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T.P ○○○ ― タマモの恐竜 200X (2)―

MATOMO>
2日目 PM 7:15


「………それで…連れて来ちゃったんだべか……?」

「うん!!」

驚いて聞いた早苗さんに…タマモちゃんは、至極当然といった風に答えた。


ここは、氷室家のおキヌちゃんの部屋。
今年の初めから、タマモちゃんも一緒に使うコトに成ったんだそうだ。

今、連れ帰った首長竜の子供のため、少し強めに暖房を効かせている。


その首長竜……フタバスズキリュウの子供は……
どうやら孵化して初めて見たタマモちゃんを、すっかり母親と刷り込んでしまった様だ。

タマモちゃん…
その子供を膝に乗せ、白亜紀から持ち帰った魚の干物を手ずから裂いて食べさせている。


「今のところ、このフタバスズキリュウが現代に来たコトが原因で…
 歴史がおかしな風に変った様子は無い様だけど……」

そこまで言って、こちらを睨むタマモちゃんの無言の圧力に屈し……僕は…言い淀んだ。


「ごめんなさい!! 
 私、この子のお母さんに…心配しないでって……約束しちゃったの……」

「あのまま置いて帰ったら……
 昨日のモササウルスとかに食べられちゃうかもしれないじゃない!!」

「そうでござる!! 
 義を見てせざるは、武士の道に反するのでござる!!」

おキヌちゃんは頭を下げ……
タマモちゃんは僕と茂呂を責める様に言い返し…シロちゃんもそれに続く。


しかし……
死にかけている首長竜に対する緩和カウンセリングって………GSの仕事って奥が深い(汗)




白亜紀から氷室神社に到着し、タマモちゃん達のお養母さんが用意してくれた昼食を頂いて…
早速、僕と茂呂は、早苗さんの案内で近くのゲレンデにスキーに出かけた。

もちろんスキ―用の荷物は、事前に宅配便で到着済みだ。

ところが…
タマモちゃん達3人は『疲れたから……』と、昼食の後…何やら慌てて部屋に引っ込んでしまった。


そして夕方近く、スキーを楽しんでいた僕と茂呂は……
突然、ゲレンデに現れたタマモちゃんとシロちゃんに拉致され、ココに連れ込まれたのだ。

その時の二人の剣幕に、早苗さんまで何ゴトかと付いて来た。

そこには…
かなり衰弱した…生まれたばかりの首長竜を前に、四苦八苦しているおキヌちゃんの姿が在った。


はじめ三人は、連れ帰った首長竜の子供のコトは、僕と茂呂にも内緒にするつもりだったと言う。
でも…段々、その子供が弱ってきたため、途方に暮れ……

結局、タマモちゃんの鶴の一声で、僕達を共犯に仕立てあげるコトが決定したのだそうだ(苦笑)


「生まれたばかりで、環境の変化に体が付いて行かないんだ……」
茂呂は、フタバスズキリュウの具合を診て言った。

そして…何やら、ひどく嬉しそうに……

「こんなコトもあろうかと、ひそかに開発しておいた“恐竜用 成長促進剤”が役に立った♪」










  T.P ○○○  ――― タマモの恐竜 200X ―――










何でも…
急な環境の変化による体調の不具合って、霊能力によるヒーリングは向かないケースなのだそうだ。

ともかく詳しい話は、後で落ち着いてからというコトになり……
交代して、首長竜の子供に付添うタマモちゃんを部屋に残し、僕達は先に夕食を取らせてもらった。

そして…
再びおキヌちゃん達の部屋に戻ると…フタバスズキリュウの子供は、すっかり元気になっていた。

食欲も旺盛になり…
部屋に運んだタマモちゃんの夕食のお膳に有った…件の古代魚の干物をペロリと平らげた。



「元気に成ったところで……この子の名前、何て付ける?」

タマモちゃんが言うと、シロちゃんは…

「ピーピー鳴くから“ピー助”は、どうでござろう?」

「却下っ!! 元ネタのまんまじゃ…オマージュに関する規約で問題が起きると厄介だから……」

何の話か判らないけど……? タマモちゃん、即断。

「う〜〜ん……。フタバスズキリュウって恐竜さんだから……
 シンプルに“鈴木さん”はどうかしら?」

おキヌちゃん……
その凄まじいネーミングセンスは、どちらでつちかわれたんでしょう?

「OK!! この後の展開が、バレバレになりそうなイヤな予感がしないでもないけど……
 それに決めましょう。今から、あんたは“鈴木さん”よ!!」

即決。そっちは問題無いのか?




「とにかく!! 向う数ヶ月は、あの時代に行けないからな。
 当分、現代で育てるより他にあるまい」

茂呂がそう言った。

「この子を育てるのに、異存は無いんですが……」

「どうして、そんなに恐竜の時代に行けないのでござるか?」

あぁ〜〜あ……おキヌちゃん達、聞いちゃったよ……(汗)


「時間旅行は、それほど簡単ではない!!」

そう言うと茂呂は、ドコからともなく大きなホワイトボードを取出した。


「タイムトラベルは、宇宙の絶対質量の変動を意味する!!

 その結果、付近の時空には『ビチロモッホ不連続面』が発生する!

 つまり! これによって時脈の負荷は、相対次元理論より導かれる公式…

  T=MC e√Dh/tとした場合…………」

そして、2人を相手に喜々として専門的な解説を延々と講じはじめた。


「き、聞いて悪かったでござる……拙者、まだ義務教育が必要な年齢ゆえ…
 そうだ!! おキヌ殿! 今度、高校3年生になるのでござるから……」(大汗)

「え"っ?! 私? 今まで物理とは…全く縁の無い人生を送ってきたから……」(大汗)


そう言えば…おキヌちゃんの通う六道女学院 霊能科って……
大蝦夷農業高等学校や明日香工業高校と同じ職業高等学校という分類に入るらしい。

つまり、一般的な学科を減らし…オカルトの知識や実技を習得するワケだ。
まぁ……普通科の理系選択の高校生でも、茂呂の話は解らないと思うが……(苦笑)


確か、文系サイドのオカルトを専攻している大学生だったはずの早苗さんは……
自分に余計な火の粉が飛んで来ぬ様、知らん顔でタマモちゃんと一緒に、鈴木さんと遊んでいる。


