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それいけ!薫ちゃん!

「あたし、決めた!」
 突然の薫の言葉に、葵と紫穂が同時に問う。
「薫ちゃん、何を?」

 黄昏時の皆本の部屋のリビング。
 宿題を終え、まったりとテレビを見ていた時、薫が急に宣言したのだ。

 葵と紫穂の問いに、薫は真剣に返す。
 
「あたし、女になるっ!」

 どしゃあっ!
 葵と紫穂はずっこけた。
「き、急に何言うねんっ!」
「ちょっと、薫ちゃん!?」
 慌てて薫に詰め寄る二人。
「女ってあんた元からそうやん!」
「えっ!それとも別の意味で!?」
 紫穂の言葉には葵が反応した。
「ア、 アカン、そんなんウチらにまだ早いっ!」
 顔を真っ赤にして詰め寄る二人に、薫は笑って否定した。
「そんなんじゃなくって、心から女らしくなろうって事よ」
「心からぁ!?」
 葵と紫穂はハモって答えた。
「薫ちゃんには無理じゃないの?」

ごつんっ!

「痛ぁ〜い」
 同時に薫の拳をくらった二人は、頭を抱えてソファーに座り込んだ。
「うっさい、無理なんかあるもんか!」
 立ったまま拳を挙げて薫は告げる。

「よーするに、今までのあたしは、押せ押せで来てたわけで、皆本も
それであたしらを女扱いしてくれなかったんだと思ったの!」

「あたしらって、ウチと紫穂を仲間にせんといてや」
 ぶーたれる葵を尻目に、尚も薫は言葉を続ける。

「で、これから、いや、今からは、しとやかさを全面に出して行こう
 と、可憐なチルドレンになって行こうと思ったわけよ!」
「ま、考え方は賛成やけどな、実際どないすんねん?」
 ズレたメガネを整えながら葵が問う。
「うーん、まずは形からかな?」
「それなりに形にするのも、今の薫ちゃんでは・・・」
 乱れた髪を整えた紫穂がつぶやく。

「だーかーらっ、なんとかする方法を考えるのよっ!」
「なんや、また行き当たりばったりかいな」
「とにかく、やたらとモノを壊さない様にすれば・・・」
「うーん、じゃ、まず今日の晩ご飯は私がつくる!」
「えっ!いきなり大丈夫か?」
「家庭科実習の成果を見せる、いい機会よ!」
「・・・あの黒こげボソボソコロッケ、また食べるんか・・・」
「失礼なっ、ちゃんと冷凍の買い置きで作ってみるから!」
「・・・いきなり手抜きな感じ、じゃなぁい?」
「紫穂、それじゃ、鯖のみそ煮込みにする?」
「・・・コロッケ、賛成〜!」
「じゃ、決定ね、」

 早速、キッチンに駆け込むチルドレン達。
 ほどなくして、きゃあきゃあ騒ぎながらの夕食の準備が始まった。

「ただいまー」
 少しばかりの残業を終えたものの、皆本が帰宅したのは、いつもより
 早い時間となった。
 ドアを開けた皆本は、そこで絶句した。

「お帰りなさいませ、皆本さま。」
 玄関口で待っていたのは、三つ指ついて出迎えた薫だった。
「か・・・薫!?」
 面食らった皆本が立ちつくす。
「お疲れ様でした、ご飯にします?それともお風呂?それとも・・」
「おい、薫!?」

「肩でも揉みますか?」
 満面の笑顔の薫に、皆本は唖然となった。
「・・・薫が、オヤジギャグを言わない・・・?」
「ささ、早くお上がり下さいませ」
 固まった皆本のカバンを持ち。脱がせたジャケットを抱えて、薫は
 ダイニングへと皆本を導いた。

