5587

【DS】Orange Tea Time! 〜とある乙女の、お茶会におけるコンフィチュール的独白〜


 文化祭、と言うらしい。

 門柱を潜ったところから、すでに喧騒は耳障りなほど。
 桜の花も、暖かさがつのる季節にあてられてか、やたらと遅咲きのくせに、妙に爛漫を誇ってる風情だ。
 ほわほわ、とお日様の熱気をはらんで、舞い落ちる一枚一枚が、これまたゆるやかときている。

 せっかくの良いお天気だから、寝ていたいんだけどなぁ。
 全身のあちこちからそんな訴えが聞こえてくる気がする。
 誘惑というにはあまりにも切実だし、ちょっと甘美な感じ。
 っていうか言われなくても、そうしてたいよ。

 だけど、今のわたしは中学生なのだ。
 勢い半分で承諾したとはいえ、自分から言い出したこと。
 投げ出すのも業腹だし、同じ学校に通っているバカ犬に見下されるのは、もっとしゃくにさわる。
 あっさり状況の変化を受け入れたアイツにできて、わたしにできないはずはない。んなわきゃない。

 というわけで、いろいろと初めまして。
 六道女学院・中等部。1年B組。美神玉藻です。
 なーんていっても、入学してから、数ヶ月程度しか経過していないもんね。
 上級生主動で催し物が開かれるというので、是非行こう、と同級生たちに誘われて来てみたは良いけど、どうも手持ち無沙汰。

 ごみごみ、ごみごみ。
 ああ、頭痛がしてきそうになる。
 そう。はっきり言って人ごみが嫌いなわたし。
 学校そのものが性に合わないことは、自分が真っ先に百も千も承知している。

 背後にはどうにもうざったい連中がひしめき合って来てるし。
 人の皮を被った狼、なんて言いかたを聞いたことあるけど、それにしたって、なんてまぁあからさまなバカ面。
 本気で帰ろうかな、と思い始めていた矢先に、慣れたにおいを嗅ぎ取ったのは風に感謝したいところだ。

 いつものにおいが1人分。
 もう1人分は、久しぶりに嗅ぎ取ったものだった。
 一瞬の間隔を置いて、ちょっとドキッとした。
 半年・・・・・・ぶり、くらいになるのかな。


 「で、後ろのお二人さん」

 「もろバレですか」

 「妖狐の嗅覚をバカにしないでって、何度言ったらわかんの」


 真剣に隠すつもりなどあったのか、とも思う。
 ほっかむりにサングラス。手には桜の枝に、背中には旗指物。
 そのくせ衣服に変化はないときている。
 これでバレない、と思う方がおかしいと思うんだけど。


 「なにやってんの、美神さん、横島」

 「あっはっはー。や、ちょーっと用事があってさ。偶然、アンタを見かけてね」


 大方、半分くらいはうそではないだろう。
 あちこちを眺める不振な挙動は、誰かがいないか、あるいは来ないかを警戒してるようだ。
 たぶん、六道冥子とかいう美神さんの友達だと思う。
 昨日受けてた電話で、渋い顔してたのはこれが原因だったのかもしれない。

 一方の男の方は、これはもう作為的というか、シロ関連でのことだろう。
 もう2週間以上も前から、あのバカ犬は手紙だの電話だので、ぜひ来てくれるようにと催促していたから。
 ちゃんと、アイツとは会ったのかな。


 「半年振りかしらね。横島」

 「ん、そのくらいかな。元気そうじゃん、タマモ」


 少しだけ背が高くなっただろうか。
 横島忠夫の姿が懐かしく思える自分が、少し意外だった。










                Orange Tea Time!

