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はる、ぐるぐるともたれかかって

 眠い目を擦る四月。ぽかぽかとした容器・・・では無くて陽気。頭の中もすぽんじのように、ふわふわと夢現(ゆめうつつ)。

 桜の花も散ったこの頃。この公園もまた、散らかっていたごみの姿も少しづつ消え、普段の景色を取り戻しています。


 「やっぱり、ここが私は一番好きです」
 「ほんと、ここはのんびりしてるなあ・・・ふわ・・・」


 珍しく二人きりの私達。ドキドキとした期待感の筈ですが、暖かさの波に押し切られてしまいそうな予感。


 「今日は、仕事が休みになってよかったですね」
 「・・・え? あ、ああ、そうだね。今日みたいな日はうとうととするのが一番だもんなあ」


 私の保護者、兼、仕事場のオーナーでもある美神さん。 「今日は、布団から出ない」 とのお言葉通り、私と従業員 (バイト) である横島さんはふいに出来た休日に時間を持て余しているところ。

 楽しくお喋りの一つでもしようと思うのだけども、ぼんやりとした頭が思考を遮り、中々会話が続かない。別にそれならそれでいいのだけども、何だか勿体無い気持ちもあって・・・。


 折角二人きり何だから・・・・一緒にベンチに座ってるんだから。

 こんな風に・・・





 ”「おキヌちゃん、俺さ・・・」
 「はい?」

 「いや何か普段より、おキヌちゃんかわいく見えるなあ」
 「は・・・はいぃ!?」


 急にさらっと言われた不自然なその台詞。思わず顔が沸騰したかのように、額から、大きな汗が零れ落ちる。


 「俺、実は・・・おキヌちゃんの事」”





 ふるふる、と頭を左右に。・・・誰だろうコレ。自分で考えてみて 「あ、無いな」 と思った。ちらりと隣を見ると、もううとうととしている横島さんの顔が目に入った。口元から涎が落ちそうになって。小さなため息。

 この人は今どんな夢を見ているのだろうと・・・ちょっと気になった。





 ”「横島さん・・・」
 「ん、どうしたのおキヌちゃん?」

 「私、あの・・・その、もう十分に分かっているかも知れませんけど、横島さんの事・・・」
 「え、あ・・・いや・・・ええと」
 「私の事嫌いですか?」
 

 ど、ど、ど、どうしたんだおキヌちゃん!? え? 何コレ。

 すっと寄り掛かって来る彼女。何だか様子がおかしい。身体も動かない。


 「き、嫌いな訳・・・」
 「じゃあ、どう思っているんですか?」


 すぐ目の前には彼女の顔がある。息遣いが耳に響き、心臓の音がやけにうるさい。

 
 「・・・す、好きだけど」”





 寝ている横島さんの顔をそっと覗き込んで見る。小さな小声で、そっと問い掛けてみる。恥ずかしい気持ちと変な罪悪感の混じった言葉。





 「私の事、どう思っているんですか?」
 「す、好きだけど」





 「・・・え・・・えぇ!?」
 「わあっ!!!? ・・・あっ・・・びっくりしたぁー! お、おキヌちゃんっ・・・ど、どうしたの? えっ、あ、俺ひょっとして寝てた?」

 
 思わぬ形で返って来た答え。いや、偶然なのだろうけど。私の問いかけと寝言がたまたま重なるなんて・・・。
 
 「そ、そうですよ。何寝てるんですかっ。ねー」
 「う、うん・・・ごめん」

 変な沈黙。変なテンション。どうしようどうしよう・・・と頭の中でぐるぐる。気持ちもぐるぐる、思わず出る切羽詰った返し。

 「じゃ、じゃあ私も寝ちゃおうかなっ」
 「え?」

 すっと・・・隣の横島さんの肩にもたれ掛かる。目を瞑って、照れ隠しなのか何なのか分からないけれども。もー、どうなってもいいやと云う気持ちもあったのかも知れない。ぎゅっと・・・手のひらを握り締める。





 「ま・・・まさか正夢?」 




 
 と、小さな声で彼が呟いたのなんかもうどうでも良かった。

 隣で体温を感じていられるだけでっ・・・陽が暮れるまでそうしてた。

 おしまいです。
がんばりました。

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