3080

ぼーるぱーく・らぷそでぃ(その4・最終話)

「すまねぇ、横島……後は任せる」
 横島を中心にマウンドに集まった内野陣―― 横島と交代でショートの守備位置に就く雪之丞の口調は悔しさと申し訳なさに満ちている。
「なぁに、気にすんなよ」対照的に、楽観した声音で横島は応じた。「美神さんが言ってたからな……『こっからは出し惜しみなしで行け』ってな」
「だ、出し惜しみなしって……」
 のんびりとひと伸び伸びを打ち、自信に満ちた口調で言い放つ横島の言葉―― そして、横島の自信の大元となるお墨付きを与えた美神の言葉に、ファーストを守るおキヌは冷汗混じりの一言を発する。
 ―― ただではすまない。
 美神、そして横島の二人と最も深く、濃密なつながりを持っているおキヌだからこそ感じることの出来る不安であった。

 そして、その不安を具現化するように、横島が『ワンちゃん』に投じた初球は、一切の覇気を感じさせない棒球―― 『さぁ、打ってくれ』と言わんばかりの絶好のホームランボール。
 本来ならば出来る限り球筋を見、タイミングを計るバッティングスタイルである『ワンちゃん』とはいえ、この“ご馳走”を見逃すことなど出来ない。
 スイングは確実に絶好球を捉え、逆転のスリーランホームランが、ライトスタンド上段に弾む。
 だが、逆転に沸き、歓声を上げるジャイアンズファンも、続く『チョーさん』の打棒による更なる得点への期待に意気揚がるジャイアンズベンチも気付かなかった。

 これこそが、この試合をそれまでの“超人野球”の域すらも逸脱させる狼煙となったのだ、ということに――。


 【ぼーるぱーく・らぷそでぃ(その4)】


 一塁ベンチ前で賑々しく行われるハイタッチを尻目に、横島は何事かを三塁塁審に叫ぶと共に、サードの守備に就くエミにボールを放り投げる。
 突如声を掛けられ、目を白黒させながら、三塁塁審は捕球し、ベースタッチするエミの足下を確認―― 当惑の表情が、驚愕のそれに変わった。
 重大事に気付いた彼は口を開く。
「あ…アウト―― スリーアウト、チェンジ!」
 ややあって、スコアボードに白く輝く“3”の文字が“1”へと変わる。
 それら度重なる変化に伴い、ホームランのもたらした熱狂が、疑問の混じる怒号に変わるのも当然のことであった。

「令子の一言があったとはいえ、おたくがあんな冷静な判断が出来るなんてね……なかなかやるワケ」
 マイクを右手に何故“逆転スリーランホームラン”が一転して“ダブルプレーの間の1点”どまりとなったのかの説明を行うアンパイアの声を背に送られるエミの賛辞に、横島は自慢気に返す。
「あの人があーいうことを言うってことは、1点や2点は絶対取るって自信の現われみたいなモンっスからね。文珠の使い所っスよ」

 試合再開の際、横島が三塁ベース脇を通った横島の右手からこぼれた直径5センチ程度の珠―― 言わずと知れた文珠であるが、横島はこれに『忘』の一文字を刻み込んだ上で、誰もが打球の行方を追うホームランの瞬間に起動することで三塁ベースの存在を『忘』れさせ、セカンドランナーである『弁辺・分身二号』とバッターランナー『ワンちゃん』のベースの踏み『忘』れを誘発したのだ。
 ベースを踏まなければホームインは認められないというルール、中断に伴って行われたグラウンドキープによって明確に示されることになるアンツーカーに残され、ベースに残されなかった『二つの足跡』をアピールしてのダブルプレー……1点は取られるものの、たとえ同点に追いつかれたとしても必ず取り返してくれるという絶大な信頼、そして、美神を思わせる罠の張り方に、エミは複雑な表情を浮かべた。
「なるほどね。令子との付き合いの長さは伊達じゃないってトコだろーけど……なんつーか、その悪知恵の働かせ方は『ミニ令子』って感じなワケ」
「ほ、褒め言葉と受け取っておきます」
 背後に美神が迫っていることを察し、横島は目を逸らしながら言葉を濁す。
 横島の発する『話題を摩り替えたい』という空気を察知し、助け舟を漕ぎ出すのはピート。
「そうは言っても、どうやってあの魔球を打つんです?冥子さんが打てなかったということは、『心眼』によるトレースも役に立たないんじゃあ……」
 『心眼』―― 無論、かつて小竜姫によって横島のバンダナに宿った疑似生命ほどに明確な力を持ったものではなく、冥子やおキヌ、エミが見せた、霊力によって強化された感覚程度のものではあるが、純然たる運動能力よりも霊力に重きを置いたチーム構成である以上、この感覚を封じられての試合が不利に運ぶことは否めない。
「そこなんだよなぁ、問題は。
 まー、いざとなったら文珠があるから何とかなるだろーけど……」
 ある意味横島以上に反則技に長けた美神が出てきた以上、何とかするだろう、という思いはある。
 とはいえ、“信頼”という名の一見すると美名にも取れる根拠のない自信に縋るばかりではなく、横島自身も明確な方策を打ち出さねばならない。
 無論、文珠という切り札はある。だが、もともとが横島の霊力を圧縮したものであり、数にも限りがある。

 この時点で、その数は四つ。

 如何に万能の切り札とはいえ、先程の『ダブルプレー』のように効果的な使いどころを見極めずに乱用するようでは、いざという場面で種切れという事態に陥ることは明白―― つまり、出来るだけ使い所を絞り込んで終盤の勝負どころまで持ち込まねばならないのだ。
「いくら霊力を分割して分身を作っていようとも、ボールそのものは一つなんだろ?
 本体には影がある。それを見極めさえすりゃあ打てるに決まってるじゃねぇか」
 腕組みをして考え込む横島に対して、雪之丞は力強い口調で言い切る。

 だが、自信たっぷりの雪之丞の解答に対して横島の返した答えは「出来るか――――――――ッ!!」よく響く否定の叫びだった。
 確かにこのベンチに座る超一流のGSには、弾丸の軌道を見切り、弾き落とすことが出来る者もいる。
 しかし、それも反射神経が普通人のそれを大きく凌駕する、近接戦闘に長けた者のみに限られたことであり、尚且つ向けられた銃口に対して集中している、という前提あってのことである。
 百歩譲って銃弾を弾き返せる者ばかりが揃っていたとしても、一旦ボールの影を確認した上で改めてボール本体を確実に捉えるとなってはその難易度は一気に跳ね上がる。
「ンな方法でみんながみんな打てるんだったら苦労せんわ!第一、それでバットに当てることが出来たとしても、あーも無様に内野ゴロ打つのが関の山だろーが!」
 指差す先には、ピッチャーゴロに打ち取られる西条の姿があった。
 どうやら、雪之丞の出した結論に自ら達した上で打ち損なったらしい。

