「一体・・・・・・どういう事ですかな? 言わんとしている意味が分からないのだが・・・・・・」
局長室
ドリーの配属先についての辞令を受けたレナルドは、その内容に露骨に不快の表情を浮かべていた。
室内には彼とドリーの他は、局長と特務エスパーチーム【キティ・キャット】の姿しかない。
桐壺の補佐である朧は、急遽樹海の研究施設に呼び出されていた。
「どういう事も何も、いま言った辞令の通りだヨ。ドリークンはしばらくの間、【キティ・キャット】と行動を共にしていただく」
辞令の内容はドリーの【キティ・キャット】への配属。
谷崎一郎一尉率いるレベル6サイコキノ―――梅枝ナオミ(16)との行動は彼にとって心底予想外だったのだろう。
レナルドは共に局長室に呼ばれていた谷崎とナオミの前であるにも関わらず、感情を露わに辞令への不服を叫んでいた。
「先日の検査ではそれなりの数値を出したはずだッ! ドリーは【ザ・チルドレン】に加わるためバベルに来たのだぞッ!! それをこんな・・・・・・」
「ナオミッ!!」
レナルドが【キティ・キャット】への不満を口にしようとした瞬間、彼の言葉を遮るように谷崎が声を発した。
緊迫した室内の空気に気圧され気味だったナオミは、普段とは異なるその声にビクリと体を竦ませる。
「な、何でしょうか。主任」
恐る恐る声を発したナオミに、谷崎が向けたのはこれ以上ない微笑み。
彼は己の発した声が目的を果たしているうちに、すぐさまナオミに取るべき行動を指示する。
「こんな場所にいてもその子が退屈するだけだ。君たちは待合室で待機していなさい」
「分かりました主任ッ! さあ、ドリーちゃん、行きましょう・・・・・・」
「え!・・・・・・私・・・・・・」
谷崎の命令に笑顔を浮かべたナオミは、事態の変化に戸惑うドリーを連れそそくさと司令室を後にした。
レナルドの顔色を窺おうとしたドリーだったが、大げさに二人を見送る谷崎にその機会を逸してしまっている。
局長室のドアが閉じるのを確認した谷崎は、レナルドを振り返ると挑発するような笑みを浮かべた。
「勝手な真似をッ! 貴様がやった事はエゲレス政府の意向を無視する行為だと分かっているのかッ!!」
エゲレス政府の威光を振りかざし、谷崎に詰め寄るレナルド。
そんな彼に一歩も怯まず、谷崎はレナルドの目の前に立てた指先を一本突きつけると鋭い眼光で睨み付けた。
「一つだけ言っておく。私のナオミを傷つけるものは何者であっても許しはしない。それが例えエゲレス政府だとしてもだ・・・・・・わかったかね? ミスター・ドナルド」
「レナルドだ・・・・・・」
レナルドはそう言うのが精一杯だった。
谷崎の異様な迫力にすっかり飲み込まれた彼は、捨て台詞もそこそこに局長室を後にする。
そんなレナルドの様子に肩を竦ませながら、桐壺は谷崎を賞賛の視線で見つめていた。
「よ、良く言ってくれたネ。谷崎君・・・」
「しかし、局長・・・・・・困った人事であることは私も同意見なんですよ」
谷崎は桐壺が口にした賞賛の言葉に、溜息混じりの声で応える。
どうやら彼自身も今回の辞令には思うところがあるらしかった。
「先日報告を受けたナオミクンの不調のことかネ?」
「ええ、かなり深刻です」
今まで順調にいっていたナオミの育成。
それが綻び始めたことに谷崎は危機感を感じている。
担当エスパーに持てる限りの愛情を注ぐ彼にとって、余計な不安要素は回避したいのが正直な所だろう。
その気持ちも十分理解できるだけに、桐壺は複雑な心境だった。
「上からの指示だ。私にもよろしく頼むとしか言いようがない」
「上? 政府にしては気概がありますね。エゲレス政府の意向を無視するとは・・・・・・」
怪訝な表情を浮かべた谷崎に、桐壺は決まりの悪い顔を浮かべていた。
まるで政府の意志よりも優先すべき存在があるとでも言うように・・・・・・
「まあ、ナオミのことは同じサイコキノである【ザ・チルドレン】に相談させましょう・・・・・・そうすればあの子の気も多少晴れるでしょうし」
