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ゆーやけおーかみ



もしもしそこ行く、おーかみさん。
ひとりぼっちの、おーかみさん。
あなたのお名前なんてーの?


「拙者は犬塚シロでござるよ」


なるほど、おやシロ


「タタリじゃござらん」










お日様ぽかぽか、夏の空。
日陰ですやすや、のら猫さん。
辺りの風景眺めつつ、おーかみさんは一人で散歩。

おーかみさんの先生は、ただいま夏の補習中。
楽しい楽しい夏休み、どーにかこーにか得るために。



そんな理由で、おーかみさん。
一人で歩くの、おーかみさん。
それでも散歩は楽しいね。

青くて深くて高い空。
広くておっきな白い雲。
この道、その道、どんな道?
歩くたんびに世界が変わる。

歩いていると思い出す。
おーかみさんは思い出す。
何時か歩いた山の中。
一緒に歩いた過去の時。



おーかみさんは散歩好き。
歩くと見える、新しいもの。
歩いて行ける、何処かの場所。

暑くて熱くて重い夏。
温くて涼しい青い風。
あの道、その道、どんな道?
歩いていけば世界に届く。

歩いていたから思い出す。
一人ぼっちで思い出す。
優しい優しい父上の顔。



おーかみさんは散歩好き。
たとえ視界が変わっても。
たとえ歩幅が変わっても。

おーかみさんは大きくなって、世界の形は変わってた。
空は近くて地面は遠くて、歩くと何処でも行ける気がした。
散歩のたびに楽しくて、散歩のたびに嬉しくて。

だから知るのが遅れてた。
世界は小さくなったって。



立ち止まったよ、おーかみさん。
背にしてもたれる電信柱。
ぼんやり視線を上げてみる。
何時の間にやら朱の空。
夕焼け小焼けで日は暮れた。
近くに神父はいないけど、烏と一緒に帰らなきゃ。

お手手を繋ぐ相手が居ない。
ちょっと寂しい、おーかみさん。
スンと小さく鼻鳴らし、帰りの一歩を踏み出して。

そこで見つけた、おーかみさん。
ただいま丁度学校帰り、驚き顔の先生さん。
目をまん丸くして、顔見合わせて。

ツツツ、と近付く、おーかみさん。
おーかみさんの先生は、散歩にゃいかんと釘を刺し、ウンと頷くおーかみさん。



そうして先生歩き出す。
おーかみさんと歩き出す。
新たに散歩はいかないけれど、一緒に歩けば散歩と同じ。

落ちるお日様、世界を照らし。
真っ赤に染まる町の中。
お手手繋いで一緒にかえろ、おーかみさんと帰りましょ。


道に伸びてる、のっぽさん。
手に手を取った二つの影。
夜の帳が落ちる中、烏の鳴き声響いてる。

仰いだそこには、染み入るような夕焼け空。
胸に去来する想いは違う形かもしれないけれど
繋いだ手が伝える暖かさは、きっとお互い感じてるもの。

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