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小笠原エミを攻略せよ! ブラドー島編3 「奇襲」(後編)

これは、諸般の事情で対象こそ変えたものの、それでもなお、無理めの女をモノにせんと戦う少年の、哀と煩悩の物語である。



これまでのあらすじ
原作「上を向いて歩こう」のエピソードで最後までエミと行動を共にしてしまい、美神達の許へ帰るに帰れなくなった横島。
エミの呪いと合体した自分の煩悩を吸収した事もあり、霊能力に目覚めた為そのままエミの助手兼弟子として働く事となる。
それなりに師弟の絆を深めていく二人だったが、それは逆に今回チームを組む事となった美神事務所の二人との間に微妙な雰囲気を生む。
そんな中単独行動を取った美神が不覚をとり、ブラドーの餌食とされてしまった。




PM8:44(現地時間) ブラドー島内の民家

びしゅっ、ざくっ。
GSアシスタント・横島忠夫のさわやかな目覚めは、鎌が顔の横1pの床に突き刺さる音で始まる。

「たまには他の起こし方しろやっ、エンゲージ!」
「……誰がエンゲージですって?」

つい条件反射でいつもの愚痴を口にした横島だったが、怒気を抑えた女性の声に凍りつく。

(またか!またなのか! 俺のバカバカ、同じ過ちを1日に何度もするなんて……ここはとりあえず!)

「すんませんすんません。 寝起きだったんですー。 不可抗力だったんですー。
 朝起こすのはエンゲージなもんだから、つい口癖になってたんで仕方なかったんやー。
 だから、美神さんをあのちんくしゃのボケ神と間違えたわけでは……」
「……エンゲージの次はよりにもよって令子と間違えるワケ?
 おたくには師匠に対する敬意とか礼儀とかそこから叩き込まなきゃならないようね」

土下座して謝り倒してその場を切り抜けようとした横島の行動は、いきなり裏目に出ていた。
夕方と違い、今回手荒な起こし方をしたのは師匠兼雇用主の小笠原エミだったのだ。
……ついでに言うと、気を失う羽目になったのはエミにセクハラしたせいで折檻されたから。

恋仇?のピートの出現に焦ってか、ドンドン墓穴を掘っていく男・横島忠夫16歳。

再びR指定なスプラッタシーンが繰り広げられるかと思われたが、そこに女神からの救いの手が差し伸べられた。

「エミちゃ〜ん、令子ちゃんはどこなの〜?」

女神は女神でも災厄の女神。
冥子が今にもぷっつんしそうな様子で涙ぐんでいる。

「ああ、ちょっと待ってなさい。 今こいつに探しに行かせるから!」

すがりつかんばかりの冥子の様子に、本来の用件を思い出したエミが慌ててなだめる。
そしてギロリと横島を睨みつけ、アイコンタクトで命令する。

(いいこと? 今回のオタクの仕事は冥子がぷっつんしないようになだめて令子を捜しに行く事よ)
(捜すってどこへですか!?)
(どこだっていいわよ。 とにかく冥子がぷっつんする前にここから連れ出すワケ)
(いいっ!? そんな無茶な。 俺、死にたくないっすよ!)
(だったら気合い入れて捜すのね。 オタクには選択の権利はないわ。
 冥子と一緒に令子を捜すか、それとも今ここでアタシに止めを刺されるか、二つに一つよ)
(そんな〜勘弁してくださいよ〜)
(今日は朝からあんたのお陰で恥をかかされっぱなしだからね。 その分のペナルティ込みなワケ。
 うまく冥子をあやせたら今日の色んな失敗も大目に見てあげるわ)
(……わっかりやしたー)
(師匠に対する返事がそれなワケ?)
(わかりました! 横島忠夫、冥子ちゃんと一緒に美神さんを捜しに出発します)
(よろしい。 あと、言うまでもないけど冥子へのセクハラは厳禁よ。
 令子がいなくて情緒不安定になっているから本気で命に関わるし。
 ……たとえ冥子に殺されなくても私が止めを刺すから)
(ヒ、ヒィィッ)
(情けない声を出さない! ビシッとしな!)
(ハ、ハイ!)

こうして師弟間の話はまとまり、横島は冥子の手助けをすることとなった。

アイコンタクトだけで瞬時に意志疎通とその後の交渉(命令・哀願・脅迫・恭順)をこなしてしまう二人。
ほとんどテレパスだが、それは師弟の絆の証の確認でもあった。

そして三十分後、どうにかこうにかエミと横島の二人がかりで冥子をなだめ、ぷっつんさせることなく民家を出発した。


PM9:27(現地時間) ブラドー島

「令子ちゃ〜ん、どこにいるの〜」
「め、冥子さん、落ち着いて、落ち着いてください。 もうすぐ見つかりますから、ね」
「おキヌちゃ〜ん、本当ね。 ホントに令子ちゃんはこっちにいるのね〜」
「え、ええ」

ぷっつん寸前の冥子をおキヌが必死であやしている。
横島のお目付役ならびに冥子の子守りとしてついてきた彼女だったが、風で木がそよいだら泣きそうになり、フクロウの鳴き声を聞いただけで式神を半ば暴走させかかる冥子には手を焼いている。
もちろん冥子もGS、普段ならば大して気にもしないだろうが、令子不在で精神的に不安定になっていた。

ちなみに横島はというと、小屋から離れてしばらくして冥子にちょっかいをだしてしまい、バサラの口の中に直行している。
エミに釘を差され、おキヌにジト目で見られているとはいえ、セクハラできる時に理性で煩悩を抑えられる横島ではなかったのだ。
横島忠夫……悟りとか解脱とかの境地とは縁遠い業深き煩悩男であった。


