その日、私は思い出した。
人と比較される恐怖を・・・・・・
偏った価値観に囚われ続ける屈辱を・・・・・・
――― 進撃の巨乳 ―――
焼け付くような日差しの中、疾走するコブラがたどり着いたのは海沿いにあるプールリゾートだった。
昭和の時代には芸能人の水泳大会などが催され、メディアへの露出もそれなりにあった施設だったが、ここ暫くは純粋なプールとしての使用しかされていない。
家族連れが安心して楽しめる、ごく普通の健全なプールリゾート。
しかし、低視聴率に喘ぐTV局が持ち込んだ企画が平穏なプールリゾートに災厄を招くことを、警備を依頼された美神は予想だにしていなかった。
「なにコレ・・・・・・周囲に漂う邪な気が半端じゃないわね」
「たしかに良くないモノが集まっている・・・・・・が、邪な気の発生源は違う気がするがな」
プールサイドに降り立った美神の呟きに答えたのは、おキヌの手の上に浮かぶ立体映像だった。
細身の少女のような姿をしているが妖精の類いではない。
遙か昔に地球に漂着した宇宙船の精神体。名をプロトタイプ・セイリュートと言う。
ひょんな出来事で美神事務所との縁を得た彼女は、例によって横島を気に入り、共に戦国時代にタイムスリップしたのち、美神事務所の居候になっていた。
「何よ発生源って・・・・・・チッ」
セイリュートの言葉に疑問を感じ、彼女の視線を追った美神は軽く舌打ちをする。
すぐ後ろ立つ丁稚の男が、自分の臀部を凝視していることに気付いたからだった。
思えば数秒前、美神は水着の位置を直す仕草をしてしまっている。
「ナニを見ているのかしら? 横島君」
「うわっ!!」
くるりと振り返り、前屈み気味にリュックを背負った横島を見下ろす。
突如話しかけられた横島は、振り返った美神のビキニ越しの下腹部を間近で見てしまったこともあり、わかりやすい狼狽を晒していた。
「いや、違うんです美神さん! 俺は本来『胸派』なんですが、なんか今の仕草に妙にそそられて・・・・・・」
「そんなコトを聞いているんじゃないッ!」
訳の分からない弁解を言う横島にいつものツッコミが入る。
「ぐはっ!! でも本当にやわらかそうで・・・・・・」
「やめんか! 気色の悪いッ! なんでアンタは毎回毎回行動に進歩がないのよっ!!」
右ストレートの後に、たたみ掛けるようなストンピングの嵐。
どうみても傷害事件の現場なのだが、見守るおキヌののほほんとした雰囲気が、殺伐とした空気を中和してしまっている。
炎天下に巫女装束という出で立ちだが、この幽霊のアシスタントは見る者全てに春の日だまりを感じさせていた。
「止めないのか?」
「いつものことですから。本当に危なくなったら止めますけど・・・・・・」
多少ふくれっ面なのは、おキヌも横島のセクハラに思うところがあるのだろう。
美神事務所に来て日の浅いセイリュートは、今後のことも考え横島に早めの助け船を出すことにした。
「その辺にしといたらどうだ? 横島の煩悩がないと私としては困るんだが・・・・・・」
この言葉に美神の足が止まる。
半裸の男を足蹴にする姿はどう見ても女王様のソレだった。
人によっては煩悩が増加するかも知れないが、セイリュートが見た限り横島にはそっちの気はない。
尤も、数発美神にしばかれたくらいでは、横島の煩悩が枯れないことも理解していた。
般若の面に隠した涙を見ない限り、彼の煩悩は無くなることはないだろう。
「ソレは結界が張れなくなるということ?」
美神の脳内で打算回路がめまぐるしく動き出す。
今回セイリュートを同行させたのは、必要経費ゼロで結界を構築できるという彼女の言葉を信じた為だった。
結界を張るための費用が発生した場合、今回の仕事のうまみは無きに等しい。
「そうだな。少なくとも美神の協力が無いと大規模な結界は作れない。小規模の結界は私とおキヌで何とかなると思うが」
「へ? 何で私が・・・・・・キャッ!!」
不意に出た自分の名におキヌが反応した瞬間、彼女の体がまばゆい光に包まれ魔法少女の変身シーンのように巫女装束から水着姿へと姿を変えてゆく。
霊体であるおキヌの姿は、強い霊力の干渉があればある程度の変化は可能だった。
「な、何なんですかっ! この格好はっ!?」
「ん? 美神と同じ格好にしてみたが気に入らなかったのかな」
しれっとした調子でセイリュートも己の姿を実体を伴った人間大の水着姿に切り替える。
彼女たちが身につけていたのは、体型によほどの自信が無い限り着れないデザインのビキニ。
正直な話、かなり微妙なチョイスだった。
おキヌはまだしも中性的な体型のセイリュートは、児ポ法ギリギリのイメージビデオのような雰囲気を醸し出している。
