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サクラサクラ



バラバラバラバラ……



 大型貨物用ヘリが、甲高いローター音を立てながら草原へと降り立つ。

「ん〜、ここに来るのも久しぶりねぇ〜」

 身体を伸ばしつつ、ヘリから降りた不二子が言った。

「…どこですかここは…」

 不二子に続いてヘリから降り立った皆本が言う。

 他の面々もぞろぞろとヘリから降りてきた。

「『不二山』よ」

 皆本の問いに答える不二子。

「『フジサン』?」

「そ、『不二山』。
 昔から私の家系が管理してる山なの」

「へぇ〜広い山だな〜」

 薫が広大な草原を見渡しながら言う。

「そんなに高い山じゃないけど、色んな花や木が生えてるのよ」

「で…いきなり僕らを有無を言わさずに、ここに連れて来たのはなんでですか?」

 ジト目で不二子を見据えつつ皆本が言う。

 その後ろには薫、葵、紫穂、賢木、局長、朧さん、谷崎、ナオミ、ほたる、奈津子が同様にジト目で見ていた。

「やぁねぇ、そんな目で見なくてもいいじゃない。
 今日の目的はお花見よ、お・は・な・み♪
 ほら、その先が一段低くなってるから見てみなさいな」

 不二子が指差した先を、一同が覗き込む。

 そこには、花満開の巨大な桜の樹がそびえ立っていた、

「でっけぇ〜」

「綺麗やな〜」

 桜を見て驚いている薫と葵。

「あれは何?」

 同じく桜を見ていた紫穂は、桜の樹の下に何かを見つけた。

「…山小屋?
 誰か住んでるんですかこの山?」

 紫穂の指先に見えた山小屋を確認して、皆本が不二子へ聞いた。

「ああ、あれはね…」

 

