「…暇ねぇ…」
令子が自室の椅子に座ってそう呟いた。
「そうですねぇ…」
お茶を飲みつつおキヌが答える。
普段ならなにかしらの用事(除霊含む)があるのだが、今日は本当に何にも無い日であった。
「…書類もやろうと思えばやることあるけど、そこまで急いでやるようなことじゃないしね」
何か起こらないかしら…と、不謹慎ながらも事件を期待する令子。
「平和って言う証拠ですけどね」
苦笑しながら呟くおキヌ。
ちなみに本来いるべきはずの横島は留年を賭けた補習中で、今日は遅れてやってくることになっている。
「くぅぅぅ!!絶対におかしいでござるよっ!!!」
まったりとした空間に響き渡るシロの声、どうやら事件が勃発した様子。
どだだだだだだ…
「美神殿〜おキヌ殿〜!!」
盛大に足音を立てながらシロが駆け込んでくる。
「一体どうしたのよ、大声出して…またタマモとケンカでもしたの?」
やれやれ…と、令子が言う。
「タマモが…タマモが…」
「タマモちゃんがどうしたの?」
心配そうにおキヌが聞く。
「拙者より、胸が大きくなってるんでござるよ!!!」
どごしゃぁっ
シロの叫びに、令子とおキヌはその場に倒れこんだ。
輝ける未来予想図
「あのねぇ…あんたたちはまだお子様なのよ?成長するのは当たり前じゃない」
溜め息をつきながら令子が言う。
「でも!拙者は全然成長してないんでござるよ!?タマモだけ成長するってのはおかしいでござるよ!!」
納得いか〜〜ん!!と叫びながら令子ににじり寄るシロ。
かなり興奮している。
「ったく…ばっかじゃないの…。
横島がいないにしてもあんな大声で叫ぶなんて…」
遅れてタマモがやってくる。
「ま、私がシロより育っちゃってショックだってのはわかるけどね」
腕を組んで、心なしか胸を強調しつつシロに声をかけるタマモ。
「せ、拙者だって数年後には、先生が認めるくらいの『ないすばでー』になるでござるよ!!
美神殿だっておキヌ殿だって、その姿を知ってるでござろうっ!!」
涙を流しながら反論するシロ。
おそらくアルテミスと融合したときのことを言っているのであろう。
「そうなの?」
タマモが2人に問う。
「まぁ…そうね」
「そうですね…」
どこか認めたくない風に言いよどむ2人。
「ふ〜ん…でも何年後よ?
横島が認めるくらいに育っても、横島だって歳食うのよ?」
「うっ…そ、それは…多分2,3年後には…」
たじたじとシロが答える。
「無理ね」
スッパリと否定する令子。
「んなっ!?どうしてでござるかぁぁぁ!?」
「忘れたの?
あんたは怪我をして私と横島くんの霊力にあてられた結果、超回復が起こってその姿になったわけでしょ?
つまり、本来その姿になるまで成長すべき時間をすっ飛ばしたってことじゃない?
だとすると、飛ばした時間と同じだけ経たないとそれ以上は成長しないってことになるわね」
「うぅっ…」
令子の言葉にシロが言いよどむ。
「だったら…アルテミス様を召喚して…!!」
「阿呆かぁ!たかがあんたの身体の成長の為だけに、女神を召喚できるかぁ!!」
叫ぶ令子。
「くぅっ…でもっ悔しいでござるよっ!拙者は拙者は…」
シロが床を叩く。
「シロちゃん…悔しいのはわかるけど、身体の成長は時間を掛けてするものだから、そんなにすぐに育ったりは…」
「……出来るかもしれないわね」
ふと、何かを思い出したかのように令子が呟く。
「え?どうやってですか?」
「本当でござるか!?」
「おキヌちゃん、覚えてない?
