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よこしまただお、ごさい「おきぬおねえちゃんとあそぶ」

私は目の前の現実に言葉を失うしかありませんでした。

いつか見た光景。

ただ違うのは…、そこに居るのが男の子というだけなのです。




「よこしまただお、ごさい」

五歳。

だいたい学校に行くちょっと前くらいの年でしょうか?

私は行ったことがないのでよくわかりません。

身長は110センチくらい、見た目は快活そうでとてもかわいい子です。

そう、『よこしまさん』が小さかったらこんな感じでしょう。

しんとした部屋の中で最初に口火を切ったのは美神さんでした。

「…おキヌちゃんいったいどういうこと?説明してくれない?」

説明といっても私もこの状況がまったく理解できません。

「えっと、美神さんたちが出かけてから少し経ったくらいに
 横島さんがやってきたんです。
 それでお昼ご飯を作ってあげて、食べ終わったから台所にお片づけに行って
 戻ってきたらもう横島さんが…」

「そっか…
 人口幽霊一号、そのときの映像を出して頂戴」

テレビに映る横島さん。

私が消えてから十数分息が荒くなったと思ったらソファーから落ちてしまいました。

私はこのとき洗い物をしていて横島さんの異状には気づきませんでした。

そしてさらに数分後、突然の発光。

光はすぐに収まりましたが、そこに居るのはすでに子供になった横島さん。

「うーん、これだけじゃなんとも言えないわね。
 妖怪の仕業か、それとも呪の類かしら?」

「そうですか…」

「美神殿、先生から何かおかしな匂いがするでござる」

「ほんとだ…薬の匂いかしら?」

シロちゃんとタマモちゃんが二人して横島さんに鼻を寄せてます。

ちょっと二人ともくっつきすぎです。

横島さんが驚いているじゃないですか。

「薬か…。シロ、あんたちょっと一緒に来て。
 おキヌちゃんとタマモは横島君をお願い」

「どこか行くんですか?」

「横島君のアパートまで行ってみるわ。多分何かわかると思うから」

そういうと二人は事務所を出て行きました。

さて、私はどうすればいいんでしょうか?



「おキヌおねえちゃん、次これ読んで」

「これ?ちょっと待ってね」

あれから三十分、私は横島さんに絵本を読んであげています。

さすがに五歳の子供に何もしないで待つなんてことはでき無いみたいです。

タマモちゃんはさっさと上に上がってしまうし、子供が苦手なのかな?

…しかし私に子供が居たらこんな風になるんでしょうか。

私は子供に本を読んで聞かせてあげて、二人で仕事に行った夫の帰りを待つ。

そしてただいまの一言と一緒に玄関を開けるのは…

「キャー私ってば!!」

「おねえちゃんどうしたの?」

「え!?ううん、なんでもないわ」

ちょっと考えすぎてたようです。

いけませんいけません、横島さんが不思議そうな目でこっちを見ています。

「…二人は幸せに暮らしました。はい、これでおしまい」

「ねぇ、おねえちゃん。何でこの男の子はお花をあげたの?」

絵本のことを聞いてるんでしょう。

絵本の内容。男の子が意地悪しすぎていつも仲良しな女の子を泣かしてしまう。

そんな女の子と仲直りしたくて一生懸命野の花を集めて渡す男の子。

女の子と男の子は仲直りができました。

大人になった男の子は女の子にまた花を渡します。

誓いの言葉とともに…。

「うーん、女の子は花が好きだからかな?花ってとってもきれいで良い匂いだから」

そう、特に好きな男の子からの花は一段とうれしいものです。

「おねえちゃんも好きなの?」

「うん、私も大好き」

「へ〜…。あっ、次はこれ読んで!」




「ただいま!おキヌちゃん横島君は?」

「美神さん声落としてください。今寝付いたところですから」

もう日が落ちてく時間。

横島さんはおやつを食べて寝てしまいました。

「そうみたいね…でもおキヌちゃん?」

「はい、なんですか?」

「何で横島君がおキヌちゃんの膝の上で寝てるのかしら?」

「それはさっきまで絵本を読んでいたからですよ」

そうです、絵本を読んでる最中にいつの間にか眠ってしまったから動くに動けないんです。

不可抗力なんですよ。

しょうがないんですよ。

だから二人してそんな目で見ないでください。

シロちゃん、散歩もだめよ?

