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明日を目指して!〜その8〜




「ほな、お疲れさんでしたーっ」

 レンガ造りの洋風建築、美神除霊事務所から出てきたのは皆さんご存知横島忠夫。
 本日は仕事も入っていないし、天気予報ではゲジ眉の天気予報士が今日は午後から雨が降ると力説していたので臨時休業。
 もちろん決め手は女帝、美神令子の鶴の一声。

 ――雨の中仕事するの?私はやーよ――

 この様だ。
 事務所の所長のくせして労働意欲はさほどないようである。
 まあ一度仕事をしただけで、一般人には到底縁の無いような大金が舞い込んでくるのだから当然と言えば当然か。
 大名商売と言う勿れ、そんな非生産的行為は誰もしない。
 ましてや横島は事務所設立からの付き合いである。
 いままでこんなものは嫌と言うほど見てきたし。
 いやはや、人間の環境適応能力とは時たま恐ろしいものがある。

「とはいえ……これからどうすっかな〜。家に帰っても暇なだけだし」

 そう、呟いた。

「……うし、その辺ブラブラすっかっ!」

 帰宅途中に街をブラブラ、買い食いに立ち読み。
 けして行儀がいい行為とはいえないが、これこそ一般的な高校生のささやかな楽しみではないだろうか。
 思い立ったら即実行。
 これこそ彼の長所であり、短所でもあるのだろう。
 アグレッシブ・ヨコシマンである。

「あのおにーちゃん……GSなのかな……?」

 そんな彼を見つめる視線が一つ。
 視線の主は横島と彼の出てきた建物を見てそう呟いた。






  明日を目指して!〜その8〜






 フラフラほっつき歩いてやってきたのは商店街。
 行き交う人々は手に買い物袋を持ち、値踏みをするように店の商品と睨めっこ。
 右を見れば八百屋の店主が客寄せをしている。
 左を見れば豆腐屋から、「豆腐一丁ちょうだい」「あいよ」なんて声。
 実に平和な光景である。
 そんな風に思っていると、一組のカップルとすれ違った。
 何気なく振返って見たその様子は、実に仲睦まじげ。
 ふと、彼らの姿に自分と彼女の姿が重なって見えた。

(……なんか、すっげーキツイかも……)

 彼らに対して負の感情を抱くのは筋違いだとはわかっている。
 自分で選択し、行動に移した結果この刻があるのだから。
 だが人間は理屈で割り切れるようにはできていないらしい、特にこの男の場合は。
 何度そう言い聞かせても、心に染み付いた虚しさ、黒い気持ちは消えなかった。

 グウゥゥゥゥ……

「そういや、昼飯食ってなかったっけ」

 シリアス調から一転、腹から空腹を示す音。
 周りの視線が一手に集まる。
 どうやらかなり大きな音が出ていたらしい。
 流石に恥ずかしくなった横島は、とある店めがけて駆け出した。

「えぇい、しゃーない!ここは奮発して―――」

 そういってポケットから巾着袋を取り出した。
 もう一度言おう、巾着袋である。
 全体の長さと取り出し口の長さは同じぐらい長いんじゃないかってぐらいの巾着袋である。
 走りながら取り出そうとした横島は結構上下に揺れているわけであって―――