 分身の影を見極める―― 漫画ではよくある対処法ではある。
 だが、ピッチングの瞬間を見た後、影の有無を確認するために一旦視線を落とし、その上で再度ボールを確認して捉える―― いかに優れた反射神経や広く、鋭い視野を持っていたとしても、それだけ首を上げ下げしていてはフォームもバラバラになってしまい、ろくなスイングなど出来はしない。
 それを証明する形で敢え無く打ち取られる様を見せ付ける西条の姿に、雪之丞は舌打ちを交えながら苦虫を噛み潰し、ベンチに座る。

 横島の言うことも尤も―― それは雪之丞にも判っていた。
 本質的には霊力勝負である以上、魔球の弱点を一刻も早く見出し、誰もがそのバットで捉える方法を確立しさえすれば、たとえ伝説の魔球投手であっても打ち崩すことは雑作ない。
 そのことは、おキヌのツーランホームランで証明されている。

 だが、肝心の弱点―― 急造魔球であるが故の欠陥を見出すことが出来ないのだ。

 投球フォームは通常のものと同じであり、大跳躍魔球や超竜巻魔球の大仰なフォームがもたらす隙はない。
 また、四回表の打席ではあわやホームランという当たりを放った冥子が見せ場無く三振に切って取られたことからも判るように、ボールに注ぎ込まれた魂―― 意志力で増幅された霊力は、恐らくは偶然であろうがボールの虚像を伴うという強烈な見た目のインパクトと同時に『心眼』による霊的感知を惑わせ、ぼやけさせるという効果をも含んでいた。
 投球と同時に複数の霊気の塊を放つことで実体をカムフラージュしている、と言ってもいい。
 急場凌ぎで生み出された魔球である以上、どこかに穴はあるだろう。だが、この終盤で折角見出した攻略の糸口を完全に封じる魔球に相対した焦りは拭い去れない。
 その蔓延する焦りこそが、初打席で驚異的な粘りを見せた西条からも冷静な判断力を失わせ、初球による凡退を喫しせしめたのだ。







 しかし、続くマリアはそのような焦りや見た目で惑わされるような『視覚』とは無縁であった。

 一切の迷いなく振るわれた『物干し竿』と呼ぶに相応しい長大なバットが、膝元近くをすくい上げる弧を描く。
 ゴルフのトップスピン・ドライブを思い起こさせるマリアの放ったあまりに高く、鋭い打球は、真っ直ぐにバックスクリーンの上段を射抜く軌跡を描き、オーロラヴィジョンに突き立った。

「よく打ってくれたわね、マリア!」
「当然じゃ、マリアのソナーを甘く見るでない」
 タイガーがひっそりと打席に立つ姿を気にすることなく、歓喜と共にマリアを迎え入れる美神に誇らしく応じるのはカオス。
「さっきは砂埃でジャミングされていたからソナーが働かなかったようじゃが、ソナーが効きさえすればあんな直線的な弾道など迎撃出来ないマリアではないわ」
「早速希望の芽を摘むな―――― ッ!!」
 理不尽極まりない叫びを上げ、美神はカオスに鉄拳を叩き込む。
 理不尽ではあるが、無理もない。攻略の糸口を探ろうと全ての可能性を洗い直そうとした矢先、味方である筈のカオスが投げかけたのはその“可能性”の一つをあっさり叩き潰すかのような一言―― 美神が怒るのも心情としては当然である。
 だが、考え方を変えれば、数ある可能性の一つに固執して無駄な時間を費やすこともなくなったとも言える。
 この戦いが『野球の試合』という形式を取っており、着々と、粛々と終盤へと向かっている以上、一つのやり方に拘らず、望み薄と見たらすっぱりと切り捨てて別のやり方を模索する、ということも必要―― 歴戦のGSである美神にも、その切り替えは、タイガー、そしておキヌが三振を喫した僅かな時間の間に既に出来ていた。
 何より、初球であっさりと凡退し、ばつが悪そうにダグアウト裏へと姿を消した西条やマリアが提示した事実は弁辺の入魂分身魔球がマリアにとってはただのホームランボールにしかならない、ということだけに留まらない。

 虚像の中に確かな実体が存在する、ということに違いはないのだ。

 そして、その『実体』を見抜く方法さえ掴めれば、たとえお約束のように『チョーさん』がソロホームランを放ち、あっさりと同点に追いつかれようとも、横島の巧妙に内野ゴロを誘う変化球でカキワリバッター達からツーアウトを奪った後に打席に立った弁辺の担ぐような独特の構えから放たれた打球がライトスタンドに飛び込もうとも、最後には勝てる―― その確信に満ちた美神のまとう雰囲気が、所謂ラッキーセブン、と呼ばれる終盤の七回に突入するチームを無言で鼓舞していた。

 無論、その無言の叱咤を受けて燃えない先頭打者―― 雪之丞ではない。
 初球、魔球の影を確認する。
 見える。
 二球目、確認した上でのスイングを試みる。
 一塁線を右に切れる、明らかな振り遅れ。
 持ち前の瞬発力を活かした格闘戦を身上とする雪之丞にとっては、屈辱ともいえる振り遅れではある。

 だが、間違いなく当たる。

 振り遅れた屈辱よりも、純然たる瞬発力のみで当てる事が出来たという事実が、そして、自分こそが魔球攻略の最大の糸口になれる、という快哉が、雪之丞の士気をさらに高める。
 胸中に生じた、満ち溢れんばかりの昂ぶりが、呟きとなってこぼれた。
「……来な!」
 そして三球目が投じられたその時、南武パンサーズのスカイブルーを基調とするユニフォームを纏う雪之丞の短躯が、燃え立つ炎を思わせる赤に包まれた。

 下手に使えば術者の精神を蝕み、魔物と化すという危険を孕んではいるが、術者の身体能力を増幅し、人外のそれへと引き上げる攻防一体の術―― 魔装術!
 素の瞬発力で振り遅れたのならば、人外の瞬発力に引き上げ、無理矢理に間に合わせればいいだけの話。
 一回途中から五回まで霊力を削りつつ投球を続けていたこともあり、使用を控えてはいたものの、再びマウンドを任せた横島が文珠という“鬼札”を切ってきた以上、自分も出し惜しみはしていられない、と言わんばかりに雪之丞が切った“切り札”がもたらした爆発的なスピードは、投球動作と実像の下に存在する一つの影を確認した上で、スイングする―― その一連の動作を人外の超速球を前にしてもなお遅滞なく行わせた。
 角度があればスタンドに入っていたであろう低空弾が、三遊間の空気を断ち割り、弾丸を思わせる速さでレフトフェンスに突き刺さる。
 そう、打球は跳ね返ってはいない。
 200km/hを超える速球を真っ向から打ち砕いただけでなく、揚力すらも力で捻じ伏せようとしたかのような、あまりにも雪之丞らしいダウンスイング―― 俗に“大根切り”とも呼ばれる撃ち下ろすかのようなスイングが生んだ直線的な打球は、フェンスをコーティングした緑色のラバーを貫通し、分厚いコンクリートのパネル部分にまでめり込んでいたのだ。
 ラバーに穿たれた穴に手を入れ、どうにかこうにかボールを掴もうと弁辺の分身三号が苦悩する間に魔装術を解いた雪之丞は三塁ベースを回った時点でスピードを緩めてホームへと至る。
 だが、雪之丞がホームに到達する直前に立ち塞がった影が、厳然と宣言した。
「ボールデッド。エンタイトルツーベース」
 この日一番の被害者といっても過言ではないアンパイアの、当然の裁定であった。

