地球から6万光年の彼方、惑星ヨコシマ。
この星の王子・ヨコシマは唐突に「辺境惑星への留学」を突きつけられたのだ!!
「お前は惑星ヨコシマの名を貰うほどの男だ…一度辺境の地にて男を磨いてくるが良い!!そして一人前の男になって帰って来い!!」
「いきなり無茶苦茶ぬかすなクソ親父ィィィィッ!!!!」
そう言われて、王子ヨコシマは辺境の惑星・地球へと降り立ったのである…。
韋駄天仮面ヨコシマン・第二話 ヨコシマン大地に立つ!!
「行ってきまーす♪」
「気をつけてね〜。登校中に幽体離脱しないようにね〜」
ズルッ
「な、何いってるのよもう!」
今日も元気に、学校へと向かう少女。
彼女の名前は『西村 絹』。
青味がかった長い黒髪と可愛らしい声が自慢の、元気が取り得の女子高生である。
「いっけなぁい、5分ほど出るの遅れちゃった…走らないと間に合わないよぉ〜」
慌てて学校に向かう道を急ぐ絹。
右に曲がる交差点に差し掛かったとき…。
ドンッ!!
「わっ!!」
交差点の向こう側から飛び出した、人と思しきものを突き飛ばしてしまった絹。
「大丈夫ですか!?おケガはっ!?私ったらドジで…」
絹は慌てて、突き飛ばした人物に謝罪する。
「…ん……あ、ああ……」
頭を左右に振りながら、その人物は起き上がる。
その容姿は頭に紅いバンダナを巻き、服装は上下デニムの、歳は16、7の男子であった。
「…あれ?」
男子は、自分をボーッと見つめている絹の姿が不思議に見えた。
(…どうしてなんだろう……。初対面なのに、私、この人に初めて会ったような気がしないような…)
どうやら、絹の過去の、それもつい最近の記憶には、この男子とよく似た雰囲気の人物と出会ったような記憶がおぼろげに残っているようだ。
「いや、これくらいなら大丈夫…お、かわい娘ちゃん♪」
そういうと男子は、いきなり絹に向かって突進してきた。
「僕の名前は横島忠夫!!ずっと前から愛してましたーっ!!!!」
「きゃぁぁっ!!」
絹は思わず、横島と名乗った男子にパワーいっぱいのアッパーカットを繰り出してしまう。
「はなげっ!!」
ぶっ飛ばされた横島は、そのまま地面へと沈んだのであった。
「…い、一体何なの、この人……あああっ!!もう遅刻じゃないっ!!!」
地面でぴくぴくとケイレンする横島を残し、絹は学校へと猛ダッシュするのであった。
「……これでナンパ連続40人失敗記録更新だぜ…ぐふっ」
どうやら横島は、ナンパをしまくっていたらしい…。
放課後。
この日はいつもより早く授業が終わったため、絹はちょっと寄り道をしてみることに。
「今日は確か、安奈みら先生の新作の発売日だったわね♪本屋さんに急ぎましょ」
明るい歌声で、大好きな歌の『パフ』を歌いながら、絹はいつもの本屋に向かう。
その途中で…
「おぶしっ!!」
「46億年早いわよっ!!!」
ナンパに失敗して殴られる、情けないバンダナとデニムの男の姿を見かけるのであった。
「うう…これで50人目か……。こっちに来てから全然女の子にモテないなあ…」
その背中には、どこと無く哀愁が漂っているようにも見えた。
「あのぉ…」
絹は何か可愛そうに思えたので、声をかけてみた。
「え…あ、君は確か朝の…」
「あ…確か……横島…さん…でしたっけ?」
そう、その男は、絹が朝出会い頭で衝突し、アッパーカットまで食らわせてしまった男、横島忠夫だったのである。
「あ…朝のときはごめんなさい…。いきなり飛び掛ってきたからつい…」
「いや……俺も女に餓えてたもんだからつい……って、女の子がやっと俺に…ああ…」
横島は大粒の涙を流して喜んでいた。
51人目にしてようやく女の子が話し掛けてくれたのだから、無理も無いだろう。
「そ…そんなに大げさに……。あ、私、『西村絹』っていいます」
「…絹ちゃんか……。ああ…名前まで教えてもらって………うっ!!」
突然、横島が方膝をついた。
それに表情も、どこか血の気が薄れてきているように見える。
「ど、どうしたんですかっ!?」
「……う……腹……減った…………」
一方その頃…。
「…合成獣をいとも簡単に斬り裂くとは…恐るべし『ヨコシマン』…」
ここは地球のどこかに存在する悪の秘密結社の基地…といっても都内某所のボロアパートの部屋でしかないのだが。