 バラバラッ。

「あ」

 ―――小銭は見事にブチ撒けられた。
 数少ない小銭はあわれ、道路わきの溝の中へ―――

 コロコロコロ………ポッチャン。

「……え?」

 ―――小気味いい音を響かせて、鉄の柵の隙間を縫うように落ちた。
 具体的に言うと、巾着袋の中身がほぼ全部。
 横島はしばし呆然として立ち尽くした。

「嘘だろっ!?」

 まるで漫画のような仕打ちを受けた彼。
 ガバッと地面に手をつき排水溝を覗き込む。

「カムバック、プリィィィィィズッ!」

 排水溝に叫ぶ男が一人。
 しかしそんな願いが届くはずもなし。
 聞こえてきたのは神の声ではなく、疑問やら叱責の声ばかり。

「ママー。あのお兄ちゃん、何やってるのー?」
「見ちゃいけませんっ!」

 なんて声もチラホラ。
 横島は眼の幅ほどもある涙を流しながら空に向かって叫び(嘆き?)を上げた。

「どチクショーッ!俺が何したってゆうんやーっ!!」

 そんな疑問を浮かべても、答えてくれる者はいやしない。
 アホーアホーと鳥が鳴く。
 ガックリと肩を落としながら、歩き始めた。

「とほほ……こんなことなら、昼飯食わせてもらっとけばよかったなぁ……」

 とぼとぼとぼ。
 そんな擬音がぴったり似合うような歩き方。
 心なしか、その背中にただならぬ哀愁が漂っている。
 そんな横島に、背後から声がかけられた。

「あの……」
「へぃ?」

 実にかったるそうに振り向いた横島の眼に写るは、横島より頭二つ分ぐらい小さい少年。
 おどおどしながら眼鏡越しに横島を見上げている。

「なんか用?」
「ひっ!」

 ズザザザザッ!

 つい声を荒げてしまった横島に、過剰なほど怯える少年。
 何だコイツ?と思いつつも横島は口は開いた。

「いや、そんなにびびらんでも。とって食いやしねーって」
「ごっ、ごめんなさい」

 ちょっぴりショックなようだ、顔がさらに落ち込み気味である。

「で、なんか用なの?」
「あ、あの、その……」

 未だビクつきながらも、少年は語りだした。

「ん?なんだよ、はっきり言えよ」
「お、お仕事お願いしたいんですけどっ!」










 横島は少年――ユウキと名乗った――と喫茶店に来ていた。
 入ってすぐ一番奥の席に着き、英雄はクリームソーダ、横島は水を飲む。
 金が無いとはこういうことだ、金が無きゃ生きてはいけない。
 横島は、美神の守銭奴っぷりを今だけは尊敬することができた。
 今だけは。

「んで、座敷ワラシを探し出して欲しいってか?」
「……うん」
「なんでまた?」

 横島は周りの客に聞こえないような小声でユウキに尋ねた。

「……おねーちゃん」
「ん?」
「僕、おねーちゃんに帰ってきて欲しいんだ」
「……どっかに、行っちまったのか?」

 途端にユウキの表情が曇る。
 横島は慌てて話題を変えた。

「いいか、坊主?座敷ワラシってのはだなぁ―――」

 横島は座敷ワラシの在りようについて、ユウキに語った。
 内容の大半は一般的に知られている情報だったが、そんなものに頼ってはいけないと力説した。
 自分が痛い目見ているのにこんなガキんちょがいい思いすることが我慢ならなかった、なんてことは無いと思う。

「だって……僕一人じゃ、なんにもできないんだもん……」

 そう言って、ユウキは顔を伏せた。
 水を飲んで空腹を誤魔化していた横島はなんとなくいたたまれない気持ちになっていく。
 だが横島だって一応男の端くれだ。
 口にしたことをそうホイホイと変えるほど、プライドが無いわけではない………と思う。

「よ、よく事情はわからんが、だったら尚更お前が一人で何とかしなくちゃ駄目だろうよ」
「…おにーちゃん、助けてくれないの……?」
「うっ!い、いや、真の男というものはだなぁ、常に孤独であってだなぁ……」

 横島はワケのわからない超理論を展開し、どうにかユウキの追及を逃れようとする。
 無い知恵を搾り出そうと必死になる。
 だがユウキは横島が自分を助けるつもりなど毛頭ないということを悟ったようだ。

 ジワリ………

 ユウキの瞳に涙が滲む。

「お、おい……」
「びえぇぇぇ〜〜んっ!!」
「ちょっ、泣くなってば!」

 泣き出した。
 大声で喚きだしたユウキに気づき、店にいた客たちもなんだなんだと野次馬根性を丸出しにして様子を伺ってくる。

「坊や、どうしたの?」
「びえぇぇぇ〜〜んっ!!」
「あのお兄ちゃんに、何か酷いことされたの?」
「びえぇぇぇ〜〜んっ!!」

 いつの間にかお節介なお姉様方がユウキの周りに集まっていた。
 子供とは恐ろしい、こうなると横島は完全に分が悪い。

(あかん!このままやったら鬼畜野郎のレッテルを貼られてまう!)