 微かな落胆を残し、雪之丞は二塁へと戻るが、食い下がる必要はなかった。
 弁辺の投球は全球ワインドアップであり、盗塁はし放題という弱点は変わりない。しかも、まだ確たる攻略法を手に入れていないエミはまだしも、エミの次には身体能力ならば魔装術を会得している雪之丞と互角といってもいいピートが控えている。
 エミが三振を喫したとはいえ、スピードに優れた雪之丞が三塁を陥れることが出来ている以上、ピートが内野フライで打ち取られでもしない限り、すぐさま同点に追いつける事は確約されていると言っても過言ではなかった。
 そして、雪之丞の読み通り、ピートが振るった先入観を持たないスイングは、教科書通りのレベルスイングとして解き放たれ、マウンドに盛られた土を弾いてセンターへと抜けて行く。

 お手本のようなピッチャー返しである。

 しかし、弁辺の足下の地面を叩いたことでやや弾速が落ちたことが響いたのだろう、センター前に抜けるかと思われた打球に右手からの影が猛然と襲い掛かる。
 セカンドの守備に就いていた弁辺の分身二号であった。
 右手を一杯に伸ばして、グラブのネットで辛うじて掴んだボールを反転しながら一塁へと転送する。
 無理な体勢ということもあり、際どいタイミングではあったが、塁審の手は縦に上がり、アウトカウントは二つ。
 無論、セカンドの弁辺が本体と同じく左利きであることもあって、打球を捌く間に雪之丞はホームインを果たしており、スコアは8−8のタイに戻っている。
 だが、センター前ヒットと思われた当たりをすんでのところでセカンドゴロとして処理されたこと、そして、それを為した分身選手の身体能力は―― 恐らくは、センターやレフトの守備に就いている他の分身も同じく―― 他のカキワリ選手達とは一味違うという事実は、ピートを深い落胆の淵に落とし込んでいた。
「すいません、横島さん」
 しかし、アウトに切って取られたことで沈み込むピートとは対照的に、横島は自らのバットで軽くヘルメットを小突くという太平楽な仕草を見せて返す。
「ちゃんと1点は取れたんだから気にすんなって。それに…俺もやり方は一つ思いついたしな」
「やり方…ですか……一体どうやって?」
 怪訝な表情を浮かべ、打席に向かう横島を見送るピート。
 横島のいう『やり方』が、恐らくは文珠が絡んだものである事はピートにも予測はつく。
 しかし、単純な反射神経で魔球を捉えた雪之丞とピートはまだしも、そういった面では常人と大差ない横島がどうやって魔球を打ち崩すのか―― 予測は出来ない。
 そのやり取りが耳に入ったのだろう。ダグアウトの前でピートを迎えつつ、雪之丞が太い笑みとともに投げかける。
「横島に任せておけばいいじゃねぇか。
 見ろよ……あいつがああいった顔してるときは、絶対に何かやらかしてくれるからよ」
 期待で浮き立つような笑みとともに雪之丞が指し示す先にあるのは、軽く口の端を釣り上げた横島の顔。
 いつもの自信とは縁遠い表情とは違う、自信に満ちたその表情―― 奇策と機転を内包した、大逆転の予兆というべきピートも何度となく見た表情に、ピートは雪之丞と同じく安堵を覚える。
「という訳で―― 安心して、見せてもらおうじゃねぇか……あいつが何を思いついたかをよ」
「ああ、そうだな」
 雪之丞とピートの信頼と絆に裏打ちされた視線を向けたその先には、グリップ一杯にまでバットを握り込んだ横島の姿がある。
 明らかな長打狙い―― つまり、裏を返せば、確実にボールを捉えるだけの秘策が備わっている、と言うことでもある。

 その策が見えないが故に、対峙する者にとっては不気味―― だからこそ、『勉、アウトコース低目…ただし、ボール一つ外だ』八幡平は念を入れて弁辺に初球を外すようサインを送る。
『け、けどよ……兄貴!“ポチ”相手にそんな消極策で―― 』
 “真っ向勝負”―― その主義を曲げる指示に憤り、そのサインとともに首を横に振る弁辺だが、八幡平は有無を言わさず再びサインを送る。
 そのこだわりが元で西条を出塁させ、しなくてもいい勝ち越しを許すに至ったことは忘れてはいなかった。

 弁辺は頷き……そして、躍動する。

 ストライクゾーンからはやや外れ気味……しかし、入魂分身魔球の肝である『四つのボール』の一つがコースを横切るため、見逃してもアンパイアはストライクと判断せざるを得ないが故に、確率は低くともバッターは手を出さざるを得ない。
 その“読み”があるからこその八幡平のリードであった。
 だが、如何に優れた“読み”であろうと、あくまで常識内での話。

 常識外の相手に対してはあまりに無力だった。

 投じられた“入魂分身魔球”に対するは、あからさまなまでに一発狙いと判る大きなフォームが生み出したスイング。

 しかし、そのスイングの軌道はボール本体はおろか、分身すらも捕らえる事が出来ないであろう的外れな場所に向けられており、とてもではないが、打ち返すことなど出来るはずもない。
 八幡平が、自らの“読み”が杞憂であると悟るには充分であった。

 ―― と、思いきや、ボールそのものが突如外から内へとスライドした。


 魔球のバリエーションは豊富だが、基本は直球のみ。とてもではないが変化球など投げれるような弁辺ではないということは、他ならぬ八幡平がよく知っている。
 その弁辺がスライダーである。八幡平が驚くのも無理はなかった。
 
 ボールを要求した八幡平、そして要求されたコースに投じたはずの弁辺の驚きをよそに、スライダーが、『吸』い込まれるかのように、ど真ん中へと弧を描くバットに引き寄せられる。
 出し抜かれ、驚くバッテリーとは対照的に、出し抜いた横島が快哉の叫びを挙げる。
「どこにボールがあるのか判らんのやったら、吸い寄せりゃいいだけの話やないか――ッ!!」
 残り四つの鬼札である文珠―― その一つを使って『吸』い寄せたボールを過たず芯で捉え、バットはそのヘッドを翻す。