ぼんよよよん…ぼんよよよん…



 突然、不二子の胸が激しく揺れだす。

「ぶっ」

 いきなりのことに吹き出す皆本。

「あら、なにかしら…」

 そう言いながら、胸の間に手を突っ込む不二子。

 引き抜いた手には、マナーモードになった携帯電話が握られていた。

「ど、どこに入れてるんですかっ!!」

「落とさないから便利じゃない…っと」

 そう言いつつ、キー操作をして着信を取る不二子。

「もしもし?
 えぇ、今着いたわ、準備は出来てる?うん、それじゃよろしくね〜」

 パチン、と不二子が携帯を閉じるのとほぼ同時に、山小屋の扉が開かれた。



がらがらがらがら……



 大きな音を立てて、小屋から配膳用の台車が押されてくる。

 台車の上には大量の料理が並べられていた。

 押して来ている人物は…



「あはははは…こんにちは皆本さん」

「こんにちは〜」



 明と初音であった。

「明くんと初音くん…なんでこんなところに!?」

 皆本が2人へ問う。

「実は、管理官から桜の開花状況を監視と、花見用の料理の準備をしてくれって言われまして…」

「監視って…一体いつから…」

「…一週間ほど前から泊り込みで…」

「………」

「特別手当とその間の食材を出す、と言われたので…春休みでしたし…」

 乾いた笑いをしながら言う明。

「最近見ないと思ったら…君も大変だね…」

 明に同情しながら皆本が言う。

「管理官!?そんな話聞いてないヨ!?」

「勝手に予算使ったんですか!?」

 明の言葉を聞いた局長と朧さんが、不二子ににじり寄る。

「や、やぁねぇ…たまには息抜きも必要よ?」

 にじり寄る2人に、汗を掻きながら不二子が言った。

「そ、それにこの間の別荘では散々だったでしょう?
 お詫びも兼ねてあの時のメンバーを揃えたんじゃない、ね?」

 たしかに、この場に居るメンバーは前回の別荘へ行ったメンバーであった。

「…あれ?でも誰か足りないような…」

 周りを見回した朧さんが呟いた。

「ああ、末摘ちゃんね。
 あの子は有給取ってお見合い巡りしてるわよ」

「…お見合いって…」

 末摘の本当の顔を知っている皆本が、汗をかきながら呟やく。

「なんか、この間から『あの』顔に自信持っちゃってねぇ…」

 不二子も同様に汗をかきながら呟いた。



「あの〜皆さん…」



 そこへ、桜の樹の下で花見の準備をしていた明の声が聞こえてきた。



「うちのワンコがよだれだらだら出して待ってるんですが…」

 それは暗に『さっさと開始しないと食い物がなくなりますよ?』と言う意味である。

「そ、そうね、そろそろ開始しましょうか…」

「そ、そうですね…」

「そ、そうだネ…」

 初音の食欲を知っている3人の言葉で、一同は桜の樹の下へ向かうのであった…。






                     サクラサクラ






「とりあえず、みんなお疲れ様〜。
 新しい年度も始まったし、これからもよろしく〜。
 それじゃ、かんぱ〜い!!」



「「「「「「「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」」」」」」」



 不二子の音頭に続いて全員が乾杯をする。

 乾杯と言っても、未成年者たちはもちろんジュースである。



「ガツガツガツガツガツ…」

「花より食事…か…」

 一心不乱に、出された食べ物を喰い漁る初音を見て呟く明。

 いつもより食べるペースが速い気がするのは、普段とロケーションが違うからだろうか。



「おぉ〜!う〜ま〜い〜ぞぉぉ〜〜!!」

「まさに料理のIT革命やねぇ〜」

「こんな料理を、毎日初音さんは食べてるのね…」

 明の料理に舌鼓を打ちながら薫、葵、紫穂の3人が言う。

「本当に美味しい!
 どこかの使えない主任も、見習ってくれないかしら…」

 ぼそりと言うナオミ。



「っかぁ〜!!
 いいツマミだっ!これはブランデーに合うね!!」

 その『どこかの使えない主任』は満面のオヤジ顔をしてブランデーをかっ食らっていた…。



「いいなぁ…初音ちゃんはいい男が居て…」

「どこかにいい男落ちてないかしらねぇ…」

 ほたると奈津子も、明の料理に舌鼓を打ちながら言った。

「おいおいお2人さん、俺はいい男じゃないのかい?」

 グラスを片手に賢木が2人へ言う。

「賢木先生は…」

「ねぇ…」

 語尾を濁しながら言う2人。

「何その反応!?」

「だってあんたこの間、三股発覚して修羅場になったって聞いたわよ?」

 びしゃりと、奈津子が賢木へ言う。

「おぅっ!?」

 痛いとこを突かれたのか、胸を抑える賢木。

「女性関係でいろいろ聞きますから…」

 苦笑いしつつ言うほたる。

「それにあんたの診察の後の女性患者って、美人だと大抵ちっちゃなメモを…」

「わぁぁぁぁ〜!!それだけは勘弁〜!!!」

 奈津子の暴露に激しく焦る賢木。

「…お前…まだやってたのかそれ…」

 やれやれ…と、皆本が呟く。

 どうやら以前からやっていることらしい。

「お前みたいに、天然で女の子にモテるヤツとは違うんだ俺はっ!」

「な、僕のどこがモテるんだっ!?」

「…これだよ…」

 自覚無いってのが一番タチわりぃんだよ…と思いつつ賢木が言う。

「皆本さんが良ければ私は…」



ひゅんっ



ぽとん…



 ほたるの言葉をさえぎるように、ミートボールが4人の真ん中に飛んで来た。



「あ、ごめんなさ〜い、飛んで行っちゃった〜(棒読み)」



 あからさまにわざとらしく紫穂がやって来る。

 その後ろから薫と葵もやって来た。



「『お話』の邪魔しちゃったかしら?」

 にこやかに(表面上は)紫穂がほたるに言う。

「ううん、そんなことないわよ?」

 こちらもにこやかに返すほたる。 

「皆本〜!
 なに話してたか吐け〜!!」

「別に何も…ぐはっ!?」

 薫のサイコキネシスでシートに沈められる皆本であった。



「あっちは楽しそうねぇ」

 皆本たちの様子を見て、日本酒を片手に不二子が言う。

「…あれをどう見たらそう感じられるんです」

「まぁ…皆本らしいと言えば、皆本らしいがネ」

 朧さんと局長がそう呟いた。

「それにしても立派な桜ですね」

 大量の花を咲かせている桜の樹を眺めて、朧さんが言った。

「樹齢はどれくらいなんです?」

 局長が不二子へ聞く。

「私と同い年よ。
 私が生まれたときに、父が植えたから」

 昔を懐かしむように桜を眺めて言う不二子。

「…管理官と同い年…。
 ソメイヨシノの寿命は60年と言うから、管理官同様ほかの木々から養分を…」



がすっ…



「ぬぉぉぅぅ!?」

「私は永遠の18歳よ!!」

 局長の呟きに肘鉄を食らわせる不二子。

 綺麗にみぞおちに決まった肘鉄に、局長はもがき苦しんでいる。

(…18歳ってのもどうだかなぁ…)