「…奴をこのまま放置すれば、この『プロフェッサー・カオス』の計画に支障をきたすこととなる…」
彼こそが、地球制服を目論む自称・悪の天才科学者プロフェッサー・カオスであった。
古代の秘術によって不死の身体を得て、既に千年以上生きてるというマッド・アルケミストであったが、その頭脳は新しい知識を得ればそれにあわせて古い知識を失うというトコロテンな脳味噌であるというのがなんとも…であった。
「長生きはするもんじゃないのう…」
しかしそんな脳味噌でも、かつて文献として残していた資料は役に立つものである。
「だが、この過去の文献と現代科学の融合によって、今ここに最強の人造人間が生まれようとしているのだ!!」
カオスが手をかざした向こうには、怪しげな機器からのびるコードやパイプが多数接続された、人間の女性のように見える機械…すなわちアンドロイドが目を閉じたまま静かに座っていた。
「こいつが完成した暁には、ヨコシマンなど赤子の手をひねるより簡単に始末できるわ!!そして、このプロフェッサー・カオスは地球人類の頂点となるのだ!!」
カオスは右手を広げ、なにやら怪しい呪文を詠唱し始めた…。
『万物は流転し、生は死、有は無に帰すものなり!ならば死は生、無は有に流転するもまた真たらんや!』
カオスの右手から霊力が放たれ、アンドロイドのボディにその霊力が火花を散らしながら注がれていく。
『この者、土より生まれし人の影成れど、我が祈りと魔の力により生命と魂を宿らせん!!生命に形あれば形にもまた生命のあらんことを…!!』
言葉が霊力に変換され、流れ込んでゆく。
そしてついに、アンドロイドがその目を開き、立ち上がったのである!!
「成功じゃ!!お前の名は『テレサ・ターミネーター』、通称『
T.T.』だ!!」
カオスはアンドロイドの完成を、誇らしき高笑いで飾っていた。
「さあ行け、
T.T.!!ワシの世界制服の尖兵として…ぐふっ!!?」
なんと、
T.T.は創造主であるカオスにボディーブローを見舞わせたのである!
『気安く呼ぶんじゃないよ…この下衆が……』
「な…ななな……」
立ち上がった
T.T.は、まさに『我こそが支配者なり』といわんばかりの笑みを浮かべていた。
カオスは戦慄した。
『作ってもらったからって、いいコにしてる義理は無いのよ…。この世の支配者は、この私だけで充分なんだから…フフフ……』
氷の笑みを浮かべながら、
T.T.はカオスの秘密基地…もといアパートの壁をぶち破り、脚部のジェットエンジンを展開して、何処へと飛び去っていった…。
「そ…そんなバカ…な……。ワシの……言う事を…きかんとは…」
「ちょっと!!家賃も滞納してるというのに部屋をこんなにメチャメチャにして!!」
大家さんの長刀がカオスに襲い掛かったのは言うまでも無い。
所変わって、ここはまた別のアパート。
横島忠夫が入居している安アパートであった。
「はい、ご飯出来ましたよ」
空腹に苦しんでる横島を見かねて、絹はわざわざ彼のためにアパートに出向いてまで料理を作ってあげたのである。
「うう…五日ぶりのメシ……絹ちゃん…本当にありがとう……」
感激のあまり涙を滝のように流しながら、横島は絹の作った里芋の煮っ転がしと味噌汁、白米を美味しそうに食べるのであった。
「そんな大げさにならなくても…でも嬉しいです。喜んでくれて」
絹は料理は得意中の得意で、素朴で家庭的なメニューを得意としている。
それに彼女は、困っている人を放っておけない性分であった。
「でも贔屓目無しで美味いよこの料理!!このところカップラーメンだけの生活だったからなあ…」
「…一体どういう生活してるんですか……。それにこのお部屋も……」
横島の部屋は、どうしようもなく汚い。
布団の周りにはゴミが散乱し、カップ麺の空容器からの匂いもすさまじく、とてもじゃないが絹のような女子高生が入るに相応しい場所ではなかった。
「…私でよければ、お部屋のお掃除してあげましょうか?」
絹は『もう、しょうがないなあ』といわんばかりに、横島の部屋を掃除する気になっていた。
「え…い、いいよ。そこまでしてもらわなくても…」
「んなこと言ってもちっともしないように見えますから。気を使うこと無いんですよ」
横島の額には冷や汗が浮かんでいた。
「いや、見られたくないモノとかもあるんだよ!!ホラ…わかるだろ!?」
