「……女帝
(エンプレス)!?
紫穂ちゃんがか?」
「そ。
だから『チルドレンには手出しすんな』ってさ」
洞窟の中、トランプで時間をつぶす賢木修二と藤浦葉。
その傍らで、皆本とマッスル大鎌は、彫像と化して並んでいた。
また、紫穂とパティ・クルーは、肩を寄せ合った状態で岩壁にもたれて眠っている。
……と思われたのだが。
(まさに呉越同舟ね)
実は、紫穂は既に意識を取り戻していた。
先ほど賢木と葉が死闘を繰り広げていた――むしろ銃を向けた賢木の方が葉の態度に翻弄されていた――時も、二人に気付かれない程度にうっすら目を開けてシッカリ見ていたのだ。
だから、賢木が葉にしてみせた状況説明も耳にしている。今この場で超能力が使えないことも、ちゃんと理解していた。
(……だけど大丈夫)
サイコメトラーである紫穂は、力任せのタイプではない。銃やスタンガンといった武器を好むイメージとは異なり、サイコメトリーによって得た情報を活かす頭脳派だった。
父は警察のお偉いさんだし、紫穂自身、小さい頃から、超能力で警察の捜査に協力してきた。そのために危険な目にも遭ったが……。
(そうだわ!)
リミッター兼通信機で仲間に連絡して、助かったこともあるのだ。
それを思い出す紫穂。
(今回も……)
電子機器は全部ダメだと賢木は言っていたが、チルドレンのリミッターは伊達じゃない。改良に改良を重ねた特別製なのだ。
(……お願い!)
紫穂は、祈りながら、スイッチを入れた。
リターンズ・トゥ・ザ・ベース「感じる……!!
これは……!!」
「3人の居場所か!?
わかったんやな、薫!!」
「ブブー!!
ハズレでーす」
センサーが違う方に向いてしまった薫。
彼女がキャッチしたのは、でっかい乳の気配、つまり蕾見不二子だった。
兵部に一言挨拶した後、不二子は、薫と葵の元へ。
「クイーンのこれは、
治さないとダメだな……」
兵部の小さなつぶやきは、両隣の真木司郎と加納紅葉だけに聞こえていた。二人も溜め息をもらしている。
「少佐といいクイーンといい……」
「私たち、つくづく
リーダーに苦労させられる運命みたいね」
だが、実は兵部は、あまり心配していなかった。
(大丈夫。
クイーンのオヤジ属性なんて
……もうすぐ消えるさ)
薫が最期の瞬間に、男性に対して『愛してる』と言う未来。
兵部は、それを知っているからだ。
(相手が僕じゃないのは悔しいが……)
皆本と関わることで薫が女性らしい感情を持つ。これは、薫のクイーンとしての覚醒に、またひとつ、皆本が貢献するということでもあった。
兵部の顔に複雑な微笑みが浮かぶが、それも一瞬。
「あんたたちを生かしとくのは、
うちの仲間を助けるまでよ」
不二子が振り返ったので、兵部は、少しおちゃらけたような態度を見せる。
「年とって丸くなったね?
君も一緒なら心強いよ」
「なれなれしくすんな!!」
不二子の肩へ、兵部が親しげに腕をのせたが、彼女はそれに食ってかかる。
一触即発の敵同士であると同時に、二人は、子供の頃からの友人でもあるのだ。
親友のような悪友のような、そんな言い合いをする二人。しかし、それも長くは続かなかった。
ビーッ!