 ジャストミート特有の、乾いた、快い音が響いた。

 痛恨に顔を歪ませるバッテリー。
 本能的に打球を追おうとしたが、打球の行方は杳として知れない。
 観客も息を呑んでその行方を探すが、見つける事は出来ない。

 ただ、アンパイアが走り去ろうとする横島の背に容赦ない一言を投げつけるだけだった。

守備妨害インターフェア、バッターアウッ!」
 見れば、横島はバットを持ったまま一塁方向へと走り去ろうとしている。
 いや、持ったまま、というのは少し違う。


 芯に張り付いたままのボールと同様、バットから両手が『吸』い付いたまま離れないのだ。
 明らかに、文珠の性能に振り回されたが故の失敗であった。

「あ……アホか――――ッ?!」

 そのあまりにもあんまりな光景を前に、GS達は一斉にツッコんだ。


「まったく……助かりたくないのか、君は?」
 呆れた口調に溜息を交え、西条は先ほどの攻撃で間抜けな失策を犯した横島に一声かける。

「俺にだって、勝てなかったら生命がヤバいのは判っとるわっ!だからこそ、どーにかせなアカンと知恵振り絞っとるんやないかっ!」
「その知恵の振り絞る方向が間違っていたらどうしようもないだろう?
 第一、文珠はあと幾つ残っているんだ?三つか?二つか!?」
 七回のマウンドに昇った横島の周りを囲むかのように、内野陣を集めたのは他ならぬ西条自身である。
 そして、この試合に勝たなければ横島の生命が喪われてしまう、という事実をこうやって改めて再確認する以上、横島を案じていないわけではないということは間違いないのだが―― やはり、日頃が日頃である。売り言葉に買い言葉となってしまうのは否めなかった。
「まーまー、その辺にしておきましょうよ」
「そーそー。失敗は失敗、これからの対策はこれから……いい加減切り替えた方がいいワケ」
 だからこそ、おキヌとエミが助け舟を出してマウンド上に満ちた一触即発の空気を散らしに掛かったのだが、それを受けての横島の言葉は、一触即発の空気をさらにかき乱すものだった。
「対策か……じゃあ、この回満塁にしたいんスけど―― いいっスよね?」
「満塁策ね……打たせて取るんだからそれも―― 。
 ……って、ちょっと待つワケ!」
 スコアボードを見ていたエミが、逸早くその事実に気付く。
「……マジに言ってるのかよ?」
 エミの言葉に振り返り、『それ』を確認した雪之丞もまた、驚愕のうめきを漏らす。
「ああ、もちろん大マジだよ。
 でも、逆にいえば、満塁の大ピンチ―― それも、あのバケモン達を抑えれば、向こうのテンションがガタ落ちになるってことだろ?」
 ノーアウトの現時点でスコアボードに赤く点灯するのは、七回裏の先頭打者を示すランプのみ。
 そして、その赤い光は9番バッターである弁辺の分身三号の名を照らしていた。

 そこから満塁にするように仕向ける―― 即ちそれは、全ての打球がホームランとなる脅威の打棒を誇る『ワンちゃん』と『チョーさん』を満塁で迎える、ということだ。
 未だ確たる攻略法を掴めていない魔球を相手にする以上、その二人を迎えるとで試みが外れてしまえばみすみす5点という大量の失点を喫する、というリスクはあまりにも大きい。
 エミと雪之丞が無謀さを指摘するのも当然である。
 しかし、賛同の声は意外なところから発せられた。
「なるほどね―― 相手の気勢を挫く、か……確かに効果的だな」
「えっ?西条さん?」
 つい先ほども横島と遣り合っていた西条からの唐突の肯定の言葉、そして頷きに、驚くおキヌ。
 横島と西条が言うように、ヨメウルジャイアンズの守護霊達は観客、そして視聴者の意志を受けて強力さをさらに増すという特性を持っていることはおキヌにも判る。
 そして、その“強さ”の源を折ることが出来れば―― 特に、精神的支柱である『ワンちゃん』と『チョーさん』を打ち取ることが出来たならば、一気に弱体化することも可能だろう。だが――
「しかし、だ。賭けるには充分だが……出来るのかい?
 さっきのピートくんの打球を捌いた動きからしたら、あの分身達の運動神経も本体と遜色ないと見ていい。満塁にする前に長打を食らわない保証はないんだよ?」
 西条はその策の根本的な穴を言い当てる。
 主軸が満塁のチャンスを潰しての落胆という目論見も、そもそも満塁にならなければ効果は半減するし、何より、弁辺の分身達もまた侮ることは出来ない相手だ。その相手に長打を打たれるようでは、策も何もあったものではない。
 しかし、その言葉とおキヌとタイガーの不安そうな視線を受けて発された横島の言葉は、意外にも力強い笑いとともにあった。
「その辺については心配ねーよ。雪之丞の投げた変化球がヒントになったからな」
「……?
 横島さんも西条さんも、あの二人相手に間違いなく勝てるというのかノー?」
「まーな。ツーストライクまで追い込めば間違いなく三振に出来るだろーし、ツーストライクにならどーにか追い込むことは出来るしな……細工は流々、あとは仕掛けを御ろうじろ、って奴だよ。
 判ったら、散った!散った!」
 横島のその言葉とともに、マウンドの周囲に集まっていた五人はそれぞれの守備位置へと散って行く。
「えっと……横島さん―― 頑張ってくださいね」
 名残惜しそうにマウンド近くに最後まで佇んでいたおキヌが守備位置に就く間際にかけた言葉が、自らの気持ちを高めてくれていることを感じつつ、横島は己の立案した作戦を実行に移し始めた。

 分身選手三人の構えは弁辺と同じく、バットを肩口に担ぐようなフォームであり、そこから発生するスイングも極端なダウンスイングであるということは容易に想像出来る。
 その極端なフォームで長打を放つ、ということは一見すると難しいようにも思えるが、球道に対して斜めに『斬りつける』ことで回転―― つまり、強い楊力を付加することで、ライナー性の低い弾道をさながら戦闘機が離陸するかのように浮き上がらせ、ピッチャーとしては破格の飛距離を叩き出す事を可能にしている。
 “首斬り打法”と名付けられたその打法が、六回裏に横島からホームランをもぎ取ったことは確かではある。
 だが、あくまでそれは弱点を確認する前のことであった。
 ダウンスイングに対して、直角に向かってくるボール―― 雪之丞が『チョーさん』相手に苦し紛れに投じた変化球と同種の浮き上がる球ならば、回転を生じることなく真っ直ぐに人工芝へと叩きつけられ、その長打力は完全に殺される。
 そして、それさえ踏まえてさえいれば、サイキックソーサーの要領で変化の軌道を自在に変化させることが出来る横島や雪之丞にとってはバッター・弁辺、そして、弁辺の分身達は長打を恐れるべき存在ではなくなっていると言えた。
 分身三号、一号と連続してシングルヒットを放たせたことでノーアウト一、三塁とした後に、あえて勝負と見せかけながら、二号を際どいボールながらストレートの四球で満塁とする。

 お膳立てはこれで完成した。
 そして、際どいコースに投げ続ければ、出来るだけボールの軌道を見ようとする、典型的な“好球必打”を旨とするバッターである『ワンちゃん』から2ストライクは取ることは可能―― そこまでは読み通りであった。
 そしてカウント2−1で迎えた四球目、横島はセットポジションのグラブの中に文珠を生み出し、一つの文字を刻み込むと、ボールの感触を確かめ―― 投じた。

 フラミンゴが文字通り動き、揺らめき―― ミットを叩く音が、響いた。

 『ワンちゃん』であれど反応出来ない。いや、見ることすら出来ないその“魔球”こそ、横島が文珠に刻み込んだ『消』の一文字でその姿を消した“『消』える魔球”―― これこそが、横島の練りに練っていた“秘策”であった。

