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Beast Gals 〜野獣の証明・前編〜

 朝の日差しがカーテンの隙間から差し込む。
 まだ閉じようとした目を擦りながら背伸びをした。隣の愛しい男に触れようと手を伸ばす。
 
 むにょん♪

 今朝もいい弾力。
 弾力?
 下半身に手を伸ばしているワケではない。下半身であっても朝は一部分は弾力はないはずである……いやいや手を伸ばしたのは上半身だし。
 閉じかけていた目を見開くと、シーツを捲った。
 自分と愛しい旦那の間に、かなりキワどいパンツだけの金髪の女性が入り込んでいた。

「お前という奴は……起きなさい! タマモ!!!」

 目立つお腹を気にせずに令子は叫んだ。
 パジャマ姿の横島忠夫は愛妻の怒鳴り声で跳ね起きたが、珍入者のタマモは声に愚図るように横島に擦り寄った。

「起きんか! このバカもの!!」

 ほとんど紐だけのパンツに包まれた(縛られた?)尻を蹴飛ばすと、旦那まで一緒にベットから落っこちた。








「義姉さん、朝から怒鳴ると胎教に悪いわよ」
「怒鳴らせているのは誰のせいよ!!」

 新婚家庭の朝食にちゃっかりとお邪魔しているタマモは、令子が用意したトーストに齧りついた。

「だいたい、なんであんたウチに来るのよ。ちゃんと家に帰りなさいよ」

 自分たちのトーストと目玉焼きをテーブルの上に乗せると、自分も椅子に座った。

「遅く帰っちゃうと、おキヌちゃん起きちゃうじゃない。寝不足は美容の敵よ。シロはどうでもいいけど」
「私らはいいんかい」

 コーヒーカップを片手にタマモを睨みつけた。

「それにこっちの方が学校に近いしね」
「夫婦の寝所に潜り込んでくる理由にならないわよ」
「だって義姉さん妊娠中じゃない。知ってる? 亭主の浮気って妊娠中が一番多いって」

 令子は横島を刺すような視線で睨みつけた。結婚した今となっては、令子も横島なのであるが……

「やってない、やってないって!!」

 令子の怖さを世界中で一番肌で知る男は、必死に否定した。

「他所でやるよりは、身内でやった方が安心でしょ? 後腐れないし」

 令子は椅子から立ち上がると、隣の部屋に行った。

「ん? どうした?」

 てっきり怒鳴ってくるとばかり思っていた横島は、隣の部屋に様子を見に行くと破壊音と共にリビングに弾き飛ばされてきた。
 神通棍を構え、頭に鉢巻を巻いた令子がリビングに駆け込んできた。

「タ〜マ〜モォ〜〜〜〜〜」
「学校行ってきまーす!」

 トーストを咥えると、玄関からでなく窓から飛び降りた。

「待たんかーーーーーーっ!!!」

 ミニスカートのまま、イエローに塗装されたV−MAXに跨った。

「バイク通学、禁止!!」
「そうだぞ! そのミニスカで乗るなーっ! パンツ丸見えになるぞ!!」
「注意するとこ、そこかーーーっ!!!」

 神通棍の一撃は、旦那に落とされた。





 結局V−MAXはマンションに置いて、歩いて学校へいった。
 自分の席につくと、すぐにシロが駆け寄ってきた。

「また昨日は帰ってこなかったでござるな」
「ん? 日付越えちゃったから、義姉さんのとこに泊まってきた」
「またでござるか? あんまり邪魔するでないでござるよ」

 呆れるようにそういうと、タマモはニヤリと笑った。

「いいのよ。義姉さん妊娠中なんだから、私が乱入した方が刺激になって」
「なんの乱入でござるよ」

 眉を歪めると、隣の席からイスを持ってきて座った。
 周りがざわつくと、シロはざわついた方を向いた。女子生徒がこちらを見て騒いでいる。

「人気があって宜しいですわね、シロお姉様」

 シロの耳元で囁くと、黄色い声が上がった。

「拙者だけでないでござるな……」

 耳を澄ませると、シロ×タマモ、いやタマモ×シロだの声が聞こえてきた。

「いや、拙者らは狼と狐であってネコではないのでござるが……」

 シロの呟きにタマモは頭を抱えた。







 学校が終ると、シロは事務所と反対方向へと歩き出した。

「ちょっとシロ、どこ行くのよ?」
「この前の仕事で一張羅破いちゃったんで、買い物でござる。付き合うでござるか?」
「遠慮しとく。バイク、義姉さんの所に置いてきちゃったから取りにいかないと」
「乗ってくればよかったのに」
「私はそう思ったんだけど、二人に止められてね。なんせパンツがこれだし」

