3304

『同調編』

「てめー自身のフルパワー攻撃をくらわせてや……!?」


 その瞬間、横島の手の中に確かにあった文珠が、音を立てて砕けてしまった。


「あ…あれーっ!?」

「おろかな奴だ。私の予想しない速さで強襲してきたのはほめてやるが……この私に同じ手が二度通じると思ったか!?」




     ――――――― 同調編 ―――――――




 アシュタロスは宣告する。霊波のジャミングにより、横島の霊力はもはや自分やベスパには通じないと。
 そして横島を始末しようと魔力を溜めだしたまさにその時、場違いなエラー音とエラーメッセージが鳴り出した。
 その場にいた四人がしばし動揺していると、エラー音が止み今度はノイズが入りだす。
 少しづつノイズは大きくなってゆき、遂には一際大きい光と轟音となり辺りに響き渡った。
 光の中から現れたのは……


「みっ、美神さんーーーッ!?」


 光は死んでしまったはずの美神の身体を形作る。


「消えた…!?」


 だがそれも一瞬のこと。光はすぐに消えてしまった。


「バカなーー!!あの女、分解されずに残留しているのか!?
 執念だけで魂の原型を維持しているとでも言うのか……!!」

「しかも今のあの装置を逆に利用して復活しよーとしたよーな……」

「そうよ……!!世界中で魔物が復活できるんなら美神さんだってーーー」


 思いもかけない展開に、アシュタロスの顔に焦りの色が浮かぶ。


「……!!な……普通の人間にそんな非常識なマネができるはずーーー」

「フツーはな!でも……あの美神さんだぞ?」


 横島の言葉で、もはや事態が完全に想定外の方向へ向かっていることを確信したアシュタロス。
 その顔色がみるみる青ざめる。


「貴様、何をするつもりだ!?」

「決まってる、こうするんだ!この、シリコン胸ーーー!!

「悪質なデマを流すんじゃないッ!!」


 横島が大きく息を吸い、おもいっきり叫ぶ。
 言い終わるか言い終わらないか、そんな瞬間に的確にツッコむ者がいた。
 それは紛れも無く美神だった。
 さっきの切れかけの電灯のような、不安定な状態では決してなかった。
 ハッキリと存在し、よく声も通り活力の溢れるその姿。
 美神は生き返った。コスモプロセッサの力でも、文珠の力でもなくツッコミによって
 ああ偉大なりツッコミの力。


「はッ。…って、あれ?ここは…?」

「よかった…!なんとかもちなおした…!?」


 ツッコミにより意識を取り戻した美神だが、まだ少し頭がハッキリしていないようだ。
 一方かなり強烈なツッコミを食らったはずの横島は、美神を心配する余裕を見せている。


「とりあえず合体するわよ横島クン!早くしないとまた消えちゃうし」


 横島はともかく、現在霊体となっている美神には時間がない。
 霊体の状態で攻撃を受けたら死活問題である。
 美神に言われ、即座に文珠を二個取り出す横島。
 しかし、南極の時とは違う点があった。
 横島が文珠を美神に渡し、美神の方から「同」「期」の文珠を発動させたのである。


「はい、いきますよ!同期!」

「合体!」







―――数日前



「隊長に聞いてほしいことがあります」


 横島は美神美智恵を収容している病院を訪れていた。
 病室には美智恵を始め、美神・西条が集まっている。


「ルシオラって娘のこと?それなら西条クンに……」

「いえ、そうじゃなくて……。アシュタロスと同期合体のことなんです」


 横島の一言を聞いて、皆一様に顔を強張らせる。
 南極の決戦において、同期合体でもまったく太刀打ち出来なかったこと。
 更に実働時間が五分にも満たないらしいこと。
 対アシュタロス戦において切り札として考えられていた同期合体が、実は実戦においては欠点が目立ったということだった。


「あれだけのミサイルを食らって生きているとも思えないけど、実際この目で確認したわけじゃないのが気にかかって……」

「なるほどね。でもどうするつもり? 現状同期合体の攻撃力を超える攻撃手段はないわよ?」

「それなんですけど、西条達から話を聞いて思いついたことが一つあるんです。アドバイスもらえますか?」


 横島のアイディア、それは要するにベース交代。
 今までの同期合体は美神のパワーをベースに、横島のパワーを上乗せするというものだった。
 それを横島のパワーをベースに、美神のパワーを上乗せするというものを変えようというのだ。


「しかし横島クン、結局元になっている二人が変わらない以上合体後の霊力も変わらないんじゃないのかね?」


 西条の疑問ももっともである。
 何か特別なパワーアップをしたわけでもなく、ただ入れ替えただけなのだ。
 南極で西条達がパピリオと戦った時は、キヌ・タイガー・西条を中心にうまく各人の力をコントロールしていた。
 これは攻撃力こそ上がらなかったものの、命中・回避・防御の上昇の面において絶大な効果があった。
 だが、美神・横島の同期合体とではまた話が違う。


