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小笠原エミを攻略せよ! 新装版 ブラドー島編1「宿敵邂逅」

前置き
この投稿は「小笠原エミを攻略せよ!」の後日談です。
原作との変更点やそれに至る経緯についてはできるだけ文中にて説明いたしますが、「小笠原エミを攻略せよ!」を先に読まれた方がわかりやすいです。 
お手数ですが、その点ご了承ください。



これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩の物語である。




AM6:00  都内某マンション 
びしゅっ、ざくっ。
GSアシスタント・横島忠夫のさわやかな朝は、鎌がベッドに突き刺さる音で始まる。

「たまには他の起こし方しろやっ、エンゲージ!」
「時間の節約だだあっ!」

契約の神エンゲージとのこの会話も、既に定番である。
エンゲージは、横島が小笠原エミGSオフィスと交わした雇用契約ならびに就業規則の守護者としてくくられている契約の神だ。
今ではすっかり馴染んで、藤子先生のまんがのような共同生活を送っている。
ドラ○もんほど頼りにはならないが、オバケの○太郎よりは役に立っているようだ。

「さーてと、朝飯にすっか。 今日の献立は、と・・・・・・またヤモリの姿煮と野菜炒め!? 
 ・・・・・・なぁ、エンゲージ、エミさんってカロリー計算とかしてから献立決めてくれてるのかなぁ? 
 あの人、霊力の回復しか考えてないよーな気がするんだが・・・・・・何故に目を逸らす!? つーか、その哀れむような視線はナニー!」

就業規則で、エミの決めた献立通りに食事を取る事が義務づけられており、エンゲージ監視下の横島に食物選択の自由はない。 
横島による「自由な食生活を求めて 〜せめて人間らしく〜」闘争は、幾たびも試みられていたが、エンゲージの制裁とエミの呪いの前にことごとく潰えていた。 

金銭的・栄養学的には以前よりはマシな食事ではある。
それでも、たまにありつけてうたおキヌちゃんのおいしいご飯を思い出すと、切なくなってくる。
まして、食べるのを見守っているのが、幽霊とは言えかわいくて気だてのいい女の子ではなく、神様とは言え鎌持った陰気な奴だし・・・・・・。

「美神さんのチチに、おキヌちゃんに手料理か……今は何もかも懐かしい。
 とんでもなく道を誤った気もするが、今更後悔しても遅いよな。
 今は今できることをやろう。
 そうさ、美神さんは駄目でもエミさんのチチシリフトモモは俺のもんじゃー! 今日も1日がんばんぞー」

横島は溢れ出る心の汗を拭い、気合いと煩悩を入れ直て、まずい食事を勢いよく口の中に流し込み始めた




PM6:00  小笠原エミGSオフィス


横島は今日も師匠のエミに霊能力の指導を受けていた。

「サイキックソーサーを投げた後、気を抜かない! 敵の反撃に備えて、すぐに次を作り出しなさい!!」
「ハ、ハィィー」

超スパルタなエミの指導なので、気を抜いたら容赦なく喧嘩慣れしたヤクザ蹴りが飛んでくる。
その甲斐あって霊波の放出とコントロールは格段の進歩を遂げており、そろそろ栄光の手が発現するかなーという程にはレベルアップしていた。
ついでに、そのすらりとした足の奥にある光景を見るためだけに動体視力も鍛え上げられている。

もっとも横島も現場の除霊経験を積み、自分の霊能力の性質を段々と理解しはじめている。
JL東海での霊列車事件で自分がモノノケに好かれやすい体質だと言う事も自覚し、おまけに横島に嫉妬したエミの男達が送り込んだ刺客に狙われたりもしたので、それなりに真面目に修行してもいる事も大きい。

エミのアシスタントという仕事は、強くならないと本気で命に関わりかねないと思い知ったのだ。
そんな難儀なバイト、やめてしまおうと普通の人間は考えるだろうが、美神の色香に迷って時給250円の丁稚奉公をしていた横島である。
美神との縁が切れてしまった今、エミのナイスバディまで諦めてしまうという選択肢はない。

それに最近では職場内での人間関係も互いに親密度を増し、エミ、ジョー、横島、エンゲージの間にも本来の流れにおける美神事務所のメンバー達のような絆が育まれつつあったのである。 

ジョーは場数を踏んだアシスタントとしてエミの片腕的な立場になりつつあるし、横島も所長の弟子兼次期主力GS候補としてそれなりに扱われ、エンゲージは安定性と信頼性に欠ける横島の監視&支援担当として重宝されている。
客観的にはともかく、主観的にはそれなりに皆幸せであり、環境も安定しようとしていたのだ。


今日という日に、雷雨と共に「奴」が来るまでは。
そう、ついにあの男が、この展開のラスボスが現れたのだ!

