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こんな夢を見た



「―――――七不思議、というものを知っているかね?」




眼鏡を掛け、学生服に身を包んだ青年が椅子に座っている。
机に両肘を立てて、組み合わせた指の向こうから。
目を伏せ気味にして、口にしてはならない言葉を呟くように。
そんな様子に、周囲の皆はただただ無言で席を立ち始めた。



「ああっ、待って待って待って!
 これ様式美! 様式美だから! 雰囲気作りの一環よ!?
 何事も掴みが大事だから待ってお願いプリーズ!」

「……………………」


情けなさもここに極まれりの様子に
皆は顔をしかめつつも、とりあえず各々の席へと戻る。
そして眼鏡は、先ほどと同じポーズを取って眼鏡をきらりと光らせつつ
 


「……ふっ、これがツンデレというものか」



無言で立ち上がる皆。
無言で土下座をする眼鏡。
結果的にいえば眼鏡勝利。



「よーし、これ以上言わんでいいことを言わんように早速始めよう。
 お前らも知ってのとおり、この世には七不思議というものがある。
 言うまでも無く、この学校も例外ではない。
 心胆寒からしめる七つの恐怖、存分に恐れおののくがいい」



そこで少しの溜めが入る。
皆も何か感じるところがあったのか、はたまた空気を呼んだのか
一つの覚悟を決めるように、ごくりと唾を飲んだ。








「まず第一に――――――――――誰も居ない音楽室で鳴るピアノ」





メゾピアノじゃねぇか、と一斉にツッコミが入った。




「いやほら、定番だし。
 それに想像したら普通に怖いぞ、夜の誰も居ない音楽室で鳴るピアノとか」



月影、星明りばかりが光源となった仄暗い音楽室。
人の気配など無い中で、突然に響き出す音。
目を凝らしても人の姿は無く、ただ上下に踊る白と黒の鍵盤が曲を紡ぐ。
なるほど、詳細を想像すれば確かに怖いかもしれない。
一瞬、納得したような空気が流れる。



「まぁ、曲は『猫踏んじゃった』とかだがな」



納得した空気は霧散した。さようなら。
真夜中、無人の音楽室で奏でられる『猫踏んじゃった』。コントか。
白けた空気が辺りを漂うが、眼鏡は委細気にせず



「さて、第二段―――――薔薇の精気を吸う吸血鬼」



ごん、と額を机に打ち付ける男が一人。
眼鏡はやはり気にせず、先を続ける。



「言うまでもなくソース多数。
 想像すると怖いよなぁ、くくく。
 美しい薔薇の命を奪うなんて僕は罪深い生き物です、などと
 周囲の目も気にせず浸ってる姿が多々見受けられたそーだ、ケッ」



ぬおお黒歴史ー、と叫びながら金髪碧眼の影はがすがすと机に向けてヘッドバンキング。
周囲の男連中はやさぐれた面構えで止める様子もなく
かといって、止める女生徒が居るわけでもない。
いや女生徒は居るには居るが、苦笑いでどうすればいいのか判らない模様。



「ほどよくドン引きしたところで次いくぞー
 三つ目―――――鳴きながら耳を貪り食らう虎が出る教室」



虎縞の男子生徒がひっくり返った。
思い出すのは、何事も無い日常の一こま。昼休みの出来事。
赤貧のあまり、泣きながらパンの耳を貪り食らっていた記憶が生々しく蘇る。
過去のトラウマでもだえる彼に、注がれるのは同情の視線が多かったが
金髪だけは暗い目で、同じ所まで落ちてきた同士を歓迎していた。
どんな形であれ、黒歴史は黒歴史。思い出したくない過去を共有してきっと僕らは解り合える。
互いに刺したナイフの痛みを自覚し合ってるだけじゃねぇか、とか気づいてはいけない。



「さくさくとお次は四個目ー」



周囲でまだ犠牲になっていない相手が身構える。
恐れ戦けとの言葉に違わず、まさしく恐怖の語りであった。
何か根本的に間違ってるが。



「生徒を黄泉路に誘う貧乏神」



おさげ髪の女子生徒が堪らず、ごめんなさいと頭を下げた。
チーズにあんこにしめ鯖が織りなすハーモニーは未だ記憶に新しい。
犯人が身内であればなおさらだ。洗脳じみたCMも相まって、彼女にとって思い出したくない記憶第一位。
泣きながらも財布を出し、購入を必死で抵抗する全校生徒の姿は軽くトラウマものだった。
たちまち集まる非難の視線。集中した先は女生徒、ではなく言わずもがなの眼鏡野郎。
何故ホワイなどとは聞くなかれ。いつの時代も儚げな美少女とむさい男とでは、存在としての価値が違うのだ。
まじりっけなしの敵意を受けて、眼鏡はニヒルにふっと笑った後、流れるように美しく土下座。
机の上に飛び乗ったかと思えば、間髪入れずに膝を屈して手の甲に額を乗せる。
見事という他は無い、それはそれは見事な土下座だった。
余計にお下げ少女を困らせて、他の男どもに土下座した頭を踏まれる結果に終わったが。



「容赦無いなお前ら!?
 しかし俺が悪い気もするので言葉は重ねんし、抗議はせんでおく。
 速やかに過去を忘れて、五つ目の不思議は―――――」



最後の一人、バンダナの男子生徒に視線を据える眼鏡。
残された犠牲者は凍り付く。味方は居ないのか。
しかし、周囲にいるのは仲間を求める黒い表情ばかり。
救いは無いのですか? ありません、死ぬがよい。