 横島の脳裏に新聞の一面を飾る自分の姿が眼に浮かんだ。


仕方なく横島はユウキの手を取り、店を飛び出した。

「ちょっ!お客さん、お勘定―っ!」
「『美神除霊事務所』当てで領収書きっといて下さいー!」
「びえぇぇぇ〜〜んっ!!」










「ハァ、ハァ……落ち…ハァ、ハァ……ついたかぁ?」
「ヒック………グスッ……うん……」

 またまた場所を移して、今度は公園のベンチ。
 ユウキがぐずっているのに対して、横島は背もたれに体を預けている。
 ハァハァ言っているのは横島がそっち系の人ではないということを一応明記しておく。

「で、お前これからどうするんだ?」
「僕……一人で捜す」
「一人でぇ!?」

 ユウキの返事に横島は仰天した。
 だってどう見てもユウキは小学校低学年以下。
 こんなお子様が悪意と危険に満ち溢れた東京の街をウロウロするのは色んな意味で危ない。
 横島は嘆息する。

「なんだって、そんなに意地になるんだ?」
「だって……おねーちゃん、知らない叔父さんとどこかに行っちゃったんだ」

 おいおい、マジかよ、そんな複雑な家庭事情なんか面倒見きれねーぞ。
 横島の顔が引きつった。

「お父さんと、お母さんに聞いても教えてくれないから……だから、僕が何とかしなくちゃ……」

 そう言ってユウキは涙をぬぐった。

「じゃあ、僕もう行きます。色々、お騒がせしました」

 振り向いたその顔にはまだ涙が浮かんでいる。
 再び横島は嘆息した。
 ボリボリと頭をかきながら大声で言った。

「……しゃーねーっ!手伝ってやるよ」
「え?だって、僕が自分で何とかしなきゃいけないって……」

 そう言うユウキの頭に横島は手を置き、笑ってみせる。

「お前みたいなガキんちょがそこまで言ってるのに、俺が何もしないってのは格好悪いだろ」
「おにーちゃん……」
「なーに、俺に任しとけ!パパッと見つけて、チャチャッと幸せにしてもらおうぜ!」
「うんっ!」

 ユウキと同じ目線になるようしゃがみこんで横島は言った。

「でもな〜、座敷わらしつったって、いったいどこに行けば会えるのやら?」

 横島はいきなり頭を抱えた。
 彼は座敷わらしなんて見たことない。
 どんな姿形かまるでわからないのだ。
 五感のうちの一つ、視覚による情報がまるで無し、というのは結構きつい。
 するとユウキは横島を見て事もなげに言った。

「僕、知ってるよ。いつも街の中とか、お家にいるもん」
「へ?」
「おにーちゃん知らないの?」

 ユウキの言葉に横島は耳を疑った。
 座敷わらしなんてGSでも滅多にお目にかかれないし、そもそも座敷わらしが住み着いた家の住人にしか見えないとの説が一般的だからである。
 また、子供でも純粋な心の持ち主にしか見えないという。

「ユウキは、そんなに何度も何度も見たことあんのか?」
「うん。前まではお家にいたんだ」

 超羨ましい、家にも来てくんねーかな。
 横島はそう思わずに入られなかった。

「あ!」
「へ?」

 突然ユウキが叫び声をあげた。
 人気のない方向向かって指をさす。
 つられて顔を向けた横島が見たもの。
 それは公園の茂みから二人の様子を伺っている緑色のおかっぱ頭をした、着物の少女。

「え?は?アレェ?」

 突然のことに動揺。
 すると視線が合ったのか、座敷ワラシは突然背を向け駆け出した。

「あっ!」
「えーっと……とっ、取りあえず追っかけるぞっ!」
「うん!」










 ふわふわふわふわ……

 ダダダダダダダダッ!