「小笠原エミさん・・・・・・ですね? 唐巣先生の使いできました」
「僕はピエトロ。ピートと呼んでください」




PM8:00  小笠原エミGSオフィス近くの森


「ふっふっふっ、見とれよー腐れ美形がー! 貴様のよーなカッコつけは、この横島忠夫が、這いつくばってごめんなさいと言わしちゃるわー!」
「よ、横島君、相手は仮にも依頼人なんだ、ほどほどにな」
「ダーイジョウブですよ、ジョーさん。 ちょっと身の程を教えてやるだけっす」

あまりに殺る気満々な様子にジョーが諫めるが、気にせず三下悪役ゼリフを吐く横島。
ちょっと強くなったんで、天狗になっている。
ピートの戦闘力は現段階においては、ある意味エミ以上なのだが、横島は彼の力量を見抜けていない。
知らないという事は、幸せであった。。

「・・・・・・僕は、彼を怒らせるような事をしたんでしょうか?」
「いいえぇ、ピートさん、気にしないでー。 ウチのブァァカが身の程をわきまえず、つっかかって吠えてるだけなんですからぁー。 
 こちらこそ、ホントにごめんなさいねぇ」
「まぁ、僕としても彼の実力を知る事は有意義ですから、構わないんですが・・・・・・あの、あまりくっつかないでくれます?」
「あら、いけずぅ」

意味不明な燃え上がり方をしているいる横島と、やたらと自分に身体を押しつけてくるエミにドン引きしつつ、シリアス美形を貫くピート。
彼には、その余裕溢れる態度がむかつかれているのだという自覚はない。
横島の嫉妬の原因の99%は、美形な彼にやたらとモーションをかけるエミの態度でもあったが。


何故、横島とピートの二人が、いつも修行場代わりに使われている森で相対しているかというと・・・・・・
このピートという男は、唐巣という腕利きのGSの紹介で、ある強敵と戦う為の助っ人を依頼しに来たらしい。 
「僕からはこれ以上お話しできないのです」と情報提示も不十分な依頼だったが、唐巣という男の紹介だと言う事で、エミがこの依頼を受けた(唐巣というのは信頼できる男らしい)。
そこまではまだ良かったのだが、ピートが敵の性質上霊能力が一定以下のアシスタントの同行に難色を示した事から話がこじれだした。

ピートが言うには、敵は人間を虜にする力があり、身を守れない人間を連れて行くのは敵を強化する事になるというのだ。
幸い、エミは霊体撃滅波を撃つ際にガードを必要とするものの、美神のように多彩な道具を使うわけではない。 他にも助っ人を頼むのでそちらに前衛を任せれば、支援要員としてのアシスタントは必要ないというのが彼の主張だった。

これに横島がカチンと来た。 
思わず五寸釘を人形に打ち付けたほど気にくわない美形が、エミさんと俺抜きで旅行なんぞ、認められっか、コンチクショー!と喧嘩を売ったのだ。
複数のGSを助っ人に頼まなければならないような強敵と戦う為の旅に付いていこうなどとは、普段の横島ならば考えられないが、「エミさんは俺のもんじゃー」という煩悩の前には、恐怖などあっさり克服してしまえるのだ。
色欲と嫉妬で頭がオーバーフローして、そこまで考えがいってないとも言うが。

そんなこんなで第一回小笠原杯タイトルマッチ、横島VSピートが開催されることになったのである。


横島のセコンドに付いていたジョーがいつの間に着替えて、レフェリーとして両選手に注意を与えた後、開始を宣言する。

「ファィッ!」
「ピートォ、頑張ってー、横島―っ、ピートに傷つけたら、承知しないよっ!」

宣言と共に投げかけられるエミの嬌声に、殺る気ゲージMAXになりつつも、横島はピートに対し手を差し出す。

「色々あったが、正々堂々男の勝負をしような」

ピートは意表をつかれつつも、嬉しそうに手を伸ばすが、その鼻先で霊波を放つ横島の両手が叩かれ、一時的に視力を失う。
そう、サイキック猫だましである。
霊波の放出とコントロールだけは上達した横島は、栄光の手より先にこれを修得していたのだ。

「くっ、目がっ!」
「ひ、卑怯すぎる。 男の勝負をなんだと思ってるんだ、横島君!」

諫めたにもかかわらず騙し討ちで戦いを始めた横島に、さしものジョーも反則をとろうとするが、エミに無言で制される。

「・・・・・・馬鹿が、あとで説教なワケ」

エミにはピートと横島の実力差が見えていた。
ちゃちな小細工で押し切れるほどピートと横島の技量差は小さくない。
師匠としては、横島が戦いの場でいかに振る舞うか見極めたくもあったのである。