 スカートのホックを外し、隙間からちらりとパンツを見せた。

「あ〜、フンドシでござったか」
「フンドシいうな!」
「まぁこれでV子ちゃんなんかに乗ったら、パンツどころか中まで丸見えの露出狂でござるな」
「あんたのスカート試着よりマシよ。尻尾しまうの忘れていつもパンツ丸見えじゃない」
「拙者は、パンツは普通でござるもん。お主のように半ケツだしてはござらん」
「半ケツいうな! ライン見えるよりマシでしょ、あんた見えないところに気をつかってこそのオシャレよ」
「なにがオシャレでござるか。ケバいだけがオシャレではないでござるよ」
「ほぉ〜……今の言葉、義姉さんに伝えておくわね」

 踵を返し事務所へと駆け出した。

「ま、待つでござる!! タマモーーー! 武士の情けーーーー!!!」

 振り返るワケはなかった。







 途方に暮れながら、ブティックで買い物をした。
 タマモに言われたことが気になったのか、尻尾は隠しておいた。気をつけてさえいたら隠していられるのだが、気を抜くとすぐに出てきてしまう。修行が足りないせいであろう。
 臨時収入があったおかげで、懐具合はかなりよかった。ジャケットだけを買うつもりであったが、それに合わせたスカートとブラウス、それとスーツも購入した。着替え終えると制服を袋に入れ、店をあとにした。

「おい、いい女だな。声掛けようか」
「バカ、お前なんか相手にしてくれるかよ」

 周りから声が聞こえてきた。
 
―――みたか、タマモ。拙者だってこれくらいは―――

「どうみても銀座に出勤途中だぜ」

 思わずつんのめってしまう。大人どころかお水と見られてしまったようである。

「うううう……学生カバン持っているのに」

 令子が制服着るよりはマシだろうと口から零れそうになると、路地から男が転がってきた。男はシロのジャケットに掴まると、その影に隠れようとした。

「た、助けてくれ」

 誰かに追われているようで、顔が赤く腫れあがっていた。その手を振り解くと、ハンカチで血を拭った。

「放すでござるよ。買ったばかりのジャケットが汚れるでござるよ」

 冷めたような目を男に向けると、追いついてきたチンピラ風の男たちが路地に連れていこうとした。蹴りを数発いれると、男は抵抗する気が失せたようだ。

「待つでござる」
「あ〜? 姐ちゃん、それは俺たちにいったのか?」

 シロは鞄を置くと、ジャケットの前を開けスカートを見せた。

「そのガキ蹴ったときに、血が飛んだでござるよ。クリーニング代払うでござるよ」
「犯すぞ、このアマ!」

 男を一人に任せると、三人でシロを囲んだ。

「御託はいいから払うでござるよ」

 まったく動じないシロの襟首を掴むと、ドレッドヘアーの大柄な男が走ってきた。

「あ、兄貴」

 言い終わらないうちに、シロを囲んだ三人はドレッドに一発ずつ貰っていた。

「すいません、教育が足りませんで。スーツは弁償させていただきます。おい、買ってこい!」

 シロに頭を下げると、倒れている男を怒鳴りつけた。男はシロが購入した店へと走っていき、もう一人は捕まえていた男を逃がしてやった。

「誰なんですか、この姐さん」

 ドレッドの耳元で男が囁いた。

「“狼人(ローニン)”知らねぇのかよ」

 聞いた男は、驚きのあまり数歩下がった。
 ドレッドの襟首が掴まれ、締め上げられた。

「その名前で呼ぶんじゃない」

 狼にもじってそう呼ばれているのだが、留年してしまったせいもあり『浪人』といわれているようで気にいらなかったらしい。

「姐さん、買ってきました。13ご」

 ドレッドを放り捨てると、ブティックの袋を抱えてきた男を高く吊るし上げた。

「9号」
「いや、店員は確かに13ご」
「きゅうごう!!」

 13と書いて、「きゅう」と読め!! シロの目はそう語っていた。

「き、九号です、九号を買ってきました!」
「よろしい♪」

 手を緩め男は落とし、ブティックの袋は掴んだ。

(これでスーツ、一着浮いた)