「女子更衣室に現れるバンダナを付けた変態」



黒歴史に満ちた雰囲気、略して黒い雰囲気は若干消え去り
その代わりに、何やってんだこの馬鹿は、という視線が彼に集まった。
居心地の悪さにいたたまれず、バンダナは軽やかに顔を反らしたが
眼鏡は逃がさん、とばかりに更なる続きを口にした。



「そして第六の不思議、在る筈の無いバレンタインチョコレート」



反らしていた顔を戻し、バンダナは青筋を浮かべて立ち上がった。
何じゃこら文句あるか、とばかりに眼鏡も据わった目で立ち上がる。
普段なら止めたであろうが、周りもほどよく荒んでいる。
そして描かれたのは、綺麗なクロスカウンターの軌跡。
ただし、お互い顔面直撃してたので正確に言うなら相打ちだった。
よろよろと立ち上がりながら、バンダナは口を開く。


「……あのな」


頭痛を堪えるように指を額に当てたバンダナは
相手を射殺しそうな半眼を眼鏡へと向けて


「くそ暑い夏を乗り切るとかいう理由で、怖い話をしようってんじゃなかったっけか?」

「そんな設定もあったな?」

「ここで疑問系とか、お前勇者か?
 今までの話の何処に恐怖の要素があったんだ、オイ」

「話すたびに、後に回された奴の恐怖が深まったろーが」

「否定せんが馬鹿だろうお前」



一同うなずく。
そもそも恐怖は恐怖だったが、質が違いすぎた。
しかし眼鏡は退かぬ媚びぬ顧みぬ。



「七不思議の大半に、このクラスが関わっているというのは地味に恐怖だと思わんか?
 しかも誇張表現とか無しで、ほぼ事実そのまんま」

「確かに恐怖かもしれんが、当事者でしかない俺らに話したんじゃ意味ねーだろ!
 どう聞いたところで、身内ネタに対する乾いた笑いしか出んわ!
 どうせ最後も俺らのうちの誰かだろーが!」

「いや、七つ目の不思議は定番中の定番。
 七不思議にも関わらず六つしかないという」



無言アッパー。眼鏡インザスカイ、そして落下。
だがしかし眼鏡は死なぬ。何度でもよみがえるさ。



「せめて七つ用意しとけや、そこは
 机が足とか生やして動き回るとかでもいーから」



バンダナがそう口にすると、おいおい、それはねーよ的な空気が流れた。
金髪、虎縞、お下げ髪、眼鏡、そしてバンダナ。
何の変哲もない教室の中。時間帯は昼休み。
笑い話をしているのは、五人の少年少女。
机に座る長い黒髪ロングの少女はいない。
彼らの中だけではなく、教室の何処にも。
眼鏡が笑いながら言う。



「机が動くだなんて、それこそ笑い話だろー?」




――――――――――――――――――――――――――――――




めそめそ

めそめそめそ

めそめそめそめそ……



「うん、うざい」

「ひどいっ、ひどいわっ!
 傷心の私を慰めようとしてくれたっていいじゃない!」

「やかましいわっ!
 怖い夢みたからって何時までも泣いとる奴の面倒みれるかい!
 詳しく聞いてみれば、結局馬鹿話っぽかったし」

「何を言ってるの、こんな悪夢を馬鹿話だなんて」

「確かに、居るはずの自分自身が居らんのは怖いかもしれんが
 そこで話されてる内容は笑い話以外の何だとゆーんだ」

「そこは器用に、心と耳にフィルターかけて」

「できるか」

「まぁまぁ、怖さの基準は人それぞれですから。
 僕の話の下りでは、ちょっと死にたくなりましたが、ええ」

「ワッシも人生見直したくなったノー」

「あの時は迷惑かけて、本当にごめんなさい
 わざわざCM用にレオタードまで着てもらっちゃって」

「ああっ、みんなの醸し出す空気が何だかとってもブルー!?
 あとレオタードのことは恥ずかしいから思い出させないでくれると嬉しいわ」

「てーか、何で俺が語り部役なんだ?
 お前らのうちの誰かならまだ解るんだが」

「モブとしては、出番もらえて実は嬉しいやろ?」

「割と。あとモブ言うな殺すぞ
 お、チャイム鳴ったな」

「はよ前行けー。ほんで帰らせろー」

「黙っとけや、煩悩バンダナ。
 ったく、ホームルームの司会持ち回りとか誰が言い出したんだ?」

「生徒の手で司会進行するホームルームとか青春じゃない」

「はいはい青春青春。
 さて、つーわけで席について黙れお前らー。黙ったなー。
 よーし、無言でのタコ踊りを止めろ、そこのクソバンダナ。
 …………えー、ゴホン。
 ほどよくグダグダったところで。それでは」






第11026回ホームルームを始めます
あけましておめでとうございます(今更!?
豪です。

皆様、初夢はみられましたか?
自分が居らずとも進む風景。はたまた自分が居たとしても何かが違う世界。
どちらにせよ、夢を夢と気付けずに、あるいは現を現と気付かずに
淡々と過ぎる時間は何とも恐ろしくもあるものですね。
覚めてしまえば笑い話になるにせよ。

などと言いつつ、本作は昨年の夏ごろに書き始めてたわけですが(ヲイ
なんだかんだと気がつけば年も明けて冬場の投稿となる始末。
書く速度は年々落ちてる気もしますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

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