                     〜とある乙女の、お茶会におけるコンフィチュール的独白〜










 「令子ちゃ〜ん」

 「あああっ、ひっつかないでー」


 というやり取りを残して、美神さんは去っていった。
 っていうか、ほとんどさらわれた?
 式神に見付かって、あっさりと拘束されてしまったのだ。
 どんな理由があるものやら分からないけど、係わり合いにならないほうが良さそうだと思った。
 横島も大きくうなずいていたけど。


 「しっかし、なんて似合わない」

 「わっはっはっ。浪速のキース・リチャーズと呼んでくれ」


 ジージャンは同系色のジャケットに変わっていた。
 雲と蒼穹が淡くなって溶け合って、溶かしこまれたダンガリーのシャツは、裾を外に出している。ファッションのつもりなんだろうが、この男がやるとどうもだらしなく見えてしまう。
 スニーカーは、活動的なハーフブーツにチェンジしていて、ジーンズはそのまま。
 納まりの悪い髪の毛は相変わらずだけど、バンダナは見慣れていたものよりも少し大きめになっていた。後頭部の結び目がどこか無骨なリボンのようで、なんだか笑える。

 きちんとした着こなしとだらしなさが、ごちゃごちゃになってるくせに、でも一目で横島だと分かる。
 コイツの昔を見知っているものからすれば、もやがかすんだような雰囲気を纏っていたことが一番に思い出せるはず。
 いや、はっきり言ってしまえば、単に服装も気力も色褪せすぎてて、ますますビンボーくさかった?
 日々乏しい金銭と食欲が重なり、生命力まで薄れてきたのか、とあきれかえっていたものだ。


 「信じられないわ。貧乏っ気が薄れて、しかも衣服がまともな横島なんて横島じゃない。あんた誰よ?」

 「いくら女の子でもしまいにゃどつくぞ、こら」


 本気でない証拠はいくらでもある。
 しかめた眉の下で光る目の奥。
 への字に曲げた口元の笑う角度。
 微妙さを見つけられるというのはちょっとした探検気分だ。


 「それにしてもわざわざ京都から来たの? ひまねぇ」

 「まぁ、そう言うな。シロのこともあるしな」

 「熱心に手紙書いてたしね。あんたのことになるとあいかわらず、てんで犬だもん」


 美智恵さんのつてで、とある実力派GSを紹介されたコイツは、卒業と同時に京都に向かった。
 あの時は、いろいろ含めてそりゃもう大騒ぎだったな。
 あまり思い出したくないけど。



 『やだやだやだー! せんせいの後輩になるー! なるったらなるー!』



 その後、一度は納得したものの、横島が京都に行くと聞いて、またも暴れだしたのは言うまでもない。
 そんな、バカ犬。


 「教育って大事だよなぁ」

 「しつけでしょ、飼い主さん」

 「怖いこと言うな! オレの倫理性を疑われるわ!」


 頬を染めて激昂するこいつを見てようやく、こみ上げてくる笑いと共に妙な落ち着きを、わたしは思い出せた。
 見知らぬ人間を相手にしていたような、見えない壁と気構えを要求される、そんな違和感。
 恥じらって怒るこいつの眼差しを見た途端、かさぶたが一枚一枚、剥がれ落ちていく。

 この男の嗜好が、『女の子』にではなく『女性』にあることがようやくわかったのは、つい最近の事だ。
 それを念頭においておけば、横島忠夫という男のバカさ加減を、少しは許容しえよう余裕も生まれるというもの・・・・・・かもしれない。
 アホ丸出しの笑顔で女性をくどくさまを見るたびに、どうも自信がなくなるけど。


 「楽しんでるか・・・・・・と聞いても、そうじゃないようだな」

 「何を楽しめって言うのよ。とりあえず女がいれば口説く楽しみのあるあんたと違って、わたしは静かなところでのんびりしてたいの」

 「否定はせんけど、中学生の言うセリフじゃないぞ、それ」


 コイツの苦笑の度合が、すこし軽快になる。
 理解は出来たんだろう。


 「それにしても・・・・・・まー、見事にオオカミさんばっか。将来性が大いに期待されますな、タマモさん」

 「だからヤなの。『金魚のフン』っていうんじゃないの?」

 「お前さん、ますます美神さんに似てきてないか?」


 背後で部活紹介を兼ねて出店を広げている男子連中を見ながら、横島はあきれ返ったようにこぼした。
 良く言う、とわたしは真っ先に思った。あんたと同類じゃないか、といいたいわけで。
 一般開放されているから、誰がいても不思議じゃないし文句も言えないけど、無遠慮な視線が刺さるのは不快でもある。
 校門前の場を離れて―――なぜか横島も付いてきたけど―――とりあえず校舎の裏通路へと回った。

