(あんな奴のどこがいいのかしらね…)
某月某日。
ランチタイムをやや過ぎた美神令子除霊事務所の一室。
来客用のソファーに子狐形態で寝そべっていたタマモは、おキヌとシロの会話を聞くとはなしに聞いていた。
内容は他愛もないことであった。
なんでも、諸事情により高校の卒業を危ぶまれていた横島がこの度めでたく卒業を決めた。
そこに至るまでの横島の道のりは、フツーの高校生と比較していささか険しいものであったであろう。
その険道を踏破してみせた横島を称え、ささやかなお祝いをしようではないか。
二人の会話を要約すると大体そんな感じになるだろうか。
(…バカ犬はともかく、おキヌちゃんまであんな奴のことを嬉しそうに語っちゃったりなんかして。ホントどこがいいのかしら。)
前世の記憶がないとはいえ、色恋道に関してはそこら辺の小娘とは比べるべくもなく上手のタマモ。
横島に対する好意を隠そうともしないシロは当然として、内に秘めながらも言動の端々に恋慕の情が見え隠れするおキヌ。
そして、金銭至上主義を公言し、男など眼中にないというポーズをとってみせる『あの』美神までもが。
外見も内面もはっきり言って並み以下と思える横島のことを憎からず思っている。
そのことを、タマモはとうの昔に看破していた。
(ま、悪い奴じゃないってことは認めるけどさ。)
それにしたって、タマモの目から見てもすこぶるつきの美女・美少女である彼女たちが惚れ込むような魅力があるとは到底思えぬ。
そしてまだ未確認ではあるが、さらに数名の乙女たちが互いに牽制しあいつつ、横島に熱視線をおくっているらしいのだ。
(……まあ、わたしには関係のないことだけど。)
二人の会話から意識を外し、タマモはくるりと丸くなった。
「そうと決まれば善は急げでござる。早速お祝いしに行くでござるよ。」
はいはーいとばかりに右手を上げてシロが提案した。
ぱたぱたぱたと激しく尻尾が振られて、今にも駆け出していきそうだ。
「そうねシロちゃん。久しぶりに夕ご飯をつくりに行ちゃおうか。」
右の袖をまくり、むん、と力こぶをつくる仕草をするおキヌ。
当然のことながら、力こぶはほとんど盛りあがってはいない。
「ちょっとふんぱつして豪華にしちゃおう。」
「賛成でござる。」
恐らく、おキヌがいう豪華とシロが想像している豪華はちょっとばかし内容が違うであろう。
「美神さんも行きますよね?」
「へ? わ、わたし?」
デスクワークに勤しむふりをしつつ、しかしその実しっかりと耳をダンボにしていた美神は、心の準備が整う前に話を振られて少しばかり動揺する。
「な、なんでわたしがあいつのお祝いなんか…。それにこの書類仕事結構急ぎなのよ。そういうことだからわたしはパスね。」
素っ気なくそういって仕事を再開する美神。
「そ、そうなんですか?」
そんな美神に、おキヌとシロは顔を見合わせてジト汗をかいた。
自分が、白紙のレポート用紙を見ながら資料になにやら書き込むという謎な行動をしていることに、美神自身は気がついていないようだ。
おキヌは突っ込むべきかどうかちょっと迷ったあとで、あえて触れないでおこうという結論に達した。
「えっと…それじゃあわたしたちちょっと出かけてきます。」
「はい、いってらっしゃい。あんまし遅くならないようにね。」
デスクから顔を上げないままで美神がパタパタと手を振る。
あくまでも興味がないという姿勢を貫くつもりらしい。
「その…もし仕事がはやく終わったときは、よかったら美神さんも来てくださいね。」
「そ、そう? まあおキヌちゃんがそこまでいうのなら考えておくわ。」
二回誘われたから仕方なく、という風に美神が態度を翻す。
心なしか、顔が上気しているように見えるのは気のせいだろうか。
「ところでタマモはどうするでござるか?」
丸まっているタマモの顔をシロが覗き込んでいた。
(へ? わ、わたし?)
