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【DS】タマモと部活動と呪われし者たち

 わいわいがやがや…


「新入生諸君!!
 我々と共に、野球の星を目指さないか!?」

「僕らと一緒に、サッカーボールと友達になろう!!」

「オカルトなんて存在しない!!
 全ては化学、プラズマで証明出来るのだ〜!!」

「自由な水着なんてロマンが無い!!
 我が部は特注のスクール水着をユニフォームとしている!!
 同志よ!集え!!!」

「もやし同好会です。
 色んな物をかもしてみませんか?」

「ラグビー部だ!!
 俺たちと男と男のぶつけ合いを や ら な い か ?」

「家庭科部で〜す。
 私たちと楽しく料理しませんか?
 あ、そこのお二人どうぞ試食を…。
 こ、子豚の丸焼きがものの10秒で!?」

 様々な部や同好会が、新入生を勧誘している。
 若干違う気がするものもあるが…。

「人間って…こう言うお祭り騒ぎが好きよね」

 そんな光景を、タマモは遠目に眺めていた。






                    タマモと部活動と呪われし者たち






「女子生徒が呪われている?」

 令子は目の前のソファーに座る依頼人の言葉を、反すうしながら言った。

「えぇ…実際にそうとしか思えないのですよ…。
 ここ2年ほど、新入生の女子生徒が不自然な学校生活を送ってまして…」

 汗をハンカチで拭きながら、有名進学校の理事長と名乗った男が言う。

「不自然と言うと?」

「…部活に入るのです」

「………は?」

 男の言葉を理解出来ず、呆けた声を出す令子。

「普通じゃないっすか、俺は卒業まで帰宅部でしたけど」

 高校を卒業し、アルバイトから正社員になった横島が、学生時代を思い出しながら言う。

「えぇ、普通なのです。
 うちの学校は必ずどこかの部に所属することになっていまして、生徒は最低1つの部には所属しています。
 しかし…」

「しかし?」

「去年入学したとある財閥の令嬢が、突然男しか居ないラグビー部のマネージャーとして入部したのです」

「そ、それは…」

「キッツイっすね…」

 男の言葉に、言葉を濁す令子と横島。

「その前の年は、新入生一の才女と呼ばれた女子生徒が柔道部のマネージャーに…。
 彼女の父兄からどうなっているのか、と文句を言われますし…。
 本人に聞いても、確かな答えが返ってこなくて…」

 頭を抱えつつ男が言った。

「思考操作の一種かしら。
 一定のキーワード…この場合は『マネージャー』ね。
 これで相手を呪縛してるんだと思うわ」

「やはりそう思いますか…」

「『マネージャー』って言う部分でしか働かない呪いみたいなので、簡単に排除出来ると思います。
 依頼料は一千万円頂きましょう。それと、いくつか用意して貰いたい物があるんですが」

「は、はい…」

 令子の言葉に男はうなずくしかなかった…。



「へぇ、似合うじゃないか」

「そうね」

「かわいい制服ですね〜」

「馬子にも衣装ってヤツでござるな」

 タマモの格好を見て、4人が口々に感想を述べた。

「…なんで私がこんな格好をしてるのよっ!?」

 叫ぶタマモ。
 今現在のタマモの格好は、ブレザーにスカート、それにニーソックス…つまり女子高生の制服を着ていた。
 もちろんこの制服は、今回の依頼主である理事長の学校の物であった。

