2072

きっと…STAND BY ME  ―タマモの恐竜 (終)―

MATOMO>
3日目 AM11:51


タマモちゃん達、氷室神社の人が別宮ベツグウと呼ぶ“竜神神社”。
その古いお堂の中から、突然あふれ出した眩い光。その中から2つの影がゆっくりと歩み出る。


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「――――着いたようじゃぞ、土偶羅魔具羅ドグラマグラ殿」

まるでダースベイダーの様な呼吸音を発する……
巫女装束をまとい、額に鉢巻はちまきを巻いた……大柄な……その……何と言うか……女性!?

「ウム!」

小さな影が答えた。あれって…遮光器土偶?!


「なっ、何だ…あんたらっ?!」

さすがの茂呂も…少々、腰が引けてる。


「私ノ名ハ…」

遮光器土偶を模した…ロボットなのか? それが答え様とした時…


「ドグラマグラ!!

 そーでしょっ!? そーですよねっ!?」

興奮した柳国教授が、目を血走らせて聞いた。


ドグラマグラと言う名前なのか…?
遮光器土偶の様なロボットは、柳国教授に圧倒されながらも…

「ウム。ソーダ。三百…」

「300年ごとに開くタイムゲートを使って、過去から未来へと旅をしとる!!」

また柳国教授が割り込んで解説する。

「モト…」

「もともとは、遥か未来のタイムパトロールが派遣した―――
 情報処理と演算能力に優れた遮光器土偶型探査ユニットなのだが…!!

 事故で3000年前に不時着し、止むを得ずこの方法で未来に帰る途中なのだ!!」

さらにヒートアップを続け、全くドグラマグラとやらに喋らせない……(汗)


「古文書は正しかった!! わしはついにやったぞ――――っ!!」

とうとう教授は、右手の甲を向け中指を突き立てる……
かつて『敗北を知らぬ男』と称する先輩が得意だった…危ないポーズで雄叫びを上げた。


「ヤ・カ・マ・シ―――――――――イッ!!!!!」

あっ……ロボットなのに青筋立てて怒ってる。


「……ソコマデ知ッテイルナラ話ハ早イ! 悟些ゴザサンヲ、コッチヘ…」
ドグラマグラは、大柄の巫女に言った。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「心得た!」

そう答えると…お堂の光の中へ戻っていく。そして…


ずしっ、ずしっ、みしし……ぬっ

「「「「「「う、うわっ!!」」」」」」
僕らの驚きの声が重なった。











  きっと…STAND BY ME   ――― タマモの恐竜 200X(終) ―――










TAMAMO>
いきなりの登場に、茂呂君や柳国のおじさん、日須持のおばさん、助手の人達も驚いて腰を抜かし……
私と真友君は、思わず互いに寄り添った。


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「どーどーどー。

 恐れるコトは無い。この竜が人に害を為すコトはありえん」

巫女装束を着て、額に鉢巻を巻いてる…ごっつい女の人?は、恐竜の首を撫でながら言った。


体の色は茶褐色のかかったグレー、体の高さは2mほど、全身の長さは5m強くらいかしら。
背中には、某怪獣王の背ビレの様な骨板が二列になって並んでいて、尻尾には四本のトゲが在るわ。


「すてござうるすノ悟些ゴザサンダ。彼ヲ私ノ時代ニ届ケル事ガ、私ノ目的ナノダ」
土偶モドキは皆にそう言った。



ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「そこの神官の少年、この時代の竜神神社の者か? えらく寂れてしまった様じゃが……」

真友君は唐突に聞かれ…
「えっ!? いえ、あの……神職の格好をしてても…僕は……
 それに、近くの氷室神社からの手伝いで………」

真友君、言い掛けて戸惑ってる……このお姉さん、やっぱり…昔の竜神神社の人かしら…?
今の神社のコトを知ったら…ショックよね……

「何? 氷室神社と申したか?」

ごっついお姉さんは、眉をしかめながら問い返す。

「あの…あなたが竜神神社の方でしたら、その…竜神神社は……もう…」

真友君…慎重に伝える言葉を選んでいる。


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「心優しき少年、気を病むでない! このやしろの有り様が全てを雄弁に物語っておる。

 それに…わらわも、竜神神社の者では無いゆえ……」

そう言って私たちに微笑む。

「実は、竜神神社を祀る里の者に請われ……
 土偶羅魔具羅殿の時の道行みちゆきの助太刀に参ったのじゃ!」

そして、今度は私の方を向いた。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「そなた、おキヌと姉妹のちぎりを結んだ娘子じゃな……」

えぇ!?
「な、何で……そのコトを……?」

「ふむ……それを話せば、ちと長くなるのじゃが……
 時に、そなたの義姉あね……キヌには……今、氷室神社に行けば会えるか?」

「おキヌちゃんを知ってるの…?」

この人…昔、おキヌちゃんが生きていた頃の知り合いなの?

「いささかな。して…どうなのじゃ?」

「おキヌちゃん、昨日の夜……急ぎの仕事で東京へ帰っちゃった……」

それを聞いたごっついお姉さんは、とても寂しそうな顔をしたの。
何だか…ひどく申し訳ない気持ちになった。

「あの……」
何て言ってあげたらイイんだろう…?

「良い! そなたを困らせるつもりは無かったのじゃ。 

 もともと今生コンジョウで……キヌに会えぬコトは存じていた。
 されど…時の道行きなど、奇跡の様なコトゆえ……あるいは?…と思ったまでじゃ」

軽く首を振り、にっこり笑ってそう言ってくれた。そして…


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「本来、わらわが参った理由わけは…
 ここに居る賢き竜を、このまま死なせてしまうのは、あまりにしのびない。

 竜神神社に伝わる、イニシエからの言い伝えとやらに従い…
 土偶羅殿にご助勢いたしたのじゃが、わらわの役目……まずはココまでの様じゃな」

彼女は、額の鉢巻を外し…私の額に巻いた。


「どうか約束してたもうせ。この竜、必ず土偶羅殿の国へ届けると…

 約束してくれるな?」

その……限りない優しさに満ちた眼差しに、思わず私は頷いていた。

このお姉さんの雰囲気……すっごく…おキヌちゃんに似ている…
ドコか早苗お姉ちゃんにも……

いや……見た目はスッゴクごっついんだけど(汗)


ぬもっ!

「いっ!?」

いつの間に? 恐竜の顔が間近に有った。そして…

『お手数を掛けますが、よろしくお願いします』
そう言って、頭を下げた。

「!!!」
きょ、恐竜が喋った!? 


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「竜も、そなた達を気に入った様じゃ。くれぐれも頼みおくぞ」

ごっついお姉さんは、私達にそう言うと…別宮の光の中に戻って行った。
そして、土偶モドキに向かって頭を下げ…

「では土偶羅殿、どうぞご用心なされよ」

「ウム! 女華殿、御苦労サン」

土偶も右手を上げて答えた。


「「えっ!? 今、女華って言った?」」

私と真友君の声がハモった!!

「待って!!」

急いで呼び止めたんだけど…
ごっついお姉さんは、すでに別宮の光の中へ入っていた。

その姿は、光の中にフッと消え……

バチッ

そして別宮のお堂に満ちていた光は、唐突に消えた。







MATOMO>
時間にして…わずか15分程の出来事だった。
途中で思い至ら無かったのは、ドラマの女優さんの可憐なイメージが強かったからか……(汗)

やはり今の人は……あの方だったのだろうか?


下宿の早苗さんの部屋で、タマモちゃんと早苗さん、おキヌちゃんと3人で例のドラマを見ていて…

「なあ…おキヌちゃん、実際のご先祖様って…どんな感じの人だべか?」
ふと早苗さんが聞いた時…

「養父さんに、道士様の面影は残っていますね」

「そうだべか……なら女華姫様は、わたすに似て可愛いかったべか?」

「え〜〜っと…………姫様は、凛々しくて、誠実で、誰にもお優しくて…
 学問にも秀でておられ……………とてもハンサムな方でしたよ。
 
 ……………生き方が…」


そんな答えだったそうだ。そして武芸にも秀いでていたとか……

あのドラマでは、村人を苦しめていた山賊を姫様が自ら退治したりもしていたっけ。
それって、ついさっきまで原作者が創作したエピソードだろうと思ってたんだけど……

あの人が、あの方だとすれば……有り得る話……(大汗)



閑話休題!置いといて


「サテ、アト6時間デ暮六くれむつ…スナワチ日没トナル。
 ソノ際、最後ノたいむげーとガ開ク。

 ソレマデ、諸君ニ悟些ゴザサンノ保護ノ協力ヲ要請スル」
そう遮光器土偶の様なドグラマグラは言った。

ちなみに暮六ツとは、例の太陽の動きで時刻を表す時刻区分で、とりの刻とも言う。
この前後が、いわゆる逢魔が刻ってヤツだ。

今の時期、この辺りの日没は6時少し過ぎだ。


「わかりました! 我々もこの時代の人間として後世のため協力しましょう!!」
柳国教授は言い。

「急いでステゴサウルスを車のカーゴへ、爬虫類をこの外気にさらし続けるべきでは無いわ!!」
そう日須持所長が促した。

「諸君も早く乗りたまえ。春とはいえ…まだまだ底冷えする」
柳国教授は、そう僕達にも声を掛けてくれた。


「麦田君! 例の準備を」

「はい!」
トランスポーターに向かいながら、ボブカットの助手に柳国教授は何やら指示をした。

「何の準備をするの?」

タマモちゃんがいぶかしげに聞くと、助手…麦田さんは……

「え? ……食事の準備です。
 ステゴサウルスと……人間の分もね」


「お嬢ちゃん、ずっと提げているクーラーボックス。
 ずいぶん重たいでしょう。うちの助手に運ばせるわよ」

タマモちゃんの持つ、鈴木さんの入ったお出掛けキャリーを指差し、日須持所長が言った。
当然、タマモちゃんは断わっていた。


えっ!? 『そんな重そうな荷物をタマモちゃん一人に持たせて…お前達は何をしているんだ!』って……?

それは大丈夫なんだ。
首長竜用お出掛けキャリーには、ケーバライトが使われてて重力制御が効いているから…
持っていても、ほとんど重さを感じないんだ。

その辺りのコトは、茂呂って案外抜かり無い。


ケーバライトなんか知らないって…? 学校で習わなかった……?

まあ…簡単に説明しておくと、ケイバーリットと表記される場合も有る有名な重力遮断物質だ。
その存在は、1901年にイギリスで発見された。

それから百年たっても、実用化の成功例は極めて少ない。

しかし茂呂のおじいさんは、時空艇を始めとして…飛行能力を有するメカには全て使用している。


「真友君!! 何やってんの!!」

ゴメン! タマモちゃんを待たせると恐いから……くわしくは自分でググってみて。






TAMAMO>
3日目 PM2:09


「ごちそうさま!」

麦田さんとやらが昼食に用意してくれたのは……

何か香ばしいフレーバーの素材を生地に練り込んである…お蕎麦の様な褐色の自家製の生パスタ。
それに砕いたカボチャの種をバター炒めたものが入った豆乳のベースソースを絡めて…
ドライトマトの細切りと、こんがり焼いた油揚の細切りををトッピングした……

素朴だけど、こんな場所で出してくれたお料理にしては手の込んだ品だった♪

知ってる?
おキヌちゃんによるとね……カボチャの種って、犬族の体にとってもイイんですって。
トマトも取り過ぎなければ、問題無いのだそうよ。

中南米でマヤ文明の遺跡の研究をしている時に…麦田さんは、こうした料理を身に付けたのだと聞いたわ。

現地では、フレッシュチーズを使ったソースだったそうだけど…
入手し易い豆乳を使ったソースにアレンジし、油揚を加えてコクをカバーした事に彼のセンスを感じるわ!

