とある建物の中庭に、香ばしい匂いが漂っていました。
焼かれた肉の匂いです。
焼いているのは少年。名前は明。
食べているのは少女。こちらは初音。
二人は同じ年頃に見えます。
ふと、食べる手を止めて初音が顔を上げました。
「ねえ、明」
初音が明に尋ねます。
「どうして、私たちには担当がつかないの?」
幼馴染の二人が、バベルの特務エスパーに採用されてから数ヶ月。
でも、二人の担当はいまだに決まっていなかったのです。
明も肉を焼く手を止めて、答えます。
「桐壺局長も言ってただろう?
俺たちの能力は特殊で、単独の任務が少ないからだって。
共同任務になれば、他のチームについてる担当の指示に従えばすむしさ」
そんな説明を受けている間に、初音の口は詰めこんだ肉で一杯になっていました。
明が、やれやれ仕方ないと苦笑していると、初音が何か言おうと口を開きした。
「ふぇも、いっはい」
けれども、口の中は肉で一杯でしたから、当然ちゃんとした言葉にはなりません。
「口に物入れながら喋るな。聞きとれない」
と、注意した明にむかって大きくうなづくと、初音は見ているだけで喉が痛くなりそうなくらい、大急ぎで口の中のものを飲みこみ、再び喋り始めました。
「一回谷崎が担当に決まりかけたじゃない」
「まぁ、あれは暫定というかとりあえずの、って感じだったけどな。
それにしたって、お前が谷崎さんのこと、噛んだり引掻いたりしたから、流れちまったんじゃないか」
「ボスにふさわしいか、試さないと。
明だって、ダメしなかったじゃん。
なんで?」
明は、どうしてか答えようしませんでした。
ついでに言えば、その場に居合わせた二人の先輩である、ナオミも止めませんでした。
それどころか微笑ましい子供同士のじゃれあいでも見るかのように、笑顔でした。
答えなかった代わりに、質問を返しました。
「そうだ皆本さんならどうだ?」
「ダメ」
初音はブルブルと首を横に振ります。
「なんでだよ、気に入ってるんだろう、皆本さんのこと」
「うん。
でも、あれは姐さんたちのモノだから」
ダメダメと手を振る初音の言葉に、呆れたように溜め息をついて、明が返します。
「モノってお前なぁ。
勝手ばっか言ってると、チーム解散して、俺だけ皆本さんに担当してもらうぞ」
答えは一言。
「ダメ」
明が、どうしてと問いました。
「明は私のモノだから」
そう言うと初音は何事もなかったかのように、また肉に手を伸ばし始めました。
それを聞いた明は、頬を掻いて、初音のおかわりのために、また料理を始めました。
相当長い間、中庭には肉を焼く香ばしい匂いが漂っていました。
おわり
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