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盾と弾丸(0)

盾と弾丸(0)
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チルドレンがごく平穏に進級した6年生の春、モナーク王国で起こった王女暗殺未遂事件事件。偶然居合わせ、それなりに解決に貢献した皆本は、祝典の後、王女の求めにより事件に関わった者のみの場で対面を果たす。



 簡潔ながらも誠意ある感謝の言葉に続き
「これからもエスパーとノーマルの共存に向け協力をよろしくお願いします」
と王女は握手を求め手を差し出す。

親しい友人に対するような飾らない所作にも関わらずその威厳に皆本は身を引き締まるのを感じる。

”高貴なる血筋”という非合理なものは信じないが、それでも軽く数百年オーダーを越える歴史を背負っているという自覚と責任感はヒュプノのように心を動かす。まして、理想のため自分の命を惜しまない信念の持ち主であることを目の当たりにしているならなおさらだ。

「喜んで」と深々と一礼、跪き差し出された手に軽く唇を添える。



「いや〜 皆本クンもやる時はやるもんだねぇ まるで王女様に忠誠を誓う騎士(ナイト)って感じだったぜ」
対面が終わりホテル−お礼と言うことで王女が手配した普通の公務員には過分に豪華なリゾートホテル−に戻ったところで賢木が先の一幕を茶化す。

 一応、事件を知る者としてその場にいたが、自分には一言もなかった腹いせだ。もっとも第三者扱いなのは、事件を途中から皆本に任せ王女付き女性衛士と両国の”友好”を計っていたため。要は自業自得だったりする。

「しかし、まあ、何だ あんな”クサい”演技をしている自分によく吹き出さなかったもんだ。そこは褒めておいてやるぜ」

「そう言うなよ、あの場の雰囲気につい飲まれてしまったんだから」

事件解決直後、自分を敵視する変態ロリコンエスパー犯罪者がして見せた行動が頭の隅に浮かび、同じ行動したものの身の丈に合わなかったという自覚はある。

「それにしても、あの王女様も酔狂だな。何もしなくても尊敬を集め平穏な一生を終えられるのに、何を好んでノーマルの立場からエスパーとの共存なんて命が幾つも要りそうなコトをやろうとするのやら‥‥ 今回は無事に済んだわけだが、次もそうなるって保証はないのに」

‥‥ 賢木の台詞を皆本は苦みのある笑みで流す。
非難めいて聞こえるがそれはいつもの偽悪趣味であり、本気で王女を心配していることを知っている。




「B.A.B.E.L技術課課長代理の皆本さんですね」

 明るいとはいえない未来に浮かない顔の二人に日本語での呼びかけ。
ある意味、意外な出来事に振り返ると六十代半ばの日本人男性がいる。

 その世代としては長身で痩躯。短く整えられた髪は半ば白くなっているが、ぴんと伸びた背骨と強い意志を感じさせる顎の線がなまじの中年よりエネルギッシュに見える。
 見えないところにまで気配りがされているスーツが身に付いた様子は十分な実績がある企業家という印象。

「どなたですか?」と問い返す皆本。

「私は寺屋江差(じや えさし)という者、<あなたの良き隣人機構>というNPO団体で事務長を務めております」
 男−寺屋は気持ちへりくだった物言いで名刺を差し出す。

‘<あなたの良き‥‥ その名前、どこかで‥‥ ’
 真っ当すぎて胡散臭さを感じる団体名が皆本の記憶を刺激する。
‘何か資料を見ていた時に‥‥ たぶんその時も同じ印象で、それが記憶の隅に残っている‥‥'

皆本が思い出そうとしている間を埋めるように寺屋と名乗った男は
「当団体は人材の需要と供給がうまく噛み合わない社会にあって、それを解消するための活動−需要側、供給側それぞれの情報収集と提供、さらにそうした人材の移動がスムーズに行われるための支援ネットワークの構築を目的に活動しております」

「で、双方から仲介の手数料を取って懐に入れると」
 皆本以上に(超能力とは別の)直感が働く賢木が皮肉を込めて割って入る。
 というのも友好的な物腰にも係わらず上目遣いで人間の値打ちを測ろうとする感じの目つきに真っ当な人間にはない”匂い”を感じ取ったから。
 この場合、善意が先に立つ友よりも自分の方が適任だ。

