4042

澪、大暴走


<<SIDE:澪>>



『やれやれ……”飼いイヌに手を噛まれる”ってのはこーゆーコトを言うのかな? なぁ、澪……』



そう言う少佐のその喋り方は、いつもと同じ。
いつも私に話しかけてくれる時と同じ、しずかで、どこか優しくて……
でも、その中に確かな怒りがある事を私は感じた。
そう……間違いなく少佐は怒ってる……私の事……

怖かった。落ち着かなかった。
大好きな少佐の前なのに……
階段を、踏み外しちゃった時みたいな、背筋に氷を押し当てられたみたいな、そんな感覚に私の身体は支配されて……
まともに、顔を見る事も出来ない。



『ち、違うよ少佐! 誤解だよ!! 私はいつだって少佐一筋……』

『澪……僕に嘘が通じるとでも?』



みっともない私のいい訳は、すぐに少佐に看破される。

少佐と私、一対一、周りには誰もいない  
私を助けてくれる人は居ない。

解ってる。悪いのは私。
少佐が熱を上げている”女王”に嫉妬してしまった。
言いつけを破って、勝手に”女王”に挑んだ。

挙句……ミナモトとかいうやつに……私は……



『ぁ……ぁぅぅ……でもあれは』

『君があのボウヤに好意を持った事は事実だ。
 ……例えそれがどれ程ささやかな物だったとしても……ね?』

『ぅ、ぅぅ……』



そう、私は許されない事をした。
大好きな少佐への、重大な裏切り行為。
だって……



『僕のモノである君が、今の僕の一番の仇敵ともいえる彼に想いを寄せる……コレが裏切りでなくて何だと言うのかな? 澪……』



私は少佐のモノだから。

髪の一本から、手足爪の先まで、心も身体も全部全部、私は少佐の為の「モノ」。
なのに……



『ご、ごめんなさい……ぅ……ごめ……ぅぅ……』



こらえきれず、涙がこぼれる。

少佐に捨てられるかも知れない……そう思うと嫌だった。
少佐に嫌われるのは怖かった。
少佐を少しでも裏切った自分が嫌で嫌でしょうがなかった。

少佐に……許してほしかった。

でも、少佐は何処までも何処までも厳しくて



『子供だから許されるとでも? 謝れば許されるとでも? 泣けば許されるとでも?』

『ぅ……ぅぅぅ……ごめんなさ……ぅぁ……ごめ……ぅぅ……許して……ゆ……ぅ……』



だめだ、もうどうしょうも出来ない。
ただただ、バカみたいに泣きじゃくって、ひたすらに「ごめんなさい」をくちにする。
もう、それ以外に何も出来ない、頭には何も浮かばない。

そんなみじめな私を、少佐は冷ややかに見つめるだけ。
その冷たい視線を感じて、私はますますつらくなった。



『ぅっ……ぁ、ぐす……ぅ……ぅぅぅ……ぁぁ……』

『…………』



耐えがたい沈黙。
もう、死んでしまいたい……

そう思ったとたん、ふっ……と、少佐から感じるプレッシャーが無くなった。
冷たくて重い、雰囲気が消えた。

思わず顔を上げてみると、其処にはいつもの少佐の顔が……


『ま、今回は許してあげよう……やれやれ、僕も甘いねぇ』

『ぅ……ぁ……ありがと……ござ……』


あぁ……良かった。許してくれた。
いつもの優しい少佐に戻った。
もうそれだけで胸がいっぱいになった。

でも……


『……でも、お仕置きは受けてもらうよ?』

『……ッ!? 』


少佐は、やっぱり甘くなかった。
ほっと安心していた所へ、このタイミングで、さっきよりずっと強いプレッシャー。
すっかり油断してた私、全身がびくんっ て硬直した。
動けない……少佐、なんのチカラも使ってないのに……
頭の中、真っ白……考えられない。話せない。


『どうやら僕の躾はまだまだだったみたいだからね? 
 君が誰のモノであるのか、改めてじっくりと教えてあげよう。……覚悟はいいかな?』

『ぁ……ぁ、ぁ……は、はぃ……』


マトモに動かない口で、なんとかお返事。

胸がばくばくする。
身体が、芯からかっかと熱くなって……

どうしちゃったんだろ? 
これからおしおきされるっていうのに、私ってば……

そんな私の身体に
ゆっくり、ゆっくりと少佐の手がのびて…………






























「こらっ」



――ごちんっ! 

