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【DS】突然の再会

「で、どう思うっすか?」
物陰から顔をのぞかせて、ブレザー姿の美少女を観察していた男が上目使いに囁いた。
「どうって、何がよ?」
同じように顔をのぞかせている女が下目使いで囁き返す。
両者とも、このうららかな日差しの下には少々不似合いな黒一色の上下を着込み、鼻先にはこれまた真っ黒なサングラスを引っ掛けていた。
そこは桜咲き誇る午後の校庭。
行動といいいでたちといい、この場に相応しいとは到底思えぬこのふたり。
怪しいことこのうえない。
「タマモの様子に決まってるじゃないっすか。」
男のほうが少し声を裏返らせて女の顔を見た。
タマモ、というのがこのふたりが様子を眺めているブレザー少女の名前であるようだ。
「ノンキそうに桜を見上げてるわね。」
女のほうが淡々とした声で応える。
少女タマモの動向を見逃すまいとしているのか、男の顔を一瞬見ただけですぐに視線を元に戻した。
「そういうことじゃなくてですね。そわそわしている とか、うきうきしてる とか、そんな感じはないっすか?」
意図としたものとはいささか外れた答えを返されて困惑する男。
この女は、今の質問がそんな回答を期待して発せられたものではない、ということがわからない人ではないはずだが。
「そんなことわたしに訊く必要ないでしょ。」
面倒そうに女が男を一瞥する。
同じものを同じ角度から同時に見ているのだからわざわざそんな質問をするな、というのが女の見解らしい。
「いや、美神さんといえど一応は乙女。男ではわからないタマモの微妙な心の内側を推測できるんじゃあないかと ほぐふっ!」
奇妙にくぐもった悲鳴を上げて顔面から芝生の地面にめり込む男。
美神と呼ばれた女が、うねりの利いた肘撃を男の側頭部に落としたのだ。
「殴るわよ。」
わずかに呼吸を荒げた美神が、地面に張りついた男をジロリと睨む。
男の放ったセリフの中の 『いえど』 『一応』 という部分が軽く逆鱗に触れたらしい。
「うぐぐ…ず、ずいまぜん。」
頭と鼻を押さえながらよろよろと起き上がる男。
この場合、もう殴っとるやん! などというツッコミは禁物である。
「…ま、いいわ。」
ふっとため息をついて視線を再びタマモの方に向ける美神。
今の一撃でとりあえず怒りは収まったらしい。
(ほっ)
胸をなでおろして男もタマモに視線を向ける。
タマモはさっきと変わらず、ぼんやりと桜の花を眺めていた。
「それにしても…」
服の汚れをパタパタと払い、ずり落ちたグラサンを中指で直しながら男がつぶやいた。
「相手はどんな奴なんでしょうね。」
その声は平静を装っていた。
しかし、そこに僅かな嫉妬の色が混入していることをこの男との付き合いが長い美神はしっかりと看破していた。
「あら? ずいぶんと気になるみたいね?」
やや棘を含んだ口調で、美神が男をねめつける。
「妬いてるの? 横島クン?」
その声には、男が、横島が発したそれよりも遥かに高濃度の嫉妬が混じっていたのだが、横島は、そしてさらには発した美神本人もその事実に気がつくことはなかった。
「そ、そりゃあ気になるっていえばきっ、気になりますけどね。」
いえど、一応、の怒りがまだ収まってはいまかったのだろうか?
なんとなく不穏なプレッシャーを感じ取った横島が、そんな見当違いの理由に思い当たってあたふたとどもる。
「だ、だってあのタマモですよ。」
横島は、美神の怒気を逸らそうと一気にまくし立てた。
「わがままでぐーたらで、出不精で朝寝坊。お揚げ系と絶叫系以外のものにはてんで興味をしめさなかったあいつが何を血迷ったのか男と待ち合わせっすよ。どんな相手か気にならないわけないじゃないっす うぐっ?!」
喋っているうちに徐々にボリュームが上がってきた横島の声を止めるため美神がぐぃと頭を押さえつけた。
「馬鹿ね、聞こえちゃうでしょ。」
いわれて横島は咄嗟に自分の口を押さえた。

そう。
彼らがみまもる美少女タマモは、現在待ち合わせ中である。
そしてその相手とはついこの間の入学式で知り合ったばかりで、しかもどうやら男子生徒であるらしいのだ。
さて。
なぜ、そんなタマモのプライベートを美神と横島が知っており、おまけに黒ずくめの格好で尾行まがいのことをしているのか。
その理由については、少々刻を遡ったところから説明をはじめてみようと思う。

