2100

tea break 〜 絶チル 85th sense.より 〜

※ 「絶対可憐チルドレン 85th sense. とっておきの日(1)」(07/21・22号)
 のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「私が何を見てきたか―――――裏で普通人ノーマルたちがエスパーに何をしてきたかを透視ればね」

 2020年の薫が見てきたもの、それこそが薫に“女王”としての決起を促し、また葵と紫穂をパンドラに転向させる原因になるものと思われますが、この台詞のニュアンスには興味深い点があります。
 「した」ではなく「してきた」。つまり過去から現在に至るまで行われていた一つまたは複数の事柄を、薫は観察してきた事になります。
 また「裏で」行われてきたという事は、通常では――大多数の一般人はもとより、バベルの特務エスパーという立場であっても――知りえないような事柄であったと考えられます。

 すぐに思いつくのは、「普通の人々」を始めとしたノーマルによるエスパーへの迫害です。
 これまで作中で描かれた1年間の中でも、チルドレンは大なり小なりエスパーに対する偏見にさらされてきました。しかし、彼女達は持ち前の能力により物理的な危険に対しては強者であり、社会的にはバベルの特務エスパーという立場によって守られているとも言え、「怪物」呼ばわりされるなど心無い言葉に傷つき思い悩む事があったとしても、そしてその対象が自分以外の誰かであっても、この程度では決定的な原因とはなりえないでしょう。
 実際、チルドレンは澪やコレミツ、そして兵部など、迫害の当事者達とも出会っています。中でも澪はチルドレンにとって最もシンパシーを抱きやすい境遇にあったはずなのですが、澪はすでにパンドラの保護を受け、強力な敵として対面しており、チルドレンが彼女の悲惨な境遇に十分に思いを巡らせられたとは言えませんでした。このように、社会的弱者であったとしてもそれが敵対する強力なエスパーであっては、チルドレンを翻意させるには不十分に思えます。
 従って、チルドレン以外の、社会的にも能力的にも弱い存在が迫害されている――それこそ生きる事すらままならない程の――現場を目の辺りする必要があるのではないでしょうか。
 また、今回示されたニューヨークでの暴動にパンドラが関与していた場合、少なくとも2020年でのその活動範囲は日本国内にとどまっていない事になります。薫が見たものも、コメリカを含む世界的な規模のものなのかもしれません。

 ――世界的な規模。ESPを制する国が世界を制する。ESP動物実験制限条約。日本軍の超能力兵エスパー・ソルジャー。「怪物」か「便利な怪物」。「伊‐八號」。
 これらのキーワードから連想するのは、軍事力としてのエスパーの利用からさらに進んで、より確実な、兵器へのESPの応用、そしてそれを可能にする為に秘密裏に行われてきた、エスパーをモルモットとした非人道的な実験。かつて日本軍が桃太郎に対して行った事が、形を変えて世界各国で行われ続けているというものです。まるで現実世界での核開発のような。そして、かなり飛躍しますが、非核三原則に相当するものを日本で体現するのがバベルの存在であり、バベル、ひいては皆本はそれら実験には関与しておらず、裏を返せばそれらに対し無力であるとしたら?
 政府の一組織に過ぎないバベルの活動では当然として、日本の外交努力だけではこのような現実を変える事はできない。変える事ができたとしてもそれには多大な時間を要し、今現在苦しんでいる者達を救う事はできない。また、変えた後でもエスパーに対するノーマルの認識そのものを改めない限り、迫害を根絶する事はできない。非人道的な実験の存在を知りそのように考えた薫が、特務エスパーにできる事の限界を感じてバベルに見切りをつけ、即効性を求めてパンドラに合流したという経緯が、2011年と2020年の間にあったとしたら?

 ありきたりかもしれません。コメディーから逸脱しているかもしれません。少年誌では扱い切れないかもしれません。ともあれ、このような展開を想像したのですが、如何なものでしょうか?


 ……「2020年」が史実じゃなくて予知のワンシーンだったらどうしよう(笑)。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]