 テーブルの上には、綺麗に盛りつけられた総菜が並んでいた。

「薫、これは一体・・・?」
 炊飯器から白飯をよそっていた薫に、皆本は問いかける。
「いつも頑張って下さる皆本さまを労って、用意しましたの」
 茶碗を皆本の前に置いた薫は、再び笑顔を向けて答えた。
「あ、ありがとう・・・?」
 まだ、訝しそうな皆本。
「薫?」
「はい?」
「何か、しでかしたか?」
「いいえ」
「・・・頼み事があるとか?」
「いいえ」
「・・・何か、企んでいる?」
「・・・いいえ」
 一瞬、笑顔のままの薫の額に血管が浮いた。
「私たちの、心からの気持ちですわ、どうぞ」
 辛うじて堪えた薫は、皆本を促して後ろに下がった。
「あれ?一緒に食べないのか?」
「ええ、私たちは、後で頂きます」
 退こうとした薫の腕を、急に皆本が掴んだ。

「えっ、何!?」
 急な事で思わず顔を赤らめた薫を、皆本は見据えた。
「わかったぞ! 原因はコレだっ!」
 皆本は、薫の手首のESP制御リミッターに手を掛けた。
「えっ、何が?」
 今度は薫が面食らった。
「こいつが原因だ、薫、おまえがおかしくなったのは!」
「は?」
 きょとんとする薫を尻目に、皆本はリミッターを外そうとする。
「ちょ、何?」
「この新型リミッターの制御バランスが狂ったんだと思う」
 皆本は真剣に言葉を続ける。
「ESP抑制力が効き過ぎて、本来の性格や本能、資質まで影響を
 及ぼしつつあるんだ、でなきゃさっきからのおまえの行動、言動の
 説明がつかない!」
「ちょっと、皆本っ!」
「待ってろ、薫、調整だけで済むはずだ、すぐに元に戻してやるか
 らなっ!」

「おいっ!皆本っ!」

 カシャ。
 プチッ。
 バシッ! ドオン! ミシミシッ!

 薫の手首からリミッターが外れるのと。
 薫がキレるのと。
 皆本が廊下の壁に叩き付けられたのは同時だった。

「ぐはぁっ!」
「み〜な〜も〜と〜!!」
 パワー全開で怒りに満ちた薫が、血走らせた目で皆本を睨む。
「かおっ、なにっ、・・・ほね・・おれ・・る・・・」
「何じゃねぇっ! 人がせっかくおとなしく、しとやかにしてやって
 んのに、おかしいってなんだーっ!おまえん中であたしはどんだけ
 凶暴で性悪なんだーっ!」

「うぎゃあああっ!」
 骨の軋み音が、みしみしと皆本の全身を襲う。

「てめこの野郎っ!あ・た・し・は、女らしくしていただけだっ!」
「こ、れ、の、ど、こ、が、・・・」
 呻く皆本。
「うるさーいっ!」

「・・・あーあ、やってもーたか。」
 リビングから様子を見ていた葵と紫穂がつぶやく。
「ま、予想通りとは言え、皆本さんも一言多かったかな?」
「あ、アカン、皆本はん助けんと!」

「くらえーっ、皆本―っ! 念動―っ! 乙女の怒りいっ!」
 薫の波動が皆本を直撃する寸前、葵のテレポートで皆本の姿が消えた。

「ちょっ、葵っ、邪魔すんなっ!」
「やりすぎやて、薫、皆本はん、また病院送りにする気か?」
「・・・でもあいつ、あたしの意図、分かってくれなかった・・・」
「ま、急にあれじゃ、誰でもびっくりするわよ」
「せや薫、焦らんとき、今のまんまの薫の方が、薫らしいねんて」

「そうかなぁ・・・」
「そやそや!」

「あ」
 突然、紫穂が何かに気づいた。
「そういえば、皆本さんはどこに?」
「あ、しもた」
 葵は慌ててバスルームに駆け込んだ。

 バスタブには、気絶した皆本が、服を着たまま湯に浸かっていた。

「・・・水やないから、大丈夫・・・かな?」

 [皆本光一・二尉・全治2週間の全身打撲、及び急性感冒に依る発熱3日間]

「皆本、おまえ何をしたんだ?」
「・・・知りたいのはこっちだ、賢木よ・・」
こちらでははじめまして、松楠御堂と申します。「絶チル」のSSは初めてですが、
リハビリ代わりとして生暖かく見てやってくださいませ。では失礼をば。

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