 心の中でニンマリと笑うが、もろに表情にでていた。
 ドレッドは思わず2、3歩後ずさった。

「ところで……その男は、なにやらかしたでござるか?」

 ようやく立ち上がろうとしていた男を見下ろした。

「“MDMA”ですよ。俺らのシマで売人探してました」
「中毒には見えないようでござるが……」

 視線を向けていると、男は慌てて立ち上がりそのまま路地の方に走りだした。

「待て、こら!」
「待て!……追ってはマズいでござるよ」

 一喝すると、男達は立ち止まった。

「どうしました、姐さん」
「表で良かったでござるな……人目がなかったら、お主ら殺されていたでござるよ」
「俺らがですか?」

 プライドに触ったらしく、眉を歪め睨むような目付きをシロに向けた。

「あの男は人外でござるよ。妖怪、モノノケの類、お主らの手には負えないでござるよ」

 皆、一斉に男が走り去った路地の方を向いた。

「姐さん!」
「探していただけでござろう? 買ったワケでもないし、それだけでは警察も動くワケはないでござる。非常線張られても迷惑なだけでござろう?」
「ですが……」
「スーツ代のことだけはやらせてもらった。良かったでござるな、高い命で」

 目を細め口元を緩めると、ドレッドは頭を下げるしかなかった。


 
 


 真っ直ぐに事務所へは行かずに、向かいのビルへと入った。
 一人だと西条のテーマは歌わなかった。少しだけ寂しそうな事務員たちと挨拶を交わすと、西条の部屋を開けると、壁を叩いた。

「ノックというのは、部屋に入る前にするもんだがね」
「固いことはいいっこなし。男は下半身だけ固くしていればいいでござるよ」
「女子高生の科白じゃないな……」
「ちゃんと女子高生でござるよ。ちなみにコウは木辺に交わるの校ではないでござるよ」
「おっさんか君は」

 西条のデスクに近づくと、パソコンを覗き込んだ。

「オバハンといわれるよりはマシかもしれんでござるな」

 マウスに手を掛けていた西条の手を握った。

「何をする気かな?」
「残念ながら色気のある事でないのは確かでござるな」

 ファイルを開き、データを展開した。検索キーをクリックして、より深い情報を抽出した。

「あ〜、いたいた。コイツでござる」

 漢字だらけのファイルに貼り付けてあった画像を指差した。

「中国の妖怪じゃないか。これがどうしたのか?」

 西条の手を離すと、カバンと紙袋を手にドアへと向かった。

「ブクロにいたでござるよ。合成麻薬の売人を探していたでござる」
「またやっかいなのを……」

 西条はキーボードを叩き、より詳しい情報を収集しだした。

「どうする? 調べておこうか」
「逆。見たまんまの情報を知らせただけでござるよ」

 左手をひらひらと動かすと、シロは部屋を後にした。


 

 部屋に戻り荷物を置き、着替えを済ませると事務所へと下りた。

「ただいまでござる」
「おかえり〜」

 令子は机に向かい書類を整理し、タマモはソファーの上で携帯電話をいじっていた。

「先生とおキヌ殿は……」
「仕事。安っっすい仕事なんだけどね」

 ボールペンで頭を掻きながら、令子が呟くようにいった。
 台所に行き、自分用のお茶を注いできた。日本茶であり、あくまでもお茶であった。
 ソファーに座ると、音をたてて啜った。