真友君、料理上手な男ってポイント高いわよ♪


麦田さん、大皿に山盛り作って来て…柳国のおじさんも交え、皆で取り分けた。
それでも…はじめ、一服盛られてるんじゃないかって…私は真友君たちに目配せしたわ。

すると…
「僕が発明した“お毒味君”で調べたところ…毒や睡眠薬の類は使われていない」

茂呂君は、自分のナップサックから見鬼君を小さくした様なメカを取出し、料理をチェックして言った。
一昨日、シロが釣った大きな古代魚もね…このメカで食べられないって調べたの。

でも茂呂君……私から疑っておいて何だけどさ……そこまで堂々なのは…ちょっと(汗)


「私ニハ、同行者ノさばいばるノタメ、人体ニ有害ナ物質ノさーち機能ガアル。
 コノ食事ニ問題ハ無イ。カエッテ今夜、元気ニナッテ大変カモシレンガ♪」

茂呂君の言葉を受けて土偶モドキも保証した。
でも…夜、元気になるって……こいつ、ロボットのくせに何言ってんのよ…(////)


トランスポーターの中にキャンピングカーの様なキャビンが在り、そこで私達は食事を取った。
大きな覗き窓からカーゴの中の様子も見え、勝手におかしなコトをされる心配も無い。
でも…カーゴの奥、悟些ゴザさんの巨体の向こうにも扉が有り、別なスペースも在るみたいね。

カーゴの中で、悟些さんを調べていた日須持のおばさんとメガネの助手がキャビンに戻った。


おばさん、大皿に残っているパスタを自分の皿にゴッソリ取りながら…
「ちょっと!!
 あのステゴサウルス、外科的には脳や神経をイジった形跡も無いのに…あの知能の高さは何っ!?」

助手の人も負けじと大皿にフォークを伸ばし…
「そうですね。彼の言ってるコトって、教授より…よっぽど含蓄に富んでましたね」

「どういう意味よ?」

「いや……発想が哲学的と言うか……
 爬虫類なのに、教授の様に刹那的に生きて無いとイイますか……」

「お前はもう格下げだぁ―――っ!!」

余計なコトを言った助手の人は、日須持のおばさんの鉄拳を喰らって血の海に沈んだ。


「あんた達、あのステゴサウルスにどんな改造を加えたの?
 それから…未来に連れ帰ってどうするつもり?」

日須持のおばさんの問いに…

「ウム! 順ヲ追ッテ話スナラバ、ソモソモ…
 我々、たいむぱとろーるノ仕事ハ、正シイ時間ノ流レヲ維持スル事ナノダ!
 
 逆行ヤ…たいむすりっぷ能力、アルイハ無許可デたいむましーんヲ使ウ等ノ手段デ…
 歴史ノ改ザンヲ企テル愚カナ者ガイル。
 
 ソノタメ、我々たいむぱとろーるニハ“たいむてれび”ノ監視網ガアルノダ。
 全世界・全時代ヲ通ジテ、時間ノ流レヲ監視シテイル。
 
 時間ヲ遡ッテ、歴史ノ流レヲ変エヨウトシタ事ガ確カナ場合…
 ソノ者ハ、スベカラクたいむぱとろーるニ存在ヲ消去サレル。

 シカシ、悟些ゴザサンノ場合、全ク異例ナけーすナノダ!」







MATOMO>
「と…言いますと?」
僕は合いの手を入れた。

「白亜紀ノ初期…アル日突然、一頭ノすてござうるすガ進化シタ!!

 彼ハ気付イタ…『我思う、故に我あり』ト」

おいおい…デカルトのコギト命題を1億年以上前に…?

「ドンドン進化シタ…『地球ってのは丸いんだ。そして太陽のまわりを…』トカ…

 トコトン進化シタ…『サインコサインタンジェント』カラ…
          『全てのモノは相対的である』、『E=mc2』ニイタルマデ……」

特殊相対性理論の質量とエネルギーの等価と定量の関係式まで……(汗)

「ダガ彼ハ、むなシカッタ…………」

そりゃあ……
同類は全て、ぼ――――――っとした爬虫類の思考だろうから……


「ダガ、ソンナ事ハ置イトイテ!!

 当然、悟些ゴザサンノ近クニ棲ム肉食恐竜達ハ、彼ノ仕掛ケタとらっぷ等ニ引ッ掛カリ…
 コトゴトク痛イ目ヲ見タ。

 問題ハ、ソノ中ニ…将来、まぷさうるすニ進化スル中核トナルデアロウ、
 あろさうるす類ノぐるーぷガ生息シテイタ事ダ!
 
 コノママ放置シテオクト、白亜紀ノ生態系ニ壊滅的ナ影響ヲ及ス事ニナル!!」


マプサウルの知名度は、ティラノサウルスほどじゃないけど…
実は、ティラノサウルスと並ぶ…白亜紀の食物連鎖の頂点に君臨した大型肉食恐竜だ。

小型恐竜から進化したティラノサウルスとは異なり…
こちらは、ジュラ紀からの代表的な肉食恐竜アロサウルスから進化したと言われている。

最近の研究では、共食いした形跡なんかも有る先祖のアロサウルスと違い…
マプサウルスの方は、大型の草食恐竜に対し集団で狩りをしたのでは?とか…
さらに、親子で生活をしていたのでは?等とも言われている。


………え"っ!!! ………アロサウルス類の…親子…………?(汗)


その時、日須持所長が…
「そんな大昔の生態系がどーしたって話なんかど―でもイイのよっ!! 
 じゃあ、あのステゴサウルスは、未来の人間が改造したんじゃ無くて自然に進化を遂げたと!?」

「大昔ノ生態系ガ、ド―デモイイッテ…オ前、本当ニ科学者カ?」

「現に今現在、私達の時代に異常は無いわ!
 そのために、あんたがステゴザウルスを連れ出したんでしょ!!」

「ソウナノダ…我々、たいむぱとろーるガ過去ニ干渉スル際、必ズ…コノ……」

そう言うとドグラマグラは、一枚のカードを取り出した。

「コノ“ちぇっくかーど”ハ、ソノ物ニ手ヲ加エルト歴史ガ変ワルカドウカ調ベル事ガ可能ダ。

 スナワチ悟些ゴザサンノ進化ノ理由ガ…
 神ノ悪戯イタズラダロウガ、何者カノ仕業しわざニ寄ルモノダロウカ…

 モハヤ、コノ時代マデノ歴史ノ流レトハ無関係ダ…!」


そ、そうか…!!
あー良かった!!

じゃなくって…確認しておかねば…

「それで……仮に悟些さんの進化の原因が人為的な場合、その犯人をどうするんです?」

「フン!! ソノ場合、私ノ事故ノ原因モ…同一犯ニヨル無認可ノ時間移動ガ原因デ…
 時脈ガ乱レタトイウ事ニモナル。
 
 見ツケ出シタラ時間法ノ名ニオイテ、必ズ存在ヲ消去シテヤル!!」

「消去! ……って、殺すんですか?!」

「人聞キノ悪イ事ヲ言ワナイデクレ。過去ニ遡ッテ、最初カラ生レナカッタ事ニスルダケダ!」


生まれなかったコトにするだけ……(汗)
それ…本人に取って、殺されるのと変らない……イヤっ!! 返ってタチが悪い。

見ると…案の定、茂呂も顔一面…漫画の様に汗だらけになっていた。

やっぱり、アレか……
フミさんに無断で時空艇を持出した時、お前が失くしたおかしなダンゴが元凶か……(大汗)


「ドウシタ? 君達、ヤタラ心拍数ガ上ガッテイル様ダガ?」

「イエ!! 別に……
 そ、そうだっ!! きっと…悟些さんが進化した原因は、お約束のアレです!!

 宇宙から降り注ぐ…生命の進化を司る謎の超エネルギーゲッター線ですっ!!」







TAMAMO>
「ドグラマグラ様。お食事の準備が整いました」

外に出ていた麦田さんが戻って来て、土偶に声を掛けた。

「何? あんた、ロボットのくせに食事なんかするの?」
私が聞くと…

「本来、私ハ1000年カソコラハ、作動デキル造リナノダガ…
 セッカクぷるとにうむヲ用意シテクレルト言ウ話ダカラ♪」

そう言うと…
土偶は、何やらウキウキした足取りで、柳国のおじさんや麦田さんと一緒に車外へ向かう。


……プルト…………
それって……物凄くヤバイ代物じゃない……?

「ちょっと! 真友君、茂呂君!」
急いで声を掛けたら…

二人は真っ青な顔で……おかしなブロックサイン?で会話していた。
………何やってんのよ……こんな時に(怒)


アレ…? 
私、何だか胸がドキドキして…少し息苦しい…… 

でも…
「もう!! しっかりしてよ!!」

そう言って、思い切り張り飛ばすと…ようやく二人も事態の悪化に気付いた様で…

私達は、皆を追って車外に出た。







MATOMO>
タマモちゃんに促され、僕と茂呂が外に飛び出すと……


「では…我々が食事している間、麦田君に深い穴を掘ってもいらいました。
 で、ドグラさんには、その中に入っていただく!」

そう柳国教授に言われるままに、ドグラマグラが穴に入ったトコだった。

「デ、ドウスルノカネ?」
穴の中からの問い掛けに…

「火のついたダイナマイトを放り込んで…!!」

止める暇も無く…
柳国教授たちは、穴の底目掛けダイナマイトや手榴弾をバラバラ放り込み……

「蓋をするのですっ!!」

そう言って、側に用意していた大岩で穴を塞ぐ。


ボムッ!!


一瞬、塞いだ大岩が浮き上り閃光と煙が……(汗)


「あんたら、さては…!! 横取りする気ねっ!?」

タマモちゃんが、柳国教授に迫る!

「生きた恐竜だぞっ!!
 こんないいモノ、科学者として見過ごせるかっ!!」

「………オイ! あんた…考古学者だろ?」

平成2年の増刊サンデーに元ネタが掲載されて以来…
いったい何十万人の読者が思ったであろう?…ツッコミを茂呂が口にする。


「だめよっ!! 私、あの女の人と約束…」

タマモちゃんは、そう言いながら掌に必殺のファイアーボールを造出して身構え…
僕と茂呂は、教授の行く手を遮ろうとした。ところが…

ぐらり…
タマモちゃんは、急によろめくと…地面に片膝を突いた。


「ふぅ〜〜っ……脅かしおって、ようやく効いてきた様だな!」

柳国教授が、悪魔の様な笑みを浮かべながら言った。







TAMAMO>
何っ!? 動悸ドウキがドンドンひどくなって……体に力が入らない……


すると、日須持のおばさんがニヤニヤ笑いながら…
「悪いわね……
 あんた達が受験したGS資格取得試験の時、最新型の霊力の測定器を使ったでしょ。
 あのメカ…念力ス〇ウターの開発に私も一枚噛んでいたの♪

 あのスカ〇ターね……実は、あんた達の霊力や超能力の大きさの数値だけでなく…
 属性や弱点も知るコトが出来たの。

 まぁ…あんたの場合、そのデーターだけでなく出場登録に目を通したら…
 稲荷神の眷族だって記載が有ったから、簡単に弱点の推測ができたのよね〜〜っ!」


そう…九尾の狐と連想され兼ねない妖狐でなく、早苗お姉ちゃんのアイディアで……
同じ狐でも…氷室神社に勧請されていた稲荷神の眷族の化身として、私はGS資格を取ったのだ。

でも……あんた達、いったい何を…?


