とあるビルの屋上にたたずむ二人の男女。
背を向けた少女にブラスターを構えた男。
追い詰められたような表情で男が叫ぶ。
「動くな!『破壊の女王』!……いや……薫っ!」
その言葉に応えるかのように少女は振り返る。
何かを諦めたかのような、どこか影を帯びた笑顔。
男――皆本光一は、久しぶりに見た彼女の笑顔に息をのむ。
初めて出会ったのは彼女が10歳のとき。
あまりに大き過ぎる力を持て余しながらも、必死にこの世界で生きる彼女とその仲間たち。
皆本は彼女たちを守りたいと思い、そして守ってきたはずだった。
どこかで道が狂ってしまった。
いつから? なぜ? どこで? どうして?
心の奥底から湧き上がってくる懺悔の念が皆本を包み込む。
黙ってしまった皆本に、薫は淋しそうに声をかける。
「ブラスターでこの距離なら……確実に殺れるね。撃てよ、皆本!
でも、あたしがいなくなっても何も変わらない。他の大勢のエスパーたちは、戦いをやめないよ」
「なら……皆を止めてくれ! 頼む!『エスパー』だ、『ノーマル』だって……こんな戦いが何を生むっていうんだ!?」
必死に薫を止めようとする皆本。
その想いはなんの力にもなれなかった己の不甲斐なさからくるものか。
それとも彼女を想う気持ちからくるものか。
想いの源泉は本人にも分からない。
皆本は己を奮い立たせるかのように、銃身にこめる力を強めた。
そんな皆本の姿を見ていた薫の心には様々な想いが湧き上がる。
もう少し早ければ……
あたしがエスパーに生まれなければ……
今頃皆本と二人でショッピングとかできたのかな?
きっと紫穂や葵と皆本を取り合いして……
いや、三人で分け分けかな?
もう……遅いけど。
薫はそんな想いを振り払うかのように、笑顔をつくった。
「もう……ムリだよ。知ってる? 皆本……あたしさ――」
掲げた手のひらに『力』が集まる。
「やめろ……!薫ーーーーー!」
放たれた一閃は確かに薫の身体を貫き……
力を失ったその身は、ビルの谷間へと落ちていく。
『大好きだったよ……愛してる』
「僕は……僕はまた何もできなかった! 何も! でき……なかっ……た。
薫……僕は……くっ! 薫ーーーーー!」
皆本の叫びはビルの林に響きわたる。
しかし……その言葉を受け止めるべき少女は……もういない。
「はいカーーーーーーーーーット!」
その言葉に緊迫していた現場がようやくゆるむ。
「いやー今回は本当にいいデキでしたよ。 あれだけ緊迫した演技ができる役者はそうそういませんよ。
どうですか、皆本さん? 役者に転向してみては?」
「いや、ほんと勘弁してください。まだ緊張してるんですから」
「ははは、本当に皆本さんは謙虚ですなぁ。 簡単な打ち上げを用意してるんでもう少しお待ちください。それではまた後で」
そう言い残すとスタッフたちの方に歩いていく監督。
その姿を見送った皆本の肩を叩くものがいる。
振り返るとそこに居たのは薫。
初めて出会った頃は胸の位置にあったその視線が、今はまっすぐ皆本の方へ向いている。
「お疲れ様。はい、ジュース」
「あ、ああ。ありがとう」
「今回は本当にありがとう」
かつての彼女からは信じられないことに、深々と頭を下げる薫。
薫のその態度にどぎまぎする皆本。
「い、いや構わないよ。突然の出演依頼には驚いたけどね……しかし薫が女優になるとは……昔は思わなかったなぁ」
「むっ! 母ちゃんや姉ちゃんだってやってるんだ!あたしが女優になったっておかしくないだろ!」
「……そうだな。本当に立派になってくれて嬉しいよ。けどなんで僕が呼ばれたんだ?」
「それは……あたしが頼んだんだ……この映画だけは皆本と撮りたくて……」
「薫……」
「迷惑だった? 皆本……」
「いや、そんなことないよ。僕だってこの映画に参加できて本当によかった。僕も同じ気持ちだよ」
「ってことは……やっぱ皆本はあたしが好きなんかぁ!?やっぱ大人の魅力マンマンのあたしに惚れちゃったか!
6年越しのツンデレってやつ? くーやっぱ皆本はカワイイぜ、コンチクショウ!」
「っておい! なんでそうなる」
「だってあたしと同じ気持ちなんでしょ?」
「へっ?」
「あたしは好きだもん、皆本のこと」
「なっ!?」
そんな二人の元に舞い降りる二つの影。
「あらあら薫ちゃんだけするいわね」
「そやで! やっぱ皆本さんにはうちらも一緒にもらってもらわな!」
別シーンの収録を終えた紫穂と葵までやって来たからもう大変。
年頃の少女たちに囲まれる皆本。
周りの視線が自分に突き刺さっていることを感じながら叫ぶ。
「なんでこうなるんだーーーーーー!」
皆本の叫びを受けとめる少女は……三人?
そんなアカルイミライ。
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