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【DS】タマもん!

春は人を陽気にさせる。桜の花が人を浮かれさせる。それが新入生なら期待と希望で少しくらいの羽目をはずすのも無理はない。

だけど、だけど・・・

「こんなのは私のキャラじゃな〜い!!」

とある中学校で狐の女の子の悲鳴が上がったのは、桜の季節ももう終わる頃のことだ。

○○○

美神除霊事務所には所員が五名いる。
所長の美神と彼女の元で働いている横島とおキヌ、そして名目上保護されているタマモとシロだ。
タマモとシロは実は妖怪で、社会に適応させるために事務所に住んでいる。そのことは周知の事実である。

「だからあたしはなるたけあんた達を社会に溶け込ませるために、いろいろとしなきゃいけないわけ。ここまではいい?」

「そんな分かりきったこと、改めて言われなくても理解してるわよ。結局何が言いたいのよ。」

「拙者も出来ればご飯を食べたいんでござるが・・・」

美神が改まった態度でシロとタマモに話を切り出したのは、ちょうど事務所の面々が夕飯を食べているときのことだった。
ちゃっかり美神さんちのご飯にお呼ばれしているのは、貧困生活でも決してめげないバイトの横島君だ。
突然始まった家族会議についていけないでいる横島君とおキヌちゃん。どうやら大黒柱からは何も聞いていないようだ。

「実は六道のおば様から中学校のお誘いが来たのよ。」

「美神殿がでござるか!?」

「ばかねぇ、いまさら美神が学校に行ってどうするのよ。」

「それはそうでござるな。でも今の言い回しでは勘違いしてもしょうがないでござるよ。横島先生だって・・・先生?」

シロが横島のほうを向くと、なにやら真剣な目をしてぶつぶつ呟いているのが見えた。

「美神さんが中学生!?あのナイスバディが規制の制服に納められ、しかし収まりきらずに苦しそうな声で『横島先輩、私もう苦しいの。』『大丈夫だよ、今俺が楽にしてあげるから。』『違うんです。私よこしま先輩のことを考えただけで胸が苦しくなって。』『美神君』『横島先輩』そして二人まめくるめく官能の世界にへと旅立つの「あほかぁ!!!!」でぶっっ!!!」

横島の妄想はお約束どおり美神の神通棍によって、ぶっ飛ばされた。
かつて横島だったものは、いまや赤いナニカの物体となった。

「つ・・・つまり、タマモちゃんとシロちゃんが中学校に通うかもしれないってことなんですよね。」

「「え!」」

「さすがおキヌちゃん。そのとおりよ。」

「拙者も学校に行けるでござるか!?」

「何で私がそんなところに行かなきゃいけないわけ!?」

同じ「「え!」」でも、それの意味するところは違うところに在ったようだ。

「だいぶ話が脱線したわね。二人にはもっと社会を知ってもらうために、手っ取り早く社会の縮図である中学校に通ったらどうか、ってのが六道のおば様から持ちかけられた話。で、あたしもそれに賛成なのよ。だから今度の春からあんた達、中学校に行きなさい。」

「でも二人は妖怪っすよ?」

いつの間にか復活していた横島が美神に聞き返す。

「だ〜いじょうぶ、六道のおば様から誘われたって言ったでしょう。二人が通う学校は六道系列で霊能科こそないけれど、妖怪と人間の共存にも力を入れているのよ。これって結構社会的に広まってることでもあるんだけどね。」

「じゃあ拙者ももしかたら横島先生の後輩になるかも知れんのでござるな!」

「こ、こら、飯のときに抱きついてくんじゃねぇ。待て、シロ、待て!」

横でシロが喜ぶさまをさめた目で見つめながら、タマモはたかが中学校なぞ低レベルな人間の子供が勉強するだけのところだろうと高をくくっていた。

○○○

そうして決まったシロタマの中学校入学から早数日。
タマモは桜の花びら舞うアスファルトの上で立ち尽くしていた。入学式も無事に終えて新入生はそろそろ気心知れた仲間が出来始めるこの季節に、タマモは一人でぼうっと立ち尽くしていた。

理由は簡単だ。

「ようミカみん。今日も早いなぁ」「あら、タマもん。おはよう」

「タマもんって言うなぁ!」

タマモは中学校を甘く見ていた。





入学式が終わり新しいクラスで自己紹介をしている時のことだった。

定番の趣味や特技などをクラスメイト達が言う中でタマモだけが覚めた風に

「美神タマモです。特に言うことはありません。」

と言った。

ちなみにタマモが美神姓を名乗っているのは、やはり一般生徒として学校に通うためにタマモにも姓が必要だったこと、タマモを保護しているのが美神であることから保護者の欄が便宜的に美神令子であったこと、ダメ押しで美智恵のほうから
「ひのめの姉が令子だけってのは親として心配なのよ。やっぱり子供って自分の兄弟とか姉妹とかを見て育つでしょ。ひのめは令子みたいにお金に意地汚い子には育ってほしくないのよね。」
という話を以前からしていた等から、一気にタマモが美智恵の養子となってしまった経緯がある。

