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聖なる夜の幻に

 笛の音が夕闇が降りはじめた冬空に響く。

「ぢっぐぢょ――――ッ!どーせ、おでなんて、おでなんて ――――ッ!!」
 叫びが小雪舞い散る街を震わせるが、叫びを上げる『それ』の意志とは裏腹に、袴姿の少女が奏でる指向性を持つ霊波に変換された笛の音によって一切の身体の動きを封じ込められており、本来ならば力を持つであろう言霊の塊である『恨み言』もまた笛の音によってその力を中和されていた。

「どやかましいわっ!!」
 バンダナの少年が発した苛立ちを込めた叫びとともに、《栄光の手》が翻る。

 斜めに二度閃いた霊波の刃は動きを止めた妖怪の巨体を十字に切り裂き、笛の音によって霊基結合を紐解ほどかれかけていた妖怪の霊体を瞬時に消滅させた。





「『こんぷれっくす』さん……冬だというのにこんなに出てくるなんて―― 何かあったんでしょうか?」

「俺もそこが気になるんだよなぁ……あいつは夏の風物詩だと思ってたのに――」

「どんな風物詩ですか、それは?」
 横島の軽口に、少しばかりの呆れを交えつつ、くすり、と微笑むおキヌ。

「―― まぁ、あいつが出てくる気持ちは判らなくはないけど……冬に見るのは、どうにも季節感がないよなぁ」
 おキヌの微笑みを受けてそう呟くと、横島は包み込もうとする夕闇に抗う程に圧倒的な光に包まれた街を見渡す。

 イルミネーションに満たされた街の喧騒は、絶え間なくクリスマスソングを歌い上げていた。


 【聖なる夜の幻に】


 事の起こりは、週の頭であった。

 モテない男の嫉妬や恨みといった怨念の集合体が形をなした妖怪・コンプレックスの大量発生という事態を受け、対処しきれなくなったオカルトGメンからの依頼で首都圏の一斉除霊が開始されたのは、色恋沙汰における一大イベントと化したクリスマスを週末に控えた月曜日のことであった

 だが、首都圏のGSをほぼ全て動員したにも関わらず、根本的な駆除には至らないまま五日間が過ぎた。

 出席日数が既にレッドゾーンに突入している横島や、さほど体力的に恵まれていないおキヌを抱えているが故に、出来るだけ早く決着をつけたい美神除霊事務所としてはこれ以上時間を食う訳にはいかないという事情もあり、窮余の策として人員を分散して応対―― 通常通り除霊しつつ、その中で元凶に対する手掛かりを見つけ次第、全力を持って速やかにこれを叩く、という方針で事に当たることになったのは当然の帰結であった。

 高水準でバランスが取れている上、生かさず殺さずで痛めつけることで情報を引き出すことも出来る美神が単独で動き、鋭敏な超感覚を持っている犬神二人がその追跡力と機動性を活かす遊撃部隊として行動―― そして、思念に直接接触することでその意識を読み取ることも出来るが、直接的な戦闘能力に劣るおキヌをフォローする形で横島がタッグを組んでから半日―― その間に二人で撃退したコンプレックスは、既に四鬼を数えていた。

「で、おキヌちゃん……今度は何か感じた?」
 横島の問いに、首を横に振るおキヌ。
「感じた感じなかった、というよりは―― あまりに沢山の意識が混ざり合っているから、この意識を統合している意識……核になっている意識がどれなのかが判らない、というのが正直なところですね。
 時間さえ掛ければ判ると思うんですけど……」

 言いかけて、おキヌは口ごもる。

 コンプレックスの発生源というべき『負の意識』がピークとなるであろうクリスマスイブを翌日に控えている以上、原因究明に時間が掛かり過ぎることは避けたい―― また、仕事でなく、プライベートで想い人との刻を過ごしたい、という思いが『時間を掛ける』という選択を消極的なものに変じさせていた。