「いえ待って西条さん、横島クンの言うこともあながち間違ってないかも……」


 美神は何かに気づいたようだ。
 一旦言葉を切り、しばし考えこむ。


「あの時アシュタロスが言ってた、パワーの使いすぎ……もしそれが事実なら……」

「そーなんす。だから戦闘担当と霊力やシンクロ具合の調節担当を分担できないかと思いまして」


 元々美神は並の霊能力者に比べれば高いものの、トップクラスに霊力の高い方ではない。
 雪之丞のように飛躍的に戦闘力を上げる手段を持っているわけではないし、タイガーやピートのように特殊能力を持っているわけでもない。
 それでも美神が日本トップクラスのGSと呼ばれるのは、ひとえにその戦い方にある。
 GSとしてオーソドックスな道具使いながら、常に霊力の使用に無駄がないのだ。
 状況に応じて神通棍に込める霊力を調節し、吸引・破魔札を使い分ける。
 特に各札の値段に対応した許容量・攻撃力を把握し、最適な札を選び出す能力に長けていた。
 美神は“強い”のではない。戦い方が“上手い”のだ。


「確かにGSとしての令子はオールラウンダーだから、そういう調整役には向いてるかもしれないわね。
 ……うん、一人で何もかもするより、出来るならわけたほうがいいわね。
 当面は横島クンをベースにした合体の同期合体訓練に重点を置きましょう」

「……!じゃあ早速ルシオラ達にも話してきますね!」

「あ、ちょっと待っ……」


 そう言うが早いか、横島は病室を飛び出してしまった。
 美智恵はまだなにか言いたそうだったが、既に耳に入っていなかったようだ。
 ドアの閉まる音だけがあとに残った。


「もう行っちゃったか……。気負い過ぎてる気がして少し心配なんだけれどね」

「大丈夫よ、ママ。横島クンだっていつまでも子供じゃないわ。守るものも出来たようだし、ね。
 それにしても、まさか横島クンが私と同じようなこと考えてたなんてね。ちょっとびっくりしたわ」

「令子ちゃんもかい?」

「私もアシュタロスがアレで終わったとは思えないし。
 横島クンの案とはちょっと違うんだけどね。私が考えてたのは―――」

                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・
                   ・

                    
―――そして現在



「ゴー!ヨコシマーン!」

「……ってあれ?前にもヨコシマンって言ったことあるような?気のせいか?」


 霊波の光が収まった時、その場には美神の姿はなく、ただ横島のみがいた。
 無意識に雄叫びをあげさせたのは、本人も忘れているとある神族の影響であろうか?
 だが、その横島も首から下はいつもの格好ではなかった。
 首から下から胸にかけてと両腕、両太腿にかけて紋様が浮かんでおり、胸・両肩・両太腿に合わせて七つの宝珠が出現している。
 その内の一つ、右肩の宝珠に浮かび上がった美神の顔から指示が飛ぶ。


「フン、だがどうする?確かにその状態にジャミングは効かないが、また勝てない戦いを挑んでみるか?」

「こうするのよ!横島クン、まずは竜の牙とニーベルンゲンの指輪を一つの武器に!」

「またそれか。あの時からまるで成長していないようだな」


 言われた通り、神魔の装備を一つの武器として取り込む。
 するとさらに両腕に一つづつ宝珠が出現し、霊力も大幅にアップした。
 ここまでは南極の時とほぼ同じ。
 しかし、ここからが今までと決定的に違った。


「文珠を二個出して!それをルシオラに渡すの!」


 すぐさま生成させた文珠を投げ渡す横島。
 対するルシオラは少々困惑しているようだ。一体何をする気なのかと。
 そして右肩の美神は叫ぶ。


「ルシオラ、同期合体よ!」

「え…ええーっ!?私と!?出来るの!?」

「理屈上はね。いいから早く!」


 驚きで動きが止まるルシオラに、美神は決断を促す。

 美神が至った考え、その正体がこれだった。
 初めて南極で合体した時、肩部の宝珠に横島の顔が浮かんでいた。
 その場では気づかなかったが、後にある可能性に思い当たったのだ。
 すなわち全身各所にある七つの宝珠、これらは現在の同期合体可能人数の上限を表しているのではないか、と。
 最初は人間+人間で合体し、以降は人間(同期済み)+魔族又は神族、更に上位ないしは強力な魔族又は神族と合体していく。
 これを繰り返せば理屈上は最大八人まで合体できるのではないか。
 無論、初合体の時の横島のように同化吸収されてしまう危険性や、巨大な霊力を制御出来ない危険性もはらんでいる諸刃の剣だが、それを差し引いても大きな武器となる。

 ルシオラは覚悟を決め、二つの文珠に強く念じる。と、「同」「期」の文字が浮かび上がった。
 二人の体を光が包み、消えた後には横島はルシオラと一つとなっていた。右肩に美神、左肩にルシオラを宿した状態となって。


「ほう……少しは考えてきたようだな」

「私と横島クンの同期合体で数千倍、ルシオラとの同期合体を加えて数千倍。
 神魔の装備で更に数十倍……アシュタロス!これがお前を倒す私たちの切り札、“多重同期合体”よ!」


 右肩の美神が勢い込んで言い放つ。
 言いながらも、既に右腕から神魔の装備に由来する霊波の刃を発生させていた。


「お前にも味わわせてやるぜ、アシュタロス!俺の煩悩の恐ろしさをな……!」


 横島は右腕の霊波刀を構え、一直線に接近していく。
 だが、横島とアシュタロスの進路上に立ちふさがる者がいた。


「アシュ様に手出しはさせない!」


 ベスパである。
 合体前の状態でそれぞれと一対一で戦っていたのなら圧勝であっただろうが、今の状態ではベスパに勝ち目は限りなく薄い。
 ベスパもそれは分かっているのだろう、顔が強ばっている。
 三つの心が一つになれば一つの力は百万マイト以上なのだ。