「実費以外に適切な手数料をいただいていることは否定しません」
 寺屋は悪意なカマをかけてくる相手をいなす形で首肯する。

「NPOを名乗るのはその手数料に掛かる税金対策ってとことか?」

「否定はしませんよ」これもしれっと認める。
「付け加えればNPOとしておけば信用を得やすい傾向がありますし」

「で、その胡散臭い人材ブローカーが俺たちに声をかけた理由は何だ?」

「当方のような活動では人の繋がりが大切でした。どなたでも当方に関係しそうな方を見かければ、可能な限り声を掛けるようにしております」

「真っ当なポリシーだが、一公務員と面識が持っても大して意味はないと思うが」

「B.A.B.E.L開発課課長代理兼局長直属特務エスパーチームの現場運用主任と超能力オペに関しては世界的な腕の持ち主が”ただの”一公務員ですか。謙遜もそこまでくると嫌みでしかありませんよ」

「思い出した」切り返された親友の代わりという感じで皆本。
「<あなたの良き隣人機構>‥‥ B.A.B.E.Lに登録されているエスパー支援団体一覧でその名前を見た記憶があります」

「一覧‥‥ですか? 確かにそこに名前は載っていますが、百余りある団体の一つという扱いのはずですが」

「こいつは、そういうことは得意なんだよ」と話を自分に戻す賢木。
「ウチのに載っていると言うことはエスパーに関してそれなりの実績がある団体ってことだな」

「はい。仲介する数でいえば一部ですが、エスパーの方々の仲介もしております。こういうのも口幅ったいですが、自らの能力を生かせていないエスパーに相応しい働きの場を提供してきたとの自負はあります」
寺屋はやや芝居がかった感じで自分を押し出す。

「ははぁん、そうか! 今日という日にモナークにいるのもエスパー仲介業に絡んでの人脈を広げようって魂胆だな!」

「そういうことです。各国のエスパー機関の関係者が一堂に会する機会、それもお偉いさんではなく、中堅どころが集まる機会というのは意外にありませんからね」

「まあ普通のお偉いさんじゃ日本の一NPOなんぞ相手にしてもらえないだろうからな。それに比べれば、今回の客は、王女個人の招待だからそれほど地位が高い者は来ていない。かえって売り込めるってわけだ」
そう腐しつつ賢木は、ある視点に気づく。
‘見方を変えりゃ、皆本のように将来的にエスパー政策を担う人材が集まっているわけか‥‥ そこまで見越しているのなら、相当に古狸ってわけか、このオヤジ!’



数分の立ち話で目的は達したと寺屋は丁寧に足を止めさせたことを詫びて皆本と賢木のもとを去る。



「どう思う? あの野郎?」
 苛立ちを隠さない賢木。相手に対してというより一人芝居に終わった自分が気に入らない。

「そうだな‥‥ 言葉には嘘はない、って感じだが‥‥ 言葉以外の部分は色々隠していそうだな」
皆本もすべてが計算尽くだという感じの相手に好印象はなかった。

「いっそ、透視(よ)んでおけば良かったかもな。少なくとも紫穂ちゃんなら、隙を見て絶対に触れただろうぜ」
と掌を上に向ける賢木。

「プライバシーに係る超能力の使用はそれだけで犯罪だ。それにそれで得た情報は法的には認められない」

「かまやしねぇさ、自分を納得させるためだけなんだから」
いつもと同じ模範解答に賢木は冗談だと手を引っ込める。
「それで、奴っこさんや奴っこさんの団体についてはどうなんだ?」

「それなんだが‥‥」と皆本。
 B.A.B.E.Lのメインコンピューター<ザ・タワー>へ封鎖回線でアクセスできるスマート・フォン−本来なら課長職以上のでしか持てないが局長権限で認められている−を操作しつつ
「(B.A.B.E.Lが)掴んでいる情報によれば、彼のNPOがエスパーを相手に説明通りの仕事をしているのは間違いなさそうだ」

「うん? 待てよ! エスパーの身の振り方についてはB.A.B.E.Lが仕切っているはずだろ? 超度1や2はともかく、そこそこ以上のエスパーなら民間NPOに出番はない‥‥ そうか! 相手は日本人とは限らないわけか!」