「お嬢さん、いかがでしたか? グアテマラ仕込みの濃縮カカオがたっぷり入った料理は?」

そう、ニヤニヤしながら言うのは……麦田さん!?
そうか…これってカカオ中毒!!

欲張って、あんなに食べるんじゃなかった……


くっ……日須持に、麦田ぁ〜〜っ………こいつら…燃やしてやるっ!!!
私は、渾身の力で立ち上る。


あ………ダメ……意識が……


「タマモちゃんっ!!」

前のめりに倒れそうになった私を…駆け付けた真友君が抱きとめてくれた。でも…

ダメ……このままじゃ……変身…解けちゃう……


まだ……真友君に本当の姿……見せたくなかったのに……







MATOMO>
僕の腕の中でタマモちゃんの体はドンドン縮み、九本の尾を持つ小さな子狐の姿になった。
女華姫様がタマモちゃん額に結んだ鉢巻が、ハラリと地面に落ちる。

僕は、タマモちゃんの体をしっかり抱きしめ、お出掛けキャリーを肩に…柳国教授に叫んだ。

「なんで…何でこんなひどいコトをっ!!」

「ふんっ!!
 娘のその姿を見て…まだ君は、そんなコトを言うのかね?

 正体を現したこんな化け物に、それでも味方すると言うのか?!」


タマモちゃんの体をそっと地面に横たえ、傍らにお出掛けキャリーを置く……

そして…
僕の大切な女の子を侮辱したジジイに殴りかかった!(怒)

「黙れっ!! この…クソ野郎ぉ――――っ!!!」


ぐっ……

間に割り込んだ麦田さんのコブシが……僕の鳩尾にめり込んだ。
膝の力が抜ける………


「真友っ!! タマモっ!! た、大変だっ!! フミ――――――ッ!!」

地面にキスした僕の視界の端で…茂呂が必死で助けを呼んでいた。


「坊や……今さら騒いで無駄な体力は使わない方がイイ」

そう言いながら麦田さんが茂呂に近づく。

「うわあああっ!! フ…フミ――――――――――――!!」


『カア―――ッ!! 日須持女史、恐竜の子供はその箱の中ですぜ!!』

……!? カラスが喋っている…?

「良くやったわ…ヨシカネ。
 どれどれ…邪魔よ! お嬢ちゃん…じゃなくて、今は化け狐だったわね」

そう言って日須持所長は………鈴木さんの入ったお出掛けキャリーを……
取りすがるタマモちゃんを蹴飛ばして無理矢理取り上げ蓋を開く。


しまった…あの時、お堂の裏で鈴木さんのコトを知られたのか……

何とか息を整え立ち上ろうとしたんだけれど……足に力が入らない。


「まぁ…!! 何で居るのか分からないけど、本当に首長竜だわ。
 
 それじゃ…あんたが大事そうにしている首長竜ももらっていくわ。
 心配しないで、科学の発展のためにしっかり役立ててあげるから!」

日須持所長は、タマモちゃんにそう言うと…自分の助手にお出掛けキャリーを手渡した。


「そんなに恐い顔をしないで!
 もーすぐ世界的に有名になる我々を笑顔で見送ってください」

そう言って、ニヤニヤ笑いながら麦田さんは僕と茂呂はロープで縛り上げ…
子狐の姿のタマモちゃんは、前後の脚を括られ……地面に放り出された。


「ふんっ! 化け狐にトドメを刺さないだけでも感謝するんだな」

柳国教授は、そう言い捨てて去って行き。
僕らを残して、トランスポーターは走り去った。


………ゴメン……タマモちゃん……僕に…もっと力が有れば………







TAMAMO>
3日目 PM2:47


胸が苦しくて…頭が痛い……
誰か…助けて……


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「……というコトじゃ。いかが致す」

「分かりました。やってみます」

「おい…真友、そんな一か八かみたいな方法。どーなっても僕は知らんぞ!」

真友君、茂呂君と誰…? モメて無いで……何でもイイから助けて……

「ほらタマモちゃん、口を開けて……」

何を私の口に入れたの…? 苦くて酸っぱい……うっ……

「ダメだ…吐き出しちゃう……」


「どうするのだ?」

「……フミさん、タマモちゃんの脚を押さえていてください」

「分かりました。でも康則さん、気を付けてください。妖狐の状態で噛まれでもしたら」

「構いません。一刻を争うんです!」


口に柔かい何かが押し付けられて…薄っすら目を開けると、そこに真友君の顔がいっぱいに有った。
真友君の口から、また苦くて酸っぱい液体が私の口の中に注がれた……

うっ…

「ダメだ! タマモちゃん、全部飲み込むんだ!」

真友君…………分かった。私、真友君の言うとおりにする……





……温かい………誰かがヒーリングしてくれてる?
誰? シロ………じゃないわね。あいつのヒーリングはこそばゆい。

この感じ……おキヌちゃん…?

帰って来てくれたの…!

…………ゴメン。私、鈴木さんを守れなかった。




ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……


んっ……? 何? この力強い息遣い…?
ゆっくり目をあけると…私を抱えてヒーリングをしてくれていたのは……

あの…ごっついお姉さん?!

タイムゲートとか言うのを通って、昔に帰ったんじゃ……?


「ふむ…気がついた様じゃな」

私は体を起こして、お姉さんの腕の中から降りると…人間の姿に変身した。
っと…少しフラつく。

「無理を致すでない」
お姉さん…本当に女華姫様なの?…が支えてくれた。

「ねえ…もしかして、あなたは女華姫様? おキヌちゃんの幼馴染おさななじみの……」

女華姫様が霊力を持っていると…おキヌちゃんは言って無かったけど。

「いかにも!! キヌとわらわは永年の友じゃ!!」
女華姫様は、にっこり笑って力強くいった。

「ヒーリング…霊力で治癒をしてくれてありがとう。助かったわ……

 それから……ごめんなさい。私、竜を守れなかった……」

私は礼を述べて、悟些ゴザさんの事を詫びた。

「わらわは、そなた自身の治癒力に手を貸したまでじゃ。
 回復した礼なら、あの少年達に言うが良い」

そう言って女華姫様は、真友君と茂呂君を指差す。
二人は、少し離れた所で…フミさんと土偶を交え時空艇のモニターを見つめながら議論を交していた。

土偶って、意外と頑丈なのね。

「そなたのために力を尽くしたのは、あの者たちじゃ。

 それに…あやつら竜の事もあきらめておらぬぞ!」

そう! 真友君と茂呂君、二人の目は全然力を失っていない。


「そなたは、いかが致す?」

そう問いながら女華姫様は、私にあの鉢巻を差し出した。

「女華姫様、私の名前はタマモよ! 当然、あきらめないわ!」

私は鉢巻を受取り、額に結びながら名乗った。


「ふむ…きれいな名前じゃな。

 女華じゃ、改めて宜しく頼む…!

 それから…
 今のわらわは、キヌと同じ一人の村娘に過ぎぬ。姫などと呼ばないでくれ」

そして、私達は連れだって皆の所へ向う。
女華…さんの言葉から、私はおキヌちゃんと初めて会った日を思い出していた。



転生したばかりの頃…
美神の指揮する自衛隊に散々追い回され傷を負った私は、秘かに横島とおキヌちゃんに保護された。


その夜…

「人間なんか、大ッ嫌いだ!!! 殺してやるッ!!」

妖力が戻った私は二人を信じられず、爪を鋭い刃に変化ヘンゲさせ言い放った。

でも…
「ギャンッ!!」

おキヌちゃんに襲い掛かろうとした時…脚の激痛で倒れ伏したのだ。

「足が折れてますね、横島さん、何か添え木を―――!」

「お、おうっ!!」

たった今、殺されそうになったのに…
おキヌちゃんは、倒れた私を本気で心配し介抱してくれた。

「固定してヒーリングしておくわね。

 しばらく痛いかもしれないけど…
 あなた妖力が強いから、すぐ直ると思うわ」

そして、優しく微笑んで……

「私、おキヌ、あなたは?」

「タ…タマモ………」

「へえ…! きれいな名前…!!」



「あっ!! タマモちゃん、良かった。動ける様になったんだ」
私に気付いた真友君が手を上げた。

「あんた達が助けてくれたって女華さんが………ありがとう…………」

横島とおキヌちゃんに助けられた夜と同じく、感謝してたけど……
テレくさくて…小声で礼を言う。

そう、真友君も…心を開いてイイ人間も居るんだって私に教えてくれた大切な一人。

んっ!? 何で真友君、顔を真っ赤にして目を逸らすかな。


「おっ!! タマモ、回復したのか? さすがは僕が作った薬!」

「えっ!? 茂呂君の薬のおかげなの…? ……スゴイ………
 あんた、よく…すぐにそんな薬が作れたわね」

茂呂君って…本当にスゴイ奴……

「スゴイか!? スゴイと思うかっ!?」

茂呂君は、嬉しそうにそう言うと…

「だが、新しく作ったワケではない。
 昨夜の“恐竜用 成長促進剤”を使ったのだ!

 それで体の代謝を促したの…「何てモン飲ませんのよおおおおぉ〜〜〜〜っ!!!」


ぶぉがっ!!!


私の9.5文キックフロントハイキックを顔面に受け、茂呂君が吹っ飛んだ。


「まあまあタマモちゃん……」(汗)
真友君が取成す。

「ま、待てっ!! 最初、僕は止めたのだ!!

 提案したのは、あのデッカイ姉さんだし。
 実際に、お前に飲ませたのは……真友だぞ……」

さらに追い打ちを掛け様と近づく私に恐れをなした茂呂君が、必死で言い訳する。


んっ……? 真友君が………飲ませた?

…………………………………………………………………ポワっ!!……(////)

記憶が……甦って来て………顔が火照ってしまった。


「ソンナ事デ揉メテル場合デハナイ。早ク連中ノとらんすぽーたーヲ追ッテクレ」
土偶の言葉で我に帰った。

そうよっ!!
鈴木さんを…悟些ゴザさんも助けなきゃ!!