*

「ん?」
四月某日。
ランチタイムをやや過ぎた美神令子除霊事務所の一室。
廊下から扉を開きかけた横島は、少し珍しい光景を目にして動きを止めた。
いや。
光景が珍しいわけではない。
そこにあったのは事務所メンバーのひとりが、備え付けの電話に手を伸ばして受話器を持ち上げようとしている場面だった。
それだけ聞けば、別段なんの驚きもない何気ない日常のヒトこまである。
しかし、その電話を使おうとしている人物が、狐娘のタマモちゃんということになると少々事情が変わってくる。
元来タマモは、他者と積極的にコミュニケーションをとろう、などという精神は持ち合わせていない。
まあ最近ではその精神もずいぶんと改変がなされて、事務所メンバーや幾人かの知人たちとなら談笑もするしふざけあったりすることもあるようになった。
だが、それでも目の前にいない人物に対して電話を使ってまでわざわざ連絡をとろうなどと思い立つほどまでには至っていなかったはずだ。
事実タマモは、事務所に電話がかかってきても自分でとることはまずありはしない。
実年齢はともかく、外見はイマドキの女子高生☆ で、あるにもかかわらず携帯電話に興味を示すこともない。
唯一タマモが率先して電話を手にするときといえば、事務所のツケで勝手に出前を頼むときくらいだが、つい先ほどの昼食でいなり寿司を散々パラたいらげているという状況を考えるとその可能性も消える。
横島は、条件反射的に気配を殺して耳をそばだてた。
霊感が告げた。
今までになかった何かが起こると。
「えっと…」
タマモはおもむろにスカートのポケットから紙切れを取り出すと、アンティーク調の電話の上でしゃかしゃかと指を躍らせた。
どうやら電話番号がメモってあったらしい。
しばしの沈黙があり。
そして相手が電話を取ったようだった。
「あ、もしもし、タマモだけど。」
軽く微笑を浮かべて喋りはじめるタマモ。
交わされた内容はどうということはない他愛のないものだった。
今日ウチのクラスではこんなことがあった。
だの。
あの教師は面白いが、こっちの教師は苦手だ。
だの。
部活動はどこに入るつもりか?
だの。
午後の授業は眠くて困る。
だの。
学食のきつねうどんはお揚げが小さい。
だの。
入学したばかりの高校生が、新しくできた友人と繰り広げるありふれた雑談である。
『そっか。 あいつ帰国子女って設定でこの春から高校に行き始めたんだったなぁ。』
などという説明的なことを考えながら、横島は会話の内容にそれほど興味をなくしていた。
そういう会話なら、横島自身も中高の六年間で飽きるほど交わしたし、周りが交わすのも聞いてきた。
今聞こえてきた会話のなかにあえて喜びを見出すとすれば、つっけんどんで他人と付き合うのが苦手っぽいことから学校で孤立してしまうのではないかと密かに心配されたタマモが、しっかりと友人を得ていることが判ったことであろうか。
(ま、喜ばしいことではあるわな。)
ガラにもなく保護者ぶった感想を浮かべて、横島はそっと扉を閉めた。
これ以上の立ち聞きは野暮というものであろう。
「へぇ、そうなんだ。バスケ部とか野球部とかサッカー部とかのほうが向いてたんじゃあないの?」
ひときわ大きいタマモの声が扉越しに耳に届く。
どうやら相手がなんの部活に入ったのかという話題で盛り上がっているらしい。
(楽しそうでなにより。友達ができてよかったな。)
保護者キャラを継続させたままで横島はそっと目を閉じた。
ともあれめでたい。
同じようにタマモのことを心配していた所長の美神や、黒髪の同僚にもこのことを知らせてやろう。
嬉しいくせに照れくささから無関心を装うであろう所長や、それとは対照的に素直に喜びを示すであろう同僚の姿が目に浮かぶようだ。
そんなことを考えていた横島はふと、心に引っかかるものを感じた。
なにかおかしい。
「ん?」
そうつぶやいて首をひねる横島。