「そういうことだ。仲介したエスパーの出身地にしても紹介先にしてもほとんど日本じゃない」
皆本はそこで言葉を切り、一拍、間を空けると
「そして興味深いのは仲介したエスパーの多くが、彼らを支援するための態勢や組織がない国や地域の出身だということだ」

「なるほど‥‥ 面白いところに目を付けてやがるな」
 一応は褒めている賢木だが一抹の苦みが混じる

 日本やコメリカのようにしっかりとした体制の国や地域では、良くも悪くもエスパーを管理するためのシステムがあり、社会的に貢献できる超度のエスパーは、これも良くも悪くも見合った形で仕事が斡旋される。

 それに対し、体制がしっかりしていない社会でのエスパーの地位は(一概には言えないが)総じて厳しい。
 警戒され白い目が向けられるのはまだマシ。『怪物』と見なされ、不安定な社会に起こりがちなマス・ヒステリーが起こればスケープゴートにされる例は珍しくない。
 そしてエスパーの方もそうした扱いに嫌気を起こす※社会からドロップアウト、いわゆる”野良”となり、さらに犯罪者に身を持ち崩すパターン者も多い。余談だが、そういうストーリーの延長上にP.A.N.D.R.AがあってB.A.B.E.Lを初め各国の超能力機関以上のエスパーを集めている。

 全世界規模で考えた場合、そうしたエスパーをどうしていくかも議題だが、一方で兵器にも例えられる存在であるため出入国一つにも各国のエゴがぶつかり合う。

「寺屋氏のNPOはその隙間を上手く利用している形だ」

「結果だけなら恵まれないエスパーに救いの手をさしのべているってわけだ!」

「『結果として』だな。それもB.A.B.E.Lの記録に残っている範囲に限れば‥‥ かな」
 友のように吐き捨てはしないが近いニュアンスの皆本。
「実績はあるにしても、高額の仲介料をせしめている事や対象が高超度エスパーに限られる事、それに彼らを出国させるにも入国させるにも法律違反スレスレの行為をやっている事など、幾らそれで助かったエスパーがいたとしても僕としては認められない」

「できれば今回の縁が今回だけに終わってもらいたい‥‥ ってところかな」
賢木はさっきの出会いをそう結論づける。




皆本・賢木と別れた寺屋はそのままホテルのVIPルームがあるフロアへ向かう。
 もともと、ここへ来たのはVIPルームに滞在している人物に呼ばれたから。皆本と賢木に出会い声を掛けたのも偶然、見かけたからに過ぎない。



 貸し切られたフロア、エレベーターから出たところでそれと判るガードマンによる簡単なボディチェック。一見お座なりなだが、見えないところで厳重にチェックされていることは間違いない。
 通されたVIPルームの応接室、案内にたったガードマンはすぐに去り、手持ち無沙汰を感じ始めた頃、目的の相手−部屋の主人が姿を見せる。

 エウロパ系で年格好と体つきは寺屋に近い。それ自体が血統の高貴さを証明する整った彫りの深い目鼻立ち。知られているところでは、それなりに名の通った軍事産業のオーナーだが、それだけではないことを寺屋は知っている。



「待たせて済まなかった」部屋の主は年来の旧友であるかのような物言いをした上で
「いや、忙しい中よく来てくれた、感謝するよ」
 と、これもフランクな挨拶。もっとも、相手の底までも見透かしたような口元の笑みはそうした態度に騙されるのがとがどれほど危険かを物語る。

 それが判る寺屋は立ち上がり臣下のように恭しく頭を下げる。
「こちらこそ。お忙しいところを時間を取っていただき光栄です」

「こちらが呼びつけたのだから気にする必要はない」
 あくまでも対等なだと主、座るよう促し腰を下ろすのを待って
「それにしても、君が来るとはな 仕事はとうに後継者‥‥ ええっと、誰だったか‥‥」

わざと答えを待つ相手に寺屋は冷ややか口調でな
「仕事のある部分はあの女に任せておりますが、仕事を譲ったつもりはありません。それにあの女は副代表であって後継者ではありません」

