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第4のチルドレン【7】

 「カオル先輩・・・・・・どこ・・・・・・ですか?」

 ドリーは虚ろな表情で閉鎖区域を彷徨っていた。
 自己催眠による極度の集中が、彼女に冷静な判断力を失わせている。
 彼女の意識は、薫たちと共に戦うという思考一色に塗りつぶされていた。
 何回かの戦闘に勝利したドリーは、薫たちとの合流を目指し先を急ぐ。

 「はやく・・・・・・合流しないと・・・・・・ッ!」

 「チッ、邪魔しに来やがったのかいッ!!」

 調理スタッフに紛れ侵入したのだろう。
 通路の影から姿を現した割烹着姿の中年女性が、こちらへロケットランチャーを身構えるのが見えた。


 ―――カオル先輩なら・・・・・・


 ドリーの脳裏にサイコキノの能力がイメージされる。
 眼前に展開する力場による障壁が、撃ち込まれたロケット弾による衝撃と爆風から彼女を守っていた。
 そのまま押し出すように障壁を前に移動させると、ドリーは驚愕に目を見開いていた女を壁に押しつけ更に力を加える。

 「ばっ、化け物・・・・・・た、たすけ・・・・・・がはッ!!」

 ドリーの念動によって圧迫され、恐怖の相を浮かべながら女は意識を失った。
 集中を解こうとしたドリーの意識は、気絶する直前に女が呼び寄せた新たな敵に警戒信号を鳴らす。
 曲がり角から姿を現した二台の多脚砲台が、機銃の銃口を彼女に向けている。
 センサーのレンズがニヤリと笑ったように光った。


 ――― さっきの攻撃では一台しか倒せない・・・・・・


 先程の攻撃では、一台を潰している間にもう一台の攻撃を受けてしまう。
 そう判断したドリーは再び自分の前に念動の障壁を展開した。








 ―――――― 第4のチルドレン【7】――――――







 嵐のような銃撃だった。
 二台の多脚砲台が行う機銃による攻撃が、ドリーの目の前で固い金属音を立てながらはじかれていく。
 一見すると薫と遜色ない念動によるバリア。
 しかし絶え間なく襲いかかる着弾の衝撃に、ジリジリと後退したドリーは壁際へ張り付いてしまう。
 その衝撃で彼女のベレー帽が床に落ちた。
 
 「全く・・・・・・戦術も何もあったものじゃないね」

 ヒュパッ! 

 窮地に陥ったドリーがそう声をかけられた刹那、多脚砲台の後方に学生服姿の男が突如現れた。
 テレポートしてきた男―――兵部京介は間近で聞こえる重火器の発射音に顔をしかめながら、指先を一本だけ立てる。
 その指先に沿うよう、細く研ぎ澄ませた念動で無造作に動力部を斬りつけると、それだけで全てが終わっていた。

 「また会ったね。それもこんなに早く・・・・・・」

 兵部の横ではエネルギーの供給を絶たれた多脚砲台の銃座が、カラカラと惰性で回る音を立てている。
 数秒後、完全に沈黙した多脚砲台を眺めながら、沈黙を保ち続けていたドリーが小さな声で呟いた。

 「・・・・・・・・・また・・・・・・・会った?」

 「忘れているとは酷いな・・・・・・折角、助けてあげたのに」

 「忘れてる? 誰・・・・・・?」

 エレベーターで会ったことを忘れてしまっているのか、兵部に対して初対面のように振る舞うドリー。
 彼女の瞳に微かな違和感を感じた兵部は、その表情を曇らせた。

 「不憫な、やはり弄られているのか・・・・・・許さんぞエゲレスめ」

 「エゲレスを許さない? ・・・・・・エゲレスの敵!?」

 兵部が口にした言葉に、過剰な反応を示したドリーの目が怪しく光る。
 その目の光を捉えた瞬間、兵部は荒れ狂う水流に呑み込まれた。
 彼を包んでいるのは自分を激しく翻弄する激流の幻覚。
 しかし、幻覚を見せられている本人にとって、それは本当に溺れてしまうほどのリアルな質感を伴っていた。

 「クッ! 苦しい・・・・・・」

 喉を押さえ苦しげにその場に膝をつく兵部。
 しかし、その何処か芝居がかった苦悶の表情は長くは続かなかった。
 彼は子供をからかうような人の悪い笑みを浮かべつつ、何事も無かったかのようにその場に立ち上がる。