しかし当の本人は、やけに自信満々に横島の前に立ちはだかるのだった。
「では横島に聞いてみよう。どうかな? 私たちの水着姿は?」
「えっと・・・・・・新鮮というか、すごくかわいいと思うよ」
「えへへ、美神さんみたいに”せくしー”ですか」
視線を泳がせつつの横島の答えに、おキヌが周囲をふわふわと飛び回り無邪気に喜ぶ。
セクシーという言葉の意味を理解しているようには見えないが、天然気味な性格と横島からのかわいいという言葉は、彼女から水着への抵抗を消してしまったらしい。
「気に入ったようだな。では早速、生じた煩悩を使わせてもらうとしよう」
セイリュートも、微妙に視線を反らそうとする横島を照れていると判断したようだった。
この場から逃げるように背を向けた横島の腕を、細い腕で抱きつくように絡め取る。
本来なら横島が胸の感触に悶絶する筈のシチュエーションだが、この時に見せた反応は、美少女にくっつかれたことによる純粋な驚きしかなかった。
「え! 一体ナニを!!」
「ナニって決まっているだろう」
横島が軽い倦怠感を覚えるのと同時に、周囲に不可視の力場が展開する。
霊能力者しか感知できない結界をプール周辺に張り終えると、セイリュートは自慢げな視線を美神に向けるのだった。
「どうかな? 横島の煩悩をエネルギー源とした結界は」
「ナニよそのドヤ顔は・・・・・・確かに結界は張れたけど、規模としてはまったくお話にならないじゃない」
美神は口元を引きつらせながら不平を口にする。
横島に絡みつくセイリュートも気に入らないが、なにより期待させていた程には結界の規模が小さすぎた。
「慌てるな。いま張ったのは私に対する煩悩に過ぎない。コレにおキヌへの煩悩を加えると・・・・・・」
美神の霊感が新たな結界の出現を感知する。
今度の結界は、先ほど張られた結界と同心円となるようリゾート施設全体を覆っていた。
「・・・・・・アンタ、正気?」
美神は信じられないモノを見るような目を横島に注ぐ。
犯罪臭溢れるセイリュートの水着姿に煩悩を覚えたのは、百歩譲って性癖ということにしてやってもよいが、おキヌに対し邪な感情を抱くのは人間として間違っている気がしていた。
「その件について弁解をさせていただきます」
美神の蔑むような視線を受けた横島は、不自然な程理知的な声で彼女の疑問に答えようとしていた。
「まず一つ目。セイリュート氏との接触によって確かに私の煩悩は発露してしまいましたが、男子というものはサイズの大小に関わらず全て女子の胸に興味関心を持つものであり、巨乳好きな男でも、決して貧乳が嫌いという訳ではありません。したがって、二の腕に当たる微かな感触を意識してしまうのは、私の性癖が特殊な訳では無く、思春期の男子として至極当然な反応と言えるでしょう。そして二つ目・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
感情の籠もらない声で淡々と説明する横島から視線を外し、美神はセイリュートに冷たい口調で質問した。
「答えなさい。横島クンに一体何をしたのかしら?」
「何も特別なことはしていないが・・・・・・」
「嘘おっしゃい! まるで別人じゃない! 洗脳か人格改造でもしたの?」
「これは煩悩を限界まで吸収したことによる一時的なもので心配はいらない。戦国の世で斉藤家に取り入るときにも似たような状態になっている」
セイリュートの言葉に美神の表情が一変する。
凍りつくような怒りの表情から、呆れ混じりの脱力した表情へ。
彼女は頭に浮かんだ『賢者タイム』という言葉を必死に打ち消していた。
「しかし、煩悩の源が補給されなければ丸一日は霊能力者としては全くの役立たずということになる。このままではウォール・美神を作り出すことは不可能だな」
「ウォール・美神?」
「結界の便宜的な名称だよ。私に対する煩悩から作ったプール周辺を覆う小規模結界をウォール・セイリュート。おキヌへの煩悩から作った施設全体を覆う中規模結界をウォール・おキヌ。そして・・・・・・」
「いやよ!」
言葉を遮るように美神が拒絶の意を表した。
「私の試算では美神がほんの少しデレてやるだけで、海岸線を含むこの地域全体を覆う大規模結界を張れるんだぞ? 対費用効果としても文句はない筈・・・・・・何故嫌なのか、論理的な説明を要求する」
セイリュートは心底不思議な様子で美神に詰め寄る。
事務所に来て日の浅いセイリュートにとって、美神と横島の関係は未だよく分からないモノだった。
「う・・・・・・それは」
「そう! 私がおキヌちゃんの水着姿に感じたのは新鮮さだったのです!! 普段巫女装束の彼女が・・・・・・」
