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この そうび は のろわれいる(元ネタ はっかい。さんの同名絵)

『ええと……着てみたんですけど……ヘンじゃないですか?』

常乃海水浴場での除霊。早めに片付いたからちょっと泳いで行こうって話になったんだけど、私はこの格好で固定されてるから、車でお留守番かなって思ってた。
そうしたら、美神さんが私でも着られる水着があるからって。
「そんなことないわよ。よく似合ってるわ」
『そ、そうでしょうか?』
とてもそうは思えないんだけど……だって……細い帯くらいしかない真っ赤な薄い生地が、胸と股間をぎりぎり隠してるだけ……なんだもの。
着替えられるのが嬉しくて、つい袖を通しちゃったけど、周りを見渡しても、こんなに布が少ない水着を着てる人なんていないし。
見られるのが恥ずかしくって、つい両手で隠しちゃう。
「あ、その水着ってね、着てる人に似合うように自動的に形が変わるオカルトアイテムなのよ」
「へぇ〜、うん、おキヌちゃん気を揉むことなんて全然ないから。本当に似合ってるって」
よ、横島さんまで……じゃあ、私ってこういう格好が似合うってことなんでしょうか……
おずおずと、手を外して。
周りの人も、ちらっとはこっちを見るけど、特にじろじろ見られることもなく、視線はすぐにビキニを着てる美神さんの方へ。
何となく、ほっとした。
そっか、私は元々地味だから、このくらい恥ずかしい水着を着てちょうど『普通』なんだ。
「せっかく人がまだ少ない時期なんだから、いっぱい遊ぼうぜ」
『は、はいっ』
「おキヌちゃん、それ着てる間なら、ちゃんと泳げるし、水の感触だって味わえるはずよ」
『っ! 本当ですかっ うわーい!』
それを聞いたら、もう我慢できなかった。
恥ずかしさなんてどこへやら、ちっちゃい子供みたいに海に向かって駆け出してた。
あ、本当だ。足の裏に感じる砂の熱さ。それに、しめった風と、波の飛沫。
ばしゃっ
何年……何百年ぶりだろう。
涙を隠したくって、私は海に飛び込んだ。





「あらら、走ってっちゃったよ」
「よっぽど嬉しかったのね」
モニターを頼まれてたのをすっかり忘れてたというか意図的に忘れてた奴なんだけど。
「でもよく幽霊にも着られる水着なんて持ってましたね。まさかこの日のために用意してたんすか?」
「違うわよ。トランクに入れっぱなしだっただけ」
何しろあの厄珍の『お薦め』だもの。うかつに着たらどんな目に遭うか。
でも、こうして見てる感じだと、本当に問題なさそうね。
「あー、あんなにはしゃいじゃって。本当に子供みたいっすね」
横島君も、なんとなくほのぼのとしちゃってる。白いローレグのワンピースの水着は、おキヌちゃんに本当によく似合ってる。色気よりも清楚さというところが、いかにも彼女らしい。
胸元のリボンがアクセントになって、あれは逆に胸の大きさを小さく見せてるのかしら。
『横島さーん! 美神さーん!』
「ああ、呼ばれちゃったわ」
「じゃあ俺らも行きましょうよ」
「そうね」
本当は、こんなの柄じゃないんだけど、たまにはいいかもしれない。

童心に返って、水を掛け合ったり、鬼ごっこをしたり。転んだ振りして飛びついてきた横島君を吹飛ばしたり。
まぁ……その……楽しかったわよ……それなりに、ね……










後日談

「ぶほおおぉぉっ!?」

『きゃあっ! よ、横島さん? どうしたんですか?』

硬直する私。鼻血を撒き散らしながら悶絶する横島君。わけも分からずただおろおろするおキヌちゃん
この間の海の写真ができたから、皆で見ようってことになったんだけど、そこに写っていた衝撃のシーン。
「お……おキヌちゃ……ん……これって、どういうことかしら?」
震える指で指し示したのは、真っ赤なVカットの水着姿のおキヌちゃん
ハイレグとかそういう次元じゃない。これはもう露出プレイと言っても過言じゃない。
後ろから見たら殆ど見えないような一本の線よ!
『え? お借りした水着ですけど』
きょとんとして。
『ちょっと恥ずかしかったですけど、美神さんも横島さんも、似合うって言ってくれましたから』
少し、ううん、かなり頬を赤く染めてるけど、でも
そっか、私たちが言ったから本当にそう信じてたんだ……なんて素直な
「じゃあ、おキヌちゃんからは最初からこう見えて……」
『え?』
「ううんっ 何でもないの! でも、ちょっとそこの馬鹿には刺激が強すぎたみたいね」
……後で二十回くらい頭蹴飛ばして記憶を飛ばしてしまおう。
『はぁ……海では平気だったのに、どうしてでしょうね?』
「……どうしてかしらねぇぇ……」
厄珍……あの馬鹿、やっぱりこういうことだったのね〜!
『でも本当に楽しかったです。また皆で行きたいですねっ』
「そうね。そのときには、新しい水着をプレゼントしてあげるわ」
今度こそ本当におキヌちゃんだけの水着を
『えっ? そ、そんな、悪いですよ』
「いいのよ、いつも頑張ってくれるご褒美だから」
それと、あんな格好させちゃったお詫び、だもの。
採算度外視して本物を取り寄せてあげる。
本当のことを話したら彼女を悲しませちゃうだろうから言わないけど、でも
『ありがとうございます』
恥ずかしそうな、それでも嬉しそうなおキヌちゃんの笑顔が見れたことだけは、よかったと思う。










後日談の後日談

……俺は、何かやらかした……らしい
らしいっていうのは、頭しばかれすぎて、何も覚えてないからなんだが……
それと、一昨日厄珍の店が半壊した
美神さんがやけにすっきりした顔してたけど、恐ろしくって直視できなかった
あ、それと、おキヌちゃんが、美神さんからプレゼントを貰ってた。
幽霊でも着られる水着、だそうだ。
何だか記憶の琴線に触れるフレーズなんだが……何だか恐ろしい記憶も引っ張り出しそうなんで、慌てて意識を逸らした。だから美神さんコロス目で俺を睨みつけるのはやめてください。

『また、皆で行きましょうねっ』

おキヌちゃんの素直な笑顔が眩しかった。



fin

画像掲示板に投稿されていたはっかい。さんの『この そうび は のろわれいる』を見て、思わず書いてしまいました。

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