「自然に学校に入るには、その姿のほうがいいでしょ?はい、これ生徒手帳」

 同じく用意してもらった生徒手帳を、タマモに手渡しながら令子が言う。

「それはわかるけど…なんで私なのよ?」

「私や横島くんは無理でしょ?
 教師としてならともかく、呪いの対象が女子生徒ってことなら駄目ね」

「おキヌちゃんは?」

「私もさすがに新入生ってのは…」

 苦笑いしながら、2年ほど前に六道女学院を卒業したおキヌが言う。

「シロはこう言う仕事は合わないし…」

 それにシッポ生えてたら警戒されるしね…と続けて言う令子。

「とすると、残るのはあんたしか居ないの。
 変化も出来るし、呪いに耐性があるから大丈夫よ」

 タマモの肩を叩きながら令子が言った。






「さてと、どうしようかな」

 かりかりと、頬を掻きながらタマモは呟いた。
 呪いの方法、媒体、条件などがわかっていない今、どうすべきかと考える。

「歩いてるだけで引っ掛かってくれれば楽だけど…」

 くん…と、目立たないように辺りの匂いを嗅いで見るも、不自然な匂いもしない。

「……ふぅん…。
 とりあえず立ってるのも不自然だし、そこらへん回ってみようかしら」

 そう呟きながら、タマモは校内を歩いていった。



「………」

「………」

 そんなタマモの様子を、校舎の影から伺っている一組の男女。

「…美神さん…わざわざ『隠』の文珠使ってまで、タマモを尾行する必要があるんですか?」

 ってかサングラスいらんでしょ…と、ツッコミも入れつつ令子へ言う横島。

「気分よ気分!
 それにあの子が1人でやる初めての仕事だから、何かあったらうちの事務所の評判が悪くなるでしょ!」

(…素直に心配だって言えばいいのに…)

 苦笑しつつ、心の中でそう呟く横島。
 気分は『初めてのお使い』を見守る両親の気持ちであった。

「…何か言った?」

「いえ、なんでもないです。
 あ、向こう行きましたよ」

「行くわよっ」

「はいはい…」

 そう言って2人は、タマモのあとを追って行った。



てくてくてくてく…


 部活の勧誘を軽く覗きつつ、タマモは歩いていた。

「結構、部の数が多いのよね…。
 呪われてるらしいって言う2人は今日はいないみたいだし…。
 やっぱり『部活動』に限定された呪縛みたいね…ん?」

 タマモがふと歩みを止め、背後を振り返る。
 そこには、大量の男子生徒たちが遠巻きにタマモを見つめていた。

「な、なにか用?」

 男たちへ聞くタマモ。


「ぼ、僕らと3年間お茶を飲みませんか!?」

「こ、このスクール水着は君に着て貰いたがっているんだ!!」

「君ならオスカー賞を取れる!
 俺の映画に出演してみないか!?」

「我々と、この世のオカルトが存在しないことを証明しないかい!?」


 わらわらと口々にタマモを勧誘(?)する男たち。
 その目は血走っていて、まさに獲物を狙う狼であった。

(うわっキモッ…。
 も、燃やしたい…で、でもここで騒動を起こしたら仕事にならないし…)

 男たちを一掃したい衝動に駆られながらも、我慢するタマモ。
 この場からどうやって逃げるかを懸命に考える。
 男たちの持つ異様な空気に気圧されて、少しづつ下がって行ってしまう。


とんっ…


 タマモの背中が、後ろに立っていた桜の木にぶつかる。

「お、お茶を…」

「い、いや、スクール水着を…」

「オ、オスカー賞を…」

「オ、オカルトの否定を…」

 タマモを囲うようにして迫ってくる男たち。

「ひぃぃぃぃ…」

 涙目になりながら悲鳴をあげるタマモ。



「ちょっ…美神さん、助けなくていいんですか?」

 ヒソヒソと、令子へ言う横島。

「…いいのよ、私たちは居ないってことになってるんだから。
 あれくらいのアクシデントでいちいち手助けしてたら、本当に1人のときに対処出来ないでしょ」

「そ、それもそうですけど…」

「ほら、動いたわよ」

 タマモを指差して言う令子。
 そう言われて横島が見たものは、桜の幹を背にした状態で半周し、桜の裏にあった茂みを飛び越えていくタマモの背中であった。



「あっ!UFOだっ!!」

 男たちの背中側を指差して叫ぶタマモ。
 その指に釣られて、男たちはそちらを一斉に向いた。

「これなら逃げ切れっ…」

 ガサッと茂みを飛び越えるタマモ。
 しかし…


「へっ…?」


どべしゃあっ!!


 茂みの向こうは一段低くなっていて着地のタイミングを外してしまい、地面に倒れこんでしまった。

「いたたたた…」

 倒れこんだまま、したたかに打ち付けた肩口をさするタマモ。
 ふと視線を感じた方を見ると、そこにはスケッチブックを前に座る男子生徒が居た。

「………」

 口をぽかんと開けてタマモを見入る少年。
 無理も無いであろう、突然目の前の茂みからタマモが飛び出して来たのだから。


「タ…タマモちゃん…?」


「へ?」

 少年から名前を呼ばれ、間の抜けた声を上げるタマモ。
 どこかで会ったことがあるかと、じっくりと少年の顔を見る。
 メガネと特徴的な癖っ毛…数年が経って背が高くなっているが、この少年は…。