『あの』を強調することを面白がる主、少し不満を込めて
「今の答え。『あの』女を通し申し出ているウチの傘下に入るという提案を拒否するという意味も含まれるのかね?」

「この仕事を始め四十年、どうにかこうにかやってこれたのもどんなお客様にも平等に接しその利益を最大限に計ってきたからと自負しております。仮にどこかのお客様の便宜を優先するようなことがあれば、それは私の半生を否定するようなもの。それくらいであれば造り上げたものを全て壊してもかまわないと思っております」
言い切ったところで寺屋は乾いた唇を湿らせる。相手のリアクション次第で最後の言葉を実行する覚悟はある。

「金の卵を産むガチョウを絞め殺すわけにはいかんか」と嘆息する主。
かなり酷い言い方だが、力関係を考えた時、これくらいで済んで感謝すべきだと言外に語る。今のやり取りがなかったように
「それでどうかね? ここ(モナーク)に来たかいはあったかね?」

寺屋も不穏当なやり取りがなかったかのように
「ええ、様々な方と合い面識を得ることができました」

「それはけっこうなことだ。君が人脈を広げればウチにもプラスになる話だからな」
主は満足そうにうなずくと
「君のことだから、王女の道楽にも一枚噛むつもりなのだろう?」

「はい。こちら方面のルートを広げるには良い取っ掛かりになるかと」

「余計なお節介かも知れないが、深入りは慎んだ方がいい。王女には妙な連中が肩入れするつもりのようだから」

「『妙』なですか‥‥ 判りました、気をつけます」
目の前の人物が気にするほどの組織はどこだろうと考えつつ寺屋は言葉には従うことにする。何といっても相手の情報網は大国のそれに匹敵することは知っている。

「ところで、わざわざ君に来てもらったのは、一つ頼みたいことがあってね、かまわないかね?」

「喜んで!」即答する寺屋だが、直々と言うことに少なからず警戒が滲む。
「それで何をすればよろしいのでしょうか?」

「そう緊張するコトはない。いつも君のところに頼んでいるのと同じ事だよ」

「‥‥ ”仲介”ですか?」

「そうだ」とうなずく主、警戒を深める相手に軽い嘲笑を匂わせ
「直接、頼むのは、それが身内−娘のことだからでそれ以上の意味はない」

!! あっさりと示された情報に驚く寺屋だが、かろうじて顔に出さない。
 もちろん、目の前の人物に家族がいてもおかしくはない。しかしそうした情報を知る者は世界で何人いるか‥‥ 人によっては、今の情報にも少なくない額を払うはずだ。

「‥‥ あなたのお嬢様ならウチが”仲介”しなくとも、どこにでもVIP待遇で行けるのではありませんか?」

「いや、ワガママな娘でな。身分を隠し一人の人間として平凡に暮らしをしたいそうだ。そうなると君の”仲介”してもらうのが一番だろう」

「了解しました」と全てを理解する寺屋。

 二人きりなのは、その存在を含め全てが娘は絶対の秘密ということ(その意味では、大企業のオーナーの娘以上の秘密を持っているのかもしれない)同時に、その娘がどのように−例えば入国した先の公安機関あたりに−調べられても問題がないよう手配しろということ。
 そうなると確かに自分の”仕事”だ。

芝居がかった仕草で内ポケットから少し大きめのスマート・フォン、あるいはやや小さめのタブレットに見える情報端末を取り出す。
「では、娘さんの情報を、もちろん最小限度でかまいませんが」




チルドレンが小学校生活を終えた頃、賢木の携帯に思わぬ−連絡先こそ伝えていたが返事は期待していなかった−女性からのメールが入っていた。
曰く、休暇でそちらに遊びに行くので東京を案内して欲しいとのこと。

 モナークと日本の”友好”を思い出し鼻の下を伸ばす賢木。仕事を調整を時間を空けると同時にレストラン−バア−ホテルと一気に畳み込む計画を立てる。



 当日、大陸の反対側の住人にもかかわらずフラワーランドというローカルスポットを待ち合わせ場所にしてきたことに首をひねりつつ指定の場所に。

マナーとして少し早い目に行ったが。お目当ての女性はすでに来ている。
 自分の姿を見つけ花のような笑顔を浮かべた彼女に、今夜のめくるめく”友好”を夢想した賢木も下心満載の笑顔で応える。
軽くステップしながら近づいた時、背後に人の気配。