「ベスパ、なんの真似だ?私は自分の道は自分の力で切り開く。
 これ以上イレギュラーに計画を乱されるわけにはいかん。命令だ、そこをどけ」


 一触即発の雰囲気に待ったをかけたのは、意外にもアシュタロスであった。
 ベスパは慌てて向き直り、アシュタロスと目を合わせる。


「そのご命令は……きけません」

「……なんだと?まさかお前にもイレギュラーが……」

「私が……私がアシュ様の邪魔をする者を全て排除してみせます。
 アシュ様からもらったこの生命、この生命尽きるまで助け尽くすことを誓います。
 だから一人で背負わないで、私もアシュ様の隣で共に歩まさせてください!お願いです!」

「……私とお前の力量差は明白だ。命令に従わない以上、お前をこの場で引き裂くことも消し飛ばすことも出来る。それを承知の上でか?」

「覚悟の上です。元々アシュ様のために造られた命、お好きなようになさってください」

「……いいだろう、やってみせろ。それだけのことを言うんだ、失望させるなよ」

「……!はい、必ずや!」


 アシュタロスの言葉を受けて、ルシオラ達に向き直る。
 その目にもう、迷いはなかった。


「ヨコシマ、悪いけど代わってくれないかしら?ベスパとは、私が決着を付けたいの」

「ルシオラ……わかった。っつってもどうすりゃいいんだ?念じるだけでいいのか」

「多分そうだと思うんだけど……はッ!」


 気合を入れ、声に出して念じる。
 すると各部の宝珠から電気のようなものが走ったかと思うと、ルシオラと横島の位置が入れ替わった。
 左肩のルシオラが真ん中へ、真ん中の横島は左肩へ。
 オーバーフローしてキャラクターが入れ替わったのだ。


「魔物を超え人を超え、いでよ愛の戦士!……ってね」

「……ルシオラ、アンタ横島クンに毒されすぎじゃない?」


 どうやら無事交代は成功したようだ。
 替わった途端飛び出した口上は、短いながらも一緒に過ごした期間の影響か、はたまた一つの体を共有していることの影響か。
 その茶目っ気は見方を変えれば精神的余裕の表れともとれる。
 そして少し顔を、心を引き締めベスパへ向き直った。


「ベスパ、お互いホレた男の未来を賭けて……勝負よ!」

「姉さん……!」


 互いの男の未来を賭けて、姉と妹が睨み合う。
 それは同時に、野望を阻むものと賛同するものの睨み合いでもあった。



 


 先に動いたのはベスパだった。
 右手に魔力を集中させ、ルシオラに向かって霊波砲を放つ。
 対するルシオラも手から霊波砲を放ち、向かってくる霊波の塊を撃墜した。
 休む間もなくベスパは両手から絶え間なく霊波砲を発射する。
 ルシオラはそれらが着弾する前に、飛翔してベスパに接近した。
 接近中も霊波砲は撃ち続ける。
 連射した霊波砲の対処で、気を取られた隙を作るため。
 そしてあわよくばベスパが撃ち漏らした霊波砲が、後ろに控えるアシュタロスにダメージを与えられればいいと思って。
 結局ベスパが撃ち漏らすことはなかったが、距離を詰めることには成功した。

 距離を詰めての接近戦が始まった。
 ルシオラが右拳を固めて、突き出す。
 それを避けながら、ベスパも拳を繰り出す。
 狙いは左肩の宝珠。横島だ。
 そこにダメージを与えられれば、もしかしたら合体状態が解けるかもしれない。
 あるいはそこは露出した弱点で、直接横島を殺せるのかもしれない。
 憶測に憶測を重ねた、もはや願望とも言えるものだが、それが現在のベスパを支えていた。
 それからしばらく、時には右肩の美神を狙って、時にはフェイントを交えながら。
 小刻みに移動しつつ両者の間で拳の応酬が続く。

 ベスパは特に回避に重点を置いていた。
 接近戦においてベスパが最も警戒しているのは、ルシオラの持つ麻酔―――麻痺毒だった。
 不用意に攻撃をガードしてしまえば、そこから麻酔を撃ちこまれそれで終わる。
 また攻撃した腕を引きぬくのが遅ければ、腕を捕まれそこに撃たれる。
 とにかくきた攻撃は全部避け、素早く戻りの早い攻撃をしなければならない。
 圧倒的不利だった。

 人間達の力は本物だ。
 事ここに至って、ベスパは相手との力量差を自覚していた。
 あの時、ルシオラを、ポチ―――横島を殺しておけば。
 悔恨の念にかられる。
 万全の状態なら、アシュ様相手にも万に一つが起こるかもしれない。

 自分がルシオラ達に殺されるならまだ良い。
 だが、動けない自分の目の前で愛する人が殺されるのを見届ける。
 そんなのまっぴら御免だった。
 今の状態では敵わないかもしれない。ただ、無傷では行かせない。
 自分はきっと倒されるだろう。
 それでも、ここで少しでも霊力を削ぐ。
 その一念がベスパを奮い立たせていた。


