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明日を目指して!〜その4〜




 最後の犯行が行われた現場で二人は話し込んでいた。
横島と鷹野はシロが這い蹲り、鼻をヒクヒク利かせているのを後ろから眺めている。
横島はおもむろに口を開いた。

「どうだ?何か臭うか?」
「いえ、まったく。一ヶ月も経っているうえ、ここのところ雨が多かったから、臭いも霊波もすっかり流れてしまってるようでござるな」
「やっぱり犯行現場からは手がかりは得られませんでしたね」

 もしかしたらと、現場に来てみたのだが。
案の定手がかりを得ることはできなかった。
あらかじめ調書を見て、わかりきっていたことではある。
それでも改めて現実を突きつけられると一気に気が重くなってしまうものだ。
愚痴が漏れてしまうのも、已む無しといったところだろう。
 そのとき、シロの表情が引き締まる。

「む」
「どした!なんか見つかったか?」
「いえ、見つかったといっていいのかどうか……獣の臭いがして」

 なんだそりゃと言わんばかりに横島は高野に向き直った。

「はあぁ〜?なんだそりゃ?結局、現行犯でとっ捕まえるしかないのかね」
「現行犯ですか?それは難しいですね……」

 鷹野の顔が見る見るうちに曇っていく。
現行犯逮捕なんてものを経験したことのある警察関係者がどれだけいるかは知らないが、少なくとも鷹野にはそのような経験はなかった。
三人そろって頭を唸らせた。
おまけに相手は口裂け女。
不安にならない方がどうかしてる。

「誰か何か思いつかんのか?三人寄れば文殊の知恵ってのは、嘘っぱちか!?」

 この場合は集まっている面子に問題あり、である。
三人のうち二人がお世辞にも頭がいいとは言えない、シロと横島なのだから。
まともな思考回路をもつのが鷹野一人だったから、さすがの文殊菩薩も知恵を貸す気にはならなかったのだろう。
 横島がそういって愚痴を溢すと、伏せていたシロが飛び起きた。

「囮を使うのはどうでござる?」
「囮、ねぇ?」

 手段としては悪くはないかも、と横島は思う。
 だが―――

「他になんかないのか?」

 つい聞いてしまう。
できることなら危ない橋を渡らせるような真似は御免被りたい。
あんな思いをするのはもうコリゴリである。
 そう思って代替案を捻り出そうと試みる。
しかいしそこは横島、普段使っていないものを土壇場で使いこなせるはずがない。
仮に使いこなせていても彼の貧相な頭では望み薄である。

「他に有効な案も出ないようですし、それでいくしかないのかもしれませんね」
「そうでござるな。分散して夜回りするにしても、お互い駆けつけるまで時間がかかりすぎるだろうし」
「う〜〜〜ん……」

 シロと高野は頭を抱えて蹲っている横島を尻目に、二人で話し合っていた。
 一方の横島はいかにして危険要素を取り除くことだけに集中していた。
完全に取り去ることなどで気はしないが、徐霊する前にやれるだけのことをやっておくのはGSなら常識である。
 ふと鷹野が疑問を口にした。

「誰が囮をするんです?」






  明日を目指して!〜その4〜






 榊原は新聞を眺めていた。
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月前のものだったが、それら三枚の新聞には共通点がある。
一つは日付。
いずれも十六日、すなわち満月の翌日の新聞だ。
そして一面には『オカルト通り魔!』やら『怪奇!?口裂け女を見た!』やらの文字が一面に羅列されている。
 新聞に読みふけっていると、彼の背後から声がした。

「おやおやおや〜?中々に物騒な世の中になったものですねぇ。オカルトを悪用した傷害事件、ですか〜」
「なにが物騒だ。この事件も、元凶はお前なんだろ?」

 背後から現れた男―東条―は中指で眼鏡の位置をなおしながら言う。
榊原は目も合わさずに言い返した。

「……やっぱりわかります?」
「元GSの霊感を舐めてもらっちゃ困るな」

 これでも腕は立つ方なんだと、コーヒーを飲みながら言う。

「でもねぇ、これ失敗作なんですよ。結果はもちろんのこと、犯行の過程が美しくない。おまけに手元を離れて制御不能ときたものです。まったく、親の顔が見てみたいと思いません?一体誰に似たのやら」
「親はお前だろ」
「手厳しいですね〜」

