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乙女の秘密




ガサガサ



紙を擦り合わせる音が、部屋の中に響き渡る。



「うふふふふ…」

「おいしそうですね…」

「おいしそうでござるな…」

「あぶらげもいいけど、これもいいわね…」



ここは美神令子除霊事務所の所長室。

その室内では、この事務所に住まう女性4人が顔をつき合わせて妖しげな笑いを上げていた。






乙女の秘密






はらはらと、銀杏の葉が散る街道を横島は歩いていた。

「もう秋なんだなぁ
 暑くなくて過ごしやすいのは良いけど…



 薄着じゃなくなって、ドキドキ出来んやないかぁぁぁぁ!!!」



人目を気にせずに叫び声を上げる横島。



「ママー、あのお兄ちゃん…」

「いいのよ、あの年頃の子は仕方がないの…あなたもいつかはわかるわ…」



横島の背後で男の子とその母親が何やら言っているが、横島には聞こえていない様子。



ぶるるっ



「う〜…さむっ…さっさと事務所に行って暖かい物でも貰おう…」

秋風に身を震わせて、横島は事務所へと急ぎ足で向かって行った。






「ち〜っす」

『こんにちは、横島さん』

「お〜ただいま…ってのも変だな、自宅じゃないんだし」

人工幽霊一号に挨拶をして苦笑いする横島。

「美神さんたちは?所長室?」

『はい、ですが…』

横島の質問に何処か言いよどむ人工幽霊一号。

「?ですが…何?」

『…オーナーに、「絶対に見るな」と監視を解除されてまして…』

「へ?何で?」

『私にもわからないんです…おキヌさんやシロさん、それにタマモさんも一緒なんですが…』

「…何してんだろ…ちょっと覗いて見るかな…」

4人の隠し事に覗き屋根性がムラッと来たのであろう、横島は足音を消して所長室へ向かって行く。

『…気を付けて下さい』

「……死んだら美神さんの下着と一緒に燃やしてくれ」

心配そうに言う人工幽霊一号に向けて、横島は親指を立ててニカリと笑った。






(何してんのかなぁ〜、もしかしたら…むふふなことを…!?ぬおぉ〜!燃えるぞ〜!!)

そんなことを思いつつ、横島は所長室のドアの前までほふく前進でやって来ていた。

(どれどれ…)

古い建物な為にドアとドアの間に若干の隙間が出来ているので、そこから横島は中を覗き込む。



「やっぱりこれよね…」

「そうですよね…」

「はぐはぐ…」

「人間て、なんていい食べ物を考えるのかしら…」



(…なんだ?何か食べてるのか…?)

所長室の中はおぼろげにシロとタマモの背中が見えただけである。

かすかに聞こえて来た会話から推理すると、テーブルを4人で囲んで何かを食べているらしい。



「ああ…この匂いがまたいいですよね…」

「そうよねぇ…この匂いと、この色…最高よね…」

「も、もう一本いいでござるか?」

「あ、私も…」



(『匂い』?『色』?『もう一本』?
 美神さんやおキヌちゃんはわかるけど、偏食なシロやタマモまでもが好む食べ物って何だ?)



「はいはい、最後の一本だからね…」

「そろそろ横島さんが来ますから…ちゃんと処理しとかないと…」

「先生には悪いでござるが…」

「匂いも消しておかないとね…」



(なにぃ!?俺には秘密だというんか〜!?くっ一体何なんだ!?)



「あ…」

「来ました…?私もそろそろ…」

「う…拙者もでござる…」

「私も…」



(あ〜!もう我慢でき〜ん!!今なら証拠を抑えられる!!今しかない!!!)

横島は所長室への乱入を決意する。




バァン!!



「みんなして俺に隠れて、こそこそ何やってんすか!!!」



「え…」

「あ…」

「う…」

「い…」



所長室内に居た4人が、乱入して来た横島を見て固まる。

よく見ると、4人の口には『黄金色に輝く物』が含まれている。



「…?それは…?」



横島がその『物』を指差した瞬間。






ぷぅ(×4)






何処からとも無く微かな音が聞こえた。



「………」

「………」

「………」

「………」

そして横島に視線を固定して、無言のまま固まる4人。



「…え〜っと、その…紙袋に入ってたのは…もしかして焼きいも…?」

テーブルの上に置いてある紙袋を指差して横島は言う。

「……それと…今の音はもしかして……『おな…』」



ずばしこぉん!!