三人の会話を子守唄にしてまどろみかけていたタマモは、不意に自分に降ってきた台詞にはたと覚醒した。
目の前にはシロの顔のどアップがあり、その肩越しにはおキヌの顔も見える。
デスクに座ったままで、我関せず、という態度をとっている美神も実のところは自分のほうを気にしているようだ。
ぽん!
タマモは子狐形態で大きく伸びをしてから、人間形態に変化した。
「わたしはいいわ。美神さんも残るみたいだし。」
あくびをかみ殺しながらタマモがチラリと美神に視線をおくる。
「それに横島の部屋って狭いでしょ。三人も押しかけたら迷惑なんじゃない。」
そういってもう一度伸びをする。
おキヌ謹製の豪華な夕食とやらに心惹かれないわけではない。
しかし自分は、横島の部屋を『合法的に』訪問する為におキヌが巡らせたささやかな策謀を邪魔するような野暮ではない。
本来なら自分どころか、シロや美神も誘わずにひとりで行きたいところなのだろうが、そうは出来ないところがおキヌのおキヌたる所以なのであろう。
「ごちそう余ったらお土産よろしく。まあ、シロと横島がいるんじゃあ期待は出来ないだろうけど。」
ぽん!
ふたたび子狐に戻り、またくるりと丸くなるタマモ。
いってらっしゃい、わたしはお留守番しているわ。という意思表示だ。
「えっと、それじゃあ行こっかシロちゃん。」
残念そうな、それでいてどこかほっとしたような微妙な表情を見せるおキヌ。
意識してのことではあるまいが、今の一瞬でいろいろな思考が浮かんでは消えたのだろう。
「じゃあ美神さん、行ってきます。」
「行ってくるでござる!」
買い物支度をととのえると二人は出て行った。
「・・・・・・・・・。」
二人を見送った美神は、脳をフル回転させていた。
予定が狂った。
おキヌとシロが件の話をはじめたとき、すでに美神の行動計画は決定していた。
話がはじまった時点で、ふたりが横島のところに出かけていくということはもはや確定事項。
そしておキヌの性格からして自分を誘うであろうことも間違いない。
それを一度断ることで、自分がそれほど乗り気ではないことをみんなにアピール。
しかし、一度断ったくらいでおキヌが誘うのをやめたりはしないことはおりこみ済み。
二度目の誘いに、後から行くかも、というニュアンスの返事をしておけばいろいろと応用が利く。
例えば入れ違いを装い、二人が帰宅してからひょっこり横島のところに現れる、とかね。
(なんだ、もう二人とも帰っちゃってたの? ちょっと遅かったみたいね。)
(まあまあ美神さん。せっかく来たんだからゆっくりしていってくださいよ。)
(なにいってるの。あんたの部屋にあんたと二人っきりなんて冗談じゃないわ。)
(ああ、待って美神さん。せめてお茶でも・・・)
帰ろうとする美神の腕をぐいとつかむ横島。
(あっ!)
その予想外と書いて想定通りと読む横島の行動に、”故意に”バランスを崩した美神が横島に向かって倒れこむ。
(おっと。)
転びかける美神を力強く抱きとめる横島。
(すいません、ダイジョウぶっスか?)
おそるおそる、といった様子で美神の顔を見つめる横島。
(だ、大丈夫じゃないわよ。少し足をひねっちゃったみたいじゃない! しょうがないからあんたの部屋で休ませてもらうわよ。)
そうやって『渋々』横島の部屋に上がりこんでそのあとは……ってきゃーきゃー何考えてんのよわたしはぁ!