「茂呂、結論だけ言ってあげなよ……」

頭がパニックに成り、目を回している2人のため助け舟を出した。

「つまりだ!! 時間移動の繰返しはいかんのだ。
 逆流時間が重なると超空間の歪みが大きくなって、とても危険だ。

 白亜紀に繋がる時脈が安定するまで、こっちの時間で数ヶ月は要する!!」

フミさんが、忘れ物などにも非常に慎重だった理由は、その辺りにも有る。


ついでに言っておくと…
茂呂の時空艇には、亡くなったおじいさんが様々なリミッターを仕掛けている。


例えば、現代よりも先の時代…つまり未来へは進めない。

次に、過去の自分に関るコトへ干渉したりできない。

その他、現代への帰着時間は出発時間に過去で過ごした体感時間が加算される。
等など……


未来への跳躍は、時脈とやらの人為的な連続分岐を起こす危険性を孕んいるのだそうだ。

また過去の自分への干渉とは、同じ時間軸に複数の同一固体の存在が重なるコトを意味しており…
相対性理論の質量とエネルギーの総和の保存の法則上、非常に危険なコトなのだという。

帰着する際の、過去での滞在の時間の加算。
これは、少しややこしいんだけど…時間移動する場合、本人の体感時間って…実は非常に重要なんだそうだ。

これを無視すると、肉体と精神の結合バランスが崩れてしまう。

すると、“逆行”とか言うそうだが……

精神が離脱し、他の時間の自分に飛ばされてしまったり…
最悪の場合、存在が消滅してしまうという厄介なケース……

その原因になる危険が有るのだそうだ。

それらのリスク回避を、技術的にクリアできていなかったとかで……

茂呂のおじいさんが予見した禁忌に触れる危険性が有る…
そう時空艇の人口知能が判断した場合…その時間移動は、エラーとなる。


茂呂の面倒な講釈を聞かされる心配が無くなったためか…

「おキヌちゃん、育てると言っても……
 おそらく…恐竜の子供だったら、恐ろしく大きく育つだよ。
 
 第一、東京の下宿でペットは飼えねえだ……」

早苗さんが戻って来て、そう言い出した。

GS資格取得試験を受ける前後から…おキヌちゃん、続いてタマモちゃんも…
早苗さんが、大学の近くで住んでいた“幸福荘”というアパートに部屋を借りている。

昨日の朝、僕達が出発したのも幸福荘からだ。


「いっそ、御呂地岳湖に放すだか?」

確か…近くに在るダムの湖だ。

「ダメですよ……人目に付いたら大騒ぎになってしまいます。
 それに爬虫類なんですから…今の気温では、すぐ体調を崩してしまいます」
僕が、そう注意すると…

「だべな〜〜」

さほど本気ではなかったのか? 早苗さんは、あっさり納得した。


「う〜〜ん……六道のおば様に相談してみましょうか?」

おキヌちゃんの言う六道って、六道学院も運営している六道グループのコトだろうか…?

「今回はチョット……鈴木さんは、UMAじゃなくって…本物の恐竜なのよ。
 どこかに連れていかれて、色々調べられたりしない?」

そうタマモちゃんが、膝の上に鈴木さんを抱いて不安げに言う。


その時…茂呂が恐いコトを言い出した。

「オイっ!! 盛り上がっているトコに、話を戻す様だが……
 大きな歴史改編は無くとも…親しい者との関係が、全く変わっているかもしれんぞ?

 このチビを連れ帰ったコトが、歴史にどう影響しているか分らんからな!」


それを聞いて……

「ちょっとゴメンなさい! 私、横島さんに……」

おキヌちゃんは、急いで携帯を取出すと廊下に出て。

「拙者、氷室殿に電話をお借りして……修業先に連絡を取るでござる!」

シロちゃんも部屋を飛び出して行った。

「わたすも、今日は山田君と話してねえだ……」

おいおい…早苗さんまで慌てて出て行っちゃったよ………(苦笑)


そんな三人に比べ……
タマモちゃんは動じた様子も無く、また膝の上の鈴木さんと遊んでいた。

「タマモちゃんは、電話とかしないの?」

すると…
「うん? 私? 別に……必要ないから……」

なぜか…? 少し顔を赤らめテレた様に言った。 そして…

「真友君こそ、家に電話しなくていいの?」
そう聞き返した。

「僕は……いいや……」

どうせ、父さんと気楽な二人暮らし…大した変化は無いさ。


「キャ―――っ!! 私の携帯、電池が切れています!!」

おキヌちゃんが、駆け戻って来て…携帯に充電器を繋ぎコンセントに指した。
しばらく待って、携帯の画面が復活する。


「あ〜〜〜〜っ!! 愛子さんから、こんなに留守電が……」







TAMAMO>
タマモヒュプノは幻惑術♪
狐火は熱火球♪
タマモウイングは空を飛び♪
タマモイヤーは地獄耳♪


シロも人狼だから、人間の5倍〜7倍の聴力が有る。
しかし妖狐の聴力は、他の犬族の比ではない。もっとも視覚の方は、そう大したコトないが……

いや…!
別に、普段から人の電話を盗み聞きしてるワケじゃないけど……
私の1人称だから、これって……あくまでスムーズなストーリー展開のためよ(汗)


『おキヌちゃん、連絡が取れて助かったわ!!
 タマモちゃん達と『こっちから、絶対連絡できない所に出かけた……』って、横島君が……』

「ゴメンなさい……。一体、どうしたんですか? 大事件って……」

『ほらっ! 今回、美神さんの事務所から引継ぐ大手のクライアント…
 そこが建ててる港区の再開発の物件!』

「あぁ! 木林ビルさんの…先月から着工し始めた大型複合施設ですね」

確か、メインの建物は…地上54階、地下6階だったかな……
その他に複数のテナントビルと大きなホテルや、TV局なんかも在ったわ。


『そう…本来、霊的保守点検の責任は…
 4月に、うちの事務所が開業して本契約を交してからのはずなんだけど……

 着工したばかりのTV局の本社ビル建設地で、大型の霊団が暴れ出したらしいの。
 今日の午後に行った基礎工事の際に……
 何かの手違いで、前に他のGSが施していた結界を破っちゃったみたい!』

「霊団ですか……
 確か…TV局の地所って、この物件で一番厄介な場所です」


霊団とは無数の悪霊から成る集合体で、その有り様は…まるで一つの個体と化した群生動物の様だ。

周囲の意思の無い霊をも取り込んでいき…
強大なモノになると数千、いや…ヘタをすると万単位の悪霊から成っている。
破魔札などで祓うつもりならば、それこそ何千枚もの強力な破魔札を必要とする。