「やかましいわ。ボケっ!!」
空気を読んだか、読んでいないのか分からない横島の力説に美神のツッコミが炸裂する。
それを見たセイリュートは、自分の追及がうまくかわされてしまったことを理解した。
「はっ! 今、俺は何を喋って・・・・・・」
「あー、いいからアンタはもう喋らない。んで、セイリュート。私が嫌だと言ったのは煩悩補給の方法が他にもあるからよ。というか、結界を張ることで横島君の暴走を押さえられるのなら一石二鳥じゃないかしら?」
「横島の暴走?」
「今回の依頼を受けたとき、先ず心配したのはそのことだったのよ。今回TV局が持ち込んだ企画が、ただでさえ良くないモノを呼び寄せちゃうものだったからね。横島君の反応が少し心配というか」
「信用ないッスね」
「信用って言葉の意味を知っているのかしら横島君。大辞泉によれば1 確かなものと信じて受け入れること。2 それまでの行為・業績などから、信頼できると判断すること・・・・・・だそうだけど、1の意味ではこれ以上ないってくらい信用していたわよ。今までのパターンだと必ず何かやらかすから注意が必要だろうって・・・・・・」
「ぐっ・・・・・・」
「まあ、心配の種が結界に変わるのならばそれに越したことはないわね。さっさと場所を移動して結界を作ってちょうだいな。アンタ風に言うならば、ウォール・K女をね」
美神はそれ以上の会話を打ち切るように競泳用のプールに移動を始める。
セイリュートは聞き慣れない『K女』という言葉に首を傾げながら、横島を伴い美神の後を追いかけるのだった。
競泳用プールではTV番組の収録が始まった所だった。
プールサイドに作られたステージの上では、とっくの昔に旬を過ぎた元男性アイドルが司会を勤め、その周囲を最近見かけなくなった数組のお笑い芸人がドンドンパフパフと賑やかしを行っている。
「なんすか? この昭和臭漂うイベントは?」
猛暑を吹き飛ばすようなお寒い演出に横島がげんなりとした表情を美神に向ける。
美神もチラリと視線を観客席に向けたが、集められた男性客も似たような表情をしていた。
もしも彼らが賑やかしの為に雇われたエキストラだったら、ディレクターから速攻で駄目出しされるような盛り下がり方だった。
「低視聴率に喘ぐTV局の苦し紛れな企画だからね。司会周りに気を遣う余裕なんかないわよ」
「ダメダメじゃないッスか。本当に視聴率稼ぐ気あるんですか?」
「一応はね。だから安易な方法に頼ろうとしたのよ。ホラ、あんな具合に」
美神がステージの一角を指さした瞬間、派手な入場曲が鳴り響き、際どい水着姿の美女たちがステージ上に次々と現れた。
ずらりと並んだ美女たちが胸や臀部を強調するポーズをとる度に、観客席からは演技では無い歓声がわき上がる。
しかし、真っ先に歓声を上げそうな横島は何故か沈黙を守っていた。
「・・・・・・・・・・・・結界は上手くできたようね」
「ああ、エネルギー的にはギリギリだったがな」
接触によるエネルギー吸収の必要が無くなったのか、セイリュートは抱きかかえていた横島の腕を解放する。
限界ギリギリまで煩悩を吸収された彼は、自己を深い思索の中に埋没させていた。
「これで海岸線を含む周辺地域一帯に霊障の類いは近づけない。しかし、こうしてみるとただの水着の集団にしか見えないが、本当に彼女たちが大規模な霊障を引き起こす危険性をもつのか?」
「正確にはTV局が彼女たちにやらそうとしていることね。この時期の海辺にはいろんなモンが集まっちゃうから、あんま刺激の強い企画はやらない方がいいのよ」
「前に出た”こんぷれっくす”とかですね」
「そうね。おキヌちゃんはあんまり感じないだろうけど、人間って近くの人が眩しいほど暗い影を作ってしまうものなのよ。おキヌちゃんって人に嫉妬することってないでしょ?」
「あはは・・・私、何も考えずに幽霊やってますから」
ころころと笑うおキヌについ美神を口元を緩めてしまう。
彼女が障らない幽霊としてずっと存在し続けられたのも、このコンプレックスとは無縁な朗らかさによるものと美神は思っていた。
「ふむ・・・・・・良くは分からんが、その刺激の強い企画とやらが問題だと。一体どのような企画なのだ?」
「あの娘たちが、プールに浮かぶ浮島で落とし合うのよ。んで周りは誰が勝つか予想するの」
投げやりな美神の説明に、セイリュートは困惑の表情を浮かべていた。
地球外から来た知性体である彼女にとって、今聞いた企画の面白さは完全に理解の外だった。
「・・・・・・一応言っておくけど、企画内容についてはあんま深く考えない方がいいわよ。結局はお色気シーンを出すためのモノなんだし」
「お色気?」
