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雨宿り

 雨が降っていた。
 霙混じりの冷たい雨だった。俺は濡れるのを避け、マンションの軒を借りた。

「まいったなぁ……酒抜けちまったよ。」

 野郎の集いと称し、雪之丞、ピート、タイガー・・・まぁいつもの野郎ばかりで呑みに出たのはいいが用事があるとかなんとかいいやがって、一人減り二人減り・・・ピートと二人で呑むのは危険なので解散したんだが、まさか雨が降ってきやがるとはまったくついてない。
 しかし雨宿りさせてもらっていてなんだが、なんじゃこのマンションは?
 ふざけるのもたいがいにせぇ!と思わず文珠を投げつけてやりたくなるくらいに、高そうなマンションだ。いったいどうやったら、こんな所に住めるのであろうか。人間って平等じゃねぇよな・・・

 とりあえずサイフの中を覗いてみる。
 246円。あかん・・・1メーターもタクシー乗れん。
 心も財布も身体も風邪引きそうだ。



 そう考えたら、クシャミがでた。
 まずい・・・本格的に風邪引きそうだ。
 せめて身体くらい拭かないといかんのだが、この現状ではどうしようもねぇな。









「なにやってんのよ、こんなとこで」

 聞き覚えのある声に、俺は声の方を振り向いた。

「びがびざん”」

「誰よそれ……」

 どこかからの帰りらしく、いつもよりも少し着飾っていた。
 デートか?デートなのか???誰じゃ?誰とだーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!

「恥かしいわね、なに泣きそうな顔してんのよ」

「dMjv:@人v:slvsdfkljmv@ぴdfj:@lkj:sflkj:;slfdk:s;k」

「日本語しゃべりなさい、何言ってんのか分かんないわよ」

 ワケ分からん嫉妬と寒さのために、俺の口からは謎の言語が飛び出していた。
 言葉は判らないが、気持ちは察してくれ……

「まぁその様子じゃ、私のマンションと分かって来たワケじゃないわね……」

 呆れたようにそう呟くと、俺はマンションを見渡した。
 ここか!ここだったのか!!!!!
 最近また引っ越したのは分かっていたのだが、まだ発見できずにいたのだが
 これぞ不幸中の幸い!!!!!
 俺ってツイてるかも!!!!!!!!!!!!!!!

「はぁ〜〜〜〜、また引越ししなくちゃいけないわね」

「どういう意味っすか!!!!!!!!!!!」

「あんたの顔見てれば、何考えてるかくらいすぐ分かるわよ」

 う!やっぱりまた顔にでていたのか……無念!!!!
 俺は心の中で血の涙を流した。

 へーーーーーーーーーーーーーーーーっくしょん!!!!

 あかん、まじで風邪引きそうになってきた。
 ここは無理を承知で、タクシー代借りるしかないな。
 俺は度胸を決め、美神さんに頼む事にした。


























「雨降ってるわね」

「降ってますね」

「たまにはアンタも、魔法書くらい読んだらどう?」

「文字だけの本読んだら、5分で寝る自信ならあります」

 呆れるたような溜息が、返事の代りに聞こえた。

「ところで、仕事どうなってるんスか?」

 俺の視線はテレビを見続けたままである。

「「この雨の中、仕事するなんて嫌よ。アンタがやるなら別だけど」」

 予想通りのセリフだ。

「ねぇ」

「なんスか」

「殴っていい?」

「嫌っす」

 テレビの音を掻き消すように、雨足が強くなってきた。








「よく降るわね」

「そうっスね。いいかげんシロも退屈しきってるでしょうね」

 テレビから目を逸らし、窓の方を眺める。

「……ところであんた、いつ出て行くの?」

 ……………

「雨宿りさせたのはいいけど、ちょっと長居しすぎなんじゃない?」

 ……………

「ちょっと聞いてんの?」

「聞いてますよ」

「なんで返事しないのよ」

「いや、出て行けっていう人の態度じゃないなぁって」

 視線を自分の太腿に向けると、魔法書に隠れきれない亜麻色の髪が見える。
 少しだけ魔法書をズラしてみると、案の定不機嫌な顔をしつつ赤い顔をした美神さんがいた。

「あんた随分生意気になったわね、居候のクセに」

「まぁ、一ヶ月も一緒に暮らしてればそれなりに」

 少し意地悪っぽく笑ってみせると、魔法書で顔を隠してしまった。

「失敗したなぁ〜。なんでタクシー代ケチって、家に上げちゃったんだろ」

「なんでだろうねぇ……って、俺に分かるワケないじゃないスか」

「そりゃそうだわ」

 納得したような声を出し、魔法書を顔からどけて床にひょいっと投げた。
 あの本、かなり高かったような気が……

「ねぇ」

「なんスか?」

「足、痺れてない?」

 さすがと言ってはなんだが、なかなか鋭い。

「そろそろヤバいかもしれねーっス」

「そ」

 短い言葉だけを返すと、仰向けからうつ伏せに体勢を変えた。

「ぐ、ぐぉ……」

「あれ、どうしちゃったのかな?」

「いや、ちょ、ちょっと、動かないで」

「なんで?」

「あ、足」

「足がどうかした?」

 そういいつつ、頭をグリグリ動かすな!
 上半身はなにかを弄るように動きまくるが、下半身に力を入れられない。
 もがき苦しみ上半身だけのたうち回っていると、美神さんは急に立ち上がると勝ち誇ったような目で俺を見下した。

「フフフフ、私に逆らった罰よ。甘んじて受けるがいいわ」

 反撃を試みようとしたが、腕の届く範囲外にすでに逃げている。

「シロに妬きもちやかんでくださいよ、相手は子供じゃないスか」

 つい口から出た。
 あ……笑ってる。けど血管浮かんでる。
 足を星飛○馬バリに振り上げて……部屋の中じゃスカートはいてないんだよな、チキショー!
 って、踵落しか!



 動かせない太腿にモロに決まりました。
 痺れていようがなかろうが関係ありません。痛いものは痛いんです。骨に響くんです。
 転げまわるのたうち回る。前転後転バック転……いつもより余計に回っております。
 ようやく動きを止め、左足を抱えているとキッチンに向かう美神さんの声が聞こえた。






「それだけ足痺れているようじゃ今日は帰れないわね。しょうがないから泊まっていきなさい」



 雨はいつの間にか上がっていた。









             〜FIN〜
プラスでは初投稿になります。
かなり短く、そして実験的要素が多い上に超久々の甘々作品ですが宜しくお願い致します。
灰街の方は・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ気にしないでください(笑)

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