください」
と言って、女子高生の集団の真ん中へ、校長を放り投げたのだ。
『これが……今回のおしごとなんですか?』
「まあ、見てなって」
不思議そうなおキヌと、余裕顔の横島が見守る中。
「キャーッ!」
「今度はエロジジイよーっ!」
グルグル巻きで身動き取れない校長は、女子高生に弾き飛ばされ、そして別の女子高生に再び投げ飛ばされ……。
半裸の若い少女の間を、ボールのように行き来する。校長にとっては、目に入ってくる景色も刺激的だったが、体のあちこちが女子高生の生肌に触れることは、それ以上だった。
(な……なんじゃ、この感覚は……!?
忘れていた何かを思い出しそうな……!!)
こうして、校長は再び、若い女に『感じる』ようになり、ワイセツ幽霊も彼の中へと戻り消えたのだった。
そして、ひと仕事終えた横島は、
「ま……ひとごとじゃないからな」
クルッと振り返って、更衣室をあとにした。
井戸へ直行して、そこで、発散できない想いを吐き出す。
「ちちしりふともも〜〜っ!
ちょっとくらい意識したって
仕方ねーじゃねーかよー……。
俺は若いオトコなんだーっ!!」
おキヌに『お父さん』扱いされてきた横島は、嬉しいと思う反面、悶々としてしまう気持ちも持っていたのだ。
『……なにしてるんです?』
少し遅れて、おキヌがやってくる。井戸に顔を突っ込んで叫ぶ横島を見て、小首を傾げていた。
「なんでもないよ。
おキヌちゃんも
人間になったらわかるさ」
『……?』
「さ、帰ろうか」
『……はい!』
二人は、事務所への帰路につく。
来た時と同様、仲良く手をつないだ状態で。
___________
時には、『もとの時代』と同じく、美神を交えて三人で行く仕事もあった。
銀行から強盗未遂幽霊を祓うように頼まれた際には、『もとの時代』同様、防犯訓練を利用したのだ。
訓練中の強盗役で獲得した分がギャラとなるという、例のシステムである。車を運転する必要があるので、美神も参加したのだった。
「わざわざ大騒ぎせんでも……。
普通に成仏させてもいいんじゃないッスか?」
「なに言ってんの。
全員が納得するんだから、これでいいのよ。
それに……結果だってわかってるでしょ?」
強盗幽霊たちは、やはり逃亡中に成仏。美神たちは捕まってしまったが、銀行側の注意をひきつけているうちに、おキヌがオンラインの不正操作を成功させていた。
「おキヌちゃんも、これで
コンピューター操作を覚えられたわね」
『はい。
ありがとうございます』
美神とおキヌの会話を聞きながら、
(……大金が手に入る道を選んだだけだよな?)
と思う横島であった。
また、国営放送の通信衛星に取り憑いたグレムリン退治も、『もとの時代』と同じく、三人で実行した。地上待機をする者が必要だったからだ。
「いやだあああっ!
今度こそ行かないっ!!」
「大丈夫だって!
往生ぎわが悪いわねっ!!」
どんな無茶をさせられるか知っている横島は、必死になって拒んだが、
「そんなことより、わかってるわね?
今度は妖怪の赤ちゃん連れてきちゃダメよ。
成功させれば、あんただって英雄になれるんだから。
……リポーターの女のコたちに
カッコいいところ見せたいでしょ?」
と丸め込まれ、結局、宇宙へ行く羽目になってしまう。
問題のグレムリンは、今回も、おキヌのきれいな歌声で撃退したのだが、
『横島さん、見てください。
タマゴがありますよ!』
「ああ、おキヌちゃん!?
それに近寄っちゃダメだーッ!!」
結局、『もとの時代』と同じ結果に終わったのだった。
なお、美神は、モガちゃん人形の失踪事件にも出向いた。自分の人形が元凶であると分かっているだけに、横島には任せられなかったようだ。
そして、海辺のホテルに出現した半魚人の一件も、三人で出かけた。リゾート地で一休みするという意味だけでなく、横島と人魚のコンタクトを繰り返さないためだったのかもしれない。
___________
「……こうして考えてみると、
三人での仕事のほうが多いんだな」
『横島さんと二人で行くのも、
美神さんも一緒に三人で行くのも、
どっちも楽しいでーす!』
これまでの事件について語り合っていた二人は、いつのまにか駅前まで来ていた。
今日の仕事先は少し遠いので、電車に乗らないといけない。
「それじゃあ、おキヌちゃん。
いつものように……」
『は〜い』
改札をくぐるときだけは、幽霊の本領発揮で、おキヌは姿を消すことになっていた。
仕事のための交通費はキチンと支給されているのだが、
「小銭をケチるつもりはないけど……でも
払う必要がないもんを払うのはバカらしいわよね」
という美神の言葉に横島が賛成。おキヌも『そういうものなんだ』と反対せず、このようなシステムになったのだ。
『えへへ……』
今、駅のホームの適当なところで、おキヌは再び姿を現した。
近くには、巫女姿の少女が突然出現したために驚く者もいるようだが、彼らとて大騒ぎするわけではない。
(昔の俺だったら……どんな反応するかな?)