 東条は頭に手をやりながら、おどけて見せた。
榊原は完全無視。
つまらないとばかりに、彼と相対するように椅子に腰掛ける。
腰掛け、一息つこうとした瞬間に榊原に言われた。

「それにしても―――」
「なんです?」
「―――お前が失敗とは珍しいな」

 榊原が視線を新聞から東条に移す。
ピリピリとした空気が部屋に張り詰めた。

「そうでもないですよ。成功例は貴方とウルトラブラボー魂剥離くん、それに復活ゾンビ玉ぐらいですからねぇ」
「……どうでもいいが、その名前以外思いつかなかったのか?ウルトラは英語で、ブラボーはフランス語だろ」

 どうでもいい話だが、ブラボーとは元々イタリア語の形容詞『bravo』がフランス語に転意、日本に入ってきたのである。

「本来なら、コイツに何をさせるつもりだったんだ?」

 新聞を指差しながら榊原は尋ねた。

「ウルトラブラボー魂剥離くんと同じですよ。魂をチマチマ集めていただこうかと思いましてね。 ま、今となってはそれも叶わぬことですが」
「何が拙かったんだ?」

 榊原は追及する。
この男に限ってないとは思うが、万一この失敗作から自分たちに繋がるような手がかりが出ては拙い。
一年前からコツコツ積み立ててきた計画が破綻する恐れがあるからだ。
 そう思っての尋問に、東条は不機嫌そうに答える。

「欠点その1。さっき述べたように制御が利かないこと。その2、人から奪えるのが魂ではなく霊力の類であったこと。その3、普段はベースとなった人間の人格が表に出ている為に自由にコンタクトが取れないこと。まあざっとこんなもんです。その3は、徐々に衰弱して完全に身体を乗っ取る、なんてことも有り得ますけどね」

 言葉に併せて指を一本づつ立てていく。
その様子はまるで教師が生徒に言い聞かせるようだ。

「それだけで廃棄した、ということか……」
「同情ですか?そんな非生産的な感情は捨てましょうよ〜。爆弾を抱えた人形の世話をするほど余裕はありません。それに、私たちの目的はもっと高みに在るはずでしょう?」
「……確かにな」

 榊原は東条に聞いた。
あくまでゆっくり、だが威圧的に。

「で、どこまで進んでいるんだ?」
「何がです?」

 わかりきっていることなのに、東条はとぼけて見せる。
その顔は薄く笑いを貼り付けていて、榊原の反応を窺っているようだ。
榊原は無愛想に、計画のことだ、と言った。
東条は苦笑いしながら両肩をすくめる。

「本体のほうは順調ですよ。サイズと有効範囲はかなり縮小せざるを得ませんでしたけどね。問題は動力のほうですよ」
「まだまだ時間がかかるということか」
「えぇ。百分の一にも達していませんからね〜」
「南武の実験施設に置いてるのか?」
「実験施設、な〜んて硬い言い方止めません?」

 東条は不気味に笑う。

「貴方にとっては楽園になるんでしょ?」










 同日深夜、夜道を一人で歩く鷹野。
これから起こるであろう事態に心臓が高鳴り、顔色は冴えない。
 そんな彼女を尾行する、一人の女。
その姿は、夜道ではかなり浮いていた。
別に服装が奇抜だとか、そういうことではない。
纏っている雰囲気が、まるで違うのである。

「フフフフフ……」

 怪しく笑うその姿は非常に怪しい、というかヤバイ。
道行くまばらな人たちが、我関せずを貫くのも無理はないだろう。
 女は昼から目をつけていた獲物を狩ることに興奮していた。
予想通り、女の視界に写りこむ女性の霊力は今夜が満月ということもあって高まっている。
満月と女。
この二つの法則が守られていたのは、女とは月に支配される生き物だからである。
 やがて鷹野はどんどん人気のない通りへと進んで行く。
女も当然のように高野の後を追う。
数分ほど歩き回り、完全に人気がなくなったときに女は行動を起こした。
今まで一定距離を保っていたが、一気に縮めにかかったのである。
鷹野の肩を掴んで強引に振り向かせ、聞いた。

