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tea break 〜 絶チル 84th sense.より 〜

※ 「絶対可憐チルドレン 84th sense. 絶対可憐ワイルド・キャット(3)」(07/20号)
 のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。

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     《キラー》



 桐壺は息苦しさを感じていた。何も、この会議室に窓が無いせいだけではない。
 正面には政府のお歴々が居並んでおり、先程から無言のままこちらを注視している。
 正確には桐壺の背後にあるスクリーンを見ているのだが、皆がこちらを向いている事に変わりはなく、居住まいを正す事もままならない状態が続いていた。
 かつて煙を上げる国会議事堂を映していた事もあるスクリーンに、今映し出されているのは、梅枝ナオミの任務の様子であり、次々と切り替わるそれらのシーンのいずれにも、彼女に声援を送る若者達の姿があった。
 これから始まるのが質疑という名の吊るし上げだと思うと、胃が痛くなりそうだった。
「……さて、ワイルド・キャットの活動現場には彼らが現れるようになった訳だが、これについて君の見解はどうかね?」
 一通りの映像を見終わり、お歴々の一人が早速質問を発した。
 ここからが本番である。桐壺は緊張に汗をかきつつも、予め用意しておいた回答を述べた。
「ご覧のように彼らは応援をしているだけで、ワイルド・キャットの活動に支障はありません。また、暴走族である事を除けばごく普通の若者達であり、不審な点もありません。問題は無いでしょう」
 その熱の入りようにやや度を越したものを感じないでもない桐壺だったが、調査した限りでは、例えばその背後に反エスパー団体が存在するような事は無さそうだった。
「特務エスパーの個人情報は極秘扱いだ。彼らにそれが漏れるといった事は?」
「彼女のファーストネーム以外、知られている様子はありません。身元や住所についても同様です」
 続けて別の一人が問い質す。
「だが、都内に限って言えば、ワイルド・キャットのほとんどの活動現場に現れている。通信が傍受されているのではないのかね?」
「少なくともバベルの無線が傍受されているとは考えられません。消防無線の傍受か、携帯電話等による仲間同士のネットワークを主な情報源とし、事故現場に当たりを付け集まっているものと推測されます」
 実際、ワイルド・キャット以外の特務エスパーの活動現場に現れたもののすぐに解散している事例が数件あった。
 チルドレンなんかの場合、自分達を見てがっかりして帰っていく彼らに、キレた薫が襲い掛かろうとしたらしい。そう報告する皆本はぼろぼろになっていたから、おそらく身体を張って止めたのだろう。
「機密保持については大丈夫なのだな?」
「もちろんです」
 念を押す相手に対し、桐壺は力を込めて答える。
 つい最近まで普通の人々に情報がだだ漏れだったり、パンドラのスパイがいたりしたのだが、藪蛇になりそうなのでその辺りは口をつぐんでおく。
 ひそひそと囁き合うお歴々の様子を見て、今回は無難に切り抜けられそうだと桐壺は内心ほっとする。
 だが、その判断は少々甘かったようだ。
「よろしい。それでは本題に入ろう」
 中央に座している一人が眼鏡を光らせながら、そう切り出してきた。
「『梅枝ナオミ・アイドル化計画』を実行に移す」
「…………はっ?」
 数秒間の沈黙のあと、会議室には桐壺の間の抜けた声がやけに大きく響き渡った。
 このオヤジは真面目な表情で一体何を言っているんだと、思わず顔に出てしまう桐壺。
 空耳であってくれと祈ったが、どうやら空耳ではなかったようだ。
「いや、しかし――」
「これは決定事項だ。君に拒否権は無い」
 慌てて反論しようとするが、一言の下に切って捨てられる。
「パンドラによる電波ジャック以来、特務エスパー、ひいてはバベルに対する一般市民の不信はますます強くなっている」
「電波ジャック犯の自供を放送した所で、あれも茶番に過ぎん事は明白だ」
「特にチルドレンは活動のたびに何かしら破壊していたからな」
「うっ!」
 次々と痛い所を突かれ、言葉に詰まる桐壺。オホーツク行きを覚悟したのはそう遠くない昔の事である。
「従って、バベルのイメージアップは急務なのだよ」
 振り返れば、スクリーンにはナオミのプライベートショットの数々が映し出されていた。
 あられもない寝姿だったり、体育着で高跳びする姿だったり、カレーうどんのスープを引っ掛けて泣いている姿だったり、黒い繋ぎを着て微笑む姿だったり。
「……って、どこからこんな画像が!?」
「我々の情報収集力を甘く見てもらっては困るな」
「先日の件はこちらの耳にも入っているのだよ」
「彼女ならばイメージアップに適材だろう」
「ブルマ……あれはいいものだ」
 心なしか頬を赤らめて頷き合うのを見て、桐壺は国とエスパーの未来を真剣に憂うのだった。

     *  *  *

 結局、谷崎の猛反対やチルドレンによる妨害活動、さらには普通の人々やパンドラを巻き込んでの騒動に発展し計画は頓挫するのだが、余りに馬鹿馬鹿しい顛末の為、詳細は割愛する。





     ― END ―
こんな平和な世界だったらいいなあ、と(笑)。

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