周囲の様子を見て、横島は、ふと考えてしまう。
今でこそGS事務所でバイトしているが、かつての横島は、霊能とは無縁の一般人だったのだ。
(ま、どんなふうに出てこようが気にしないだろう。
それよりも……美少女だってことが重要だもんな)
と結論づける横島。
超常現象も当たり前の世界だからこそ、GSが良い商売になるのだ。
___________
空にはカモメが飛んでいた。潮の匂いもする。
しかし……。
近くにはゴチャゴチャとビルが立ち並び、岸壁も殺風景なコンクリートで固められていた。海面にも油が浮かんでいる。
風光明媚という言葉とは、ほど遠い状況であった。
『ここも……海なんですか?
前に行ったところとは
かなり雰囲気が違いますね……』
「ははは……。
この間のところはリゾート地。
でも、ここは東京湾だからな」
二人がやって来たのは、横浜にある港の一つ。
以前の仕事で海水浴場を経験したおキヌだが、都会の海は初めてであった。
「泳いで遊ぶような場所でもないし……
サッサと終わらせて帰ろう」
今日の仕事は、幽霊船狩りである。
毎年八月に行われる、海上保安庁の恒例行事。その仕事が、美神除霊事務所に回ってきたのだった。
『あれに乗り込むんですね?』
「いや、そうじゃない。
そんなことをしても沈められるだけだから……」
二人の目の前には、今日のために用意された巡視艇が停泊しているのだが、横島は、そちらには向かわない。代わりに、海上保安庁の担当官らしき者のところへ行き、事情を説明する。
「……というわけで船はいらないっス。
俺には式神もいますから」
「まあ……
そちらがそうおっしゃるのでしたら……」
横島は、仕事の前面に出るには、やはり若すぎるのだ。
最初は担当官にも話を聞き入れてもらえなかったが、美神に教えられた通りに語るうちに、なんとか説得できたようだ。
美神の入れ知恵に従って、おキヌを『式神』として紹介したのも、横島に箔をつける効果があったのかもしれない。
「それじゃ……行こうか」
『はい!
今日も横島さんの活躍が見られるんですね』
振り返った横島に、おキヌは笑顔で対応する。
だが、横島は、いたずらっぽく笑うのであった。
「いや……今日は俺じゃなくて
おキヌちゃんに活躍してもらうんだ」
『……私が?』
「そうさ!」
横島は、キョトンとするおキヌの肩をポンと叩いた。
___________
『おキヌ、いきま〜す!』
威勢のいい掛け声とともに、おキヌが空へと飛び立つ。
彼女の両腕は、今、横島の胸の前に回されていた。後ろから抱きかかえる形で彼を運んでいるのだ。
(頼むから落とさないでくれよ、おキヌちゃん)
少し心配になる横島。
しかし、これが今回の戦略であった。幽霊おキヌが空を飛べることを活かして、彼女を輸送用ユニットとして利用するのである。
(美神さんがたてたプランだから……大丈夫だよな?)
今日の相手は幽霊潜水艦だ。『もとの時代』では海上保安庁の船で立ち向かったが、巡視艇は沈められてしまった。その後で、幽霊潜水艦と因縁のある老人のボートに同乗して、敵と戦うことになる。
それが分かっているだけに、用意された船は避けたのであった。
(まあ……あのジイサンのところへ行くまでだしな)
振り返って見上げると、おキヌが真剣な表情をしているのが目に入る。大役を果たそうと頑張っているのだ。
そんな彼女を見ていると、横島も、安心して身を任せようという気持ちになるのだった。
___________
___________
そして……。
『逆行』した美神と横島が奮闘している時代よりも、少し未来。
ヒャクメが二人となった時代では、その活躍が、今ようやく始まろうとしていた。
『見える! 見えるのねーっ!』
霊動実験室に、嬉しそうなヒャクメの声が響き渡る。
『サイコメトリックぅう……メガトンパーンチ!』
(第六話に続く)
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