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tea break 〜 絶チル 82nd sense.より 〜

※ 「絶対可憐チルドレン 82nd sense. 絶対可憐ワイルド・キャット(1)」(07/18号)
 のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。

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     《隠し撮り》



 バベル局内、第2シャワールームにて。

「そこをなんとか!」
 土下座までする谷崎の真剣な態度に皆本は心を動かされたようだが、賢木はまだ渋っていた。
 もう一度デートを理由にナオミの監視を断ろうと考えていたが、背けた目で何の気無しに見ていた谷崎の「コレクション」に引っ掛かるものを覚える。
「これって、もしかして合コンの……」
 よくよく見て、引っ掛かりの正体に気付く。画像の一枚に、コートを着たナオミの隣に「ザ・ダブルフェイス」の野分ほたるが写っていた。
 背景から考えて、彼女達がいるのはビルの屋上。つまり、これが撮られた時、賢木はスパイだった九具津に撃たれて重傷を負っていた訳で。
「あんた、応援連れに行ってたんじゃなかったのか!? 人が死にそうな時に何やってたんだー!!」
「さ、賢木君、落ち着きたまえ! これは、その、なんだ」
 食って掛かる賢木を宥めようとする谷崎だが、場合が場合だけに収まらない。
 瀕死の仲間そっちのけで自分の部下を撮っていたとしたら、言い訳の仕様も無いだろう。
 このまま交渉決裂となりそうな様子だったが、そこへ薫と葵の声が割り込んできた。
「なあ、この写真も変じゃないか?」
「あっ、確かここにおったんはウチらとナオミはんだけのはずや」
 ディスプレイを覗き込んでいた二人が指しているのは、当時まだ「キティ・キャット」だったナオミが薫の荒療治を受けている画像だった。
 皆本があごを摘まんで記憶を掘り起こしながら補足する。
「……あの時は、谷崎さんは離れた部屋で僕と話していたはずだから、アリバイはある」
「そう、その通りだ! 実はだな、その辺りの画像はし――」
 勢い込んで頷いた谷崎はさらに続けようとしたが、誰かがぼそっと口を挟んだ。
「もしかして、隠しカメラ?」
 谷崎から全員が一斉に引いた。
 しかも、薫と葵は気色悪そうな顔でシャワールーム内をキョロキョロと見回し始めた。
「違う!! それから、男の裸に興味は無い! そもそも局内のセキュリティの高さは君達も知っているだろう!」
 もっともな話だが、疑惑の眼差しは一向に緩まない。
 ただの隠し撮りではなく隠しカメラによる盗撮となれば、話は違ってくる。だからと言って、隠し撮りに問題が無い訳でもないが。
 ジト目に包囲され怯みかける谷崎だが、気を取り直すように一つ咳払いをした。
「あ〜、だから、その辺りの画像は私が撮ったのではなくて……あっ!」
 ここで何かに気付いたのか、口を開けたまま目を泳がせる。
「どうしたんですか?」
「いや、その……うむ、九具津があの黒巻と組んでバベルの中を色々写していたようでね。これらはその押収物の一部なのだよ」
 皆本に促されてようやく語った内容は、怪しい点は多々あるもののありそうな話ではあった。
 いい加減疲れてきた一同は、半信半疑ながらも納得する事にした。

 ちなみに賢木は、合コンの時に世話になったナオミが非行に走ってもいいのかと谷崎に訴えられ、結局、再度の土下座に押し切られる形で協力を承諾させられた。

     *  *  *

 その後、シャワールーム前で解散したバベルの面々だが、しばらくしてからこっそり落ち合う影が二つ。
「どうやら、これ以上の取引は無理のようね、谷崎さん」
「許してくれ、紫穂君! 君の名を出すつもりはなかったんだ!」
「あら、怒ってなんかいないわ。ただ、このままだと私が念写で撮った『あり得ない写真』だって事がバレそうだし、ね?」
 三度土下座する中年と不自然なほどにこやかな顔をした少女の間で、こんな遣り取りがあったとか無かったとか。





     ― END ―
あの「コレクション」の内容は突っ込んで考えてはいけない部分だと思いますが、敢えて考えてみたらこんな話に(^^;
念写云々については、コミックス4巻のおまけ4コマを参照。

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