美神の発した言葉に、セイリュートの顔が強ばった。
「そ、お色気。てっとりばやく視聴率稼ぐには有効な手段だとは思うけど、それだけで何とかなると思うのはあまりに芸がなさ過ぎるわ」
「・・・・・・・・・・・・」
「美神さんが言うと説得力ありますね」
黙り込んだセイリュートに代わり、会話を引き継いだのは賢者モード真っ最中の横島だった。
普段ならどこからともなく取り出したカメラではしゃぎながら撮影でもしているのだろうが、煩悩エネルギーを吸い取られた今は、解説者のような冷静な口調でステージを静かに眺めている。
「アンタ、それ、どういう意味よ・・・・・・」
「そのままの意味ですよ。お色気だけが美神さんの魅力では無いですからね」
「えっ?」
露出の多い服の趣味をからかわれたと思っていただけに、突然の褒め言葉はまさに不意打ちだった。
「俺としてはお色気が多い方が嬉しいですが、別に露出が減っても美神さんがいい女であることには変わりがないでしょ?」
「え、っちょっと、こんな所で! 一体どうしちゃたのよ横島君?」
下心満載の口説き文句をあしらうことはできても、ド直球な褒め言葉には弱いらしい。
大いに慌てた美神が顔を赤らめる。
だが残念なことに、賢者モード中の横島は、自分の言葉がデレを引き出しかかっていることに気付いてはいなかった。
「間違ってはいないと思いますよ。ほら、虎柄ビキニの先輩が人気者だったのも、お色気だけじゃない他の魅力が山盛りだったからじゃないですか」
「・・・・・・あー、そういうことね」
美神の表情から赤みが消える。
彼女は横島の言わんとしていることを理解していたが、具体的な発言をすると色々マズイことも理解していた。
「他の魅力を伴わないお色気は単なる記号っていいたいのかしら? でも、アンタもその記号が大好きなんじゃないの?」
「大好きですよ。記号としての価値が高ければですが・・・・・・多分、この番組が放送されたら見ちゃうかも知れません。ホラ、あの人たち」
横島に促されるような形で、美神はプール内の浮島に視線を戻す。
浮島には既に数人の選手が乗り込み、スタートの合図を待ち構えていた。
「TV局が覚悟を完了したのかな? 二人ほど袋とじのグラビアで見た顔が混ざってます。ポロリ要員だとすると、記号としての価値は上がりますからね」
「フーン。ソウナンダー」
淡々と語られる実にくだらない話題。
会話に付き合う気が皆無になった美神は、心底どうでもいいという風な相づちをうつ。
プール内の浮島で繰り広げられるのは、胸やおしりを使って相手をプールに落とす水着女子限定の押しくら饅頭。
内外諸々に問題を抱えているTV局が、近年の視聴率低下に喘いだあげくテコ入れとして打ち出した余りにもアレな企画だった。
―――ま、いいけどね。
美神は達観した心境で今回の仕事を振り返る。
TV局が景気が良かった頃の縁で受けたうまみの少ない仕事だったが、蓋を開けてみれば、元手が横島の煩悩のみというおいしい結果に終わりそうだった。
当初心配されていた、過剰なお色気路線が良くないモノを引き寄せてしまう事態は、セイリュートの結界によって防がれている。
一番危惧していた横島によるお約束も、煩悩を吸収されたことによる賢者化によって起こる兆しを見せていない。
アレな企画に半日付き合うだけで手に入る報酬を思い浮かべ、美神の口元が自然に笑いの形を作る。
それがぬか喜びのフラグであることは、だらしなく口元を緩めた美神には知るよしも無かった。
「な、なんなのだ! アレはっ!!」
ボロもうけの妄想に浸る美神を現実に引き戻したのは、セイリュートの上げた驚きの声だった。
冷静沈着な彼女には珍しい声の荒げ方に、美神は非難めいた視線を向ける。
「アンタこそなんなのよ。突然大きな声を出して・・・・・・」
セイリュートの指先は、今まさに始まった押し合いの図を指し示していた。
美神自身露骨すぎる胸やお尻のアピールにはゲンナリしているが、セイリュートが見せた過剰な反応は意外過ぎる。
「美神はアレを見て何とも思わないのか? ここは小さい子どもたちも遊びに来るリゾートプール、子どもたちが安心して遊べなくてはいけない場所ではないのかッ!? あんな企画が許されるのなら、私たちは何故・・・・・・」
「え? ちょ、アンタ一体なにを・・・・・・」
鬼気迫る勢いのセイリュートに、美神の第6感が警戒信号を鳴らす。
良くは分からないが、今回のお色気企画は彼女の地雷をしっかりと踏み抜いてしまったらしい。
「銭湯を舞台にした私たちは許されず、プールを舞台にした彼女らはテコ入れを受けている。なぜだ? 私たちと彼女らにどんな違いがあるのだ・・・・・・私が宇宙船だからか? 生身の人間でないから追放されたというのか?」