 わたしたち2人とも同時に足が止まったのは、むしろ必然だった、と思いたい。


 「猫ね」

 「猫だな」


 しかし、でかい猫だ。
 デブに一歩手前じゃないか、と思う。
 いや、もう十分に相撲取りクラスだろう。
 いきなり二本足で立ち上がって『どすこい』と口にしても、きっと驚かないかもしれない。


 「マワシはしてないのかしら?」

 「メスなんだろ、きっと」


 横島も同じ事を考えていたようだ。かなりひどいことを言ってるのは分かってるけど、うん。
 体重は、目測でも10キロていどか。
 悠々とした風情で丸まり、卓上はさながら、猫のためだけに据えられたベッドにも見える。
 雨風に晒されて、無骨な地肌がむき出しになった板張りであっても、なぜか優雅だと思った。


 「ごっつぁんです」


 なんて無遠慮かつ適切な挨拶だろう。
 わたしは不覚にも笑ってしまった。
 ゆえに瞬きする間もなかった。
 猫のジャンピング・アッパーカットなんて見たのは、どう考えても初体験だったから。


 「どぶらげっ!」


 としか聞こえない叫び声と共に、横島は吹き飛び、でっかい穴の中へと落ちていった。
 ゴルフで言うホールインワン。万雷の拍手ものだ。
 アニメでしか見られないような、丁寧すぎる放物線だった。


 「わ、わ、わ、ちょ、ちょっと」


 私の余裕も、むんずと襟首をつかまれたとたんに終わった。
 で、やっぱり放り投げられた。
 ああ、大地を踏みしめられるのって、安定感には大事だったのねー。

 でも、なんであんなに力持ちなんだろう?
 なんて疑問は落っこちてる最中に考えてました。
 のんきなんかじゃないわよ。悪い?





 ――― というか、ある日のワン・センテンス。不思議な国でのお話。





 器用な着地で 今日来たお客
 異様な威容も誇るこのお茶会に ややようこそと白ウサギ
 三月生まれの真白なウェイター やはり気取ってご案内

 隣のアイツは 紳士らしくて
 シルクハットに燕尾服
 ステッキ回して ステップ踏んで
 エプロンドレスのわたしを誘う

 家の中のネズミたち チーズに穴あけご満悦
 山にお住まいヤマネズミ 晩餐会にも寝過ごし三昧

 ヴードゥー使いのドードー鳥は 一人ぼっちのインコの子等に
 後ろのアヒルのお宅にて 帽子屋さんの笑いを学ばせる

 酒の神様お招きしてと 男爵夫人の御言葉に
 ご機嫌よろしい王様も 相伴所望とお勇み気味

 酒樽かついだ伯爵様は 奥方様と肩組み合って
 愛やら恋やら爛漫の歌 兵士たちとて酒盛の夢

 スウィッチブレイドは 3番4番 しかして7番 
 兵士の番号 2番に5番 最後に数えて幸運の7番
 芋虫さんのウェイターに 手札のカードをご提示しよう

 春色 桃色 木々の色 鈍い中にも恋の色
 ご照覧あれ エースのファイブ・カード
 クイーンのハートは誰のもの?
 だけどコイツは気付かない

 黄金色したマフィンの山に 香りはバニラ・エッセンス
 七色模様の砂糖の河に 大きめスプーンのひとさじでお舟
 お薬になるのよ と乳母さんはいうけど
 ふわっとただよう湯気の中 夕日の顔したケーキが良いの

 うちの小さなお姫様は これがお好きのようですな
 生意気言ってるバンダナの紳士 すねでも蹴飛ばしたげようか?
 ご遠慮めさるな紳士殿 乙女の嗜みにございます
 お目に宿った星々を 飛ばしてご覧に入れましょう

 ミルクを混ぜた紅茶の向こう 美女のウインクのなんて様になるやら
 蕩けた蜂蜜は好きだけど 蕩けた笑顔は気に食わない
 紳士を気取っているくせに まぁステキだなんてステーキに感動