谷崎はそれ以上の追求を避けると、愛する担当エスパーの元にレナルドが近寄らないよう待合室へと向かおうとする。
色々と熱の入りすぎる所はあるのだが、谷崎が優秀な指揮官であることは誰しも認めていた。
「おお、やってくれるかネ!」
「乗りかかった船です。あの子も何処に出しても恥ずかしくない、理想の女性に育ててみせますよ」
――――――いや、ソレはやらなくていいから・・・・・・
桐壺が口にしたその一言は、閉じた鉄扉に空しくはじかれ谷崎の耳に届くことはなかった。
――――――― 第4のチルドレン【3】――――――
「ドリーちゃん。そんなに【ザ・チルドレン】に入りたかったの?」
1階の待合室へと向かう廊下。
職員からの不平が最も多い2階でのエレベーター乗り換えを行ったナオミは、遠慮がちに隣を歩くドリーに話しかける。
ドリーは先程から、幾度となく後ろを振り返っている。
ナオミはその姿を【ザ・チルドレン】に入れなかった故の行動だと思っていた。
「え・・・・・・どうして・・・・・・ですか?」
「何回も後ろを振り返ってるからね」
「振り返る・・・・・・ドリーの行動変ですか?」
本人はあまり意識していない行動らしく、困ったような顔をしたドリーにナオミは慌てたように笑いかけた。
「ううん、そういう訳じゃ・・・・・・じゃあ、ドリーちゃんは、あの部屋で【ザ・チルドレン】の子たちがよく待機してるって知らなかったのね」
「カオル先輩たちが、あの部屋で・・・・・・」
2階シミュレーションルームの角を曲がろうとしたナオミが指さした先。
先ほど通り過ぎた部屋のドアを、ドリーは急いで振り返る。
「あ、多分、今はいないわよ。主任の皆本さんが南の島のミッションで怪我したみたいだから、谷崎主任がしばらく待機任務は無いだろうって・・・・・・」
「タニザキ?」
「さっき私たちに待合室で待機するよう言った人。【キティ・キャット】の現場運用主任・・・・・・私が12歳の頃から面倒見てくれている人よ」
「怖い人・・・・・・ですか?」
「全然! 凄く優しいわよ。たとえば―――」
ドリーの言葉にナオミは大きく首を横に振った。
高レベルエスパーが味わう一切の軋轢から自分を守り、高校にまで通わせてくれた恩人が怖い筈はない。
しかし、谷崎への感謝を口にしようとしたナオミは、どうしてもその言葉を口にすることは出来なかった。
彼女は何処か誤魔化すような仕草で、スタスタと足早にエレベーターへ向けて歩き出す。
「ま、まあ、谷崎主任の指示に従っていれば間違いないから・・・・・・」
「?」
ドリーは口ごもったナオミに僅かに首を傾げたが、その話題は丁度到着したエレベーターに打ち切られる形となった。
先にエレベーターを止めていた学生服姿の男を待たさないよう、ナオミとドリーは小走りにエレベーターに駆け込でいく。
「ソッチの子は見かけない制服だね・・・・・・」
1階のボタンを押し終えた男の呟きに、ナオミは彼がバベルの関係者であると判断していた。
非常に聡明な彼女だったが、長年の谷崎による教育の御陰で人を疑うことを知らない。
その男が内包する闇にナオミは気付くことが出来なかった。
「ええ、エゲレスから研修に来た子なんです」
見かけない男にナオミが浮かべたのはにこやかな笑顔。
あなたは? と、問いかけるような何の屈託もない笑顔に、学生服の男は心底意外そうな表情を浮かべる。
彼の知る中にこの様な笑顔を浮かべるエスパーは存在しなかった。
「成る程・・・・・・しばらく姿を見せないうちに、クイーン以外にも色々変わったことが起こっているらしい」
男はナオミに苦笑を返してから、彼女の影に隠れるように立つドリーへと視線を移す。
そこには彼にとって馴染みの表情―――恐れと警戒が浮かんでいた。
「そんなに怖がることはないよ。このお姉さんよりも僕の方がずっと君に近い・・・・・・いや、君が僕に・・・・・・」
ドリーの瞳に何を見たのか、男は彼女の目を真っ直ぐ覗き込むためにしゃがみ込もうとする。
しかし、彼の目論見は寸前の所で開いたエレベーターのドアに邪魔されていた。
「・・・・・・ッ!!」