 「・・・・・・なんて、言うとでも思ったかい? やはり君はヒュプノ能力者だったようだね」

 「!!」

 「レベル以前に、ヒュプノは人の虚をつくタイミングが必要でね・・・・・・なかなか使いどころが難しいんだよ」

 自身の得意技を受け付けない兵部に、驚いたドリーは距離を取るように飛び退る。 
 コンパクトを取り出した彼女に、兵部は怪訝な表情を浮かべていた。

 「そんなもの取り出して、魔法使いにでも変身・・・・・・なにッ!!」

 場違いとしか思えない行動を揶揄しかかった兵部は、その後ドリーに起こった変化に言葉を失っていた。
 彼の耳はコンパクトが発する人の可聴領域限界付近の耳障りな音を捉えている。
 記憶を遡るように立ち尽くした兵部の目の前で、ドリーは確かに変貌していた。
 外見は一切そのままで、彼女の中にある力のあり方がその姿を変えていく。
 棒立ちの兵部に加えられたのは、壁に叩きつけようとする容赦ない念動の圧搾だった。

 「グハッ! これはクイーンの・・・・・・まさか、あの方法を」

 壁にめり込んだ兵部は、信じられないものを見るような目でドリーを見つめる。
 彼女の瞳には出会った時に感じた恐れや警戒―――過去に彼が保護した幼いエスパーに共通した感情は感じられない。
 ドリーの瞳に窺えたのは、ただ力を出し続ける無機的な光だけだった。 

 「私は、レベル7になる・・・・・・カオル先輩のように強く・・・・・・」

 「やめ・・・・・・ろ・・・・・・それ・・・・・・は」

 自分に言い聞かすようなドリーの呟きに、兵部は彼女の能力が暴走しかかっていることを理解していた。
 力の使用を止めるよう呼びかけようとするが、彼を戒める圧搾は益々その力を強めていく。
 兵部の苦悶をあざ笑うかのように、ドリーのコンパクトは耳障りな音を立て続けていた。

 「やめ・・・・・・グハッ!」

 苦しげな声を残し、意識を失った兵部の姿が精巧な人形に姿を変え崩れ落ちる。
 ドリーの瞳に生じた一瞬の意識の揺らめきを逃さぬよう、虚空から姿を現した兵部は彼女が手にしたコンパクトをはたき落とすと全力でヒュプノを叩き込んだ。

 「ッ!!」

 ドリーの頭をしっかりと抑え、間近で瞳を覗き込む兵部。
 凄まじい意識のせめぎ合いの後、意識を失ったドリーはその場に崩れ落ちる。
 兵部がどのような催眠をかけたのか、その顔は子供の寝顔のように安らかだった。

 「そうだ・・・・・・君はもう少し時間をかけて大人になった方がいい」

 彼女を抱き止めた兵部は、困惑の表情を浮かべつつ破損し床に転がったコンパクトを見つめていた。
 
 「しかし、何故エゲレスにこんなものが・・・・・・」

 「あー、折角、影武者用に作ったのに・・・・・・壊すなんて酷いじゃないですか。少佐」

 通風口から聞こえた場違いなほど甲高い声に、兵部は天井へと視線を移す。
 ダクトの隙間から顔を覗かせたモガちゃん人形が、兵部を模した精巧な人形が破損している様を悲しそうに見つめている。
 どうやら先程身代わりにした人形は、牢を抜け出す時用に九具津が作った物らしかった。

 「影武者はもう必要ないよ・・・・・・少し早いが脱走することにした」

 「え! じゃあ、いよいよ本格的な活動をするんですね」

 「ああ、九具津。君には引き続きバベルの内情を探ってもらうけどね」

 「了解です! でも、それならばその少佐人形が勿体なかったな・・・・・・澪ちゃんや大鎌氏が欲しがっていたのに・・・っと!」

 殺気混じりの視線を受け、モガちゃん人形が口を噤むように口の前へと両手を当てる。
 作成者である九具津の拘りか、20センチの身長にこれでもかと組み込んだ、21箇所を優に越える可動部分が無駄に滑らな動きを実現していた。

 「今回は役に立ったから許すけど、ふざけた目的で僕の人形を作ったら・・・・・・」

 兵部はこう呟きながら、自分に模した人形を何処かにテレポートさせた。
 九具津の関与をバベルに悟らせないためでもあったが、その行為は九具津を大いに慌てさせる。
 彼は己の作品が壁の中で石と同化したことを理解していた。