 振り返った賢木は不機嫌さを全身で押し出ながら
「!! どうして手前ぇがここにいるんだ?!」と言葉をぶつける。

「男だろ、細かいことを気にするなって!」
 『どこの海賊?』という風のアイパッチを左目に付けた男は馴れ馴れしい態度で手を振る。
 歳と背格好は賢木と同じほど。かなり鍛え込んでおり、これも相応に鍛えている賢木に比べても俊敏そうな体の持ち主。ニヤついているが隙のなく周囲を警戒している様子は多くの修羅場をくぐった強者であることを物語っている。

「まあ、休暇とか旅行はこちらで段取りしたが、この娘(こ)がお前に東京の案内して欲しいっていうのは本当だ。こっちはそれに便乗しただけ、用件が済めばすぐにおさらばするさ」

「そう願いたいもんだ! とにかく用件とやらは聞いてやるから手短に頼むぜ!」
頭の中で超度7のサイコメトラーに似たちび悪魔がラッパを吹いて厄介ごとの到来を告げているが、昨年の春から秋、コメリカでクライマックスを迎えた出来事に連なる因縁を思うと台詞の選択肢しかない。

「こっちも”上司”を待たせているんだ、長くはならない」男はちらりと別の方を見る。

‥‥?? 横目でそれを追う賢木。
 視線の先には男の『上司』に相応しい人はいない。、代わりに大きなつばの帽子を目深にかぶった十歳くらいの女の子が人待ちの様子で立っている。
一瞬、昨秋のコメリカ出張を思い出し、たじろぐがすぐにそれを見なかったことにする。

『それが正解だ』とうなずく男。
 ポケットから当人に不釣り合いな高級で女性的な装飾がなされた封筒を取り出す。

「えらくアナログなメディアだな」と賢木。
 言いつつ、今時ならかえってセキュリティが高い手段かとも思う。手紙を手にリミッターを解除し
「時間がもったいないから、直接、透視(み)させてもらうぜ‥‥ 何だと!!」

‥‥ サイコメトラーの驚きを楽しむ風に見る男。

ちっ!  それに気づき賢木は軽い舌打ちで何某かの敗北感を隠す。
「退職したって聞いたが、けっこう良いところに再就職してるじゃねぇか!」

「うらやましいか? これも人徳ってヤツさ」ことさら軽薄に男は応じる。

「ぬかせ!」と賢木は吐き捨てさらに中身を透視する。



「<インビジブル>‥‥、それが名前か?」と半信半疑といった口調の賢木。

「そういう看板を出しているわけじゃないが裏世界じゃ、それで通用する」
と応えるアイパッチの男。

「密出入国の仲介屋‥‥ でいいのか?」

「そうまとめると裏町の小悪党だな」男は四捨五入し過ぎだと笑う。
「少なくない報酬と引き換えだが、そこに依頼すれば各種書類の準備/偽造から安全なルートの斡旋、さらに行き先の情報やそこで社会へ溶け込む口利きまで。たとえ、殺人犯でも大手を振って出国、行き先での自由を保障‥‥ まるでその人物が透明人間にでもなったように振る舞えることから『透明』−<インビジブル>のあだ名が奉られている」

「そんな大がかりな犯罪組織が日本にあるとは、知らなかったぜ」

「世界有数の交通と情報のハブなくせにセキュリティが緩いからな。それと大がかりといったって、それこそ裏町の偽造屋から一つの街を仕切るシンジケートまで手広くコネがありそれらを効率的に組み合わせるノウハウを持っているというだけ。見合う通信ネットワークがあれば一人でもやっていける。実際、中枢はごく少数−本当に一人かもれんが−らしく、それが尻尾を掴ませない強みになっている」

「一つ確認をしたいんだが、なぜ俺に話を持ってくる? 俺は入国管理局でも外事課でもないぜ」

「<インビジブル>が得意なのは、どこの国においても神経をとがらせる(高超度)エスパーの密出入国だ。そうなるとそっちの守備範囲とも被るだろ。三年前にこの国の国際遺産に落書きをして回ったふざけたエスパー犯罪者もそこを使っていたって話、あと某非合法エスパー派遣会社も良く利用しているらしい」

最後に投じられた”爆弾”に賢木の表情から軽薄さが消える。
「あと一つ、聞いておきたいんだが、この話、本当に信用できんのか? 立ち上げたばかりのそちらにこんな裏の中の裏情報を手に入れられるとも思えんが?」

