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全部片付く少し前。

「それに――まだ全部片付いたとは言えないわ…!」

 彼女の言葉に応える者は無かった。
 しかし、無視する訳にもいかない。
 ……このままで彼が納得するはずも無いのだから。

「これで、ルシオラが生き返ったって言ったら、サ○デーの倫理規定確実にぶっちぎられるわよ」

 それはあまりにも正確な未来予測。
 そして、悲痛な叫びだった。

「ま、まさか、横島さんでもそこまでは……」

「ううん、どう考えても無理ね。横島さんを甘く見ると痛い目にあうのは、確実よ」

 彼についての知識の差なのだろう。
 小竜姫は彼を信じたが、ヒャクメは彼を知っていた。

「なんとか、なんとか誤魔化すわけには行かないのですか?ほら、朝になって雀が鳴いている描写で誤魔化すとか」

「ジーク。……奴に、そんな爽やかな描写が似合うと思うか?」

 ジークとワルキューレの会話は愛読書の違いだろう。
 姉はレディースコミックを嗜み、ジークは未だ少年だった。

「そう『たとえこの漫画が発禁になっても俺はヤるッ』……これは、前に美神さんに言われて、横島さんが彼女達と行動していた時の記憶を探った時の台詞だけど。……横島さんなら間違いなく実行する、と思うのね」

 その時、彼を押し留めたのは行為が彼女の『死』という悲劇に繋がるという事実しかなかった。
 それも無き今、横島忠夫の前にルシオラの生存を伝えるという事は、(子供は見ちゃいけません)(見せられないよ)というシーンが紙面を飾る事と同義なのである。
 座の沈黙は、各自の妄想シーン開始の合図だった。

『ルシオラ、良かった』

『ああ、ヨコシマ。わたしずっと待ってたのこの瞬間を』

 ……割と正統派ラブシーンスタートは小竜姫。

《ああ、彼のピーが熱い、抱きしめられただけでわたしも……》

 絵はただ抱き合ってキスしているシーンなのにモノローグでエロイ事を言わせているのはワルキューレ。
 黒字に見開きで[合体!!]と描かれた場面を想像するのがヒャクメで、頬を染めたルシオラのアップ、涙と涎がきつめに描写されているのを想像しているのがジークだった。

「あんたらねー、先に発禁になるようなこと考えてるんじゃないわよ」

 美神が突っ込みを入れたのは要するに少女漫画的にスタートした彼女の妄想がそういうシーンに行き着いたからなのだけれど、余りに早く妄想が終っていたヒャクメ以外、それに気付く者は居なかった。

「ルシオラの事は何とか隠し通すべきだわ」

(まあ、そうよねー、このままじゃ美神さんにチャンスは無いものね」

「ヒャクメ、口に出てます」

「ばっばか、違うわよ、わたしは別にあんな奴どうだって」

 言い訳がニヤニヤ笑いで返されて。
 美神の鉄拳が飛び出して。
 ……連載を続けるため、美神やおキヌちゃんのチャンスを僅かでも残すため。
 事実は捻じ曲げられて彼へと伝えられる事になったのだった。

……一方、ルシオラさんは漫画の外でなら横島君とラブラブしていいという約束を誰かさんと取り付けていたり。

という、展開予測。

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