暫しそのままの格好で固まっていた横島だったが、突然カッとばかりに目を見開いた。
わかったぞ!
横島は心の中で叫んだ。
タマモが電話の相手に勧めた部活動がひっかかったのだ。
バスケットボール部やサッカー部ならともかく、野球部というのはどう考えてもおかしい。
少なくとも日本の高校に野球部があるなどということは聞いたことがないし、よしんばあるのだとしてもタマモの高校には間違いなくない。
女子野球部なんてものは。
字面だけ見たならばマネージャーの話という可能性もなくはないが、タマモの声のニュアンスは明らかに選手として、という響きだった。
それはつまり。
(お、お、おとっ)
一度離れかけた扉にガバリとばかりに耳を押しつける横島。
(おとこかよっ?!)
驚愕のままで再びタマモの電話に聞き入る。
「ん〜。わたしは帰宅部にしようと思っていたんだけど。」
固唾を呑んで耳を澄ます横島をよそに、楽しげな会話は続く。
そして話は、帰宅部志望であるタマモに電話の相手がいくつかの部を見学だけでもしたらどうかと勧め、見るくらいならいいかとタマモがその話に乗り、でもひとりではつまらないから一緒に回ってほしいとタマモが電話の相手を誘って相手がそれを了承した。
という展開になったらしい。
「じゃあ明日の放課後、昇降口を出たところの校庭側で待ってるから。」
そんな約束が取り交わされて電話は切られた。
「さてと。」
受話器を置いたタマモは、くすりと笑いぱたぱたと自分の部屋に戻っていった。
(………………。)
横島は呆然と立ち尽くしていた。
予想外だ。
あのタマモが男友達をこさえるなど。
横島は気分がざわつくのを感じていた。
そのざわつきは、世間で嫉妬と呼ばれる感情とよく似ていることに横島は気がついていた。
横島の脳裏に、自分に向かって微笑みかけるタマモの姿が浮かんでは消え、また浮かんでは消えた。
ぶんぶんぶん
激しく頭を振って横島はそのイメージを払拭する。
違う、自分はロリではない。
確かに近頃のタマモはいろいろと成長して魅力的になったことは事実だ。
しかし、外見はどうあれ実年齢ひとケタの幼児であることに変わりはない。
あと十年も経てば名実ともに掛け値なしの美人になるであろうことは間違いないが、今はそのときより十年前である。
だからして、そんなタマモの男友達に自分が嫉妬するなどありえん。
なにかの間違いである。
そんなふうに自分にいいきかせるも、ざわつきは一向に治まらない。
横島はぼりぼりと頭をかいた。
(………………!)
そのまましばらく頭をかきむしり続けていた横島は、はたと思いついた。
そう、確かに自分はロリではない。
タマモに対してなんら特別な感情を抱いてもいない。
しかし、タマモがすこぶるつきの美少女であることは紛れもない事実。
そして、世界の全ての美女・美少女が、自分以外の野郎と仲良くなるなどそんな理不尽が許されていいはずがない。
ましてや中学出たての高1男子ごときが異性とお近付になろうなど億年早い。
そんなうらめヤましいことは断じて認めん。
断固阻止するべきであろう。
ずいぶんと強引な理論で自身を納得させた横島は、にやりと口の端を吊り上げた。
相手の男、シメとくか・・・・・・と。
そうと決まれば善は急げ。
明日タマモをはりこんで相手がどんな奴なのか確認せねばなるまい。
学生の本分は勉学。
異性交遊など以っての外である、ということを身体に叩き込んでやるとしよう。
そう、これは決して私憤ではない。
人生の先輩として正しい指導を施してやるだけなのだ・・・・・・
「大丈夫かしらね。」
「どわぁ!」
不意に背後で声がして飛び上がる横島。
見ると、そこには所長の美神が難しい顔で腕組みをして立っていた。
「み、美神さん。い、いつからそこに?」
やましさから少し逃げ腰になる横島の様子を気にする風でもなく美神は切り出した。
「横島クン、明日タマモをつけるの、手伝いなさい。」
「へ?」
横島は怪訝な顔をした。