などというありえそうもない展開を目論んでいた美神は、タマモが他意なく言い放ったのであろうさっきの台詞のため、計画の修正を強いられていた。
つまりタマモがここに残ったのは自分が残ったからであって、美神が横島のところに行くといえば一緒に行くよ、という意味に取れなくはないか。
それはまだよいとしても、手狭とわかっているところに自分がわざわざ出向くなど、普段の自分の言動から考えると、タマモの目には不自然に映るのではあるまいか。
転じて、自分が元々横島のところに行きたがったいた、などという”誤解”をされてしまってはかなわないではないか。
はたから見れば なにをいまさら? ということになるのだが……。
しかし本人にしてみれば、自分が横島を好きだということは美神本人すら気がついていないことになっているトップシークレット。
意地っ張りもここに極まれり。というところであろうか。
「・・・・・・・・・。」
白紙を見ながら資料になにやら書き込みまくる。
美神の謎な行動はまだ終わらない。
(ふふ。ちょっと意地悪しちゃったかな。)
タマモは内心ほくそ笑んだ。
美神が他意がない、と判断した先のタマモの台詞は、実は充分にふた心ありの台詞であった。
前述の通り、美神が横島のところに行きたがっているのは傍目には明らか。
しかし、ああいう言い方をしておけば意地っ張りな美神のこと。
横島の部屋へ出向くことに、美神自身が納得できうる新たな理由が見つかるまで悶々と悩んでみせることだろう。
やさしいおキヌや悪友のシロとは違い、事あるごとに高圧的な態度をとり、大妖の転生体である自分にたびたび恐怖を与える美神。
さっきの台詞はちょっとした意趣返し、といった所であった。
とはいえ、最終的には何らかの理由をでっちあげて結局はいそいそと出かけて行くであろうことも間違いないのではあるが。
(…それにしても…)
タマモはふと考えた。
(あのばかの魅力って一体何なんだろう?)
一見すると馬鹿。
ちょっと付き合ってみると大馬鹿。
身近にいてよくよくみれば救いようのない○○馬鹿。
今までタマモは、そんなふうにしか横島のことを思っていなかった。
だが、周りにいる乙女たちがあそこまで惹かれているという事実があるのだから、もしかしたら自分が見落としている何かがあるのかもしれない。
苦悩する美神を観察しつつ、タマモはそのことを考察してみることにした。
(そうね。さし当たって目につくあいつのイイトコっていえば…基本的にやさしいってトコかしら?)
思えば自分が今生きているのは、あのとき横島が見逃してくれたからである。
妖怪とわかっていながら、幼い狐の外見を持っていた自分を退治することが出来ずに匿った横島。
そういう優しいところに彼女たちは惹かれているのだろうか?
(でもあいつの優しさって、幼いものとか…あとは一定以上の容姿を持った女性限定で発動される節があるのよね。それってむしろ…)
恋人、というポジションに収まろうとしている女性から見ればむしろマイナスポイントではあるまいか。
一説によると、よく女性が口にする『優しい人が好き』というのは、額面通りの意味ではないという。
すなわちここでいう優しいひととは、『”自分に対してのみ特別”優しいひと』という意味なのだそうで”万人に対して優しい”というのは、やきもちの対象にしかなりえないのだそうだ。
(そういう観点で考えると…)
主に美しい女性に向けて発揮されることの多い横島の優しさは、恋人志望の女性にとっては、さらに”始末の悪い優しさ”なのではないだろうか。
(う〜ん。ちょっと違うわね…)
タマモはしゅたっとソファーからとびおりた。
(…そうだ。みんなが同じ理由で横島を好きだとは限らないわ。ひとりひとり分けて考えてみたらどうだろう。)
いまだぶつぶつと悩み続けている美神の視界に入らないようにしてタマモはちょこんと座り込んだ。
(例えば美神さん。美神さんが横島を好きになりそうな理由っていえば…)
お金好きな美神のこと。
その線が絡んでいるのではないだろうか。
(考えてみたら横島って金銭的な面でもかなり美神さんに貢献しているわよね。)
元手要らずの霊波刀使いにして万能アイテム文珠を造りだすオールマイティーな能力。
さらにはいくら酷使しても、ちょっとした色香をかがせればたちどころに回復する無限の体力。
それでいて、時給はきつねうどん一杯よりもお手軽価格と。
美神にとってはこたえられない優良物件なのではあるまいか。
(……どうもしっくり来ないわね。)
自ら立てた推論をあっさりと却下するタマモ。
よく考えるとそんなものは、恋愛感情に発展するような類のものではないだろう。
(これはなかなか難しい命題かもしれないわね。)