「信用はできると思うぜ。何せウチに興味を示す”とある”団体から発足のご祝儀として送られたものだからな」

「お、おい! それって‥‥」
 ”とある”に込められたニュアンスに渋面を作る賢木。
 中空に、120%のドヤ顔でこちらを見下すプラチナブロンドの美形が浮かんでいる。

「ついでに言っておくと、最初はあんたの親友の方に話を持ち込むつもりだったが、その話をしてしまうと妙にこじれる気がしてね」

「だから俺ってか! まあ、その判断は正しいが」肩をすくめ賢木は認める。
親友の有能さと誠実さは折り紙付きだがドヤ顔のエスパーが絡むと感情的になることが多い。

「まあ、向こうさんとしては、それをどう料理するかでウチとこの先、どれだけ繋がりを持つのかの値踏みをしたいんだろ」

‘奴っこさんならそんなところか’と内心でうなずく賢木。
 情報提供者の”複雑骨折”を起こした性格は知るところだ。
「それにしても、そっちが任されたものをそのままこっちに丸投げって、どういう了見だ?」

「そっちが言ったように立ち上がったばかりのウチにあるのは人脈だけだからな。それを使ってやりくりするしかない」
男は少し投げやりに答えた後皮肉を効かせ
「あと、お前さんにせよ相棒さんにせよ某非合法エスパー派遣会社とは色々と因縁があるわけだからボランティアで頼めそうだし」

「おいおい、ただ働きをさせようっていうのかよ!?」

「出来たてのウチにはそんな金もないからな。それに長い目で見りゃ悪い話じゃないだろ。ウチが認められ活動範囲が大きくなれば国家的な制約を受けるあんたたちに色々と手を貸せるはずだ。まっ、どうしても報酬が欲しいってんなら、名目は別になるが、勲章の一つも出すようには掛け合うが」
そろそろ話は終わりと男は、詳しい情報が入っているというブリーフケースを差し出す。

「まあ、摘発までは期待していないが、情報の提供者にウチが無能じゃなく提携先、投資先として価値があるって思える程度の情報は洗い出してもらいたい。それくらいはできるだろ?」

「まだ、引き受けるって言った覚えはないんだがな」
 安っぽい挑発に乗るかと賢木、それでもファイルは受け取り
「せっかくの美人の頼みだ、俺‥‥ 俺達なりに動いちゃ見るが、期待はするなよ」

『判っている』と手を振るだけで男は応える。隣の女性にぜいぜい楽しませてもらえとハッパをかけその場から去ろうと背を向ける。

「おい!」賢木は険しい声でそれを呼び止める。

「何だ?」不審を浮かべ男は振り返る。

「次に来る時は土産を忘れるなよ。それが日本文化の気配りってもんだ」
終始、相手のペースで終わった話に一矢を撃ち返す賢木。

「‥‥ 判った、そうしよう」と苦笑いの男。
 フラワーランドの入場口に向かうと大きな帽子の少女がそこに駆け寄っていく。
【絶チル】【長編その0】【バレット&ほとんどオリキャラ】
チルドレンが中学に進んだ頃、チルドレンの知らない事件が起こる。

 見てみると前回投稿から何と4年ぶり! めっきり寂しくなったこの界隈ですが、しぶとく生き残っています。例によって長編(全10〜13話ほどを予定)。時節柄、完結まで行けるかは不明ですが、よろしくご贔屓をお願いします。
補足1
これが第0話なのは主役を予定しているバレット君も『ほとんどオリキャラ』も登場しない状況説明のための話だから(バレット君は同時投稿の第1話に、もったいをつけている『ほとんどオリキャラ』は次回投稿で登場します)。
補足2
第0話の前半の舞台、最後に登場するアイパッチのキャラ(及び上司)はスピンオフからの登場です。一応、原作にも登場していますが念のため。
 なおスピンオフと原作の関係は(時系列的に矛盾するので)今ひとつ不明瞭ですが、本作では時期的にはチルドレンの小6時代、チルドレンが関わらない、ただし皆本と賢木は関わった似た事件があったという風にしています。

最後に今回、幾度もの試し読みを含め全面的に協力いただいたUG様には、この場を借りて感謝の言葉を述べさせてもらいます。

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