「ワタシ、キレイ?」

 女はかけていた大きなマスクを取り外す。
その下から現れたのは、耳元まで避けた大きな口と鋭く尖った犬歯。
凶悪な面構えである。

「キャアァァアアァァァアァァアアッ!?」
「アハハハハハハハハハッ!!」

 鷹野は顔面蒼白になって駆け出した。
手にしていたハンドバッグが落ちようが気にもとめず、一目散に逃げ出す。
 当然女も後を追った。
鷹野自身、逃げ足は速い方なのだが、女を振り切ることはできなかった。
女は全速力で走る鷹野を嘲笑うように、併走してみせる。
汗一つとしてかいてはいない。
 追走劇は十分近くにも及び、とうとう鷹野は袋小路に追い詰められてしまった。
女は大きな口をニタァと歪ませて鷹野を問い詰める。

「ワタシ、キレイ?」
「………………………」

 ところが鷹野は沈黙して何も反応しない。
女は、恐怖で失神デモシタカ?と思ったが、どうやら違うようだ。
高野の足はしっかりと大地を踏みしめている。
すると突然、鷹野は高笑いをし始めた。
女はそれが恐怖からくるものではないということに気がつかなかった。
女は自分が完全に優位に立っていると思い込み、高野を見くびっていたのである。
 鷹野はゆっくり振り返ると、勢いよく吐き捨てた。

「ノーコメントだっ!」

 鷹野は懐から銀色の笛のようなものを取り出すと、勢いよく息を吹き込んだ。
笛の音がよほど耳障りだったのか、女はすぐさま耳を両手で塞ぐ。
 鷹野は女の行動に首を傾げたが、すぐに小悪魔的な笑みを浮かべ、右手に『栄光の手』を展開した。

「――――――ッ!?」
「このGS横島忠夫が、極楽に送ってやるっ!」










「ホントにこっちであってるんですかっ!?間違ってる、なんてことないですよね!?」
「大丈夫!しっかり笛の音が聞こえたでござる。敵は丑寅の方角にありっ!」

 シロは鷹野を背負い、家屋の屋根を東北目指して疾走する。
鷹野の腰には銀の銃弾が装填された拳銃が収められ、顔つきは険しい。
いくら除霊用とはいっても、軽々しく発砲するわけにはいかないのだ。
 犬笛の音に反応した犬たちが一斉にワンワンワン!と吠え立て、深夜の町がにわかに活気づく。
現場が都心ではなく、郊外でよかったと、シロは思う。
都心には無数の高層ビルが建ち並んでいる。
あれほどの高低差を飛び跳ねて移動していてはシロ自身の体力がもたないだろうし、背中の鷹野が目を回してしまうだろう。
大事な場面で目が渦巻き、では何しに来たのかわからない。
 さらにスピードを上げるべく、シロは鷹野に言った。

「しっかり掴まっててくだされ。ちょっと急ぐでござるよっ!」
「え?ちょ、キャアァァァアァァアアッ!?」

 全速力で走りぬけるシロ。
だが、背中で鷹野が目を回していてはあまり意味がないと思うのは気のせいだろうか?
口元を押さえているのは、ゲ○を吐きそうだからではない……と思う。
 鷹野が天然ジェットコースターに辟易している間にも、シロはグングンと横島との距離を縮めていった。
連続して聞こえてくる笛の音を聞きながら、軌道修正を繰り返す。
 しばらくして、右手に霊波刀、左手に笛をもった横島が標的と交戦中―――というか、ひたすら回避に専念している横島が見えた。

「のわわわっ!」

 奇声を発しながら回避していくその姿は危なっかしい。
滑稽だし、隙がないなんて言えやしない。
隙だらけだ。
 たまに反撃すると予想外に効いているようで、雨のように降ってくる口裂け女の両手の爪が止まる。
師に加勢すべく、シロは鷹野を放り出して駆け出した。

「今行くでござるよっ!」

 あっという間に距離をつめ、横島と攻めに転じる。
二人の背後では乱暴に放り出され、尻餅をついた鷹野が、きゃうっ!となんとも言えない悲鳴を上げていた。

「ア?ウ?」

 女が混乱するのも無理はない。
ここに居るのはシロと鷹野、そして鷹野の姿をした横島なのである。
からくりがわからない女には高野が増えたように感じてしまう。
 一考した後、とりあえず目の前のシロと横島を始末することにしたのか、片手だけに集めていた霊気を両手に集め始める。
その姿は横島の『栄光の手』に酷似していた。
違いは爪にあたる部分が、より鋭角的なことぐらいだろうか。