薫と葵のリミッターに、紫穂からの信号が届いたのだ。
___________
___________
「ここが限界のようだな」
「……そうね」
断崖の洞窟を眼下に収め、夜空に浮かぶ兵部と不二子。
もちろん、二人だけではない。薫・葵・真木・紅葉・桃太郎も一緒である。
彼らは、紫穂からの通信を頼りに、テレポートを繰り返してやって来たのだ。
だが、ここまでだった。
「ばーちゃん、どーゆーこと?」
後ろから尋ねる薫に対して、不二子が説明する。
「バリヤーが張ってあるわ。
サイコキネシスでもテレポートでも、
これ以上は近付けない……」
ECM
(超能力対抗装置)の強化版なのだろう。
超能力を一切受けつけない領域が作られており、問題の洞窟も、その中にあるのだ。
(見つからなかったのも、
これでは無理ないな)
そもそも超能力が通らないのでは、遠隔透視や精神感応系のエスパーが探索しても、無理だったのだ。
そう納得する兵部の隣では、不二子が、まだ解説を続けていた。
「……バベルのよりも
強力なんじゃないかしら。
こんな装置を用意できるなんて、
かなり大がかりな組織だわ。
でも……ちょっとボケてるわね」
ECMだけだから、不二子たちは、この場所を突き止めることが出来たのだった。もしも通信妨害も行われていたら、紫穂からの信号をキャッチすることも不可能で、今頃、途方に暮れていたかもしれない。
「ばーちゃん、それって、
本編のネタばらしを四コマで
やっちゃうくらいのボケ?」
「それはボケとちゃうやろ、薫。
だいたい、あんた、いつから
そんなメタな発言するようになったんや?」
薫と葵が茶々を入れる。
そんな二人を微笑ましく眺めながら、兵部は、さらに考えていた。
(なるほど。
パティの能力が暴走した結果だから……)
合成能力者のパワーは、元来、不安定だ。
暴走でタガが外れて、限界を超えた力が発揮されたのだろう。
それで、兵部や不二子でも歯が立たないほどのECMを破ってしまったのだ。
いや、それだけではない。
(……パティだからこそ、ここへ来たわけか)
元々パティは、どこの陣営だったのか。
長き時を過ごしたのは、どこだったのか。
それに思い至れば、この地がバリヤーで隠されていた理由も明白である。
(黒い幽霊
(ブラック・ファントム)の基地の一つ。
訓練のための施設……いや、
やつらならば調教とでも言うべきか。
あるいは……)
ハッとする兵部。
「……本拠地か!?」
と、口にした瞬間。
「正解でーす」
耳元で囁かれる言葉。
しかし、振り返る暇はなかった。
視界がブラックアウトし、兵部は、地面に落下していく……。
___________
「少佐!」
「ばーちゃん!」
兵部だけではない。
不二子の背後にも、突然、敵が出現。
同じく、強力な一撃を受けてしまったのだ。兵部に続いて、彼女も落ちていく。
『コノ2人ハ僕ニ任セロ!』
墜落する兵部の制服の隙間から、桃太郎が叫ぶ。
一方、残された四人は、現れた強敵に視線を向けていた。
___________
兵部と不二子を強襲したのは、それぞれ、別々の存在。
だが、どちらも外見は非常によく似ていた。
しかも。
服装こそ違えど、その顔は、薫や葵には見覚えがあるものだったのだ。
「悠理……ちゃん?」
「ちゃうで、薫。
こいつらは……」
雲居悠理そっくりの少女が二人。
「ふふふ……。
いつも妹が御世話になっています」
と、まずは右側が挨拶。
「……妹!?」
「ということは……」
素直に反応する薫と葵。
一方、真木と紅葉は無言を貫く。クイーンとゴッデスに事態の進展を任せて、彼女たちに従うつもりなのだ。それが、兵部が戦線離脱した場合の取り決めだった。
敵も、真木と紅葉など眼中にないらしい。少女たちは、ただ、薫と葵だけを見つめていた。
「昔から、こういう組織の幹部は
ガイコツか三つ子と決まってますから」
左側も口を開く。
彼女の言葉と同時に、動き出す少女たち。
こうして、今。
ブラック・ファントムとの最終決戦、その幕が上がった……!
(「あたしたちの戦いはこれからだ」っぽく終わる)
Please don't use this texts&images without permission of あらすじキミヒコ.