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秋、思い出すままに

え〜 本作を読む前に
 当作は「絶対可憐チルドレン5 おまけ」を見つつ(遅ぇえ!)考えたネタです。知らなくとも読めると思いますが、できればそちらに目を通した上でお読みいただいた方が良いと思います。





「どうしたんや? ぼーっとして」
 そう尋ねた葵は皆本の視線を追うと不本意そうに顔をしかめる。

彼の視線はいわゆるグラビアアイドルの写真集が並ぶ書架に向けられていた。

「やっぱりそんないやらしい本に興味があるんか? 皆本はんのエッチ! 不潔!」

「おいおい」
 皆本は(大げさでどことなくわざとらしい)いやいやをする少女に苦笑する。

 ここは入り口に近いコーナーであり、そういう場所に並んでいる以上(ヌード写真集もないではないが)とりたてて『いやらしい』と騒がれるようなものはない。

「まあまあ、皆本もお年頃なんだから察してやれよ」訳知り顔で葵の肩を叩く薫。
手にした紙袋には奥のコーナーで買った写真集が入っている。こちらはまぎれもなく『いやらしい』代物だ。

「そうよ、そういう本に目が向くって男の人にとっては自然なことなのよ」
フォローになっているのかなっていないのかが微妙な台詞は紫穂。

『はあ〜』と皆本は内心でため息をつく。
 これ以上話のタネにされるのも億劫なので視線を外の風景に移す。

大きく取られたウィンドウから見える街の風景は、秋を感じさせる穏やかな陽光の下、普段に変わらない。

‘そういえば、あの日もこんなありふれた感じだったな’




 秋、思い出すままに

‘さて、これからどうしようかな’
秋を感じさせる穏やかな陽光の下、普段に変わらない街の風景をのんびりと眺めながら、皆本はとりとめもなく考えていた。

MITでの学位の取得も認められ再渡航の準備もあわただしい中、ふと生じた空白の時間。しばらくは目にすることのない日本の風景を目に収めておこうと街に出たのだが、出てみると特に見たいものとか訪ねたい場所は思いつかない。

『それも良いか』と目的のない散策を始めようとした時、自分に向けられた視線に気づいた。
 視線は少し前までひそひそ話をしていた自分と同年代−十七歳−と思える学ラン四人組の一人から来ていた。

 ちなみに、四人の内訳は少し背の足りないやたら目つきの悪い男に相撲部屋からスカウトがかかりそうな大男。留学生だろう金髪の美形とその三人に比べれば、(とりあえず)普通に見える男。今二つ、互いのつながりが見えにくい取り合わせだ。
 で、その中で普通っぽい男がこちらを見ている。

‘? そう言えば‥‥’顔に見覚えがあった。

こちら表情の変化を切っ掛けに男が近寄ってくる。そして『駄目もと』という感じで、
「ええっと‥‥ 皆っち? 皆本? 皆本だよな」

名前を当てたということは、やはりどこかで出会っているに違いない。
それなりに自信のある記憶力に検索をかけると、記憶の底から該当する人物が浮かび上がった。

小学生の頃、特別教育プログラムに移った学年での同級生だ。
 ミニ四駆の操作など遊びに関しては天性の才能があり、まず、クラスの人気者というポジションだったように覚えている。あと、少しばかりお調子者で、悪友と勢いのままにスカートめくりなどをしては女子の顰蹙をかっていた。

 念のため、その頃のことを二・三持ち出し、記憶通りの人物であることを確認する。

「七年ぶりになるのか?! それにしても、よく僕だって判ったものだ」
自分で言うのも何だが、生真面目で精神年齢が高かったせいで目の前の人物とはクラスが同じだったという程度にしか接点はない。
 そういう間柄にもかかわらず覚えてもらっていたことは嬉しくはある。

「そりゃあ、学校創立以来の天才だ! 覚えていて当然だって」

 何気ない言葉に転校を勧められたシーンが蘇り、少し鬱な気分になる。

そんな微妙な心の襞が判るはずもなく、相手は屈託のない感じで、
「あの頃はテストなんかある度におか(母)んから『皆本君の半分も頭があればなぁ』って嫌みったらしく言われたもんだ」