『うちで、急ぎ鎮められないんだったら…
 やっぱり…他の除霊事務所と契約するって、先方から……』


その再開発の件は、横島の事務所の事前ブリーフィングに参加したから知っている。

この大型複合施設の建設地一帯は、江戸時代には火浦藩の江戸屋敷が在った場所なの。

コトの起こりは、宝暦(1751年12月〜1764年6月)の頃の話よ。
当時の藩主だった宮脇なにがしの守が乱心、家臣十数名を次々無礼討ちにしたの……

ところが…
藩は幕府にケガ人が出たとだけ届け出て、あとは内々で処理しちゃった。
遺体は地下牢があった場所に、人知れず埋められてしまったそうよ。


件のTV局って…ズバリその地下牢の在った場所に建てるの。

その後も…
そこに建ってた建物は、関東大震災の時に倒壊したり。
大戦中は、コメリカの爆撃機の落とした爆弾の直撃を受けたり……

他にも、まだまだ有るんだけど……
闇に葬られた怨念が、その後も災難を引き起こしていたのね。


そうそう!! 
警視庁の特車2課ってトコのお巡りさん達が、取り壊し前の廃墟を使って訓練をしていて…
その埋められた地下牢を発見したのよね!

ほらっ! 『特車隊2課パトレイバー隊 250年前の犯罪を暴く』ってニュースよ。

あの時、けっこう話題になったわよね。覚えてる?


『横島君……いいえ!! 
 私たちのボスは、社員と登録したバイト達を動員して…
 
 今も、必死で現場の指揮を取りながら……

 きっと…愛しのエースの到着を、今か今かと待ちわびている!
 
 青春ねっ!! もろ青春って感じよっ!!』

愛子さんは、何だか芝居がかった口調で、おキヌちゃんに言った。


「……こんな時に、からかわないでください」

『とにかく!!

 言いたくは無いけど……開業前から、うちの事務所は火の車なの……
 今、木林ビルみたいな大口クライアントから切られたらアウトよ。
 
 おキヌちゃん、急いで帰って来て!!

 タマモちゃんも連れて来てね。あなたのバックアップ要員が足りないの。

 それから……
 あの子には、事務所の存続に係る重要な任務にも当って欲しいから……』

………重要な任務………?

『タマモちゃんには……

 明日の朝までに片付かなかった場合……ボスの………補習の影武者をお願いするわ』


…………わ、私の……存在価値って…………(汗)






MATOMO>
2日目 PM 8:35


「じゃあ、タマモちゃん……鈴木さんのコトお願ね」

「分かった……
 ねえ……あの馬鹿の補習……本当に大丈夫なの?」

「お姉さんに任せなさい!!
 明日の朝までに、バッチリ片付けちゃいます!」

おキヌちゃんは、不安そうなタマモちゃんに胸を叩いて言った。


「最悪、バイト登録の子に……精神感応術の使い手もいますし……」

ありゃりゃりゃりゃ………(汗)


この度、おキヌちゃん、シロちゃん、タマモちゃんの3人はGS資格を取得した。

これは、仮免許の様なモノで…
正規のGSの元で研修を受け、認定してもらう必要が有るのだそうだ。

何でも、4月からおキヌちゃんとタマモちゃんが、研修を受ける事務所で…
今日の夕刻、大きな霊障が起きてしまったとかで……

急遽、現場に向かわねばならないのだそうだ。


しかし、タマモちゃんは……今、鈴木さんの側を離れるコトを渋った。
でも、まだまだ残雪が多い木曽地方の外気に、爬虫類の鈴木さんを晒すワケにはいかない。

まして、狭い車で東京までの強行軍に同行させるなど……言語道断だ。


えっ!? 何でフミさんに迎えに来てもらわないかって?
今日の昼から明日の夜まで、異空間で待機しているのか……連絡が取れないんだ。

おまけにフミさん自身も、昨日から充電できてないから…
省エネのため、自分の体をスリープモードに移行しているみたいだし……

さっき説明した様に……明日、時空艇を使って…やり直すコトも不可能だ。


「シロ、急な話で悪いけど……助っ人、お願ね……」

「のーぷろぶれむでござる!! 
 日頃からグータラな野良ギツネと違い、鍛えてるでござるから……〆シュっ!」

シロちゃんはタマモちゃんに、顔の横で右手の手首を回し、敬礼の様な仕草で答えた。


「それに……拙者にとっても、おキヌ殿は姉も同然!!」

シロちゃん、二人とは違う研修先で修業しているのだそうだ。

でも…
今回は、タマモちゃんの代わりに…おキヌちゃんのバックアップに行ってくれる。




「ゴメンね……大丈夫? 早苗お姉ちゃん」

後部座席のドアを開けながらおキヌちゃんが、運転席の早苗さんに話しかける。
しかし…早苗さんは、ブツブツと運転の段取りを復習している。

さらに…
「何で、うちの車はMTなんだべ……
 こんなコトになるなら、AT限定で取っとくんだった……」

などと…小声で呻いている。
何せ……昨日、運転免許を取ったばかりなのだそうだ(汗)


「早苗、ゆっくりで構わないんだから……
 とにかく3〜4時間くらい進める所まで進みなさい!」

助手席に座った宮司さんが話しかけても…早苗さんの反応は鈍い。
こんな事態、全く想定外だったため…宮司さん、晩酌でお銚子を開けちゃっているんだ。

時間の猶予は無く……

早苗さん、初の長距離ドライブは…残雪の在る夜の山道を走り、さらに高速道路を乗り継ぐという…
いきなり難易度の高い道程の敢行となったワケだ。

宮司さんも同行して、お酒が抜けたら交代するそうだけど……


「それじゃ! タマモちゃん、明日、電話するから!」

おキヌちゃん達は、そう言い残すと出発した。





あっ……………止まった。エンストして、エンジン回してる(大汗)







TAMAMO>
2日目 PM 8:52


「ちょっと茂呂君、人の部屋で何をやってんのよ!」

部屋に帰ると、茂呂君が…何やら、怪しげなメカを作っている真っ最中だった。
もう! 鈴木さんの面倒を見てくれる様、頼んでいたのに……

ほんの短時間で……
私たちの部屋をこんなに散らかして…………これって、美神とイイ勝負よね(怒)


あれ……? 
お養父さんが釣りに行く時のクーラーボックス? どこかの部屋のエアコン? 食洗器? 

その他、諸々……
家中から……勝手に持って来ちゃったの!?