「と、兎に角落ち着きなさい。結界の制御を忘れちゃだめよ」
揺らぎ始めた結界に美神が青ざめる。
高エネルギーの結界が、食い止めていた負のエネルギーごと暴走するなど考えたくも無かった。
「宇宙船の女の子なんて、チャーミングでいいじゃない! あと10年もすれば船の擬人化が流行るんじゃないかしら? ね、横島君もそう思わない?」
「そうッスね! 女性型宇宙船が出るスペオペの金字塔もありますし、魅力を感じこそすれダメな要素なんか全然無いッス!!」
「・・・・・・・・・・・・船の擬人化? 女性型宇宙船?」
二人がかりのフォローにセイリュートが反応した。
頭を垂れ、落ち着きを取り戻したかのように呟いた彼女に、美神は安堵のため息をつく。
「ふふふ・・・・・・そうか、そう言うことか」
「そう。そう言うことなのよ。ね、横島君!」
「ええ、全くもってそういうコトっす!」
突如笑い出したセイリュートに、美神と横島は無責任な相づちを打つ。
この時、美神は肝心なことを見落としてしまっていた。
口調から判断するに、今の横島は賢者化が解けている。
それは即ち、結界による煩悩の吸収が止まっていることを意味していた。
「全ては私の胸が原因だったのだな」
「へ?」
突然の発言に声を詰まらせる美神と横島。
目の前のプールで繰り広げられているお色気シーンは、それを見ていたセイリュートに被害妄想的な考えを植え付けてしまっていた。
「アレを見ろ。彼女たちにあって私にないもの・・・・・・こうして目の当たりにしてみると嫌というほど思い知らされる。思えば登場してからしばらくは性別不明なキャラに甘んじていたっけ・・・・・・船体のデザインも進歩と調和を意識しないで、天使みたいな形にして貰えば良かったなぁ・・・・・・・・・・・・」
「ちょっと! セイリュート、アンタ、なに訳の分からないコトいってんのよ!!」
美神に力強く揺さぶられても、セイリュートは呟きをやめようとしない。
彼女の目はここではないどこかを見つめていた。
「チッ! こうなったら横島君、大急ぎでセイリュートを正気に戻すわよ! 気付けの札を大至急・・・・・・って、横島君?」
いつものように指示をとばした美神だったが、背後に立つ横島はその指示に応えようとはせずに顔を緩ませている。
嫌な予感に横島の視線を追うと、その先ではポロリ担当の選手によるお約束のシーンが展開していた。
「んなモン見てないで仕事しろ! ボケっ!!」
お約束にはお約束とばかりに、美神は足払いからの投げ技で横島を地面に叩き付ける。
「み、美神さん! なんか周りに集まりはじめちゃってますけど!!」
周囲に集まった霊圧に気付いたおキヌが、マウントポジションに移行しようとした美神を慌てて止めた。
その指摘によって、美神はセイリュートの作り出した結界が既に機能していないことを理解する。
「セイリュートっ! 大至急結界を・・・・・・」
「何故、乳腺周辺の脂肪組織の量が少ないだけで、こんな不当な扱いを受けなくてはならないんだッ! ナンセンス! 私は否定するッ! 脂肪組織の量を重視する価値観をッ!」
美神の指示もセイリュートには届かない。
彼女の周囲には結界のほつれから進入した霊体が蔓延し、彼女の精神を急速に汚染しつつあった。
「駆逐してやる・・・・・・脂肪組織の量だけで優遇されている全てのキャラを駆逐してやる! 駆逐してやる! 駆逐してやる! 駆逐してやる! 駆逐! 駆逐! 駆逐・・・・・・・・・・・・」
それはいつもの理性的なセイリュートではなかった。
いままで結界によって防いでいたコンプレックスの素が流入し、彼女を新たな霊障へと変質させていく。
「マズイ! このままじゃ・・・・・・クッ」
危険を感じた美神が精霊石のイヤリングに手を伸ばすが間に合わなかった。
突如、セイリュートの体から噴き出した水蒸気が美神の視界を奪う。
それとほぼ同時に湧き上がるプール周辺の客たちの悲鳴。
立ちこめる熱気から身を守りつつ、何とか視界が確保できる位置まで移動した美神は見てしまう。
周囲の客をパニックに陥れたものの正体を。
それは、豊かな胸をビキニで包んだ女性型の巨人だった。
「セイリュート・・・・・・・・・さん?」
美神にわずかに遅れ、巨人を目撃したおキヌが呟く。
プールサイドに突如出現した巨人は、体型こそ違うがどこかセイリュートの面影を残していた。
「正しくはセイリュートを取り込んだ新種のコンプレックスね。チッ、奴ら、結界のエネルギーを取り込んでまだ増えるつもりだわ」
忌々しげに呟く美神の目前で、施設外周部を覆っていた結界から次々と巨人の姿が湧き上がる。