 時間を掛ける訳にはいかないのに、現実問題それが出来ない―― その思いから申し訳なさそうに呟いたおキヌの意識に「そっか……やっぱりおキヌちゃんは凄いよな」横島の言葉が飛び込む。

 ややネガティブな方向に向かいかけたおキヌの視線と気持ちを、心拍数とともに上昇させた少年は、心の底から感服した、という仕草を頷きで示しながら続ける。
「だって、ああまでバラバラになりかけてるコンプレックスの意識もそこまで読み取るどころか、時間さえ掛ければしっかりと核になる意識まで特定出来るんだろ?そんなに沢山のモテないヤローどもの意識に接触しようものなら、下手すりゃ取り込まれてるよ、俺だったら」

 事実、初めてコンプレックスと対峙した時にはいとも簡単に洗脳された横島であるが故に、その頷きながらの言葉にはある意味力強い説得力があった。

 情けない過去に基づく説得力に満ち溢れた言葉を笑顔とともに述べる横島に釣られるかのように、おキヌの表情に笑顔が戻る。

「ふふっ……そういえば確かに横島さんって洗脳されたりすることが多いですよね。こんぷれっくすさんの時もだけど、『ないとめあ』さんの時もネクロマンサー鼠さんの時もそうだったし、タマモちゃんの時も『ゆにこーん』さんの時もですからねぇ」

「うっ……痛いところを衝いてくるなぁ―――― って、その時にはおキヌちゃんも結構一緒に影響受けてなかったっけ?」
 悪戯っぽい笑みで混ぜ返すおキヌに対して、横島もまた悪戯小僧の表情と口調で応じる。

「もぉ、言わないでくださいよ」
 思わぬ反撃から―― というよりはむしろ、言葉とともに繰り出された横島の人差し指がその柔らかい頬を軽くつついたからであろうが、耳の先まで真っ赤にしながらおキヌは桜色の唇を尖らせてそっぽを向く。

 端から見れば、恋人同士がただじゃれあっている風にしか見えないその様に―――― 『どちくしょー!裏切り者だぎゃ!裏切り者だぎゃ――――っ!?』明確な嫉妬を漂わせながら湧き出たのは本日五体目のコンプレックス。

 『嫉妬在るところに我在り』と言わんばかりの流石の増殖力を見せつけたコンプレックスが身も蓋もなく退治されるまでは、CM一本分の時間があれば充分だった。


「おっと!」
 野暮極まりないタイミングで登場したコンプレックスに、数分前と同じ勢いで霊波刀と化した右手を翻す横島だったが、何かに気付いた風情を見せると、空いた左手に一枚の紙切れを掲げて霊気を込める。

 粉雪よりも儚く融け消えかけたコンプレックスの一部がその紙切れに吸い込まれる。

 破魔札や神通棍、精霊石と並ぶ、ごく一般的な霊具としてGSに普及する吸魔護符であった。

 他の霊具や霊波刀、霊波砲のようにそれ単体で霊を滅ぼすことは出来ないものの、使い手と対象の霊力の比率次第によっては、半径にして十メートル程の空間に存在する任意の霊体を吸い込むことも可能だ。

 霊波刀や文珠のような『自らの霊力を収束させて形を為す』という、並のGSならば一定以上の霊能と一生を賭す程の修行を両立させることで漸く体得出来る『かもしれない』程の離れ業を、これといった修行ではなく土壇場の爆発力によって出来るようになったというある種の天才であるがために、逆に一般的な霊具の取り回しには不得手な横島ではあったが、《栄光の手》による斬撃で滅びかけ、力を喪いつつある霊体を吸印することは如何に横島でも難しいことではなかった。

「よし……と、これでちょっとは楽になるんじゃないかな?」
 言って、横島はコンプレックスの破片を吸い込んだ吸魔護符をおキヌに手渡す。

「えっと……これは?」

「護符に封じられた霊の意識を読み取るなんて難しいとは思うけど、ただ消えていってしまうだけよりはマシかもしれないと思ってさ。
 うまくいったら儲けもの、ダメだったらまた考えりゃいい……気楽に行こうよ」
 首を傾げるおキヌに、ポジティブな言葉で応じる横島―― だが