「シロ。俺の後に着いて来い。お前が仕留めろ」
「了解、でござる」
「しくじんなよ」

 ジリジリと距離を詰め、一足飛びで斬りかかれる間合いを探す。
近すぎても遠すぎても駄目、微妙なバランスが必要なのだ。
横島が感覚を研ぎ澄ませているのを、シロと鷹野は邪魔しないように沈黙した。
唯一、女だけが不思議そうに首を傾けて舌なめずりをしている。

「1、2の――――3ッ!!」

 横島が駆ける。
女は左手で受け止め、右手で来るであろうシロの一閃に準備する。
シロが駆けていく。
彼女の霊波刀が振り上げられた、その時―――

「よそ見してんじゃねぇっ!」
「グギャアァァァアァァアアッ!!」

 横島の左手が閃き、サイキック・ソーサーが女の顔面に叩きつけられる。
思わず右手で顔を押さえて、失態に気づく。
だが時すでに遅し、シロの霊波刀が脳天に直撃した。

「ギャウッ!?」

 悲鳴を上げ、女は後方へ倒れこんだ。
横島との小競り合いで体力を消耗していたことも一因だが、シロの――目的は逮捕なのである程度は手加減したが――快心の一撃をまともに喰らってはひとたまりもなかったのだろう。
白目をむいて、完全に失神している。

「―――あれ?」
「ボスで元凶のくせして、なんだか弱っちいでござるな」

 あっさり終わったのが信じられないのか、鷹野とシロは気が抜けたように言い合った。
二人の言葉通り、女はピクピクしている。
だが横島にはわかっていた。
まだ終わっていない、と。

「気ぃ抜くな。まだ終わってないぞ」
「え―――」

 まさか、そんなバカな。
そんな顔をして振り向いたシロの目に写ったのは、両手を使わず足の力だけで立ち上がってくる女の姿。
ゆっくり脈打つように立ち上がってくるその姿は、この手の仕事に慣れているはずの三人にも少々刺激が強すぎたようだ。
横島とシロの顔は不自然に引きつり、鷹野にいたっては半泣きである。

「う……わぁ」
「これは、ちょっと……」
「ひいぃぃぃぃ〜」

 立ち上がった女は垂れている前髪を気にも留めず、目を大きく見開いて叫んだ。

「ワタシ、キレイ?ウケーケケケケッ!」
「「「戦術的撤退ーっ!」」」

 三人そろって同じ台詞を言うとは、奇妙なこともあるものだ。
 三人は力の限り逃げたが、相手はもしかしたらシロより足が速いかもしれない。
逃げ切るのはまず不可能だろう。
 しかも振り返って見てみれば、蟹歩きなのに猛スピードである。
そんな走り方で追ってくるのだから、ますます冷静さを欠いてしまう結果となった。

「何だよアレっ!なんで蟹歩き!?」
「口裂け女って、蟹歩きなんでござるかっ!?」
「ひいぃぃぃ〜ん、おがぁ゙ざぁ〜んっ!」

 口々に泣き言を言いながら必死に逃げる。

「ちくしょう、これでもくらえっ!」

 サイキック・ソーサーを鏃状にして生成、さらに回転を加えて思い切り投げつける。
サイキック・ソーサーのバリエーションである。
お遊びで考えたつもりだったのだが、これが中々実用的で徐霊でも結構使っていた。
 サイキック・ソーサーは腹に直撃し、女は横っ飛びで吹き飛ぶ。
手応えありと判断したのか、横島は立ち止まって様子を窺った。

「やった……か?」

 だが甘かった。
女は予想以上にタフなようで、すぐさま立ち上がり、再び追ってくる。

「チクショーッ!」
「不死身でござるかっ!?」
「ひいぃぃぃ〜ん、おどゔざぁ〜んっ!」
「ウケケケケケケケケケケケケッ!!」

 後でわかったことだが、このとき霊は女性の身体をかなり酷使していたようだ。
女性の意識は刈り取られている為、痛覚が働かずに物理的な痛みを霊自身は認識しない。
だからどれだけやられても立ち上がるというわけだ。

「どないせぇっちゅーねんっ!」

 横島は頭の中では美神譲りの反則技をどうにかして考えようとしているが、まとまった考えが思い浮かばない。
 結局、横島は切り札の文殊を使うことにした。
 だが、今のままでは集中できないし、結構霊力を消費したから作れるかどうかもちょっと自信がなかった。
よっていつも通りの行動に出る。

