突き抜けるような天上の紺が目に眩しい初春。
美神除霊事務所では事務所のメンバーに美智恵も加わり、慌しく動いている。
ひのめのために揃えた雛人形をやいややいやと並べ立てているのである。
ひな祭りの起源は平安時代にあるという。
これが江戸時代の『人形遊び』と『節句の儀式』と結びつき、広まったという。
まぁ要は、女の子の健やかな成長を祈る儀式なのである。
〜ひな祭り〜
健やかな成長を祈られているひのめが美智恵の腕の中で、「キャッキャ」と笑いながら手をふっている。
その視線の先には真新しい雛人形。
姉バカである美神が「日本一の雛人形を!」と言いながら取り寄せた逸品である。
一番高い段には、華麗な装飾に身を包んだ男雛と女雛。
その下には三人官女や五人囃子、随身などが壮麗に連なっている。
どの人形もまるで生きているかのような精巧な作りで、美神の力の入れようもうかがえる。
ちなみにその姉バカはおキヌの作ってくれた白酒を片手に横島にくだをまいている。
「ちょっ! 美神さん、飲みすぎですよ!」
一応美神を止める横島だが、
「うっさい! めでたい席でお酒を飲まなきゃいつ飲むのよ! ほら、横島クンも飲みなさい!」
と、万事がこの調子である。
「ほんじゃまぁ頂きます」
とまぁ、あっさり飲みだす横島も横島であるが。
一度飲みだすと、意外に気に入ったのか、次々と飲み干す横島。
そんな彼らに興味を持ったのか、おキヌ、シロ、タマモも飲み始める。
豪奢な雛人形の前で始まる宴会。
窓から入ってくる、わずかに春の香気をのせた風が彼らを至福の時へと誘い込む。
美智恵も今日ばかりはいいか、と春の宴を楽しんでいた。
ほろ酔い気分の美智恵だったが、ふと思いついたようにひのめを雛人形の前に連れていく。
「ひのめはお雛さまだとして……お内裏様は誰かしら?」
ひのめにその言葉が分かったかはともかく……
くるりと美神たちの方を振り向くと、開口一番、
「にーに、にーに」
と言い出したからもう大変。
「ちょっ! あんたうちのひのめに何したのよ!」
「横島さんフケツです!」
「ひ、ひのめ殿でも『おーけー』ならば、拙者も!」
「ま、横島ならありえるわね」
異口同音、横島を責めだしたのだからたまらない。
横島は必死に逃げながら、別の話題を探し出す。
「そ、そういや美神さんも綺麗な雛人形持ってんすよねー! 俺美神さんのも見たいなー!」
何も考えずに横島が口にしたセリフ。
しかしそのセリフを聞いてパタッと動きが止まる美神親子。
「令子の雛人形ねぇ……そういえばいつの間にか無くなっちゃったのよね」
のんびり応える美智恵。
それに対して何やら美神は焦りだす。
「ま、まさか!」
何かを思いついたかのように叫ぶ美神。
「ひょっとしていつかのモガちゃん人ぎょ――ぶげらっ!」
ワンパン一発、横島をしばき倒し、その足を引きずりながら駆け出す美神。
「今から探しにいくわよ、横島クン! いいわね!」
もちろん横島の返事は返ってこないのだが、そんなことはお構いなしに一陣の風となる美神。
後に残されたのは、一連の流れに反応することすらできなかった面々。
慌しく去っていった娘を見送りながら、美智恵は大きくため息をつく。
「雛人形の片付けが遅れると婚期が遅れるらしいけど……令子はどうだったかしら?」
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