「あ、そうじゃなくて―― 美神さんに黙って持って来ちゃって大丈夫でしょうか?」




 数瞬、沈黙が舞い降りる。



「御願いしますおキヌちゃん!絶対役立ててくださいッ!!」
 決して安くはない装備を勝手に持ち出しただけならまだしも、それを無駄に使い潰しては、いつものようにしばかれるだけで済むはずはない。
 持ち出したからには、この難事件の解明に役立てることで有耶無耶にせねばならない―― 横島がガタガタ震えながらおキヌに懇願するのも当然の道理であった。



「もぉ……仕方ないですね」
 苦笑混じりにおキヌは意念を凝らす。

 分厚い擦りガラス越しの相手の言葉を理解するかのような行為ではあるが、本来現れるべき季節ではないこともあり、僅かな衝撃で滅んでしまう程に緩い霊基結合でしかないコンプレックスの残留霊気を読み取るには大分マシであることには変わりない。

『横島さんはいろいろ考えてくれた。今度は私も―― 出来ることを、やらなくちゃ』
 おキヌの集中力が細く、鋭くなるにつれ、その『擦りガラスの檻』に向けられたイメージの視界が、破片の一つ一つを見極めていく。

『ちっくしょ――』
『どーせ俺なんて』
『結局世の中見た目かよ』
『仏教徒には関係あらへんわ!』
『みんな楽しそうなのに、私は一人』
『クリスマスが有難いって言うんなら、洗礼名を言ってみろってんだ!』
 夥しく、且つ痛々しい無数のマイナスの意識を洗い出すその中で―― おキヌは僅かな違和感を感じた。

「あ……これって……あれ?」
 小さな染みのような違和感には違いない。

 しかし、その些細な『違和感』にこそ除霊のヒントが隠されていることに違いはない。
 除霊においては最も必要なものの一つである、と授業で教わり、実戦において美神も大きなウェイトを置いているその僅かな引っかかり―― 霊能に基づく『勘』を信じないわけには行かなかった。

 更に深く読み取るべく、おキヌは意を集中する。


 ―― 声音の響き。

 ―― 霊気の発する匂い。

 ―― 霊体が発する、うすぼんやりとした輝き。



 これら全てが、その違和感とほかの大多数の意識との明確な違いを感じさせる。


「やっぱり―― 横島さん、判りましたよっ!」
 違和感の輪郭を掴んだ快哉に満ちたおキヌの声が「……って、なにやってるんですか――――――ッ?!」羞恥心を交えた驚きを満ちたものに変わった。

 跳躍の軌跡と重なる衣服と、跳躍の頂点に達する半裸の横島―― 飛び込みと同時に為される脱衣……所謂『ルパ○ダイブ』によってパンツ一丁となった横島を見ては、その叫びも無理はないだろう。

「ちょっ……横島さん、こんなところで―― って、違うッ!!」
 横島が自分目掛けて飛び込んでいる……その事実に、ちょっぴりトリップ入ってしまったおキヌではあったが、その軌道が自分を逸れている事を悟ると辛うじて正気を取り戻す。

 明らかに焦点が合っていない瞳のまま、どこからともなく激しいギターリフが聞こえんばかりの勢いで『全裸美女で満たされた日本武道館で歌いたかったロックナンバー』をノリノリのシャウトで歌い上げる横島が、何らかの―― 恐らくは幻覚による―― 霊的攻撃を受けていることは間違いない。

 正気を取り戻した以上、やるべきことは一つ。

 相手の正体を見極めることも必要には違いない。だが、既に横島が影響を受けている以上、一刻も早く横島を正気に戻さなければならない。そのためにも。

 ―― ネクロマンサーの笛!早くしなくちゃ!!

 指向性のある霊波を横島に向けて放出することでその精神を侵す幻覚を上書きし――打ち消す!