ふと顔を上げると、美神はいまだ難しい顔をして唸っていた。
(……美神さん観察ももう飽きちゃった…)
元々気の長いほうではないタマモ。
心中はわからないが、外見上は目立った変化の見られない美神に早くも飽きてしまった。
(ちょっと表をぶらぶらしよう…)
タマモはぴょこんと立ち上がるとトテトテと扉に向かった。
そして扉の前で立ち止まるとじっと天井を見上げる。
ききぃ〜
すると自動ドアよろしく、扉が勝手に開かれる。
タマモやシロが動物形態のときに発動する人工幽霊の気配りだ。
そのままトトトと階段をくだり、玄関までやってくるタマモ。
(おっと、このカッコのままじゃまずいわよね。)
ぽむっ! と人型に戻り、屋外に出るタマモ。
少し肌寒い。
(そういえばわたしって横島に結構ひどいことばっかりしているわよね…)
言ってみれば命の恩人である横島。
その彼に、礼をいうどころか不意打ちで幻術をかまし、寒空の下に裸で放置したりした。
あの時は人間不信状態であったとはいえ我ながら恩知らずなことをしたものである。
さらに最近では、ちょっとした口げんかがエスカレートしてうっかり狐火でこんがり焼く。
暇つぶしに幻術で化かして大恥をかかせる。
あるいは、美神の不興をかうように仕向け、シバキ倒されるのを眺めて大笑いする。
などなど。
はっきりいってあの横島でなければ、肉体的にも精神的にも死んでしまってもおかしくないような仕打ちを日常的にしてちゃっている。
(嫌われてるかもね、もしかしたら。)
今までは考えたこともなかった。
どんな無茶を仕掛けても笑ってすませる横島。
しかし心の中ではどう思っているのだろう。
美神令子除霊事務所において横島の果たす役割は大きい。
仕事時においてはもちろんだが、平穏な日常にあっても彼の存在は不可欠といっていいだろう。
事務所メンバー達の接着剤であり緩衝材であり精神安定剤でもある横島。
その彼に疎んじられるということは居候の身であるタマモにとって、いささか事務所にいづらくなるということを意味する。
タマモは急に不安になった。
(あれ?)
怪訝な顔をするタマモ。
何故不安になるのだろう?
自分が美神除霊事務所に居候しているのは半ば強制されてのこと。
居場所がなくなって追い出されるのはむしろ望むところではなかったか。
(そのはず…だったけど…)
タマモは唐突に気がついてしまった。
今やあの場所は、自分にとって居心地のよい大切な場所になっているということに。
失ってしまうなどもはや恐怖でしかない。
タマモはさらに不安になった。
(あ…)
不意にタマモは立ち止まった。
そしてきょろきょろと辺りを見回す。
(ここって、確か…)
どこをどう歩いてきたのだろう。
タマモは、自分がとても見覚えのある場所に立っていることに気がついた。
目の前には、今時ではかえってレアなのではないかというほどの安普請の建物。
その横には舗装のいきとどいていない野ざらしの駐車場。
そこは紛れもなく横島の住まいであるアパートの前であった。
あてもなく歩いていたつもりだった。
でももしかしたら、無意識のうちにこの場所を目指していたのかもしれない。
何気に空を見上げれば、日は大きく西に傾いてしまっていた。
(そんなに長いことうろうろしつもりはなかったんだけど…)
事務所を出てから十分と経っていないつもりだったが、実はずいぶんと時間が経過してしまっていたらしい。
そろそろ夕食にはちょうどよい時間。
くぅ、と、ちいさくお腹が鳴った。
『こらシロ、そいつはオレの分だ。』
『ああ、ご無体な!』
『まだまだありますから。取り合わなくても大丈夫ですよ。』
安普請とタマモの聴力とがあいまって、アパートの一室からよく知る声が耳に届く。
それにひかれるようにしてタマモは声が聞こえてくるドアの前に立った。
そして、そっとドアノブに手を伸ばしてから、はっと固まるタマモ。
いつもなら遠慮もしないであがりこみ食事をたかるところだが、今のタマモは常になくナイーブ。
普段であれば思いもしないような不安が、むくむくと湧きあがってきていた。
このドアを開いたとき、みんなの反応が迷惑そうだったらどうしよう。
お前の食べる分など用意していない、などといわれたらどうしよう。
狭くなるから入ってくるな、などといわれたらどうしよう。
ざっくり傷つくし、場合によっては立ち直れないかもしれない。
(…………)
しばし固まっていたタマモは、ゆっくりとドアノブから手を引いた。
そうしてからさびしそうにうつむいて一歩後ずさる。
(帰ろう。)
きびすを返すタマモ。
今現在の心理状態でそのドアを開く勇気を、タマモは持ち合わせてはいなかった。
しかしそこはそれ。
コメディーの神は舞い降りる。
どがしゃあ!