い、いったぁぁぁい!? 
だ、誰よ!? 今せっかくイイ所……って、しょ、少佐ぁぁぁぁ!?
コレミツまでぇぇぇ!? 



「……君が普段、僕のことをどんな風に思っているのか……
 よ〜っく理解できたよ、澪」

(澪……おまえとゆーヤツは……)



な、なに? なんのこと? 
ってゆーかどーしてふたりとも私の考えてた事……

ま、まさかまさか!?
少佐、私のアタマ覗いたの!? 

ひどい! ひどいわッ? 
ばか! えっち!
ぷらいばしーの侵害よ! 



「……覗くまでもなく、全部クチに出してたワケだが……自覚、ないみたいだね?」

(……少し足りないとは思ってましたが……まさかここまでとは)

「いやコレミツ……確かに澪はちょっと足りてないが……
 でも、コレは恐らく”女王”の影響じゃないかなって、僕は考えてるんだ。
 妄想がクチからダダ漏れに……なんてのは、彼女がよ〜くやりそうなことだしね」

(なんてことだ……たったあれだけの邂逅で、澪がここまでアホの子に……
 やはりふたりを合わせるのは時期尚早だったのか……)

「流石……といっていいのかな、この場合……
 ともかく"女王”から受けるのは、よい影響ばかりではないって事だね」



ふ、ふたりしてなんかヒドい事いってるし!? 
なによなによ! 
あんな女なんか関係ないもん!! 

それよりも少佐、わかってるの? 
アタマの中を覗かれるのって、は、は、裸を見られるより恥ずかしいんだから! 
恋人とかでもしちゃいけなんだからね! 

……って、こ、こいびと?
しょ、少佐と……私が……恋人……



(いや、だから少佐は覗いてない。澪が全部口に出して……)

「……無駄だよ、コレミツ。
 どーやらまた澪の脳内で妄想とゆー名の小劇場がはじまっちゃったみたいだからね」



こいびと……こいびと……

だ、だめよ!まだ早いわ!!

ぁ……で、でも……
わ、私、少佐になら……きゃ♪



(人の話を聞きなさい、澪! こら、澪!!)

「……もーいーからほっとこう、コレミツ。
 つきあいきれないよ」












う、うん……いいよ、少佐……
私、少佐でなくちゃイヤ……

ぁ、で、でもでも
少佐って『小っちゃいコ好きのヘンタイさん』だって、ミナモト言ってたし……
や、やっぱり……その……”フツー”とは違うんだよね? 

あ、あぁ、スゴイ!? 
いきなり【検閲削除】だなんて……え、ええ?【自主規制】も!? 
そんな【禁則事項】までっ!? 

きゃー♪ きゃー♪きゃー♪

あ、やーん、少佐ダメ……
私、そんなの壊れちゃう……♪



(……ぁ、あの……ほんとにほっといていーんですか? 
 澪の頭の中で、少佐凄い事になってるみたいですけど……)

「…………」





おしまい。
椎名先生のキャラだと……
『アホの子』⇒『妄想が口から漏れてる事に気付いてない』とゆーイメージがあります。
そしてそこに突っ込みとw 

妄想大暴走なら、薫嬢と皆本さんの方が相応しいかもしれませんが、
先週今週の澪嬢の足りなさぶりが、あまりに可愛かったのでw

ありがちなネタではありますが、こんなのでも、ご指摘、ご感想などいただけたら幸いです。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]