「ババ臭いわね」

 タマモは携帯電話から目を離さなかった。

「熱いものを一気に飲み干すほどバカじゃないでござるよ」
「冷めてから飲めばいいじゃない」
「冷めたら美味しくないでござるよ」

 口を尖らせながら、携帯電話を閉じるとタマモはソファーから立ち上がった。

「どこに行くでござるか?」
「タ・バ・コ」

 携帯電話の代わりにシガレットケースを軽く振ると、ドアの外に出て行った。

「吸ってら〜」

 ソファーの上に足を投げ出すと、天井を仰いだ。

「ところでさ」

 書類に目を向けたまま令子がいった。シロが令子の方を向くと、視線だけをこちらに向けた。

「誰がケバいって?」

 それはもちろんあなたの事です……とは言えるワケはなかった。お腹の大きな夜叉がこちらに向かいにっこりと微笑んでいた。








 事務所の外で煙草を吸っていたタマモは、シロの悲鳴を聞くとククっと笑った。
 目の前のビルから西条がこちらに向かい歩いてきた。

「シロ君はいるかね?」
「もうちょい待った方がいいわね」

 西条の問いにタマモは、紫煙で応えた。
 令子の怒鳴り声とシロの悲鳴が聞こえてきた。

「そのようだね」

 西条が煙草を咥えると、タマモは狐火で切先に火をつけた。



 煙草を吸い終えると、タマモと西条は事務所へと上がった。シロの悲鳴は止んでいた。

「いいかい?」

 ノックをしてドアを開けた。左足をカットしたジーンズのシロだが、その破れはかなりのものになっていた。

「強姦されたみたいよ、あんた」
「お主のせいだろーが!!!!」

 最初から買い物に行くつもりだったので、パンツはやや勝負気味である。ジーンズには不似合いなレースが見えていた。

「見ちゃいやん♪」

 ブラの紐を隠し体をくねらせるが、西条は気にする様子もなくソファーに座ると書類を放った。

「スルーね」
「スルーしたわね」

 こういうジョークは流されるのが一番辛い。シロは固まってしまった。

「僕も、そうヒマじゃないんだ。タチの悪い冗談は横島くんにやってくれ」
「ノリが悪いでござるな〜。だから毒芯なのでござるよ」
「今、なんとなくイントネーションが違ったような気がしたが、気のせいかい?」
「考え過ぎでござるよ」

 西条は口を歪めると、書類を指差した。

「さっきの件なんだが、面倒なことになりそうだ」
「面倒なことね」

 書類を手にすると、眉を歪め文字を追った。

「これって……」
「そう、人身売買組織だ」

 深い溜息の返事が聞こえた。西条の言葉に真っ先に反応したのは令子であった。

「あんた、また面倒事持ち込む気なの?」

 シロは書類を横に振った。

「街で妖怪見かけたんで、お知らせしただけでござるよ」
「ブクロで?」
「そう、ブクロで」
「また妙なところで見つけたわね。ジュクならともかくブクロに妖怪は似合わないわ」

 タマモはコーヒーを西条の前に置くと、自分のカップに口をつけた。

「で最近の人身売買組織は、人間だけでなくモノノケを扱っていると?」
「正確にいうと“人外”売買組織だな。それ専門だ」
「また面倒なことを。ほんっと人間っておもしろいわね」

 シロの後ろに行くと、書類を覗き込んだ。

「分かっているのにオカルトGメンは手をださないの?」

 二人に関わらせたく令子は、牽制するかのようにいった。

「法律が無い。人外を売買してはいけないという法はまだ制定されていないんだ」
「人はともかく、それだと私らってメキシコスッポンやガラパゴスゾウガメやジャイアントパンダやベンガルオオトカゲやボリビアナマケモノに劣るっていうのかーー!!」
「妙に詳しいキレ方するんじゃない!!」

 涙ながらに西条に迫るタマモだが、即座に返されてしまった。

「ワシントン条約で保護されている絶滅危惧種を並べるという変なキレ方は止めたまえ。先生が動いてはいるが、法ができるのは最短でも3ヶ月は掛かる。それに国際的に禁止したとしても、動物と同じで密輸は無くならないだろうしね」
「めんどくさ」