「もうっ!! お養母さんに何て言えばイイの……」

コイツ………燃やしてやる(殺)


「待て待て待てぇ―――いっ!! その物騒なファイアーボールを収めろ!!」

ちっ! 私の殺気に気付いた茂呂君が、両手を振って制止する。


「何? 死ぬ前に…言い残すコトが有るなら、最後に聞いておいてあげる……」

「ほ、ほらっ! 
 水棲の首長竜を、いつまでも水から出しておくワケにいかんだろ?
 
 それに…部屋から出そうにも、爬虫類には酷な気温だし……」

「えっ……? それじゃあ……」


そこへ、トイレに寄っていた真友君も帰って来た。

「茂呂……また派手にやってるなぁ……」


「おおっ!! 真友も帰ったか! 明日の朝までに完成させるぞっ!

 僕の新発明、“首長竜用 お出かけキャリー”だ!!

 中の海水の温度と濃度を常に一定に、かつ新鮮に保ち。
 
 おまけに…
 携帯電話の基地局セル移動のハンドオーバー機能を増幅し……

 万一の時も……追跡が可能という、優れモノなんだぞ!」


「へぇ〜〜……スゴイじゃない……」
細かいコトは解らないけど……

「スゴイか!? スゴイと思うかっ!?」

これで助かったと思ったのか? 茂呂君が聞き返す。


でも、何やら考え込んでいた真友君は……

「……………おい…茂呂、携帯のセルラーシステムって……発信元は?」

そう言うと……部屋の中を見回す。


そして…
えっ! えっ! いきなり…私の両肩に手を置いて……何?(////)

「ごめんっ!! タマモちゃん!!
 多分、本人に悪気は無い。無いと………思う……許してやって……」

へっ……?

そして、真友君は指差す……

その先に在ったのは……充電中だったはずの私の携帯…………………の残骸。


「茂呂おおおぉ〜〜〜〜〜っ!!! やっぱり殺す!! 絶対殺すっ!!!」






MATOMO>
3日目 AM 5:57


「全く…何で犯人の茂呂君が、のうのうと寝ているのよ!」

早朝、神社の神門を開けた時、ひどく眠そうなタマモちゃんは不満げに言った。

そして、午前6時になったのを確認して、朝を告げる太鼓を叩く。
この太鼓の音を時報の代りしている近所の方も多いのだそうだ。

神社の朝は早い。
お社と境内の掃除を(主に僕が…)行っていると…仕事前の氏子さんが次々とお参りに来た。

お正月から顔見知りになった方も大勢いる様で…
タマモちゃんは氷室神社の娘として、そつ無く挨拶を交わしている。


あれから…
激怒して、そのまま茂呂を撲殺しかねないタマモちゃんを必死で止めた。

茂呂は、しばらく血の海に沈んでいたのだが……
そのうち、主人公補正とやらで元気に復活して、再び件のメカの製作に没頭した。

そして、明け方近くに完成させたそうだ。
神社の手伝いのため起き出した僕と入れ違いに床に付き…今、爆睡している。


昨夜、僕達はタマモちゃんのお養母さんから……
茂呂の仕出かした器物破損その他の連帯責任として、お昼過ぎまで神社の手伝いを命じられた。

だから僕は、神官用の白衣びゅくえ浅葱色あさぎいろ、つまり水色に近いグリーンの袴を履いた格好。
タマモちゃんも、巫女装束の白衣に緋袴ひばかま。二人とも足元は、足袋に草履を履いている。

はっきり言って……
タマモちゃんの巫女姿、よく似合ってる! 可愛い!!(////)




3日目 AM 8:45


朝食を食べたあと、今度は社務所の番をするコトになった。

一昨年起きた、妖怪による首都圏麻痺事件死津喪比女の一件を題材にした小説がベストセラーに成り……
それがMHK国営放送でドラマ化されたりして、氷室神社は一編に有名になった。

そのためか…
今日も、スキーがてら脚を伸ばしたのであろう参拝客がけっこう訪れる。

と言っても…
タマモちゃんのご両親は、全く商売っ気が無い様で…特別なグッズ等は全然用意していない。


「すいませ―――ん!」

OLさんかな? 色々、お守りとか買ってくれたんだけど…
カラフルなスキーウェアをまとった3人組の女性参拝客から、神社の縁起について質問を受けた。


タマモちゃんは、我関せずで…
客の目に付かない位置で、お出かけキャリーの蓋を開け鈴木さんを構っている。

昨夜、彼女は宣言した。
「細かいコトは…全部、真友君に任せたから……

 だって…真友君は茂呂君の助手でしょ!
 おキヌちゃんの師匠なら……必ずこう言うわ。

 師匠の失態は、助手の責任!! 雇い主のフォローは、助手の義務!!」


いや…茂呂は、僕の師匠でも雇い主でも無いんだが……(泣)


