くあぁぁぁぁぁっ
と思わず声に出しそうなくらいに伸びをする。
うーむ、窓から射し込む光は既に水銀灯になっている。外はすっかり夜だった。暗い暗い。
時計を見ると8時を刺している。しっかし、誕生日にこんな生活してていいんかねぇ俺は?
そーは思うけどしょうがねぇじゃん。
まぁ、小綺麗にはなった俺のアパート六畳一間の布団でうんうんうなずく俺の姿はどうかと思う。
ちったぁ誕生日らしくケーキでも買ってくるのも良いかもしれんな。店が開いてるかは別として。
ん? なんだ見慣れた感じの金色頭が窓の隙間から見えたような気がするぞ?
なんだよ、行ったり来たり。来るなら来たらいいだろうに。
「や、やっぱり、やめよっおキヌちゃんっ。照れくさいじゃないっ」
「大丈夫ですよ。横島さんきっと喜んでくれますから、ほらタマモちゃんが先頭で」
「そーでござるっ。おキヌ殿の顔を立てて、この役を譲ってやるのだからして、逃げることはゆるさんでござる」
ドアの前で聞き慣れた声同士がなんだか言っている。
全部バイト先で聞き慣れた声だ。
『おいおい、なに盛り上がってるんだよ』
と、俺が思っていたら、ドアノブがガチャッと音を立てていた。
開いた扉の向こうにいたのは予想通りというか何というか。金髪をナインテールにまとめた狐娘タマモ。俺のバイト先の居候でお揚げ大好き娘だ。
あー、そういえば、この間、事務所に居候一周年でお祝いしてやった時に、なんか言ってたよな。
そうだよ。あれは確か先々週のことだった。
『何よ、一周年って、一年たったらめでたいの?』
『いや、区切り良いだろ? 誕生日とか一年ごとに祝うし』
『ふーん、世間ってそういうモンなんだ? ねぇ、横島って誕生日いつなの?』
『ん? 俺か? あー、再来週だなぁそーいえば』
何だよ、あいつ結構律儀なところあるじゃねぇか。
「えっと、その、来ちゃ……ダメだった?」
あまり見慣れない普段着姿というか。白いシャツにアクセントを付ける紅のネクタイ、薄桃色のカーディガン、紺色ミニスカにニーソックス。
いつものパターン化された服とはひと味違う。
「あ……っ」
そして、タマモは口に手を当てて、顔を蒼白にしていた。
「ご、ごめんっ!! 何でもないっ、何でもないからっ!!」
バタンッ
「あ、あれ? タマモちゃんどうしたの?」
「どーしたんでござるか女狐」
「帰るわよっ!!」
「「え?」」
「帰らなきゃダメよっ!! 特におキヌちゃんっ!!」
「え? 一体何が?」
「とにかくっ!! 今すぐ帰るのよっ!!」
「え? ちょっと、タマモちゃんっタマモちゃ〜んっ」
「待つでござるよ女ギツネ。おキヌ殿を引っ張っていくなでござるよっ」
バタバタバタと慌てふためいた感じの足音と共に走り去っていった。
何なんだ? 一体?
「んーっ」
ふと、俺のすぐ傍から目覚めの声が聞こえてきた。
「おー、どーした横島」
寝ぼけ眼(つり目)をこすりながら筋肉質のバトルジャンキーが起きあがってくる。
コタツ布団から出てくるその姿は裸だった。
「? 何かあったんですか?」
で、その横にいたバンパイアハーフがむくっと起きていた。
やっぱり何も付けていない。
「ん? あ、いや、別に何も?」
……あ、しまった。今日は『ドキッ! 男だらけの脱衣麻雀』で盛り上がってたんだっ。
俺も服着てねーし、くぁ、これ結構ヤバイよっ。
まずいなぁ。
「よ、横島さん」
「ん?」
「ワッシの事忘れとりませんかのー」
「あー、すまんタイガー、ナチュラルにお前が居たこと忘れてたわ』
とりあえず、この惨状を見てしまった以上、お揚げで口止めするしかないような気がする。
後日俺が衆道に墜ちたという誤解を解くためにどれほどの苦労を要したかは別の話である。
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