 「わっ、分かりました。肖像権って大切ですからねっ!! ・・・・・・し、しかし、それだけの依り代を使わないとヒュプノをかけられなかったんですか?」

 「ああ、この子はかなり特殊なヒュプノみたいでね・・・・・・それに、暴走しかかってた」

 「だからレナルドという男が、慌てて探してるんですね。今、【普通の人々】との戦闘で足止めされてますが」

 「悟られないように手伝ってやれ・・・・・・今のところ、この子にはその男が必要らしい」

 「え!?」

 予想外の兵部の指示に、モガちゃんが驚いたような仕草をした。
 気まぐれで行動を読みにくい上司ではあったが、彼のノーマルへの態度は徹底している。
 それがなぜノーマルの、しかも担当エスパーの少女から目を離し、暴走を誘発したような男を助けるのか。
 九具津は兵部の真意を測りかねた様に質問を口にする。

 「そりゃ、ECMの影響を受けない天井裏のダクトからなら援護射撃くらいは出来ますが・・・・・・僕はてっきり、少佐がその子を連れ帰ると思ってました。澪ちゃんの様に・・・・・・」

 「ああ、最初はそうするつもりだったが事情が変わった。一応、しばらくは暴走しないようにヒュプノをかけておいたけど、この子には気になることがあってね・・・・・・後ろにあるモノが分かるまで泳がせることにするよ。九具津・・・・・・すまないが、引き続きこの子の周囲を探って欲しいんだけど頼めるかな?」

 「い、嫌だなぁ。いつもみたいに命令してくださいよ・・・・・・・・・」

 いつもと異なり遠慮がちな兵部に、九具津は緊張の度合いを高めていた。
 
 「・・・・・・・・・そんなに危険なんですか? この子のバックボーンは」

 「わからない・・・・・・しかし、嫌な予感がするんだ」

 「少佐の嫌な予感・・・・・・」

 九具津のとった行動なのか、モガちゃんがゴクリと唾を飲み込む仕草をした。

 「でも・・・・・・その任務って、バベルに入り込んだ僕じゃなきゃ出来ない任務ってことですよね。任せてください! パンドラの仲間のために一命をかけて頑張ります」

 「アジトに戻ったら8号に予知させてみるが、これだけはハッキリ言っておく。危険を感じたらすぐに逃げろ。安全を確保するためなら投降してもいい。勝手に死ぬことは僕が許さない・・・・・・これは命令だ」

 「・・・・・・了解しました」

 九具津は声の震えを極力抑え兵部の命令に答えた。
 敬愛する上司のために、彼はダクトの数カ所に潜り込ませているモガちゃん人形に拳銃を運ばせレナルドの所に集結させようとする。
 そのうちの一体が【ザ・チルドレン】の戦闘現場付近を通りかかり、彼女たちの状況を九具津に伝えていた。
 
 「少佐、ここは僕に任せて・・・・・・【ザ・チルドレン】の旗色が良くありません。指揮官不在の状態だと、対超能力戦の訓練を積んだ者の相手は厳しいみたいですね」

 「分かった・・・・・・」

 兵部は抱き止めていたドリーをそっと床に寝かせると、複雑な表情でドリーの頬をそっと撫でてからテレポートしていく。
 それは彼女への対応に、彼自身迷いがあることを表していた。









 



 「クソッ! これ程の侵入者を許すとは、最新鋭の収容施設が聞いて呆れる」

 容赦ない弾幕に行く手を阻まれているレナルドは、打ち尽くした弾倉を交換しながら悪態をつく。
 戦闘を覚悟し多少の装備は固めたものの、機銃を装備した多脚砲台の前には蟷螂の斧でしかない。

 「しかし、一刻も早くドリーと合流しなくては・・・・・・あのアップリフト装置は危険なまでに強化されているらしい」

 ドリーの暴走を予感したレナルドは、焦りの表情を浮かべていた。
 先程ソフィアから与えられたコンパクトには、危険なまでにドリーの能力を上昇させる装置がついていたと彼は考えている。
 テロメアのコントロールによる不老化。
 自分と異なり、ソフィアがドリーに求める能力はその一点に集中している。
 【普通の人々】の装備を知りながら、自分とドリーを何の躊躇いもなく戦闘に参加させる彼女の狂気とも言うべき恐ろしさを、レナルドは改めて実感していた。