MATOMO>
ドグラマグラに促され、僕達は打合せの行動を開始しようと立ち上る。
助かった……どうタマモちゃんと顔を合わせたらイイか分からなかったから……(////)


「ちょっと待って! どうやって連中を追うの?」

タマモちゃんの質問に茂呂が説明する。

「お前が眠っている間に僕達で追跡方法は検討した。
 幸いお出掛けキャリーの探知システムで、トランスポーターの位置は把握している。

 だが、時空艇の飛行速度は遅い。空間転移テレポートは先程、氷室神社からココまでを使用してしまった。
 時空艇による近距離の転移は、空間の歪みに与える負荷が大きく…当分使えんのだ。

 よって…
 まず真友が飛行ユニットを使って先行し、高速道路に上がる前に空から連中の足止めをする。
 
 その間に、フミとデッカイ姉さんが僕達を連れ追いかけ、連中を取り押さえる…!」

「空から足止め……って、真友君どうやって?」

「うん……取敢えず追い付いてから何とかするよ。
 茂呂の発明品も貸してもらったし……」

「私も行くわ!」

そう言うと、タマモちゃんは両手を翼に変化ヘンゲさせた。だけど…変化はすぐに解けてしまった。

「タマモ、無理をいたすでない。体は本調子とは程遠い!」
女華様がタマモちゃんをたしなめた。

「茂呂君、私にもタケ〇プターだかミノ〇スキークラフトだかを貸してよ!」
おいおいタマモちゃん……

「僕は未来から来たネコ型ロボットではない!!
 そんな便利なモノなどもっとらんわ。真友が使うのはコレだ!」

そう言って茂呂はドコからとも無く、スキー板とスティックを一組取り出した。

「昨日、僕達が使った反重力スキーだ。板にケーバライトを仕込んでいて浮遊する。
 地上からの浮遊高度の指定をオミットすれば飛行ユニットとして使用可能だ。

 操作はゴーグルに装備したバイ〇センサーから発信された搭乗者のイメージを、スティックと板が感知する。
 方向転換や減速は、スキーの要領で板の向きを変え、速度アップはスティックで行う!」

そう!! 実は… 
雪山など無い離島暮らしの僕達が、雪国育ちの早苗さんと一緒に滑れた秘密はココに有った。


「分った。私も行くから、もう一組出して!」

「残念ながらコレしか無いのだ。
 僕の使ったスキーは、お出掛けキャリーを作る時に分解してしまった」

「なら…行くのは私よ!
 あいつら…何を仕出かすか分らない。真友君が危険だわ」

そう言うタマモちゃんに僕は…

「ダメだよ!! タマモちゃんこそ危ないよ! 病み上がりなんだよ」

「真友君、私はゴーストスイーパーよ。危険なのはいつものコトなの。

 それに、おキヌちゃんに鈴木さんのコトをお願いって言われて…
 女華さんとも約束していたのに……」

「それでも…僕は君を行かせない。
 第一、おキヌちゃんや女華様に頼まれたのは、僕や…茂呂だって同じだっ!」


それに…もう、あんな思いをするのは絶対にイヤだ!!


「おいタマモ…
 浮遊高度を無制限にすれば、頼りは搭乗者のイメージとバランス感覚だけだ。
 
 転んだり、失速したり、ネガティブな光景を思いを浮べだけで…
 それをバイオ〇ンサーが即座に感知して、すぐに墜落してしまう。

 いきなり扱える様な簡単なシロモノではないぞ!」
茂呂も助け舟を出してくれた。

確かに、地上2〜10cmに高度指定して純粋にスキーをする場合と違い…
コイツで空を飛ぶのは並大抵のコトじゃない。

茂呂の開発に付き合わされた僕は…
『テストパイロットは助手の仕事だ!』とか言われ……

テスト飛行中、真冬の海に何度も墜落し…
寒くてしょっぱい思いをしたコトは数知れない……(苦笑)







TAMAMO>
「だから…ココは僕に任せてよ。ねっ!」

真友君は、絶対に譲らないつもりの様だった。

「でも……」
頭では分っても…私の気持ちが納得しない。


真友君と実際に会ったのは、数える程だけど……
私達は、毎晩の様にEメールで互いの事を話し合った。

美神の事務所のメンバーを除けば……彼は、私の一番身近な存在。
比べるコトはできないが…多分、早苗お姉ちゃんやお養父さん、お養母さんよりも……

弟みたいに可愛い……だけと思ってた。


とにかく、彼が危険な目に合うのは……絶対にイヤっ!!


「良いではないか。互いの身を案じて心を痛めているのは同じじゃ!
 少年…真友と言ったな。タマモも連れて行くが良かろう」

私達の間に女華さんが入って言った。

「連れて行けって…これ、一人乗りなんですが……」
そう言う真友君には答えず。

「タマモ、再び狐に戻って真友の懐にいだかれて行くが良い」
私に女華さんは優しく言った。

でも……



「約束してよ!! 今度また一緒に遊ぼう……!!」

「え… でも―――」

「化けたって、たいした年の差じゃないじゃん……!!

 あんまり子供扱いすんなよ!」

「いや、年じゃなくてさ… 妖怪……」

「じゃ、約束のしるしに交換だ!!」

「………………うん!」



初めて会った日の記憶がフラッシュバックした。

そうね……
真友君は、相手が何モノであろうと態度を変える様な器の小さい男の子じゃなかった。

「OK!……そうするわ。イイわね真友君」


「話ガマトマッタナラ、早ク…早ク連中ヲ追ッテクレ!!」
再び土偶が私達を促す。


「申し訳ありません。私が行ければ良いのですが……
 脳波を発信してコントロールするメカは、私では扱え無いのです」

そう言ってフミさんが私に頭を下げる。……言ってる意味は分らないが……?


「おっし! じゃあ行くよ」

ゴーグルを付け、脚にスキーをセットした真友君に呼ばれ、私は変身を解こうとして…
ふと、気になったコトを茂呂君に尋ねた。

「ねえ…あんた、あのスキー…朝からドコに持ち歩いていたの?」

だって…茂呂君、小さなナップサック一つしか持っていなかったんだもの。


「企業秘密だ!」

茂呂君は、ニヤリと笑って答えた。








MATOMO>
3日目 PM3:36


周囲に人家は無く、人通りも無い。連続カーブの続く道の両側は残雪の残る雑木林。
そこでタマモちゃんは、運転席の真上から幻術を仕掛けた。

カーブで速度を落としていたトランスポーターは、急ブレーキを掛けると大きくハンドルを切り林の中へ突っ込む。
そして木々の間に挟まり、トランスポーターは止まった。

車内から男達が次々と降りて来て、周囲の状況を確認し始めた。
いつもの姿に変身したタマモちゃんと僕は、高い木の上に潜み様子をうかがう。


「ヒヨコの大群が……
 出来ないーっ! ヒヨコを轢き殺すなんて私には出来ない!!」

運転していた麦田さん、そんな幻覚を見せられたんだ。
……僕達には平気で酷いコトをしたクセに……(怒)


「ナンなんだ? 何で…こんな所にお祭りの縁日が……」

眼鏡を掛けた日須持所長の助手が、キョロキョロしながらブツブツ言い。


「ワタガシは一個500円!! タコヤキにはタコが入っとらん!!
 だいたい風船が、こんな銀色のマクラみたいなのはどーゆーことだ!? まるで風情がないっ!!」

柳国教授は、ブルブルと怒りに震えながらも、それなりに幻想の祭りを堪能してる様だ。

とにかくフミさん達が着くまで、このまま時間が稼げそうだ…!


「何やってんのあんた達っ!! 幻覚よっ!! 正気に戻りなさい!!

 きっと…あの化け狐の娘よ。すぐ近くに居るわよ!!」

しまった! 日須持所長は、悟些さんの居るカーゴに乗っていたのか…!
当然、タマモちゃんの幻術に掛かっていない。


『カァ――ッ!! 日須持女史、ココにガキ共が居ましたぜ!!』

あのヨシカネってカラスが上空から舞い降りて来て、僕達を見つけた。







TAMAMO>
私と真友君は地上に降り立ち、日須持のおばさんと対峙した。

「やってくれたわね……お嬢ちゃん」

おばさんの苦虫を噛み潰した様な言葉はスルーして、右手を天に掲げながら…私は厳かに言った。


「おキヌちゃんが言っていた……

 人のものを盗む奴は、もっと大事なものを失くす…!」


そして、日須持おばさんに見える様に右掌に狐火を発生させた。
体が本調子じゃないので、制御が難しいんだけど……脅しに使う分には充分だ。

「大ケガをしないうちに…悟些ゴザさんを解放して!!

 そして、鈴木さんを…私の恐竜を返しなさい!!」


「あらあら…恐い。
 いくら『神様の使い』とか言っても、やっぱり霊能力者って野蛮ねぇ……

 私のよーなすぐれた人間に、こんな世話ァ焼かせたんだから…その報いは受けさせてやる!!

 そして恐竜たちは、私の名誉と科学の発展……
 ついでに、組織の理想のための資金源としても有効に使うから安心しなさい!!」

日須持のおばさんは、ものスゴイ形相になって怒鳴る。でも……組織…?

そして、おばさんが白衣の内ポケットから取り出したのは……マイク…?!

「さぁ!! 零式ゼロ!! やっておしまいっ!!」







MATOMO>
『やっておしまいっ』って……カーゴから現れたのは……犬? 
首が分らない位に太って不細工だけど……


「そこの少年少女っ!! 危険であります!! 早く全力で逃げるであります!!」

この犬も喋ってるよ……もー驚かないけど……

日須持所長がマイクに向かって…
零式ゼロ、短距離マイクロミサイル全弾発射!!」


えっ!? 犬の背中がパックリ開いて……ミサイルポッド?


バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!!

 
僕ら目掛けて、5発のミサイルが…!!

急いでタマモちゃんを抱き寄せ、スキーを後ろ向きで滑らせるイメージを全力で念じた。



ギュルルルルルルル―――――………ずももももおおぉ―――――ん!!!!!!!!



「わああああ―――――ッ!? 今のは模擬弾で無く、実弾でありました!!」 


「げほ、げほ、げほ……何とか爆発に巻き込まれずにすんだ………」
何だ!? あの犬…単に喋るだけでなく。


「おおおっ!! 生きていてくれたであります!!」

「ちっ! 逃がしたか」

「日須持所長殿ぉ―――っ!!
 ちょっと待つであります!! あの少年少女を殺すつもりでありますか?!」

「当然でしょ!
 あの娘は人外の化け物で、一緒のガキもそれに加担する者なのよ!!

 内蔵9mmマシンガン発射!!」

「ああああぁぁぁ〜〜〜〜っ………自分の体が止められないであります!!」


ズダダダダダダダダダダダダダっ!!


僕は、小刻みに反重力スキーを操作して、攻撃をかわす。


「このぉ――――――っ!! 喰らえ!!」

タマモちゃんが、ゼロと呼ばれている犬に向かい熱火球を放った。


プスン、ジュー……


「―――――!? あ…あれ?」
タマモちゃんが茫然と言う。

攻撃の火球は、ゼロの数m手前で掻き消えてしまったのだ。


「ダメなのであります!! 自分には霊力や超能力の攻撃は通じないのであります。
 とにかく今は、ひたすら逃げて欲しいであります!!」

そうか…! あの犬の周囲には……

「タマモちゃん…多分、あの犬は自衛隊の軍用サイボーグ犬だ。
 あいつ、霊力や超能力を無力化するECMフィールドを装備しているんだ」


サイボーグ犬部隊……
その存在は公表はされてないが…先の自衛隊海外派遣の際、現地で目撃されたとネット上で噂されている。

そして、この場合のECMとは一般的な電子対抗手段(Electronic Counter Measures)では無い。
近年、軍事的に重要度を増した超能力対抗措置(Esp Counter Measure)の方だ。


「何でそんなのが出てくるわけ?」
目を丸くしてタマモちゃんが聞く。

「フンっ! 教えてやろうではないか」

柳国教授?……あの犬のECMで、幻覚が解けたのか!
幸いなコトに少し離れた場所に居る助手達は、まだ幻覚の中をさ迷っている。


「エスパーや霊能力者は、人間では無い!!

 エスパーや霊能力者を嫌う者は、どこにでもいる……!!
 我々は、その代表として、断固貴様らと戦うのだ!!

 氷室神社の娘が三人とも、我々の理想に仇を為す…
 タチの悪い霊力を持つ者だと言うコトなど、今回の事を起こす前に調査済なのだ!!