 だが、打席に立つ『ワンちゃん』に見えない、ということは、当然アンパイアにも認識出来ない、ということでもある。

「ボーク!ランナー・テイクワンベース!!」
 アンパイアにも認識出来ない以上、『投球フォーム』だけを見せた横島がボークを取られるというのも、自明の理―― 労せず1点を献上したことで、唐巣が慌ててタイムを要求するよりも早く、ライトから猛然とマウンドに駆け寄ってきた美神がうろたえる横島の脳天に容赦ないチョッピングライトを叩き込むのもまた、自然の流れであった。
「アホかあんたはッ!!
 どーせ雪之丞の攻め方を参考にするだったら、最後までそれで押し通せばよかったでしょーがッ!そっちの方が文珠を無駄遣いするよーなアンタの作戦よりも上手くいくわよっ!!」
「ゆ、雪之丞の攻め方っスか?」
 無駄に威力の高い拳骨を喰らい、頭を抑えて蹲る横島が、涙目で問い返す。
「そーよ!あくまであんた達の変化球はサイキックソーサーの応用でしょ?GS試験の準決勝……あの時のことをよっく思い出してみなさいッ!!」

「…………ああ、あの時は何で美神さんは下にいつもの服を着てたんや」
「訳の判らん理由で落胆するなーッ!!」
 美神の叱咤を受け、数瞬の後に俯いた横島の顔を無理矢理に上向かせる格好で、アッパーが打ち抜いた。

 だが、美神の一言は横島に新たな発想を与えた。これもまた事実である。

 ボークと判定された場合、ランナーのみが進塁するため、『幸いにも』相手の意気を挫く最大の標的の一つである『ワンちゃん』はまだ打席に立っている。
 つまり、打ち取るチャンスはまだある、ということだ。
 セットポジションからの仕切り直しの『四球目』は―― 一旦左打席のネクストバッターズサークル、つまり、『ワンちゃん』の背中側を経由するという、ともすれば暴投か、とも見える方向から大きくホーム側へと曲がって沈む、大きな曲がりの所謂シンカー!

 しかし、『ワンちゃん』もまた数々の大投手達との名勝負を繰り広げてきた古強者である。
 そもそも変化球の歴史の中では新しい部類に入るシンカーという変化球を操る者自体当時の日本球界には存在しなかったこともあり、当然ながらこれほどのシンカーには巡りあった事はないが、このシンカーの軌道と同じ、背中の後ろから曲がって落ちる軌道を描く左投手の大きなカーブとは何度となく対戦し、そして、打ち勝ってきたことも確かであった。

 ホームベース寄りに半歩立ち位置をずらし、その上で一本足になる。

 この半歩の差こそが、変化球を打ち崩すに最も必要なコンマ数秒にも見たない刹那の刻を打者に与えることは、経験が知っていた。

 肩口の後ろ側の死角に消えたボールが、再び死角に入った。

 集中の極みが、ボールを止まったかのように見せる。

 軌道を確認し、スイングする。

 手に残る感触は―――― なかった。





 ややあって、空中で止まっていたボールが、驚きに目を見開くタイガーの構えたミットに納まる乾いた音を立て―――― アンパイアがスリーストライクによるアウトを宣告した。

 自在に軌道を変えることが出来る―― それはすなわち、止まることも、急発進することも自由自在であるということ。

 空気の壁にぶつかったかのように急激に速度を損ない、重力に耐えかねたかのように軌道を変えていくことから、英語では変化球のことを総じて『ブレーキング・ボール』と呼ぶ。
 だが、横島がこの土壇場で思いついたものはそれを上回り、本当に空中で停止してしまう、言うなれば『止まる魔球』または『急ブレーキ魔球』とでも言うべき魔球である。
 そして、停止する、という特性を持つこの魔球は、ボールを出来る限り懐に呼び込み、タイミングを計って打つ打法である一本足打法にとって特に致命的な、タイミングそのものを完全に破壊する、まさに天敵とも言うべき魔球であった。

 しかし、1アウトを取ったとはいえ、依然『ピンチ』であることには変わりない。

 何より、同じ『当たればホームラン』という不条理極まりない特性を有しているとはいえ、一本足でタイミングを計るとともに、インパクトの瞬間に体重を移動させ、その力をスイングに乗せて打つ『ワンちゃん』と違い、『チョーさん』は二本の足を大地に固定した上で球史随一とも称される抜群のスイングスピードと野生の勘で打ってくる。
 たとえ『止まる魔球』でボールの動きを止め、タイミングを破壊しようと目論んでも、勘で止まるタイミングを見極められ、逆に待たれてしまえば、待っているのは<大量失点>の四文字のみ。
 そして『球史随一のスイングスピード』という待ち構えるに最適な武器が向こうにある以上、『止まる魔球』の『急停止』という武器で『チョーさん』を出し抜ける公算は低くなってくる。
 得意コースであるインハイ以外は基本的に追い込まれるまで見逃すこともあり、アウトコースギリギリの変化球を連投するだけであっさりと追い込まれてはくれている。だが、スイングスピードが速い分だけボールの変化に対してぎりぎりまで見極めることが出来るという変化球に対する絶対の強みは、『止まる魔球』の『速度の変化』にとっても天敵であるとも言えた。
 そしてツーナッシングからの三球目のコースは―― よりによってインコース高め。
 止まるタイミングを待っていた『チョーさん』にとっては意外なことに、ボールは止まらずにストライクゾーンへと侵入する。
 『止まる』という特性を囮に、あえて止まらず、変化させずにストレートを投げ込む、という策だろうか。
 だが、間に合わない。
 最早止まろうとも、どう変化しようともバットは届く。
『なんだ……つまらないなぁ』
 『チョーさん』は落胆とともに、バットをテイクバックさせ、解放する。
 派手なスイングが、空気“だけ”を引き裂いた。

 ヘルメットを吹き飛ばしつつ、勢い余って転ぶ『チョーさん』を嘲笑うかのように、バットの届く範囲から『後ろに』逃げた魔球が、安全圏であるタイガーの構えるミットへと避難を果たす。
 前進していた車がバックするために一度は止まらなければならないように、『止まる』というのはあくまで『戻る』ために必要な副次的なもの。
 これこそが、美神の『GS試験準決勝』という言葉を発想のヒントにして横島がイメージした本来の魔球―― 経緯はどうあれ、雪之丞が横島をKOに追い込んだサイキックソーサーの軌道を基にした、いわば『戻る魔球』!
「ス……ストラック!バッタアウッ!!」
 ややあって、アンパイアの声が高く響いた。

 『ワンちゃん』『チョーさん』の二人が連続三振―― これによって、精神的な有利は一気にGS側に大きく傾いた。
 とはいえ、GS達が精神的には勝っていようとも、ジャイアンズの守護霊達が一気に精神的にズタズタになろうとも、まだ試合は終わってはいない。
 そして、点数的にはリードしているジャイアンズの攻撃は、ツーアウト二、三塁という状況で今もなお続いている。
 だが、相手の攻撃面での拠り所をへし折った上でツーアウトでカキワリ選手―― この事実に、横島をはじめとしたGS達の精神に弛緩した空気を流し込んでしまうことはどうしても否めない。