 「ドリーに対してもこの扱いだとすると、私の替えはいつでも用意出来ると言う意味なのだろうな・・・・・・」

 ソフィアにとって、自分はドリーを操るために都合のいい駒に過ぎない。
 本来、彼女を不幸な環境から救い出すのはソフィアの役割だった。
 そしてドリーの心に強く刷り込まれたソフィアへの恩義は、ドリーが強力なエスパーに成長した後も彼女の心を縛る軛となる。
 しかし、そのタイミングを計る最中に突発的に起こった小児性愛者の舞台への乱入は、ドリーのみならず単なる監視役だったレナルドの運命も一変させていた。
 類い希な成長を可能とするかも知れないヒュプノ能力者の少女。
 意図せず彼女の心を縛る役割をすることになったレナルドではあったが、その役割は彼の立場を盤石のものにした訳ではないらしい。
 過去、ソフィアに切り捨てられてきた者たちの末路を思い出し、レナルドの顔に恐怖の相がほんの一瞬だけ浮かんだ。

 「だが、私にもそれなりの野心がある・・・・・・みすみす切り捨てられはせんよ」

 レナルドは迷いを打ち切るように多脚砲台の機銃掃射のタイミングを計る。
 エゲレスの兵器開発部で見たスペック通りなら、銃弾を撃ち尽くしたあとに行う弾倉の再装填のため、次の銃撃まで約2秒の間隙が出来る筈だった。
 待ちかまえていた間隙が訪れた瞬間、レナルドは一瞬の躊躇もなく多脚砲台の前に飛び出す。
 僅か2秒の時間に出来ることは僅かしかない。
 銃身の脇にある照準用のセンサーに銃撃を撃ち込み、攻撃ルーチンの変更によるタイムラグを更に3秒生み出す。
 手に入れた5秒の間に彼は多脚砲台の足下にスライディングの要領で滑り込んでいた。

 
 ―――後は動力系を止めれば・・・・・・


 多脚砲台の死角である真下に滑り込んだレナルドは、標的をロストしたソレが移動を始める前に装甲の隙間から銃身を差し込む。
 奇しくもそこは先程兵部が破壊した箇所と同一だった。
 乾いた拳銃の音に沈黙する多脚砲台。
 しかし、安堵の表情を浮かべかけたレナルドは、間近で聞こえた駆動音に戦慄する。

 「しまっ・・・・・・!!」

 向けられた銃身に咄嗟に体が反応する。
 幸運にも彼に容赦ない銃弾を浴びせるはずだった銃身は、数秒間のタイムラグの最中にあるらしい。
 天井のダクトから撃ち込まれた一発の弾丸が、彼に生存の機会を与えていたことに気づかないまま、多脚砲台の足下に飛び込んだレナルドは、同様の方法でもう一台の多脚砲台も沈黙させていた。

 「跳弾か? いや、それにしては・・・・・・」 

 沈黙した多脚砲台から這い出したレナルドは、銃弾によって破損した多脚砲台のセンサーを不思議そうに眺める。
 周囲を見回した彼だったが、救い主の姿は見あたらなかった。
 そして、通路の奥にドリーのベレー帽を認めた彼は、自分が真っ先にとるべき行動を選択する。
 通路の端に駆け寄り、影から様子をうかがった彼は通路中央に横たわるドリーの姿を発見した。

 「ドリーッ! 無事かッ!!」

 彼らしくもない大声を張り上げ、レナルドはドリーに駆け寄った。
 彼女の口元を凝視し、呼吸があることを確認した彼は、油断無く周囲を窺いながら状況の把握に努める。 
 当座の危機が存在しないことを確認した彼は、ドリーの体を近くで活動を停止していた多脚砲台の影に隠れるように移動させる。
 頭部に外傷が無いことを確認してから、レナルドは過度の衝撃を与えないよう注意しつつ軽く彼女の肩を揺さぶった。

 「目を覚ませ、ドリー」

 「ん・・・・・・」

 レナルドの呼びかけにドリーはその目を開く。
 目覚めのような感覚が彼女を包んでいた。 

 「レナ・・・ルド・・・・・・また、助けてくれたんですか?」

 「そんなことはどうでもいい。私とはぐれてから何があった!?」 

 ドリーの感謝の視線に気がつかないように、レナルドはドリーに状況の説明を求めた。
 彼女のすぐ近くで沈黙していた多脚砲台が、彼にある予感を感じさせている。
 最小範囲に絞り込まれた攻撃で、ピンポイントに動力部を破壊されている多脚砲台はドリーの仕業とは思えなかった。