それでも…ここのパンフレットに目を通し、神社の縁起や祭神などのコトも把握しておいた。

でも、その参拝客たちが神社の人と話したかったのは、件のドラマの内容の方だった。


ドラマは毎回見てたワケじゃないけど、原作の小説の方は……

僕の父さん…真友大介が、お世話になっている先輩作家の作品というコトもあって…
続巻が出るたび、楽しみに取り寄せていた。

そのため僕も読破して、だいたい把握していていたんだ。


その小説、過去編と現代編に分かれている。
始まりは、江戸時代…元禄(1688年10月〜1704年4月)の頃の事だ。

過去編の主人公は……木曽の小藩の領主の姫君、女華姫様(以後敬称略)。

幼い頃、彼女は学問を習いに行ったお寺で、同い年の… 一人の少女と出会ったんだ。
その子は幼くして両親を失くし、そのお寺の和尚さんに育てられていた。

二人は、学友として競い合い……
時に女華姫は、少女の手引で城を抜け出し…村の他の子供と遊んだりもできる様になった。

でも、女華姫は気付いてしまう。結局、家臣の子も、村の子供達も……
皆、身分が垣根になってしまい…自分を本当の自分として見てくれないコトに。

ただ一人の例外を除いて……


「わたしたち、きょおから…こころのともになりましょっ!」


そして、二人は無二の親友として友情を育んでいくんだ。

でも、数えで14を迎えた年、和尚さんが亡くなってしまう。
少女は、自分と同じ様に和尚さんが育てていた孤児たちを、姉として懸命に育て始める。

もちろん女華姫も、少女を色々フォローしたんだ。


ところが同じ年、藩の南に在る賤母山しずもやまから、とんでもない妖怪が現れてしまった。
この妖怪の影響で、近隣に地震や噴火が起き始め人々は苦しんだ。

そして、とうとう元禄関東地震が引起されてしまい…遠く離れた江戸の町も大混乱に陥る。

二人が15を迎えた春……
幕府から対策を急ぐよう命じられた女華姫の父親の領主は、一人の道士を呼び寄せた。


だけど…
その道士が、妖怪を封じ込めるため講じた秘術には、15の娘の犠牲を必要としたんだ。
人身御供を選ぶクジで、当りクジを引いてしまったのは女華姫だった。


「姫も15!! この者たちも15!! 生命に何の違いがあろうぞっ!!」
女華姫は、そう言った。


でも……
我が娘可愛さに取り乱して、領主はクジのやり直しを民に強要した。


「お…おそれながら…! 私が志願いたします!!」


妖怪に苦しめられている多くの人々を救うため……
誰かが肉親を失って悲しむのを終わりにするため……

そして、たった一人の友を救うため……


「私の命を…どうか…どうかみんなのために……」


親友の少女は、女華姫の身代わりとなり……自ら死を選んだ。




「そうそう! 私、あのシーン泣いちゃった」

「あの時は、道士役の藍方君が憎らしく思えちゃったもの!」
OLさん達は口々に言った。

ちなみに藍方というのは、人気お笑いコンビ“けーすけ&ゆかり”のツッコミ 藍方圭介あいかたけいすけ
相方の藤本ゆかりもそうだけど、近頃、俳優としてピンの活動も目立ってきた。

このドラマでは、道士の役を演じて高い評価を得たそうだ。


「でも…その後で、どうしてお姫様は一人で取り残されたの?」
もう一人のOLさんに聞かれた。

「江戸時代は、大名の領地と言いましても…
 詰る所、日本の土地の所有権は徳川将軍家に有ると考えられていて…
 国替くにがえとか、所替ところがえって言って、領地を他へ移すコトはよく有ったそうです。

 もっとも、女華姫様の父親の場合、妖怪退治の恩賞として加増を伴う国替なんですが」
そう説明すると…


「スッゴ――イ! 詳しいっ!」
「君、ここの神社の子でしょ? だから藍方君に似てハンサムなんだ……」
「ねえ!! 写真撮らせて! 私達と一緒に!」

いや…仮に僕が、この神社の子供でも…道士を演じた俳優と似ている理由にはならないのでは?

と……タマモちゃんが、すっごく冷たい視線で僕を睨んでいた。
ヤバイ……なんか…ものすごくヤバイ……(汗)


「ち、違いますよ!! 僕は、単なる手伝いで……
 
 あっちの女の子が、この神社のお嬢さんですっ!!」

咄嗟に、OLさん達の関心をタマモちゃんに向ける。


「キャー!! 可愛い!!」
「やっぱり、お姫様の子孫だけあって……全然気品が違うわ!!」
「ねえ!! 写真撮らせて! 私達と一緒に!」

「えっ? えっ? ここの娘と言っても…私、養……」

言いかけたタマモちゃんを……

「イイじゃない、イイじゃない。今、そんなに忙しくないし。
 せっかく参拝してくださったんだから……

 余計なコトを言ってないで、ほらサービス!! サービス!!」

ちょうど他の参拝客がいなかったコトもあり、そう言って社務所から追い出した。


そうそう! さっきのOLさんが言ってたコトだけど…

自分のために親友を死なせてしまったと、一人残され苦悩の日々を送る女華姫。
そこに追い討ちを掛ける様に、幕府から父親の領主に件の国替の命が下ったんだ。

友が眠る…この地を去る事を拒んだ女華姫は、自らの地位も家族も…全てを捨てる決意を抱いた。

彼女は、川に身を投げ自害を装おう。

そして、父と家臣達は去り、幕府の直轄地となったこの地に一人残った女華姫は…
かつて親友の少女がそうだった様に、大勢の孤児たちの姉として生きるんだ。

ドラマでは…
その後、同じ様にこの地に残って少女の霊を祀っていた道士と再会するんだったかな?


お社の前で写真を撮っていたタマモちゃん達が帰って来た。

「ありがとうタマモちゃん♪」

OLさん達に礼を言われて、タマモちゃんが社務所に入って来る。

「真友君だよね。色々、教えてくれてありがとう!」

僕の名はタマモちゃんが教えたのだろう。

「いえいえ。これも仕事ですから」


帰りかけて、ふと思い出した様に……

「ねえ……
 ドラマの最後の方で、幽霊になっちゃった女の子が生き返ったじゃない。

 アレ、本当に有った話だって噂……本当?」

「そうそう! 氷の中から安美江ちゃんを近畿君が助け出すのよね!」

「ネットでは、色々言われてるよね。
 生き返った子は、都内で女子高生やってるとか……

 安奈みらの新作の主人公は、同じ人物がモデルだとか……」

あ……また話が長くなりそう……


「そんなの……単なる都市伝説ですよ。ネットの書込みなんて無責任なものです!」

僕は、自信タップリを装って答えた。

「そうよね! 
 大勢の人のために、自ら過酷な死を選んで…その後、復活したなんて……
 イエス・キリストじゃあるまいしね!」

「そうですよ、そうですよ。それより、ゲレンデに行く途中なんでしょ?」

OLさん達は、僕達に礼を言って、帰って言った。


さっきの話、現代編は一昨年の首都圏麻痺事件のコトだから詳しい説明はいらないだろう。

まあ、ついでに言っておくと……
ぶっちゃけ、おキヌちゃんがモデルという少女の役…ドラマでは、奈室安美江が演じていた。
横島さん…今の研修先の所長なんだけど、当時は師匠の事務所の先輩だったそうだ。
その役は、近畿剛一が演じていたっけ……

何でも、おキヌちゃんと横島さん……
師匠の事務所に居た頃…ある事件で問題を起こしグレムリンの一件で、MHKとひどくモメたとか……

それで、横島さんがモデルの現代編の主人公は、オカルトGメンの刑事という設定に変えられていた。

ドラマのラスト……
生き返って記憶を失くした少女が自転車に乗り、刑事の目の前を通り過ぎる…

刑事は、少しためらうんだけど……
幸せそうな少女の様子に、黙ってその場を立ち去る。

見ていて…僕も泣きそうになってしまった。


そして、ラストシーン。
刑事は気付かないんだけど…少女も振り返って、刑事の背中を不思議そうに見つめていた……







TAMAMO>
3日目 AM10:30


おキヌちゃんから連絡が来ない。

あの後、携帯が壊れちゃったコトを連絡しようとした。でも…山の中を移動中なのか繋がらなかった。
「家の方に電話ちょうだい」って留守録しといたんだけど……

真友君と茂呂君は、離島暮らしだから…携帯なんか持っていないのよ(怒)