 野球の神、というものが存在したならば、その弛緩した空気を咎めるであろう。

 そして、力なくセカンドへと転がった5番打者・クロエの打球を西条は軽快なフィールディングで捌き、ファーストへと転送したその時、野球の神の意志が具現化するかのようにその事件は起きた。

 守備の面で懸念されていたおキヌがお手玉したのだ。

 サードランナーである分身一号はもちろん、ツーアウトということで分身二号もまた、既にサードキャンバスを蹴っていた。

 おキヌが慌ててボールを拾い上げたその時、クロエはファーストキャンバスを駆け抜け、分身二号の左足はホームベースを踏みしめていた。
 ―― ファースト・おキヌのエラーにより、ジャイアンズ、2点追加。

 続くスエツグを三振に切って落としたことにより、七回の攻防は幕を閉じたものの、つい一、二分前に拡がった『勝ったも同然』という熱を帯びた空気は冷たく、重いものにとって変わられていた。
 特に、自らのエラーでビハインドを広げられたおキヌは蒼褪め、震え、今にも泣き出さんとするばかりである。
「……これは―― 交代した方がいいかも知れないな」
 重大なミスを犯したという悔恨、そして、守備面での不安を露呈してしまった以上、その穴を衝かれる重圧に、おキヌは耐え切れないだろう―― そう判断した唐巣が呟く。
 しかし、唐巣の呟きに混じった“交代”という響きに、びくり、と肩を震わせたおキヌの耳に、力強い言葉が響いた。
「駄目よ先生。おキヌちゃんの力はこれからも必要なんだからね!」
「あ……美神…さん」
 涙を溜め、曇っていたおキヌの瞳に、微かに光が差す。
「大丈夫よおキヌちゃん。何しろ今からわたしが出るのよ。3点差ぐらいあーっという間に引っくり返してやるわよ」
 その言葉に根拠はない。

 しかし、どうにかしてくれる。

 言葉だけでなく、実際に『どうにか』してきた美神の自信に満ちた力強い一言が、勝利の女神の啓示の如くにおキヌを―― いや、三塁側ダグアウトを満たしていく。

 そして、実際に口にした以上、その期待に応えない美神ではなかった。

 弁辺がワインドアップから一球を投じようとしていた矢先、左打席に立った美神の神通バットが輝いたかと思うと、長大な鞭状に変形する。
 神通棍の技術を応用し、霊力を変換している以上、人の器に収まりきらぬ美神の霊力でオーバーフローさせれば、神通棍と同じく神通バットも鞭状に変化することは理屈ではある。
 そして、その理屈通りに美神の意志に従って自在に動く鞭と化したバットは弁辺の左手―― 正しくは、左手に握られたボールへと向かった。

「バカね…横島クン……文珠を使わなくても、ようはボールが一個の時に打てばいいってことじゃない。
 ましてや、ちょっと工夫すれば、こんなやり方も出来るってことじゃない!」
 そう、やっていることは横島が“エビ反り大跳躍魔球”を攻略したときと同じ、魔球の出所を叩く、というものである。
 ボールを分身させようにも、左腕は一本であり、腕に握られたボールは一つ。

 『魔球』に確たる攻略法がないのならば、『魔球』になる前の段階で打てばいい。
 ただの『球』なら、攻略は容易い―― 道理というにはちと無茶苦茶、というか、ルールブックが混乱をきたすであろう光景だった。

 しかも、横島の攻略法とは違うところもある。
 変形し、自在に動く鞭―― 最早ここまで来ると“触手”といっても過言ではないだろうが―― と化した神通バットがボールを巻き取った事を確認して、美神は右腕を薙ぐように神通バットを振るう。

 セカンドキャンバスの後方―― セカンドとショート、センターの中間に、計ったかのようにフライが飛んだ。
 ややショートよりの打球を追いかけるのは、当然ショートのクロエ。
 だが、セカンドとセンターは弁辺の分身達である。クロエの発する『オーライ』の言葉など聞いてはいないし、その存在すらも気にかけることもせず、ただボールへと飛び込むだけ。
 三者が交錯し、ボールはその前に落ちた。

 ピートの打球を捌いた際に、その派手さに隠れてはいたが、美神の眼には確かに見えた、チームワークの意識が乏しい弁辺の分身が内包した守備の綻び―― 左投げであるならば、ショートに任せた方がより安全である、というセオリーに従わず、セカンドが無理矢理に処理したという、何気ないこの一点に見えた連携の拙さを衝いた、計算づくのポテンヒットであった。
 しかも、美神の打球の恐ろしさはそれに留まらない。

 ―――― チュ…ン。

 グラインダーの音にも似た、擦過音が響いた。

 緩やかな放物線を描いていたその勢いとは裏腹に、人工芝に接地した途端、ライト方向へと急加速したのだ。
 鞭と化した神通バットを巻き付け、薙ぎ払うことでボールに独楽こまの要領で回転を掛けていたのだ。
 守備が滞りなく行われた場合に備えて、グラブを弾く目的で掛けられていた強烈な回転は外野ファウルグラウンドのフェンスに到達しても収まらず、フェンスの深いところまで到達し、美神は労せずに二塁へと到達する。

 とはいえ、奇妙な光景ではあった。
 楽にスリーベース、ともすればランニングホームランをも狙える位置で打球が止まったというのに、それをせずにセカンドキャンバスで進塁を止めるというのは、考えられることではない。
 ましてや、今は3点のビハインドを背負っている。
 確実に得点が取れるときに取る、という鉄則からすれば、あまりに不可解ではあった。

 しかし、美神からすればそれは奇妙でもなんでもない。
 ソナーを搭載していることもあり、ストレートには無敵のマリアと、魔球が魔球として機能するより先に打つことが出来る、いわば『距離外打撃』を放てる美神と横島ならばまだしも、現在打席で着々と追い込まれてゆく西条をはじめとした他の六人にとって、この魔球の攻略法は未だ不透明だ。

 確かに、先ほどは雪之丞とピートがその類い稀な反射神経でバットに捉えることは出来た。

 とは言っても、ピートのヒット性の当たりがセカンドゴロとして捌かれたように、まだまだ運否天賦の域を出ていない。
 そのようなやり方では、この戦いはどう転ぶか判らない。

 この勝負に横島の生命が掛かっている以上、勝つためには、運否天賦や偶然に頼るのではなく、出来得る限りことわりを以って、必然に勝たねばならないのだ。
 まして、美神にとっては『もう一人の妹』とも言えるおキヌを泣かせた相手でもある。先程の交錯プレイ程度で痛めつけるだけでは気が済まない。

 故に、美神はリードすらもせずに弁辺の背後からその一挙手一投足をも見逃さないという意図を持って、その視線を投げつける。

 瞬きをすることも惜しみつつ、投球動作の隙を探す。

 腕の振りに、球道に、分身の発生する瞬間に隙がないのか、と集中力を全開にする。

 そして、追い込まれた西条のバットが空を切ったその時、美神は一つの違和感に気付いた。
 続いて打席につくマリアに対し、『一球待て』とサインを出し、その一球目の間に目をつけた『違和感』の発生源にその眼を凝らす。