「ま、真友くん!?」

「う、うん…」

「くっ、逃げられたぞ!」

「追うぞ!
 彼女にはぜひともスクール水着をっ!!」

 真友くんの言葉をさえぎるように、茂みの向こうから男たちの叫びが聞こえてくる。

「くっ…。
 真友くん!どこか隠れる場所は無い!?」

「え…あ…び、美術室なら誰も来ないと思うけど…」

「案内して!!」

「う、うん」

 ガシッと、真友くんの手を掴んでその場を離れるタマモ。
 男たちがやって来た時には、2人の姿は消えていたのであった…。



「ふぅ…撒けたようね…」

 美術室内から廊下の様子を伺っていたタマモが言う。

「みたいだね…ってどうしたのその格好?
 うちの学校に入学したの?」

 タマモの制服姿を見て真友くんが問う。

「違うわ、仕事で着てるだけ」

「ふ〜ん…そっか…」 

 タマモの答えにどこか残念そうに呟く。

「それにしても、本当に誰もいないわね」

 タマモががらんとした室内を眺めて言う。

「そりゃそうだよ、部員は僕しかないから…」

 部員、兼部長だけどね…と、苦笑しながら真友くんが言った。

「そうなの?
 だったらさっきの人たちみたいに勧誘するんじゃないの?」

「いいんだよ、本当に絵が好きな人って言うのは勧誘しなくても入部してくれるから。
 それにあそこの桜は、今日が一番の見ごろだったからね」

 スケッチブックをしまいながら言う真友くん。

「ふぅん…」

「それにしてもさ」

「なに?」

「本当にあの時のままなんだね」

 デジャヴーランドで見たタマモの本当の姿と、今の姿を比べて言う。

「そりゃぁね…真友くんは…背が伸びたわね」

「うん、タマモちゃんより大きくなった」

「そうね…あれから4,5年経つからね」

 デジャヴーランドでの出来事を思い出しながらタマモが呟く。



「…なんか、いい雰囲気ですね」

「そうねぇ…」

 会話を続けている2人を窓から覗きながら、横島と令子が言う。

「ま、仕事忘れなければいいけどね」

 そう言いつつも、2人の様子が気になるのか食い入るように覗く令子であった。



「あ、そうだ真友くん。
 最近、部活動に関する噂とか聞いたこと無い?」

 仕事中だったことを思い出したタマモがそう言った。

「部活動に関する噂?」

「うん、ラグビー部とか、柔道部とかで何か無い?」

「あ、もしかしたらアレかな」

 ラグビー部と柔道部と言う言葉で、何かを思い出したらしい。

「なに?」

「ラグビー部の人たちが女子マネージャーが欲しいからって、
 どこかのオカルトショップで、呪いのお札を買って来たって聞いたよ。
 それを聞いた柔道部の人たちが、去年同じ物を買って来て使ったとか」

「へぇ…」

 お札…ね…と、思いつつタマモが言う。

「…もしかしてそれ絡みの仕事なの?」

「うん」

 真友くんの問いに正直に答えるタマモ。

「そうなんだ…。
 …今年は剣道部が同じことしようとしてるみたいだよ。
 この間、そんな話をしてるのを耳にしたから。
 あ、僕から聞いたって言うのは秘密にしてね」

 恨まれたくないから…と、言う真友くん。

「うん、わかった。
 ねぇ真友くん、そんなに女子マネージャーって欲しい物なの?」

「う〜ん…どうかなぁ…。
 うちは文化部だから女子マネージャーなんて必要ないし…。
 さっきの話は運動部の話だから、癒しの存在として必要なのかもしれないけど…よくわからないや」

