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ふりーだむ


 あと、少しだったのだ。

「時空震のポイントを制御して―――あいつだけを未来へ吹っとばす!! できるだけ遠く……!」

 あと、ほんの少しだったのだ。

「奴のエネルギーが大きすぎて四、五百年飛ばすのが、せいいっぱいか…! でも、」

 ほんとうに、あと、少しだけで……!

「とりあえず、十分!!」

 究極の魔体と魂の結晶が完成し、ハルマゲドンを起こして、私は……私はっ…!!
 それがあんな、あんな…………あの場で一番無能そうな奴にーー!?

 あがく私の必死の抵抗を嘲笑うかのように、私の周りの空間がこの時空から切り離され、全てから遠ざかっていく。

「このままでは済まさんぞ!! 大人しく流されるままと思うなよ!!」

 魔力を全開にして、どこかへ、多分未来へと押し流そうとする流れにあらがう。
 飛ばされる時にちぎれたが、我が身を縛ったままだった、道真の下半身があっさりと吹き飛んでいった。
 さっきまでは、まるで“何か強大な意志”でも働いているかのように、なかなかちぎれなかったのに。
 心当たりのあるその意思にいまいましさを感じて、いら立ちが増す。

「落ち着け! 私はアシュタロスだぞ! こんな事ぐらいで…!!」

 額を軽く叩いて、冷静さを取り戻す。
 そうとも、私はアシュタロスだ。
 こんな状況、こんな時間移動という術くらい…!

 私は流れに逆らいながら。その流れの中を移動する術式を、文字通り手探りで組み上げ始めた。





「はははは!! 再び魂の結晶を取り戻すために! 究極の魔体を造るために! 京都よ! 私は帰ってきたーーー!!!」

 時空の流れの中で受信したダレかのノリで、たかぶった気分のままに叫びを上げる。
 帰ってきた。そうだ、帰ってこれたのだ。
 この平安の、京都へ!
 さすがにまだ細かい設定は出来ないので、二、三年はズレてしまうが、問題ない。
 未来のほうへズレたのなら、そのまま計画を再開するだけだ。
 過去のほうへズレたのだとしても、過去にいる私に話しをすれば――――

「待てよ…?」

 過去の私、だと…?
 そんなものがいるならば。

「私は…………」

 私は、思い浮かんだ考えが形を取る前に。何かに突き動かされるように、過去へと飛んだ。
 過去へ。
 出来うる限りの、過去へ。
 そして、そこには、当然ではあるが過去の私がいる。
 ならば、この私は。ここに在る、この私は…





 時間移動を終えて。おそらくは紀元前千年くらいであろう、懐かしい風景を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

「じゆうだ」

 そう。過去の私がいるのなら。過去の私がその時、その時代で悪役をやっているのなら。
 この私は、そんな事をしなくてもいいのだ。
 大規模な歴史の操作などを仕掛ければ、またあのいまいましい“意思”が邪魔をするだろうが、もはや私にそんな意思は無い。
 欲しかったものは、もう手に入ってしまったのだから。

「じゆう、だ」

 もう一度、つぶやいた。
 魂の牢獄。
 えんえんと続く、死んでも復活させられ、勝ってはいけない悪役を演じ続けなければいけない、魂の牢獄。
 そこから、抜け出したかった。
 ハルマゲドンを起こして、世界を壊してでも。

「自由だ」

 だが、それは唐突に手に入ってしまった。
 たかが時間移動などという、ちょっとした裏技一つで。

「………………………え〜っと」

 世界を引きかえにしても、自由を手に入れたかった私は。
 その自由で何をしたいのか、考えていなかった。

「確かこの時代でも、上物のワインはあったな」

 何をしたいのか、考える前に。
 私はとりあえず、この自由に乾杯するワインを手に入れる事にした。

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