そうやって三人+12匹が騒々しく夜道を歩いていると、突然令子が夜の闇からぬっと現れた。

いつもの赤いボディコンの上に、いつのまにか黒いマントで身体を覆っている。
目もどことなく赤い……血の色をしていた。

「……美神さん?」

おキヌはなんだか普段と違う雰囲気に気後れがしてしまい戸惑いを隠せない。

「令子ちゃん!」

だが、探し求めていた令子ちゃんにようやく会えた冥子はまったく気にせず駆け寄っていく。
バサラも邪魔になった横島をおキヌの隣に吐き出し、ついでに踏みつけながら主の後を追う。

美神は彼らのそんな様子を気にせずに、縋り付いてくる冥子を嫌な顔一つせずに抱き寄せた。
そして冥子の上着のボタンをはずしてはだけさせ、露出した首筋に唇を寄せた。

「令子ちゃん?」

さすがにキョトンとする冥子にかまわず、牙を立てちうーっと吸血行為に及ぶ美神。

「あっ……!? あ……あ……」

妖しいエロス漂う、えも言われぬ美しさを醸し出す二人。
そんな雰囲気から阻害された横島とおキヌの二人は魅入られたようにしばし呆然としていたが、ふっと我に返った。

「美神さん……美神さんが……」
「よ、横島さん、あれはやっぱり……」

愕然となり後ずさって、妖しい交歓をしている二人から距離をとりながら横島とおキヌは互いの認識を確かめる。

「み、美神さんはやっぱりレズだったんですね!」
「やっぱり、そーなんですかー。 アレがテレビや週刊誌で話題のれずびあんなんですねぇ」
「ちょっと待たんかー!」

思いっきりずれた反応を見せる二人に吸血行為を中断して異議を申し立てる美神。
でも、その腕の中には冥子がしなだれかかったままだ。

「エート、美神サン。 ダイジョウーブですヨ。 ボクは女性ノ同性愛ニハ理解ガアリマスカラ。
 キレイナおネェチャン同士ナラそれはそれでグッドですヨ!」
「わ、私はレズじゃないわよ。 これには色々と事情があって……」
「イヤ隠サナクテイインデスヨ美神サン。 アノ千穂ッテ子モソウダッタンデスヨネ?」
「な……なんであんたが千穂の事知ってんのよ!?」

「それは時空消滅内服液で逆行した時に見ていたからです」とわざわざ説明はせず、生暖かい視線を向け続ける横島。
言っている事とは裏腹になぜかカタカナ混じり口調になり、後ずさりをしはじめている。
さらにその手にはしっかりとおキヌの手を握りしめ、脱出の機会を窺おうとしていた。

「同性愛の人を差別しちゃ駄目なんですよ、横島さん。 美神さんも傷つくじゃないですか。
 愛があれば、性別だって乗り越えられます!」
「……おキヌちゃんまで……」

おキヌも完全に「美神=れずびあん」という図式を受け入れていた。
その事実にはさすがにショックを受け、「わ、私の信用って……」と思わずののじを地面に書き始める美神。

「令子ちゃ〜ん」

哀愁を帯びた美神の背中に、艶っぽい冥子がしなだれかかってくる。
どーやら吸血気化したショックで、冥子は本当にそういう人になったらしい。

「ちょ、ちょっと待ちなさい冥子!」
「うふふ〜令子ちゃん、もっと〜」

美神はあわてて引き剥がそうとするが、端から見ればじゃれ合っているようにしか見えない。
少なくとも横島とおキヌにはそう見えた。

「あ〜、おキヌちゃん。 美神さんも見つかった事だし、お邪魔なようだから二人で先に返ろうか?」
「そ、そうですね……」

「だから、誤解よ、二人とも。 冥子はともかく私は違うのよ〜」

半泣きになりながら呼び止めようとする美神に生暖かい視線を送り、お手手つないでその場を離れていくおキヌと横島。

「あっ、こら待ちなさい二人とも! 誤解よ、誤解なのよ〜」

なんとか冥子をふりほどいた美神は二人を追いかけはじめるが、二人は振り返らない。
そればかりか脱兎のごとく駆けて出した。


ブラドー島の戦いはついに二人目の犠牲者を出してしまった。
だが、横島は未だその事に気づかず、勘違いの真っ最中。
果たして真実に気付く事ができるのか!?
そして失地回復を果たして次回こそエミの心にアピールできるのか!?


「待ちなさい、二人とも!」
「美神さん、受け入れた冥子ちゃんはともかく、
 その気のないおキヌちゃんを無理矢理手籠めにしたら本当に悪人ですよ?」
「違うって言ってるのが聞こえないの、馬鹿横島!」
「美神さん……ごめんなさい……私、同性愛に偏見はないけど、恋をするなら男性の方が」
「そうじゃない、そうじゃないのよおキヌちゃん!」
「大丈夫だ、おキヌちゃん! 君の貞操は俺が必ず美神さんの魔手から守ってみせる!!」
「え……あ、ありがとうございます横島さん」
「だから誤解なのよ〜、信じておキヌちゃん(涙)」


……いまだにボケた勘違いをしながら、漫才のような逃避行をしてる辺り望み薄か?


次回に続く
大変お久しぶりです。そして、はじめまして。 GTY込みでは9ヶ月ぶり、そしてGTY+でははじめましての輝剣です。
前回の後書きで「次回はそうお待たせしないはず」と言っていましたがこんなに遅くなってしまいました。
待っていていただけた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
また、遅くなりましたがサイト開設おめでとうございます。

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