「鷹野さん!」
「な、何ですかぁ〜っ!?」
「これも、市民の平和の為。一肌脱いでくださいっ!」
「へ?」

 モギュ。

 高野の胸を横島が鷲づかみにした。
走りながら揉み続ける、その根性には恐れ入る。

「きたきたきたーっ!煩悩、全開ッ!!」

 手の平から送られる情報を元にかなり失礼な妄想を爆発させる。
形、大きさ、フィット感。
どれをとっても申し分なし……だそうだ。
 言うやいなや、左手に霊力が集まり、シロと横島には見慣れた球体が現れる。
文珠に文字を込め、振り返って放り投げた。
つられて振り返ったシロの目に写った文字は、『縛』。

「ウゲッ!」
「ざまぁみやがれ。いくらなんでも文珠の呪縛は振りほどけねーだろっ、と」

 文珠が煌き、霊気の縄が女を縛り上げる。
美神と一緒に使用したときのように二つではないから威力は劣るが、妖怪程度なら一つでも十分だろう。
一部の無駄なく、しっかり縛り上げられている。
しかし縛り上げられている女を見ると、横島の人間性が少々疑われる。

「……なんで亀甲縛りなんですか?///」
「ア、アレー?オカシイナ」

 そういう趣味はないと、彼自身自覚しているはずなのだが。

「よし、第二ラウンドの始まりだな」
「え?まだ終わってないんでござるか?」

 シロが再びビックリ顔で聞いた。
横島は懐から破魔札を取り出し、女の額に貼り付ける。

「まぁ見てなって」

 お札を貼り付けられた瞬間、女はいきなり悶え始め絶叫した。
呪縛を振りほどこうと必死にもがくが振り切れるはずもなく、絶叫はさらに耳をつんざくものに変わっていく。
あまりに酷いので、鷹野は耳を塞いだ。

「さぁ〜て、いい加減に出て来いよ!」

 横島の言葉を合図にしたわけでもなかろうが、女の身体から飛び出る悪霊。
横島が支持を出し、シロがそれに従う。

「シロ!もう遠慮はいらん、やっちまえ!」
「了解でござる。覚悟っ!」

 一閃。
シロの霊波刀が悪霊を真っ二つに切り裂き、横島がお札で吸引する。
悪霊は断末魔を上げながら吸い込まれていった。

「口裂け女……ではなかったんでござるか?」
「俺も最初はそう思ったんだけどな。正確には口裂け女であって、口裂け女ではないってところか」
「えっと、どういう意味でござるか?」

 苦笑いしながら横島は説明しようとして―――

「―――やっぱ止めた。自分で考えてみな。GS目指してんだったら、この程度のカラクリは自分で解かないとな」
「えぇ〜。拙者、座学は苦手でござるよ」
「だから頭を使えって言ってんだよ。一人で解けたら、なんか奢ってやっから」

 頭を乱暴に撫でながら、言う。
シロは不平不満もあったが、ご褒美に眼が眩みこの場は引き下がった。
鷹野は倒れていた女を介抱している。
こうして事件は一応の解決を見たのだった。










「で、鷹野さんがこれまた美人でさ。あーゆーときほどGSやってて良かったと痛感するな。ホント良かった。あの乳は巣晴らしいっ!」
「どこに注目してるのよ。で、結局カラクリってなんだったわけ?」

 高校で、どこから聞きつけたのか横島は事件の経緯を愛子に問いただされていた。
もちろん、世間にばれては不味いことの数々は口にはしていない。
ピートとタイガーは横島の話を呆れながら聞いていた。
ただ一人愛子は、警察に協力して事件を解決する高校生……あぁっ青春だわっ!とか言っていたが。

「要するにアレだ。思い込みだよ」
「思い込み?」

 愛子は不思議そうに首をかしげた。
思い込みなんかで人が妖怪になるのか、とでも言いたげである。

「じゃあここで問題な。女の人には何が憑いていたでしょ〜か?」
「悪霊じゃないんですかいノー?横島さんがさっき、そう言っとったんじゃなかったかいノー」
「そういうことじゃなくて、どんな悪霊かってことだよ、タイガー。ですよね?」

 ピートの言葉に横島は頷く。

「憑いてたのはイヌ科の動物霊だと思うんだよな」
「イヌ科?」
「おう。口裂け女にはコイツが聞こえてたんだよ」

 横島が言いながら手にしたものは―――

「犬笛、ですね」
「そ。人間には聞こえないんだよ。超音波ってヤツらしい」
「なるほど。だからイヌ科の霊ってわけね?」
「けどそれがカラクリと、どう関係があるんです?」