 戦況が動いたのは一瞬だった。
 ルシオラの胸部を狙ったベスパの拳が空を切ったのだ。
 麻酔にばかり気を取られ過ぎた。
 ルシオラのもう一つの武器―――幻術。


「くっ、もうあの時と同じような手は……ッ」

  
 本当の位置はどこか。
 しかし、考えるより先に身体が反応した。
 あの時と同じだ。
 戦闘において絶対的アドバンテージが取れる場所。
 すなわち―――背面。

 振り向いたベスパの目に写ったものは―――


「なっーーーッ!?」


―――七人のルシオラ、だった。
 正確には自分に向けて拳を、蹴りを繰り出さんとする、一体の本物と六体の幻影。
 だがベスパにそれを知るすべはない。
 傍目には全て本物にしか見えなかった。
 そのことがベスパに動揺を生む。
 そして、動揺は隙につながる。
 その隙を見逃してくれるような相手ではなかった。


「うあっ……!」


 咄嗟に全て避けようとするものの、左脇腹に当たってしまった。
 そこから即座に麻酔が撃ち込まれる。
 身体の自由がきかなくなるのに、時間はかからなかった。

 力なく倒れ伏すベスパと、見下ろすルシオラ。
 決着は誰の目にも明らかだった。


「姉さん……いっ……そ……殺……して……」

 
 ベスパは姉を見上げてそう言った。
 動かない身体を無理に引きずり、腕を伸ばす。
 姉の脚に触れるも、その手にもはや力はない。
 だがその願いは叶えられることはなかった。


「……私だって、出来るなら姉妹同士で争いたくなんてないのよ……」


 ルシオラは一言そう呟くと、横島と場所を替わってしまった。
 替わって再びメインキャラクターとなった横島は、ルシオラの意を汲みベスパを眠らせようとする。

 
「……やはりお前の覚悟など、その程度のものだったか」
 

 そこにアシュタロスのこの言葉。
 その言葉でベスパの瞳がカッと見開かれる。
 直後どこにこんな力が残っていたのかと思うくらいの力で、左足首を思いっきり掴まれた。
 それも、鋭い痛みを伴うほどの。
 ベスパの最後の抵抗。何としても先に行かせないという執念。

 この事態に、少し慌てて「眠」の文珠を作り出した横島。
 ここで初めて、自身の文珠が変質していることに気がついた。
 文珠の形が単なる玉ではなく、白と黒の勾玉を組み合わせたような形になっていたのだ。
 そして通常入れられる文字は一文字だけだが、この文殊は白い部分に一文字、黒い部分に一文字の計二文字入れられる。
 同期して総霊力量が増したからなのか、魔族であるルシオラを取り込んだからなのか、理由はわからなかったが。

 どんな文字を入れるか少し迷い、結局「安/眠」を選んでベスパに使用する。
 ベスパのまぶたが閉じられ、無念にも意識を手放させられた。
 足首から手を引き剥がし、横たわらせる。足首には青アザという形で抵抗の痕跡が残っていた。
 効果が現れ、ベスパの目が閉じられてもその文珠は消えなかった。
 むしろ「安眠」の文字が消え、再び違う文字で使用出来るようになっている。
 咄嗟にアシュタロスから見えないよう、左手のひらに握りこんだ。
 何かに使えるかもしれないと。






「余興は終わったかね?」


 ベスパが眠ったのを確認していると、横合いからアシュタロスが声をかけてきた。
 振り返り、改めて対峙する。


「メフィスト、ルシオラ。最後通告だ、私のところに来い」

「アシュ様、私はヨコシマと共に生きると決めたんです。そのためなら……!」

「メフィストとお前が執着している、その男。その男も魔族化させてしまえば問題はなかろう?」

「!」

「お、俺?」


 初めてルシオラの心が揺らいだ。
 魔族であるルシオラにとって寿命は避けては通れない問題だ。
 今のままなら一年、もし制限を外すことができたら数百年から数千年。
 何も手を打たなければ、どちらにしても待っているのは死別だ。
 それならば……と考えても無理からぬ話。


「コスモプロセッサを使えばあの男を魔族にすることも、お前の寿命を人間相当にすることも容易に……」


 アシュタロスにとっては前世ではメフィストを、今世ではルシオラを裏切らせた憎き男横島。
 今では横島とルシオラの姿を見てか、ベスパにまで影響が出始めている。
 予想外のイレギュラーは、潰せる時に潰すということか。


「さっきから黙って聞いてりゃ益体もないことをベラベラと!」


 沈黙を破って美神が吠える。


「そもそもアンタがめんどくさい制限をつけるから悩むことになったんでしょうが!今更買収に走るな!おとなしく倒されなさい!」

「それからルシオラ!」

「は、はい!?」

「ルシオラも!一度心に決めたんならこの程度で心揺らすんじゃない!そんな軽い覚悟じゃないんでしょう!?」


 美神に一喝され、ルシオラの瞳から迷いが消えた。
 それぞれ心の中で今一度ハッキリと思い返す。ここまでやって来た目的を。

 美神は現世利益を守り、“クソ親父”をぶっつぶすため。

 ルシオラは、横島と添い遂げるため。

 そして何より横島は、今まではいつも巻き込まれて、仕方なく戦ってきたけれど。
 自分のことを好きだと、命を賭けても惜しくないとまで言ってくれたルシオラのために。
 自分の意志で戦うことを、アシュタロスを倒すことを選択した。