 ―― やはり動かない。

 違和感が、確信に変わった。

 二球目に対するサインはなし。

 マリアのバットが唸りを上げ―― 得点差は1に縮まった。

 だが、美神が見出し、気付いたものは得点以上に大きかった。
 タイムを要求し、ダグアウト前に全員を集めた美神は誇らしげに胸を反らして言う。
「やっと気付いたわ。あいつらの魔球の弱点」
「えっ?!弱点が判ったのかい、令子ちゃん?」
 散々魔球の餌食になってきた西条の問いに、美神は力強く頷き、返す。
「判ってみたらなんてことはない……正直、今までの苦労はなんだったんだって話よ。
 ―― キャッチャーのミットがね……要求したコースからまったく動いてないのよ」

 空気が、凍りつく。

「ンな単純なことやったんかーッ?」
 凍りついた空気が解凍するとともに、横島の絶叫が響いた。

 当然といえば当然だ。
 あれだけ攻略に苦労してきた魔球に、そのような単純な弱点があることなど―― いや、攻略に苦労を重ねてきただけに、そのような単純な弱点だということは逆に想像も出来ない。

 魔球さえあれば捕球技術やリードといったインサイドワークなど不要、とも言える時代の存在であるということを忘れ、自らその袋小路に足を踏み込んでいた、と言ってもいいだろう。

「そうか……そう言えば、八幡平選手が打席に立った時には必ず『お前なんか受けるだけの単なる壁だ、早く引っ込め』といった野次が、昔シンパンファンの陣取ったスタンドから掛けられていたんだった―― 私も、もっと早く気付くべきだったな」
「いや、マジに早く気付いててくれよ」
 今更、といった感のあるタイミングでそう零した、唯一このバッテリーをリアルタイムに見ていた唐巣の言葉に、雪之丞は容赦なくツッコミを入れた。

「ま、それは兎に角としても…よ。これからは二塁からコースを確認すればいいってことが判ったんだから、あとはホームランさえ打たなけりゃもういつまでも打ち放題よ!」
 ビハインドは1点―― しかし、ここに来てやっと弁辺の操る魔球の弱点を見出すことが出来た以上、その差は容易に引っ繰り返る。

 対して、横島の操る二種類の魔球には弱点らしい弱点はない。

 美神が上機嫌な高笑いを上げるのも当然であった。

 だが、高笑いを上げる美神の横から、遠慮がちに声が掛けられる。
「えっと……美神さん……それはいいんですが―― どうやって出塁するんですか?」
 魔球攻略に当たっての根本的なその疑問に気付いてしまったおキヌの声に、ダグアウトは再び沈黙した。
「あー、大丈夫だよおキヌちゃん!」―― と思いきや、横島があっさりとその沈黙を破る。
 そして、一刻も早く打席に立つように強く要求するかのようなアンパイアからの冷たい視線を、その広く分厚い背中で受け続けていたタイガーに対して何事かのアドバイスとともに一つの文珠を渡すと、今度はおキヌに向き直り、続けた。「今回の打席は、おキヌちゃんはただ打席に立ってるだけでいいよ。そうすれば、勝手にあいつの方から崩れてくれるからさ」
「え、えと……それって…?」
「言ってしまえば、『文珠の使い所』って奴だよ……俺もさっき美神さんにぶん殴られて改めて知ったんだけどね」
「バッターラップ!」いい加減我慢の限界となったのであろう、アンパイアがタイガーに打席に立つよう要求したことで、半ば禅問答となったやり取りは中断を余儀なくされた。
 消化不良の感を残し、おキヌは首を傾げつつネクストバッターズサークルへと向かう。
 
 打席では、何故か左打席に立ったタイガーが勢い余って転倒するぐらいの豪快なフルスイングを見せている。
 だが、全くタイミングが合っておらず、フォームもバラバラなそのスイングを見ている限りでは、文珠をどう使っているかは全く見えてこない。
 いや、バットに振り回されると言ってもいいほどの、あまりに大きすぎる、明らかに左打席そのものにも慣れていないことが窺えるスイングだった。
 これもまた横島の策の一つなのだろうか―― おキヌの中で疑問が膨らんだその時、タイガーへの二球目に対するアンパイアの判定がコールされた。
「ボール!」

 そして、そのボールの判定を切っ掛けに弁辺が突如としてコントロールを乱し、フォアボールでがタイガー出塁したとき、おキヌの疑念は解け、そして同時に悟る。
 『バットに振り回されるかのような』タイガーの左打席でのフルスイングこそが、全ての伏線だった、ということを。

「ボール!」
 アンパイアのその声が、おキヌに対してのカウントが0−3になったことを告げた。

「……アンタ、文珠になんて刻んでやったのよ?」
 美神にも、作戦会議の終わり際にタイガーに渡した文珠と、そのタイガーが見せたオーバーアクション気味なフルスイングが全ての布石だということは判る。
 だが、何が原因で弁辺が突如としてコントロールを乱したのかまでは掴めない。
 当然の質問である。
「タイガーにホームベースの上にすっ転んでもらったときに『外』の文珠を落としてもらって、それを発動させたんスよ。文珠の持続時間は大体3分ぐらい……タイガーとおキヌちゃんがフォアボールで出るだけの時間には充分じゃないっスか」
「なるほど……撃てるかどうか判らないやり方に固執するよりは、いっそのこと相手に歩かせてもらうって訳ね」
 『……なかなかやるじゃない、横島クン』ともすれば慢心を誘うこともあり、美神が薄い笑みとともに内心で付け加えるに留めた一言を浮かべたその時、横島の目論見通りにおキヌへの四球目もコースを外れ「ボールフォア!テイクワンベース!」アンパイアの宣告が場内に響く。
 得点圏へのランナー ―― しかも、続いて打席に立つのは持ち前の反射神経と魔装術という二つの武器を活用し、長打を放った雪之丞ということもあり、レフトスタンドを中心に期待に満ちた叫びが上がるのも無理はない。
 だが、その叫びが一瞬静まり返る。
 アンパイアの宣告に従って一塁に向かったおキヌが、突然つんのめって倒れたのだ。

「大丈夫ですよ、靴紐を踏んじゃっただけですから」
 すわ怪我か、と色めき立ち、思わずダグアウトから飛び出す美神と横島に対して向き直ると、照れ混じりの笑顔でそう返しながら、右の靴紐を結び終えたおキヌは立ち上がる。























 ―――― すとん。












 その音とともに、おキヌは下半身に涼しさを感じた。











「お……おキヌ…ちゃん」
 思わず目を点にしながら横島が訴える。
「……アンタは見るなッ!!」一瞬の空白の後、美神が点になった横島の目に二本の指を叩き込む。
 その二人のやり取りを受け、改めておキヌは自らの姿を省みた。

 『外』れていたのは右の靴紐だけではなかった。
 シャツとズボンのボタン、そして、男物の大きめのズボンを半ば無理矢理に腰に固定していたベルトまでもが―― 『外』れていた。
 顔を朱に染め、ずり下がったズボンを戻したおキヌはさらに慌てる。
 ブラのホックも『外』れていたのだ。
 言うまでもなく、ホームベースに対して『外』という要素をもたらした、文珠の効果である。
 しかも、さらに悪い事に彼女のユニフォームの下はアンダーシャツではなく、ただのTシャツ―― つまり、靴紐を結び直すためにしゃがみ込んでいたその時には、シャツの胸元から、無防備な双丘の頂を想い人に晒していた、ということもありえる。
 そして、美神のリアクションからして、その可能性は高い。
 そこに思い至り―― おキヌは口を開く。