‥‥
 似たような会話が多くの親子であったんだろうと思い、さらに苦いものが心に広がる。そういうことを言われ続けた同級生の反感も教師/学校を動かした要因の一つなのだろう。

「まっ、いくら言われたって気にはしなかったけどな。だいたい、俺に取っちゃ女にもてる奴の方がよ〜っぽど憎らしかったし」
何か思い出したのか嫌そうに相手に顔をしかめる。すぐに表情を戻すと、
「ところで、今、時間は空いてないか? 特に用があるように見えないんだが」

いきなりな問いを訝しく思うが、悪意のようなものも感じられず、つい、
「そうだな、これといった用はないけど‥‥」

「そりゃあ、ちょうど良い!!」
 相手は今の言葉を逃さないというな感じでそう言うと『これから女子校の学園祭に行くのだが一緒に行かないか?』とさらに”いきなり”な提案をしてくる。

「女子校? 学園祭?」意味が掴めないまま繰り返す。

「おうよ!」相手は四枚綴りの紙片を取り出し示す。

見ると紙片は学園祭の入場チケットで、そこに記されている学園名はそういう方面に疎い自分ですら耳にしたことがある名門校のものだ。

相手はチケットを戻すと『行くよな!』と詰め寄ってくる。

‥‥ 突き出された顔に閉口しつつ言葉を窮する。判断するには材料が少な過ぎる。

顔に出た疑問符に相手も気づいたようで隣の美形を指さし、
「そもそもはこいつが‥‥」と早口で説明を始める。

それによれば、もともとそこへはこの四人で行くはずだったのが、美形が急な事情−寄宿先のオーナーで恩人というべき人物が倒れすぐに戻らなければならない−で無理になったとのこと。当然、入場チケットが一人分余ってくるので『どうだ?』ということらしい。

「余らせておけば? 君はともかく他の二人とは面識はないし、知らない者同士、気を使うのも煩わしいじゃないか」

相手に取り拒絶は予想外の反応だったようで、一瞬きょとんとすると、
「名門女子校の学園祭! このフレーズを聞いても、何も燃えないっていうのか!! 禁断の女の園に分け入り、美少女相手にナンパし放題っていう唯一の日を! ”漢”の浪漫を心ゆくまで味わえるチャンスを!! ”漢”のくせにそんな美味しすぎる話を逃すつもりなのか!! ここで尻込みをするとは、キサマ、それでも軍人かぁぁぁ!!」

顔が歪み血の涙すら流しそうな勢いに『僕が、何時、軍人になったんだ?』という反論を飲み込んでしまう。

なおも興奮するのを大男が押さえ込み、代わって背の低い男が補足する。

それによると(意図は不明だが)チケットは四人セットでないと使えないそうだ。そして、明言はしないが、厳しい時間的な制約があって、他の知り合いを呼び出したりしている時間もないらしい。

「‥‥ 最後の手段、誰彼ナシに声を掛けようか、ってなったところで野郎がおたくに気づいたってワケよ。人助けと思って引き受けちゃくれねぇか? 話した事情に嘘はねぇしこれ以上何かを頼むこともねぇ。入場できればあとは好きにしてくれていいからさ」

‘早い話、条件をクリアするのに誰でも良かったってコトか’
 まあ、身も蓋もない話だがそれなりに納得する。それと共に断ろうと思う気持ちも揺らぐ。
 これでも健全な男子で同年代の女性に興味がないわけはない。

 最終的に脅迫と懇願が入り交じった三人の視線が鬱陶しいことが決め手となり申し出を承諾する。

 その場で言われるままに学ランに着替える。18歳までの男子は学生服着用が入場の際の条件になっているとのこと。当然、学ランの用意はないが、そこは引き返す美形の服を借りることで済ます。