 だが―― おキヌが深く、そして素早く息を吸い込んだその時、彼女と横島の間に小さな人影が生じる。










 その人影が『違和感』と酷似した霊波を発している、と気付くに要した刻は一瞬。









 そして、その一瞬に飛び込んできたオレンジ色の小さな光が……おキヌの視界を、そして感覚全てを塗り潰していった。






 * * *



 張りのあるシャンソンがピアノの調べと絡み合う。

 温かみを帯びたオレンジ色の薄灯りとグラスに宿る淡い黄金色、加えて目の前に座る男のジャケットの落ち着いたブラウンが、スカイラウンジの空気に溶け込み、彼女を酔わせる。

 微かに酩酊した意識をさらに刺激する酒精の芳香。

「……乾杯」
 そして、打ち合わされるシャンパングラスの音と優しい微笑みが、彼女の酩酊した理性をさらに蕩けさせる。

「うふふ―― 横島さんが誘ってくれるなんて、珍しいですね」
 陶然とした微笑みに、男―― 横島は笑いを薄く浮かべて応じる。

「そりゃもちろんさ。今日は特別な日だからね」

 懐を探り、取り出した小さな箱を開く。

 小箱の中に住まう澄んだ輝きに、おキヌは目を奪われた。
「これが、俺の気持ちだよ―― 受け取ってくれるかい?」

 想い人のその言葉に、おキヌが出来ることはもはや頷くことだけであった。

 そして―― 頷いたおキヌの手を取り、横島は細い指にリングを嵌めた。
 



 しかし、酩酊した意識に残る醒めた一欠片が、彼女に問い掛ける。

 ―― 横島さんが、こんなことを言うはずはない。

 微かな冷静さが、か細い穂先を伸ばして幸福感を突付く。


「ちゃんと報告しないといけませんね……美神さんにも―― 」
 金剛石の輝きを透かしながら呟くその一言は、疑念からだったのだろうか?


「止めようよ。いない人のことを考えても仕方ないじゃない」
 芽生えてしまったかすかな疑念に対して向けられたのは、怯えもしなければ焦りもしない、些か乾いた横島の振る舞い。

 その『らしくなさ』に、おキヌは悟ってしまった。

 ―― これは横島さんじゃない。

 悟ってしまったおキヌの周囲で、世界が歪む。

 ―― ここは……こんなものは、私たちの世界じゃない!!


 そして、おキヌがそう自覚した瞬間、世界が罅割れた。


 * * *


 罅割れた世界が、雑踏の響きを立てて崩れ落ちる。

 おキヌの眼前には、燃え尽きたマッチを手に持つ金髪の少女―― モテない男達の怨念を集めたコンプレックスの思念のただ中にあって女性を感じさせた『違和感』と同じ霊波を発する娘の姿があった。

 自らの生み出した世界を否定され、おキヌが正気を取り戻したことに対するショックからだろう―― 10代前半を超えるかどうか、という金髪の少女は碧眼に涙を浮かべると、血を吐き出さんばかりの怨念のこもった叫びを上げる。

『クリスマスなんて嫌い!他の年末妖怪の立場を奪ってしまうクリスマスなんて!もともと大晦日だった私の出番を捻じ曲げてしまうクリスマスなんて……大っ嫌い!』

 怨嗟の叫びに乗って叩き付けられた殺意にも似た圧力の霊波が、おキヌの魂に一つの像をもたらす。

 それは、遥か昔の『少女』の姿―― 見る者の望むものを浮かび上がらせ、翌年の生きる糧となる幻の光をもたらす年の瀬妖精の姿であった。

『もともと私は《希望》の妖精だったって言うのに、みんなプレゼントをあげるメジャーで即物的なサンタクロースばかりを有難がって、ごっちゃにして!挙句の果てには《クリスマスの夜、一人でおばあさんの待つ天に召されました》扱いよッ!!』