 くるくる回るワルツな庭で ワインに酔ってるわたしとアイツ
 大きくなる? 小さくなる? 握った手と手の違いはかなり
 いつかはリードしてみせる 振り回すのは女の専売特許

 時が流れりゃ針も回る 長い針が忙しなければ 短い方は怠け癖
 それでもときおり重なり合えば これで終わりと鐘が鳴る

 美味しかった? と聞いてくれたら うんと答えるわたしとアイツ
 これでさよならと済んでいれたら 終始一貫よかったけれど
 公爵夫人に男爵夫人 姫君 メイドに女王様
 別れの挨拶といいながら 口説き始めた大バカ野郎

 苦笑いに歓声に 振られるハンカチと手の数々
 たちまち兵士に追いかけられて 追い詰められて
 崖の縁までやって来ました 危機一髪
 こいつだけでも突き落とそうかと アブナイ考え抱いてたら

 またも来ました どすこいネコ
 今度はツッパリ すなわち張り手でした
 あーん 痛かったよー

 またしても落とされてしまいましたとさ





 ――― でもって、気が付いたら、読み終えていたワン・ワード。





 白昼夢と言うらしい。

 ぼんやりしていた―――だろうと思う―――意識が目覚めてきたのは、いつのことだったか。
 とにかく、目の前の光景が分かったときには、人の姿もにぎやかな声もそのままだった。
 ネコだけは、いなかったけど。


 「あのー、マドモワゼル・タマモ」

 「なんでございますでしょう、横島さま」


 カンペキなまでに呼びかけがおかしい。
 声も上ずってます。って、やっぱりそうなっちゃうよね。
 互いの姿を目にしたとたん、叫び声出さなかっただけでも褒められるもん。
 2人とも見事なまでに、ドレスアップでございました。

 ええ、そうです。夢の中の姿のまんまです。
 なんてことでしょう。あーあ。

 わたしも疲れてきたかなー。
 このままの姿で、平然と校内でのオープンカフェに顔出しちゃってるんだもの。
 しかも顔見知りときてるから、やりきれない。
 っていうか、逃げられない?


 「まぁ、ステキ! どうなさったんですか、お2人とも?」

 「はっはっは。ちょいと冒険へと出向いてみましてね、魔鈴さん」

 「ネコに殴られて穴に落っことされたのよ、このバカ」

 「あああっ、ネタ晴らしはあかん、タマモ!」


 六道の理事長にお願いされて、文化祭の間だけお店を出してるって聞いたけど。 
 まぁ、お店の雰囲気に合ってる、といえば合ってるのかなぁ。
 わたしは魔鈴さんに、起こったことのぜんぶを話した。


 「それはラッキーでしたよ、二人とも」


 一瞬、あっけに取られたような顔をしていた彼女。
 お茶を用意し終えて、軽く振り返ったあと、にこやかな顔で言ってくれた。
 ええ、まったくラッキーだという意味が分かりません、はい。


 「【チェシャ猫】って言うんですよ」


 聞いたことないネコの名前に、わたしも横島も首を捻る。
 当の魔鈴さんは、妙にうきうきした声と仕草だった。
 そのまま跳ね出してしまいそうな、喜色満面な感じ。

 なんだろう。
 なんか、妙に興味津々というか。
 名前だけ聞いていた宝物を見つけたような。
 子供らしい喜びようだった。


 「はい、横島」

 「おんや、こりゃ良い香り。紅茶?」

 「見りゃわかるでしょ。オレンジペコーよ」

 「銘柄には疎くてねぇ、わっはは」


 コイツと会話してると、ため息がいつもの倍以上、必要になる気がする。
 銘柄以前に、ティーポットにコーヒー入れるバカがどこにいるっていうんだろう。


 「タマモのおごり? 珍しいこともあるもんだ」

 「別にいいもん。今度、お揚げで倍返ししてもらうから」

 「うっわー、損して得取れってか」


 追いかけてくる兵士たちから、わたしをかばおうとした姿勢に対するごほうび。
 でも、口にはしない。する必要もない。
 だって内緒にしておくべきだから。


 「あら、いらっしゃいませ、皆さん」


 うん。秘密にしておくべき理由がいらっしゃった。
 ね、わかるでしょ?