‘考えてみれば、学ランって初めてなんだよな’袖を通しながら多少の感慨を抱く。
 特別教育プログラムから留学とこういう制服を着ることはなかったし、同じ理由で学園際といったこの年齢で普通に経験するイベントにも縁もなかった。

そういう意味では、声をかけてくれたことには感謝すべきだと思う。

 それにしても学ラン着用が条件というのが良く解らない。

 尋ねると、その学園の理事長が急に『年頃の男の子はやっぱり制服でないとね〜』と言いだし、決まったそうだ。

 この学園では、どんな理不尽なことでも理事長が望めば通ることになっているとのこと。まあ、男子によるミスコンを開催した公立高校もあるという話だ。私立ならなおさら”あり”なのだろう。




「さすがに広いな」学校を囲む塀に沿って歩く内にそんな感慨を抱く。

見せてもらったパンフによれば、四年制の女子大も同じ敷地にあり(というより、大学の敷地に高校があるという方が正確だが)広くて当然なのだが、都市部の土地事情を考えるとなにげに凄い学園である。
 ちなみに同じ場所ということもあって学園祭は高等部と大学部合同の催しで華やかさと規模は普通の高校のそれとは一つ(以上)桁が違う。




ようやく着いた校門では職員だろう若い女性たち−なぜかメイド姿−がチケットの確認を行っていた。

 そこでチケットの名前と容姿が一致しない(美形のイタリア系の名前と自分の容姿が一致しないのは当然だが)との声も出たが、チケットの裏書きに気づくと不審の声は引っ込んでしまう。それどころかうやうやしい態度で半券が戻される。
同時にその場で首からかける透明ケースが渡され、半券を入れた上で常時掛けておくように言われる。もし、紛失した場合はセキュリティ上の処置として強制退去もあり得るそうだ。

‘セキュリティっていえば‥‥’
 チケットを点検している所で感じた脊髄から後頭部にかけてのむずがゆさを思い出す。超能力による不正入場を阻止するために(ノーマルの自分すら感じる出力で)ECMを展開していたに違いない。

 有力者の子女が通う名門校ともなれば相応に警戒を厳しくする必要があるということなのだろう。四枚セットというのもそのあたりに理由があるのかもしれない。




校門をくぐると三人は目的の場所が決まっているかのようにどんどん歩き始めた。

入場した以上は『お役ご免』と別れるつもりだったが、先に動かれたためきっかけを掴み損ねそのまま後に続く。
 進む先に目をやるとここの制服を身につけた少女が三人、人待ち顔で佇んでいた。

‘なんとまあ目敏いもんだ!’それがとりあえずの感想。そして次に浮かんだのは、
‘言っていたようにナンパでもかけるつもりか? ずいぶんと相手を見ないというか自分が判らない連中だな’

 というのも、三人ともそれぞれタイプは違うが揃いも揃っての美少女だからだ。

さすが”本物”の名門校というのか、ざっと見渡しただけでも平均点以上の容姿の少女があちこちにいるが、その中にあっても三人は頭一つ分は抜きん出ている。

 帰った美形ならともかく、こちらの三人では誰一人釣り合いそうにない。

そもそも人待ち顔と言うことから三人には相手がいるはずで、そこに割り込むというのは嫌がらせの類だろう。

案の定、かなりヤンキーが入った少女が不機嫌そうに大男を睨み、いかにも名門校にいるお嬢様という感じの少女は目つきの悪い男に対しわざとらしくそっぽを向く。

 『当然だろうな』と冷ややかに少女たちの反応に納得する。
 同時に、もしこのままこの三人が少女たちに絡むようであれば、割って入ろうと心に決める。

 ところが‥‥ 険悪そうだったのはそこまで。

背の低い男はお嬢様と喧嘩腰なのにのろけに聞こえるやり取りをしつつ腕を組むとスタスタと歩き始める。
 一方、大男は踵を返すヤンキー少女の後をぺこぺこ何度も頭を下げつつ続く。その際ヤンキー少女の顔に浮かんだ照れ笑いは、大男のそうした態度すら好ましいと感じていることを示している。