*

辺りはずいぶんとにぎやかになってきていた。
グラウンドでは複数の運動部が練習を始めた。
体育館や武道館のほうからもボールの弾む音や威勢のいい掛け声が聞こえる。
足早に校門へと向かう人影もちらほら。
タマモがたたずんでいる広場の付近でも、新入部員を勧誘する先輩部員たちのブースが立ち始めた。
時折、グラサン黒ずくめのふたり組みを視界に捉えてギクリとする生徒たちもいたが、そのあまりの怪しさゆえ逆に演劇部か何かのアトラクションであろうと考えて騒ぎたてる者はいない。
「どうやら気づかれてはいないようね。」
美神は僅かにサングラスをずらして、タマモの様子を窺った。
相も変わらず、タマモは桜を眺めている。
変化があるとすれば、タマモの周りに彼女を遠巻きにするような丸い人垣が出来ていることくらいだろうか。
人垣は新入部員勧誘の、主に男子生徒で形作られているようだった。
タマモが獣娘だと知っている。というわけでもあるまいに、みな一様に幻の犬耳を頭に生やし、パタパタとしっぽを振っている。
同世代の男子にとってタマモの美貌は少々挑発的に過ぎるらしい。
美味しい餌を目の前にして待てを食らった駄犬のように、息遣いを荒くして目からはハートを撒き散らさんばかりの勢いだ。
「横島クン。仲間がいるわよ。」
皮肉を込めて美神がいう。
その皮肉にはいかなる意味が込められているのか。
「じょ、冗談キツイっすよ。」
ジト汗をかく横島。
ここは軽く流したほうが無難であるだろう。
「ま、まあともかく、あの中にタマモの待ち人はいないみたいっすね。」
可及的すみやかに横島が話題の転換を図る。
かなりぎこちない。
「当然でしょう。あんな十束一絡げみたいな連中、ウチのタマモに相応しくないわ。」
なぜか誇らしげにのたまう美神。
意外なことに、美神がタマモをつけている理由は、単純に『変な男に引っかかっていないか心配だから』というものなのだ。
もしかしたら、タマモの性格や境遇を過去の自分にかさね合わせて感情移入しているのかもしれない。
そう横島は分析していた。
「なんか美神さん、過保護で娘自慢の親ばかの母親みたいっすよね ふごほぉ!」
鳩尾に膝を突き上げられて崩れ落ちる横島。
口がぱくぱくと金魚のように酸素を求めた。
「せめて姉ばかっていいなさいよ。」
美神は少し頬を赤く染めていた。
その後人垣は徐々に狭まり、いくつかの部が入部やマネージャー就任を要請したようだったが撃沈してすごすごと引き下がり、部の勧誘ではないあからさまなナンパをしかけた身の程知らずは、轟沈してずるずると退場していった。
そんなこんながしばらく続き、人垣は再びタマモを遠巻きにする位置にまで下がっていた。
「…遅いわね。」
ちらりと美神が腕時計に目をやった。
タマモがあの場所に立ってからそろそろ20分。
元々他人を待つ、という行為が嫌いな美神の忍耐力は限界に達しつつあった。
当のタマモも、アクビをしたりポリポリと頬を掻いたり小さく伸びをしたりと少し退屈し始めているようだ。
すでに撃沈してタマモに話しかける理由を失ってしまった人垣たちは、そんなタマモの様子にいちいち反応して小さくため息を漏らし、さらなるハートを撒き散らす。
事態は膠着状態にあったっ!
「あっ!」
横島が小さく声を上げた。
新たに昇降口から現れた男子生徒が、すたすたと校庭のほうに向かい。
タマモを取り巻く人垣の外側をしばらくうろうろと歩き回った後でその中心にいるタマモに気がつき。
ひょいひょいと人垣をすり抜けたかと思うとタマモの前に立ってにっこりと微笑んだのだ。
その微笑に、タマモはぴっと小さく手を上げて応える。
待ち人が現れたようだ。
「あ、あいつ?!」
そういって物陰を飛び出そうとした横島の首根っこを美神がむんずと鷲掴んだ。
「何やってんのよ!? 見つかるでしょ!」
まなじりを吊り上げてうつぶせ状態に横島を押さえ込む美神。
「い、いや、そうじゃなくて ふぐ!」
じたばたともがく横島の顔を芝生に押しつけて黙らせてから、美神は新たな登場人物に注意を向けた。
地面に屈みこんだ今の美神の視点からだと、その人物は人垣に隠れてよく確認することはできない。
美神は目を細めてなんとかその人垣を見透かそうとしてみた。
タマモと新たな人物は、何事か言葉を交わしている。
そして、話がまとまったのかふたり並んで歩きだした。
ふたりが歩きだした方向の人垣がモーゼの十戒のように割れ。
