「薫ちゃんって成長しないよねー」
「そういや、そうやなー」
「ΩΩ Ω<な、なんだって――っ!!」
その惨事は、そんな会話から始まったという。
「成長」
認めなければなるまい。
確かに柴穂は半年前に比べ成長していた。
胸周りが若干膨らみつつある『気がする』し、言われてみればヒップもつんと上向いている『気がする』。
葵に関してもそうだ。
胸周りはさておき、あのくびれた腰。
姿勢良く廊下を歩くその様はまるでTOPモデルのそれを思わせるような『気がする』。
――これは、ヤバイかもしれない。
一人家路に着きながら、赤毛の少女、薫は微かな危機感を覚えていた。
薫自身、アドバンテージはさほどない、と考えていた。
もちろん、それは彼女らの上司、皆本に対するアドバンテージの事だ。
皆本に対し、あくまでからかう様な素振りを見せる柴穂だが、その心中。
たとえサイコメトラーであろうが無かろうが、隠された彼女の本心は、皆本を確実に狙っている、
と、薫は考えていた。
また、同様に、葵に関しても、例の『皆本にパンツ洗われてしもーた』事件直後から、
彼女がより積極的に皆本に近づこう、と、しているように薫は思っていた。
だが、その時まで薫はさほどそれに危機感など感じてはいなかった。
アプローチに関しては自分が皆よりも、一歩秀でていると思っていたし
なにより一番皆本と触れ合っている時間が多いのは自分だと自負していた。
だが、
『成長しないよねー』
今日のミッションを終え、柴穂と葵から言い渡された言葉は、そんな薫の安堵をずたずたに切り裂いた。
「……」
半眼になりながら、己の胸元に伸ばした手。
まさぐってみれば返ってくる擬音語は『ぺたぺたぺた』
「……」
『いつか大人になって――』
以前、薫の家が引越しを行ったとき、家族と喧嘩し、拗ねていた自分を慰めてくれた皆本の言葉が脳裏を過ぎるが、
「いつかじゃ遅いんじゃぁぁあああっ!!」
そりゃ自分の事だ。
姉や母親から想像するに、自分はさぞナイスバデーの美女になる事だろう。
だが、皆本はお堅い性格だ。
自分がナイスバデーの美女になった時、既に誰かが隣にいたならば、恐らく自分のことなど見向きもしないに違いない。
いや、見向きもしない、事は流石にないだろう。
いくら堅物とはいえど所詮は男。
上手に扱えば、女性誌でありがちな爛れた関係くらいになら、自分の未来の魅力を持ってすれば可能に違いない
――が、想像してみたソレは、あまりにも彼女の望む未来とはかけ離れていた。
やはり、薫は、皆本の中で一番でありたいのだ。
と、いうわけで、同僚二人にいつしか付けられていた身体的アドバンテージ。
それは、薫にとってかなりの脅威となっていたのだ。
部屋にたどり着き、衣服をベッドの上に放り投げた薫。
月光の元、目前の鏡が映すのは、己の貧相な体。
「……やるしかないか。」
己が胸部に手を当て、意を決したように薫は呟き
「おおおおおおおおおおおおおおお――っ!!」
恋する少女は、己が力を解放する。
――次の日
「アホやなぁ……ほんま、アンタ。」
「成長しないって言ったのは、昨日のタンカーを爆発させちゃった事だったのにぃ〜」
サイコキネシスにより、無理やり己の胸部を押し上げようとした薫は、胸骨にひびが入り入院。
結局、そんな事ではバストアップなどすることは出来はしなかったが、
「もう、馬鹿な事、するんじゃないぞ?」
「そんな事より、次のリンゴ〜」
病院のベッドの上、皆本にリンゴを口まで運んでもらう薫は、それなりに嬉しそうだったという。
おしまい♪
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