「宇宙のタマゴではよくもやってくれたわね。この借り、百兆倍にして返してやるわッ!!」

「アシュ様、あなたを倒して自由になりますッ!」

「アシュタロス、俺の初体験のために死ねぇぇぇー!」


 三者三様の叫びで気合を入れ、決戦に臨む。
 気力を奮い立たせている横島達とは対照的に、アシュタロスは余裕の表情だ。


「やれやれ、少しは愛着もあったんだがな……。やはり“壊れた道具は取り替えるほかないか”」


 自身の力量に絶対の自信を持っているのだろう。
 美神はその様子を見て、そこに付け入る隙があると踏んだ。
 まだ自分達を侮っている。突くとすればそこだ。


「煩悩全開!」


 美神が考えている間に、既に横島が動いていた。
 集中し、霊力を高める。
 GSの霊力の源は、欲や執着と密接に関わっている。
 美神なら金銭欲、雪之丞なら戦闘欲といった具合だ。
 横島の場合、心中はもちろん―――

【もれなく机付きなあのコやお隣のあのコ、GS稼業で知りあってきたお姉さん達のあられもない姿】

―――性欲だった。


「ちょっとヨコシマ!どーゆーコトよ!?美神さんもいいの!?」

「いいのよ、あれで。横島クンの霊力の源は煩悩。
 煩悩を縛るシリアスはいらないの。後で色々と聞きたいことはあるけど」


 合体しているといっても、心の中まで共有しているわけではない。
 だがそこは、思ったことを言葉に出してしまうことに定評のある横島。
 先のセリフと表情では自白したも同然である。

 ともあれ、霊力は十分に高められた。
 ここからが本当のクライマックスである。






 まずは横島達が仕掛けた。
 横島からルシオラにチェンジし、霊波砲を発射する態勢に入る。

 本当はいちいちチェンジせず、横島がそのまま霊波砲を撃てればいいのだが、残念ながら横島にも美神にもそのためのノウハウがない。
 そもそも人間には霊波砲、もしくはそれに準ずる飛び道具を撃てるものが少ないのだ。
 雪之丞やエミなど例外はいるが、特殊な術を身につける必要があったりチャージに時間がかかったり、気軽に使える攻撃手段ではない。
 これは人間と神魔族の総霊力量の差に起因する。
 元々人間は強いGSでも多くて百マイト前後、対して神魔族は戦闘に向かない文官タイプでも数百マイト。地力が違いすぎるのだ。
 自らの霊力を注ぎ込むタイプの飛び道具は、外した時にその分霊力が確実に減るという大きなデメリットがある。
 人間は少ない自前の霊力を活用しなければならないので、外した時のリスクが高い攻撃手段である飛び道具は選ばないのだ。
 その代わり各種札や霊体ボウガン、銀の弾丸といった自前の霊力を使わない、あるいは霊力消費の少ない飛び道具が発達した。
 そんな訳で、霊波砲は神魔族特有の攻撃方法といえる。

 ルシオラはコスモプロセッサの前に立つアシュタロス目掛けて、霊波砲を乱射した。
 その霊波が着弾しないうちに横島に替わり、両手から無数のサイキックソーサーを発生させ、アシュタロス周辺に投げつける。
 ルシオラの霊波砲と横島のサイキックソーサー、二重の弾幕である。
 弾幕がアシュタロスを釘付にしている間に、新しい文珠を生成し、「魔/剣」といれてから突っ込んだ。
 出現したのは訓練の時と同じ、柄から両方向に刃が伸びている剣だ。ただし、ルシオラを取り込んだ影響か刀身部分が黒くなっている。
 それを左手に握りしめ、アシュタロスへと迫る。

 お互い攻撃が当たったのはほぼ同時だった。
 横島の右拳がアシュタロスの顔面に突きささり、アシュタロスの右拳が横島の腹部にめり込む。


「痛っつう!?」


 痛みに呻く横島だったが、確かな手応えも感じていた。
 その証拠に、アシュタロスの顔面から少量液体が垂れている。鼻血だ。
 アシュタロスの右頬が、腫れ上がっているような状態になっていた。
 いける。効いている。
 強敵には違いないし苦戦も必至だろうが、けして倒せない相手ではないというところまで力の差は迫っていた。

 横島は左手の剣を振るい、胸部を狙う。
 だが、それは霊波を集中させた両手によって阻まれた。
 阻止されたの見て、すかさず右手から刃を発生させる。
 取り込まれた神魔の装備と、横島が元々使っていた栄光の手を合わせた自在に形を変える剣。
 それで腹部を真一文字に切り裂く。


「ぐぅ……!」


 アシュタロスの声が漏れ、顔が強張った。
 アシュタロスは突き飛ばすような格好で距離を取ろうとする。
 しかし、それは横島が許さない。

 この距離は絶対に死守せねばならない。
 なぜなら、距離を離されるとコスモプロセッサを使われるからだ。
 せっかく与えたダメージも回復され、後は霊波砲なり再生怪人召喚なりで押し切られる。
 そうなればこちらはジリ貧だ。合体解除を待ってなぶり殺しにされるか、霊力が尽きるのが先か……。
 だからこそ、奇襲からの至近距離での殴り合いという一見無謀な戦法を取らざるを得なかったのだ。
 決して合法的にイケメンをブン殴れるからではない。……多分。

 横島は退かず、逆に今度はアゴを狙ったアッパーを繰り出す。
 アシュタロスはこれを避けるが、大きく体勢を崩す。
 そのチャンスを逃さず、フックでこめかみを打ちぬいた。
 至近距離での打ち合いは徐々に加速していく。




 横島が必死にアシュタロスと打ち合っている様子を見つつ、美神は霊力の出力制御に専念していた。
 三体合体を成功させてから十分ほど経つが、今のところ合体が解除される兆候はない。
 横島の提案した分業制が功を奏したようだ。
 南極の時のようにシンクロが進みすぎている気配もない。

