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横島忠夫の転職!?

横島忠夫の転職!?





美神除霊事務所の事務室




美神は机に向かって書類整理をしていた。

「あのー、美神さん」

「なにかしら?横島君」

「折り入ってお願いがあるんですけど…」

「ダメ!どっちも却下!」

「はや!オレまだ何も言ってないんすけど!」

「どうせ給料の前借りか上げてくれって言うんでしょう、あんたの言いたいことなんか分かってるわよ」

「はぁ…いや確かにその通りなんすけどね…」

「今月は何かと入り用だったんで赤字なんです、このままじゃ餓死しちゃいます、なんとかお願いします美神さん。」

美神に手を合わせる横島だったが

「ダメ!」

美神は横島を一瞥するときっぱりと言い放った。

「くっ…、やっぱりダメですか?」

「ダメ!」

「……」

その時、台所のドアが開いておキヌが事務所に入ってきた。

「あの、横島さん」

「あ、おキヌちゃん、いたんだ?」

「はい、あのごめんなさい立ち聞きするつもりはなかったんですけど…聞こえてしまって、もしよかったら私がお金をお貸ししますよ。」

「いや、おキヌちゃんからお金を借りるわけにはいかないよ。」

「遠慮しないでください、私だって少しくらいは貯金がありますから、横島さんのお役に立てるのなら私も嬉しいし。」

「いや、おキヌちゃんのその気持ちだけで十分だよ、ありがとう。」

「でも…」

「美神さん、無理いってすいませんでした、今日は帰ります。」

「ん、ご苦労様、横島君」

「あの、それじゃせめて夕食だけでも一緒に…」

「ありがとうおキヌちゃん、でもさ今日はこれで帰るよ。」

「横島さん。」

横島は事務所のドアを開けて出ていった。

「あの…美神さん」

「なにかしら?おキヌちゃん」

「どうして横島さんにお給料の前借りさせてあげなかったんですか?…」

「……」

そのおキヌの質問に答えず黙々と書類整理を続ける美神。


「横島さん…」

おキヌちゃんは横島の出ていったドアを見つめていた。


「ふう、美神さんさすがに厳しいよな、さてと給料日まで残り一週間か、それまでどうやって生き抜くかだが…なんかバイトでも探すか」

歩きながら考え込んでいる横島に一人の40代前半くらいの紳士が近づいてきた。

「失礼だが、君が美神除霊事務所の横島忠夫君だね?」

「そうっすけど、あんたは?」

「実は私はこういう者です。」

深々と頭を下げて男は名刺を横島に手渡した。

名刺には白銀GSオカルト商事人事課長鎧衣左近と書いてあった。

「ん?確か白銀GSオカルト商事というと確かGSのみならずオカルト関係では日本有数の大企業じゃなかったですか?」

「おお我が社をご存じ出したか?光栄ですな横島君。」

男は今一度頭を下げた。

「いえそんな、この業界にいる者なら知らない人はいないんじゃないですか?」

「で、その白銀GSオカルト商事の人事課長さんがオレに何の用すか?」

横島は鎧衣左近と名乗る紳士に用件を聞く。

「まあ、此処で立ち話も何ですから喫茶店にでも行きましょう。」

鎧衣は喫茶店に横島を誘う。

「オレ、今金ないっすよ。」

「はははは!勿論私が出しますよ、ご心配なく。」

二人は近くの喫茶店に入って向かい合って座る。

「では単刀直入にいいます、横島君、君を我が社にスカウトしたいんですよ。」

コーヒーを一口飲むと鎧衣は横島に告げた。

「へっ?オレをっすか?」

鎧衣の言葉に驚く横島。

「我が社としては、君の現在のGSとしての実力と実績、さらに人界唯一の文珠使いとしてのスキルも正当に考慮した待遇を用意しています。」

「勿論君に要望があれば我が社は出来うる限りの便宜を図るつもりです、決して悪い話ではないと思いますが?」

横島は雇用条件を書いた書類を差し出され目を通した。

その書類に書かれていた雇用条件は確かに破格な物だった。

「へえ確かにそうですね、こりゃ美神さんの所とは雲泥どころか天国と地獄の差だ。」

「失礼ながら君の美神除霊事務所での待遇を少し調べさせていただきました、今どき時給255円とは最初冗談かと思いましたよ。」

「ははは、それは美神さんにバイトで雇って貰うときにオレが自分で納得したバイト料ですからね、誰にも文句言えないっすよ。」

横島は頭をかいて照れ笑いをする。

その横島を見ながら真剣な顔になる鎧衣。

「ふむ、ですがバイトを始めた当時の素人の君ならともかく、今の君の実力からすれば問題外の賃金でしょう?」

「少なくとも我が社では今の君の実力をもっと高く評価していますよ。」

「そうすか?でも美神さんから見ればオレはまだまだその時給255円程度の実力しかないという事ですよ。」

「ふーむ、では君は自分の実力を本当にその程度のものだと思っているのですか?」

「ええ、美神さんが認めてくれない以上そんなもんでしょうね。」

「ですが、我々の認識は全然違います、横島君を客観的に評価すれば現在でも日本のGSの中で実力的には十本の指に入り、年齢的にも若くこれからまだまだ大きく成長する可能性を秘めている、これは事実です。」