 長女は、高レベルのチャネラーで、しかもテレパシーと霊力のブースト能力も持ち。

 次女は、霊能力や超能力を持つ者を世に送り出し続ける…忌むべき六道グループ…
 その総裁夫妻の秘蔵っ子とやらで……しかも、世界有数のネクロマンサー。

 三女に至っては、人の皮を被った稲荷神の眷族の化身だなどと……

 全く、何て罪深い家系なんだっ!!」

柳国教授は、ゆっくり歩みながら興奮して語る。


そうか!! こいつら……
「あんたら、超能力排斥団体……」

「そうとも!! 我々は『普通の人々』!!」

ぼッ!! 
「アチチチチチ――――――――――っ!!!!!!」

興奮のあまり、ゼロという軍用犬から離れた柳国教授にタマモちゃんが熱火球を放ち…
火ダルマに成った教授はECMフィールド内に駆け戻ったが、アフロヘアーに成ってバッタリ倒れた。


「ちっ!! ECMとかの影響で、狐火の威力がサッパリだわ。

 死な無かったのなら覚えておきなさい!! 
 私の家族は『罪深い』なんて言葉から最も縁遠い人たちよ!!」

柳国教授は、タマモちゃんの逆鱗に触れ…あっという退場した。


ゼロも柳国教授を全くかいま見ず…

「先程、少年の察した様に、自分は自衛隊サイボーグ犬部隊所属、零式犬佐ケンサであります。

 先日、海外派遣より帰還を果たし…
 東都大生物研究所で生体部分のチェックを受けていたはずなのでありますが……

 はッ…恥ずかしながら――――!!
 自分は今、脳神経パルスをコントロールされて日須持所長の命じる攻撃命令を…

 自分で止められないのであります――――――――っ!!」


ズダダダダダダダダダダダダダっ!!


人間のタマモちゃんを抱えながら…このまま弾丸を躱し続けるのは、難しい…
日須持所長は、タマモちゃんの攻撃を恐れ、あのゼロとか言う犬を自分達の近くから放さないはず……

一度、子狐に戻ってもらい上空に戦略的撤退をするか…?


「あら…お嬢ちゃん達、もしかして尻尾を巻いて逃げる算段でもしているのかしら?

 逃がさないわよ!!
 零式ゼロ、対妖魔及び超能力戦用超出力アンテナ展開。モジュ〇ーションジャマー送信開始!!」







TAMAMO>
不細工な犬の肩から、奇妙なアンテナが生えたかと思うと……

突然、頭の中で、キイイイイ――――ンって音がした。

真友君の首にしがみ付いていた腕の力が抜け…私は反重力スキーから転がり落ちた。

「タマモちゃん!?」
すぐに真友君が引き返して来てくれた。だけど…

「真友君…割れる様に頭が痛くて、体に全然力が入らないの……元の姿にも戻れない。
 私を置いて、真友君だけでも逃げて……」

「なに言ってんだよ…!」

そう言って…2本のスティックを左手で持ち、右手で私の体を抱き支えてくれる。
でも…それじゃ反重力スキーの操縦が……


「くっくっくっく……
 吸血鬼ノスフェラトウの都庁占拠、植物妖怪による首都圏麻痺、そしてアシュタロス事件。

 政府が一昨年から続いた大規模な霊障対策の一環として、対神魔族用に開発させている…
 攻撃型のECM、モジュレー〇ョンジャマーよ!!
 
 現段階でも超能力者や霊能力者、妖怪が相手なら充分な効果が実証されていて…
 能力を消すだけでなく、苦痛を与えて完全に行動不能にできるの。

 こんなに高い出力を浴び続けるとね……死んじゃうコトもあるみたい。

 柳国教授が『普通の人々』は、どこにでもいると言ったでしょ?
 最新鋭の装備も入手可能なのよ……!!

 それを秘かに零式ゼロの体内に装備しておいたの♪」

動けない私たちをサイナむ様に、日須持所長は楽しそうに言葉を続けた。






MATOMO>
「日須持所長殿ぉ―――っ!! 
 こんなコトをして……自分が原隊に復帰すればタダでは済まさないであります!!

 もうバカな事は止すであります!!」

そんなゼロの言葉を、日須持所長はあざ笑う…

「あら! 零式ゼロ、大丈夫よ。あんたがサイボーグ犬部隊に戻るコトは有り得ないから。

 先日、東都大生物研究所が火災で全焼しちゃってね……
 その時、引火した零式犬佐ケンサは、爆発四散して名誉の事故死を遂げたと報告してあるの。
 
 あんたが再会を楽しみにしていた飼い主には、『九段に逢いに行って…』と連絡してあげるわ。
 これからは、我々『普通の人々』の理想のために役立ってね♪ 零式犬佐!!」

「くううううぅぅううぅ―――――ッ!! 止むを得ないであります!!
 奥歯に仕込んだ自爆スイッチで――――……ガチッ………………………………」

「自爆スイッチ? 外しといたわよ」

「ちくしょ―――!! ちくしょ―――!! ちくしょおおお――――っ!!」


ギャンギャンわわんっ! わんわんっわお〜〜〜〜んっ!!


ゼロは…
極限まで達してしまったストレスから逃れる、唯一可能な転移行動として……

全く意味の無いムダ吠えを始めた(汗)

懐の中に茂呂から預かった発明品があるのだが…ココからでは遠すぎる……


「ええ――――い!! うっとうしい!! もう終わらせなさいっ!!

 零式、40mmグレネード発射!!」

「わんわんっ…て、ぎゃあああああぁ―――っ!! 少年少女、すまないであります!!」


ズゥウウウウぅ――――――ンっ!!


ランチャーが発射され、僕はタマモちゃんに覆い被さり目を瞑った。


どぉおおおおおおおぉ――――――ん!!!!!!


爆発音が轟き、熱風と砂煙は浴びたものの……


あれっ!? 生きてる…?


爆炎の中……身を挺して僕たちを守ってくれた………


フミさん……!


「フ…フミさん…!? ロボットだったの!!」
腕の中でタマモちゃんが言った。







TAMAMO>
炎の中、膝を突いてしまったフミさんはヨロヨロと立ち上がった。
左腕が千切れ、メイド服は煤けて……体のアチコチから火花を発している。

それでも、フミさんは私たちの方を振り向いてニッコリ笑って言った。

「大丈夫ですかっ? 二人とも!?」

そして、私と真友君をかばう様にゼロとか言う犬と対峙した。


「化け狐と首長竜の次はロボット…? 
 あの神社、どこまで『普通』じゃないのよっ!! 内蔵9mmマシンガン撃てえ―――っ!!」


ズダダダダダダダ!!  カンカンカンカキンっ!!


ゼロからの銃弾を、フミさんは自分の体で遮ってくれる。
でも…もう彼女の体は満足に動けない様だった。

カタタタタタタっ………

とうとうゼロのマシンガンは弾切れを起こした。ところが…

「ええ―――いっ!! 面倒よっ!!
 そのロボットを対戦車HEATヒートロケット弾で焼き払いなさい!!」


「のおおおおぉぉおおぉ――――ッ!! ロボットの姉さん、許して欲しいであります!!

 たった一つの命を捨てて、生まれ変わった不死身の体が憎いであります!!」


バシュッウウぅ――――――ンっ!!


「「フミさああぁ―――――――んッ!!!!」」
私と真友君の叫びが重なった。


シュっ!!


その時、何かが飛来し私達の横を通り過ぎた。


ぶわっああああああ〜〜〜〜〜ん!!!!


ロケット弾は飛来した何かに打ち抜かれ……ゼロとフミさんの間で火球となった。


「間に合った様じゃな!」

忍び装束に身を包み、土偶と茂呂君を連れた女華さんが駆け付けてくれたのだった。
でも、信じられないけど…今、ロケット弾を打ち落としたのは……女華さんが放った手裏剣(汗)


「フ、フミ――――っ!!」

慌てて茂呂君がフミさんに駆け寄った。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「悪漢どもめ。わらわが相手じゃ! 覚悟いたせ!!」

忍び刀を抜いて、そう言った女華さんの迫力に…

「ちぃ! 格闘戦バトルモードに変形して返り討ちにしなさいっ!!」

日須持のおばさんが叫ぶ。


ゼロの短かった前足が伸び鋭い爪を生やし、後ろ脚はジェットノズルに変じる。
顔はカメラアイが3つ付いたゴーグルで覆われた。

「ふむっ! 怪しき犬め、尋常に勝負!」

そう言うと女華さんは、傷ついたフミさんをかばうべく勇んでゼロに走る! その時…

「ダメですっ!! その犬に近づいたら!!」
真友君が叫んだ。






MATOMO>
ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「ぐううぅ……な、何じゃ…!?

 この…船酔いと二日酔いを足して、2を掛けた様な頭痛と不快感は……」

タマモちゃんを支えたまま反重力スキーを滑らせ、膝を屈してしまった女華様の側へ急いだ。

「あの犬は、近づくと霊力を持つ者にのみ苦痛を与える特殊な波動を発生させています。
 タマモちゃんも、その波動にやられて……」

「抜かった……これでは動けぬ…!
 ともかく真友よ。この波動を受け続けては、病み上がりのタマモにとっては危険じゃ…!」

「わかっています。茂呂、フミさんは大丈夫か?」

「ダメだ…当分動かせない」
茂呂が肩を落として答え。

フミさんは、いつもと違い抑揚の無い声で…
「動力…部破損…!! 自己…修…復中…!!」

しかし…膠着コウチャクが続けば、状況は僕達にドンドン不利に成っていく。

僕達は、タイムゲートが閉じるまでに悟些ゴザさんを竜神神社に戻さねばならないし…
何よりも、もうタマモちゃんの体が持たない!!


「あらあら…どうしたのかしら?
 助っ人の忍者も動けない……そうか! エスパーか何かだったのね!

 化け狐のお嬢ちゃんも、もう限界の様だし。零式ゼロ、この子達を始末しなさい」

もともと気が短いのだろう日須持所長の方が、先に膠着に耐え切れなくなった。


「少年たち、ジッとしておくであります。
 モーションセンサーが周りじゅうの物体を敵と認識してしまうであります―――!!」

そう、僕達の身を案じるゼロの言葉とは裏腹に…
彼のボディは爪をギチギチ言わせながらゆっくりと探る様に前進を始めた。


「ゼロ犬佐ケンサ! 体の自由を取り戻す方法は無いんですか?」

僕は僅かな期待を込めて聞いた?

「首輪に緊急時の手動非常停止スイッチのが在るのでありますが…

 もう自分では、スイッチを引けないのであります――――!!」


非常停止スイッチ…?
動けるのは僕と茂呂、それにドグラマグラだけ……

「茂呂っ!!」

「おおっ!! フミの仇を取るぞ!!」

茂呂も即答する。こんな時、僕達に言葉はいらない。


「3人ともジッとしているんだ…!
 女華様、タマモちゃんとフミさんをお願いします」

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「うむ! 用心いたせ…!」


「真友君……」

女華さんに託す時、タマモちゃんが心配そうに僕を見上げて言った。

「怖くないよ……! 僕に任せて!!」

「………うん……」

少し間を開けてタマモちゃんは、『きゅ…』と僕の手を握って頷いた。


「オイオイ…!? 何ノ真似ダ?」

僕はドグラマグラを脇に抱えると反重力スキーを滑らせゼロに向かう。
左のスティック1本の操作だが……

やるしかない!!

少し遅れて茂呂も駆け出した。


「少年、ダメであります!!
 近づく者には自動的に攻撃してしまい、自分では止められないのであります――――っ!!」

僕は間合いを計りながら、ゼロを誘導する。


ギュイ―――ン!! ギュイ―――ン!!