遠くに見えるものも含めるとその数はざっと十数体。
そしてそれらは夢遊病患者のような足取りではあったが、一歩一歩確実にプールに向かい近づいて来ている。
15m級の巨人たちが一斉に暴れ出す姿を想像し、美神は状況の過酷さに歯がみした。
「横島君。やることは分かっているわね?」
「基本パターンで言えば、あのセイリュートモドキを無力化ですね」
求めていた解答に美神は満足そうに肯く。
一度に多数を相手にしなくてはならない場合、真っ先に指揮官を狙うのは定石中の定石。
特にセイリュートモドキが他の巨人をコントロールしていた場合は、彼女一体を無効化するだけで連鎖的に全ての巨人を消滅できる可能性も存在する。
横島がそのことに思い至っていることを、美神は勝機としてとらえていた。
「分かってるじゃ無い! じゃあ、早速始めましょうか!!」
美神は巨人に向き合うと、いつものように背後の横島に手を伸ばす。
阿吽の呼吸で神通棍が渡されるのが、除霊開始の合図の筈だった。
だが、神通棍は一行に美神の手に渡されようとはせず、それどころか後ろに差し出した手はしっかりと横島の手に握られてしまう。
「? 横島君、一体何を・・・ッ!!」
慌てて振り返った美神は、目の前に大写しになった横島のタコ口に悲鳴を上げそうになる。
とっさに握られていない方の手を差し出し、唇を守ったのは人並み外れた反射神経のおかげだった。
「何って、対巨人戦における必勝法ッスよ!」
「クッ・・・・・・この非常時に訳の分からんことを」
にじり寄る横島の唇を必死のアイアンクローで遠ざけようとする。
しかし、こめかみから血がにじむ程のソレをものともせず、横島は腹が立つ程のどや顔で美神の唇に肉薄しようとしていた。
「いいですか美神さん、生じた巨人は全部女! んで、セイリュートは宇宙人! ってことは俺たちの文化的なキスを見せつけてやれば一発ッスよ!! ささ、ぶちゅーっと・・・」
「この、大馬鹿野郎っ!!」
80年代のネタを恥ずかしげも無く口にした横島に、美神は8割方本気で殺意を覚えていた。
先ずは足の小指にミュールのかかとを思いっきり打ち下ろそう。
その後は急所を蹴り潰す。いや、いっそもいでしまうか?
生じた破壊欲求に素直に従うべく振り上げた足は、美神の思惑に反し振り下ろされることはなかった。
「しまった・・・・・・!!」
足を振り下ろそうとした瞬間、肋骨が悲鳴を上げるような圧迫が襲いかかる。
横島に握られていた手が抗いようの無い力で切り離され、横島以外の風景があっという間に足下に吹き飛んでいく。
圧迫による痛みと、急激な加速による立ちくらみに顔をしかめた美神は、自分と横島が巨人に捕らえられてしまったことを理解した。
「チクショー離しやがれっ!!」
視界の端では横島が己を握る巨人の右手を霊波刀で切りつけている。
しかし、瞬時に傷口を再生をしてしまう巨人の体は、横島の体を決して離そうとはしなかった。
でたらめに霊波刀を振り回す横島をものともせず、巨人は横島を握ったままの右手を己の右胸に押しつける。
まるでそこが吸収する器官であるかのように、横島の体は抵抗もせずビキニの内部にズブズブと沈み込んで行くのだった。
「横島君! あきらめちゃ駄目ッ!!」
美神の呼びかけも空しく、彼女の目の前で横島は完全に巨人に取り込まれてしまう。
横島を取り込んだことにより更に成長する巨人の胸。
美神は一層深まった谷間を満足そうに見つめる巨人に、凍るような視線を向けていた。
「・・・・・・・・・・・・正気に戻りなさいセイリュート。今戻れば命だけは助けてあげるわ」
圧倒的に不利な立場で放たれた恫喝は、当然のごとく巨人には効かなかった。
美神は横島と同じように左胸に運ばれていく。
何の抵抗もせずにビキニの内部に吸収されていく美神。
だが、その目は僅かに逸れることもなく巨人の目を睨み付けていた。
「交渉決裂のようね。でも生憎、私もおとなしく胸の肉になる気はないのよ・・・・・・」
下半身を胸に埋没させられた美神は、最後の手段としてイヤリング二つ分の精霊石を隠し持っていた。
内部に取り込まれてから炸裂させる精霊石の威力は、巨人の胸部を吹き飛ばしてあまりある破壊力を見せるだろう。
至近距離で爆発を受け、10m以上の高さから放り出される以上美神も無事では済まない。
しかし、今の美神にとってそんなことはどうでも良いことだった。
「もとの体型に戻してあげるわ。覚悟なさ・・・・・・ッ!?」
精霊石を起爆させようとした瞬間、美神は巨人に取り込まれた足下に違和感を覚える。
その感覚の正体に気付いたのか、美神は取り込まれてから炸裂させるはずだった精霊石を一つだけ巨人の目の前に放り投げる。