『この事務所に来たときのこと』、そして『この部屋に入ったときのこと』」
「あっ…そう言えば…」
おキヌも何かを思い出したようだ。
「?」
「?」
シロとタマモは何のことだかさっぱりな顔つきをしている。
「そ、ってことで人工幽霊一号?あのときの再現は出来る?」
令子が天井へ顔を向けて言う。
『可能です、ただ結界を作ることになるのでこの部屋しか監視出来なくなります』
「ん、かまわないわ」
『わかりました。
それと、年齢操作の設定も可能ですがどうしますか?』
「じゃあ…そうね、あの時は1歩歩くと5年だったから今回は1歩1年で。あとは追々決めるわ」
『わかりました』
人工幽霊一号がそう言った数瞬の後、室内に結界が広がっていった。
「やっぱり若い身体っていいわね〜〜〜!」
おそらく18歳前後であろう少女が『スーツ姿』で叫ぶ…。
「……ママ…」
机の上に座らせているひのめの相手をしながら、令子が苦笑する。
そう、その少女は美智恵であった。
結界を広げたあとすぐにやって来た美智恵が、歳を取るだけでなく逆に若返ることも可能と聞いて実行したのであった。
今現在は、『1歩前進で+1歳、1歩後進で−1歳』歳を取る設定になっている。
「まーまー?」
「そうよ、ママよひのめ♪」
若返った反動か、性格も若干明るくなっている美智恵がひのめを抱き上げる。
「やっぱり親子ですね〜…スタイルが良くて羨ましい…」
見た目20歳前後になったおキヌが羨ましそうに呟く。
「うぅ…若返った美智恵殿にも勝てぬとは…」
「私たちよりいい身体してるって…本当に人間かしらこの親子…」
敗北感を感じているシロとタマモ。
こちらも年齢を重ねていて、シロはアルテミスと融合したときと同じくらい、タマモも同様のスタイルになっている。
この2人はどこまでも似た物同士なのだろうか。
ちなみに、おキヌは巫女服がキツキツになってしまっている状態にまで育っていて、
タマモとシロは着ている服がピッチピチになってしまっている。
今のスタイルに合う服がないので仕方が無いと言えば仕方が無い。
ピクッ…
「…来たか…」
何かを感じたのか、令子が履いていたヒールを脱いで手に持つ。
そこへ…
バンッ
「ちわ〜横島参りました〜〜〜……ってここはムチムチパラダイス!?」
ドアを開けた横島が室内を見て歓喜の叫びを上げる。
「おっねぇさん方の胸の中で僕を温め…へぶわぁ!!」
ガスッ!と、令子の投げたヒールがダイブしようとした横島の顔面にめり込む。
「こうなると思ったわ…ったく…」
溜め息をつきながら呟く令子。
「数年後にはOKなんですね!」
「ほらっ先生も認めてくれたでござるよ!」
「むぅ…でも私のことも認めてるってことよね」
約3名がコソコソと喜んで(?)いる。
「こらこら…」
苦笑いしながら美智恵が突っ込みを入れる。
「にーにー♪」
もぞもぞと、美智恵に抱かれていたひのめが横島を確認して動く。
「あっ、ひのめっ」
美智恵の身体を器用にしがみつきながら床へ降りるひのめ。
そして、かなりの速さで、はいはいしながら横島へ向かっていく。
ぶちっ…ぶちぶち…
ひのめが進むごとに布が裂ける音が聞こえてくる。
そう、結界は未だ保持されたままなのである。
と、言うことは…。
「いたたたた……ん?ひのめちゃん…?って…なんか育ってる上に裸ぁ!?」
「にーにー♪」
着ていた服はすべて破け、そのまま横島に普段通り『顔面に』抱きつきに行くひのめ。
横島に抱きついたときには18歳前後にまで育っていた。
「あ、温かくてやわらか…ぶはっ」
自分の願望が叶ったにもかかわらず鼻血を噴出して気絶する横島。
むしろ、そこまでのインパクトがあったのかもしれない。
「…人工幽霊一号…結界を解除して…」
とっさのことに頭が真っ白になっていた令子が人工幽霊一号に言う。
『はい…』
どこか申し訳なさそうに言う人工幽霊一号。
「はいはい、ひのめ、お兄ちゃんが好きなのはわかるから離れなさい…風邪引くわよ」
「う〜」
元の姿に戻ってもなお横島に抱きつくひのめを美智恵が引き剥がす。
「…ひのめちゃんにも負けた…」
「…くぅっ…」
「…やっぱり妖怪より化け物だわこの家族…」
ここでも敗北感を漂わせる3人がいた…。
合掌…。
(了)
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