 美神は知る由もないことだが、皮肉にも美神・横島・ルシオラの微妙な三角関係がかえって三すくみのような調和を生み出していた。

 ただ今はそれよりも、腑に落ちない点があった。
 アシュタロスは本気で神魔族全ての支配をするつもりがあるのか?
 南極で初めて直接対峙した時、そして今も。
 どうにも手加減されている感覚を覚える。
 いや、手加減というより迷いが見えるといったほうが正しいかもしれない。
 思えば、同期の制限時間にしても具体的な数字が出たのはアシュタロスの口からだったし、あの時アシュタロスの手で強制合体解除されていなければ横島は吸収されてこの場にいなかっただろう。
 さっきだってわざわざ声なんてかけず、例えばベスパごと攻撃するなりコスモプロセッサを使って存在ごと消し飛ばすなり方法はいくらでもあったはずだ。
 ここにいるのは反逆者・目障りな敵・利用価値のなくなった者なのだから。
 それをしないのは、アシュタロス自身何かを迷っている?
 だが、その理由がいくら考えてもわからなかった。悲願達成目前にして、敵に塩を送る様な真似をする理由が。




 一方美神が思案にふけっていた頃、戦闘は膠着状態に陥っていた。
 横島もアシュタロスも、上半身を中心にかなり傷を負っている。息もあがっていた。
 それでも未だ決着がついていないのは、お互い決め手に欠けるからだ。
 横島は足を止めての殴り合いよりも、素早く動きながら隙を見て一撃を加えるヒットアンドアウェイ、本人曰く「蝶のように舞い、ゴキブリのように逃げる! ――と見せかけて蜂のように刺す!」という戦法を得意としている。
 アシュタロスは元々学者肌の研究者タイプだった。今回の事件にしても、実働部隊として主に動いていたのは土偶羅と三姉妹だ。早い話が実戦に慣れていないのである。
 そして戦闘当初から、アシュタロスは全身まんべんなく攻撃を仕掛けているのに対し、横島は主に頭部を集中的に狙って攻撃を仕掛けた。無論本当の狙いを悟られぬよう適度に他の部位への攻撃を混ぜながらであるが。
 アシュタロスの最大の武器はその頭脳である。今は距離を詰めての殴り合いで大半の攻撃手段を封じているが、距離を離されればコスモプロセッサを使われるのはもちろん、もっと効率的・効果的な手段を考えだされかねない。
 その前に少しでも脳を揺らし、頭脳を使えなくする。これはそのための手段だ。頬や目周辺が腫れ上がってくれればなお良い。視野が狭まってより有利になる。
 魔族が人体と同じ構造をしているか、と不安な面もあったが、どうやら効果はあったらしい。頭の中まではわからないが、頬は腫れてきている。

 その時、横島の脚がグラついた。無理もない、魔神の打撃を全身に受けているのだ。
 横島の打撃が効いているのと同時に、アシュタロスの打撃もまた効いていたということだ。
 頭部狙いの横島と違って、アシュタロスの打撃は狙いにバラつきがなかった。
 結果全身くまなくダメージが蓄積されていったのだろう。その蓄積が噴出したのが、このよろけというわけだ。
 それとも、アシュタロスを想うベスパの執念が引き起こしたものか。奇しくも横島がよろけたのは、ベスパの掴んだ左脚だった。

 アシュタロスはここぞとばかりに、横島の脚を払い大きく体勢を崩す。
 一度崩れた体勢は容易には立て直せず、遂に横島は膝をついた。

 ここでアシュタロスは無理に追撃はせず、方向を転換した。
 目指したのはコスモプロセッサ。
 コスモプロセッサに向かうのに夢中になっていたアシュタロスは、背後の宇宙のタマゴから飛び出した影に気付かなかった。

 コスモプロセッサの前に到着したアシュタロスは、以前とは比べものにならないくらい荒々しく鍵盤に手を掛ける。
 単に戦闘で興奮しているためか、それとも余裕の姿勢を取り繕う余裕ももはや無くなったのか。


「人間にしてはよくやったと褒めてやろう。だが、それもここまで。希望を抱いたまま塵と化すがいい」


 アシュタロスは鍵盤を押しこみ、コマンドを入力した。


 アシュタロスはコスモプロセッサを使った!

 しかし、なにもおこらなかった!


 押した場所が悪かったのか。押す力が弱すぎて、あるいは強すぎて正しく認識されなかったのか。
 押す時間が短すぎた?単に機能が不調なだけ?
 何度繰り返してみても、コスモプロセッサはうんともすんとも言わなかった。


「コスモプロセッサ動け!コスモプロセッサ、何故動かん!」


 アシュタロスが入力を続けながら声を荒げる。
 機械までもが私を裏切るのか。
 そう言わんばかりの勢いだ。


「……へへっ、これな〜んだ?」


 焦るアシュタロスを尻目に、そう言って横島が取り出して見せたのは……


「エネルギー結晶!?バ、バカな!?何故それがここに!」


 本来ここにあってはならないものだった。
 アシュタロスが苦労を重ねて手に入れ、今はコスモプロセッサの中枢にあるはずのもの。
 エネルギー結晶。

 横島達に不審な動きはなかった。ベスパも眠ったまま。
 第一、アシュタロスはついさっきまで横島と殴り合っていたのだ。
 不自然な行動を取ればイヤでも目に付く。
 それなのに一体どうやって?