「ぃ……いやぁ―――――――――ッ!?」

 ボールパークにおキヌの悲鳴が―― こだました。



 * * * しばらくお待ちください * * *
 

「見られた……見られた……横島さんだけにしか見せたくなかったのに……」
 自らが問題発言を垂れ流している事に気付く事なく、ショックで目を回しながらおキヌは一塁上に立つ。
 無理もないだろう。
 TVスタッフが逸早く画面をCMへと差し替えたとはいえ、全国放送であられもない姿を晒してしまったのだ。
 正気の一つや二つ喪い、前後不覚になるのも不思議はないだろう。

 だが、ファーストキャンバス上でバッドトリップしているおキヌの犠牲は無駄ではなかった。

 “入魂分身魔球”の実体が知れてしまった以上、捉えることは難しくない。
 そして、捉えることが出来れば、弁辺の球は実に良く飛ぶ。

 雪之丞の火の出るような打球がレフトフェンスを直撃する。

 エミの流し打ちが一塁線を切り裂く。

 ピートの引っ張った打球が『チョーさん』の差し出したグラブの先を霞めてレフトのファールゾーンを転々と転がる。

 横島の『栄光の手』が伸び、文珠によって『貼』の効果を附加されたバットごとセンターの頭上を越えてボールを運ぶ。

 美神の神通鞭が生み出した回転が、弁辺の担いだ三味線を砕いた勢いを殺すことなく外野を自由に駆け回る。

 西条のセンター返しがごく普通に抜けて行く。

 マリアの計算され尽くしたスイングが、右中間フェンスを襲う。

 タイガーも―― まぁその身体に見合った飛距離の打球を放つ。

 そして、バッドトリップを怒りに変換したおキヌのフルスイングが、打球にフェンスを越えさせるだけの勢いを与えた。

 結局、この八連続ツーベースを含む猛攻で八回表に奪った得点は、実に20点。
 不運にも西条とタイガーの打球が内野の正面を衝いてしまうまで打者二巡しても止まらない、野球の範疇を超越―― というより、圧倒的に『打』に比重が置かれたバランスのクソ悪い野球ゲームを思わせる容赦なき猛攻であった。

 ジャイアンズの反撃も拍子抜けするほどに覇気はなく、八回裏はあっさりと三者凡退。
 九回表の攻撃が、八回表よりもさらにタチの悪い打者三巡という遠慮呵責の念もない攻撃であることに比べてあまりに対照的であった。



 * * *



 結局、終わってみれば62−11という、ラグビーを彷彿とさせるスコアで生死の掛かった試合を切り抜けることが出来た横島は、翌日の学校でも特にスター扱いされることもなく、平穏無事に直接事務所へと向かっていた。
 事務所では既に制服から着替え終えていたエプロン姿のおキヌが、楷書で『煩悩』と描かれた湯飲みで湯気を立てる緑茶とともに出迎えてくれる。

 やや温めで煎れられていたその緑茶が、前日の試合で疲れきっていた横島には有難かった。

「そう言えば横島さん―― 昨日の試合なんですが……いつもより多く文珠を使ってませんでした?」
「ま、まままままぁその辺は修行の成果、という奴ってことで」
 横島は言葉を呑み込む。
 ―― 言える訳がねぇ。

 目に焼きついたチラリズムの産物が彼の煩悩を刺激したことで、文珠のストックが出来、八回、九回の攻撃で都合五回訪れた横島の打席でその力を発揮したということを悟られるわけにはいかなかった。

 そして、おキヌの一言で『その映像』を思い出し、思わず前屈みになりそうになった横島は、話題を摩り替えるべくおキヌに問う。
「あー……そ、そういえば、美神さんは?」
「えっと……わたしが学校から帰ってきた時には、もう外出していたみたいですけど―― ?」
 その言葉通り、事務所には、美神の姿はない。

 だが、美神の執務机には大量の書類や伝票、電卓が並んでいる。
 そのような貴重な“証拠物件”を放置している以上、ごく短い時間席を立っているだけであろう―― そう横島が結論付けたその時、人工幽霊壱号が二人のやり取りに口を挟んだ。
『美神オーナーでしたら、30分ほど前に血相を変えて出て行きましたが……何か、緊急の用でもありましたか?』

「いや、別に用はないけど……珍しく今日はいないからちょっと疑問に思っただけだよ」
 言いつつ、横島は何気なくTVのリモコンに手を伸ばし、電源をONにする。

「ぶ!」
 横島が緑茶を吹いた。
「え……み、美神さん?!」
 同じく画面に目をやったおキヌが目を丸くする。

 折りしも17時をやや過ぎた時間であり、TV局によってはニュース番組を逸早く流す局もある。
 そして、たまたま映ったそのニュース番組では、亜麻色の長い髪の美女がやけに尊大な雰囲気が見て取れる眼鏡の老人に対して詰め寄る姿が流れていた。

「な……何をやっとるんだ、あのひとは?」
 呆れる横島の頬を、汗が伝う。
 ただ呆然と画面を眺めるのみに終始する二人の耳に、アナウンサーの声が虚しく響いた。

『―― オーナー・そして球団に対して訴訟を起こすと訴えているのは都内でGS事務所を経営している二十代の女性で、訴えによりますと、「東京エッグドームでは“入場者数五万六千人”を謳い文句にしており、昨日の試合でも確かに“五万六千の大観衆”とアナウンスされていた。なのに実際のチケットの売上げは47,237枚で、球団の発表する56,000には大きく届かない。これは明らかな詐欺であり、チケット売上げの差額を請求する」と―― 』

 人工幽霊が気を利かしてTVの電源をOFFにしたことにより、事務所には沈黙が訪れる。
 沈黙は、あまりに重かった。


 時を同じくして白井総合病院の産婦人科―― 美神美智恵もまた、TVの電源をOFFにすると、呟く。

「ふふ……ふふふふふふふふふふ。
 あンの……馬鹿娘―― 一体、誰に似たのカシラ?」
 そして、ややカタコトになりつつ、こめかみに青筋を浮き立たせた彼女は、歳の離れたもう一人の娘に対する教育を絶対に誤らないことを誓うのであった。
 中369日ッ(挨拶)!!
 というわけで、実に一年ぶりの問題作です。
 なんだ、この時間のかかり具合は?

 重ね重ね申し上げますが、この作品はフィクションであり、作者には特定の球団を貶める心算はありません。
 多分、きっと。
 
 でも、某オーナーは大嫌いなので、ハナから貶める心算はたっぷりです(きっぱり)。

 なにはともあれ、過去作品とともにこの一連の狂騒曲をお楽しみいただければ、幸いです。
【ぼーるぱーく・らぷそでぃ(前編)】(http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/html/9719.html
【ぼーるぱーく・らぷそでぃ・その2】(http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9810
【ぼーるぱーく・らぷそでぃ・その3】(http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=9966

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]