「はははっ…それは買いかぶりですよ、オレはそんなに凄くないですよ…、そんなに凄かったらオレはあの時大事な人を失わずに済んだかもしれないんだ…」

どこか自分を嘲るような顔をする横島。

「…?」

その横島の顔をいぶかしがる鎧衣、どうやら彼らもルシオラの事までは知らないようだ。

「とにかく、横島君にとっても自分を正しく評価してくれる職場の方がやりがいがあると思いますよ、我が社は君を必要な人材であると考えているのですから。」

じっと書類を見ながら考え込む横島を見ながら鎧衣は告げる。

「すぐに返事をくれとは言いません、じっくり考えてみてください。」

「先ほども言った通り希望があれば遠慮なく言ってください、それでは色よい返事を待っていますよ。」

鎧衣は席を立ってレジで支払いを終えると外に出て行った。


鎧衣が喫茶店から出て行ったと同時に

「横島さん!」

「センセー!」

「横島!」

「ん?あれおキヌちゃん、シロ、タマモいつからそこにいたんだ?」

「センセー!美神どのの所やめるんでござるか?」

シロが横島の両肩を掴み、前後に揺らす。

「や、やめんか!シロ!」

「だって、だって」

「ごめんなさい横島さん、私たち横島さんが心配で後をついて来ちゃったんです、そうしたらさっきの人と一緒にここに入ったから嫌な予感がして…」

おキヌちゃんが俯きながら横島に説明する。

「今の話聞いてしまいました、でも美神さんの所を辞めないでください…とは言えないですよね、確かにあの人の言う通りなんだもん…でも、それでも!」

必死に横島に訴えるおキヌちゃん、今にも泣きそうだ。

「おキヌちゃん…」

「横島センセー!拙者は何があってもセンセーについていくでござるよ!シロはセンセーの側を絶対に離れないでござる!」

横島を力一杯抱きしめるシロ。

「シ、シロ…」

「横島の好きにすればいいじゃない、自分の事なんだから…私は横島がいなくなったって別に寂しくない…寂しくないんだから…」

タマモも今にも泣き出しそうだ。

「タマモ…」

「あの、私からも横島さんのお給料上げて貰えるように美神さんに頼んでみますから。」

「拙者も」

「面倒くさいけど私も頼んであげるわ、感謝しなさいよ横島。」


「ありがとうみんな!でも安心してくれ、オレは美神さんの所を辞める気は毛頭ないよ。」

「え?本当ですか?」

「ああ、まだオレは美神さんに一人前とは認められてないからね、それに…」

「「「それに?」」」

「オレはまだ全然元を取っていないんだ!美神さんとのスキンシップも出来なくなってしまう!そして何より美神さんの風呂を覗けなくなる!」

ずだーん!!

思わずずっこけるおキヌ、シロ、タマモの三人。

「「「あ、あ、あああ……、」」」

「そうなんだ!あの美神さんの芸術的な裸体を触ったり拝めなくなるのだけは我慢ならん!あの裸体を拝むためならオレは何でも出来る!何でも耐えられる!この命すら惜しくない!一週間や二週間くらいの断食がなんだ!!」

三人がずっこけてるのを尻目に演説を続ける横島、目が完全に逝っている。

「あ、ああ、よ、よこしまさん…」

「せ、せんせい…」

「よこしまのバカ…」


パカーーン!!

その時、雄叫びを上げる横島の頭にどこからかコーヒーカップが飛んできて命中した。

「いて!誰だ?はっ!」

横島がコーヒーカップが飛んできた方向に顔を向けるとそこには鬼が立っていた。

「よ・こ・し・ま…あんた…」

キッ!と横島を睨み付ける美神。

美神もまた横島のことが気になって後を付けてきていたのだった。

「げ!み、みかみ…さん、あのですね、これはそのあの…」

いつものように蛇に睨まれたカエルとなった横島。

「ふっ、まっいいわ、ほら横島君これをあげるわ。」

こほんといいながら一枚の書類を横島に手渡す美神。

「え?なんすか?これ?」

「いいから読んでみなさい。」

「ういっす。」

その書類に目を通す横島の表情がみるみる変わっていく。

「え、昇給?それもこんなに?」

「そうよ、本当は明日渡すつもりだったのよ、せっかくあんたの驚く顔が見たかったのに…つまんないわ。」

両手を挙げてやれやれというジェスチャーをする美神。

「あ、あの守銭奴の美神さんがこんなに給料を上げてくれる!こ、これはもう…愛の告白っすねー!美神さーん!!」

場所もわきまえずに見事なルパンバイブを美神に敢行する横島だったが

「ええーい!また性懲りもなくこのパターンか!少しは学習しろー!」

バコーン!

「ぐへ!」

美神が隠し持っていた神通棍で撃墜される横島。

ぐりぐりぐりぐり

「どうやらあんたにはもう少し教育が必要なようね、今回の昇給の話はなし!当分ただ働きだからね!」

「ええ!美神さん、そ、そんな殺生な〜!」



「あーあ、横島も美神も飽きないわね。」

タマモがやれやれという顔をする、だが目は笑っている。

「でも良かったでござるよ。やはり横島先生は横島先生でござる。」

シロも笑顔で横島と美神を見ている。

「横島さんありがとうございます、落ち込んでいた私たちに気を使ってくれているんですね。」

おキヌもやはり笑顔で横島を見ていた。










お終い








後日談


「はい、それで今回の件はなかったことにお願いします、ええ?なんですとー!!オレのために美人でグラマーな秘書兼助手を何人か用意していた!?何でそれをもっと早く言ってくれなかったんすか?待って下さい、すぐそちらに転職し…ぐええええーーー!!!」

電話の最中、横島は神通棍と霊波刀、狐火、ご近所の浮遊霊団の一斉攻撃を浴びて沈黙した。

ちなみにこの攻撃であの横島が半日ほど意識を失っていたという。
10番惑星でございます。

相変わらず突っ込みどころ満載の作品でございますが、笑って許してやって下さい。

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