新たな人物の姿が、美神の目にもしっかりと捉えられた。
「あっ?!」
その姿に軽い驚きを覚えた美神の手から押さえ込みの力が抜ける。
ばばばっ
横島がすかさず立ち上がった。
タマモとその男子生徒は、会話をしつつ、しかしまっすぐに美神と横島がいる方向へと歩いてきていた。
「それで? どうしたの? 急に呼び出したりして。」
男子生徒の声が聞こえてくる。
「ん。ちょっと驚かせてやろうと思ってね。」
いたずらっぽくタマモが笑う。
「ところでさ。わたしがあんたに話しかけたキッカケ、憶えてる。」
「え? うん。あれからまだ1週間くらいしか経っていないしね。」
タマモの質問に、男子生徒がくしゃりと自分の頭に手をやった。
「その頭、あんたの心のヒーローをまねしてそうしてるんだっていってたでしょ。」
「うん。」
男子生徒はうなづいた。
その頭は、とくに気を使って手入れをしているようには見えない黒髪のぼさぼさヘアーであった。
寝癖なのかそういう髪質なのか、両サイドがピンと跳ね上がった独特の髪型をしている。
さっきの人垣たちの頭にあった幻の犬耳、ならぬ髪の毛の猫耳とでも表現できそうなその髪型。
横島と美神には見覚えがあった。
「もしかしてさ、そのあんたのヒーローって、あんな顔しているんじゃないの?」
隣を歩く男子生徒に視線を向けたままで、タマモが自分たちの進行方向を指差す。
「え?」
不意をつかれた形で男子生徒が思わずその指を追う。
その指の先には、グラサン黒ずくめの横島が立っていた。
「あ!」
驚きの声を上げる男子生徒。
その男子生徒の頭には、横島のそれとそっくりなちょっと派手目なバンダナが巻かれていた。
「に・・・にい、ちゃん?」
少し不安げにつぶやく男子生徒。
横島は、むしりとるようにしてサングラスを外していた。
「お前、ケイか?」
その言葉で確信を得た男子生徒は、ケイは一気に走りだした。
それを見た横島も小走りでケイのほうへと向かう。
ふたりはぶつかり合うようにして抱擁を交わした。
すたすたすた
それを横目に、タマモは芝生に片膝をついた格好のままで固まっている美神のところに歩み寄った。
そして、しれっとした表情で美神の横に腰をおろす。
「気づいてたの?」
美神が立てた膝をたたんで芝生の地面に座りなおした。
「当たり前でしょ。」
すまし顔でのたまうタマモ。
「美神さんたちがいくら優秀な霊能者だからって、犬神のわたしが立ち聞きや尾行に気がつかないわけないでしょう。」
力及ばず捕獲されちゃうことはあり得てもね、とタマモは続けた。
「どうしてこんな回りくどい事したのよ?」
当然の疑問を美神はぶつける。
横島とケイを再会させてやるだけなら、単にふたりを引き合わせてやればいいだけなのではないか。
今回のやり口では不確定要素が多すぎて、ふたりが再会できる保障はどこにもないのだから。
「どうしてって、このほうが面白そうだったからね。」
今回うまくいかなかったらまた違う手考えたわよ、とタマモはくすくす笑った。
「ほら。ふたりとも心の準備がまったくない状態で会ったからうれしさ倍増って感じじゃない?」
ふたりは、周囲が向けてくる奇異の視線もなんのその。
大げさな身振り手振りと大声で再会を喜び合っている。
「それにね。面白そうなことはもうひとつ起こるかもしれないんだ。」
すっくと立ち上がるタマモ。
「ケイね、悪い霊能者から自分たちを守ってくれた横島みたいに強くて優しい男になりたいっていってたんだけど。」
すすすすっと美神から遠ざかる。
「その悪い霊能者って、誰だったの?」
そういい残して脱兎のごとく駆け去るタマモ。
「ん? ・・・・・・・・・あ?!」
美神のサングラスがガクンとずり落ちた。




この後、美神の存在に気がついたケイが恐怖に駆られて全力攻撃を仕掛け、とんでもない騒ぎに発展してしまったりするのだが。

それはまた、別の機会に語られるかも知れない。



おしまい
お久しぶりです。
山神アキラというものです。

前作をお読みくださったみなさま。
ありがとうございます。

コメントを下さったみなさま。
ものすごくありがとうございます。
コメント返しせずに申し訳ありません。

わたくし、コメント返しを超苦手としておりますのでご容赦いただければと・・・・・・


またお読みいただければ幸いです。

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