ゼロの爪が体のそばを掠める…それでも、反重力スキ―を必死で操った。
……気を強く持って、ネガティブなイメージが浮ばない様にしないと…

べきっ!!

攻撃を真上に躱した時、爪が当りスキー板が砕けた。


落ちる! …でも、今だっ!!


「遮光器土偶っバリアあぁああああぁ――――ッ!!」

「ワッ!? ワッ!? 何ヲスル!!」


僕はゼロに向かってドグラマグラを蹴り飛ばした。
ゼロの攻撃がドグラマグラに集中する。

ゴメンっ…!!

でも、あれだけの爆発に傷一つ付かないボディだ。これくらい大丈夫っ!!

……………多分(汗)

そして、蹴った反動でゼロの背後の地面に転がった僕は…懐から小さな筒を取出す。
筒にはパーティーグッズのクラッカーの様に紐が付いている。

僕はゼロの背中目掛けて紐を引いた。


バシュッ!!


投網が広がり、ドグラマグラに更なる攻撃を加え様と迫るゼロに被さった。

茂呂の発明品の小さな筒の中には、圧縮された強靭な投網が入っていて紐を引くと高圧で撃ち出されるのだ。
白亜紀の海では、出番が無かったが…


がしッ!…ぐッ…ザザザッ……びんっ!


引き摺られそうになりながら…僕は渾身の力で投網を引いた。
何が何でも…僕がゼロの動きを止める!

「茂呂っ、今だ…!!」







TAMAMO>
私は女華さんに体を支えてもらいながら…真友君を見つめていた。
真友君は土偶を囮にして…ネットを撃ち出して犬の体を絡め取り、懸命に押さえている。

あのネットも茂呂君の発明品…?!

「茂呂っ、今だ…!!」

「おおっ!!」

動きの止まった犬の首にドライバーとレンチを持った茂呂君が飛び付いた。


ガッ!!


………どうなったの……? 


んっ……!? 唐突に頭の痛みと不快感が治まった。

真友君と茂呂君が、犬とドグラマグラを連れて急いで帰って来る。


「わ――――、首がスースーするであります――――!」

ゼロとか言ったサイボーグ犬の体は、元の短い四肢の犬に戻っていた。

非常スイッチの影響なの…? 
首だけメカの骨格が剥き出しに成っている姿は……かなりグロい(汗)


でも、苦痛と虚脱感は治まったものの…
まだ霊基中枢の痺れが治まらず…しばらく狐火や幻術は使えないみたい。



ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「ううむ…この時代の者どもは何とも面妖な技を用いるのじゃな…」

刀を納めた女華さんは首を振りながら立ち上り、日須持のおばさんに勧告する。

「さて、残るはその方のみの様じゃが…おとなしく降伏いたせ…!」


日須持のおばさんは、顔の前に上げた両手を真っ白になるほど握りしめ…目を血走らせて言った。

「降伏? ふざけるんじゃわよ!!
 超能力や霊能力など持つ…普通じゃない者たちに……

 あんた達は、存在が卑怯、不公平なのよ。
 我々、『普通の人々』が目指しているのは公平で平等な理想の世界っ!! 
 
 そう!! 平等な世界を目指す我々の栄光! そして…天才たる私のプライド! 

 やらせわせん!やらせわせん!やらせわしないわっ!!」


「ふむ…我ら霊力を持つ者の存在が不公平と申すのか…?
 されど、霊力など持出さずとも、もともと人生とは平等ではない。

 生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な体を持つ者。
 生まれも育ちも才能も皆、違っておるのだ!

 わらわの良く知る娘は、親を知らず人に預けられ…
 その育ての親をも亡くし…

 されど…
 妬まず、嫉まず、挫けず、諦めず、いつも笑みを絶やさず、前向きで…

 常に自分より弱き者、小さき者を守り、血の繋がらぬ幼子たちを実の姉以上に愛しんだ。

 我が身を省みず、常に周りの皆に幸を与え……

 そして、その娘は…
 大勢の人々を守るため、わらわの身代わりと成って…自ら過酷な死を選んだ……
 
 人とは…かくもトウトく生きれるものか…!
 わらわも、かく在りたい。わらわは、その友より学んだのじゃ!!」


尊く生きる……かく在りたい。
女華さんは、大名の娘としての全てを捨て…その子に代わって血の繋がらぬ子供たちの姉となったんだ。

そう…
『人間社会の常識を身に付けさせる』と言われ、美神の事務所で暮らした私も…

物事の善悪…そして、人と共に生きる大切なコトは…… 一番、その子から学んだのだと思う。


「それって…例の巫女伝説…?

 あのタイムゲートは300年から……
 くっ…そうか!! あんたの正体は氷室神社の初代……

 だから何よっ!! そんなきれいゴト……

 天才の足を引っ張ることしか出来ない俗人に、何が出来る?
 常に世の中を動かしてきたのは、一握りの天才だわ! 」

しかし日須持のおばさんは、そう…うそぶくだけだった。その時…

フ―――ッ、フ―――ッ、グルルルルルルッ……







MATOMO>
「怖くない! エスパーなんて怖くないぞっ!! 怖いのは格下げだけだっ!!」

日須持所長の眼鏡の助手! 正気に戻っていたのか? 
彼がトランスポーターから連れ出したのは…

巨大な一頭のヒグマだった。

「出かしたわっ!!
 さあっ!! 『青カブト』、あんたの最強熊の力を見せてちょうだい!!」

『クックックッ、日須持女史……
 こいつらを始末したら、俺を自由にしてくれると言う……このメガネの言葉に偽りは無いだろうな?』

当然の様に…この熊も人間の言葉を話す。そして、僕らに向かい…

『うはははははっ!!
 そこのガキども、お前達に怨みは無いが…俺の野望の踏み台となってもらうぞ!!

 この青カブト様の本来のパワーと日須持に強化された知能を持って、最終目標は全国制覇だ!!』
そして、ゆっくりと近づいて来る。

「も、茂呂…! 何か隠し玉の発明品とか無いのか?」

と…僕が聞くまでも無く、すでに茂呂はナップサックを掻きまわしていたが……
焦った時のドコかの猫型ロボットの様に、役に立た無い道具が次々周囲にと飛び出していった。(大汗)


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「さて…真友にタマモよ。
 時の道行きで出会ったフミ殿に無理を言って時の船に乗せてもらい…
 
 せっかくココまで出張ったのじゃ!!
 帰る前に、わらわも少しはお主らの役に立っておかんとな…!」

そう言うと、女華様は青カブトとかいうヒグマに相対した。
正直、僕達はもう充分に彼女に助けて貰ってはいたのだが……


『ん……? 人間の分際で俺様に刃向かう気なのか!?』

そう言ったヒグマの懐へ、女華様は無造作に進むと…鋭い踏込みの音と共に右の拳を放つ。

『グォ…!?』

女華様は牽制のため、ヒグマの懐を軽く打った様に見えたのだが…
その一撃で熊はよろめいた。

しかし、何とか体制を立て直すと、熊は女華様に向け右の前脚を振り降ろした。

女華様は再び脚を大きく踏み鳴らして両手でヒグマの攻撃を打ちおろし、更に半歩進んだ。
そして、態勢を崩している熊の心臓めがけ体を沈み込めながら右のエルボーを打ち込んだ。

ダンっ!!  ダンっ!!  ダンっ!! 

女華様が技を繰り出す度…合わせて3回…激しい踏込みの音を聞いた。

「あの技って……」
タマモちゃんが呟く。

そして、巨大なヒグマは女華様の足許へ崩れ落ちた。

今の踏み込み……中国拳法の発勁に用いる“震脚シンキャク”とか言うヤツでは…?
某格闘ゲームバーチャファイターなんかで言う…

それから…誰も覚えて無いかもしれないけど、今は2000年代初めの200X年だから……







TAMAMO>
3日目 PM5:09


それから…悟些ゴザさんと鈴木さんを救い出した。
でも、悟些さんはあいつらに薬で眠らせていて…すぐには動かせなかった。

例によって、真友君は茂呂君の薬を飲ませてから、車内の機材で悟些さんの様子を確認している。
もちろん! 薬は普通に飲ませたのよ…(汗)

そして女華さんが、ヒーリングを続けながら…私達は悟些さんの回復を待つ。

フミさん…自己修復機能とやらをフル稼働中とかで、彫像の様に固まったまま沈黙を続けている。
茂呂君は今、土偶とゼロを連れて外で車の状態を調べている。

そうそう! あの後、犬は体に取り付けられたコントローラーを茂呂君に外してもらい…
柳国の所持していた携帯を持って通話可能エリアまで走ると、オカルトGメンに通報した。

もちろん恐竜のコトは伏せ…ただ、私が超能力排斥団体に襲われたと……

それから…おキヌちゃんと早苗お姉ちゃん、横島の携帯にも連絡を取ってもらったんだけど…
誰の携帯にも繋がらなかったのだそうだ……

そうそう! 残念なコトに柳国と麦田は捕えたものの…
日須持のおばさんは助手とカラスを連れ、熊を戦わせている間に逃げていた。


私は鈴木さんを抱いて、傍らでヒーリングを続ける女華さんを見つめていた。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「タマモよ。気に病むな…そなたの義姉あねたちなら無事じゃ!」

私の心を見透かした様に女華さんが切り出した。

「し、心配しなんて…おキヌちゃん達はスゴク強いもの……」(汗)
そう強がってから…話を変える。

「ねぇ…さっき熊をやっつけた技……
 アレって、おキヌちゃんが六道女学院で習った格闘術にソックリだった……」

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「うむ! 八極拳の技じゃな。
 あの技も、この『ひーりんぐ』と申す力の使い方と共にキヌと一緒に学んだのじゃ…!」

「おキヌちゃんと一緒に…?」

戸惑うばかりの私に、女華さんは少し寂しげな表情を浮べ…私と真友君に語ってくれた。


「かつて我らの故郷は、死津喪比女と呼ばれる大妖に侵され…
 おキヌ一人に犠牲を強いてしまった。

 その上、封印を施した道士が申した話では、おキヌは死した後も成仏を許されず……
 一人、かの大妖の復活に備えこの地を護らねばならぬと……」

おキヌちゃん、横島に出会うまで300年もの間…ずっと一人ぼっちだった……
そう…聞いた事がある

自分の霊力をステゴザウルスの体に注ぎながら女華さんは語り続ける。
 
「本来は、人身御供を決めるクジを引き当てた…

 いやっ! そうで無くとも…
 民を守るべき領主の家に生まれた…わらわが為さねばならぬ役目であったはずなのに……

 その上…我が父は妖怪を退治した功績により、幕閣より国替くにがえを申し付けられ…
 我らは、この地を離れねばならなく成ってしまったのじゃ……」

悲しそうに目を伏せ言いよどんでしまった女華さんに、思わず声を掛けた。

「でも女華さんは、行かなかったんでしょ! 川に身投げして、死んだふりまでして…
 おキヌちゃんの血の繋がらない弟や妹たちを守るために……」

「よく存じておるな…
 そう…そして何より、わらわはキヌの眠る地を離れる事が忍びがたかった。

 その時のコトじゃ。実は、本当に溺れて死に掛けてしまってな……
 示し合わせていた…今は、大切な家族となった幼子おさなごらに…逆に命を救ってもらったのじゃ…」

そんなコトがあったんだ……

「それからなのじゃ…!
 わらわは、夢かうつつか…時折、キヌの姿が見える様になった。

 封印の地にくくられた幽霊として…気の遠くなる様な孤独に耐えるおキヌを……
 
 長い孤独の末、その境遇より解き放ってくれた両名に出会えた喜びを…

 三人の冒険の日々を……
 そして、その者たちと一度ひとたびの別れと再会。

 大切な者たちの力となるため、おキヌが六道なる学舎まなびやで懸命に学び…己を鍛えている時も…

 そしてタマモ、そなたがキヌ達と暮した日々のコトもな……」


「臨死体験を切っ掛けに超能力…プレコグ未来予知の力に目覚めたんだ…!