 端から聞くと滑稽さすらも感じさせる叫びだが、おキヌはその叫びに背筋を貫く寒気を覚える。

 ―― これは……この子は、私だ。美神さんや横島さんに出会えなかった私の姿だ。

 かつて、地脈に縛られた自らの孤独な境遇を呪い、「誰かに代わって欲しい」と欲してしまった彼女には、『誰にも求められない』という孤独に苛まれ、絶望に蝕まれることで徐々に変質していった、かつての《希望》の妖精の心境が理解出来た。

 ―― もしもあの時、横島さんに出会わなかったら―― 何時かは私も。

 理解出来たが故に芽生えた想いで、万一のために袖口に忍ばせていた破魔札を持つ手から力が抜ける。



『そんなクリスマスなんてものを有難がってる人達なんて、みんな一人ぼっちにして……私の寂しさを味あわせてやるんだからッ!
 だから……だから……邪魔なんか、させないッ!!』
 一際大きな叫びとともに、マッチを束に纏めた右手を壁に向けて振るう。 

 あまりに大きなモーションで振るわれたその右手は、果たして邪魔なおキヌを攻撃するためのものだったのだろうか―― ?

 それとも、彼女の心境を知ったことで攻撃する意志を喪いかけたおキヌに彼女を相手取る理由を与えたのだろうか―― ?

 それを語るものはいない。


「―― 駄目ッ!!」


 ただ、孤独を呪った末に怨念に囚われた、少女の姿をとった妖怪におキヌが出来ることは、哀れみとともに破魔札を振るうことだけであった。


 夜の街に―――― 二つの涙が弾けて、消えた。











「―― 恨むだけじゃ……寂しいだけなのに」
 涙を拭い、呟いたおキヌの耳に、大きなくしゃみが一つ届く。


「あれ?俺、何を……ぶぇっくしゅっ!!」


「あ、横島さん―― 気がつき……あ゛っ!」
 彼女の孤独を断ち切り、生きる力を与えてくれた『大切な人』の、些か間抜けな響きを含んだくしゃみに……おキヌは苦笑しようとして―― 目を逸らした。

 偶発的にではあるものの、それまでもパンツ一丁の横島は何度も目にしているおキヌとはいえ、流石にそれをまじまじと見るような度胸など、あるはずはないのだ。

 
「って……あれ?おキ……ああっ!?
 結局こんな役回りか、俺は―――― ッ?!」

 誰にともなく向けられた横島の叫びは。木枯らしに乗って街に響いた。




 * * *

「いやぁ……ホントごめん!」
 そこが裏通りであったことも幸いし、公衆の面前でのストリーキングは危うく免れはしたものの、屋外で脱ぎ散らかしてしまったことですっかり冷え切った衣服を纏い、芯から凍えてしまった横島の歯の根の合わない口から真っ先に飛び出てきたのは、足を引っ張ってしまったことに対しての謝罪の言葉であった。

「でも、横島さんが無事で本当によかったです。もしあのままだったら――」
 言いかけて、考える。

 ―― あのままだったら、どうなっていたのかな?

 触れ合う手と手。

 重なる唇。

 そして……二人は――。


 妄想が暴走を始めそうになった矢先「……?どしたの、おキヌちゃん?」妄想特急を横島の一言が脱線させる。

 目の前にあるのは、触れればキスの一つくらい奪えそうなほどに近い横島の無防備な笑顔。

 突然妄想から現実に引き戻されたおキヌの顔に、更に赤味が増す。


「しっ……知りませんッ!!」
 火の出るような気恥ずかしさにそっぽを向いて歩き去ろうとするおキヌを、横島は何がなにやら判らぬまま後を追う。


 その『いつもの横島』に安心感を覚えていても、幻の中に見た『積極的な、大人びた横島』にも僅かながらに憧れるのは、コイスルヲトメの難しいところ。

 しかし、彼女は知らない。

 夢は、時に現実になって現れることを。

 そして、出席日数ギリギリになりながらもバイトに明け暮れた横島のデニムのポケットには、ちっぽけだが輝かしい何かがある、ということを。



 『聖なる夜』まで24時間を切った、冬の日の出来事であった。
 メリークリスマスです。変な奴の書いた変なSSですが、楽しんでいただければ幸いです。

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