 ごめんね…と、謝りながら真友くんが言う。

「ふ〜ん…。
 そっか…それじゃ、私そろそろ行くわね」

 そう言いつつドアへ向かうタマモ。

「………タ、タマモちゃん!」

 真友くんの言葉に、ドアに手をかけていたタマモの動きが止まる。

「また…会えるかな?」

 真っ直ぐにタマモの顔を見ながら聞く真友くん。

「…ここに来れば居るんでしょ?
 だったら、暇なときに遊びに来るわよ」

 約束だったでしょ?と笑いながら、タマモは美術室から立ち去って行った。

「うん、待ってるよ…」

 しばらくの間、真友くんはタマモの去って行ったドアを見つめ続けていた…。



「さてと…本命は剣道部か…」

 真友くんの情報を元に、剣道部を探し歩くタマモ。
 しばらくして、剣道部と書かれたのぼりを持つ男たちを見つけた。

「ね、ねぇ君、新入生だよね?
 剣道部の女子マネージャーになってみない?」

 と言うか向こうから近寄って来た。

「興味無いわ」

 ズバッと斬り捨てて立ち去るタマモ。
 去り際に剣道部員たちへ、幻術をかけて行くのも忘れない。

「い、いまの子すっげぇ美人だったな…」

「だなぁ…」

 幻術によって『絶世の美少女』と刷り込まれた剣道部員たちが口々に言う。


「…おい、あの子にするぞ」

「はい…」


 部長と思われるいかつい男が、部員に呟く。
 数人の部員を残し、部長を含めた男たちがタマモの後を追っていった。


(追って来てるわね…それじゃ締めと行きますか)

 自分を追って来ている男たちを横目に見つつ、タマモは人気の少ない校舎裏の方へ向かって行った。


「さてと…私に何か用かしら?」

 校舎の壁を背にしてタマモが男たちに言う。

「なんだ、気付いていたのか…。
 いや、君にうちの部の女子マネージャーになってくれないかと思ってね」

 代表して部長がタマモにそう言った。

「ふぅん。
 どう見てもお願いって感じじゃないわね…。
 ま、どっちにしてもお断りよ」

 逃がさないようにして囲っている男たちに、変わらぬ口調で吐き捨てるタマモ。

「度胸のある子だな…けっこう好きだぜそういうの。
 君が嫌だとしても、女子マネージャーになって貰うけどな!」

 部長がそう言うと、一瞬にしてタマモの目の前まで移動してタマモの腕とがっしりと掴み、残った手で口を抑える。

「むぅっ!!」

「黙ってな…」

 くぐもったタマモの叫びに、部長はドスの利いた声で脅した。

「おい、胸ポケットだ」

「はい」

 後ろに控えていた部員の1人が部長の指示に従って、ブレザーの胸ポケットから生徒手帳を取り出した。

「くれぐれも名前を書き間違えるなよ」

「大丈夫ですよ…。
 『美神 タマモ』か、名は体を表すってヤツか」

 にひひひ…と、いやらしい笑いをして、部長の上着のポケットから封筒を取り出す部員。
 中からお札が出てくる。

「『美神 タマモ』っと…」

 さらさらと、ボールペンでお札へ名前を書き込んでいく。


「うっ!?ああっ!?」


 名前を書き終わった瞬間、タマモの身体が跳ね上がった。


「おっと、もういいか…」

 力が抜け、身体を壁に預けた状態で立つタマモを開放して一歩下がる。
 タマモの様子をうかがっていると、タマモの目が徐々にとろんとした力の無いものへと変わっていった。

「うまくいったみたいだな」

「そうですね」

 タマモの名前を書いた部員が、部長へお札を返しながら言う。

「あとはこれが破れないようにしておけばいいわけだ…。
 ああ…これで夢の女子マネージャーが!!!」

「5万払った価値はありますね!!」

 男たちが歓喜の声を上げる。


「5万ね…安く見られたわね。
 残念だけど、あんたたちの夢はここで終わりよ」


パチンッ…


 タマモの声に続いて、指を鳴らす音が聞こえてきた。


ぼわっ…!