 女華様、あなたは未来観測者だったんですね!!」

一緒に聞いていた真友君が驚きの声を上げた。

その時、悟些ゴザさんの体がブルルっと振るえ…彼はゆっくりと目を開けた。
女華さんはヒーリングの手を休め…私たちの方を向いて微笑んだ。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「難しいコトは判らぬ。

 ただ…わらわは、いつも…キヌの願いかなえたまえ…!
 この誰よりも心優しき娘に幸あれ、幸あれ…!

 そう思いを込め、おキヌを見つめ続けただけじゃ。

 タマモよ。すまぬが…そなたの義姉あねに伝えてくれぬか?
 互いに触れ合うコトこそかなわねど……我が思いは、きっと…おキヌと共に在る!」


「オオッ!! 気ガ付イタノカ…悟些サン」

その時、土偶が帰って来て嬉しそうに悟些さんに駆け寄った。
続いて茂呂君もカーゴの中へ入って来た。

「どうだ? この車走れそうか?」

真友君が聞くと茂呂君は…

「う〜ん……雪がクッションになったものの…結構、派手に乗り上げているから…
 狭い山道を走る様な無理はしない方が無難かもしれんな…

 運転するとすればフミなのだが……あいつも万全で無いしな……」
そう渋い顔で言った。

しまった…トランスポーターを止める時、ちょっと派手にやり過ぎたみたい……(汗)

「なら…どうするの?
 悟些さんに自力で歩いてもらって竜神神社まで戻っても…
 日没までに着くのは…難しいんじゃないかしら?」
取敢えず…車の破損から話を逸らす。

「やはり…あの手段しかあるまい!」

「そうだね。ドグラマグラに自分で何とかしてもらうしか…」

茂呂君と真友君が2人で話を進める。

「土偶が…? ちょっと私にも分かる様に説明してよ……」

私が女華さんにヒーリングしてもらっている時、真友君達は悟些さんを連れ帰る手段も打合せたのね。

「つまり、『ゲートから迎えがくれば問題ないんじゃないか』と言うコトなのだ!」

そう言った茂呂君に私は聞いた。

「でも、女華さんが来た時…タイムゲートは15分位で閉じちゃったわよ?
 事情を説明して準備をするだけで手一杯なんじゃない…」

「だから!
 誰かがゲートが開く直前の未来まで行き、事態を知らせて助けを求めるのだ!

 これならどうだ!?」

…………? 茂呂君………もっと分かり易く言ってくんない…?

「ソウダ!! 私ハ千年カソコラハ作動デキル造リダシ、解決ダ!!」

土偶も来て、私達の会話に加わる。でも……?

「え〜〜と、つまり…どういうコト?」
これから…どうするの?

「つまり、もう何もしなくてイイんだよ! 時間になれば助けが来るんだ!」

真友君がフォローを入れてくれた。そして土偶が続ける。

「私ハたいむげーとヲ使ワズニ、コノママ300年先マデ待チ続ケル。
 デ、300年後、げーとヲ逆行シテ我々ヲ助ケニ来ル救助隊ヲ手配スルノデス」

「?? すると…あんたは自分で自分を助けるわけ? ここでボーッと待ってりゃいいの?

 時空て…もといタイムマシンは使用制限が有るのに、そーゆー裏ワザはアリなの…?」

「たいむましんハ時空ニ人工的ナヒズミヲ造ッテ時間ヲ超エルしすてむダガ、たいむげーとハ全ク違ウ!」

「そうとも!
 タイムゲートは時空の自然な形が疑似的な超空間を造り像を結んだものなのだ!
 相対次元理論より導かれる公式は……」

な、なによ…茂呂君まで……わかった! 私が悪かった!!





MATOMO>
3日目 PM6:14


夕暮れ時のカラスの鳴き声が響く雑木林の中で、僕達は迎えを待っていた。

「日が沈む…とっくにタイムゲートは開いているよな……」
ポッツリと茂呂が呟いた。

「モウ、ソロソロ来テモイイハズダ……」
先程からイライラしている様子のドグラマグラが言った。

ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……
「土偶羅殿。少し落ち着かれてはどうじゃ…」

女華さんが静かに声を掛けた。

「何ィ? 私ガ落チ着イテ無イトデモ…」
明かに動揺した様子でドグラマグラが声を荒げる。

ドグラマグラも不安を隠し切れないのだろう…
もし、これから300年の間に彼の身に何かが起きていた場合…
いくら待っても無駄というコトになる。

その時…
『ドグラマグラさん…本来ならば、あなたの任務は…
 白亜紀で地球の歴史の障害となる私の存在を消去すれば終わっていたはずでした。

 だが、あなたはそうされず…
 私を未来に…あなたの世界に連れて行ってくれる…そんな大変な道を選択してくれました。

 それに、心通わぬ同胞達の中で孤独に耐えていた私にとって…あなたはたった一人の友だ!
 これまで…あなたとの旅は本当に楽しかった。

 私は…どんな結果に成ろうとも、ありのままに受け入れる覚悟はできています…!』

「オオッ…!! 悟些ゴザサン……」

ドグラマグラは、心のこもった言葉を掛けてくれたステゴザウルスの悟些さんの首をヒッシと抱いた。
そして、右手を彼の首に回したまま左手を茜色の空に掲げ…

「私ガ…イイ加減ナ気持チデ来タカラ…

 ダカラ自分デ…
 自分デ何トカスルシカナイノダ…!

 私ハ…未来ノ私ニ賭ケル。
 私自身ヲ信ジル。

 頼ム! 未来ノ私…
 コノ出来事ヲ思イ出シテクレッ!!

 届ケ!届ケ!届ケェ―――ッ!! コノ記憶…!」



されど…ドグラマグラの叫びは遠く空に消え……

ふたたびカラスの鳴き声が響く。






TAMAMO>
やっぱり…ダメだったの…? 誰もがそう諦めかけた…その時……

「来ている!! すぐ近くに来ているであります。

 光学迷彩と遮音装備を施している様でありますが…
 自分のモーションセンサーには、ビンビン反応しているであります!!」
ゼロが叫んだ。

そして、その声が聞こえたかの様に西側の空が一瞬揺らいだかと思うと…
突然、茂呂君の時空艇を牽引した空飛ぶ円盤が現れた。

これって未来の技術ってヤツ?

いくらカカオ中毒とモジュレーション〇ャマーとやらの影響で鈍っているとは言え……
私の感覚まで誤魔化してたなんて…!


先に時空艇が着陸し、操縦席から降りたのは…巫女装束をまとった女の子?

彼女は土偶…いえドグラマグラに向かい…
「彼らのタイムマシンを運んで来るのに手間取り…遅くなって申し訳ありません。

 未来のあなたから指示を受け、ご友人をお迎えに参りました」

そう言うと…軽く一礼する。でも…この子……?

「ソウカ…ヨク来テクレタ……クレグレモ宜シク頼ム…!」
ドグラマグラは、彼女に深々と頭を下げた。

巫女装束の女の子は、悟些ゴザさんに向かい…
「さぁ…未来でドグラマグラさんが、あなたを待っています」

悟些さんは、ドグラマグラの方に首を向け…
『友よ…また会おう…!』

そう短く別れの言葉を告げた。ドグラマグラも…

「アアッ! 我々ノ友情ハ不滅ダ。キット…私ノ世界デ共ニ歩モウ!」

タイムパトロールのスタッフ達なのかな? 手際良く悟些さんの巨体を円盤の下に固定していく。

やっぱり……いいトコあるじゃん…!
私は…ロボットのくせに熱いハートを持っていたコイツを…先程から見直していた。


その時、巫女装束の女の子が私に言った。
「タマモさんですね!

 私が参りましたのは…もう一頭も…
 あなたから鈴木さんを預かるためでもあるのです!」

そう言って…彼女の手は、私の肩のお出掛けキャリーを指した。


な…何ですって?!







MATOMO>
「あんた…どういうつもりよ! 
 それも未来のドグラマグラとやらから指示されたわけ?!」

タマモちゃんは、鈴木さんの入っているキャリーを庇いつつ…少女に食って掛かる。


しくも巫女装束の美少女二人が対峙した。でも…この二人、背格好も顔立ちも…本当に良く似ている!

違いは髪の色…淡い栗色の髪を9テールにしたタマモちゃんに対し…
未来から来た少女は漆黒の髪を4テールにしている。


「もちろん! それも有りますが…ドグラマグラさんの長年の友人である私の祖母の希望です」

「何者よっ?! その…あんたの婆さんって…!

 だいたい…あんた、タイムパトロールなんでしょ! 何で巫女のコスプレなんかしているの?
 今の時代だって、そんな格好しているのは本物の巫女さんか…ゴーストスイーパーぐらいのモンよっ!!」

「そんなぁ…
 おばあちゃんが…今回の仕事は、巫女の格好で行くのがお約束だからって……
 
 もとい…もう時間が有りません!! タイムゲートに戻らねば…

 え〜っと…そのぉ〜祖母は、もともとGSでしたが……
 現在は転職して恐竜再生プロジェクトで働いています。

 すでに、そのフタバスズキリュウ…鈴木さんを育てるコトに適した環境を用意しています。

 それ以上は…『禁則事項』に触れますのでお話できないんです……」

「何よっ?! その『禁則事項』ってのは!!」

「ちょっと…待ってタマモちゃん!」
僕は二人の間に割って入った。

彼女を残し、悟些ゴザさんを引いた円盤は…すでに浮遊を始めているのだ。

「あなたのお婆さんは、鈴木さんを安全に育てるコトができるのは本当なんですね…?」

そう僕が問うと…未来から来た少女は頷いて……

「それは間違えなく…! 
 だって…おばあちゃん、ずっと…ずっと準備していたんだもの……」
彼女の目に曇りは微塵も無かった。


僕は、タマモちゃんの方を向いて言った。

「タマモちゃん、この子に鈴木さんを託そう!!