放出されたエネルギーが巨人の顔を焼いたが、その部分も霊波刀で切られた手の傷と同じく瞬時に再生を始めていた。
「・・・・・・・・・・一つ貸しよ。セイリュート」
美神は静かに目を閉じると、一切の抵抗をしないままビキニ内部に埋没していく。
巨人の顔が再生を終了させる頃には、美神の姿は巨人の左胸に吸収されていた。
「あわわわわ・・・・・・美神さんと横島さんが」
目の前の巨人が巻き起こした惨劇を、おキヌは信じられないといった様子で見つめていた。
毎回窮地を脱してきた美神と横島があっさりと敵の手に落ちる。
今までの二人を見てきたおキヌにとっては、まさに悪夢としか言えない光景だった。
しかも、プールの客を襲っているのは目の前の巨人だけではない。
周囲の結界から生じた巨人たちが金網を乗り越え、逃げ惑う客たちを次々とその胸に吸収しようとしていた。
「飛べっ! おキヌっ!!」
周囲に気を散らしたおキヌがその声に反応できたのは僥倖だった。
とっさに飛んだ足下を巨人の手が通過する。
そのまま一気に高度を稼ぎ、巨人たちを見下ろす視点を確保したおキヌは、先ほどの声が自分の手から聞こえたことにようやく気付く。
「セイリュートさん! 無事だったんですかっ!!」
おキヌが手にしていたのは、アイコンと呼ばれるセイリュートの依り代だった。
「無事とは言えないエネルギー残量だがな。美神が目覚めさせてくれた」
美神が取り込まれる寸前で使用した精霊石には、気付けの意味があったのだろう。
エネルギーの大部分を巨人内部に残したままではあったが、セイリュートは正気をとりもどし普段使用している依り代に戻ることができていた。
「時間が無い。おキヌ、力を貸して欲しいのだが可能か?」
「え、それって・・・・・・・・・・・・」
「ああ、巨人を退治し、横島と美神を取り戻す」
「もちろんです! 何でも言いつけてください!!」
セイリュートの言葉におキヌは力強く肯く。
それを待っていたように、おキヌが握っていたアイコンがカッターナイフのような刃物に姿を変えた。
「おキヌは巨人の攻撃を避けつつ、私が指示する場所をそれで切り裂いてくれればいい。できるか?」
「分かりました! おキヌ、いきまーすっ!!」
「え? あ、ちょ、まだ場所の指示が・・・・・・」
美神と横島を助け出せるのが嬉しいのか、おキヌはセイリュートの指示を聞かないまま、先ほど二人を取り込んだ巨人に特攻をかけた。
上空から最大速度で降下し、己を捕らえようとする手を難なく回避する。
そして、巨人の背後に回り込んだとき、千載一遇とばかりにセイリュートから攻撃の指示が飛ぶ。
「今だ、その紐を切れっ!!」
セイリュートが指示したのは巨人が身につけていたビキニの紐だった。
おキヌが手にしたカッターが一閃し、豊かな胸を支えていた紐を切り離す。
ビキニのブラが肉の圧力にはじかれたように、ゆっくりと地面に舞い落ちた。
「やった! やりましたよ! セイリュートさん!!」
指示通り紐を切り裂いたおキヌは、喜びの声をあげるつつ再び上空に距離をとる。
そして彼女は自分の攻撃が引き起こした現象を目撃するのだった。
「ヒィィィィィィッ!!」
それは紛れもない巨人の悲鳴だった。
水着をはぎ取られた胸をかばい、その場にぺたりとへたり込んだ姿はただの少女にしか見えない。
そして、その足下に散らばった数々の皿のような物体。
水蒸気を上げながら消滅するその物体の中から、意識を失った横島と美神が姿を現す。
しかし、おキヌは二人の救出を素直に喜べないでいた。
「あ、アレって・・・・・・」
「そう。胸のサイズを大きく見せるアレだ・・・・・・一瞬でも彼女たちと意識を共有させた私には分かる。アレを求めた彼女たちの渇望と絶望が」
アイコンから覗いたセイリュートの顔は大粒の涙を浮かべていた。
足下では巨人が一際大きな声をあげその姿を水蒸気に変えていく。
その声が巨人の慟哭に聞こえたおキヌは、ひしひしと感じる後味の悪さに胸を締め付けられていた。
「なんででしょう? 胸が・・・・・・いや、心が痛い」
「取り込まれた美神はアレに気付いたのだろう。だから、後を私とおキヌに託した」
「え? 私?」
「同じ悩みを持つ存在がブラ紐を切ることで、彼女たちは現実を受け入れることが出来る。つまりはそういうことだ」
「ちょっと待ってください! 私も同じなんですかっ!?」
「さあ行くぞおキヌ! 全ての巨人を解放するんだ! レッツ、イエーガー!!」
違う巨人のアニメのような涙を流しつつ、アイコン内のセイリュートが次の目標となる巨人を指さした。
なし崩し的に狩人役を任された、おキヌの叫びが辺りに響き渡る。