 と、そこまで考えた所でふと小さな影が目に入った。
 横島の影に隠れるように、こそこそと動く―――手首。
 もじもじと落ち着きなく動きまわる、メカニカルなマジックハンド。
 その手の甲には「奥/手」の文珠が輝いていた。


「切り札を見せる時はさらに奥の手を持て……なんてな。
 コイツを宇宙のタマゴの中に潜り込ませといたのさ!」

「土偶羅!何故気づかなかった!?私に知らせなかった!?」


 しかし、土偶羅の返事はない。無反応だった。


「土偶羅、何をして……!?」


 それもそのはず、土偶羅は既に破壊され機能を停止していた。
 これでは応答がないのも当然である。

 種明かしはこうだ。
 実は戦闘開始当初、ルシオラの霊波砲と横島のサイキックソーサーで張った弾幕。
 あの時に既に「奥/手」は宇宙のタマゴに送り込まれていた。

 ベスパに使った「安/眠」の文珠。それは効力を発揮した後、横島の左手の中に回収された。
 「奥/手」の文珠はそれを再利用したものだ。
 あの弾幕を張った時、無数の霊波砲とサイキックソーサーの中に紛れ込ませて、左手の中の文珠を宇宙のタマゴに向かって投げつけ突入させておいた。
 それがあのタイミングで戻ってきたのだ。
 本当にギリギリのタイミングだった。
 無謀な格闘戦を挑んだのも、このための時間稼ぎという意味もあった。
 最初の弾幕攻撃で土偶羅が壊れてくれたのは偶然だったが、本当にラッキーだった。
 そのラッキーがなかったら、ここまでことはうまく運ばなかっただろう。

 最大の懸念だったコスモプロセッサは、これで使用不能になった。
 エネルギー結晶を「奥/手」に預け、眠っているベスパのあたりまで下がらせる。

 アシュタロスの計算は狂った。
 コスモプロセッサが使えなくなったことで、回復は望めなくなったのだ。
 しかしそれは横島とて同じ。
 むしろ後がなくなったアシュタロスは、今まで以上に苛烈な攻撃を仕掛けてくるだろう。
 流れがこちらに傾いている今のうちに、先手をとる。
 回復はしない。回復用の文珠を作るくらいなら、その分の力を全て体を動かす力に費やすつもりでいた。
 だが、思った以上に身体が重い。
 殴り合いを演じていた時は気にもならなかったのに、一度緊張の糸が切れるとこうも違うものか。
 残った力を振り絞って、霊力を高める。
 ここが正念場だ。


「……よし横島クン、ルシオラ。連続攻撃を仕掛けるわよ!これで仕留める!」

「おうッ!」

「はいッ!」


 メインを美神にチェンジし、再びアシュタロスに挑む。


「何をするつもりなのか知らんが……ナメられたものだな!」


 高速でアシュタロスに肉薄し、そのままぶつかるかと思われた寸前、両耳の精霊石に手を伸ばす。
 そのまま至近距離で精霊石を炸裂させた。
 目の周辺が腫れて死角が多くなっていたアシュタロスは、これに反応が遅れる。
 眩い閃光があたりを包んだ。


「くっ……眩しいがそれだけだな。こんなものがお前の全力か?」


 並の魔物なら閃光と同時に多大なダメージを負っているはずだが、アシュタロスにとっては微々たるものだったらしい。
 美神もこの程度で倒せるとは思っていない。


「それに目が見えずとも、やりようなどいくらでもある!」


 アシュタロスが防御体勢に移行しつつ、全方位に霊波を発射しようとしたその時。


「撃つのはいいけど、エネルギー結晶は耐えられるかしら?」


 まさに悪魔の一言だった。
 今エネルギー結晶を守るものはない。剥き出しだ。
 あれだけ渇望した結晶を、自らの手で砕いてしまうかもしれない。
 その恐れがアシュタロスの手を躊躇わせた。

 その間に素早くルシオラにチェンジする。
 先ほどの攻撃は、いわば布石だ。
 もちろん、ダメージを与えられればそれに越したことはないが。


「これでッ!」


 アシュタロスの視界が回復する前に、猛ラッシュをかける。
 右腕に、左足に、喉元に、脇腹に。
 目の前の肉体に、一心不乱に拳を、脚を打ちこんでいく。
 一撃一撃に麻痺毒を込めることも忘れない。
 少しでも弱らせるために。


「ヨコシマ、後はお願いッ!」

「任せろッ!」


 ルシオラに替わりメインとなった横島。
 「魔/剣」から書き換えた「消/滅」の文珠を右手に持ち、目標に向かって突進する。


「くらえぇぇぇーーーー!」


 渾身の右ストレートが見事アシュタロスの額に命中し、「消/滅」の文珠が直撃。
 当たるのを確認すると同時に、横島は大きく距離をとった。



 蓄積したダメージと文珠の「消/滅」効果が決定打となったのか、アシュタロスの肉体の崩壊が始まった。
 崩れ行く身体を見ながら、その口元が動く。
 誰にも聞こえないような、まるで肩の荷が下りたかのような声で。