「あっ! ドリーちゃん待って!! すみません。人見知りの強い子みたいで」
まだ開ききっていないドアからするりと抜けだし、ドリーは逃げるように走り去ってしまう。
そんな彼女を追いかけようと、ナオミは男にペコリと頭をさげてから急いでエレベータを後にした。
「全然問題ないよ。また何処かで会うこともあるだろうしね・・・・・・それに」
残された学生服姿の男は、待合室へと急ぐナオミを見送ってから続く言葉を口にする。
「最近、僕たちの周囲を嗅ぎ回ってる奴らと何か関係がありそうだ。やることが増えたけど大丈夫かな? 九具津・・・・・・」
「大丈夫ですよ。兵部少佐・・・・・・」
彼の呟きに応えたのはエレベーターホールの壁に寄りかかった男だった。
兵部と呼ばれた学生服姿の男は、周囲に完全に溶け込んだ男に満足そうに肯く。
九具津と呼ばれた中肉中背眼鏡姿の平凡な男。
その男が胸ポケットに少女の人形を差し込んだ瞬間、彼の存在感がようやく人並みに上昇する。
エレベーターから駆け出したドリーとナオミは彼の存在に気づいていなかった。
唯一人目を引く胸ポケットの人形―――モガちゃんと名付けられたその人形を隠すことによって、彼は本来の能力とは別の驚異的な存在感の薄さを発揮し、スパイとしての任務を確実に果たしていた。
「パンドラの為に頑張っちゃいまーす!」
九具津の胸でモガちゃんが元気いっぱいに宣言する。
その時兵部が浮かべた表情は、奇しくも同時刻、局長室内で谷崎に向けられた桐壺のソレと同じものだった。
待合室
受付の裏手にある広めのスペースは食堂が併設され、外部からの来客を待ち合わせるだけでなく食事や喫茶スペースとしても利用されている。
メニューは非常に豊富で、カツ丼に始まり、デザートのパフェ、あげくはモツ煮込みまで・・・・・・
官庁の中でもずば抜けたクオリティを誇るメニューやサービスの数々は、特務エスパーの要求を桐壺局長が全て呑んだためとの噂だった。
特務機関故の厳重な警備に守られた憩いの空間。
そんな若干の問題を内包した多目的スペースの一角に、ドリーとナオミの姿があった。
「少しは落ち着いた?」
ナオミの問いかけにドリーは無言のまま小さく肯く。
エレベーターから走り出したドリーに追い着いたナオミは、彼女が落ち着くのに適した席へと座らせていた。
時間帯にもよるのだが、比較的人が集まるTV周辺や食事用のテーブルから外れたこの場所は、静かに時を過ごすのに都合がよい。
【キティ・キャット】を組んだばかりの頃、ナオミはよくこの場所で谷崎に勉強を見て貰っていた。
ナオミがチラリと周囲に視線をとばすと、間近にセットされた監視カメラがこちらにレンズを向けている。
そして背にしている壁のすぐ裏には、レベル5のテレパスと透視能力者である【ダブルフェイス】がその能力を生かし勤務中だった。
万一、レナルドがドリーを連れ戻しに来たとしても、拗れるようなら近くに常駐している警備スタッフが駆けつけてくれだろう。
待合室で待機しろという谷崎の言葉を、ナオミはそう理解していた。
「急に走るんだもの、ビックリしちゃった」
「すみません・・・・・・なぜか、急に怖くなって・・・・・・」
「謝ることなんてないわよ。慣れない所に来たばかりなんだから、不安になって当然・・・・・・はい!」
ナオミが差し出した紙パック入りのオレンジジュースにドリーは驚いたような顔をする。
ドリーを座らせたナオミは、壁際に設置されたディスペンサーからそれを取り出していた。
「あの、私、お金、持ってないです・・・・・・」
差し出されたジュースに困ったような顔をするドリー。
そんな彼女を安心させようと、ナオミは極上の笑顔を浮かべていた。
「あは、やっぱり知らなかったんだ。実は飲み物のディスペンサー、全部タダなの!」
「タダ!?」
「そう、ドリーちゃんが、好きなときに好きなだけ、自由に飲んでいいのよ・・・・・・」
ナオミは目を丸くしたドリーに優しくジュースを手渡すと、飲み方を示すように自分のオレンジジュースにストローを差し込み一口だけ飲み込んだ。