 「何やってんの、アンタたち」

 「た、タマモちゃんっ!?」

 「お、お主、せんせいと何をっ!?」


 まぁ、みんなでなくても、驚く理由は周囲の視線だけでじゅうぶん分かるわよね。
 空色のエプロンドレスに、なぜかブレザーをまとってるわたし。
 燕尾服にホワイトのワイシャツ、アスコット・タイ。てかてかとカブトムシみたいに光る靴(エナメルっていうんだって)。
 片方だけの眼鏡に―――片眼鏡(モノクル)と、これまた魔鈴さんからの知恵―――シルクハット。マントにステッキ。
 片足組んでお茶を楽しむ、そう、あの煩悩青年。


 「・・・・・・不思議な国へ行ってきたの」

 「はっはっは、宗旨替えしました。【浪速のフレッド・アステア】と呼んでください」


 三者三様、って言うんだっけか。
 答えにならない答えを聞いて、丸まった目のなんと様々で綺麗なことか。
 まぁ、わたしの答えがほんとうのことだとは、自分自身でも疑わしいんだけど、ね。


 「誰が呼ぶか、どアホ!」


 ああ、指をくわえてますね、おキヌちゃんにシロ。
 こうして真正面からみると、同姓から見ても、なんかかわいいかも。


 「あ〜、ちいちゃん〜」


 なんて間延びした声なんだろう。
 ネコへの対応をどうしたもんかと考えていた先、ふよふよに溶けた水あめを思わせる声が響いた。


 「冥子ちゃんの飼い猫?」

 「うん〜。よくわからないけど〜、うちに住んでるネコさん〜」


 横島の問いかけに、彼女はのほほんと答える。
 横では、美神さんがげんなりした風情を隠しもしていない。
 ああ、きっとあのネコを、探すのを手伝わされてたんだろうな。
 でも、よくわからないというのは、さすがにのんびりが過ぎると思う。

 彼女にだっこされた瞬間、ネコは半分視線を向けた。
 残りの半分は、横島が見ていた。
 周囲の全てを忘れて、ネコだけを見ていた。その瞬間。


 「・・・・・・見たか、あれ」

 「・・・・・・うん、はっきり」


 横島の声は、呆気に取られた心そのままだった。
 わたしもたぶん、そんな感じだったろうと思う。

 ネコが【にやり】と笑った。

 かなり、かーなーりびっくりした。させられた。
 鳴き声は【にゃあ】と言ったり、聞こえたり。しかして書いたりする事もできるかもしれない。
 でも、笑うネコだ。ネコが笑うなんて初めて知った。

 ってことは、わたしたちをからかって楽しんでたわけ?
 うっわ、やなネコだなぁ。


 「ちょっと、なにふたりして世界作ってんのよ」

 「や、す、すんまへん。あんまりビックリしたもんで、つい」

 「お茶の時間なんだから静かにしてよ、もう」


 またも、なんか騒ぎ立ててるけど、魔鈴さんの「まぁまぁ」というとりなしが聞こえる。
 ケーキとお茶、コーヒーにタルト、パイの数々を注文しているようだ。
 うっふふ、太っちゃうかも、ね。自棄食いかな?
 横目を流せば、横島は黙って紅茶をすすり、ケーキを交互につまんでいる。

 焼きたてのマフィンと紅茶。
 【リトル・スカーレット】の甘酸っぱさと小さな果実。
 小生意気なチェシャ猫の態度と笑み。

 ティースプーンを咥えたままで、ひらひらと、柄を動かす横島。
 はしたないわよ、と咎めるつもりで睨んだつもりだったけど。

 湯気と片眼鏡(モノクル)越しの、不器用でさまにならないウインク。
 トップハットを指先でくるくると回す、ちっとも紳士的じゃないその仕草。





 ―――あ、少し格好良い





 なーんて思ってしまったのが、
 わたしことタマモの、この日のちょっぴり悔しい思い出になった。

 ほんとに、いろいろと、ちょっぴりなのだ。
 うん、ぜったい。













                          おしまい

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]