 ピートは聞いた。

「ちょっとややこしい話になるんだけどな、陰陽術じゃ名前ってのは呪いなんだよ。自分を他者と隔離して確立する為に自己に名前という呪いをかけるわけだ。その名前で自身を認識するらしい」
「えっと……どういう意味?」

 愛子には理解できなかったようだ。
まぁ彼女はただの妖怪だし、GSでもない。
陰陽術など知っているはずもないが。

「つまり、他人の認識、存在が自己の確立に一役買っているってわけですね」
「へー」
「んで、あの霊は初めは自分が口裂け女だって認識はなかったんだろうけどマスコミが一斉に取り上げたろ?霊ってのは不安定な存在だから、報道されるうちに自分自身が口裂け女だって誤認したんだろな。口が裂けて見えたのは、犬の顔をそのまま人間に貼り付けたらそう見えたってだけだろ。犬って結構口でかいからな」

 おキヌのように力を持った強力な霊や、自我を失っている霊にいたってはこの限りではないが。

「つまり勘違い、ってこと?」
「ぶっちゃけるとな」

 身もふたもない言い方である。

「ところで、横島くんはどうやってその鷹野って人の格好して、なんで囮なんてやってたわけ?」
「横島さんは真っ先に逃げそうじゃからノー」
「酷いぞタイガー!」

 日頃の行いが悪いからである。

「鷹野さんの格好してたのは文珠で『化』けたんだよ。男は俺しかいないんだから、俺が一番危ない役を引き受けるのは当たり前だろ。嫁入り前の娘に傷でもつけたら、俺の命がいろんな意味で危ないんだよ」

 美神に抹殺されるとかとか、人狼一族を敵に回しかねないとか、そのまま人生の墓場へと連行されたりとか、嫌な妄想が横島の頭を駆け巡る。
一族の女を傷ものにした、責任取れなんて言われたら逃げ場がない。
なんせ、鷹野はともかくシロは横島の指示に従って行動しているということになっているのだから。

「ふ〜ん、結構優しいんだ?」
「横島さんは女性には優しいですからね」
「悪いかよ?」

 いえいえ、とピートは手を振る。
クラスの連中は受験勉強に没頭している者、漫画を読んでいる者、早弁をしている者など様々だ。
彼らから目を離し、弟子がこのカラクリを解けたかどうかが気になって仕方がない横島であった。

































「全然わからないでござるよ〜っ」
 とういうわけで口裂け女・解決編でした。
うちの口裂け女が蟹歩きなのは同じく都市伝説中の有名妖怪『引き子さん』からの流用ですね。
口裂け女と並ぶぐらいに怖いと私は思うわけであります。
ちなみにその3で出てきた人の名前は組み合わせると『口裂け女』になります。
気づいてましたよね?
  北山『く』ずは
  和田『ち』づる
  桐壺『さ』き
  沢田『け』いこ
 鷹野真『女』
お粗末。
 最後のシーンの横島の説明は、無理矢理すぎた感がありますね。
不自然だ!と思われるかもしれませんけど、こんな感じにしか構成できませんでした。
 今回のお話を作るに当たって、学んだことが少しばかり。
一つ!ノリだけで書こうとするな、しっかり考えろッッ!
二つ!下調べは入念にしろッッ!
三つ!おやつはほどほどに!

 では出来なかったレス返しをば。

>ダヌさん
 >オカルトGメンは国際組織じゃなかったかと……
 しまったぁぁぁぁぁああっ、やっちまったぁぁぁぁぁああっ!
 えーと、設定的には丁度アシュタロスとの戦いで落ち着いていた霊やら妖怪やらが予想以上に活発に活動し始めたので、東京を中心に主要都市とそのまわりに試験的に設置した。
 人手が足りないのである程度を警察から引っ張ってきた―――てなかんじでどうでしょう?
 >次回の展開を期待しつつ、お待ちしております。
 嬉しいなっ、嬉しいなっ、嬉しいなったら嬉しいなっ。

>akiさん
 その1から皆勤賞ですね。
 いやはや、ホントありがたい。
 >ここからいよいよ「事件」の提示
 しまった!もうネタがない!
 GTY+のみんな、オラにネタを分けてくれっ!
 >都市伝説に語られる怪異の代表格、それをどう料理されるのか。期待しております。
 料理というより、ごった煮になっちゃいましたよぅ……どうしましょ?

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