「きゃう?!」
盛大な音が鳴り響き、つんのめるタマモ。
「な、なに?」
足元を見る。
そこには、来たときには気がつかなかったブリキバケツがひっそりと鎮座していた。
「・・・・・・・・・。」
そろそろと振り返るタマモ。
「誰でござる?」
がちゃり
横島の部屋のドアが開き、ぴょこりとシロが顔を出す。
「「あ。」」
絡み合う視線。
「なんだ、タマモでござったか。」
シロがドアを大きく開き、とことこと部屋の中に戻っていった。
「誰かいたのか?」
「タマモが来たでござる。」
横島の声にシロがこたえるのが聞こえる。
そのまま帰るというわけには行かなくなった。
「ふぅ…」
小さく息を吐いてからおずおずとドアをくぐるタマモ。
部屋のなかから三対の視線がタマモに向けられていた。
「えと……その……」
みなの注目に、居心地が悪そうに視線を泳がせる。
「……来ちゃダメ…………だった?」
そして、世にも不安げにタマモは目を伏せた。
「ん? なにいってんだ。突っ立ってないで早く入れよ。」
コタツに納まったままで横島が手招きする。
迷惑そうな様子など微塵もない。
いつも通りのとぼけた顔がタマモに向かって微笑んでいる。
ただそれだけのことでタマモの心がほんわかした。
「ちょうどお稲荷さんが出来上がったところなのよ。」
流し台から振り返ったおキヌは、稲荷寿司の積み重なった大皿を掲げて見せた。
タマモがやってくることは想定済みだったのかもしれない。
「おおかた匂いにでもつられてきたのでござろう。」
憎まれ口的な台詞とは裏腹に、タマモの来訪を喜んでいるらしいシロが嬉しそうに八重歯を見せる。
タマモの心配は杞憂であった。
「ま、まあね。えと…卒業おめでとう、横島。」
はにかむように小さく、けれどもはっきりと、タマモはそういって微笑んだ。
(美神さんのこと笑えないわね。)
もう気がついていた。
自分が普段横島にしている行動は、行使する力こそ段違いだが、好きなコの気をひきたくてわざと意地悪する小学生と同じレベルの愛情表現だったのかもしれないと。
(このわたしが? こいつを、ねぇ……)
苦笑するタマモ。
かつて名もなき哲学者は言った。
『人が人を好きになるのに理由などない 好きになったから好きになったのだ』と。
(真理かもしれないわね。)
自分はこいつを好きになるかもしれない。
タマモの胸の奥に、そんな漠然とした気持ちが芽生えていた。
おしまい
蛇足
横島のアパートの前に止まっていた赤いスポーツカーの運転席で亜麻色の髪の美女がサングラスを外した。
タマモより一足はやく到着したものの、中に入るタイミングをつかめずにいた美神である。
「タマモ…まさか、あなたもなの…」
美神は新たなるライバルの誕生を予感してうめいた。
本命不在の横島争奪戦。
その混迷を極める乙女の戦いに、妖狐タマモが緊急参戦!
・・・するのかどうかはまだ定かではない。
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