しかし、横島はそんなやりとりに気づかない。 
勝ちゃいいんだろー、勝ちゃー、実戦じゃ綺麗の汚いのと言い訳できねーぜ、
と、舐めた態度で更なる追い込みをかける。

「行けっ、エンゲージ!」

まだ、目を押さえているピートにエンゲージの鎌が襲いかかる。
ピートは素晴らしい反射神経で避けようとするが、エンゲージも横島とのどたばたで刺したり斬ったりの技量はあがっている。
ザクザクとピートを鎌で切り刻む。
さらに攻撃をエンゲージに任せ、自分はゴキブリのよーに逃げていた横島がニヤリと笑って振り返る。

「おーじょーせいやあっ!!」

サイキックサーサーが横島の手から飛び、ピートに直撃する。

「うわっ!」

ピートはたまらず地面に爆風と共に叩きつけられ、 さらにそこに追い討ちのサイキックソーサーが次々と着弾し、土砂が舞い上がる。

「うっしゃああっ! 見たか!友情のコンビネーション、エンゲージアタックの威力を! 」

喜びの余りシャウトしつつ、横島は腐れ美形を屠った感動にふける。


さて、横島が感動に浸っている間に、読者のみんなに説明しよう。


友情のコンビネーション エンゲージアタックとは!?

サイキック猫だましで視力を奪った相手に、マブダチのエンゲージ君を襲いかからせ、その隙に距離をとって回避不能の相手にサイキックソーサーの遠距離連続砲撃を叩き込むというコンビネーション技である。

「痛いのは嫌、きついのも嫌」な横島が極力自分が痛い目に遭わないよーに、危ない目に遭わないよーにというコンセプトで編み出した、いわば横島流邪道術の超必殺技なのだ。


「やったなぁ、エンゲージ、俺達は勝ったんだ! We are winnerだ! 俺を舐めるかこーなるんだ、驚いたか、クソ美形!」
「ええ。まさかこれだけの力をお持ちとは驚きましたよ、横島さん」
「なっ!?」

喜びにひたる横島に背後からの声が水を差す。
慌てて振り返るとそこには目を回して倒れてるマブダチのエンゲージ君と身体を半ば霧と化したピートがいた。

「て、テメーは人間か!? 霧になるなんて反則もいいとこじゃねーか」
「この力には事情がありまして。 今回の依頼も・・・・・・」

その横島の声にフッと寂しげな影を落としつつも、ピートは事情を説明しようとするが、横島が男の言い訳なんぞに耳を貸すはずもない。
「美形は敵じゃああっ、ブッ殺ーす!」と吶喊していく。

「横島忠夫バーニングファイヤーパーンチッ!」
の掛け声と共に全霊力をこめた必殺の右を叩き込む! 

だが、最早ピートは油断しても、目眩ましを受けてもいない。
格闘技の経験もない横島のへたれパンチがヒットするわけがなかった。
逆に懐に入り込まれてしまい、

「ヴァンパイアー昇竜拳!」

ピートの魔力を込めたカウンターが決まり、横島の意識は沈んだ。

横島忠夫 1R KO負け




PM10:00  小笠原エミGSオフィス


横島はオフィスのソファで目を覚ました。

「目が覚めたワケ?」

気が付くとエミが心配そうに横島の顔を覗き込んでいた。
エミはいくつかの問診をして異常なさそうだと確認すると、ホッとして一瞬表情を緩めたが、すぐに厳しい表情になり、横島の頬を張り飛ばした。

「不測の事態に遭遇したら、まず情報を集める事、行動はそれからだって何回言えばわかるワケ!? 
 いい! 今回は相手が温厚な男だったから良かったものの、事情も聞かずに本気で殴りかかって返り討ちになったら、普通命はないわ!  
 死にたいのならそういいなさい! 師匠の誼でアタシがきっちり呪殺してあげる!!」

横島もエミの剣幕から彼女が本気で怒ってるのを察したが、なんかもやもやとして抗ってしまう。

「で、でもあいつ化け物・・・・・・」
「確かにピートはヴァンパイアハーフよ。 でもね、人間に害を加えない、むしろ共存を図ろうとしているの。 今回の依頼もその為の依頼だったワケ」

エミの言うところによると、横島が気絶した後、ピートが全ての事情を話してくれたのだという。
奴のフルネームはピエトロ・ド・ブラドー。 今回の除霊対象ブラドー伯爵の息子なのだそうだ。
最も古く最も強力な吸血鬼であるブラドー伯爵が数百年の眠りから目覚め、島の住民達を引き連れて世界征服を企んでおり、その阻止の為、現在唐巣というGSが結界で封じているのだという。
とはいえ、いつまでも結界で抑えておく事もできそうにないので、今回選りすぐりのGSの協力を仰いで退治すると言う事らしい。
たしかにピートのやろうとしている事は正しい事だし、足手まといを連れて行ったら拙いというのもわかる。 弱い奴が行ったって吸血鬼にされて敵を増やすだけだろう。