神通鞭が横島の顎を強かに打ち付ける。

肉体ダメージにはタフな横島だが、脳をシェイクされてはしばらくの間気絶必至である。



「はぁっはぁっはぁっ…」

「あぁ〜!!横島さんに聞かれたぁぁぁぁ!!」

「くぅっ!先生に聞かれてしまうとは…不覚…!!」

「うぅ…恥だわ!この私の人生最大の恥だわっ!!!」

肩で息をする令子に頭を抱えるおキヌ、そして涙を流すシロと床をダンダンと叩くタマモ

ちなみに全員顔は真っ赤である



「そ、そうでござる!頭に強い衝撃を与えると記憶が無くなるって聞いたことがあるでござるよ!!」

「いい考えだわシロ!!この椅子で…!!」

「し、シメサバ丸、シメサバ丸は何処に…」



「3人とも落ち着きなさい…」

「お、落ち着いてられないですよ!だって…横島さんに…音を…!」

「こ、こうなったら責任を先生にとって貰うしか…!!」

「そ、そうよ!横島に責任を…!!」

「それなら私も…!!」

令子の言葉が聞こえないのか、混乱に混乱を重ねる3人。



「落ち着きなさいっての!!」



「「「はい」」」



令子が睨み付けて叫ぶと3人はその場に座り込む。



「ったく…責任云々は別のカタチで取らせなさい…今回のことは私たちが悪い部分もあるんだから…」



そう言いながら自分の机の引出しを漁る令子。

鍵の掛けてある引出しを開けて、中から箱を取り出す。

その箱にも掛かっている鍵を開け、厳重に仕舞ってあったそれを手に取る。



「やれやれ…こんなことに使うことになるとは…」

目の前に持って来た物、それは文珠であった。

『忘』の文字を込めて横島に投げる。



ヴン…パリパリパリパリ…



独特の音がして文珠が消え、横島の頭部に霊力が放たれる。

これで事務所に来てからの記憶は消えているはずである。



「…文珠…へそくりしてたんですか?」

安心したようにおキヌが令子に問う。

「ん、なんとなくね」

以前、未来の横島がやってきた時に渡された、未来の自分からの手紙…その中にへそくりしていた文珠が入っていた、

今と同じく『忘』の文字を込めて忘れたはずだが、して置いて損はないと何処かで覚えていたのであろう。



「う〜ん…忘れてくれたのはいいでござるが…ちょっと残念な感じが…」

「そうですね〜…」

「責任…」

「あんたたち…いいからさっさと片付ける!
 おキヌちゃんは横島の足持って、ソファにでも寝転がしておけばごまかせるでしょうし」

「「「はい」」」

令子とおキヌは横島を抱えてソファへ寝かせ、シロとタマモはテーブルの上を片付けていく。



「さて、これで何も無かったことになるわね?いい?」

「そうですね」

「わかったでござる」

「うん」

「んじゃ、あとは普段通りにすること!解散!!」

令子の掛け声で各々、通常の生活に戻る。



数分後、横島が気が付くが事務所に来るまでの記憶が消えていた為に、若干混乱するもごまかすことに成功し、

それにて全て平和に終わった。






かに見えたが…






数日後―――



「うぅ…さむっ…ち〜っす」

『こんにちは、横島さん』

「お〜ただいま…ってのも変だな、自宅じゃないんだし」

人工幽霊一号に挨拶をして苦笑いする横島。

「美神さんたちは?所長室?」

『はい、ですが…』

横島の質問に何処か言いよどむ人工幽霊一号。

「?ですが…何?」

『…オーナーに、「絶対に見るな」と監視を解除されてまして…』

「へ?何で?」

『私にもわからないんです…おキヌさんやシロさん、それにタマモさんも一緒なんですが…』

「…何してんだろ…ちょっと覗いて見るかな…」






先日の出来事は、所長室内で行われていた為に人工幽霊一号は何も知らない。

美神らがそのことに気付くまで、もしくは焼きいもの季節が終わるまでそれは続くのであった。



(了)
おばんでございます

女性は誰しも石焼き芋が好き…と、言うわけではないでしょうが季節ネタということで書いてみましたw

そう言えばここ数年、石焼き芋食べてないですねぇ…

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