 「よく・・・・・・覚えていません。でも・・・・・・」

 「でも? どうした・・・・・・」

 暴走中の記憶は失っているのか、ドリーは記憶をまさぐるようにじっと目を閉じる。

 「学生服に銀髪の・・・・・・そう、その学生服の男の人とドリー戦いました」

 「なにッ! キョウスケ・ヒョーブと戦闘を!?」

 ドリーの報告に、レナルドは掛け値無しに驚きの表情を浮かべていた。
 今回の目的はあくまでも戦闘ではなく、ドリーを兵部と接触させることだった。
 レベルの違いすぎる相手との戦闘は、最悪取り返しのつかない事態を招きかねない。
 先ずは収監されている兵部に興味を持たせ、戦闘はレベル7の力を発動できるようになってから。
 それに明石薫への興味のように自発的な憧れを抱くようになれば、念動を手に入れた時と同じく自然にテロメアのコントロールを身につける可能性もある。
 ソフィアの矢のような催促を、レナルドはその理由でかわし続けていた。

 「良く無傷で済んだものだ・・・・・・情報部の分析通り、エスパーには甘い男というのは本当のことだったのか」   
 
 「キョウスケ・ヒョーブ・・・・・・」

 ドリーは床に転がったリミッターに目を落とす。
 彼女の視線を追ったレナルドも、破損したソレに冷ややかな視線を向けていた。

 「不思議な・・・・・・人です。エゲレスの敵なのに優しそうで・・・・・・ドリーに大人になるのはもっとゆっくりでいいって・・・・・・」

 「その点については考えを改めなくてはな。暴走中、ヒョウブに会えたのは幸運に過ぎない」

 レナルドは忌々しげにリミッターを踏みつぶす。
 その行為に、ドリーが顔をほころばしたことに彼は気付かなかった。

 「ドリー、ヒョウブと戦って何か収穫はあったか?」

 それは単に惰性としての確認だった。
 兵部がドリーを傷つけないことが分かった今、順調に成長を重ねていればそのうちチャンスは巡ってくると彼は考えている。
 だからこそ、力なく首を振ったドリーをレナルドが責めることは無かった。

 「まあいい・・・・・・無事ならばまたいつか会うこともあるだろう」

 これ以上の行動は得るものが無いと判断したレナルドは、ソフィアに兵部との接触と収穫無しの報告をするべく出口を目指す。
 そこで彼らが目にしたのは、完全に破壊された外部への防御壁と暴走を始めた明石薫の姿だった。









 それは空間が歪むような力の奔流だった。
 明石薫を中心とした激しい力の放出は、周囲の全てを粉々に破壊したあとも一向にその力を弱めようとしない。

 「こ、これがレベル7・・・・・・」

 レナルドは初めて見たレベル7の力に、恍惚にも似た表情を浮かべていた。
 薫の力を抑えようと、人質から解放されたらしき皆本を始め、葵、紫穂、が必死に呼びかけるがその声は彼女に届いていない。
 彼らに近づく学生服姿の男は兵部だろう。
 しかし、レナルドの心は彼に向ける余裕など無かった。

 「素晴らしい・・・・・・この力。この力を手にすることが出来れば・・・・・・我がエゲレスは」

 彼の心の中で密かな野心が沸々と燃え上がる。
 それは薫がテレポートにより消失し、力の奔流が止んだ後も彼の心に燻っていた。

 「見たか・・・・・・ドリー?」

 「はい・・・・・・ミスター・レナルド。凄い力でした。カオル先輩は・・・・・・」

 ドリーの目に籠もる強い憧れの光に、レナルドは凄まじい笑みを浮かべる。
 彼は己の野心が実現に向かっているのを感じていた。
  



 第4のチルドレン【8】に続く

8話へのリンクはこちら
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10298
6話へのリンクはこちら
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10289
なんとか週刊を維持してます。
今回の話は前回書かなかった部分を膨らましたものでして、最終回までの予定話数が一話増えちゃいました(ノ∀`)
年内に終わる予定なんですがどうなりますかorz
それではご意見・アドバイスいただければ幸いです。

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