まあ、いくら強大だったとしても……
霊団が相手なら、うちのおキヌちゃん以上に相性良く戦えるGSなんか存在しないわ。


「おい! 真友にタマモ。
 氷室のおばさんが、僕達に別宮べつぐうとやらへお客さんを案内して欲しいそうだぞ!」

やっと起き出して来た茂呂君が、4人の客を引き連れて現れた。


「東都大学の柳国教授と日須持教授ですか……」

真友君が、渡された名刺を見ながら言った。

怪しげな年配のおじさんが考古学の先生の柳国で、性格のキツそうなおばさんが生物研究所所長の日須持。
二人は各々、中年男性の助手を連れている。

でも…何でこのおばさん、カラスなんか肩にとめているの?
そのカラスを良く見ると…額に赤い三角の目印が付けて有った。


「別宮って、けっこう遠いわよ……」

昨年末に、早苗お姉ちゃんとお掃除に行ったから土地勘は有る。
別宮の在る竜神峠は、おキヌちゃんの体が眠っていたという氷穴が在る山より…まだ向うだ。

「大丈夫。私達の車で移動しよう。
 申し訳ないが急いで欲しい。刻限が迫っている。

 神主さんと約束していたのだが…お留守というのは想定外の事態なのでね」
柳国というおじさんが言った。


もう着替えてる時間は無い様で……
私と真友君は、スニーカーに履き替え…神官と巫女の衣装の上に、上着だけ羽織って出発する。







MATOMO>。
一見バスの様な外観なんだけど…馬運車の様に動物用大型トランスポーターなんだろう…
ボディに東都大学生物研究所と書いてある。

「君、あちらの彼女は……
 先日のGS資格取得試験に出場していた…氷室神社のお嬢さんの一人だよね?」
柳国教授が聞いてきた。

今回のGS資格取得試験は、TVでも放送されたので…それを見たのかな?

「そうですよ」
僕が答えると。

柳国教授は、何やら助手のボブカットで黒服の男性と頷き合っていた。

タマモちゃんは、お出かけキャリーを脇に助手席に座り…
運転手…日須持所長の助手で、小太りの眼鏡を掛けた男性に道を説明している。




3日目 AM11:15


トランスポーターは、道幅ギリギリの山道を走り、古いお堂の前に止まった。
タマモちゃんやおばさんが別宮と呼んでいた…このお堂には“竜神神社”と書いた額が掛かっていた。

氷室神社のパンフレットによると…
竜神神社の起源はっきりしないらしいが、歴史は氷室神社本社より相当古いらしい。

現在は、このお堂が残っているだけだそうだけど……


もともと…この神社を奉っていた集落は、急激な過疎化が原因で、とうとう無人化してしまった。

竜神神社も、女華姫様と非常に縁が深い神社だったそうで、それで氷室神社が管理しているのだそうだ。


「ここです。神主さんお養父さんは居ませんけど、鍵は預かってますから」
タマモちゃんが言う。

柳国教授は感慨深そうに、日須持所長は何だかイライラしながらお堂を見ている。


「こんなオンボロに何か値打があるのか?」

バチが当りそうなコトを、しれっと茂呂が言う。

「オンボロか…その通りだな。

 時は、あらゆるものを…忘却の彼方へ飲み込んでしまう。

 人は、伝統という小船を浮かべて…
 その流れを渡ろうとするが――時代は変わってゆく」

茂呂の失礼な発言に対する…
柳国教授の言葉は、含蓄に富んでいそうで…思わず僕達は聞き入った。


が…しかし……
「そんなコトどうでもイイのよ! 恐竜はどうしたの?
 そんなたわゴト言ってるヒマが有ったら、早く恐竜を連れてきてよ!

 大学は、私たちを適当な理由を付けて放り出す気よ!!
 私から研究を奪うチャンスを狙っているのよ!!」

突然、日須持所長が怒鳴り始めた。すると…

「あ―――――っ昔は良かった!!

 国の予算で研究できたし、あの頃は女房もわしを愛していた!!
 それを学会のクソども、わしを邪道で異端で異常などと…!!

 くそおおおおっ!!」

おいおい…柳国教授まで暴れ出しちゃったよ……(汗)


「先生! 落ち着いてください!」

ボブカットの助手の人が、柳国教授を取り押さえる。

「何? この人たち……?」

タマモちゃんも、マンガの様な大粒の汗を流して言う。


その時…
「おい! 真友、タマモ! こっちへ!」

茂呂が、お堂の影から僕達を手招きしていた。







TAMAMO>
「聞いたか? あのおばさん…恐竜がどーのこーと……」
茂呂君が言う。

「そりゃ聞いてたけど……
 ねえ、真友君。鈴木さんのコトだと思う?」
そう問いながら…

タマモイヤーは地獄耳♪ しっかり耳をすませ……
柳国のおじさん達が、どこかで様子を伺っていないコトを確認して、お出かけキャリーの蓋を開けた。

ピッ! ピ、ピィ――――!

今まで閉じ込められていた鈴木さんが、嬉しそうに顔を出す。


「う〜〜ん……鈴木さんは関係ないんじゃないかな?

 こんな辺鄙な場所に大きな車を持って来たり、何だか…えらく時間を気にしたり……
 そんなコトする理由が無いんだから……

 第一、鈴木さんのコトは、誰も知らないはずだし……」


カァ―――――ッ!!

その時、空からカラスが舞い降りてきた。
額に▼マーク…日須持のおばさんが連れていたカラスじゃない……

地面に降りたカラスは、私たちの間近まで寄って来ると…
まるで観察するかの様に、お出かけキャリーの鈴木さんを見つめる。

「こいつ…カラスのくせに、私たちを警戒しないの?」
私が言うと…

「あの日須持っておばさんに飼われている様だから、人慣れしているのかもしれんな?」

そう言って茂呂君が近づくと、カラスは逃げる様に飛び去った。

「あっさり嫌われたな……茂呂」(笑)

真友君が、茂呂君をからかう。







MATOMO>
3日目 AM11:48


「もうじき…もうじき昼九ツだ」

時計を見ながら柳国教授が言った。

あの後、お堂の前に戻ると柳国教授も日須持所長もすっかり落ち着いていた。

「昼九ツって何?」
タマモちゃんが聞いてきたので…

「江戸時代なんかの、太陽の動きで時刻を表す時刻区分法で、正午のコトを言うんだ」

「12時までは、まだ時間があるぞ?」

今度は茂呂が、時計を確認しながら聞いてきた。


茂呂って、ものスゴイ知識の持ち主だけど…理系に偏ってるから……

と言っても…僕の場合、茂呂や小説家の父さんの影響で……
雑学というか、下らないコトばかり知っているだけなんだけど(笑)