「お願いだから、話を聞いてーっ!!」
「うわっ! どうしたのおキヌちゃん、急に大声出して!?」
不意にかけられた声におキヌの意識が覚醒する。
目の前には車の助手席越しに振り返った横島の顔、そしてそのとなりの運転席にはバックミラー越しにこちらを伺う美神の顔があった。
「え? 横島さん! 美神さんも! 無事だったんですか!?」
「無事もなにも、ずっと車の運転してるわよ。ひょっとして寝ぼけちゃったの?」
「寝ぼけ・・・・・・って、え? 私、体がある!?」
「『体がある』って・・・・・・ひょっとして幽霊だった頃の夢を見てたのかしら?」
「幽霊だった頃って・・・・・・」
こう呟いた時、おキヌは300年の幽霊生活から生身の人間に戻った己の境遇を思い出す。
だが、先ほどの体験が夢だと言うのなら、セイリュートとの巨人狩りで感じた心の痛みはあまりにも生々しすぎた。
「そうだ! セイリュートさん! セイリュートさんはどうしたんですかッ!?」
「セイリュート? 何かしらそれ?」
耳慣れない言葉を口にしたおキヌに、美神が不思議そうな顔をする。
混乱するおキヌの表情を直接見ている横島は、取りなすような笑顔をおキヌに向けていた。
「はは、そんなに後を引くなんて、よっぽどインパクトのある夢をみちゃったんだね」
「夢?」
「そう、夢。俺たちはこれからプールに仕事しに行くところでしょ?」
横島の言葉が引き金になり、おキヌの脳裏に自分を取り巻く状況が次々と浮かんでいく。
自分は美神たちと共に、リゾートプールで行われるイベントの警備に行く途中だった。
「あはは・・・・・・そう言えばそうでした」
夢を見ていた自分を自覚すると共に、おキヌの脳裏から先ほど見ていた夢が急速に遠ざかっていく。
ようやく落ち着きを取り戻したおキヌに、横島は安堵の表情を浮かべた。
「疲れて熟睡しちゃってたのかな? でもおキヌちゃん」
「はい?」
「何で泣いてるの?」
「えっ?」
おキヌは恐る恐る自分の目尻に指先を触れさせる。
そこには大粒の涙が浮かんでいた。
ポルシェがたどり着いたのは、海沿いにあるリゾートプールだった。
おキヌは微かな既視感を感じつつも、美神と共に女子更衣室へと入っていく。
水中に引き込まれる危険のある海辺の仕事では、水着になることは必要不可欠といえる。
ごく自然に後ろを付いてきた横島を美神が折檻したことを含め、特にいつもと変わらない展開だった。
「おキヌちゃん、体調悪いようだったら無理に水着になることないからね」
既にビキニに着替た美神が心配そうな視線をおキヌに向けた。
未だポンチョ型バスタオルをもぞもぞしているおキヌと異なり、思いっきりの良い脱ぎっぷりを発揮した美神は周囲の女性客から羨望の視線を集めている。
行われるというイベントの関係か、周りには妙にスタイルの良い女性客の姿が多かったが、その中でも美神のプロポーションは群を抜いている。
隣で着替えること自体が躊躇われるように・・・・・・
おキヌの着替えが遅々として進まないのは、その状況故のことだった。
「だ、大丈夫ですよ! さっきは本当に寝ぼけていただけですから」
おキヌは覗き込んできた美神から慌てたように視線を外す。
外した視線の先では屈み込んだ美神の胸が、深い谷間を作り出していた。
――― 駆逐してやる・・・・・・
「え? 何か言った? おキヌちゃん」
「えッ? ええッ!? いや、何でもない。何でもないですよう!!」
無意識のうちに口を出た一言に、おキヌは大いに慌てていた。
「それよりも着替えが終わったのなら先に行っていてください。また横島さんが覗きに来ちゃうかも知れないし、ねっ!」
なんとか発言をうやむやにしようと、おキヌは有無を言わさぬ調子で美神を更衣室の外へと追い出してしまう。
運が良いことに更衣室出口付近に横島が本当にいたため、美神の意識から先ほどおキヌが口にした一言は消え去っている。
「あーびっくりした。私、何であんなこと言っちゃったんだろう・・・・・・」
ロッカー前に戻ると、周囲の女性客からの視線はすっかり沈静化していた。
おキヌは安堵のため息をついてから、先日購入した水着を取り出す。
多少背伸びをしてしまった大人っぽいデザインのワンピース。
三角ビキニを買う勇気はまだなかった。
おキヌはしばらく水着を眺めた後、意を決したようにバッグからベージュの皿状のモノを取り出す。
ソレを水着の内側に取り付けながら、おキヌは胸の内で鳴り響く巨人の足音を感じ取っていた。
―――――― 進撃の虚乳 ――――――
終
Please don't use this texts&images without permission of UG.