 口に出すと自分も被害を受けそうなので、心の中で呟く朧さんであった。















「どう?綺麗な桜でしょう?」

 小振りの花を咲かせた桜の樹を背に、不二子が言った。

『ウム、日本ヲ象徴スル花トイウノガヨクワカルヨ』

 不二子の問いに巨大な水槽の中に居るイルカ…伊号が答える。

「はぁ…はぁ…」

 息を切らしながら水槽に寄りかかる兵部。

「なによ、だらしないわねぇ…」

 兵部の様子を見ながら不二子が言う。

「そ、そんなこと言うなら、この水槽を運ぶのを手伝って欲しいんですけど…」

 どうやら伊号の入った水槽を1人で運んできたらしい。

「女の子にそんな物持たせるの?」

 あんたが運ぶのは当たり前…といった感じで不二子が言う。

「…もういいです」

『…スマンナ兵部』

 申し訳無さそうに伊号が言った。

「いやいいよ。
 伊号に桜を見せようって言ったのは僕だからね」

 不二子さんが手伝わないってのも予想してたし…と、遠い目をしながら言う兵部。

「にしてもまだ若い桜だね」

 見頃とは言え、まだまだ小振りな花を咲かせている桜を眺めて兵部が言う。

「そりゃそーよ、私と同い年だもの」

「へぇ…ってことはまだにじゅ…」



めごぉっ



「乙女の前で年齢のことは言っちゃダメよ?」

 サイコキネシスで兵部を地面にめり込ませつつ言う不二子。

「りょ、了解であります上官殿…」

 ギシギシと身体をきしませながら兵部が言う。

「よろしい」

 兵部の言葉に、不二子はサイコキネシスを解除する。

『…大丈夫カ?』

「なんとかね…」

 心配そうに言う伊号に答える兵部。



「………」

「………」

『………』

 しばしの沈黙が2人と1匹の間に沈黙が流れる。

「綺麗ね…」

「うん…」

『ソウダナ…』

 不二子の呟きに2人が答える。

「来年も、また来ましょうね…」

「そうだね…」

『アア…』

「来年だけじゃなく、再来年も、その次の年も…。
 私たちが生きてる限り、この桜を見に来ましょうよ」

「うん、そうしよう…。
 …多分不二子さんは、僕らや桜よりも長生きすると思うけど」

『タシカニ』

 クカカカカカカ…と、兵部の言葉に笑う伊号。

 兵部自身も笑っている。

「あんたたち…」

 ズゴゴゴゴゴゴ…と、怒号を背負いながら不二子が言う。

「今すぐここで二階級特進したいか〜〜〜!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

『キュキィィィィィィ!?』

 広大な不二山に人間とイルカの叫び声がこだました…。















―――――――――――――――――――



「…う…ん…?」

 不二子は巨大な桜の樹の下で目を覚ました。

「…夢…か…。
 いやねぇ…昔の夢を見るなんて…」

 苦笑いしつつ呟く不二子。

「あれから60年か…お互い年取ったわね…」

 夢の中とは1回りも2回りも違う桜を眺めながら言った。

「さてと…。
 あらあら、ぐっすり寝てるわねぇ…」

 先ほどまでの不二子同様、夢の中へ旅立っている面々を眺めて呟く不二子。

「みんな疲れてるとこ悪いけど、ちょっとだけエネルギーを分けてね」

 そう言いながら1人づつ、手の甲へ口付けしながらエネルギーを吸収していく。

「…桐壺くんとこの人はパス」

 ぽいっと、脇に捨てられる局長と谷崎。

「うん、これなら10年はもつわね…」

 約2人を除いた全員からエネルギーを吸い終って不二子が言う。

 そしてそのまま桜の樹へ歩み寄っていく。

「………」

 桜の幹へ手のひらを当てて目を閉じる。



シュワァァァァァァァ…



 不二子の身体が光り始め、その光が桜の樹全体に広がっていく。

「…ふぅ…。
 あなたには長生きして欲しいからね…」

 先ほどまでよりも若々しくなった桜の樹を眺めて、不二子が言う。

「1年後、5年後、10年後…。
 この子たちがまた、みんな揃ってあなたを見に来れるように…。
 私は来れなくなるかも知れないけれど、そのときはあなたが代わりにこの子たちを見守ってて頂戴ね…」



ザァァァァァァ………



 その言葉に呼応するように桜の樹がざわめき、不二子の周りに桜の花びらが舞い散っていった…。






(了)













――――――お・ま・け――――――



ザァァァァァァ………



「ん?」

 ざわめく桜の樹の枝の中、白い物体を不二子は見つけた。

「なにかしら?」

 クンッと指を動かし、サイコキネシスでそれを手元に寄せる。

「紙?
 裏に何か書いてあるわね…」

 そう言いながら紙を裏返す不二子。

 そこには…



『2本貰って行くよ by兵部』



 と書かれていた。



「あの馬鹿…。






 この桜の枝を折るのは私の美貌に傷をつけることと同じ事だって、身体に教えて貰いたいみたいねっ!!」



 …兵部の運命やいかに…。



(終われ)
おばんでございます烏羽です。
久々に投稿するのは時期ネタの桜&花見でございます。
たまにはこんなネタもいいかなぁと思って書いてみました。
にしても人数が多いと書くのが難しい…。
精進しないと…orz

と言うわけで中途半端にシリアス(?)なお話ですが、楽しんで頂ければ幸いでございます。
それではっ。

携帯を使う部分をちょっと改訂しましたw

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