「フフ、結局道具なのは私一人の方だったということか……」


 魂の牢獄で演じる茶番劇の悪役に疲れ、天界に反旗を翻したアシュタロス。

 作者であるアシュタロスに反旗を翻すルシオラ。
 一人戦い続けるアシュタロスの孤独を分かち合おうとしたベスパ。

 “作品には作者の心が反映される”
 そういう意味では、彼女達は方向性こそ違えども確かに作品だった。


「“壊れた道具は取り替えればいい……”」

「これで……やっと私は―――」


 その呟きを聞く者は、いなかった。




 アシュタロスの最期を見届けた横島達は、踵を返し「奥/手」やベスパ達がいるところに戻る。
 避難していた「奥/手」からエネルギー結晶を受け取り、「奥/手」を文珠の状態に戻した。


「横島クン」


 結晶を破壊しようとしていた横島は、その一言で全てを察し美神と入れ替わった。
 一度「快/癒」の文字を入れ、傷を癒した後改めて「破/壊」の文字を入れる。


「前世から続いた因縁も、これでホントの終わりよ」


 「破/壊」の文珠を結晶に押し付けると、結晶はコナゴナにくだけちった。
 直後聞こえる大きな破砕音。
 建物とコスモプロセッサの崩落が始まったのだ。
 「破/壊」の文珠の余波か、それとも結晶がコスモプロセッサと連動していたのか。
 ベスパを担ぎ上げ、急いでその場を後にした。






 今まで倒した魔族や妖怪が復活したという知らせを受けて、強引に退院して指揮を執りながら戦っていた美智恵。
 彼女はコスモプロセッサが倒壊するのを目撃していた。
 その場の指揮を他の者に任せ、倒壊現場に急ぐ。
 現場に到着した時には、既に西条達が美神達の捜索を行なっていた。
 程なくしてマンホールから美神達が姿を見せる。
 美神の復活や横島とルシオラの帰還に沸く西条達。
 そんな中美智恵は一瞬ホッとした母の顔を見せるも、すぐにGSとしての顔に戻る。
 騒ぎの中心に近づいていくと、美神達へ歩み寄った。


「ルシ島子」

「ママ、名前まで合体させなくてもいーから。というか名前+名字+名前ってどういう取り方よ」

「あらそう?ともかく、アシュタロスとコスモプロセッサは完全に消滅させたのね?」

「ええ。アシュタロスは消滅させたし、コスモプロセッサもエネルギー結晶を破壊した以上もう作動することはないわ。これでようやく日常に戻れるってわけ」


 美智恵は肝心な部分の確認を済ますと、その場にいた全員に都庁本部への撤収指示を出した。






 アシュタロスが倒れ、都庁本部に再び集められた主要メンバー。
 途中、美神の体に憑依したキヌと共に白井総合病院に寄り、同期合体を解いてそれぞれ本来の身体へと戻った。
 美神令子の完全復活である。
 都庁地下で休眠状態だったヒャクメや、妙神山爆撃の際に散り散りとなったワルキューレや小竜姫らも続々戻ってきていた。
 残ったアシュタロス残党や再生怪人をどうするか。被害はどうなのか。
 一度被害や状況を確認するため、それぞれの口から意見が出始める。
 その一環で美神達の口からエネルギー結晶を、ひいてはコスモプロセッサを確実にこの手で破壊したことが全員に告げられる。


「少し惜しいことをしたかもしれないな」


 その報告を聞くと西条から意外な言葉が飛び出した。
 復活した時とは逆に、消滅させることも出来たのではないかと。


「いや、世界中で過去倒した魔物や妖怪達が復活して暴れまわっているらしい。各地のGS達が対処に奔走しているが、エネルギー結晶があればこれを殲滅出来たんじゃないかと思ってね」


 確かに戦闘中に思い当たるフシはあった。
 メドーサと勘九郎である。
 横島に「滅」せられて消滅したメドーサと、雪之丞に叩きのめされたけれど消滅はしなかった勘九郎。
 どうやら再生怪人達も叩きのめすだけでなく、キチンと祓わなければ存在し続けるらしい。
 確かにコスモプロセッサが健在だったのならば一気に祓うことが出来ただろう。
 とは言え、人々に害為す悪霊・妖怪・魔族が一気に消えてしまっては、それはそれで一般GSも困ってしまう。
 今後この件に関しては、GS協会の手腕が問われるところだ。


「……ッ!しまった!」


 美神の悲鳴にも似た叫びが上がったのはそんな時だった。
 つかの間緩んだ空気が再び張り詰める。


「どうしたんですか!?まさかまだアシュタロスの置き土産が……」


 神魔界の連絡断絶や、再戦時の対横島用ジャミングをはじめ用意周到だったアシュタロス。
 そんな彼が、自身が倒れた後に発動する罠をあらかじめ用意していないと誰がいえよう?
 その場にいた全員の脳裏に緊張が走る。


                                 各国政府に金銭要求 無限の金塊
「コスモプロセッサ壊すんじゃなかった!アレがあればあんなことこんなことまで……!」

「結局それがオチかいッ!?」


究極の魔体?嫁姑島海底で寝てるよ?
というわけで実に3年ぶりの投稿です。
「投稿作品紹介」内の『ルシオラ救済SS!』向けの作品書いてみました。
9年前の企画に今更とか言ってはいけない。
おかしい、最初は5kbくらいのコメディ短編のつもりだったのに……
基本的に原作で描写された出来る事の範囲内で何とかしたつもりです。

GTYエディタで確認しましたが、誤字脱字等見つけたら適宜修正するかもしれません。
ご意見・ご感想いただけると幸いです。すごく喜びます。

俺これ投稿したら存分に再世編するんだ……

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]