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ねーみんぐ




「せんせー!!」

 今日も元気に走る、銀髪に赤メッシュの娘さん。今日はいつにも増して、ニコニコと笑顔が輝いています。
 ああ、きっと何かいい事があったんだろうなあ。
 道行く人々が微笑ましく、駆けてゆく彼女を見送ります。

「せんせいっ!」
「どうしたい、ハチ」
「実は見てほしいものがあるのでござるっ!」

 その勢いのまま目的地の部屋のドアを開け、飛び込んできたシロを出迎えたのは横島忠夫。
 とりあえずボケてみたものの、見事にスルーされてしまい、やや不機嫌顔。まー、彼もまだまだ子供ですから、あっさりと流せないのは仕方ありません。
 しかし目の前の娘はもっと子供だと知っていますので、文句は付けずに話を聞きます。
 なにやら、見せる前から「ほめて!ほめて!」とオーラが出ていることですし。

「よーく、見ていてくだされ…」

 そう言って、シロが右手を出して霊力を集中。うぉんと低い音を立てて発動させたのは、手刀から伸びた光の剣。
 早い話が、どう見ても普通の霊波刀でした。

「ん? なんだ、どこか今までと違うのか?」

 当然、ツッコむ師匠・横島。しかしそれは早計です。
 シロは目を閉じ、う〜むむむ、と唸って更に集中。
 手刀の形にまっすぐ伸ばしていた指を玉を持つように丸めて、少しずつ霊波刀を縮めはじめます。

「う〜〜……うぅぅ〜〜……  ぅぅぅぅぅぅ〜〜………」
「おーい、シロ。まだかー?」

 そしてたっぷり5分が過ぎ、飽きっぽい師匠がそわそわしだした頃に、ようやくそれは完成しました。

「できたでござる!」
「おお、やっとかー」

 どれどれ。ずっと見ているのも退屈だったので、ちょっと妄想の世界に向けかけていた目を現実に戻して、弟子の手元を見る横島師匠。
 するとそこにあったのは、自分の得意技とよく似た、霊気で出来たグローブっぽいもの。

「どーでござるか! このところこっそり特訓していたのでござるが、ついさっきようやく成功したのでござる!」

 ほめて!ほめて!オーラ全開。
 輝く笑顔で、しっぽも全開で左右に振って。シロはえっへんと胸を張ってみせました。

「よ〜し、よし。よくやったな、シロ〜」

 取りあえず、激しい無言の要求に応えて。弟子の頭をがしがしとなでてやりながら、横島は考えました。
 ぶっちゃけ、霊波刀の方が遠くまで届くんで、手甲…いや、シロの場合もっと分厚いんでグローブ状態にしても、メリットってなさそうなんだがなぁ…
 でも、まあ、形を変えることを覚えたんだし、ふつーにほめてやってもいっか。

「色々と形を変えられるってのは、結構使い勝手がいいんだ。狭いところで短くしたり、逆に今まで以上に伸ばしたり、曲げたり、薄めに広げたりな」
「おおっ、そーだったのでござるかっ! 拙者、せんせーとお揃い、という所までしか考えておりませんでした!」

 せんせー、すごい! そんな顔をする弟子に、そんな目で見てくれる相手が他にあまりいないので、まんざらでもなかったりするのですが。
 さすがに、そこを考えていないのはダメだろうと師匠としては思うわけで。
 それと、最初にボケを流されたのは許さん。ともなぜか思っちゃったわけで。

「はっはっは。しょうがないなー、シロは」
「いやー、それほどでもないでござるよ」

 なぜかテレるシロに、横島はこう切り出しました。

「ところでだ。そうやって形を変えられるように進化した以上、もう普通の霊波刀とはちょっと違うわけだ。でな? 新しい名前を付けてみないか?」
「名前でござるか?」
「ああ。良かったら、俺に付けさせてくれないか?」

 もちろん。と快諾する弟子に、ニヤリと笑って師匠はこう言いました。

「俺のハンズ・オブ・グローリー栄光の手ってのに引っ掛けて、ワンズ・オブ・グローリーってのはどうだ?」



 そして、次の日。タマモに


「ああシロ。あんた、ようやく自分が犬だって認めたんだって? 横島が言ってたわよ。シロがワンズ・オブ・グローリー栄光のワンちゃんって技を身に付けたって」


 そんな事を言われてしまい、どういうことだと、師匠の家目指して走る娘さんの姿があったそうな。



 めでたしめでたし。



 なお、それに対する師匠の反論「だってソレ、肉球ついてるじゃん」は、シロ以外の全ての人に納得をもたらし、スネたシロがこの技を封印したのは言うまでもない。


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