タマモにしてみれば、自己紹介は互いのことを知るためにするものであり、いわば友達になるための下準備のようなもの、もとより友人など必要ないと断じていたタマモにとっては、自己紹介で言うことなど名前で十分だと思っていた。

だから予想通りタマモの言葉で教室のざわめきがさっと静まり返る中、何も言わずに自分の席に戻ってから、

次の瞬間起こったことは、予想外でしかなかった。

「ツンデレか!」

と、一人の男子生徒の声があがった。

突然の意味不明な言葉にタマモが呆然としていると、他の生徒達もザワザワと騒がしくなってきた。

「なに?」「ツンデレだってよ。」「名前なんてった?」「美神さんだって」「タマモって名前も可愛いよね」「ツンデレで金髪かよ」「しかもナインテール」

それからあとはもう坂を転げ落ちていくまま。その日のうちにツンデレで金髪の新入生の噂は学校中に広まって数日後には女子の中で「タマもん」というあだ名が生まれ、その又数日後には後を追うようにして男子の中で「ミカみん」というあだ名が生まれた。

「だって男子が女子の下の名前を呼ぶのは恥ずかしいジャン。」

とは、ある男子クラスメイトの談だ。

中学生という思春期を迎えた少年達の心理からすれば、女生徒を名前で呼んだりするのは恥ずかしいのだろう。





そんなこんなで「ツンデレ新入生タマもん」は大流行し、それが恥ずかしくてむきになればますますツンのほうが強調されてしまうという悪循環。

「タマもん部活はもう決まった?」

「大きなお世話よ!」

「タマもんまだ部活決まってないの!?じゃあ私といっしょに部活見学行かない?」

「タ〜マもん、今日いっしょに帰ろうよお」

「タマもんの髪型って珍しいよね、どうやってるの?」

「その金髪って地毛?」

そんな感じで売れっ子アイドルみたいになってしまったタマモは、昼休みの度にうるさくついて回る女子達から逃げ回っているのだった。
おおむねその努力は報われないのだが。


「なんかタマモ人気ありますねぇ。」

「そうね、心配したこっちが馬鹿らしいくらい人気者ねぇ。」

そう言って校舎の影からタマモを覗き見るのは、何を隠そう美神令子と横島忠夫の二人組。
二人ともいつもどこかさめているタマモが、学校にうまく溶け込めているか心配で様子を見に来たのだ。

「この調子なら見に来る必要なんかなかったっすね。」

「イジメとか今ニュースを騒がせてるから不安だったんだけど、あの調子じゃそんなのはない様ね。」

「なんだかんだいって美神さんも面倒見がいいんだから。」

「なによ、なんか文句「先生!それに美神殿も何してるでござるか!?」あら、シロ?」

背後から驚いたような声を上げたのは、タマモと同じく中学生になったシロだった。

タマモとシロは別々のクラスで、シロもその持ち前の明るさからタマモに及ばずもクラスの人気者として名が通っている。

「お二人ともタマモのことが心配で見に来たようでござるが、見てのとおりタマモも中学生を楽しんでるでござるよ。」

「?どっちかって言うと迷惑そうに見えるんだがな。」

「いやいや、口ではああは言ってるけれど結構友達付き合いも良いんでござるよ。今逃げているのは質問攻めになるのがいやなだけでござろうよ。」

「「ふぅん。」」

「ま、あの性悪狐に面と向かってそう言っても認めやしないでござろうがな。」

そういうと、シロは横島に抱きついて

「それよりも拙者剣道部に入ったでござるよ。横島先生も拙者の練習風景を見てくだされ。」

「お、おい、そんな格好で抱きつくなって。あ、美神さん、俺は別にそんな制服が新鮮だとか思って無いっすよ!俺はロリとはちゃうんやー!!」

なにやら意味不明なことを叫ぶ横島を、ジト目でにらむ美神。
横島の訴えはどうやら伝わらないようだ。
その後ろでは尻尾をこれでもかというくらい振っているシロ。

そして、

「あんた達なんか別に友達じゃないんだからねっ!」

嬉しそうに叫ぶ狐少女のすがたがそこにはあった。



即効で書きました。

初投稿ゆえ、多分にまちがっているところもありますが、見てください。

もしや間に合わなかったか!?

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