 ちなみに、その二組が別方向に行こうとしているのは、それぞれがカップルで過ごしたいという意図が働いているからだろう。

去っていくそれぞれの背中を呆然と見ながら、少女二人を引き留め『相手はソレで良いのか?』と膝詰めで小一時間は問い質したい衝動に駆られてしまう。

その二組を見送る形となった残る一人−去った二人に比べると平凡だがとびきり気だての良さそうな少女−はすまなさそうに微笑み、
「こめんなさい。一言もなしに行ってしまって。時間が押していることもあるんですが、四人とも自分たちが見られるのが照れくさいんですよ」
 と深々と頭を下げる。

「あっ! 別に‥‥ かまいませんよ」
なぜかあっせた受け答えになる。その長く艶やかな黒髪に見とれたからではないはずだが。
‘それにしても、この娘(こ)も‥‥ かぁ’

ごく自然に成立したアイコンタクトから少女のお相手が自分をここに引き込んだ張本人だと知れる。
 先の二組よりはあり得る組み合わせだとは思うが、それでも、世の中には理屈で割り切れないことがあると確信するには十分だ。

少女は顔を上げると、
「私たちもそろそろ行かなければならないんですが、ご一緒しませんか? 良ければ校内を案内させてもらいますけど」

「いや、いいですよ」と手を振る。
 少女の気配りはありがたいが、それに乗るほど無粋というか図太い神経は持ち合わせてはいない。

「そ、そうですか」少女の表情からほんの僅かだがホッとした感情が漏れる。

‘何だかとってもコンチクショー!’と思わないではないが、感謝の微笑みは素直に受け取っておく。

気の利いた台詞の一つも言って離れようとした時、少女の視線が動くのに気づく。

 その視線を追うとくだんの男がふらふらと歩き始めている。その先には明るい栗色の髪をツインテールにまとめた少女が歩いていた。

その少女も十二分に美少女と呼んでかまわない容姿の持ち主で、目の前の少女とは異なるブレザー系の制服からここの生徒ではないことが判る。

 どうやらその少女にナンパをかけるつもりらしいが、パートナーを目の前にずいぶんと大胆な行為だ。

もっとも、黒髪の少女は少し不満そうに頬を膨らますが見慣れた光景という感じだ。そして、さりげなく男の後ろにつくと‥‥

 どこから取り出したものか、いわゆる”ハリセン”を構えるや、無防備な後頭部に一撃をお見舞いする。
 本来、派手な音がするはずのソレが地味に重い音を立てたのが普通に怖い。

少女は屈託のない笑顔でこちらに会釈をすると、頭を抱えうずくまっている男の襟首を掴み引きずっていった。

『見てはいけないものを見てしまったのではないか?』という気分に。今の光景を記憶から追い出すため頭を二度三度と振る。




 三様のバカップルを見てしまったアホらしさから立ち直るのに少し時間を要したが、これで誰にも煩わされることなく見学ができる。

 気ままにその辺りから始めようとした矢先、背後に人の気配が。

振り返ろうとする寸前、腕に腕が絡められいかにも嬉しそうな声が、
「先輩、ごめんなさい! ずいぶん待たせちゃって」

‘なっ、何だって?!’確かに聞こえた意外な台詞に呆然とする。
 絡められた腕の方に顔を向けると先のツインテール少女が寄りそっていた。
 え〜 初めまして(といっても、GTYの方にはちょこっと出没したことはあるのですが)よりみちといいます。

 このたび、「絶対可憐チルドレン5 おまけ」を見つつ、こんな導入で始まる外伝を読みたいな、と思い文章にしてみました。

 なお、お読みいただければ判ると思いますが、皆本はあくまでも「絶チル」の皆本で、元天才エスパーの”皆本”ではありません。それと、今回、特定の作品のキャラによく似たキャラがぞろぞろ出てきましたが、あくまでも、”偶然”の一致、他人のそら似という風にご理解下さい。

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