「おいしいわよ・・・・・・ドリーちゃんも飲んでみて」
ドリーは自分に向けられたナオミの笑顔にコクリと肯くと、たどたどしい手つきで紙パック横に接着された袋からストローを取り出す。
そして、ジョイント式になっているそれを引き延ばし、鋭利な先端で差し込み口を突き破るとすぐに口をつけた。
「!・・・・・・」
「おいしいでしょ? 私一番のお気に入りなの」
大きく肯いたドリーに、ナオミの笑みはますます深くなっていた。
ジュースを飲んだドリーの笑顔は、高レベルエスパーとは思えない何処にでもいる子供の様だった。
「安心した?」
何処か遠い目でナオミはその言葉を口にする。
バベルに初めて来た4年前。今のドリーより幾つか歳は上だったが、その時自分が感じていた不安を和らげてくれたのが今のオレンジジュースだった。
「私がはじめてバベルに来たのは12歳だから、今のドリーちゃんより少し年上かなぁ・・・・・・そのとき谷崎主任がジュースのこと教えてくれてね。学校にも行けなくなりそうだし、これからどうなるんだろう・・・・・・って、不安だったんだけど、何でかな? そのジュースを飲んでるうちに何とかなるような気がしちゃって。変よね、私、プレコグなんて持っていないのに」
ナオミはクスリと笑うと、再びオレンジジュースに口をつける。
あの時と同じ味が、今感じている胸のモヤモヤを少しだけ軽くしてくれた様に感じられた。
「学・・・校?」
「ええ、私、バベルに入ってからも、中学、高校と学校に通えたの。谷崎主任が苦労して政府や学校を説得してくれた御陰でね」
中学、高校の入学式。制服を身につけ入学式に赴いた自分を、谷崎は我が事の様に喜び祝福してくれていた。
その時の谷崎の笑顔を思い出し、ナオミの胸が小さくざわつく。
彼女はそれを最近不安定になってきた、己の能力に対する不安だと思っていた。
「ドリーは学校に行ってません。楽しい所なんですか?」
「そうなんだ・・・・・・【ザ・チルドレン】の子たちと一緒なのね。彼女たちもレベルが高すぎて、最初から学校に通えなかったって聞いてるし」
「先輩たちと・・・・・・一緒? ドリーは・・・・・・」
【ザ・チルドレン】との共通点を口にしたナオミに、ドリーは顔を曇らせる。
自分の口にした話題がそうさせてしまったと理解したナオミは、自身の抱える不安を洗い流すように残りのジュースを一気に飲み干した。
「プハッ! 大丈夫よ、【ザ・チルドレン】の三人ももうじき学校に行けるようになるみたいだし」
ナオミは小さく畳んだ紙パックとストローをきちんと分別して捨てると、気合いを入れるように軽く頬をぱちんと叩く。
「私、頑張って特務エスパーと学校を両立させるから。そうすれば【ザ・チルドレン】の子たちやドリーちゃんが私の歳になる頃には・・・・・・だからね、今回ドリーちゃんが【ザ・チルドレン】に加われなかったのは残念だけど、ドリーちゃんも私や谷崎主任と一緒に頑張りましょう? そうすれば、いつかはドリーちゃんの願いも叶うわよ」
「ドリーの願い・・・?」
「そう、急には叶わないでしょうけど、諦めずに努力すれば夢は叶うって・・・・・・これも谷崎主任が最初に会ったときに言ってくれた言葉だけどね」
ドリーを勇気づけるように笑ったナオミに、ドリーもまた笑顔を返す。
彼女はナオミに倣うように、残りのジュースを一気に飲み干した。
「ドリーも頑張ります。えと、あの・・・・・・」
「ナオミよ。これからよろしくね、ドリーちゃん」
「こちらこそよろしくお願いします。ナオミ先輩」
しっかりと結ばれた握手。
この時のドリーは紛れもなく【キティ・キャット】で頑張る気になっていた。
彼女の決意が伝わったのか、ナオミは早速先輩としてのアドバイスを口にする。
「それじゃ、先輩から一つ注意事項を・・・・・・あのディスペンサーを使う上でね」
「注意事項?」
「そう、とっても重要な注意事項。守らないと大変なことになるわ」
急に真顔になったナオミにドリーは固唾を飲み込む。
先ほど自由に飲めると聞いたジュースのディスペンサーに、何か守らなくてはルールが存在するのか?