「こーゆー本のことですか?」
絹の手には…部屋中に散らばっていた『えっちな本』の内の一冊が広げられていた…。
「あ…ああああああああっ!!!!!!!!」
頭を抱えて悶絶する横島。
絹のほうは顔は相変わらず明るい笑顔であったが、目が少しつり上がってるように見えた。
「…ならいいんですよ。男の人がこういう本を見るのはごく普通の事だって聞きますから…」
でもあっけらかんにこたえる絹。
免疫があるのか、ただ単に天然なだけなのか。
「ううう…見られたよ…女の子に見られたよ……」
部屋の隅っこで体操座りで『の』の字を床に書く横島であった。
その哀愁の中、絹の楽しそうな鼻歌がBGMとして流れていたのだった。
「よし、片付きました!」
てきぱきと仕事をこなしていく絹の手によって、あのゴミ屋敷だった横島の部屋が小奇麗な部屋へと生まれ変わったのだった。
「すまないねぇ……」
『えっちな本』のことはもう諦めたのか、気を取り直した横島がお礼の言葉をかける。
「どういたしまして。ところで、横島さんはいつからここに来たんでしょうか?」
「え?」
「だって、さっきナンパしてたときに『こっちに来てから…』って言ってましたし」
嫌なシーンを覚えられてて、横島は少しショックを受ける。
だが、食事と掃除を頼んでもいないのにやってくれたという少女の親切を受けたのだから、質問に答えないわけには行かない。
「つい2週間前かな。クソ親父に無理やり留学という名目でこっちに飛ばされてね」
「留学…?横島さんって…外国の方なんですか?」
絹は目を丸くして、物珍しそうに横島を見つめる。
黒い癖っ毛、黄色い肌、どっから見ても100%日本人にしか見えないのに『留学』してきたというのはおかしいと思わずにはいられないから。
横島は少し慌てた口調で弁明する。
「あ…いや…。それまではヨ…いやナルニアって国にいたんだ。親父の仕事であちこちに飛ばされてるからさ…アハハ……」
「そうなんですか。でも普通そういうのは『帰国子女』って言いません?」
言葉の間違いを指摘され、横島は苦笑いする。
「あ〜そういえばそうだったねえ…アハハハハハハハハ………」
その姿を見て、絹は『面白い人だなあ』と思って、ちょっと悪戯っぽく笑ってみた。
「フフッ。もう一つ質問しますけど、何でこんなご飯に困るような生活してるんでしょうか…?」
明日の食事にも困るような生活を送ってるということは、誰が見ても明らかな横島だった。
「うう…。それはねえ…親父の奴は仕送りはギリギリしか出してくれねーし、バイトも時給255円なんていう超薄給だから、明日を生きることすら…ううっ…」
「じ、時給255円!!?横島さん、『労働基準法』ってご存知ですか?」
明らかに労働基準法違反の超薄給には、絹も驚かずにはいられない。
「労働基準法?何それ、食えるの?」
「あああ…駄目だこりゃ………」
時給255円の仕事って一体何なのか……それに何故この人はそんな労働基準法完全無視の仕事を文句もいわずにやってるのか…という疑問しか頭に無い絹であった。
そして困った人を放っておけない絹の性分。
「も、もし、またご飯に困るようでしたら、私がいつでも作りに来てあげますから…」
「絹ちゃぁ〜ん!!!!!!絹ちゃんは、ホンマにええコやなぁ〜っ………」
横島、歓喜の涙を流して叫んでいた。
薄給・食糧難の生活を送ってきた横島にとっては、絹がまさに『天使』に思えてきたのであった。
嬉し涙を流す横島の頭を、絹は『おー、よしよし』と優しくなでてあげていた。
横島忠夫の夢…『美人の嫁さんを見つけて退廃的な生活を送りたい』……
「う〜ん…予想より長くなっちゃったなー。前・後編にしちゃおうかな」
宿題ノートだったはずが、何時の間にか妄想小説専用ノートと化してしまいました。
というか、妄想小説書くことが日課になってしまった私…なんかおかしくなってきたのかもしれない…。
…横島さんの名前はあっさり書けたのに、いざ自分の名前をそのまま「キヌ」って書こうとするとなんか……恥ずかしくて…それでちょっともじってみました。
さて、と…。
あ、もう10時だ。
ラジオ『ツインベスパパラダイス』の時間ね。
じゃ、今日はここまで。
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