 タタタタタタタタッ!

 三者三様の擬音を響かせ街を駆け抜ける。
 ちなみに座敷ワラシだけは地上80cmぐらいの超低空飛行である。

「ちくしょーっ、なんて逃げ足の速い野郎だっ!」

 横島の言葉通り、かれこれ半時間はおっ駆けっこをしているだろうか。
 だが、一向に距離が縮まらない。
 お子ちゃまなユウキはともかく、逃げ足に関しては定評のある横島でさえ追いつけない。
 これにはかなり驚いた。

「まっ、待って……ハァ、ハァ……」

 横島のはるか後方、ユウキはゼェゼェハァハァ言いながら、必死に喰らいついて来ていた。
 最早へろへろ、千鳥足である。

「おっとっと。大丈夫か?」

 横島は走りながら振り返り、ユウキに声をかけた。
 ユウキはひざに手をつき、肩で息をしている。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 どうやら相当きつかったらしい。
 というか、よくぞ30分も横島について来れたと褒め称えるべきだろう。

「あ〜、悪かったな。ほら、乗れ」
「え?」

 横島は背を向けてしゃがみこんだ。

「ほら、乗れって。早くしねーと、逃げられちまうぞ」
「……うん」

 恐る恐るユウキは横島に背負われた。
 小さな手で青いジャケットを握り締める。

「乗ったか?」
「うん」
「じゃ、行くぞ。しっかりつかまってろよ!」

 ダッ!

 勢いよく横島は飛び出した。
 一連の動きによって距離は離されているが、追うのを止める気にはなれない。
 背中の少年の期待を裏切ることはもうできなかった。

「待ちやがれっ、コンニャローッ!」

 ふわふわふわ……

 ダダダダダッ!

 追走劇は始まった。
 座敷ワラシは決して機敏な動きではないにも関わらず、狭い路地や裏道を滑らかに飛んでいく。
 横島が見たのは、銭湯に入っていく座敷ワラシの後ろ姿。
 横島も駆け込んでいく。

 ガララッ!

 引き戸を開く。

「一人380円に―――」
「通り過ぎるだけッス!」
「だけっす」

 ポカーン。

 番台のお婆さんは目を丸くしていた。
 だがそんなことはお構いなし、横島が立っているのは女湯の入り口である。
 番台のお婆さんが止める間もなく入り込むあたり、無駄に高性能。
 すると、突如として横島の肩が震えだした。

(フフフ……それで逃げ込んだつもりか。確かに普通の男なら女湯に入り込むのは憚られよう。だがしかし!俺にとっては何のダメージにもならん。いや、こんなことは寧ろご褒美!いざ行かん、約束の地へ!」

 思ったことが口に出るのがこの男の悪癖か。

 ガラリ

 思いっきり引き戸を引いた。
 温泉内の女性陣はまばらであったが、彼女たちは開かれた扉の先を一斉に凝視する。

「「「「「………き」」」」」
「「き?」」

 横島はこの光景を脳裏に焼き付けようと目を見開いている。
 ユウキは手で顔を覆っているが、隙間が開いているのはご愛嬌。
 そんな二人めがけてまず飛んできたのは罵声。

「「「「「キャーッ!」」」」」
「変態っ!」
「痴漢ーっ!」
「スケベーッ!」
「社会のクズーッ!」

 バキィッ!ズコォッ!メキョッ!

「ぐへっ!ぷるぁっ!もるすぁっ!!」

 風呂桶、石鹸、たわし。
 銭湯内にある、ありとあらゆるものが横島めがけて一直線。
 横島の動体視力をもってしても回避不可能なほどの凄まじいスピード。
 その威力計り知れず、横島の体は宙を舞ったとか。

 ドガッシャーン!