「ほらっ! 太陽の動きを見てみな。もう南中に差し掛かってるだろ?
 今の時期のこの辺りでは、10分ばかり早いんだよ。

 うまの刻とも言ってね。
 もともと正午とは、“まさに午の刻”のコトなんだ!」

ちなみに午の刻の前を午前、後を午後という。


「古文書が本物なら、今日は歴史的な日になります!
 先生方の名前も不動のものに……」

柳国教授のボブカットの助手が言った。

「古文書?」
タマモちゃんが聞くと…

「あぁ! それはですね。離散した集落の元村長の子孫から入手した……」

日須持所長の眼鏡の助手が説明してくれ様とした時…


「時間だ!!」
柳国教授が…

「時間よ!!」
そして日須持所長が叫んだ。途端!


カッ!!!!!


突然、竜神神社の中から強烈な光が発せられ…


バンッ!!!


まるで光の圧力に吹き飛ばされた様に扉が開いた。



そして、お堂の光の向こうから2つの影がゆっくりと前に進む。


ふしゅるる〜っ、ふしゅるる〜っ……

「――――着いたようじゃぞ、土偶羅魔具羅どくらまぐら殿」

まるでダースベイダーの様な息づかいの音を発する大きな影が言い。

「ウム!」

小さな影が答えた。










――― TAMAMO'S DINOSAUR 200X ――― 

The part of “Time Patorol Lady MEGA” is over.


See you again.
The next time “Future Memory”.










“なぜなに GS劇場”


「3・2・1・どか――ん・お――い・みんな・集まれ・解説・はじまる」

「お姉さん……
 せめて、もう少しテンションを上げてくれんかノー ……わっし、やり辛いんジャ……」(汗)


「では・虎くん・物語で・分らないこと・質問して」

「じゃー、早速ジャが…前回登場した恐竜は全部、日本にいたんですカイノー!?」

「マリア・知らない」

「……(泣)……………………」


「代りに・ドクターカオス・解説する」

「神をも超える全知全能の男!!
 人呼んでヨーロッパの魔王こと、このドクターカオスが来たからにはも――っ大丈夫じゃ!!

 洋の東西を問わず、わしに分らぬオカルト知識は無い!!」


「い、イヤ……知りたいのは、白亜紀の日本のコトですケエ……」

「何ィ? 白亜紀? しかも日本のじゃと…………マリア、今日は上がるぞ!」

「イエス・ドクターカオス」


「待って! 待ってツカーサイ……わっし一人残されても……
 ただ遊びに来ただけジャのに…何でこんな目に…………」(泣)

『大丈夫よ、虎くん! 困っている友に手を差し伸べる……青春ねっ!!』

「ああっ!!
 首席を取って、わっし達の卒業式で答辞を述べた……新しいお姉さん!!
 助かったんジャー!!」

『ふっ……
 伊達に連載中の時間が循環している間を含め、40年以上高校生活を過してないわ。
 文系、理系を問わず、あのクイズ番組程度の質問なら私に任せなさい!』


「では、最初に卵から孵った恐竜なんジャが……」

『フタバスズキリュウ!! 日本を代表する中生代の海棲爬虫類ね。

 1968年に福井の地層“双葉”層郡から当時高校生だった、鈴木ただし君によって発見されたわ。
 鈴木君は、中学の頃からコツコツ化石を掘り続けた末の快挙だったの……

 もろ青春って感じよっ!!』


「おぉっ!! そんなに有名な恐竜なんジャ!」

『虎くん、生物学的には『恐竜』とは、中生代に繁栄した大型爬虫類のうち…
 陸棲の二足、四足歩行のもののみを指すから……海竜・魚竜・翼竜はこれに含まれないの。

 タマモちゃん達、女の子は全部一まとめに恐竜って呼んでいるけど…
 真友君と茂呂君は、ちゃんと恐竜と首長竜、翼竜を使い分けてるわ!』

「確かに…もう一度読み直してみるとそうなんジャ!」


『今日、フタバスズキリュウの属するプレシオサウルス上科は、胎生(卵胎生)であったと推定されているわ。
 
 孵化する場面は、オマージュ作品の“ドラえもん のび太の恐竜”に習ったの。
 巣の様子と草の発酵熱で卵を温めているのは、マイアサウラ(子育て恐竜)を参考にした創作よ』

「あんな名作に間違いがあったんですかノー?」

『藤子先生が、執筆された時代を考慮すれば…それは仕方が無いコトなの……
 何せ…過去の生物や地球に関する研究は日進月歩よ!

 まだ、中生代の日本は海中に沈んでいたと考える研究者が多かった…そんな時代に描かれた作品だから。

 それはそうと……
 最近、国内で色々な生物の化石が発見されるようになってきたコト等はとても喜ばしいわね♪』


「お姉さん、タマモちゃん達が白亜紀に来て最初に出会った恐竜なんジャが……」

『ああっ!!
 ティタノサウルスね。その名前は、ギリシア神話の巨神 テイターンに由来するの。
 でも、竜脚類として特に大型というワケではないわ。

 親子が連立ってるシーンは創作だけど…
 大型の肉食恐竜から身を守るため、どうやら群れで行動していた様よ。

 国内のティタノサウルス類は、1996年に三重県鳥羽市で鳥羽竜トバリュウが…
 2006年に兵庫県丹波市で丹波竜タンバリュウが発見されているわ!』


「ところで、本当に鳥は恐竜から進化したんですカイノー?」

『実は、物語の舞台の2000年代初頭では有力な説の一つに過ぎなかったの……

 恐竜の前脚の3本の指は、第1−2−3指(親指−人さし指−中指)なのに対し…
 鳥の翼に有る3本の指は、第2−3−4指(人さし指−中指−薬指)だと反論されていたの。

 その矛盾を2011年に、東北大学の田村宏治教授と院生の野村直生さんのチームが解決したの!
 鳥の翼の指も、第1−2−3指と発生学的に解明し…鳥に関する昔からの間違いも正したのよ。

 あぁ…学問にかける情熱……青春だわ!!