頭では納得した。 だが、ピートに身体を押しつけるエミの姿が頭に浮かぶ。 どうにも、心が納得しようとしない。
それを見たエミがなおも続ける。

「確かに吸血鬼や魔物は除霊対象。 でもね、いつも戦うばかりがGSの仕事じゃないワケ」

エミの意外な言葉に横島も不満を残しながらも聞き入る。

「時には話し合って共存の道を探ったり、協力したりする人間と対等な相手なのよ。 GSはその辺の見極めもできなきゃ、失格なワケ」
(その割にはエミさんも美神さんも問答無用で吹っ飛ばしてたような?)

横島の疑わしそうな視線を無視してエミは続ける。

「それでも納得がいかないってんならオタクはGSに向いてないって事。 あたしとの師弟の縁もそれまでって事よ」

淡々とした口調が、逆にエミさんが本気だと言う事を無言で告げていた。
となれば、謝るしかなかった。ツッコミなんて入れたら本気でクビだ。

「・・・・・・すいませんでした」
「分かればいいワケ。 さ、今日はもうあがりなさい」

エミさんが優しげな表情になって言った。 でも、今日もこれから除霊が入っていたはず。

「へ、でも、今日の依頼は?」
「キャンセルしたわよ。 ジョーは今回のお詫びにピートの運転手になってもらったし、それにオタクはこの有様だしね」
「いや、俺は何ともな・・・・・・」

慌てて言い募ろうとする俺をエミさんがまた厳しい表情になって一喝した。

「何ともないって言ってるのがオタクの未熟の証明!  全霊力をありったけ右手にこめてる時に、あれだけの一撃を受けたんだから、タダですむわけがないでしょう?」
「……そう言えば、そうでしたね。 でも、キャンセル料をとられるのでは?」
「それはこっちでなんとかするワケ。今日は帰ってしっかり体を休めなさい。 オタクにはブラドー島でもしっかり働いてもらうわなきゃならないんだから」 
「エ、エミさん!?」
「ピートから伝言よ。 『足手まとい扱いをしてすみませんでした。 共にブラドーと戦える事を心強く思います』だって。 
 今度会ったら、しっかり謝ったり、礼を言ったり色々して仲直りするのよ」

エミと旅行に行ける! その為に戦い、そして認められた。 その筈だ。
なのに、こうのしかかってくる敗北感はなんだろう?
横島は、エミに改めて詫びと礼を言い、オフィスを出た。
何故か、足取りは重かった。




横島はとぼとぼとエンゲージと共に帰路につく。
さすがに落ち込んで黙り込んでいたが、ぽつりとエンゲージに問う。

「なぁ、俺、負けたんだよな」
「ああ、実力でも、人間的にも」

中途半端な情けをかけず、はっきりと言ってやるエンゲージ。

「だよなぁ。 なぁ、エンゲージ。 俺はヘタレで情けない奴だから、人に負けるなんて事は珍しくもない。
 だから、負ける事は恐くない。 いつもならへらへら笑ってすぐ忘れる。
 なのに・・・・・・なんで、今日だけはこんなに悔しいんだよっ、チクショー!」
「横島、お、お主(おかしい、まだシリアスしてる)」

横島の目から心の汗が流れ落ちる。

「俺は、俺は勝ちてーよ、あのピートッて奴に! その為にはなんだってやってやるさ!」
「お、おお(熱血だな、こいつ、本当に横島か? あの時どこか、頭を打ったのでは!?)」
「エミさんのケツは俺のもんじゃー! あんなヴァンパイアハーフなんかにゃーわたさねーぞぉ!」
「おおっ!(よかった、この馬鹿さ加減、正気だだ)」


横島は、生涯の宿敵ピートとの初めての戦いに敗れた。
だが、敗北から立ちあがり、勝利をつかむ事こそが少年マンガの王道!
戦え、横島! その内にたぎらせた煩悩だけが君の明日を切り開くのだ!
そう、いつの日か、エミのナイスバディを我が物にできるその時まで!!


横島が小笠原事務所に居残った経緯は以下の投稿でご確認いただければ幸いです。

「小笠原エミを攻略せよ! 新装版」
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10085

次話
小笠原エミを攻略せよ! 新装版 ブラドー島編2「再会と和解?」(前編)
http://gtyplus.main.jp/cgi-bin/gty/read.cgi?no=10094

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