 シロの横に座ると、足をテーブルの上に投げ出した。

「人外というのは種類が多いからね。いかにもな人外もいれば、君たちみたいに人間と変わりない者もいる。売買だけでなく、人と同じように稼ぐことができる者もいるからね」

 何がとは誰も聞かなかった。

「とりあえず法的には警察は動かない。動くのは我々だけだが、逮捕する法がない」

 掌を叩く音が二度ほど響いた。

「なんか楽しそうな話だな」

 アタッシュケースを手に、横島が部屋の中に入ってきた。

「おかえりなさい」
「た〜だいま」

 アタッシュケースを机の上に置くと、シロの横に座ると渡された書類を目にした。

「お茶いれますね」
「悪いわね、帰ったばかりなのに」

 気のつかない獣娘を令子が睨むが、おキヌはにっこりと笑うとキッチンへと向かっていった。

「めんどくさ……たまには金になる仕事もってこいよ」

 書類をテーブルの上に放った。

「シロ君の情報がどういうものか教えに来ただけさ。事件になっていない以上は、僕らは動けないし、君ら民間も金になるものじゃない」
「その通りなんだけどな……」

 煙草を手にするが、令子の方をチラリと見るとそのまま元の位置に戻した。




 西条と入れ違いに、トレーを持ったおキヌが部屋に入ってきた。
 横島にはコーヒー、令子には紅茶を渡した。紅茶を口にしながら令子は、西条が置いていった書類に目を通した。

「また胡散臭そうな相手ねぇ……取り扱っているブツがブツだけに、どうせ厄介なもの抱えているんでしょうね」
「だろうな。自分より弱い相手に大人しく従っているなんて、どう考えても不自然だしな」

 カップを手にしたまま部屋の外へと歩いた。

「先生、どこへ?」
「煙草よ」

 横島でなく令子が応えた。

「変なことには首突っ込まないでよ。面倒は御免だわ」
「私は突っ込まないわよ。だってメンドクサイじゃん」
「でござるな。面倒事は御免でござる」

 二人の言葉に、令子は眉間に皺を寄せるとカップに口をつけた。























「え〜っと、なになに……都内に戒厳令か? 殺人事件相次ぐ。この2×日から2×日までの3日間で十件の殺人事件。同一犯の可能性は低いようだが、警察は関連性を調べていると……はぁ〜、物騒だねぇ」

 横島は朝の食事のテーブルについて新聞を広げると、コーヒーを啜りながら呟いた。

「物騒なのはアンタじゃない。朝の食事の最中に不気味に笑わないでくれる? 胎教に悪いわ」

 トーストをテーブルの上に置きながら、令子が不機嫌そうにいった。

「こりゃ失礼」

 新聞を閉じると、大きなお腹を摩った。

「何か気になることでも?」
「いや、この前の西条が持ち込んできた厄介事、金になりそうだな」
「どれくらい?」

 テーブルの上にずいと体を乗り出した。

「ぼちぼちって所か? このご時世だ、無いよりはマシだろう」
「な〜んだ。儲け話じゃないのね」

 イスに座り直し、トーストに齧りついた。

「オカGから回ってくる前に手ぇ付けた方がいいな。面倒だけが増えるだけだしな」
「そりゃそうなんだけどさ……」

 口篭るように呟いた。

「どうした? あんまり乗る気じゃないな」
「まぁね。どうせあの娘らが動くんでしょ、動くなっていってもどーせ聞かないだろうし」
「分かってるじゃないか」
「義理とはいえ私の妹と、あんたの弟子だもん。人の言う事なんて聞かないに決まってるじゃない」

 令子の言葉に苦笑しながらトーストを齧った。

「人外とはいえ、まだ未成年よ。あんまり危ないことやって欲しくないんだけどな」
「俺らが言うと説得力が無いって」
「無いかなぁ〜、やっぱり」
「ましては、アイツらは人の血の味を知った獣だぜ。たまに抜いてやらねぇと、暴走しかねないからな」

 オレンジジュースを口に運んだ。カフェインは控えているらしい。

「あんたがいうと、なんか卑猥な響きがあるんだけど」
「そんな発想する人がもっと卑猥だと思うが……」
「そりゃ〜ね、お腹こんなでご無沙汰だしさ」

 拗ねたように顔を背けたが、耳が赤くなっていた。

「あらあら、奥様ご機嫌斜め?」
 
 からかうように笑うと、テーブルの下で足を軽く蹴られた。

「まったく朝から困ったお姫様ですね」

 立ち上がると令子の側に行き、体を抱き起こした。

「遅刻しちゃうけど、いいかな?」
「いいんじゃない、私もだから」




































「いや、それは困るんだけどさ」

 突然の声に二人はぎょっとして、声のする方を向いた。
 ベランダにぶら下がりタマモが二人を凝視していた。固まっている二人を尻目にタマモはベランダから部屋の中に入ってきた。