 二人は銭湯から叩き出された。
 ところどころに青タンができているのが痛々しい。
 勿論ユウキには手を出さなかったようだが。

「いって〜。ここまでするこたぁ、ねえだろよ……」

 苦痛に横島の顔が歪む。
 ふと顔を上げると、電柱に隠れてこちらを伺う座敷ワラシ。
 人形のようなその顔が、嘲るように形を変えた―――――気がした。

 ……プッツーン

 横島の頭で何かが切れた音がする。

「んにゃろぉ!こーなったらどんな手ぇ使ってでも、とっ捕まえて、ヒィーヒィー言わせてやるっ!」










 結論から言おう、無駄でした。
 横島必殺の『平安京エイリアンの術!』やら、どこからか現れたDr.カオス推奨、『マリア48の機能の一つ、チャイルドロック&16点式シートベルト大作戦!』やら試行錯誤を繰り返してみた。
ところがどっこい、座敷ワラシはそれら全てをことごとく回避。
 捕まえるどころかその身体に触ることさえできていなかった。

「ちくしょーっ。やっぱ落とし穴ってのは無理があったかー」

 こいつ、AHOである。
 宙を舞う座敷ワラシ相手に、落とし穴なんて役に立つはずがないだろうに。
 ユウキはそう思ったが、気を使ってそのことに気づかないふりをした。

「これからどうするの?」

 ユウキが訊ねる。
 すると横島は暫しの沈黙のあと、覚悟を決めた顔で絞り出すように声を出した。

「……こうなったら仕方ない、ユウキ。お前、金いくら持ってる?」










 場所は変わって、再び先ほどの公園。
 ここに座敷ワラシは現れていた。
 どうやら土地勘はあまりないらしく、同じところをグルグル回って逃げていたらしい。

「!」

 ふとその視線が公園の一角に注がれる。
 そこにあったものは大量のお菓子の山。
 飴玉、綿菓子、鯛焼き。
 どれもこれも美味しそう。

 ……キョロキョロ

 右見て左見てまた右を見る。
 先ほどから自分を追い掛け回していた少年と男はいない。
 座敷ワラシはおそるおそる飴玉を手に取り、込められた念を吸い込み始めた。
 彼女のような霊は、お供え物から力を得る場合が多いのだ。

 ニヤニヤ

 どうやらお気に召したらしく、念を吸い終わった飴玉を後方に投げる。
 次の標的に狙いを定め、手を伸ばした。
 鯛焼きからも念を吸い込む。

 スウゥゥゥゥ……

 鯛焼きからは白い靄のようなものが出て、座敷ワラシの口の中に入っていった。
 座敷ワラシが次のお菓子――綿菓子――に手を伸ばそうとした、まさにその時。

 ガバチョッ!

「―――ッ!!」

 突如として地面から生えた二本の腕。
 あっという間に座敷ワラシの両足を掴んだ。

「ダーッハハハハッ!よくも今まで散々コケにしてくれやがったな、コンニャローッ!」

 地面から土を弾き飛ばし、お菓子を巻き上げ現れるは横島。
 両方の手に『栄光の手』を発動させ、座敷ワラシを持ち上げた。

「これで幸福は俺のモン!明日からはあーんなことや、こーんなことがおこるんやーっ!ついに、ついに俺の時代が来たんやーっ」

 激しく高笑い。
 コイツ、いたいけな少女を虐めて喜ぶ鬼畜野郎である。
 アレ?なんか凄い既視感?