「それで何かわかったんですか?」

「そう!それなんだけどね、どうやらカオスのせいみたいなのよ」

「カオスさんですか?」

美神さんの話をまとめると、横島さんを新しく発明した薬の実験体にして、それに不備があったのに気づいてあわてて横島さんちに行ったら美神さんとばったり遭遇。

「ってことですね」

「そういうこと。カオスには中和剤を作るように言ったから、まあ三日か四日もあればできるでしょ」

ということはそれまで横島さんはずっとこのままでしょうか?

学校とかどうするんだろう…

「美神さんその間横島さんは…?」

「家に置いとくしかないでしょうね。こんな子供をあのごみ溜めみたいな所にいさせるわけにはいかないし。学校には私のほうから何とか言っとけば大丈夫でしょう」

「ところでおキヌ殿、晩御飯はどうなってるでござるか?」

あ。

買い物いってない…。

「おキヌちゃんずっと横島の相手してたみたいだから買い物行ってないよ」

タマモちゃん今起きてきたみたいです。

あっ、左側の髪に寝癖が。

「むっ、だったらお前が先生を見ていれば良かったではないか」

「嫌よ面倒くさい」

「この女狐ーー!!」

「二人とも横島さんが起きちゃうから喧嘩しないで」

しぶしぶとシロちゃんは霊波刀を消してくれました。

タマモちゃんはもともとそんな気も無かったのかソファーにちょこんと座ります。

「でもどうしようかご飯?何も無いんでしょ買い物行かないと」

「しょうがない今日は何か出前でもとりましょ」

「じゃあ私きつねうどん」

「拙者は肉うどんで」

「何、蕎麦屋に決定なの?じゃあ私は…」

三人が晩御飯の話をしている中私は横島さんのことを考えてました。

しばらくこのままってことはその間横島さんと一つ屋根の下?

でも横島さんは小っちゃい男の子だし。

あ、お部屋はどうしよう?

一人で寝かせるのは危ないかな?

私の部屋なら二人くらい大丈夫かな?

「ちょっとおキヌちゃん大丈夫?」

「へっ?は、はい大丈夫です」

いけない美神さんがおかしなものを見たような顔をしてる。

私、そんなおかしな顔してたでしょうか?

「おキヌちゃんの分適当に決めておいたから、横島君起こしといてね。」

「はい、わかりました」

もうちょっとこのままにしときましょう。





「じゃあ、今日はここに泊るの?」

「うん、お母さんが帰ってくるまでお姉ちゃんたちと一緒に待てる?」

「大丈夫!」

「そっか偉いね」

横島さんが起きて一緒にご飯を食べて、問題はそれからでした。

横島さんは記憶も五歳の頃のものなので急に自分の家じゃなくなっていたのに気づいたようです。

そこでなんとかしようと美神さんが「お母さんはね…」と言いはじめると。

「わかった、おかあさんまたとうさん追いかけてるんだ。おかあさんねとうさんがいなくると「ちょっと待ってなさいよ…。」っていって硬くて尖った物探してと追いかけっこするんだよ」

…ま、まあ納得したから良いんですけど。

みんな顔が青くなってますよ。

横島さんのお父さん昔からこんなだったのでしょうか?

「ほんと一人で大丈夫?やっぱり私の部屋で一緒に寝ましょうか?」

そう、結局横島さんは一人で寝ることになりました。

私は一緒に寝てあげたいと言ったんですがほかならぬ本人にいいと言われてしまいました。

この年頃はまだ甘えたい盛りじゃないんでしょうか?

「ううん、大丈夫」

「そっか…。じゃあおやすみなさい」

そういって私は部屋を出る。








「おねえちゃん…?」

「なに?」

「さっきの歌。うたってほしい…だめ?」

「…ううん駄目じゃないよ。眠るまで歌ってあげる」

「ありがと…」



    この子の可愛さ限りない
    星の数よりまだ可愛い
    ねんねやねんねやおねんねやあ
    ねんねんころりや…



おやすみなさい、横島さん…
遅くなりました、第二話投下です。
これからは事務所の面々とのふれあいになります。
気が向いたらほかのキャラとも絡ませてみるかな…

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