「二人とも若いわねぇ〜。朝から元気のよいことで」
「げ、玄関から来なさいよ!!!」
「そうだ! 下からパンツ覗かれるぞ」
「またパンツかい!!!!!」

 令子の怒りの矛先は旦那へと向かった。




「で! 朝から何なのよ。学校遅刻するわよ」

 乱暴に突き出されたコーヒーを受け取ると、タマモはカップに口をつけた。

「この前の件、義母さん動くわよ。今朝おキヌちゃんにひのめあずけていったわ」
「いったってどこに?」
「ICPO本部」
「国際法制定しようっていうの?」
「そうみたい。日本の政治家動かないんで、外交圧力でいくんでしょ」
「我が親ながらあいかわらず強引ね」
「まぁね。義母さんならいつかはやると思っていたけどね」
「それだけ政治家が動かなかったってワケか。金持ちに囲われているからね、日本の政治屋は」

 二人が話をしている間、横島はイスに座ったまま腕を組んで無言であった。

「どしたの? アニキ」
「さぁ?」

 目が見開いて二人をギロリと睨んだ。
 大型肉食獣のようなギラついた目を向けると、二人は思わず体が竦んだ。

「朝+さっきので、たってるからたてん!!!(あえてひらがな)」
「そっちかい!!!!!!!」

 姉妹のダブルパンチで、横島は朝から星になった。







 2時限目の休み時間にタマモは学校にやってきた。
 自分の席につくと、カバンを放りイスに跨り後ろを向いた。

「この前の件、金になりそうよ」

 次の授業の教科書を出しながら、シロはタマモの顔を見た。

「向こう絡み?」
「いんや。ウチの仕事」
「ウチの仕事でござるか〜……テキトーにはできないでござるな」

 頬杖をつくと、溜息をついた。

「流れからすると……ね」
「民間に持ち込まれた時点で、どちらの流れというのは簡単に分かるでござるよ」
「ほ〜、少しは頭を使えるようになったのね」

 髪の赤い部分をコンコンと叩いた。

「お主が小賢しいだけでござるよ」
「いってくれるじゃない」

 顔を近づけると口を耳元に寄せた。

「分かっていると思うけど、おキヌちゃんの参加は無しで、アニキも手ぇ抜いてくれるわ。……月夜じゃないのが残念だけど、久しぶりの“狩り”よ。楽しみましょ」

 耳元から口を離すと、口元をつり上げた。

「それは何よりでござるが……離れた方がいいでござるよ」
「は? 極上のネタ、聞かれてもいいっていうの?」
「いや、そうでなくて」

 シロが目線を別の方に向けると、タマモもそれに従った。
 遠巻きに固まっていたクラスメイトたちが、顔を赤く染めながら黄色い声を上げていた。女子校特有のアレである。

「あ〜……ネタはネタでもアレのネタか」
「そう、アレでござるよ」
「そういえばさ、あんたがメシ食った後に捨てた割り箸がすぐに無くなるってホントなの?」
「調べたことないでござるよ……お前も、体操服無くなったのって見つかったでござるか?」

 二人の間に妙な緊張感が生じた。

「濃いわね」
「濃いでござるな」

 額から大粒の汗が流れた。

「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!恋だって!!!!」
「そっちじゃない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 叫ぶのと同時に、担任の鬼道の鉄拳が飛んだ。





 ――― 後編に続く ―――

危険な夏の続編、といいますか設定そのままの作品です。
今回はバイクもガンアクションも控えめですが、精神的な野獣を目指しています。
どこが??というツッコミは重々承知しておりますが、シリアスシーンでは! というところで勘弁してくださいw


http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10496  Beast Galsシリーズ1 危険な夏前編
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10512  Beast Galsシリーズ1 危険な夏後編

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