「ユウキ!やっちまえっ!」
「うっ、うん!」

 グルグルグルグル

 横島の言葉とともに茂みからユウキが飛び出してくる。
 悪いとは思いつつも、ユウキはどこからか取り出した呪縛ロープで縛り上げた。
 縛り上げられた座敷ワラシはどうにか逃れようとしてジタバタともがいている。
 ユウキはそんな座敷ワラシと顔を合わせようとした。

 プイ

 どうやらかなりご立腹のよう。
 何度やっても顔をあわせようとはしない。

「さ〜て、ここからが本番だ。とっとと幸せにしてもらおうか?あぁ〜ん?」

 少年漫画の主人公がとる態度ではない。
 まるでヤ○ザのように座敷ワラシを睨みつけながら、横島は言った。

「……ねぇ、おにーちゃん」
「ん?」

 ふと、ユウキが横島に声をかけた。

「えと、その……逃がしてあげられないかな?」
「はぁ!?いやいやっ、ユウキはそれでいいのかよ?」

 横島の言うとおり、話はこれからなのだ。
 まだ座敷ワラシを捕まえただけであって、問題は何も解決していない。
 そう横島は言ったが、ユウキは譲らなかった。
 何でだよと、横島は聞いた。

「だって……おねーちゃんが言ってたんだ。『女の子を泣かすような真似したらあかんで』って」

 ユウキはそう言って座敷ワラシを指差した。
 心なしか、その表情には悲しみがあるように見える。

「だから、もういいんだ。僕、おとーさんとちゃんとお話して、それからどうするか決めます」
「――――そっか」

 ユウキの話を聞いて、横島は呪縛ロープを解いてやる。
 すると座敷ワラシは宙に浮かび、慌ててふわふわと飛び去っていった。
 二人はその姿が見えなくなるまで見つめた。

「あ〜あ、結局骨折り損か」
「う……ごめんなさい」

 横島が少し大きめの声で言うと、ユウキは顔を暗くして謝る。
 横島としては疲れたものの、苦痛だったわけではなかったので、ユウキに慰めの言葉をかけてやった。

「や、気にすんなよ。なんだかんだでいいモン見れたしな」

 横島の顔がだらしなく緩む。
対照的に、ユウキは顔を真っ赤にした。
 銭湯での出来事を思い出しているのだろうが、少々刺激が強すぎたよう。

「……それに、アイツがいなきゃ虚しいだけだしな……」

 ユウキに聞こえないように横島は言った。

「じゃあ、僕そろそろ帰ります。本当に、お世話になりました」
「おう。気ぃつけて帰れよ」
「はい」

 ユウキは横島に背を向けて駆け出した。

(……頑張れ、ユウキ)

 横島はそんなユウキの背中を見えなくなるまで見つめていた。
 ユウキは自分と違ってまだ間に合う。
 そう思ったら妬みと羨みの混じりあった感情が胸にこみ上げてくる。
 地平線に沈もうとしている夕陽が滲んだ気がした。
まずは一言、ごめんなさい。
私事なんで詳細は省きますけど、事故にあって右腕右足を複雑骨折して入院してました。
上司兼彼女が仏のような笑顔で鬼のような書類仕事とノートパソコンを持ってきてくれたんですけど、私のではなく仕事場のもの。
家に帰れない=自宅のパソコンに触れないってことで、投稿不能な状態に…orz
勿論「そんなこと知るか」とか、「言い訳だろ」と言われればそれまでなわけですけれども。
一時帰宅の許可が出たからこうして投稿できたものの、月曜日には病院へとんぼ返りです。
次のお話は五月の半ばになりそう、ますます申し訳ないです(TT)
最後に、カルシウムを取るにはどうすればいいんでしょうかね?
検査で骨年齢が実年齢の倍以上である57歳と出たんです……
それからマリア48の機能についてですけど、六条一馬さんと猫姫さんのネタから拝借しました。
お二人とも、ごめんなさい。

五月九日、追記。
ポチポチ見てたら前のお話にレスを下さっていたkanoさんへの返事を書いていないことに気づき、吃驚仰天。
kanoさん、本当に御免なさい(TT)
では、お返事をば。
 >ここまで安定して読ませていただきました。
  勿体なきお言葉、有難うございます。
 >非バトル面がしっかりしていて面白いです。
  まだまだ若造で何かと拙い部分ばかり目立つでしょうけれども、本当に有難うございます。
  もっともっと精進しないとなぁ。
 >今後も楽しみにしています。
  ひゃっほぉぉぉうっ!

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