 ゴメン……時間が無いんだ……今、決断して……」

タマモちゃん、少し上目づかいに僕を睨んでいたけど…

「……………分かった。私、真友君の言うとおりにする……」


それを聞いた途端に未来の少女は…
「さすがおじ…いえっ!
 康則やすのりさん! はじめまして!! 私、テンコと言います!!」

僕の両手を握り…いきなり自己紹介を始めた。

「その手を離せっ!! じ、時間が無いんでしょ……」

僕達の間に割って入ったタマモちゃんが、テンコと名乗った少女の目の前にお出掛けキャリーを突き出した。

「はい……」
彼女は、少したじろぎながら受取ったキャリーを肩に掛け…しっかり固定した。


そして…
「約束してよね! この子が…あんたの世界で幸せに暮らせる様にって……」

そう、タマモちゃんは言うと…額から女華さんの鉢巻を外し差し出した。
テンコは鉢巻を受取り、しっかり自分の額に巻きながら…

「ええ、必ず…! ―――でも、

 ――――私の世界ではなく。私達の世界です」
そう答えた。


「タマモちゃん…鈴木さんとお別れしなくても良かったの…?」

本当に鈴木さんを可愛がっていたコトを知っている僕は…つい聞いてしまった。

「いいの!! 鈴木さんを不安がらせたら可哀そうでしょ……
 
 きっと…私、300年先で待ってるから…!」

タマモちゃんこそ、いつもお姉さんぶって…頑張ってばっかいなくてもイイのに……
僕は…強がりながらも、グッと握りしめていた彼女の拳の上から…そっと手を添えた。


そんな僕達の様子を…テンコという子は、何故か?少し赤面して見ていたが…

「お二人とも……時に未来は揺らぐものです。

 でも、きっと…その手を離さないで……私の居る未来につなげてください…!」

そう言って、彼女は両手を大きく広げた。
途端にテンコの腕は、髪の色と同じ漆黒の翼に変化ヘンゲする…そして力強く羽ばたいた。

そして上空で待機していた円盤に、彼女が取付くと…
フッと…円盤の姿は、夜のとばりが下り始めた空の中にかき消えた。




それからしばらくの間、僕達は茫然と空を見上げていたんだけど…


「来たわ…! オカルトGメンのヘリよ!!」

突然、東の空遠くを指しタマモちゃんが叫んだ。

「確かに…自分のセンサーもキャッチしたであります!」
遅れてゼロも言う。

「ゼロ! 分かってるわね。ちゃ〜んと口裏を合わせるのよ!」

「らぢゃーであります! 
 自分も研究所で体をイジられたコトが判明すると…
 
 飼い主の元へ初めての帰還が遅れてしまうので…ご内密にヨロシクであります!」

「ドグラマグラ、あんたの身の振り方は…横島の事務所の皆に頼んであげるから…
 オカルトGメンが帰るまで、木の陰にでも隠れていなさい!」

そう指示され、ドグラマグラは林の奥へ向かい…
タマモちゃんはゼロと、示し合わせたオカルトGメンへの供述内容を確認し合っている。


「康則さん、オカルトGメンの方に…私達の姿が見つかってしまうと厄介です!
 時間転移炉の暖機は異空間で行いますから…搭乗してください」

片手で時空艇を操作していたフミさんが急いで声を掛けてきた。


「じゃ…タマモちゃん、帰ったらメールするから……」

「うん…! 私も東京に帰ったらメールする!」

残念だけど…名残を惜しんでいる時間は無い。僕は急いで時空艇に乗る。


「では…取敢えず異空間に潜ります!」
フミさんが操作盤に手を伸ばし掛けた時…

「ちょっと待って…!」
タマモちゃんが駆けて来た。

「どうしたの…?」
僕は身を乗り出して聞いた。

「真友君っ! 忘れ物よ!」

「忘れ物…?」

氷室神社に置いてきた僕達の私物は、全部送ってくれる様に頼んだけど……何だろう…?

「イイから…! さっさと目を閉じるっ!!」

「う、うん……」

言われた通りに目を閉じた。すると…



チュッ!!



え、えぇっ…?!(////)

驚いて目を開くと…
イタズラっぽい笑みを浮かべたタマモちゃんが……

「これは、やり直しの分よ!!
 
 今度会ったら……続きをしましょ♪」

そう言ってウインクすると……踵を返し、彼女はゼロの待つ方へ駆け戻って行った。











TAMAMO'S DINOSAUR 200X    ―― END ――

See you again.
It is development expectation of another story.









“エピローグ”

MATOMO>
3日目 PM7:47


………………………(呆)………

「おいっ! 着いたぞ真友。いつまでボォ――っとしているのだ?」
茂呂に肩を揺すられて我に返った。


ここは…………茂呂の家の倉の中。

…ってコトは……僕達の島?!


茂呂の家から僕の家へと続く、長い坂を下りながら……今聞いた茂呂の話を思い出していた。
あれから茂呂達は異空間から…外の様子を見ていたのだそうだ。

オカルトGメンのヘリが着陸するやいなや…
血相を変えた早苗さん、宮司さん、そしておキヌちゃんが飛び出しきたそうだ。

早苗さんなんか…泣きながらタマモちゃんに抱きついて無事を喜んでいたんだと言う。

細かいコトは聴き取れなかったそうだが…
何でも、早朝になって…やっと六本木の現場に辿り着いた時、おキヌちゃんとシロちゃんは……

すでに相当消耗していたのだそうだ……その…当然、戦う前から……(汗)

理由? 早苗さんの………え〜〜っと…察してあげて欲しい。


……件の大規模な霊障は、おキヌちゃんの笛を中心に事務所のメンバー総掛りで祓い終え…
横島さんも無事に補習へ向かったと言う。

ともあれ、シロちゃんは自分の修業先に帰り……

おキヌちゃんと早苗さん、宮司さんも……スタッフの愛子さん…妖怪なんだけど…
彼女の本体の中の異空間で、午後まで休ませてもらったんだって。


そして、愛子さんの元へも…タマモちゃんの災難の連絡が入り……
現場へ向かうオカルトGメンに便乗させてもらい…3人は文字通り飛んで帰って来たんだ。


ところで、おキヌちゃんなんだけど…

タマモちゃんの無事を確認すると…時空艇が潜んでいる空間の方に目を向け…
ずっと…黙って見つめていたと聞いた。

もちろん…女華様も、時空艇の中から……

二人は異なる空間越しに、互いを見つめ合っていたんだそうだ。


フミさんは『時間移動前の…今なら、何とか時空艇を通常空間に戻せますよ』と提案したんだけど…

でも…女華様は『未来が揺らぐ原因になる……』そう言われ…拒まれたのだそうだ。


そして、そのまま時空艇は…女華様を300年前に送り届け……僕達の島に帰って来た。




家に辿り着くと…いつもと違い…何だか賑やかだった。

「ただいま…」

「おう! 康則、お帰り。遅かったじゃないか!」
いつもの様に父さんが声を掛けてくれ…

「まったく…せっかく離れて暮らしている母親が帰って来るのに…
 ガールフレンドの所へ遊びに行く方が大切なんて……

 母さん、寂しいわ…!!」
……か、母さん…?

「母さん……何でココに居るの……?」

「何でって…? 有給を取るって、ちゃんと知らせたじゃない…!
 何よ!! あんた、別居婚している母親なんて要らないとでもゆ―――の?
 
 お父さん、康則ったらヒドイのよ〜〜〜っ!!」
そう…おどけて父さんに訴える。

食卓の上は…母さんの得意料理で満載。
すでにビールを数本空けて両親は、すっかりデキ上がっていた。

「だいたい…何よっ?!
 その神主さんみたいな格好!!

 そ〜〜言えば……
 あんたのガールフレンド、あのドラマの神社のお嬢さんなんですって…?

 まさか…もう、おムコに行く気なの?

 いい! 康則っ!
 今度、あんたが上京する時に、彼女をちゃ――んと私に紹介するのよ!!」

そんな、酔った母さんのたわ言を聞き流しながら…僕は食卓に着き、自分の箸を取った。


『歴史改編は無くとも、親しい者との関係が変わってるかもしれない』か……(笑)

食事が終わったら…この鈴木さんの置き土産のコト…早速、タマモちゃんにメールしよう!


…………SSの神様。これは、何かの罰……?

もともとUG様の後の投稿もプレッシャーが大きかったのに…
まさか…よりみち様の新連載に挟まれてしまうとは……(大汗)

いやいや…さすが展開予測掲示板。
晴れがましい気持ちで……いっぱいです…(泣)



さて、『タマモの恐竜』全3話を読んで頂きありがとうございました。
最後に間が開いてしまい…申し訳ありません。

予告したタイトルと違うのは…
すいません。件の映画ドラえもんを観て、映画館で涙する程ハマってしまいました。

時間が開いた理由の一つは、草稿の後半にGTY+の規約に触れる内容が満載だったのです。
特車2課の皆さんが登場していたりとか……

シロキヌパートを全カットして帳尻を合わせ、書き直すのに手間取ったためと…
近頃、少し他の活動を……


ご存知ですか?
『アニメ版 GS美神』から20年目の今年、同時間枠で放送中の『ハピネスチャージプリキュア!』に…
おキヌちゃんへのリスペクトと言えるキャラが、準レギュラーで登場しているコトを!

もちろん…演じるは、國府田マリ子さん!!


『GS美神』というジャンルは…後、10年戦えます!!

皆で啓蒙を続けませんか? そうすれば、きっと…椎名先生が青年誌で…いつの日か………(願)


私の場合…
ニコ動で見たとあるGSの動画に涙し、絵心が無いにも関わらずピクシブに出入りを始め…
現在、ピクシブ百科事典の『GS美神』関連の記事の整理のお手伝いをさせて頂いています。
まだまだ途中ですが……(汗)

どんな動画に感動したかは同辞典の『おキヌちゃん』の記事で紹介しています♪

この場を借りて、いつもご協力頂いている絵師の皆様、本当にありがとうございます!


さて、今回登場の恐竜についての捕捉です。
実は…ステゴサウルスの主な生息地は、現在の北米。群れに子供も居たアロサウルス類マプサウルスは南米……
ごめんなさい……(大汗)

後、くどくなるので流しましたが…愛子さんの本体の中は電波が届かない場所で、横島君は補習中でした。

それから…第1話で色々張った未回収の伏線。
白亜紀の食材を使った料理の設定とか…色々考えてはいたのです。

草稿が5回分の連作だったためも有り、バランスが悪く…
おキヌちゃんの相当ガンバった水着姿や、茂呂家別荘の温泉シーンと一緒に潔くカットしました。(苦笑)

タマモちゃんが思わせぶりに言ってしまったシーラカンスの料理だけ解説すると…
シーラカンスは、日本近海で獲れるバラムツやアブラソコムツに似た脂身を持っています。

両種はマグロの大トロに、さらに脂がのった感じで…食感はブリ。
フライパンに油をひかなくても身からドバドバ脂が溶け出して、勝手にカラ揚げに成るそうです。
でも…しつこさは無く、生臭さも一切無くて食べやすい…

問題は……人間には消化できず…翌日、洒落にならない程の下痢になると言います。

シロタマの場合も…
沖縄や大東島では、バラムツやアブラソコムツを共に「インガンダルマ」と呼ぶそうです。
これは「犬が(食べるとお腹を壊して)ダレる魚」という意味とのコトです。

そして、アンモナイトの味は………(泣)


閑話休題!

昨年の副管理人様のつぶやきに対するアピールのつもりで…投稿させて頂きましたが、ひとまず今回で終わります。
ぶっちゃけ、とーり様。新参者が生意気を言う様ですが…「まだだっ!! まだ終わらんよっ!」だと思います。

宜しければ、件のおキヌちゃんの結婚式のSS、展開予測掲示板に転載して頂ければ…もう泣いて喜びます。


さて、毎回…こちらの規約に触れまくっていないか? 気に成ってはいたのです……いやっ! 本当に…(汗)
が、しかし…このサイトには、もうお一方、素晴らしい作品を書かれる副管理人様がおられます。

その副管理人様の大作、『パイレーツ・オブ・ちるどれん!』から心に沁みるフレーズを拝借し、この度の〆とさせて頂きます。(拝)


『この物語はフィクションであり、登場するメディアや人物、団体名などは現実の物と一切関係ありません』



追伸。
こんな私ですが…また、こちらの掲示板にお邪魔してもよろしいでしょうか…?

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]