※ 「絶対可憐チルドレン 80th sense. 国王陛下のチルドレン(5)」(07/16号)
のネタバレが含まれています。未読の方はご注意下さい。
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《真夜中は別の顔》
チルドレンとマサラの決闘が行われたその日の夜。
勝利を祝した宴はすでにお開きとなっており、日本からの客人も宮殿の住人もそれぞれの部屋に戻っていた。
そして、ここ、インパラヘン宮殿の奥にあるひときわ豪奢な寝室には、皇太子と巫女の姿があった。
「ようやく二人きりなれたな」
「はい」
燭台の仄かな灯りが揺らめく中、寝台に腰掛け見つめ合うバトゥラとセラ。
数々の障害を乗り越え、愛し合う若者達は遂に結ばれようとしていた。
「愛しているよ、セラ」
「私もです、殿下」
幾度となく交わしてきた言葉だが、それでもこれからの事を思う二人の心を昂らせるには十分であった。
感情の赴くままに互いに互いの身体を抱き、唇と唇が触れ合おうとする。まさにその時。
「あっ!」
一瞬セラの身体が硬直したかと思うと、その目が見開かれた。
「セラ!?」
異変に気付いたバトゥラは今までの経験から、すぐさま我が身を引き離して立ち上がる。
凝視する中、セラの表情は初々しいものから、暗い影を纏いながらもどこか太々しさを含んだものへと一変していた。
「ん? なんじゃ、続きはせんのか?」
セラの肉体に乗り移った何者かが、からかうように声を掛ける。
てっきり、先代の巫女がまた現れたのだと思い身構えたバトゥラだが、どうも様子が異なる。
笑いながら「あと少しじゃったのにのう」とか言っている相手に向かい、恐る恐る質問する。
「もしかして、おばばさま……ではないのですか?」
「まあ、巫女には違いないがの。ただし300年前の、じゃが」
そんな昔の巫女が一体何の用なのか。
そもそも自分達の結婚は認められたのではなかったのか。
様々な疑問が脳裏に浮かぶが、決闘に勝利して安心しきっていただけに、上手く思考がまとまらない。
そんなバトゥラの様子を見取って、自称「300年前の巫女」も同じく立ち上がって言葉を続ける。
「この娘から聞いておらんかったのか? わしがお主らの婚姻を認める見返りとして、彼女はその身を差し出したのじゃ」
「なっ! それでは決闘に勝った意味が無いではないですか!」
あっけらかんと言い放たれた台詞の内容の理不尽さに我を取り戻したバトゥラは、矛先が違うと分かっていながらも、その怒りを巫女にぶつけた。
しかし、巫女は動じる事もなく言葉を返す。
「案ずるでない。わしがこの身体を借りるのは一晩だけ。第一、お主とどうこうなろうとは思わぬよ」
なだめるような笑みを浮かべながら「さすがにこの娘に悪いからの」とも付け加える。
「……分かりました。今夜だけですね?」
「そのとおり。さて、せっかく手に入った時間と身体。300年ぶりに外の世界を見て回ろうかの」
そのまま巫女はバトゥラに構わず寝台のそばを離れ、部屋の一角にしつらえられた露台へと出た。
そして夜空へ飛び立つ寸前、バトゥラに背を向けたまま思い出したように口を開いた。
「そうそう。マサラ以外の歴代の巫女全てが、その条件でこの身体を借りる事にしたからの」
「なんですって!?」
予想外の言葉に再び硬直するバトゥラ。
歴代の巫女と言えば、確か10人や20人ではきかないはずだ。
「なに、すぐ皆に順番が回りきるじゃろ。……1年後くらいかのう?」
「ちょっとまて――!!」
巫女の姿はすでに夜の闇にまぎれており、ただ皇太子の叫びが宮殿に響くのみであった。
― END ―
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