 鳥と言えば…あの時、孔子鳥コウシチョウのシーンが有ったわね……

 孔子鳥の化石は、日本では発見されていないから、あそこは作者の創作とも言えるわ。
 それと、端折ってしまっているけど…孔子鳥のメスには長い尾羽根は無いの』


「それじゃー、白亜紀の日本に鳥はいなかったんですかノー?」

『それはあり得ないわ!
 第一、1億2千万年前…白亜紀前期の世界最古の鳥類の卵殻の化石は、福井で発見されてるんだもの。

 もともと鳥や翼竜などの飛行する生物は、骨格などが脆くて薄いから…化石になり難いの。
 他にも昆虫は、圧倒的に数が多いにも係わらず体の小ささと相まって、化石として残る確率が非常に低いわ』

「だったら体の大きい翼竜だったらどうなんジャろう?」

「残念ながら、大型の生物の場合でも…あまり条件は良くならないの。
 それから、長崎や淡路島で発見されたケツァルコアトルスと同じアズダルコ科の翼竜は3〜4m程だそうよ』


「ダチョウに似た恐竜の集団の様子ですジャが…あそこも創作ですカイノー?」

『テリジノサウルスのコロニーね!
 あれは、北海道大学がモンゴルで調査したテリジノサウルス類のコロニーの研究報告を参考にしたそうよ。

 テリジノサウルス類の化石は、国内では熊本や北海道などで発見されているわ。
 でも…体の大きさは、モンゴルでコロニーを形成していた。やや小型のテリジノサウルス類の大きさよ。

 それから、テリジノサウルス類は草食でなく、魚を捕って食べていたという説も有るわ。
 子供に給餌する場面は、マイアサウラの子育ての推定を参考にした創作よ」


「お姉さん、シロちゃん達を襲った怪物なんジャが…本当に、あんな大きいもんなんかノー?」

『あれは、世界で発見されたモササウルスでも最大級の大きさだから……(苦笑)
 国内では北海道、和歌山、大阪府などモササウルスは全国で40件ほど発見されているわ。
 
 そうそう! 他の恐竜の体色は、執筆の際に参考にした想像復元図の色を真似ただけだけど…

 モササウルスの鱗が黒い色の色素を有しているのと…
 孔子鳥の羽毛が金華鳥キンカチョウに似ている様子は、最新の研究成果に基づくものよ!』


「恐竜じゃなくて、今回の話で質問なんジャが…」

『ちょっと待って!!
 もし質問の内容が、時空艇や時間移動に関するコトなら、私の守備範囲外よ。
 おキヌちゃん達と同じ目に合うのを覚悟して、茂呂君を呼んで来て!!』

「違うんジャ!!
 聞こうとしたのは、昼九ツとかうまの刻とか言う時刻のコトですケン……
 タマモちゃん…九尾の狐は、平安の頃に生きとったのに知らんかったんですかノー?」

『それはね、時代劇や落語で良く有る時刻区分、9で表す12等分法が普及したのは室町時代の末頃なの。
 だから、仮にタマモちゃんに前世の記憶が残っていたとしても知らないはずよ』

「その時刻区分とかジャが、日本独特のモノなんかノー?」

『起源は中国だけど、日本風にアレンジされてるわ』


「話は変るんジャが…タマモちゃんも、中国から来たんじゃったカイノー?」

『そう言うんだけど……

 もともとの御伽草子“玉藻の草紙”とかに、中国やインドの説話を入れ込んだのは…
 本当は、江戸時代からなんだけどね……(苦笑)

 まぁ、良く言われてる話では…
 最初の登場は、紀元前11世紀 殷の時代の末頃ね。有名な周の軍師 太公望(呂尚)と戦ったそうよ。
 次は、紀元前8世紀。今度は周の分裂の原因と成って、春秋戦国時代が幕を開けたの。
 その後、インドのマガダ国にも現れたとか……』

「まさに、“傾国の美女”と言うアレですジャ!」
 
『殷の終焉と周の分裂なんだけどね……

 ぶっちゃけ!! 
 私に言わせれば、使え無い王様が仕出かしたバカな行動を、側に居た女の人とかの責任にして……
 さらにタマモちゃんを同一視しちゃったのよ!

 これって男尊女卑よ!! そんなの青春じゃないわっ!!』


「なるほど…失敗をおなごの所為せいにするとは、最低なんジャー!!」

『そして九尾の狐はね、日本に753年の第10回遣唐使船に乗って来たと言われているわ。

 でもね…
 唐の時代に書かれた“周書”や、北宋の時代に書かれた“太平広記”にも…
 九尾の狐、つまりタマモちゃんの記述が有ってね。
 
 それによると、タマモちゃんはね……
 
 神様から使わされた…
 平和な時代の始まりをもたらす聖なる獣で、幸福のシンボルなの♪』


「ありがとうお姉さん。勉強になったんジャ!!」

読んで頂いてありがとうございます。


今回のタイトル、“T.P めが”あるいは“T.P 女華姫”だったのですが……

女華様らしき人物は、影と声だけの出番で終わってしまいました(大汗)


さて、“なぜなに GS劇場”では、解説の流れの都合で端折ってしまいましたが…
九尾の狐には、為政者に徳が無い場合、革命を引き起こす力も有るとのコトです。

つまり…殷と周は、その力で滅んだとも言えるワケです。

そのうちSSの本文でも触れたいコトですが、うちの氷室ファミリーは…
愛子さんが熱く語ったタマモちゃんのポジティブサイドの実体を、肌で理解していると言えます。


それと、前回に書き忘れていたのですが、私のSSは……
地理的条件などの一致が多いコトで…

“おキヌちゃん長野県人説”を採用し、御呂地岳を木曽御嶽山に見立てて話を書いています。

もちろん土地勘の有る方はご存じでしょうが…
長野・岐阜両県にまたがって、賤母山(767m)も実在します。



では、今回もGTY+の発展と…旧GTYが畳まれないコトを切々と願いつつ……


尊敬するこちらの管理人様のSS……と言えば、何と言っても?触手モノですが……
(本当は続きが読みたかった……)

ここはサスケ様のサイトに寄贈された“おはようございます”より〆の言葉を引用させて頂いて…
完結編に続きます(拝)

(実は、これを読ませて頂いた時、前半と後半で1人称が入代るところから…
 唐突に昔の某ラノベの事なども思い出し、私は今のスタイルでGSのSSを書き始めました。
 そんな貴重なインスピレーションを頂いた、もと的に特別なSSなのです!)



『今日は、このまま太陽を拝めそうにないようだ。それなら明日の朝日を一緒に見ればいい。』





(………ただ…読後に……

 「aki様のキャラなら、やっぱりアノ時に触手を使うのだろうか……?」
 
 と、いけない想像をしてしまったのは……私の業というものでしょうか?)

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