「うわっ!」

 部長が持っていたお札が、音とともに激しく燃え出す。

「ふ、札が!!」

「馬鹿な!呪いはうまくいったはず!!」

 部長の叫びに、全員がタマモを見る。
 タマモはいまだに力の無い目をしたままで立っていた。

「ど、どう言うことだ…?」

 恐る恐る部長がタマモに近づいていって肩を掴む。


ずぶり…


 肩を掴んだはずの手が、抵抗無く肩にめり込んでいく。

「ひっ!?」

 悲鳴をあげて手を離す部長。
 支えの無くなったタマモの身体は、ドサリと地面に倒れこむ。
 そのままスポンジが水を吸うかのごとく、地面へ消えていった。

「う、うわぁぁぁぁ!?」

「に、逃げろっ!!」

 恐怖にかられた男たちが一斉に逃げ出す。
 しかし…


「か、壁が!?」

「さっきはここから来たんだぞ!?」


 男たちはいつの間にか、四方を壁で囲まれていた。


「…おい、壁が迫って来てないか…?」

「ほ、本当だ…」

「こ、このままじゃ潰れ…いやだぁぁぁぁ!!」

「た、助けてくれぇぇぇぇ!!!」



「…ふん、単純なヤツら」

 じたじたと、地面に倒れてうなされている男たちを眺めてタマモは呟いた。
 そう、全ては幻術だったのだ。

「ったく、私がこんな札なんかの呪いにかかるわけないでしょうが」

 数分前まではお札だった燃えカスを眺めつつ言うタマモ。

「さてと、理事長のオッサンに報告しに行こうかな」

 まだうなされている男たちは放って置いたまま、タマモは理事長室へ向かって行った。



「…と言う訳よ。
 あいつらはまだ眠ってるから好きにして」

 理事長へ先ほどまでの内容を報告しているタマモ。

「…わかりました。
 彼らには十分な処分を与えます。
 それと、ラグビー部と柔道部のほうですが…」

「それは個別に処分するしかないわね。
 お札は破れば効力がなくなるから、誰でも処分出来るわ」

「そうですね、今回の件とあわせて私たちのほうで処分します」

 そう言って理事長は、机の引出しから小切手を取り出してきた。

「お約束の一千万円です」

「ありがと。
 あ、そうだ、1つお願いがあるんだけど」

 ポーチへ小切手をしまいつつタマモが言う。

「なんでしょうか?」

「この制服貰っていい?」

「ああ…いいですよ。
 先ほど美神さんから連絡がありました。
 同じ事が起きないように、時々来て頂けるということで…」

「え…」

「生徒手帳もそのまま持っていて下さい。
 授業には出れないですが、校内は自由に動けるように手配しますので」

「そ、そう…ありがとう」

 戸惑いながらも礼を言うタマモ。

「それでは、今後とも宜しくお願い致します」

 理事長が頭を下げる。

「…任せておいて」

 そう言ってタマモは理事長室のドアを開け、立ち去っていった。



「うまくいった?」

 校門をくぐったところで、車に乗った令子と横島が待っていた。

「…やっぱり見張ってたのね…はい、小切手」

 後部座席に座り、令子に小切手を渡すタマモ。

「念の為にね」

 車をスタートながら令子が言う。

「なんだ、ばれてたのか」

 助手席に座る横島が言った。

「匂いでわかったわよ。
 どうせ文珠で姿隠してたんでしょ?」

 まったく…と、窓の外を見ながら言うタマモ。


「……礼は言わないわよ」

 顔は窓の外を見たまま、ぼそりとタマモが呟く。


「別にいいわよ。
 その代わり、自分の仕事に責任持ちなさいよ?
 アフターケアも忘れないようにね」

「わかってるわよっ」

 美神の言葉に叫ぶように答えるタマモ。

(2人とも素直じゃないなぁ…)

 2人の会話を苦笑しながら見守る横島であった。






――――――それからしばらくして

コンコン…


「こんにちは」

 がらりと、ドアを開けてタマモが美術室に入ってくる。

「あ、いらっしゃいタマモちゃん」

 キャンバスを前に座っていた真友くんが、タマモの姿を確認して言った。

「…あいかわらず1人なのね」

 がらんとして、寂しい美術室内を眺めてタマモが言う。

「こればっかりは仕方ないよ。
 でも1人も入ってくれなかったら、今年で美術部は廃部だね…」

 それも仕方ないけどね…と、苦笑しながら言う真友くん。

「…はいこれ」

 真友くんへ1枚の紙を渡すタマモ。

「なに?」

 受け取りながら真友くんが言う。

「入部届。
 一応、私は生徒ってことになってるから、どこかに入らなきゃ駄目でしょ」

 理事長のオッサンにも話はつけてあるわ…と、顔をそむけながらタマモが言う。

「そっか…。
 ありがとうタマモちゃん」

「べ、別にいいわよ」

 真友くんのお礼に、ほほを桜色に染めながら言うタマモであった。






 その後、この学校では『女子マネージャーを呪いのお札で勧誘した』と言う噂を聞くことは無くなった。
 代わりに、『美術部に出没する、美少女の幽霊』と言う噂が新たに流れることになるが、それはまた別のお話。



(了)
おばんでございます、烏羽です。
と言うわけで、ちょっとだけラブっぽいタマモと真友くんでございます。
ここまでタマモを主軸に書くのは初めてなので、おかしなところがあるかもしれませんがご容赦を…。
書き慣れないネタではありますが、楽しんで頂ければ幸いです。
それではっ

*ちょこっとおまけ的要素を追加しました

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