そんな彼女の緊張を笑い飛ばすように、ナオミは冗談めかしその注意事項を口にした。
「柘榴ジュースは絶対に選んじゃダメ! もの凄く不味いから」
ケラケラと一人で笑うナオミに、ドリーはようやく今のが冗談だと理解する。
その味を知らないドリーに具体的なイメージは湧かなかったが、今のナオミの口調からすると飲みきれない程不味いものらしい。
つられて笑ったドリーにナオミは更に笑いを深める。
その笑い声を止めたのは、背後からかけられた不服そうな男の声だった。
「柘榴は女性ホルモンに似た物質を含み、美容にいいと聞いたから特別に入れさせたのだがね・・・・・・」
「主任ッ!」
二人に気づかれずに近寄った谷崎に、ナオミは驚いたように席から立ち上がる。
その驚いた姿も彼にとっては可憐なのか、谷崎は己の行為が引き起こしたリアクションに満足そうに笑うと、ナオミに席に着くよう促した。
「早速ドリー君と仲良くなったようだね・・・・・・流石、清楚で聡明な私のナオミだ」
「はは・・・・・・あ、ありがとうございます」
「ドリー君も私のナオミを見習い・・・・・・ん?」
微妙なナオミの反応に気づかない谷崎は、彼女の後ろに隠れるようにしたドリーに不思議そうな顔をする。
別段ドリーに彼が何かをしたわけでは無い。
しかし、彼のナオミを見つめる視線―――ドリーを見つめるレナルドと対極にあるような視線は、ドリーの胸の奥に封印された忌まわしい記憶をほんの僅かに刺激していたのだった。
ほんの僅かなその刺激。
その刺激の存在に気づかぬまま、谷崎は咳払いを一つするとドリーを加えた【キティ・キャット】に最初の指令を伝えた。
――― 【キティ・キャット】は主任療養中のため待機している【ザ・チルドレン】と合同訓練を行い、謎のスランプを克服すること!
主任の粋な計らいにナオミが浮かべたのは、以前の彼に向けられていた紛れもない尊敬の笑顔だった。
そして、彼女の背後に隠れていたドリーも同様の笑みを谷崎に向けている。
先程まで彼女の胸を掻き乱そうとしていたほんの僅かの刺激は、その指令に姿を消し去る・・・・・・訳ではなかった。
「ククク、随分と甘い男のようだな。ありがたく合同訓練に参加させて貰おうじゃないか・・・・・・」
メディカルルーム前の廊下で、腕時計に耳を当てていたレナルドは氷のような微笑を浮かべていた。
彼の所属するエゲレスの特務組織では、日用品に偽装したスパイツールが好まれる。
待合室での会話は、ドリーに支給されているリミッターを通し彼の腕時計が受信していた。
一時はどうなるかと思ったが、【ザ・チルドレン】との接点を失った訳ではないらしい。
彼らの甘さがドリーの精度を落とす危険性もあったが、レナルドはしばしの静観を考えていた。
「!?・・・・・・」
安堵しかかったレナルドの腕時計が振動する。
腕時計の文字盤に表示されたメッセージに、彼の表情が一変した。
「どうやらクライアントは早急に成果をお求めらしい。タニガキ、お前が特殊な性癖で助かったよ・・・・・・」
俄に慌ただしくなりそうな状況に、しばし静観を考えていたレナルドは方針の変更を決意していた。
第4のチルドレン【4】に続く
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